金属酸化物薄膜の製造方法
【課題】積極的な加熱処理を伴うことなく、低温で、基材に緻密で均質な結晶質の金属酸化物膜を効果的に形成する技術を提供する。
【解決手段】非晶質を含む金属酸化物膜を、温度180℃以下にて、高周波電界中で少なくともアルゴンガスあるいは窒素ガスあるいはそれらを含むガスを励起することにより発生する低温高周波プラズマに曝露することにより、結晶性の金属酸化物薄膜を製造する。好ましい結晶性の金属酸化物薄膜としては、理論密度と比較した相対密度が90%以上であるものが挙げられる。
【解決手段】非晶質を含む金属酸化物膜を、温度180℃以下にて、高周波電界中で少なくともアルゴンガスあるいは窒素ガスあるいはそれらを含むガスを励起することにより発生する低温高周波プラズマに曝露することにより、結晶性の金属酸化物薄膜を製造する。好ましい結晶性の金属酸化物薄膜としては、理論密度と比較した相対密度が90%以上であるものが挙げられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物薄膜及びその製造方法に関し、とくに、基本的に加熱処理を伴うことなく基材に結晶性金属酸化物薄膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタや真空蒸着により、ガラスやポリマー、半導体などの基材に金属酸化物の膜を形成することは、従来行われている。近年、成膜コストの低減と、大型の製品製造を目的とし、一度に成膜できる面積が大型化される傾向がある。また、ガラスに代わる基材としての樹脂材料の使用(たとえば、ポリカーボネートやアクリルの使用)も、ますます増加する傾向にある。これら成膜面積の拡大化、及び非耐熱性基材への成膜については、基板加熱を伴う成膜技術では、膜の割れ発生や基材の損傷などが生じるため、基板加熱を伴わない成膜が広く行われている。
【0003】
しかしながら、このような非加熱プロセスにおいては、金属酸化物膜の結晶化のための駆動力や移動度が充分に供給されないことから、得られる膜が非晶質となりやすく、充分な結晶性を得ることが困難である。そのため、表面の結晶性が製品の特性を大きく左右するような場合においては、ガス導入などのプロセス条件を厳密に制御することが必要とされる。しかし、このような厳密なプロセス条件の制御が要求されると、比較的成功したと思われる状態においても、得られる膜の特性は基板加熱を伴うプロセスによって製造されたものと比較して劣る場合が多い。
【0004】
また、基板加熱の程度を低減させる試みとして、金属元素を含むイオンを含有した前駆体溶液を用いて酸化物膜を作成することも広く行われている。代表的な前駆体溶液として、金属アルコキシド、金属アセテート、有機金属錯体、金属塩、金属石鹸などが知られており、それらを利用した代表的な成膜方法として、金属アルコキシド溶液を用いたゾルゲル法等が知られている。これらの成膜方法においては、金属元素を含むイオンを含有した溶液に対し、酸などの触媒と水を用い、これら金属元素を含むイオンを短分子状態から、無秩序ではあるが分子同士が結合した高分子状態へ遷移させ(この状態をゲル化と呼称する)、この段階で加熱することで、比較的低温で有機物の分解除去を行い金属酸化物を得ることを特徴としている。この方法は、設備コストが安く、複雑な形状のものに対してもディップコーティングなどにより全体への均一成膜が可能であるため、多品種少量生産や比較的小型の物への酸化物薄膜のコーティングに適している。しかし、このような方法においては、原液に含まれる有機物の燃焼や、得られる膜内部での脱水重縮合、あるいは結晶化の促進のため、一般には少なくとも400℃程度の加熱を必要とされることから、耐熱性のある基材にしか適用できないという欠点があった。
【0005】
ゾルゲル法等で得られる膜に関しては、加熱を伴わずに結晶化や緻密化を促進するための技術として、紫外線照射や水蒸気添加、電子線照射などの方法が検討されている。また近年、富山大学の蓮覚寺らは、金属アルコキシドにベンゼンなどの芳香族化合物を添加することによりアルコキシド中の分子をベンゼンでサンドイッチするように構造を制御し、それを成膜することにより結晶化に有利な構造を膜中に実現して低温で結晶化しやすくできると報告している。しかしながらこの技術においても、前述の非加熱プロセス同様に厳密なプロセス条件の制御が必要であり、再現性が充分に得られない、結晶化が充分に生じないなどの問題点が残されている。
【0006】
以上のような背景から、樹脂材料に代表されるような耐熱性の低い基材上に非晶質の金属酸化物膜を形成し、それを、基材の劣化を伴うことなく効果的に結晶化させる技術は極めて限られていた。特に、短時間のうちに全体にわたって同時にかつ均質に、非晶質の膜を充分に結晶化させる技術はほとんど存在しなかった。
【0007】
なお、本発明に関連する従来技術として、とくにプラズマを用いた薄膜の高機能化技術として、例えば、下記の特許文献1〜19等が知られているが、これらに開示されている技術と本発明との基本的な差異については後述する。
【特許文献1】特開平4-149090号公報
【特許文献2】米国特許第6432725号公報
【特許文献3】特開平7-294861号公報
【特許文献4】特開平4-199828号公報
【特許文献5】特開2001-148377号公報
【特許文献6】特開2001-31681号公報
【特許文献7】特開2001-133466号公報
【特許文献8】特開平9-64307号公報
【特許文献9】特開平10-233489号公報
【特許文献10】特開2000-200899号公報
【特許文献11】特開平9-153491号公報
【特許文献12】特開平9-246477号公報
【特許文献13】特開2001-152339号公報
【特許文献14】特開平10-273317号公報
【特許文献15】特開平9-262466号公報
【特許文献16】特開2001-85639号公報
【特許文献17】特開2000-86242号公報
【特許文献18】特開平2-283022号公報
【特許文献19】特開平11-145148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、上述したような従来技術における問題点を解決するために、積極的な加熱処理を伴うことなく、低温で、基材に緻密で均質な結晶質の金属酸化物膜を効果的に形成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
積極的な加熱を伴うことなく、かつ膜の温度が比較的低温に保たれたままで形成された膜に対し欠陥を修復する手段が講じられれば、従来以上に大面積かつ緻密で均質な、また優れた表面活性、あるいは強度を兼備えた膜が得られることになる。さらに、集積回路に代表される微細加工技術が進むにつれ電極や酸化膜の欠陥が生じやすくなっており、熱履歴の少ないプロセスが重要になってきている。本発明者らはこのような欠点を克服しこのような要求を満たす技術を開発すべく、鋭意検討を行った結果、これらの欠点を克服する手段として、常温で作製された主に非晶質の金属酸化物膜を、積極的な加熱を行うことなく、特定の条件下で低温プラズマに暴露するという方法が効果的であることを知見した。
【0010】
すなわち、本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法は、主に非晶質からなる金属酸化物膜を、温度180℃以下にて、高周波電界中で低温プラズマに暴露することにより、結晶性の金属酸化物薄膜を製造することを特徴とする方法からなる。換言すれば、主に非晶質からなる金属酸化物膜を先に成膜し、非加熱にて、とくに180℃以下の温度にて、前記成膜とは別にポスト処理として、高周波電界中で低温プラズマ処理することにより、結晶性金属酸化物薄膜を製造することを特徴とする方法である。
【0011】
この金属酸化物薄膜の製造方法は、上記結晶性の金属酸化物薄膜が、主に結晶性の金属酸化物薄膜からなる場合を含む。ここで「主に結晶性の金属酸化物薄膜」とは、膜中に非晶質部分も含まれるが、薄膜X線回折パターンからは結晶性を有すると判断される程度に結晶性を有する部分が存在する状態を指す。
【0012】
また、上記金属酸化物薄膜の製造方法においては、結晶性の金属酸化物薄膜の、理論密度と比較した相対密度が90%以上であることが好ましい。つまり、本発明では緻密性の高い膜を形成できる。
【0013】
また、上記低温プラズマとしては、高周波プラズマを用いることが好ましい。この低温高周波プラズマの発生条件としては、たとえば、印加周波数1kHz〜300MHz、圧力5Pa以上、投入電力が300W以上であることが好ましい。
【0014】
また、上記低温プラズマは、少なくとも酸素ガスあるいは酸素元素を含むガスを励起することにより発生するプラズマであることが好ましい。あるいは、上記金属酸化物膜が酸素欠損により特性が与えられる膜である場合、上記低温プラズマは、少なくともアルゴンガスあるいは窒素ガスあるいはそれらを含むガスを励起することにより発生するプラズマであることが好ましい。
【0015】
上記主に非晶質からなる金属酸化物膜の成膜方法としては各種方法を採用可能であり、とくにスパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着法のいずれかにより形成することができる。あるいは、上記主に非晶質からなる金属酸化物膜を、前駆体溶液の塗布により、つまり、ウェット成膜により、形成することもできる。後者の場合、前駆体溶液の塗布により形成した主に非晶質からなる金属酸化物膜に、プラズマに暴露される前にあらかじめ、水蒸気存在下で紫外線を照射する前処理を施すこともできる。
【0016】
本発明における主に非晶質からなる金属酸化物膜としては、たとえば、酸化チタンを含む膜、ITOを含む膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT) を含む膜等を使用できる。
【0017】
本発明に係る金属酸化物薄膜は、上記のような方法を用いて形成された結晶性の(結晶質の)金属酸化物薄膜からなる。
このような本発明に係る金属酸化物薄膜は、各種の構造体や材料、部品に適用できる。たとえば、非耐熱性基材(たとえば、前述したような耐熱性が比較的低い樹脂基材)に、熱バリア層を介在させずに、上記のような結晶性金属酸化物薄膜を形成せしめた構造体を構成することが可能である。また、表面層または/および内部層として上記のような結晶性金属酸化物薄膜を形成せしめた画像表示装置を構成することが可能である。また、表面層または/および内部層として上記のような結晶性金属酸化物薄膜を形成せしめた光触媒材料を構成することが可能である。さらに、表面層または/および内部層として上記のような結晶性金属酸化物薄膜を形成せしめた電子デバイスを構成することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法によれば、積極的な加熱処理を伴うことなく、低温で、基材に緻密で均質な結晶質の金属酸化物薄膜を効果的に形成することができるので、比較的耐熱性の低い基材に対しても、基材の特性を損なうことなく、望ましい特性の金属酸化物薄膜を形成することができる。したがって、本発明は、とくに、樹脂に代表される耐熱性の低い基材上に金属酸化物薄膜を形成することが要求されるあらゆる用途に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに説明する。
基本的に、本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法は、基材に、主に非晶質の金属酸化物膜を形成し、積極的な基板加熱を行うことなく、温度180℃以下にて、高周波電界中で低温プラズマ中に暴露することで、前記膜を結晶性の金属酸化物薄膜へと変化せしめる方法からなる。つまり、基本的に、比較的耐熱性の低い基材への結晶性金属酸化物薄膜の成膜を狙ったものであり、180℃以下の温度でのプラズマ処理を前提としたものである。基板を高温に加熱しなくてよいため、高温加熱に伴う不都合の発生が完全に回避される。
【0020】
本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法における条件を詳細に検討したところ、高周波電界中で、適切な周波数、投入電力、ガス圧力で発生させた低温プラズマ中に、主に非晶質からなる酸化物膜を暴露することにより、多くの物質で充分な結晶性と緻密化が極めて均質に生じることがわかった。
【0021】
本発明において、非晶質からなる金属酸化物膜とは、X線により検出可能な結晶構造の秩序が生じていない状態にある膜のことを指す。具体的にはX線回折パターンにおいて有意なピークを有しない酸化物膜を指す。また、主に非晶質からなる金属酸化物膜とは、膜中に、ある程度の結晶構造をもった微粒子を含有した酸化物膜を含む概念である。
【0022】
また、本発明においては、結晶性金属酸化物薄膜もまた、X線回折パターンから判断される。本発明における結晶化とは、非晶質、および主に非晶質の状態から、X線により有意な結晶構造秩序の形成、及び成長が行われることを指す。また、前述したように、「主に結晶性の金属酸化物薄膜」とは、膜中に非晶質部分が含まれるが、薄膜X線回折パターンからは結晶性を有すると判断される程度に結晶性を有する部分が存在する状態を指す。
【0023】
また、本発明における緻密化は、酸化物物性として一般に与えられる理論密度に対して、得られた酸化物膜の密度が90%以上の値となることで達成を判断されるものである。この相対密度は膜重量や屈折率から判断され、エリプソメトリー、UV-VIS-IRスペクトル等を基準として判断できる。
【0024】
本発明による製造技術は、より低温での結晶性金属酸化物の形成が可能であるために、とくに、基材の熱による劣化、破壊、基材と膜との反応、あるいは基材と膜に含まれる元素の相互拡散が問題となる材料に適用が可能である。また、大面積の一括処理によっても、後述の実施例に示されるように、極めて均質でピンホールなどの欠陥が無い膜の形成が可能であるために、大面積に微細な構造を形成することが必要とされる各種の装置部材の製造への応用が可能である。具体的には、積層セラミックコンデンサや、半導体デバイス内部の微小コンデンサを代表とする薄層キャパシタ、プラズマディスプレイや、液晶表示装置に代表される画像表示装置の透明電極の形成等が挙げられる。
【0025】
また、後述の実施例に示されるように、極めて低温で、光触媒活性を有する結晶性酸化チタンが形成可能であることから、大面積高速成膜された酸化チタン膜の後処理方法としても応用が可能である。
【0026】
従って本発明によって形成される結晶性金属酸化物薄膜の応用が期待される製品、あるいは技術分野としては、フィルター、ディレイライン、コンデンサー、サーミスター、発振子、圧電部品、薄膜基板、メモリー、回路のオーバーコート材、VCO (電圧制御発振器)、ハイブリッドIC、EMC装置、携帯電話、車載機器(ETC, Audio, Navigation等)、LAN、PDP(プラズマディスプレイパネル)、液晶ディスプレイ、各種オーディオプレーヤー(CD, MD 等) 、DVD、電極材料、窓ガラス、メガネ、ゴーグル、ヘルメット、スキー、サーフボード、顕微鏡、プレパラート、カバーガラス、多層基板、太陽電池、蛍光灯、ランプ、照明、テント、タイル、透明フィルム、カード、鏡、電話、看板、パソコン、サッシ、ファン、換気扇、衛生陶器、ビデオカメラ、医療器具、胃カメラ、サングラス、信号、自転車、スピーカー、アンテナ、食器類、エアコン、洗濯機、バイク、ボート、懐中電灯等、広汎な分野にわたると考えられる。
【0027】
次に、本発明における低温プラズマ処理の条件について詳細を述べる。低温プラズマとは、電子温度がイオンや中性粒子の温度より遥かに高い、熱的に非平衡なプラズマで、一般に数百Pa以下のガス圧で生成する。印加する交流電界の周波数は、気体放電が生じ、且つ熱プラズマを生じさせないために1kHz〜300MHzが好ましいが、より望ましくは工業的使用に割り振られ、既存の装置での使用が行われている13.56MHzが適する。また、本発明において使用される高周波電界は、プラズマの発生に使用される高周波によって兼ねられることが望ましい。
【0028】
投入電力としては、たとえば後述の実施例におけるサイズの装置においては300W以上が適切である。しかしながら、適切な投入電力はプラズマを発生させる装置のサイズによって変化するため、より容積の小さなチャンバーを用いる場合には、より低い投入電力による処理も適切である。なお、後述の実施例におけるチャンバー容積を用い、プラズマ発生が行われている空間の単位体積当たりの投入電力密度に換算すると、300Wはおよそ1.97×104 Wm-3である。必要とされる投入電力の決定は、この単位体積当たりの電力を用いても判断可能である。
【0029】
プラズマの発生に用いるガスは、酸素、アルゴン、窒素、あるいはそれらの混合体であり、全圧5Pa以上、より好ましくは50Pa以上が適している。実施例に示すように、多くの酸化物においては純度99.9%以上の酸素ガスを用いたプラズマによる処理が、特性が安定するためより好ましい。この場合、低温プラズマとしては、少なくとも酸素ガスあるいは酸素元素を含むガスを励起することにより発生するプラズマを用いることができる。ただし、酸素の欠損により各種の特性が付与される、もしくは制御される酸化物膜の場合には、酸素以外のガス、例えばアルゴンや窒素を用いることもでき、低温プラズマとしては、少なくともアルゴンガスあるいは窒素ガスあるいはそれらを含むガスを励起することにより発生するプラズマを用いることができる。
【0030】
プラズマ処理時間に関しては、主に非晶質からなる金属酸化物膜のプラズマへの暴露は、0でないX線回折パターンを示す程度の結晶性を有する、あるいは微結晶が内包された膜を得るためには3分以内の暴露で充分であるが、X線回折パターンのピーク半値幅0.5以下の、良好な結晶性を有する酸化物膜の形成には10分以内の暴露がより好ましい。
【0031】
上記のようなプロセスは一見スパッタと類似しているが、使用可能な装置としては、マグネットを使用せず、プラズマ内の荷電粒子を加速しない、容量結合型の対向電極間に高周波電力を印加することでプラズマを生成することができるような真空設備を用いることが望ましい。このとき電場を印加する電極は、プラズマを発生させるチャンバー内に両方あるいは片方が露出していても、あるいはチャンバー外に設置されていても構わない。この設備と通常のスパッタ装置との差は、対向電極(スパッタ装置であればターゲット側の電極)に収束マグネットを使用しないため、対向電極に対して高密度のプラズマが集中せず、均一なプラズマを生成できるため、スパッタリングのような物理的な切削現象は起こりにくく、反応性の高い酸素イオンを容易に入手することが可能となる。尚、容量結合型よりプラズマ密度の高い、誘導結合型の装置も本発明に使用できる。また、設備的にはプラズマリアクター、リアクティブ・イオン・エッチング装置といった市販の装置を使用してもよい。
【0032】
これらの設備は、電極に磁場を使用しておらず、上述のような反応性の高い均一なプラズマを生成することができる。このプラズマ照射の効果はアンプパワー、ガス流量などの条件に依存する。この処理により、結晶性、基材への密着性、膜の硬度などの機械的物性に優れた金属酸化物薄膜を、適当な非晶質の酸化物膜から、非加熱で均質に形成することができる。
【0033】
また、プラズマに暴露する、主に非晶質からなる金属酸化物膜を形成する基材は、主に非晶質からなる金属酸化物膜を形成可能であればどのようなものでも構わない。特に本発明においては、後述の実施例9に記載されるように、樹脂基板上に成膜された主に非晶質の金属酸化物膜の結晶化に際しては、基材および酸化物膜の温度は90℃を上回らないために、耐熱性の低い樹脂基材の使用が可能である。
【0034】
主に非晶質からなる金属酸化物膜のコーティング方法は特定の方法に限定されるものではないが、例示するならば、スパッタ法、蒸着法、あるいは金属アルコキシド、金属アセテート、金属有機酸塩、金属塩、金属石鹸等、金属元素を有するイオンを含む前駆体溶液のスピンコート、ディップコート、フローコート、バーコート法などが適用できる。従って本発明においては、異形状のものであってもディップコート等によって主に非晶質からなる金属酸化物膜をコーティングし、所定のプラズマ中へ暴露することで、結晶性の金属酸化物薄膜を形成できる。
【0035】
なお、前駆体溶液はアルコキシドのほか、各種の金属成分を含有した無機酸、有機酸溶液でもよく、前述の蓮覚寺らが提案しているような溶液構造の事前の制御なども特に必要としない。ただし、有機物を多く含むアルコキシドのような前駆体溶液では、1回に形成する膜の膜厚が厚くなると膜の割れが生じやすいことから、成膜後の膜厚が200nm以下になるようにプロセス条件を制御した方が望ましく、それ以上の厚さの膜を形成する際にはプロセスを繰り返した方が良い。
【0036】
前駆体の塗布によるコーティングにおいては、形成された膜中には有機物が混入している。プラズマへの暴露によって有機物は自動的に分解されるが、より良好な結晶性を有する均質な金属酸化物薄膜を短時間の処理で得るためには、事前に有機物の除去、及び前駆体の加水分解を充分に行うことが好ましい。より好ましくは、プラズマへ暴露する前に水蒸気を含んだ雰囲気で波長300nm以下の紫外線を所定時間照射すると、プラズマへの暴露の効果がさらに優れる。
【0037】
本発明においては、プロセス中に基板の積極的な加熱は一切行われない。また、低温プラズマへの暴露中に、プラズマ雰囲気からの熱交換によって基材が昇温することはありうるが、これはアンプパワーや基材にも依存する。後述の実施例からも明らかなように、プロセスを通じて基材温度は処理時間が3分以内なら80℃程度、10分間の処理を行っても180℃を超えることは無いことが確認されている。また、特に非耐熱性基板であるPET基板を用いた実施例(実施例9)では、処理中の温度は明らかに90℃を超えていない。そのため本発明においては、基材に金属酸化物薄膜の形成するに際して、熱衝撃などによる膜の損傷、あるいは酸化物膜と基材との反応を防止するための、バリア層形成の必要は無い。
【0038】
本発明においては、全体が均一に処理される。本発明では、プラズマ、及び高周波電界が金属酸化物膜全体にわたって同時に作用するために、レーザーアニーリングに代表されるような、走査型の処理に比較し、極めて均質に結晶化が進行する。そのため、後述の実施例7に示すように、100nm程度の極めて薄い膜を大面積にて均質かつ高品質に結晶化させることができる。また、ランプアニールなどのような熱分布を誘発することも無いために、熱応力による割れも生じ難い。そのために応力緩和のための中間層形成等に対して、省工程・コスト低減を見込むことができる。
【0039】
以上説明したように、本発明に係る技術は、いわゆるプラズマによる加熱効果がもたらす現象を利用したものではない。プラズマを用いた薄膜の高機能化技術については、前掲したように、本発明以外にも類似の先行技術が多数存在するので、前述した先行技術と本発明との基本的な差異を明確にするために、以下に先行技術を本発明と対比して説明する。
【0040】
特開平4-149090号公報は、リチウムアルコキシドとニオブアルコキシド、又はリチウムアルコキシドとタンタルアルコキシドを用いたゾルゲル法で成膜した非晶質薄膜を高周波プラズマ、あるいは電子ビームでアニールすることを特徴とした結晶質誘電体薄膜の作成方法について開示している。しかしながら、この提案技術では、焼き鈍しを意味する「アニール」という表現を用いており、明細書中で「発熱体による通常の加熱処理が一般的であるが、これによると薄膜の加熱に際し薄膜の基板も同様に加熱され、その結果、基板の材質が耐熱性で制限されたり組成の一部が拡散する問題点がある。」と述べている。彼らの技術の意味するところは、高周波プラズマや電子ビームを用いた局部加熱の技術であり、本発明とは本質的に異なる。また、ガス圧など、プラズマを特徴付ける実験条件が実施例にも記述されておらず、条件の記載が不充分である。
【0041】
米国特許第6432725号公報は、アモルファス金属酸化物を成膜後、結晶化のためのプラズマ処理を400℃以下の温度下で行う結晶性誘電膜生成法について開示している。しかしながら、実施例では、プラズマ処理時の温度は400℃のものしか示されておらず、プロセスの下限温度として約200℃が示されているものの、これは樹脂に代表される耐熱性の低い基材に対しては適用が不可能である。また、明細書中には、annealという表現で“熱処理”の概念が記述されている。また、実施例において、400℃で35秒間のプラズマ処理を行っているが、この温度は、本発明における低温プラズマでは35秒という短時間では到達できず、試料をヒーターで加熱するプロセスを含んでいるかまたは高温プラズマを用いていることを示唆している。従ってこの技術は、熱のアシストを前提にしており、本発明とは根本的に異なる。
【0042】
特開平7-294861号公報は、基板に前駆体を塗布し、少なくとも酸素元素を含有するガスのプラズマ雰囲気中で加熱することによる酸化物誘電体薄膜製造法について開示している。しかしながら、この提案技術も、基板を意図的に加熱するプロセスを前提にしており、本発明とは本質的に異なる。
【0043】
特開平4-199828公報は、酸化物被膜に対し、マイクロ波を用いたプラズマ分解によるプラズマ処理装置で発生させた酸素イオン、または酸素プラズマを照射することによって酸化物の高誘電率薄膜を得る方法を開示している。しかしながら、この提案では、処理する膜が非晶質で結晶化を達成するという記述はなく、単に絶縁耐圧が高くなる効果のみを言及しているに過ぎない。更に実施例は300℃でのものであり、熱によるアシスト効果を示唆している。
【0044】
特開2001-148377号公報は、誘電体薄膜をオゾン発生器またはプラズマ発生器でアニ−ルすることにより、特性改善を行う技術を開示している。しかしながら、この提案では、膜の漏れ電流特性の改善していることを記述しているのみで、非晶質の結晶化が起こっているという事実を確認していない。また、プラズマへの誘電体薄膜の暴露は、プラズマの発生が行われている場所から離れた、したがって高周波電界の印加されていない空間において行われており、本発明とは異なるものである。
【0045】
特開2001-31681号公報は、基板上に電極物質としてリチウム遷移金属酸化物を蒸着し、その後、その膜をプラズマ処理することにより、結晶化する技術を開示している。この提案では、非晶質の定義が曖昧な上、リチウム遷移金属酸化物に限定されている。また実施例で、プラズマ照射により品温が391℃まで上昇していること、課題を解決する手段の中で「プラズマ内で高エネルギーのイオンが・・・薄膜表面に衝突することにより熱エネルギーを伝える」と記述していることから、プラズマによる加熱効果が機構の主体であるという考え方に立脚しており、本発明とは本質的に異なる。
【0046】
特開2001-133466号公報は、ITOの物理的な表面形状(表面粗さ)や結晶面に係るITO膜の仕事関数を改善することを目的として10−80eVのエネルギー範囲にある酸素イオンまたは電子をITO膜に照射して表面改質を実施する技術を開示している。しかしながら、この発明ではITOに限定しており出発ITO膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0047】
特開平9-64307号公報は、酸化タンタルの酸素欠損を補充し、リーク電流を低減することを目的とし、タンタル酸化膜を酸化性雰囲気で熱処理(300℃-700℃)する方法であって、その熱処理において原子状酸素をタンタル酸化物膜に照射する発明を開示している。物質としてタンタル酸化物に限定しており、加熱による反応のアシストがある点で本発明とは根本的に異なる。また非晶質の結晶化技術との記述がない。
【0048】
特開平10-233489号公報は、半導体基板上にキャパシタを形成する段階と、このキャパシタをプラズマに露出する段階を含む半導体装置のキャパシタ製造方法について開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0049】
特開2000-200899号公報は、タンタル前駆体に2段階の温度で蒸着し、酸素雰囲気で熱処理し、この熱処理の際にプラズマを供給するプロセスを含むタンタル酸化膜を備えたキャパシタ製造方法を開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0050】
特開平9-153491号公報は、酸化タンタルの誘電率アップとリーク電流の低減を目的として、タンタル酸化膜を蒸着後、それより低い温度でアニ−ルする際にプラズマ−酸素アニ−ルを行うことを開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0051】
特開平9-246477号公報は、キャパシタ電極の自然酸化膜の除去を目的として、電極形成後、窒素および酸素を含有するガスを用いてプラズマ処理する技術を開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0052】
特開2001-152339号公報は、基板を含む反応チャンバーに薄膜をなす元素およびリガンドを含む第1反応物を注入し、基板上に化学吸着させた後、活性化された酸化剤を添加する技術を開示しており、酸化剤はオゾン、プラズマ酸素、プラズマ酸化窒素としている。これはAtomic Layer Deposition (ALD)の技術であり、本発明とは本質的に異なる。また、成膜と酸化剤処理を同じチャンバー内で行うことを前提としており、その酸化剤処理によってほとんど非晶質である出発膜を結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0053】
特開平10-273317号公報は、超伝導性を示さない厚さ1ミクロン以下の酸化物薄膜に対し、オゾンまたは原子状酸素または酸素ラジカルまたは酸素イオンまたは酸素プラズマ等、分子状酸素より強力な酸化力をもつ酸化ガスを1分以上、1時間以内の短時間照射することを特徴とする酸化物超伝導体薄膜の作製方法について開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0054】
特開平9-262466号公報は、酸化チタンを含有する担体の表面に対し活性化して製造する光触媒材料の製造方法において、活性化する方法が100-280℃でプラズマ処理を行う方法を開示している。この発明ではプラズマ処理によりルチルやブルッカイトからアナターゼへと結晶系の相転移が起きたためと記述しており、出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。本発明技術とは明らかに異なる。
【0055】
特開2001-85639号公報は、誘電体に酸素プラズマ処理を行う技術を開示している。この発明はダングリングボンドの終端処理が目的で、450℃以上の加熱が前提となっており、膜を熱で結晶化後にプラズマ処理することから本発明技術とは明らかに異なる。
【0056】
特開2000-86242号公報は、結晶化したペロブスカイト薄膜を得るために原料ゾルを供給しつつプラズマ照射する技術を開示している。この発明は成膜と同時にプラズマ処理を行うものであり、ポスト処理である本発明技術とは明らかに異なる。
【0057】
特開平2-283022号公報は、オゾンを含むガス雰囲気で熱処理することを特徴とする半導体酸化膜の製造方法を開示している。この技術は加熱が前提となっている上、出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。またプラズマ照射の技術とは必ずしも言えないことから本発明技術とは明確に異なる。
【0058】
特開平11-145148号公報は、基板に成膜された薄膜上に熱プラズマを照射するアニ−ル方法を開示している。この技術で用いるのは高温プラズマであり、本発明が意図している低温プラズマではなく、この点で本発明技術とは明確に異なる。
【実施例】
【0059】
実施例1
RF(Radio Frequency)マグネトロンスパッタでガラス上に作製したTiO2薄膜に、周波数13.56MHz、アンプパワー300W、酸素流量100cc/分の酸素プラズマを1時間照射し、結晶性TiO2薄膜を得た。とくに、高周波電界中での酸素プラズマへの暴露は、常温で開始し、非加熱状態で上記時間プラズマ処理した。
【0060】
比較例1
実施例1と同様の手法で作製された膜について、最後の酸素プラズマ処理を行わないで膜を作製した。
【0061】
実施例1、比較例1で得られたTiO2薄膜についてブラックライトを用い、1mWの強度の紫外線照射下での接触角変化を図1に示す。紫外線照射により接触角が減少しており、酸素プラズマ照射で光誘起親水性が促進されていることが判る。
【0062】
実施例2
チタン酸化物薄膜を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、5000rpm, 20 秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100) 面))上に成膜し(ウエットTiO2膜)、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー300W、酸素流量100cc/分(容器内圧約50Pa)の酸素プラズマを1時間照射した。この高周波電界中での酸素プラズマへの暴露も、常温で開始し、非加熱状態で上記時間プラズマ処理した。
【0063】
比較例2
実施例2と同様の手法で作製された膜について、最後の酸素プラズマ処理を行わないで膜を作製した。
【0064】
実施例2、比較例2で得られたTiO2膜についてブラックライトを用い、1mWの強度の紫外線照射下での接触角変化を図2に示す。実施例1、比較例1の場合と同様、酸素プラズマ照射で光誘起親水性が促進されていることが判る。更に図3に同様に成膜したアルコキシド膜に酸素流量を200cc/分(容器内圧約100Pa )で酸素プラズマ処理を行った際の膜のX線回折図形を示す。酸素プラズマ処理により結晶化を示すピークが観察され、この処理により結晶化したTiO2膜がアルコキシドから常温で達成されていることが判る。
【0065】
このように、プロセスはすべて常温であるため、工程は簡素、単純である。ガス流量、バブリング条件、投入電力、処理時間等は設備によって変化する。膜構造としては、超親水特性のように表面物性を評価する場合であれば、上記成膜工程以降を一度通すだけで良好な結果を得られるが、結晶化したかどうかが問題となるような用途、例えば表面硬化膜用途等で結晶化を確認しなければならない場合には、工程を複数回繰り返すことで積層膜とし、厚い膜を作成することが可能である。
【0066】
実施例3
チタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、5000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100) 面))上に成膜し(ウエットTiO2膜)、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー400W、内圧100Paの条件で酸素プラズマを10分照射した。
【0067】
実施例4
チタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、5000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100) 面))上に成膜し(ウエットTiO2膜)、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー500W、内圧100Paの条件で酸素プラズマを10分照射した。
【0068】
比較例3
実施例3、4と同様の手法で作製された膜について、最後の酸素プラズマ処理を行わないで膜を作製した。
【0069】
得られたTiO2膜についての、ブラックライトを用いた1mWの強度の紫外線照射下での接触角変化を図4((A)−(C))、X線回折図形を図5((A)−(C))に示す。紫外線照射により接触角が減少しており、酸素プラズマ照射で光誘起親水性が促進されていることが判る。また、酸素プラズマ処理により結晶化を示すピークが観察され、この処理により結晶化したTiO2膜がアルコキシドから常温で達成されていることが判る。図6に実施例4で得られたTiO2膜を走査型電子顕微鏡で観察した図を示す。10nm程度の粒子が極めて均一に且つ、緻密に充填されていることがわかる。
【0070】
比較例4(参考比較例4)
実施例3、4と同様の手法で作製された膜について、波長253.7nmの紫外線により流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして1時間処理することなく、実施例3、4と同様の条件で酸素プラズマを照射した。その結果、膜は結晶化や硬化することなく、亀裂が一面に入っていた。この結果、実施例3、4の成膜条件では、紫外線による前処理が有効であることが確認できた。
【0071】
実施例5
ウエットTiO2膜から結晶性TiO2薄膜を作成する場合の下地依存性、積層の効果について確認した。チタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、5000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100)面)、(110)面)、(111)面))上に成膜し、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー300W、内圧50Paの条件で酸素プラズマを60分照射するプロセスを3回繰り返した。実施例5のX線回折図形を図7((A)−(C))に示す。結晶化の程度はシリコンウエハーの面指数に依存する。また3層積層した膜の膜厚は合計で約200nmであったが、積層界面からの割れや剥離は一切見られず、積層を繰り返すことで厚い膜を作成することが可能である。
【0072】
実施例6
プラズマ処理時間の効果について確認した。チタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、3000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100)面)上に成膜し、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー550W、内圧100Paの条件で酸素プラズマを3分、5分、10分の各時間処理をした。実施例6のX線回折図形を図8((A)−(C))に示す。また、膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察した図を図9((A)−(C))に示す。X線回折図形と膜厚の変化から結晶化はわずか3分の段階で大部分が終わっていることがわかる。サーモラベルで計測したところ、プラズマ照射3分の段階ではまだ試料の表面温度はまだ80℃程度であり、10分経過時も約180℃であった。このことは、この結晶化が自己発熱や外部加熱などによる熱で生じたものではないことを示している。実施例6の10分処理の膜についてエリプソメトリーにより膜の屈折率を評価したところ、プラズマ処理前が1.88であったのに対し、処理後は2.33となった。一方、実施例6の膜をプラズマ照射を行わず、大気中で500℃、1時間焼成したものでは屈折率が2.24であった。この膜を走査型電子顕微鏡で観察した図を図10((A)、(B))に示す。熱的に結晶化した膜(A)は亀裂が多く入っているのに対し、プラズマ処理で得られた膜(B)は緻密で均質であることがわかる。また、アナタ−ゼの屈折率(2.46)から、実施例6のプラズマ処理を10分間行った膜では相対密度が90%以上であることがわかる。
【0073】
実施例7
ウエットTiO2膜から作成した結晶性TiO2薄膜の電気物性、均質性について確認した。シリコンウェハー((100)面)上に白金を成膜し、その上からチタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、3000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法により成膜し、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー550W、内圧100Paの条件で酸素プラズマを10分処理をした。この上に5mm角で約200個の独立した金属チタン電極を形成し、得られたチタン酸化物薄膜の誘電率を測定したところ、測定周波数1MHzで約37であった。この値は一般に知られているアナタ−ゼの誘電率と一致する。また、素子は5mm角で作製したが、極めて薄い膜厚(約100nm)にもかかわらず作製した200あまりの素子で電極間リークが認められたものは全くなかった。このことは、膜が極めて均質に結晶化、緻密化したことを示しており、実施例6での電子顕微鏡観察結果ともよく一致する。
【0074】
実施例8
スパッタITOから作成した金属酸化物薄膜のプラズマ依存性、下地依存性について確認した。常温でパイレックス(登録商標)とシリコンウェハー((100)面)上にITOを約150nm成膜し、その後、周波数13.56MHz、アンプパワー550W、内圧100Paの条件にて、酸素または窒素プラズマで10分処理をした。実施例8のX線回折図形を図11((A)−(D))に示す。結晶化の度合いは異なるが、酸素、窒素いずれのプラズマでも結晶化が生じ、結晶度はプラズマ種と基材に依存することがわかる。
【0075】
実施例9
常温で50μm厚のポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルム上にITOアモルファス薄膜をアルゴンガス295CCM、酸素ガス5CCMの混合ガスで、全圧を0.6Paとし周波数13.56MHz、アンプパワー1.5KWにてスパッタ成膜し、酸素プラズマ処理を行った。処理条件は周波数13.56MHz、酸素ガス400CCM、アンプパワー400W、内圧33Paで行った。実施例9の抵抗変化グラフを図12に示す。ほぼ直線的に抵抗値が減少していることを示しているが、基材が熱に極めて弱い材料(ガラス転移温度:90℃)であるにもかかわらず、変形、白濁等は認められず、処理前と同様の外観を保っていた。したがって、このプロセスが熱負荷の小さいプロセスであっても高い抵抗値低減効果を有することがわかる。
【0076】
上述の如く本発明に係るプロセスで結晶化を検討した試料、条件、結果をまとめて下記表1に示す。
このように、本発明に係るプロセスはすべて常温であるため、工程は簡素・単純である。膜構造としては、超親水特性のように表面物性を評価する場合であれば、上記成膜工程以降を一度通すだけで良好な結果を得られるが、プロセスを複数回繰り返すことで積層膜とし、厚い膜を作製することも可能である。
【0077】
【表1】
【0078】
以上説明したように本発明に係る金属酸化物薄膜製造プロセスによれば、加熱処理を伴うことなく様々な基材に結晶質金属酸化物薄膜を効果的に形成することができる。従来の金属酸化物薄膜製造プロセスの欠点を克服でき、薄膜製造プロセスに新規な道を拓いた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、スパッタ膜に酸素プラズマ処理を行った際の親水化の効果を示す、紫外線照射時間と接触角の関係図である。
【図2】図2は、アルコキシド膜に酸素プラズマ処理を行った際の親水化の効果を示す、紫外線照射時間と接触角の関係図である。
【図3】図3は、アルコキシド膜に酸素プラズマ処理を行った際の膜のX線回折図形を示す特性図である。
【図4】図4(A)−(C)は、スパッタ膜に酸素プラズマ処理を行った際の親水化の効果を示す、照射時間と接触角の関係図である。
【図5】図5(A)−(C)は、アルコキシド膜に酸素プラズマ処理を行った際の膜のX線回折図形を示す特性図である。
【図6】図6は、実施例4の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図7】図7(A)−(C)は、実施例5におけるX線回折図形を示す特性図である。
【図8】図8(A)−(C)は、実施例6におけるX線回折図形を示す特性図である。
【図9】図9(A)−(C)は、実施例6における走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図10】図10(A)、(B)は、実施例6においてプラズマ処理と焼成の効果を比較した場合の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図11】図11(A)−(D)は、実施例8におけるX線回折図形を示す特性図である。
【図12】図12は、実施例9における抵抗変化特性図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物薄膜及びその製造方法に関し、とくに、基本的に加熱処理を伴うことなく基材に結晶性金属酸化物薄膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタや真空蒸着により、ガラスやポリマー、半導体などの基材に金属酸化物の膜を形成することは、従来行われている。近年、成膜コストの低減と、大型の製品製造を目的とし、一度に成膜できる面積が大型化される傾向がある。また、ガラスに代わる基材としての樹脂材料の使用(たとえば、ポリカーボネートやアクリルの使用)も、ますます増加する傾向にある。これら成膜面積の拡大化、及び非耐熱性基材への成膜については、基板加熱を伴う成膜技術では、膜の割れ発生や基材の損傷などが生じるため、基板加熱を伴わない成膜が広く行われている。
【0003】
しかしながら、このような非加熱プロセスにおいては、金属酸化物膜の結晶化のための駆動力や移動度が充分に供給されないことから、得られる膜が非晶質となりやすく、充分な結晶性を得ることが困難である。そのため、表面の結晶性が製品の特性を大きく左右するような場合においては、ガス導入などのプロセス条件を厳密に制御することが必要とされる。しかし、このような厳密なプロセス条件の制御が要求されると、比較的成功したと思われる状態においても、得られる膜の特性は基板加熱を伴うプロセスによって製造されたものと比較して劣る場合が多い。
【0004】
また、基板加熱の程度を低減させる試みとして、金属元素を含むイオンを含有した前駆体溶液を用いて酸化物膜を作成することも広く行われている。代表的な前駆体溶液として、金属アルコキシド、金属アセテート、有機金属錯体、金属塩、金属石鹸などが知られており、それらを利用した代表的な成膜方法として、金属アルコキシド溶液を用いたゾルゲル法等が知られている。これらの成膜方法においては、金属元素を含むイオンを含有した溶液に対し、酸などの触媒と水を用い、これら金属元素を含むイオンを短分子状態から、無秩序ではあるが分子同士が結合した高分子状態へ遷移させ(この状態をゲル化と呼称する)、この段階で加熱することで、比較的低温で有機物の分解除去を行い金属酸化物を得ることを特徴としている。この方法は、設備コストが安く、複雑な形状のものに対してもディップコーティングなどにより全体への均一成膜が可能であるため、多品種少量生産や比較的小型の物への酸化物薄膜のコーティングに適している。しかし、このような方法においては、原液に含まれる有機物の燃焼や、得られる膜内部での脱水重縮合、あるいは結晶化の促進のため、一般には少なくとも400℃程度の加熱を必要とされることから、耐熱性のある基材にしか適用できないという欠点があった。
【0005】
ゾルゲル法等で得られる膜に関しては、加熱を伴わずに結晶化や緻密化を促進するための技術として、紫外線照射や水蒸気添加、電子線照射などの方法が検討されている。また近年、富山大学の蓮覚寺らは、金属アルコキシドにベンゼンなどの芳香族化合物を添加することによりアルコキシド中の分子をベンゼンでサンドイッチするように構造を制御し、それを成膜することにより結晶化に有利な構造を膜中に実現して低温で結晶化しやすくできると報告している。しかしながらこの技術においても、前述の非加熱プロセス同様に厳密なプロセス条件の制御が必要であり、再現性が充分に得られない、結晶化が充分に生じないなどの問題点が残されている。
【0006】
以上のような背景から、樹脂材料に代表されるような耐熱性の低い基材上に非晶質の金属酸化物膜を形成し、それを、基材の劣化を伴うことなく効果的に結晶化させる技術は極めて限られていた。特に、短時間のうちに全体にわたって同時にかつ均質に、非晶質の膜を充分に結晶化させる技術はほとんど存在しなかった。
【0007】
なお、本発明に関連する従来技術として、とくにプラズマを用いた薄膜の高機能化技術として、例えば、下記の特許文献1〜19等が知られているが、これらに開示されている技術と本発明との基本的な差異については後述する。
【特許文献1】特開平4-149090号公報
【特許文献2】米国特許第6432725号公報
【特許文献3】特開平7-294861号公報
【特許文献4】特開平4-199828号公報
【特許文献5】特開2001-148377号公報
【特許文献6】特開2001-31681号公報
【特許文献7】特開2001-133466号公報
【特許文献8】特開平9-64307号公報
【特許文献9】特開平10-233489号公報
【特許文献10】特開2000-200899号公報
【特許文献11】特開平9-153491号公報
【特許文献12】特開平9-246477号公報
【特許文献13】特開2001-152339号公報
【特許文献14】特開平10-273317号公報
【特許文献15】特開平9-262466号公報
【特許文献16】特開2001-85639号公報
【特許文献17】特開2000-86242号公報
【特許文献18】特開平2-283022号公報
【特許文献19】特開平11-145148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、上述したような従来技術における問題点を解決するために、積極的な加熱処理を伴うことなく、低温で、基材に緻密で均質な結晶質の金属酸化物膜を効果的に形成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
積極的な加熱を伴うことなく、かつ膜の温度が比較的低温に保たれたままで形成された膜に対し欠陥を修復する手段が講じられれば、従来以上に大面積かつ緻密で均質な、また優れた表面活性、あるいは強度を兼備えた膜が得られることになる。さらに、集積回路に代表される微細加工技術が進むにつれ電極や酸化膜の欠陥が生じやすくなっており、熱履歴の少ないプロセスが重要になってきている。本発明者らはこのような欠点を克服しこのような要求を満たす技術を開発すべく、鋭意検討を行った結果、これらの欠点を克服する手段として、常温で作製された主に非晶質の金属酸化物膜を、積極的な加熱を行うことなく、特定の条件下で低温プラズマに暴露するという方法が効果的であることを知見した。
【0010】
すなわち、本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法は、主に非晶質からなる金属酸化物膜を、温度180℃以下にて、高周波電界中で低温プラズマに暴露することにより、結晶性の金属酸化物薄膜を製造することを特徴とする方法からなる。換言すれば、主に非晶質からなる金属酸化物膜を先に成膜し、非加熱にて、とくに180℃以下の温度にて、前記成膜とは別にポスト処理として、高周波電界中で低温プラズマ処理することにより、結晶性金属酸化物薄膜を製造することを特徴とする方法である。
【0011】
この金属酸化物薄膜の製造方法は、上記結晶性の金属酸化物薄膜が、主に結晶性の金属酸化物薄膜からなる場合を含む。ここで「主に結晶性の金属酸化物薄膜」とは、膜中に非晶質部分も含まれるが、薄膜X線回折パターンからは結晶性を有すると判断される程度に結晶性を有する部分が存在する状態を指す。
【0012】
また、上記金属酸化物薄膜の製造方法においては、結晶性の金属酸化物薄膜の、理論密度と比較した相対密度が90%以上であることが好ましい。つまり、本発明では緻密性の高い膜を形成できる。
【0013】
また、上記低温プラズマとしては、高周波プラズマを用いることが好ましい。この低温高周波プラズマの発生条件としては、たとえば、印加周波数1kHz〜300MHz、圧力5Pa以上、投入電力が300W以上であることが好ましい。
【0014】
また、上記低温プラズマは、少なくとも酸素ガスあるいは酸素元素を含むガスを励起することにより発生するプラズマであることが好ましい。あるいは、上記金属酸化物膜が酸素欠損により特性が与えられる膜である場合、上記低温プラズマは、少なくともアルゴンガスあるいは窒素ガスあるいはそれらを含むガスを励起することにより発生するプラズマであることが好ましい。
【0015】
上記主に非晶質からなる金属酸化物膜の成膜方法としては各種方法を採用可能であり、とくにスパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着法のいずれかにより形成することができる。あるいは、上記主に非晶質からなる金属酸化物膜を、前駆体溶液の塗布により、つまり、ウェット成膜により、形成することもできる。後者の場合、前駆体溶液の塗布により形成した主に非晶質からなる金属酸化物膜に、プラズマに暴露される前にあらかじめ、水蒸気存在下で紫外線を照射する前処理を施すこともできる。
【0016】
本発明における主に非晶質からなる金属酸化物膜としては、たとえば、酸化チタンを含む膜、ITOを含む膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT) を含む膜等を使用できる。
【0017】
本発明に係る金属酸化物薄膜は、上記のような方法を用いて形成された結晶性の(結晶質の)金属酸化物薄膜からなる。
このような本発明に係る金属酸化物薄膜は、各種の構造体や材料、部品に適用できる。たとえば、非耐熱性基材(たとえば、前述したような耐熱性が比較的低い樹脂基材)に、熱バリア層を介在させずに、上記のような結晶性金属酸化物薄膜を形成せしめた構造体を構成することが可能である。また、表面層または/および内部層として上記のような結晶性金属酸化物薄膜を形成せしめた画像表示装置を構成することが可能である。また、表面層または/および内部層として上記のような結晶性金属酸化物薄膜を形成せしめた光触媒材料を構成することが可能である。さらに、表面層または/および内部層として上記のような結晶性金属酸化物薄膜を形成せしめた電子デバイスを構成することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法によれば、積極的な加熱処理を伴うことなく、低温で、基材に緻密で均質な結晶質の金属酸化物薄膜を効果的に形成することができるので、比較的耐熱性の低い基材に対しても、基材の特性を損なうことなく、望ましい特性の金属酸化物薄膜を形成することができる。したがって、本発明は、とくに、樹脂に代表される耐熱性の低い基材上に金属酸化物薄膜を形成することが要求されるあらゆる用途に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに説明する。
基本的に、本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法は、基材に、主に非晶質の金属酸化物膜を形成し、積極的な基板加熱を行うことなく、温度180℃以下にて、高周波電界中で低温プラズマ中に暴露することで、前記膜を結晶性の金属酸化物薄膜へと変化せしめる方法からなる。つまり、基本的に、比較的耐熱性の低い基材への結晶性金属酸化物薄膜の成膜を狙ったものであり、180℃以下の温度でのプラズマ処理を前提としたものである。基板を高温に加熱しなくてよいため、高温加熱に伴う不都合の発生が完全に回避される。
【0020】
本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法における条件を詳細に検討したところ、高周波電界中で、適切な周波数、投入電力、ガス圧力で発生させた低温プラズマ中に、主に非晶質からなる酸化物膜を暴露することにより、多くの物質で充分な結晶性と緻密化が極めて均質に生じることがわかった。
【0021】
本発明において、非晶質からなる金属酸化物膜とは、X線により検出可能な結晶構造の秩序が生じていない状態にある膜のことを指す。具体的にはX線回折パターンにおいて有意なピークを有しない酸化物膜を指す。また、主に非晶質からなる金属酸化物膜とは、膜中に、ある程度の結晶構造をもった微粒子を含有した酸化物膜を含む概念である。
【0022】
また、本発明においては、結晶性金属酸化物薄膜もまた、X線回折パターンから判断される。本発明における結晶化とは、非晶質、および主に非晶質の状態から、X線により有意な結晶構造秩序の形成、及び成長が行われることを指す。また、前述したように、「主に結晶性の金属酸化物薄膜」とは、膜中に非晶質部分が含まれるが、薄膜X線回折パターンからは結晶性を有すると判断される程度に結晶性を有する部分が存在する状態を指す。
【0023】
また、本発明における緻密化は、酸化物物性として一般に与えられる理論密度に対して、得られた酸化物膜の密度が90%以上の値となることで達成を判断されるものである。この相対密度は膜重量や屈折率から判断され、エリプソメトリー、UV-VIS-IRスペクトル等を基準として判断できる。
【0024】
本発明による製造技術は、より低温での結晶性金属酸化物の形成が可能であるために、とくに、基材の熱による劣化、破壊、基材と膜との反応、あるいは基材と膜に含まれる元素の相互拡散が問題となる材料に適用が可能である。また、大面積の一括処理によっても、後述の実施例に示されるように、極めて均質でピンホールなどの欠陥が無い膜の形成が可能であるために、大面積に微細な構造を形成することが必要とされる各種の装置部材の製造への応用が可能である。具体的には、積層セラミックコンデンサや、半導体デバイス内部の微小コンデンサを代表とする薄層キャパシタ、プラズマディスプレイや、液晶表示装置に代表される画像表示装置の透明電極の形成等が挙げられる。
【0025】
また、後述の実施例に示されるように、極めて低温で、光触媒活性を有する結晶性酸化チタンが形成可能であることから、大面積高速成膜された酸化チタン膜の後処理方法としても応用が可能である。
【0026】
従って本発明によって形成される結晶性金属酸化物薄膜の応用が期待される製品、あるいは技術分野としては、フィルター、ディレイライン、コンデンサー、サーミスター、発振子、圧電部品、薄膜基板、メモリー、回路のオーバーコート材、VCO (電圧制御発振器)、ハイブリッドIC、EMC装置、携帯電話、車載機器(ETC, Audio, Navigation等)、LAN、PDP(プラズマディスプレイパネル)、液晶ディスプレイ、各種オーディオプレーヤー(CD, MD 等) 、DVD、電極材料、窓ガラス、メガネ、ゴーグル、ヘルメット、スキー、サーフボード、顕微鏡、プレパラート、カバーガラス、多層基板、太陽電池、蛍光灯、ランプ、照明、テント、タイル、透明フィルム、カード、鏡、電話、看板、パソコン、サッシ、ファン、換気扇、衛生陶器、ビデオカメラ、医療器具、胃カメラ、サングラス、信号、自転車、スピーカー、アンテナ、食器類、エアコン、洗濯機、バイク、ボート、懐中電灯等、広汎な分野にわたると考えられる。
【0027】
次に、本発明における低温プラズマ処理の条件について詳細を述べる。低温プラズマとは、電子温度がイオンや中性粒子の温度より遥かに高い、熱的に非平衡なプラズマで、一般に数百Pa以下のガス圧で生成する。印加する交流電界の周波数は、気体放電が生じ、且つ熱プラズマを生じさせないために1kHz〜300MHzが好ましいが、より望ましくは工業的使用に割り振られ、既存の装置での使用が行われている13.56MHzが適する。また、本発明において使用される高周波電界は、プラズマの発生に使用される高周波によって兼ねられることが望ましい。
【0028】
投入電力としては、たとえば後述の実施例におけるサイズの装置においては300W以上が適切である。しかしながら、適切な投入電力はプラズマを発生させる装置のサイズによって変化するため、より容積の小さなチャンバーを用いる場合には、より低い投入電力による処理も適切である。なお、後述の実施例におけるチャンバー容積を用い、プラズマ発生が行われている空間の単位体積当たりの投入電力密度に換算すると、300Wはおよそ1.97×104 Wm-3である。必要とされる投入電力の決定は、この単位体積当たりの電力を用いても判断可能である。
【0029】
プラズマの発生に用いるガスは、酸素、アルゴン、窒素、あるいはそれらの混合体であり、全圧5Pa以上、より好ましくは50Pa以上が適している。実施例に示すように、多くの酸化物においては純度99.9%以上の酸素ガスを用いたプラズマによる処理が、特性が安定するためより好ましい。この場合、低温プラズマとしては、少なくとも酸素ガスあるいは酸素元素を含むガスを励起することにより発生するプラズマを用いることができる。ただし、酸素の欠損により各種の特性が付与される、もしくは制御される酸化物膜の場合には、酸素以外のガス、例えばアルゴンや窒素を用いることもでき、低温プラズマとしては、少なくともアルゴンガスあるいは窒素ガスあるいはそれらを含むガスを励起することにより発生するプラズマを用いることができる。
【0030】
プラズマ処理時間に関しては、主に非晶質からなる金属酸化物膜のプラズマへの暴露は、0でないX線回折パターンを示す程度の結晶性を有する、あるいは微結晶が内包された膜を得るためには3分以内の暴露で充分であるが、X線回折パターンのピーク半値幅0.5以下の、良好な結晶性を有する酸化物膜の形成には10分以内の暴露がより好ましい。
【0031】
上記のようなプロセスは一見スパッタと類似しているが、使用可能な装置としては、マグネットを使用せず、プラズマ内の荷電粒子を加速しない、容量結合型の対向電極間に高周波電力を印加することでプラズマを生成することができるような真空設備を用いることが望ましい。このとき電場を印加する電極は、プラズマを発生させるチャンバー内に両方あるいは片方が露出していても、あるいはチャンバー外に設置されていても構わない。この設備と通常のスパッタ装置との差は、対向電極(スパッタ装置であればターゲット側の電極)に収束マグネットを使用しないため、対向電極に対して高密度のプラズマが集中せず、均一なプラズマを生成できるため、スパッタリングのような物理的な切削現象は起こりにくく、反応性の高い酸素イオンを容易に入手することが可能となる。尚、容量結合型よりプラズマ密度の高い、誘導結合型の装置も本発明に使用できる。また、設備的にはプラズマリアクター、リアクティブ・イオン・エッチング装置といった市販の装置を使用してもよい。
【0032】
これらの設備は、電極に磁場を使用しておらず、上述のような反応性の高い均一なプラズマを生成することができる。このプラズマ照射の効果はアンプパワー、ガス流量などの条件に依存する。この処理により、結晶性、基材への密着性、膜の硬度などの機械的物性に優れた金属酸化物薄膜を、適当な非晶質の酸化物膜から、非加熱で均質に形成することができる。
【0033】
また、プラズマに暴露する、主に非晶質からなる金属酸化物膜を形成する基材は、主に非晶質からなる金属酸化物膜を形成可能であればどのようなものでも構わない。特に本発明においては、後述の実施例9に記載されるように、樹脂基板上に成膜された主に非晶質の金属酸化物膜の結晶化に際しては、基材および酸化物膜の温度は90℃を上回らないために、耐熱性の低い樹脂基材の使用が可能である。
【0034】
主に非晶質からなる金属酸化物膜のコーティング方法は特定の方法に限定されるものではないが、例示するならば、スパッタ法、蒸着法、あるいは金属アルコキシド、金属アセテート、金属有機酸塩、金属塩、金属石鹸等、金属元素を有するイオンを含む前駆体溶液のスピンコート、ディップコート、フローコート、バーコート法などが適用できる。従って本発明においては、異形状のものであってもディップコート等によって主に非晶質からなる金属酸化物膜をコーティングし、所定のプラズマ中へ暴露することで、結晶性の金属酸化物薄膜を形成できる。
【0035】
なお、前駆体溶液はアルコキシドのほか、各種の金属成分を含有した無機酸、有機酸溶液でもよく、前述の蓮覚寺らが提案しているような溶液構造の事前の制御なども特に必要としない。ただし、有機物を多く含むアルコキシドのような前駆体溶液では、1回に形成する膜の膜厚が厚くなると膜の割れが生じやすいことから、成膜後の膜厚が200nm以下になるようにプロセス条件を制御した方が望ましく、それ以上の厚さの膜を形成する際にはプロセスを繰り返した方が良い。
【0036】
前駆体の塗布によるコーティングにおいては、形成された膜中には有機物が混入している。プラズマへの暴露によって有機物は自動的に分解されるが、より良好な結晶性を有する均質な金属酸化物薄膜を短時間の処理で得るためには、事前に有機物の除去、及び前駆体の加水分解を充分に行うことが好ましい。より好ましくは、プラズマへ暴露する前に水蒸気を含んだ雰囲気で波長300nm以下の紫外線を所定時間照射すると、プラズマへの暴露の効果がさらに優れる。
【0037】
本発明においては、プロセス中に基板の積極的な加熱は一切行われない。また、低温プラズマへの暴露中に、プラズマ雰囲気からの熱交換によって基材が昇温することはありうるが、これはアンプパワーや基材にも依存する。後述の実施例からも明らかなように、プロセスを通じて基材温度は処理時間が3分以内なら80℃程度、10分間の処理を行っても180℃を超えることは無いことが確認されている。また、特に非耐熱性基板であるPET基板を用いた実施例(実施例9)では、処理中の温度は明らかに90℃を超えていない。そのため本発明においては、基材に金属酸化物薄膜の形成するに際して、熱衝撃などによる膜の損傷、あるいは酸化物膜と基材との反応を防止するための、バリア層形成の必要は無い。
【0038】
本発明においては、全体が均一に処理される。本発明では、プラズマ、及び高周波電界が金属酸化物膜全体にわたって同時に作用するために、レーザーアニーリングに代表されるような、走査型の処理に比較し、極めて均質に結晶化が進行する。そのため、後述の実施例7に示すように、100nm程度の極めて薄い膜を大面積にて均質かつ高品質に結晶化させることができる。また、ランプアニールなどのような熱分布を誘発することも無いために、熱応力による割れも生じ難い。そのために応力緩和のための中間層形成等に対して、省工程・コスト低減を見込むことができる。
【0039】
以上説明したように、本発明に係る技術は、いわゆるプラズマによる加熱効果がもたらす現象を利用したものではない。プラズマを用いた薄膜の高機能化技術については、前掲したように、本発明以外にも類似の先行技術が多数存在するので、前述した先行技術と本発明との基本的な差異を明確にするために、以下に先行技術を本発明と対比して説明する。
【0040】
特開平4-149090号公報は、リチウムアルコキシドとニオブアルコキシド、又はリチウムアルコキシドとタンタルアルコキシドを用いたゾルゲル法で成膜した非晶質薄膜を高周波プラズマ、あるいは電子ビームでアニールすることを特徴とした結晶質誘電体薄膜の作成方法について開示している。しかしながら、この提案技術では、焼き鈍しを意味する「アニール」という表現を用いており、明細書中で「発熱体による通常の加熱処理が一般的であるが、これによると薄膜の加熱に際し薄膜の基板も同様に加熱され、その結果、基板の材質が耐熱性で制限されたり組成の一部が拡散する問題点がある。」と述べている。彼らの技術の意味するところは、高周波プラズマや電子ビームを用いた局部加熱の技術であり、本発明とは本質的に異なる。また、ガス圧など、プラズマを特徴付ける実験条件が実施例にも記述されておらず、条件の記載が不充分である。
【0041】
米国特許第6432725号公報は、アモルファス金属酸化物を成膜後、結晶化のためのプラズマ処理を400℃以下の温度下で行う結晶性誘電膜生成法について開示している。しかしながら、実施例では、プラズマ処理時の温度は400℃のものしか示されておらず、プロセスの下限温度として約200℃が示されているものの、これは樹脂に代表される耐熱性の低い基材に対しては適用が不可能である。また、明細書中には、annealという表現で“熱処理”の概念が記述されている。また、実施例において、400℃で35秒間のプラズマ処理を行っているが、この温度は、本発明における低温プラズマでは35秒という短時間では到達できず、試料をヒーターで加熱するプロセスを含んでいるかまたは高温プラズマを用いていることを示唆している。従ってこの技術は、熱のアシストを前提にしており、本発明とは根本的に異なる。
【0042】
特開平7-294861号公報は、基板に前駆体を塗布し、少なくとも酸素元素を含有するガスのプラズマ雰囲気中で加熱することによる酸化物誘電体薄膜製造法について開示している。しかしながら、この提案技術も、基板を意図的に加熱するプロセスを前提にしており、本発明とは本質的に異なる。
【0043】
特開平4-199828公報は、酸化物被膜に対し、マイクロ波を用いたプラズマ分解によるプラズマ処理装置で発生させた酸素イオン、または酸素プラズマを照射することによって酸化物の高誘電率薄膜を得る方法を開示している。しかしながら、この提案では、処理する膜が非晶質で結晶化を達成するという記述はなく、単に絶縁耐圧が高くなる効果のみを言及しているに過ぎない。更に実施例は300℃でのものであり、熱によるアシスト効果を示唆している。
【0044】
特開2001-148377号公報は、誘電体薄膜をオゾン発生器またはプラズマ発生器でアニ−ルすることにより、特性改善を行う技術を開示している。しかしながら、この提案では、膜の漏れ電流特性の改善していることを記述しているのみで、非晶質の結晶化が起こっているという事実を確認していない。また、プラズマへの誘電体薄膜の暴露は、プラズマの発生が行われている場所から離れた、したがって高周波電界の印加されていない空間において行われており、本発明とは異なるものである。
【0045】
特開2001-31681号公報は、基板上に電極物質としてリチウム遷移金属酸化物を蒸着し、その後、その膜をプラズマ処理することにより、結晶化する技術を開示している。この提案では、非晶質の定義が曖昧な上、リチウム遷移金属酸化物に限定されている。また実施例で、プラズマ照射により品温が391℃まで上昇していること、課題を解決する手段の中で「プラズマ内で高エネルギーのイオンが・・・薄膜表面に衝突することにより熱エネルギーを伝える」と記述していることから、プラズマによる加熱効果が機構の主体であるという考え方に立脚しており、本発明とは本質的に異なる。
【0046】
特開2001-133466号公報は、ITOの物理的な表面形状(表面粗さ)や結晶面に係るITO膜の仕事関数を改善することを目的として10−80eVのエネルギー範囲にある酸素イオンまたは電子をITO膜に照射して表面改質を実施する技術を開示している。しかしながら、この発明ではITOに限定しており出発ITO膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0047】
特開平9-64307号公報は、酸化タンタルの酸素欠損を補充し、リーク電流を低減することを目的とし、タンタル酸化膜を酸化性雰囲気で熱処理(300℃-700℃)する方法であって、その熱処理において原子状酸素をタンタル酸化物膜に照射する発明を開示している。物質としてタンタル酸化物に限定しており、加熱による反応のアシストがある点で本発明とは根本的に異なる。また非晶質の結晶化技術との記述がない。
【0048】
特開平10-233489号公報は、半導体基板上にキャパシタを形成する段階と、このキャパシタをプラズマに露出する段階を含む半導体装置のキャパシタ製造方法について開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0049】
特開2000-200899号公報は、タンタル前駆体に2段階の温度で蒸着し、酸素雰囲気で熱処理し、この熱処理の際にプラズマを供給するプロセスを含むタンタル酸化膜を備えたキャパシタ製造方法を開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0050】
特開平9-153491号公報は、酸化タンタルの誘電率アップとリーク電流の低減を目的として、タンタル酸化膜を蒸着後、それより低い温度でアニ−ルする際にプラズマ−酸素アニ−ルを行うことを開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0051】
特開平9-246477号公報は、キャパシタ電極の自然酸化膜の除去を目的として、電極形成後、窒素および酸素を含有するガスを用いてプラズマ処理する技術を開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0052】
特開2001-152339号公報は、基板を含む反応チャンバーに薄膜をなす元素およびリガンドを含む第1反応物を注入し、基板上に化学吸着させた後、活性化された酸化剤を添加する技術を開示しており、酸化剤はオゾン、プラズマ酸素、プラズマ酸化窒素としている。これはAtomic Layer Deposition (ALD)の技術であり、本発明とは本質的に異なる。また、成膜と酸化剤処理を同じチャンバー内で行うことを前提としており、その酸化剤処理によってほとんど非晶質である出発膜を結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0053】
特開平10-273317号公報は、超伝導性を示さない厚さ1ミクロン以下の酸化物薄膜に対し、オゾンまたは原子状酸素または酸素ラジカルまたは酸素イオンまたは酸素プラズマ等、分子状酸素より強力な酸化力をもつ酸化ガスを1分以上、1時間以内の短時間照射することを特徴とする酸化物超伝導体薄膜の作製方法について開示している。この発明においても出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。
【0054】
特開平9-262466号公報は、酸化チタンを含有する担体の表面に対し活性化して製造する光触媒材料の製造方法において、活性化する方法が100-280℃でプラズマ処理を行う方法を開示している。この発明ではプラズマ処理によりルチルやブルッカイトからアナターゼへと結晶系の相転移が起きたためと記述しており、出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。本発明技術とは明らかに異なる。
【0055】
特開2001-85639号公報は、誘電体に酸素プラズマ処理を行う技術を開示している。この発明はダングリングボンドの終端処理が目的で、450℃以上の加熱が前提となっており、膜を熱で結晶化後にプラズマ処理することから本発明技術とは明らかに異なる。
【0056】
特開2000-86242号公報は、結晶化したペロブスカイト薄膜を得るために原料ゾルを供給しつつプラズマ照射する技術を開示している。この発明は成膜と同時にプラズマ処理を行うものであり、ポスト処理である本発明技術とは明らかに異なる。
【0057】
特開平2-283022号公報は、オゾンを含むガス雰囲気で熱処理することを特徴とする半導体酸化膜の製造方法を開示している。この技術は加熱が前提となっている上、出発膜がほとんど非晶質でありそれを結晶化させる技術である旨の記述がない。またプラズマ照射の技術とは必ずしも言えないことから本発明技術とは明確に異なる。
【0058】
特開平11-145148号公報は、基板に成膜された薄膜上に熱プラズマを照射するアニ−ル方法を開示している。この技術で用いるのは高温プラズマであり、本発明が意図している低温プラズマではなく、この点で本発明技術とは明確に異なる。
【実施例】
【0059】
実施例1
RF(Radio Frequency)マグネトロンスパッタでガラス上に作製したTiO2薄膜に、周波数13.56MHz、アンプパワー300W、酸素流量100cc/分の酸素プラズマを1時間照射し、結晶性TiO2薄膜を得た。とくに、高周波電界中での酸素プラズマへの暴露は、常温で開始し、非加熱状態で上記時間プラズマ処理した。
【0060】
比較例1
実施例1と同様の手法で作製された膜について、最後の酸素プラズマ処理を行わないで膜を作製した。
【0061】
実施例1、比較例1で得られたTiO2薄膜についてブラックライトを用い、1mWの強度の紫外線照射下での接触角変化を図1に示す。紫外線照射により接触角が減少しており、酸素プラズマ照射で光誘起親水性が促進されていることが判る。
【0062】
実施例2
チタン酸化物薄膜を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、5000rpm, 20 秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100) 面))上に成膜し(ウエットTiO2膜)、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー300W、酸素流量100cc/分(容器内圧約50Pa)の酸素プラズマを1時間照射した。この高周波電界中での酸素プラズマへの暴露も、常温で開始し、非加熱状態で上記時間プラズマ処理した。
【0063】
比較例2
実施例2と同様の手法で作製された膜について、最後の酸素プラズマ処理を行わないで膜を作製した。
【0064】
実施例2、比較例2で得られたTiO2膜についてブラックライトを用い、1mWの強度の紫外線照射下での接触角変化を図2に示す。実施例1、比較例1の場合と同様、酸素プラズマ照射で光誘起親水性が促進されていることが判る。更に図3に同様に成膜したアルコキシド膜に酸素流量を200cc/分(容器内圧約100Pa )で酸素プラズマ処理を行った際の膜のX線回折図形を示す。酸素プラズマ処理により結晶化を示すピークが観察され、この処理により結晶化したTiO2膜がアルコキシドから常温で達成されていることが判る。
【0065】
このように、プロセスはすべて常温であるため、工程は簡素、単純である。ガス流量、バブリング条件、投入電力、処理時間等は設備によって変化する。膜構造としては、超親水特性のように表面物性を評価する場合であれば、上記成膜工程以降を一度通すだけで良好な結果を得られるが、結晶化したかどうかが問題となるような用途、例えば表面硬化膜用途等で結晶化を確認しなければならない場合には、工程を複数回繰り返すことで積層膜とし、厚い膜を作成することが可能である。
【0066】
実施例3
チタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、5000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100) 面))上に成膜し(ウエットTiO2膜)、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー400W、内圧100Paの条件で酸素プラズマを10分照射した。
【0067】
実施例4
チタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、5000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100) 面))上に成膜し(ウエットTiO2膜)、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー500W、内圧100Paの条件で酸素プラズマを10分照射した。
【0068】
比較例3
実施例3、4と同様の手法で作製された膜について、最後の酸素プラズマ処理を行わないで膜を作製した。
【0069】
得られたTiO2膜についての、ブラックライトを用いた1mWの強度の紫外線照射下での接触角変化を図4((A)−(C))、X線回折図形を図5((A)−(C))に示す。紫外線照射により接触角が減少しており、酸素プラズマ照射で光誘起親水性が促進されていることが判る。また、酸素プラズマ処理により結晶化を示すピークが観察され、この処理により結晶化したTiO2膜がアルコキシドから常温で達成されていることが判る。図6に実施例4で得られたTiO2膜を走査型電子顕微鏡で観察した図を示す。10nm程度の粒子が極めて均一に且つ、緻密に充填されていることがわかる。
【0070】
比較例4(参考比較例4)
実施例3、4と同様の手法で作製された膜について、波長253.7nmの紫外線により流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして1時間処理することなく、実施例3、4と同様の条件で酸素プラズマを照射した。その結果、膜は結晶化や硬化することなく、亀裂が一面に入っていた。この結果、実施例3、4の成膜条件では、紫外線による前処理が有効であることが確認できた。
【0071】
実施例5
ウエットTiO2膜から結晶性TiO2薄膜を作成する場合の下地依存性、積層の効果について確認した。チタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、5000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100)面)、(110)面)、(111)面))上に成膜し、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー300W、内圧50Paの条件で酸素プラズマを60分照射するプロセスを3回繰り返した。実施例5のX線回折図形を図7((A)−(C))に示す。結晶化の程度はシリコンウエハーの面指数に依存する。また3層積層した膜の膜厚は合計で約200nmであったが、積層界面からの割れや剥離は一切見られず、積層を繰り返すことで厚い膜を作成することが可能である。
【0072】
実施例6
プラズマ処理時間の効果について確認した。チタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、3000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法によりシリコンウェハー((100)面)上に成膜し、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー550W、内圧100Paの条件で酸素プラズマを3分、5分、10分の各時間処理をした。実施例6のX線回折図形を図8((A)−(C))に示す。また、膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察した図を図9((A)−(C))に示す。X線回折図形と膜厚の変化から結晶化はわずか3分の段階で大部分が終わっていることがわかる。サーモラベルで計測したところ、プラズマ照射3分の段階ではまだ試料の表面温度はまだ80℃程度であり、10分経過時も約180℃であった。このことは、この結晶化が自己発熱や外部加熱などによる熱で生じたものではないことを示している。実施例6の10分処理の膜についてエリプソメトリーにより膜の屈折率を評価したところ、プラズマ処理前が1.88であったのに対し、処理後は2.33となった。一方、実施例6の膜をプラズマ照射を行わず、大気中で500℃、1時間焼成したものでは屈折率が2.24であった。この膜を走査型電子顕微鏡で観察した図を図10((A)、(B))に示す。熱的に結晶化した膜(A)は亀裂が多く入っているのに対し、プラズマ処理で得られた膜(B)は緻密で均質であることがわかる。また、アナタ−ゼの屈折率(2.46)から、実施例6のプラズマ処理を10分間行った膜では相対密度が90%以上であることがわかる。
【0073】
実施例7
ウエットTiO2膜から作成した結晶性TiO2薄膜の電気物性、均質性について確認した。シリコンウェハー((100)面)上に白金を成膜し、その上からチタン酸化物を得ることを目的として、日本曹達(株)製チタンアルコキシド(NDH-510C)を用いて、3000rpm, 20秒の条件でのスピンコート法により成膜し、空気中にて120℃で乾燥した後、波長253.7nmの紫外線により、流量300cc/分の条件で60℃の水にバブリングした酸素をフローして、1時間処理をした。その後、周波数13.56MHz、アンプパワー550W、内圧100Paの条件で酸素プラズマを10分処理をした。この上に5mm角で約200個の独立した金属チタン電極を形成し、得られたチタン酸化物薄膜の誘電率を測定したところ、測定周波数1MHzで約37であった。この値は一般に知られているアナタ−ゼの誘電率と一致する。また、素子は5mm角で作製したが、極めて薄い膜厚(約100nm)にもかかわらず作製した200あまりの素子で電極間リークが認められたものは全くなかった。このことは、膜が極めて均質に結晶化、緻密化したことを示しており、実施例6での電子顕微鏡観察結果ともよく一致する。
【0074】
実施例8
スパッタITOから作成した金属酸化物薄膜のプラズマ依存性、下地依存性について確認した。常温でパイレックス(登録商標)とシリコンウェハー((100)面)上にITOを約150nm成膜し、その後、周波数13.56MHz、アンプパワー550W、内圧100Paの条件にて、酸素または窒素プラズマで10分処理をした。実施例8のX線回折図形を図11((A)−(D))に示す。結晶化の度合いは異なるが、酸素、窒素いずれのプラズマでも結晶化が生じ、結晶度はプラズマ種と基材に依存することがわかる。
【0075】
実施例9
常温で50μm厚のポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルム上にITOアモルファス薄膜をアルゴンガス295CCM、酸素ガス5CCMの混合ガスで、全圧を0.6Paとし周波数13.56MHz、アンプパワー1.5KWにてスパッタ成膜し、酸素プラズマ処理を行った。処理条件は周波数13.56MHz、酸素ガス400CCM、アンプパワー400W、内圧33Paで行った。実施例9の抵抗変化グラフを図12に示す。ほぼ直線的に抵抗値が減少していることを示しているが、基材が熱に極めて弱い材料(ガラス転移温度:90℃)であるにもかかわらず、変形、白濁等は認められず、処理前と同様の外観を保っていた。したがって、このプロセスが熱負荷の小さいプロセスであっても高い抵抗値低減効果を有することがわかる。
【0076】
上述の如く本発明に係るプロセスで結晶化を検討した試料、条件、結果をまとめて下記表1に示す。
このように、本発明に係るプロセスはすべて常温であるため、工程は簡素・単純である。膜構造としては、超親水特性のように表面物性を評価する場合であれば、上記成膜工程以降を一度通すだけで良好な結果を得られるが、プロセスを複数回繰り返すことで積層膜とし、厚い膜を作製することも可能である。
【0077】
【表1】
【0078】
以上説明したように本発明に係る金属酸化物薄膜製造プロセスによれば、加熱処理を伴うことなく様々な基材に結晶質金属酸化物薄膜を効果的に形成することができる。従来の金属酸化物薄膜製造プロセスの欠点を克服でき、薄膜製造プロセスに新規な道を拓いた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、スパッタ膜に酸素プラズマ処理を行った際の親水化の効果を示す、紫外線照射時間と接触角の関係図である。
【図2】図2は、アルコキシド膜に酸素プラズマ処理を行った際の親水化の効果を示す、紫外線照射時間と接触角の関係図である。
【図3】図3は、アルコキシド膜に酸素プラズマ処理を行った際の膜のX線回折図形を示す特性図である。
【図4】図4(A)−(C)は、スパッタ膜に酸素プラズマ処理を行った際の親水化の効果を示す、照射時間と接触角の関係図である。
【図5】図5(A)−(C)は、アルコキシド膜に酸素プラズマ処理を行った際の膜のX線回折図形を示す特性図である。
【図6】図6は、実施例4の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図7】図7(A)−(C)は、実施例5におけるX線回折図形を示す特性図である。
【図8】図8(A)−(C)は、実施例6におけるX線回折図形を示す特性図である。
【図9】図9(A)−(C)は、実施例6における走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図10】図10(A)、(B)は、実施例6においてプラズマ処理と焼成の効果を比較した場合の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図11】図11(A)−(D)は、実施例8におけるX線回折図形を示す特性図である。
【図12】図12は、実施例9における抵抗変化特性図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質を含む金属酸化物膜を、温度180℃以下にて、高周波電界中で少なくともアルゴンガスあるいは窒素ガスあるいはそれらを含むガスを励起することにより発生する低温高周波プラズマに曝露することを特徴とする、結晶性の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記結晶性の金属酸化物薄膜の、理論密度と比較した相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記低温高周波プラズマの発生条件が、印加周波数1kHz〜300MHz、圧力5Pa以上、投入電力が300W以上であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質を含む金属酸化物膜を、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着法のいずれかにより形成することを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記非晶質を含む金属酸化物膜を、前躯体溶液の塗布により形成することを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記前躯体溶液の塗布により形成した非晶質を含む金属酸化物薄膜に、プラズマに曝露される前にあらかじめ、水蒸気存在下で紫外線を照射することを特徴とする、請求項5に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記非晶質を含む金属酸化物膜が酸化チタンを含む膜であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記非晶質を含む金属酸化物膜がITOを含む膜であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記非晶質を含む金属酸化物膜がチタン酸ジルコン酸鉛を含む膜であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項1】
非晶質を含む金属酸化物膜を、温度180℃以下にて、高周波電界中で少なくともアルゴンガスあるいは窒素ガスあるいはそれらを含むガスを励起することにより発生する低温高周波プラズマに曝露することを特徴とする、結晶性の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記結晶性の金属酸化物薄膜の、理論密度と比較した相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記低温高周波プラズマの発生条件が、印加周波数1kHz〜300MHz、圧力5Pa以上、投入電力が300W以上であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質を含む金属酸化物膜を、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着法のいずれかにより形成することを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記非晶質を含む金属酸化物膜を、前躯体溶液の塗布により形成することを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記前躯体溶液の塗布により形成した非晶質を含む金属酸化物薄膜に、プラズマに曝露される前にあらかじめ、水蒸気存在下で紫外線を照射することを特徴とする、請求項5に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記非晶質を含む金属酸化物膜が酸化チタンを含む膜であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記非晶質を含む金属酸化物膜がITOを含む膜であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記非晶質を含む金属酸化物膜がチタン酸ジルコン酸鉛を含む膜であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図3】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図3】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−74178(P2009−74178A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283962(P2008−283962)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【分割の表示】特願2003−534641(P2003−534641)の分割
【原出願日】平成14年9月30日(2002.9.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【分割の表示】特願2003−534641(P2003−534641)の分割
【原出願日】平成14年9月30日(2002.9.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]