説明

金属酸化物粒子分散液、合わせガラス用中間膜及び合わせガラス

【課題】長期間保管されても、金属酸化物粒子が凝集し難く、金属酸化物粒子の分散性を高めることができる金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を提供する。
【解決手段】金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、下記式(1)で表される化合物とを含む金属酸化物粒子分散液、並びに、熱可塑性樹脂と、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、下記式(1)で表される化合物とを含む合わせガラス用中間膜。
【化1】


上記式(1)中、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粒子を含む金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜に関し、より詳細には、長期間保管されても、金属酸化物粒子が凝集し難く、金属酸化物粒子の分散性を高めることができる金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜、並びに該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
外部衝撃を受けて破損した場合にガラス破片の飛散量が少ないので、合わせガラスは安全性に優れている。このため、合わせガラスは、自動車、鉄道車両、航空機、船舶又は建築物等の窓ガラスとして広く使用されている。合わせガラスでは、一対の板ガラスの間に合わせガラス用中間膜が配置されている。
【0003】
上記合わせガラス用中間膜に金属酸化物粒子を含有させることにより、合わせガラスに熱線を遮断する機能を持たせることができる。
【0004】
上記金属酸化物粒子を含む合わせガラス用中間膜の一例として、下記の特許文献1には、平均粒径が80nm以下の錫ドープ酸化インジウム及びアンチモンドープ酸化錫の内の少なくとも一方と、キレート剤とを含む合わせガラス用中間膜が開示されている。
【0005】
また、下記の特許文献2には、金属酸化物粒子と、キレート剤とを含む合わせガラス用中間膜が開示されている。
【0006】
特許文献1,2では、上記キレート剤として、アセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン及びジピバロイルメタンが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−302289号公報
【特許文献2】特開2002−097041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2に記載の合わせガラス用中間膜では、金属酸化物粒子とともに上記キレート剤が含有されているため、金属酸化物粒子が比較的凝集し難い。合わせガラス用中間膜を製造する際に、金属酸化物粒子が上記キレート剤に分散された金属酸化物粒子分散液を用いることがある。この金属酸化物粒子分散液が長期間保管された場合には、金属酸化物粒子が凝集し、沈殿することがある。
【0009】
本発明の目的は、長期間保管されても、金属酸化物粒子が凝集し難く、金属酸化物粒子の分散性を高めることができる金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜、並びに該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、下記式(1)で表される化合物とを含む、金属酸化物粒子分散液が提供される。
【0011】
【化1】

【0012】
上記式(1)中、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示す。
【0013】
本発明に係る合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂と、本発明の金属酸化物粒子分散液とを含む。
【0014】
また、本発明によれば、熱可塑性樹脂と、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、下記式(1A)で表される化合物とを含む、合わせガラス用中間膜が提供される。
【0015】
【化2】

【0016】
上記式(1A)中、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示す。
【0017】
本発明に係る合わせガラスは、本発明の合わせガラス用中間膜が、少なくとも2枚のガラス板の間に配置されている合わせガラスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る金属酸化物粒子分散液は、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、上記式(1)で表される化合物とを含むため、長期間保管されても、金属酸化物粒子が凝集し難く、金属酸化物粒子の分散性を高めることができる。
【0019】
また、本発明に係る合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、分散剤と、上記式(1)又は上記式(1A)で表される化合物とを含むため、金属酸化物粒子が凝集し難く、金属酸化物粒子の分散性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
本願発明者は、金属酸化物粒子分散液の組成として、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、上記式(1)で表される化合物とを含む組成を採用することにより、金属酸化物粒子の凝集を抑制でき、金属酸化物粒子の分散性を高めることができることを見出した。
【0022】
さらに、本願発明者は、合わせガラス用中間膜の組成として、熱可塑性樹脂と、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、上記式(1)又は上記式(1A)で表される化合物とを含む組成を採用することにより、金属酸化物粒子の凝集を抑制でき、金属酸化物粒子の分散性を高めることができることを見出した。
【0023】
(金属酸化物粒子分散液)
本発明に係る金属酸化物粒子分散液は、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、下記式(1)で表される化合物とを含む。
【0024】
【化3】

【0025】
上記式(1)中、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示す。
【0026】
本発明に係る金属酸化物粒子の主な特徴は、金属酸化物粒子とともに、上記式(1)で表される化合物が含有されていることにある。上記式(1)で表される化合物では、一分子中の2つのカルボニル基の間に存在する炭素に、炭素数1〜18のアルキル基が結合されている。金属酸化物粒子分散液中では、上記炭素数1〜18のアルキル基の立体障害により、上記式(1)で表される化合物の2つのカルボニル基の2つの酸素が、金属酸化物粒子の表面側に向かって配向しやすい。このため、金属酸化物粒子分散液では、長期間保管されても、金属酸化物粒子の凝集を抑制でき、金属酸化物粒子の分散性を高めることができる。上記式(1)中のRの炭素数が19を超えると、構造中のケトン骨格(C=O)が金属酸化物の表面に吸着する確率が低くなり、金属酸化物粒子分散液中において金属酸化物粒子が安定化し難くなる。
【0027】
本発明に係る金属酸化物粒子分散液に分散されている金属酸化物粒子は、金属の酸化物により形成された粒子であれば特に限定されない。金属酸化物粒子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
上記金属酸化物粒子を構成する金属酸化物の具体例として、アルミニウムドープ酸化錫、インジウムドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ニオブドープ酸化チタン、ナトリウムドープ酸化タングステン、セシウムドープ酸化タングステン、タリウムドープ酸化タングステン、ルビジウムドープ酸化タングステン、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、錫ドープ酸化亜鉛又は珪素ドープ酸化亜鉛等が挙げられる。なかでも、熱線の遮蔽機能が高いため、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)又はセシウムドープ酸化タングステンが好ましく、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)又は錫ドープ酸化インジウム(ITO)がより好ましく、錫ドープ酸化インジウム(ITO)が特に好ましい。
【0029】
上記金属酸化物粒子の平均粒子径は、0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましく、0.02〜50μmの範囲内にあることがより好ましい。平均粒子径が小さすぎると、熱線を充分に遮蔽できないことがある。平均粒子径が大きすぎると、金属酸化物粒子分散液中に、金属酸化物粒子が沈殿しやすくなる傾向がある。上記金属酸化物粒子分散液の透明性が高くなることから、上記金属酸化物粒子分散液中において、上記金属酸化物粒子の90%体積粒径は、120nm以下であることが好ましく、110nm以下であることが好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。
【0030】
上記「平均粒子径」は、体積平均粒子径を示す。平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装社製「UPA−EX150」)等を用いて測定できる。
【0031】
金属酸化物粒子分散液100重量%中に、上記金属酸化物粒子は10〜60重量%の範囲内で含有されることが好ましい。金属酸化物粒子は上記範囲内で、上記金属酸化物粒子分散液の全成分の合計が100重量%となるように配合される。金属酸化物粒子の含有量が少なすぎると、熱線を充分に遮蔽できなかったり、金属酸化物粒子の分散処理の効率が低下したりすることがある。金属酸化物粒子の含有量が多すぎると、金属酸化物粒子が凝集しやすくなる傾向がある。金属酸化物粒子分散液100重量%中に配合される上記金属酸化物粒子の含有量のより好ましい下限は15重量%であり、より好ましい上限は40重量%である。
【0032】
上記可塑剤として、合わせガラス用中間膜に一般的に用いられる可塑剤を使用できる。可塑剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記可塑剤として、下記式(2)で表されるジエステル化合物、リシノール酸アルキルエステル、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、リン酸エステル又はエポキシ化大豆油等が挙げられる。
【0034】
【化4】

【0035】
上記式(2)中、R1及びR2は炭素数5〜10の有機基を表し、R3は、−CH−CH−基、−CH−CH(CH)−基又は−CH−CH−CH−基を表し、nは3〜10の範囲内の整数を表す。
【0036】
上記式(2)で表されるジエステル化合物の具体例として、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、ペンタエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、オクタエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、ノナエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、デカエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコールジ(n−ヘプタノエート)又はテトラエチレングリコールジ(n−オクタノエート)等が挙げられる。
【0037】
なかでも、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)が好ましい。トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)を用いた場合、合わせガラスの耐貫通性を高めることができる。
【0038】
上記リシノール酸アルキルエステルを用いた場合、合わせガラスの遮音性及び耐貫通性を高めることができる。リシノール酸アルキルエステルと、ポリビニルアセタール樹脂とを含む合わせガラス用中間膜では、可塑剤の含有量が比較的少なくても、合わせガラスの遮音性を高めることができる。これは、リシノール酸アルキルエステルが、例えば、熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、ポリビニルアセタール樹脂の分子内水素結合を弱めるように作用するためであると考えられる。
【0039】
上記リシノール酸アルキルエステルは、リシノール酸と、任意のアルコールとのエステル化合物である。上記アルコールとして、メタノール、エタノール、プロパノール又はn−ブチルアルコール等が挙げられる。
【0040】
上記リシノール酸アルキルエステルの具体例として、リシノール酸メチル、リシノール酸エチル、リシノール酸プロピル又はリシノール酸n−ブチル等が挙げられる。
【0041】
なかでも、リシノール酸メチルが好ましい。リシノール酸メチルを用いた場合、合わせガラスの遮音性をより一層高めることができる。
【0042】
上記フタル酸エステルとして、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート又はジイソデシルフタレート等が挙げられる。
【0043】
上記アジピン酸エステルとして、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル又はアジピン酸ジイソデシル等が挙げられる。
【0044】
上記セバシン酸エステルとして、セバシン酸ジブチル又はセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0045】
上記リン酸エステルとして、リン酸トリクレシル又はリン酸トリオクチル等が挙げられる。
【0046】
金属酸化物粒子分散液100重量%中に、上記可塑剤は35〜85重量%の範囲内で含有されることが好ましい。可塑剤は上記範囲内で、上記金属酸化物粒子分散液の全成分の合計が100重量%となるように配合される。可塑剤の含有量が少なすぎると、金属酸化物粒子分散液の粘度が高くなるため、金属酸化物粒子の分散性が低下する傾向がある。可塑剤の含有量が多すぎると、金属酸化物粒子の分散処理の効率が低下することがある。金属酸化物粒子分散液100重量%中に配合される上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は55重量%であり、より好ましい上限は80重量%である。
【0047】
上記分散剤として、リン酸エステル又はリシノール酸エステル等が挙げられる。分散剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記リン酸エステルとして、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルリン酸エステル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルが挙げられる。
【0048】
金属酸化物粒子分散液100重量%中に、上記分散剤は1〜30重量%の範囲内で含有されることが好ましい。分散剤は上記範囲内で、上記金属酸化物粒子分散液の全成分の合計が100重量%となるように配合される。分散剤の含有量が少なすぎると、金属酸化物粒子の分散性が低下する傾向がある。分散剤の含有量が多すぎると、過剰量の分散剤が存在するため、金属酸化物粒子が凝集しやすくなる傾向がある。金属酸化物粒子分散液100重量%中に配合される上記分散剤の含有量のより好ましい下限は1.5重量%であり、より好ましい上限は20重量%である。
【0049】
本発明に係る金属酸化物粒子分散液には、上記式(1)で表される化合物が含有されている。
【0050】
上記式(1)中のRは炭素数1〜18のアルキル基である。Rは直鎖構造を有していてもよく、分岐構造を有していてもよい。Rの炭素数は1〜10の範囲内であることが好ましく、1〜5の範囲内であることがより好ましく、1〜4の範囲内であることがさらに好ましく、1〜3の範囲内であることが特に好ましい。炭素数が大きすぎると、上記式(1)で表される化合物が、可塑剤に溶解しないことがある。
【0051】
上記炭素数1〜18のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘプタデシル基又はn−オクタデシル基等が挙げられる。
【0052】
上記金属酸化物粒子1個に対して、上記式(1)で表される化合物は0.1〜3分子の割合の範囲内で含有されることが好ましい。上記式(1)で表される化合物の含有量が少なすぎると、金属酸化物粒子の分散性を充分に高めることが困難になることがある。上記式(1)で表される化合物の含有量が多すぎると、金属酸化物粒子の分散性を高める効果が飽和することがある。上記金属酸化物粒子100重量部に対して、上記式(1)で表される化合物は15〜100重量部の範囲内で含有されることが好ましく、20〜90重量部の範囲内で含有されることがより好ましい。
【0053】
金属酸化物粒子の分散性をより一層向上させるために、上記金属酸化物粒子分散液は、メタノール、エタノール又はプロパノール等のアルコールを含有してもよい。
【0054】
金属酸化物粒子分散液を製造する方法は特に限定されない。この方法として、金属酸化物粒子を、可塑剤と分散剤との混合物中に分散させた後、上記式(1)で表される化合物を添加し、攪拌する方法等が挙げられる。
【0055】
(合わせガラス用中間膜)
本発明に係る合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂と、上記金属酸化物粒子分散液とを含む。本発明に係る合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂と、上記金属酸化物粒子分散液とを配合することにより得られた合わせガラス用中間膜であって、熱可塑性樹脂と、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、上記式(1)で表される化合物とを含む。
【0056】
また、本発明に係る合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂と、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、下記式(1A)で表される化合物とを含む。
【0057】
【化5】

【0058】
上記式(1A)中、Rは炭素数1〜18のアルキル基である。
【0059】
上記式(1A)で表される化合物として、上記式(1)で表される化合物と同様の化合物が挙げられる。上記式(1A)中のRとして、上記式(1)中のRと同様の基が挙げられる。
【0060】
本発明に係る合わせガラス用中間膜の主な特徴は、金属酸化物粒子とともに、上記式(1)又は上記式(1A)で表される化合物が含有されていることにある。上記式(1)又は上記式(1A)で表される化合物では、一分子中の2つのカルボニル基の間に存在する炭素に、炭素数1〜18のアルキル基が結合されている。合わせガラス用中間膜中では、上記炭素数1〜18のアルキル基の立体障害により、上記式(1)又は上記式(1A)で表される化合物の2つのカルボニル基の2つの酸素が、金属酸化物粒子の表面側に向かって配向しやすい。このため、合わせガラス用中間膜では、金属酸化物粒子の凝集を抑制でき、金属酸化物粒子の分散性を高めることができる。上記式(1)及び(1A)中のRの炭素数が19を超えると、構造中のケトン骨格(C=O)が金属酸化物の表面に吸着する確率が低くなり、合わせガラス用中間膜中において金属酸化物粒子が安定化し難くなる。
【0061】
上記熱可塑性樹脂は特に限定されない。上記熱可塑性樹脂として、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、硫黄元素を含有するポリウレタン樹脂又はポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。なかでも、合わせガラス用中間膜とガラス板との接着力を高めることができるので、ポリビニルアセタール樹脂が好適に用いられる。
【0062】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)をアルデヒドによりアセタール化して得られた樹脂である。
【0063】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造方法は特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール樹脂を温水もしくは熱水に溶解し、得られた水溶液を0〜95℃程度の所定の温度に保持する。水溶液に、アルデヒド及び酸触媒を添加し、攪拌しながらアセタール化反応を進行させる。次いで、反応温度を上げて熟成することにより反応を完結させる。その後、中和、水洗及び乾燥の諸工程を行う。このようにして、粉末状のポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。
【0064】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられるポリビニルアルコール樹脂は、平均重合度500〜5000のポリビニルアルコール樹脂であることが好ましい。なかでも、平均重合度1000〜3000のポリビニルアルコール樹脂がより好ましい。平均重合度が500未満であると、合わせガラス用中間膜の強度が弱くなりすぎて、この合わせガラス用中間膜を備えた合わせガラスの耐貫通性が低下することがある。平均重合度が5000を超えると、合わせガラス用中間膜の成形が困難なことがある。さらに、合わせガラス用中間膜の強度が強くなりすぎて、この合わせガラス用中間膜を備えた合わせガラスの耐貫通性が低下することがある。
【0065】
なお、ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、例えば、JIS K 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定され得る。
【0066】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられるアルデヒドは特に限定されない。上記アルデヒドとして、例えば、炭素数1〜10のアルデヒド等が挙げられる。上記アルデヒドの具体例として、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド又はベンズアルデヒド等が挙げられる。アルデヒドは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド又はn−バレルアルデヒドが好ましく、炭素数4のn−ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0067】
上記ポリビニルアセタール樹脂は特に限定されない。上記ポリビニルアセタール樹脂として、ポリビニルアルコール樹脂とホルムアルデヒドとを反応させて得られたポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂とアセトアルデヒドとを反応させて得られた狭義のポリビニルアセタール樹脂、又はポリビニルアルコール樹脂とn−ブチルアルデヒドとを反応させて得られたポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。ポリビニルアセタール樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0068】
上記ポリビニルアセタール樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)が好適に用いられる。ポリビニルブチラール樹脂を用いることにより、合わせガラス用中間膜の透明性、耐候性、及びガラス板に対する接着性等を高めることができる。
【0069】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、60〜85モル%の範囲内にあることが好ましく、61〜75モル%の範囲内であることがより好ましく、63〜70モル%の範囲内にあることがさらに好ましい。アセタール化度が60モル%未満であると、可塑剤とポリビニルアセタール樹脂との相溶性が低いことがあり、かつ合わせガラス用中間膜のガラス転移温度が十分に低下しないことがある。このため、低温領域における遮音性が十分に高くならないことがある。アセタール化度が85モル%を超えると、ポリビニルアセタール樹脂を製造するための反応時間が長くなることがある。
【0070】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量は、0.1〜30モル%の範囲内にあることが好ましい。アセチル基量は、0.5〜25モル%の範囲内にあることがより好ましく、0.5〜20モル%の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0071】
上記アセチル基量が0.1モル%未満であると、上記可塑剤とポリビニルアセタール樹脂との相溶性が低下することがある。また、得られたポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度が十分に低下しないことがある。このため、低温領域における遮音性が十分に高くならないことがある。アセチル基量が30モル%を超えるポリビニルアセタール樹脂を製造しようとすると、例えばポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとの反応性が著しく低下することがある。
【0072】
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記アセタール化度と上記アセチル基量との合計は、65モル%以上であることが好ましく、68モル%以上であることがより好ましい。アセタール化度とアセチル基量との合計が65モル%未満であると、上記可塑剤とポリビニルアセタール樹脂との相溶性が低下することがある。また、得られたポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度が十分に低下しないことがある。このため、低温領域における合わせガラスの遮音性が十分に高くならないことがある。
【0073】
ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、JIS K 6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、又は核磁気共鳴法(NMR)を用いた方法により、アセチル基量とビニルアルコール量とを測定し、得られた測定結果からモル分率を算出し、ついで、100モル%からアセチル基量とビニルアルコール量とを差し引くことにより算出され得る。
【0074】
ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂である場合は、上記アセタール化度(ブチラール化度)およびアセチル基量は、JIS K 6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法、又は赤外線吸収スペクトル(IR)や核磁気共鳴法(NMR)を用いた方法により測定された結果から算出され得る。
【0075】
上記熱可塑性樹脂100重量部に対して、金属酸化物粒子の含有量が0.001〜3重量部となるように、上記金属酸化物粒子分散液が含有されることが好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂100重量部に対して、金属酸化物粒子は0.001〜3重量部の範囲内で含有されることが好ましい。金属酸化物粒子の含有量が少なすぎると、合わせガラスの遮熱性が充分に高められないことがある。金属酸化物粒子の含有量が多すぎると、金属酸化物粒子が凝集しやすくなる傾向があったり、合わせガラスの遮熱性を高める効果が飽和したりすることがある。熱可塑性樹脂100重量部に対する金属酸化物粒子の含有量のより好ましい下限は0.01重量部であり、より好ましい上限は2重量部である。
【0076】
合わせガラス用中間膜には、上記熱可塑性樹脂及び上記金属酸化物粒子分散液に加えて、可塑剤がさらに含有されることが好ましい。すなわち、上記金属酸化物粒子分散液に含有されている可塑剤とは別に、可塑剤がさらに含有されることが好ましい。
【0077】
合わせガラス用中間膜では、熱可塑性樹脂100重量部に対して、可塑剤は30〜75重量部の範囲内で含有されることが好ましい。可塑剤の含有量が少なすぎると、合わせガラス用中間膜の耐衝撃性が低下することがある。可塑剤の含有量が多すぎると、ブリードアウトが起こることがある。熱可塑性樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量のより好ましい下限は35重量部であり、より好ましい上限は65重量部である。
【0078】
合わせガラス用中間膜では、熱可塑性樹脂100重量部に対して、分散剤は0.0001〜1.5重量部の範囲内で含有されることが好ましい。分散剤の含有量が少なすぎると、金属酸化物粒子の分散性が低下する傾向がある。分散剤の含有量が多すぎると、ガラス板に対する合わせガラス用中間膜の接着力を制御できないことがある。熱可塑性樹脂100重量部に対する分散剤の含有量のより好ましい下限は0.001重量部であり、より好ましい上限は1重量部である。
【0079】
本発明に係る合わせガラス用中間膜には、上記式(1)又は式(1A)で表される化合物が含有されている。
【0080】
合わせガラス用中間膜では、上記金属酸化物粒子1個に対して、上記式(1)で表される化合物は0.1〜3分子の割合の範囲内で含有されることが好ましい。上記式(1)又は(1A)で表される化合物の含有量が少なすぎると、金属酸化物粒子の分散性が低下する傾向がある。上記式(1)又は(1A)で表される化合物の含有量が多すぎると、ガラス板に対する合わせガラス用中間膜の接着力を制御できないことがある。熱可塑性樹脂100重量部に対する、上記式(1)又は(1A)で表される化合物の含有量の好ましい下限は0.001重量部であり、好ましい上限は2重量部である。
【0081】
本発明の合わせガラス用中間膜は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、接着力調整剤、耐湿剤、青色顔料、青色染料、緑色顔料、緑色染料又は蛍光増白剤等の添加剤を含有してもよい。
【0082】
本発明の合わせガラス用中間膜の膜厚は特に限定されない。合わせガラス用中間膜の膜厚は0.1〜3mmの範囲内にあることが好ましい。合わせガラス用中間膜の膜厚が0.1mm未満であると、合わせガラスの耐貫通性が低下することがある。合わせガラス用中間膜の膜厚が3mmを超えると、合わせガラス用中間膜の透明性が低下することがある。合わせガラス用中間膜の膜厚のより好ましい下限は0.25mm、より好ましい上限は1.5mmである。
【0083】
本発明の合わせガラス用中間膜を製造する方法は特に限定されない。この方法として、金属酸化物粒子分散液と可塑剤とを加えて組成物を得た後、該組成物と、ポリビニルアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂とを充分に混練し、合わせガラス用中間膜を成形する方法、又は金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、上記式(1)又は(1A)で表される化合物とを加えて組成物を得た後、該組成物と、ポリビニルアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂とを充分に混練し、合わせガラス用中間膜を成形する方法等が挙げられる。
【0084】
上記組成物と上記熱可塑性樹脂とを混練する方法は特に限定されない。この方法として、例えば、押出機、プラストグラフ、ニーダー、バンバリーミキサー又はカレンダーロール等を用いる方法が挙げられる。なかでも、連続的な生産に適しているため、押出機を用いる方法が好適であり、二軸押出機を用いる方法がより好適である。
【0085】
(合わせガラス)
本発明に係る合わせガラスは、本発明の合わせガラス用中間膜と、少なくとも2枚のガラス板とを備えている。本発明の合わせガラスでは、本発明の合わせガラス用中間膜が少なくとも2枚のガラス板の間に配置されている。合わせガラス用中間膜は、2枚のガラス板により挟み込まれている。
【0086】
本発明の合わせガラスは、少なくとも2枚のガラス板の間に、本発明の合わせガラス用中間膜を配置し、ガラス板と合わせガラス用中間膜とを一体化させることにより作製され得る。
【0087】
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用でき特に限定されない。ガラス板として、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス又はグリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。
【0088】
合わせガラスを作製する際に、2種以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスなどの着色された板ガラスとの間に、本発明の合わせガラス用中間膜を配置することにより、合わせガラスを作製できる。
【0089】
本発明の合わせガラスを自動車用ガラスとして使用する場合は、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラス又はパノラマガラスとして、合わせガラスを使用できる。
【0090】
本発明の合わせガラスの製造方法は、従来公知の製造方法を用いることができ特に限定されない。なお、ガラス板にかえて、ポリカーボネートやポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いて、2枚の有機プラスチックス板を本発明の合わせガラス用中間膜を介して積層することにより合わせガラスを製造してもよい。
【0091】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0092】
(実施例1)
(1)金属酸化物粒子分散液の調製
上記式(1)で表される化合物であって、上記式(1)中のRがエチル基である化合物Aを用意した。
【0093】
金属酸化物粒子としての錫ドープ酸化インジウム粒子(平均粒子径35nm)40重量部と、可塑剤としてのトリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)50重量部と、エタノール6重量部と、分散剤としてのリン酸エステル(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸エステル)4重量部とをビーズミルにより混合し、混合液を得た。
【0094】
得られた混合液に、上記化合物A17重量部を加え、攪拌することにより、金属酸化物粒子分散液を調製した。
【0095】
(2)合わせガラス用中間膜の作製
得られた金属酸化物粒子分散液を23℃で1か月放置した。放置後の金属酸化物粒子分散液0.02重量部と、熱可塑性樹脂としてのポリビニルブチラール樹脂(平均重合度1700、ブチラール化度68.5モル%、水酸基量30.6モル%、アセチル基量0.9モル%)60重量部と、可塑剤としてのトリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)40重量部とを配合し、ミキシングロールで均一に混練した。その後、押出機を用いて合わせガラス用中間膜を成形し、膜厚760μmの合わせガラス用中間膜を作製した。
【0096】
(実施例2)
錫ドープ酸化インジウム粒子(平均粒子径35nm)を、ガリウムドープ酸化亜鉛粒子(平均粒子径30nm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を得た。
【0097】
(実施例3)
上記式(1)で表される化合物であって、上記式(1)中のRがメチル基である化合物Bを用意した。上記化合物Aを上記化合物Bに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を得た。
【0098】
(実施例4)
上記式(1)で表される化合物であって、上記式(1)中のRがn−ブチル基である化合物Cを用意した。上記化合物Aを上記化合物Cに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を得た。
【0099】
(実施例5)
上記式(1)で表される化合物であって、上記式(1)中のRがn−デシル基である化合物Dを用意した。上記化合物Aを上記化合物Dに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を得た。
【0100】
(実施例6)
上記式(1)で表される化合物であって、上記式(1)中のRがn−ヘプタデシル基である化合物Eを用意した。上記化合物Aを上記化合物Eに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を得た。
【0101】
(比較例1)
上記化合物Aを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を得た。
【0102】
(比較例2)
上記化合物Aをアセチルアセトンに変更したこと以外は実施例2と同様にして、金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を得た。
【0103】
(比較例3)
上記式(1)で表される化合物であって、上記式(1)中のRがn−ノナデシル基である化合物Fを用意した。上記化合物Aを上記化合物Fに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物粒子分散液及び合わせガラス用中間膜を得た。
【0104】
(評価)
(1)金属酸化物粒子分散液における金属酸化物粒子の分散状態
粒度分布測定装置(日機装社製「UPA−EX150」)を用いて、作製した直後の金属酸化物粒子分散液における金属酸化物粒子の粒度分布を測定し、90%体積粒径(D90)を測定した。実施例1〜6、及び、比較例2,3の金属酸化物粒子分散液では、作製した直後の金属酸化物粒子の分散状態は良好であった。比較例1の金属酸化物粒子分散液では、作製した直後であっても、金属酸化物粒子の分散状態は良好ではなかった。
【0105】
(2)金属酸化物粒子分散液の貯蔵安定性
得られた金属酸化物粒子分散液を23℃で1か月放置した。放置後の金属酸化物粒子分散液における金属酸化物粒子の分散状態を目視により観察した。比較例2の金属酸化物粒子分散液では、可塑剤と金属酸化物粒子との分離が確認された。
【0106】
(3)合わせガラス用中間膜における金属酸化物粒子の分散状態
合わせガラス用中間膜における金属酸化物粒子の分散状態を目視により観察した。比較例2の合わせガラス用中間膜では、目視により多数の凝集物が観察された。
【0107】
結果を下記の表1に示す。
【0108】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、下記式(1)で表される化合物とを含む、金属酸化物粒子分散液。
【化1】

上記式(1)中、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示す。
【請求項2】
熱可塑性樹脂と、請求項1に記載の金属酸化物粒子分散液とを含む、合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
熱可塑性樹脂と、金属酸化物粒子と、可塑剤と、分散剤と、下記式(1A)で表される化合物とを含む、合わせガラス用中間膜。
【化2】

上記式(1A)中、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示す。
【請求項4】
請求項2または3に記載の合わせガラス用中間膜が、少なくとも2枚のガラス板の間に配置されている、合わせガラス。

【公開番号】特開2010−100519(P2010−100519A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217190(P2009−217190)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】