説明

金属酸化物蛍光体微粒子

【課題】種々の樹脂に分散可能、かつ、分散安定であり、さらには、発光強度が強い金属酸化物蛍光体微粒子、その製造方法、及び該蛍光体微粒子を含有する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体とを200〜300℃での反応に供することにより得られる金属酸化物蛍光体微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物蛍光体微粒子に関する。さらに詳しくは、金属酸化物前駆体を焼成することにより得られる金属酸化物蛍光体微粒子、その製造方法、及び該蛍光体微粒子を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物蛍光体は、一般的には金属酸化物前駆体、例えば金属酢酸塩、金属硝酸塩、金属塩化物等を数百度以上の高温で焼成することにより得られる。このようにして得られた蛍光体は発光量子収率は高いが、一般的に粒子の成長が起きて粒子サイズが大きくなり、透明な蛍光体を得ることは難しい。
【0003】
これに対して、特許文献1では、母核となる化合物を含む溶液と、焼成することにより母核と反応して蛍光体を構成しうる金属元素を含む溶液とを混合して前駆体を形成し、焼成することにより、微粒子で単分散化された蛍光体が得られることが報告されている。
【0004】
特許文献2では、ゾル−ゲル法を用いて溶液中で粒子を調製する方法として、酢酸亜鉛、又は硝酸亜鉛等の酸化亜鉛の前駆体とアンモニア水溶液等の塩基を混合して水酸化亜鉛ゲルを得る工程と、該水酸化亜鉛ゲルをグリコール中に分散及び加熱処理して、酸化亜鉛ナノ粒子を分散したゾルを得る工程とを含む方法が報告されている。
【0005】
また、特許文献3では、表面処理剤として長鎖脂肪族カルボン酸を共存させて、高温、高圧の超臨界条件下で、金属酸化物微粒子前駆体水溶液を反応させると、粒子の核が生成した段階で表面処理剤が結合することにより粒成長を抑制し、さらに表面処理剤の立体反発効果により粒子の凝集を抑えて、微粒子を作製する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−119618号公報
【特許文献2】特開2007−070188号公報
【特許文献3】特開2006−282503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、無機蛍光体の前駆体分散液を噴霧焼成することが必須であり、特別な装置を要する。特許文献2の方法では、得られる蛍光体の結晶性が低く、発光量子収率がそれほど高くはないという問題点がある。また、特許文献3の方法では、超臨界条件で利用できる表面処理剤の種類が限られているため、得られる蛍光体の樹脂への分散性が低く、透明な発光体樹脂組成物を得ることが困難である。
【0008】
また、界面活性剤等を用いて粒子表面を保護する方法や、ミセル法、逆ミセル法等も知られているが、いずれも界面活性剤の除去が難しく、得られる蛍光体微粒子の樹脂への分散が難しく、また、耐熱性が悪い等の問題点がある。
【0009】
本発明の課題は、種々の樹脂に分散可能で、かつ分散安定な、発光強度が強い金属酸化物蛍光体微粒子、その製造方法、及び該蛍光体微粒子を含有する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体とを200〜300℃での反応に供することにより得られる金属酸化物蛍光体微粒子、
〔2〕 沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体とを200〜300℃での反応に供する工程を含む、金属酸化物蛍光体微粒子の製造方法、ならびに
〔3〕 樹脂と前記〔1〕記載の金属酸化物蛍光体微粒子とを含有してなる、樹脂組成物
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、発光強度が強く、かつ、種々の樹脂に分散可能で、かつ分散安定であるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、表面処理剤で金属酸化物前駆体を処理して得られるものであって、該表面処理剤として、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体を用い、かつ、該化合物と金属酸化物前駆体との反応が特定の条件下で行われるものであることに大きな特徴を有する。
【0013】
粒子表面の表面処理剤としては、処理のしやすさや種類の豊富さから、シランカップリング剤が汎用されている。シランカップリング剤による粒子の表面処理は、水を含む溶媒中、例えばアルコール溶剤やケトン系の溶剤中で、酸性又はアルカリ性条件下、100℃以下の温度(例えば、室温)で行われるのが一般的であり、シランカップリング剤のアルコキシシリル基等の加水分解性基が加水分解して粒子表面と脱水縮合する。即ち、水を必須とする条件下で粒子の表面処理が行われる。しかしながら、水が多いと粒子が成長しやすいためシランカップリング剤で処理する間に粒子が成長して粗大化したり、表面処理条件が合わない場合には生成した粒子が凝集したりする等の問題を引き起こすことがある。また、反応温度が高くないために粒子の結晶性が不十分となって、得られる蛍光体の蛍光強度が弱くなりやすい。一方、金属酸化物微粒子は粒子サイズが小さくなると、比表面積が増大して触媒活性を有するようになり、その傾向は粒子サイズが小さくなるほど顕著である。一般的なシランカップリング剤は、加水分解性基以外に、樹脂中での分散性を向上させる観点から、極性や反応性を有する有機官能基を含んでいるものが多い。従って、このようなシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物微粒子は、前記有機官能基が高温で分解したり、また、粒子サイズが小さいものにおいては、前記有機官能基が微粒子の触媒活性により活性化されて分解したりするため、該微粒子を分散させた樹脂は劣化しやすく安定性に欠ける。比較的反応性の低い有機官能基を含むシランカップリング剤、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を用いる方法も検討されるが、該化合物で表面処理した蛍光体微粒子を樹脂組成物に含有させた場合、250℃以上の高温下での使用により2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基の分解が促進されて樹脂組成物が劣化するため、更なる表面処理剤が求められる。
【0014】
そこで、本発明では、分子末端にアルコキシシリル基を有する、分子量が300〜3000のポリシルセスキオキサン誘導体を表面処理剤として用い、該化合物と金属酸化物前駆体とを、特定の沸点を有するポリオール系溶媒中にて200〜300℃の高温で反応させる。前記条件での反応は、アルコキシシリル基を熱分解させて残基を金属酸化物の粒子表面に結合させるものであり、水を要しないため、粒子の成長を抑制し、かつ、粒子の生成と表面処理を逐次に行うことができるため、得られる粒子のサイズを制御することが可能となる。また、反応温度が高温であるので、粒子の結晶性を高めて蛍光強度を強くすることができる。
【0015】
また、前記ポリシルセスキオキサン誘導体は、アルコキシシリル基以外に極性や反応性を有する有機官能基を含まないため、反応温度が高温であっても安定であり、得られる蛍光体微粒子のサイズが小さいものであっても、微粒子の触媒活性によって分解が促進されることもない。従って、該化合物で表面処理された蛍光体微粒子を含有させた樹脂は優れた安定性を示す。
【0016】
またさらに、特許文献3では、耐熱性に優れた表面処理剤として長鎖脂肪族カルボン酸を用いて粒子の大きさを制御しているが、長鎖脂肪族カルボン酸は疎水性が高いために、得られた蛍光体粒子を分散できる樹脂が限定され、実用的ではないという問題がある。しかし、本発明にて用いるポリシルセスキオキサン誘導体は、例えば、置換又は非置換の炭化水素基を官能基として有するシランカップリング剤に比べて、アルコキシシリル基以外の有機官能基を含まないので、耐熱性に優れると共に、一般的な樹脂との相溶性に優れるものである。従って、該誘導体で表面処理された蛍光体微粒子は、種々の樹脂との相溶性が良好となって分散性が良好となり、ひいては高い発光を呈する樹脂組成物を得ることができる。
【0017】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体とを200〜300℃での反応に供することにより得られる。
【0018】
金属酸化物前駆体における金属としては、金属酸化物が蛍光体になるのであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Mn、Eu、Y、Nb、Ce、Ba等が挙げられ、かかる金属の酸化物としては、SiO2、TiO2、ZnO2、SnO2、Al2O3、MnO2、NiO、Eu2O3、Y2O3、Nb2O3、InO、ZnO、Fe2O3、Fe3O4、Co3O4、ZrO2、CeO2、BaO・6Fe2O3、Al5(Y+Tb)3O12、BaTiO3、LiCoO2、LiMn2O4、K2O・6TiO2、AlOOH、ZnEu2O5等が例示される。
【0019】
このような金属酸化物の前駆体としては、上記金属の金属塩が挙げられる。具体的には、例えば、生成される金属酸化物が酸化亜鉛(ZnO)である場合には、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が例示され、塩の種類としては特に限定はなく、酢酸、硝酸、塩素、臭素、フッ素、シアン、ジエチルカルバメート、オキサレート、パークロレート、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。なかでも、熱分解温度が比較的低いことから、酢酸、硝酸が好ましい。なお、かかる前駆体は、無水物であっても、水和物であってもよい。
【0020】
本発明における表面処理剤は、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体を含有する。前記誘導体は、金属酸化物前駆体の分散性の観点から、分子量は300以上が好ましい。また、ゲル化抑制の観点から、3000以下であり、2000以下が好ましく、1000以下がより好ましい。よって、具体的には、分子量は300〜3000であり、300〜2000が好ましく、300〜1000がより好ましい。なお、本明細書において、シリコーン誘導体の分子量は、後述の実施例に記載の方法に従って、測定することができる。
【0021】
アルコキシ基の含有量は、反応性の観点から、ポリシルセスキオキサン誘導体1分子中、好ましくは10〜46重量%、より好ましくは10〜30重量%、さらに好ましくは10〜25重量%である。本明細書において、ポリシルセスキオキサン誘導体1分子中のアルコキシ基の含有量は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
前記ポリシルセスキオキサン誘導体におけるアルコキシシリル基以外の有機基は、水素原子又は飽和の炭化水素基を示す。これらの炭化水素基は、金属酸化物前駆体との反応後に得られる微粒子の表面に結合して残存することから、蛍光体の樹脂への分散性に影響を及ぼすものである。また、本発明における表面処理反応は、200〜300℃という高温下で行われることから、該条件下でも分解せずに微粒子表面に結合し得るものである。このような観点から、前記炭化水素基の好適例としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基が挙げられる。これらのなかでも、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。
【0023】
かかる条件を満たすポリシルセスキオキサン誘導体としては、信越化学社製のKC89(分子量約400)、KR500(分子量約1000)、X-40-9225(分子量2000〜3000)が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでは、粘度の観点から、KC89及びKR500が好ましい。
【0024】
ポリシルセスキオキサン誘導体の反応量は、金属酸化物前駆体100重量部に対して、400〜700重量部が好ましく、450〜600重量部がより好ましく、500〜600重量部がさらに好ましい。400重量部以上であると、金属酸化物微粒子の成長が抑制されて微細な粒子が得られ、蛍光体を発光させることができ、700重量部以下であると、樹脂組成物への分散性が良好であり添加できる蛍光体量を増加することができる。
【0025】
なお、本発明では、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ポリシルセスキオキサン誘導体以外に、他のシランカップリング剤を使用してもよい。シランカップリング剤の総量における前記ポリシルセスキオキサン誘導体の含有量は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい
【0026】
上記金属酸化物前駆体とポリシルセスキオキサン誘導体の反応を行う媒体(反応溶媒)として、本発明では、ポリオール系溶媒を用いる。
【0027】
ポリオール系溶媒としては、ポリシルセスキオキサン誘導体の熱分解反応と粒子の表面処理反応を考慮すると、極性溶媒が望ましく、また300℃程度の高温条件下でも気化や分解しにくい高沸点溶媒、即ち沸点が250℃以上である溶媒を用いる必要がある。また、本発明では、沸点が250℃以上となるのであれば、ポリオール系溶媒は1成分のみで構成されても、2成分以上で構成されてもよい。2成分以上で構成される場合には、溶媒混合物の沸点が250℃以上となるのであれば、沸点が250℃未満の溶媒が含まれていてもよい。沸点が250℃以上である溶媒としては、ポリエチレングリコール(沸点300℃以上)が好ましい。なお、本発明における「沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒」としては、金属酸化物前駆体とポリシルセスキオキサン誘導体との反応温度よりも高い沸点を有するポリオール系溶媒であり、例えば、前記反応温度が300℃である場合、反応に用いるポリオール系溶媒は沸点が300℃を超えるものである。本明細書において、ポリオール系溶媒の沸点とは特に断りのない限り常圧(101.3kPa)下での沸点を意味し、後述の実施例に記載の方法に従って測定される。
【0028】
ポリエチレングリコールとしては、分子量が大きく室温で固体であるものは、反応操作が複雑になるので好ましくない。また、分子量が小さすぎると、反応中に気化して反応系の濃度が変動したり、高温で熱分解して着色の原因となったりするので好ましくない。従って、ポリエチレングリコールの分子量としては、150〜500が好ましく、150〜400がより好ましい。その中でも沸点や粘性から考慮すると、テトラエチレングリコール(沸点314℃以上)やトリエチレングリコール(沸点125〜127℃/0.1mmHg)が好ましい。
【0029】
本発明では、ポリシルセスキオキサン誘導体の熱分解反応に影響を与えないのであれば、前記ポリオール系溶媒以外の他の溶媒を使用してもよい。他の溶媒としては、ラウリルアルコールやオレイルアルコール等の長鎖脂肪族アルコール等の非水系溶媒が挙げられる。溶媒総量におけるポリオール系溶媒の総含有量は、50重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい
【0030】
ポリオール系溶媒の総存在量は、金属酸化物前駆体とポリシルセスキオキサン誘導体の総量100重量部に対して、500〜1200重量部が好ましく、600〜1000重量部がより好ましい。500重量部以上であると蛍光体微粒子の粒子成長を抑制することができ、1200重量部以下であると生産性が良好である。
【0031】
反応温度は200〜300℃であるが、蛍光体微粒子の結晶性を向上する観点から、250〜300℃が好ましい。反応時間は、0.1〜1時間が好ましい。このような高温下の反応では、一般的なシランカップリング剤を用いた系では着色が認められるのに対し、本発明では前記ポリシルセスキオキサン誘導体を用いることにより、粒子の触媒活性の影響を受けず、着色が認められない。
【0032】
かくして、本発明の金属酸化物蛍光体微粒子が得られる。金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径は、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。なお、本明細書において、金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径は、後述の実施例に記載の方法に従って、測定することができる。
【0033】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子の好ましい製造方法は、沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体とを200〜300℃で反応させる工程を含む方法である。
【0034】
具体的には、例えば、金属酸化物前駆体、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体、沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒をそれぞれオートクレーブ用ガラス容器に入れ、該ガラス容器をオートクレーブ内に設置後、ガラス容器とオートクレーブの空隙にポリオール系溶媒等を充填して密封し、攪拌下で、200〜300℃の温度条件下で10分間保持する工程が挙げられる。前記工程後には、得られた溶液を室温まで冷却してから、ジエチルエーテル等の有機溶媒中に混合して遠心分離することにより、金属酸化物蛍光体微粒子を回収する工程等を行ってもよい。
【0035】
本発明はまた、上記金属酸化物蛍光体微粒子を含有する樹脂組成物を提供する。
【0036】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、分散性が良好であり、かつ、前記ポリシルセスキオキサン誘導体中のアルコキシシリル基の量や、シロキサン構造の重合度、即ち、分子量によって分散性を調節することが可能である。よって、本発明の樹脂組成物は構成樹脂の種類に関係なく、金属酸化物蛍光体微粒子が良好に分散しており、かつ、該微粒子がナノオーダーサイズであることから、透明性に優れる発光体となる。
【0037】
構成樹脂としては、特に限定はなく、例えば、光半導体素子封止材として使用できる公知の樹脂が挙げられる。
【0038】
樹脂組成物における金属酸化物蛍光体微粒子の含有量は、樹脂の種類や樹脂組成物の用途によって、適宜、調節することができる。
【0039】
また、本発明の樹脂組成物は、前記構成樹脂及び金属酸化物蛍光体微粒子に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、本発明の金属酸化物蛍光体微粒子を含有するものであれば、特に限定なく調製することができる。なお、得られた樹脂組成物は、例えば、表面を剥離処理した離型シートの上に適当な厚さに塗工して、加熱乾燥することによりシート状に成形してもよい。
【0041】
かくして得られる樹脂組成物は、紫外線レーザーや青色又は白色LED素子を搭載した光半導体装置(液晶画面のバックライト、信号機、屋外の大型ディスプレイ、広告看板等)に用いられる光半導体素子封止材として好適に使用し得るものである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0043】
〔金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径〕
金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径とは、金属酸化物蛍光体微粒子の一次粒子の平均粒子径のことであり、動的光散乱法にて測定し、それらの平均値を平均粒子径とする。
【0044】
〔シリコーン誘導体の分子量〕
シリコーン誘導体の分子量とは重量平均分子量のことを意味し、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算にて求める。
【0045】
〔ポリシルセスキオキサン誘導体中のアルコキシ基含有量〕
内部標準物質を用いた1H−NMRによる定量及び示差熱熱重量分析による重量減少の値から算出する。
【0046】
〔ポリオール系溶媒の沸点〕
蒸留法によって測定する。なお、常圧下での測定が困難な場合は、測定可能な蒸気圧下での沸点を測定する。
【0047】
実施例1
オートクレーブ用ガラス容器に、無水酢酸亜鉛1.54g(4mmol)、ポリシルセスキオキサン誘導体「KC89」(信越化学社製、分子量約400、有機官能基:メチル基、メトキシ基含有量46重量%)8.0g(金属酸化物前駆体100重量部に対して519重量部)、テトラエチレングリコール80mL(沸点314℃、金属酸化物前駆体とポリシルセスキオキサン誘導体の総量100重量部に対して943重量部)を加えた。オートクレーブ(耐圧ガラス社製)内にガラス容器を入れて、ガラス容器とオートクレーブの反応容器のギャップ間にテトラエチレングリコール30gを加えてから密封した。攪拌しながら20℃/分の速度で300℃まで昇温し、300℃で10分間保持した後、室温までゆっくり冷却した。その後、得られた溶液をジエチルエーテルにより析出させ、遠心分離機にて黄白色の固体(酸化亜鉛蛍光体微粒子)を回収した。
【0048】
実施例2
実施例1において、KC89を8.0g用いる代わりに、「KR500」(信越化学社製、分子量約1000、有機官能基:メチル基、メトキシ基含有量28重量%)を8.0g用いた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0049】
実施例3
実施例1において、KC89を8.0g用いる代わりに、「X-40-9225」(信越化学社製、分子量2000〜3000、有機官能基:メチル基、メトキシ基含有量24重量%)を8.0g用いた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0050】
実施例4
実施例1において、加熱前のオートクレーブ用ガラス容器に、酢酸ユウロピウムを0.05g(0.1mmol)をさらに加えた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛・ユウロピウム蛍光体微粒子を得た。なお、KC89の使用量は、金属酸化物前駆体100重量部に対して503重量部であった。
【0051】
実施例5
実施例1において、無水酢酸亜鉛を1.54g(4mmol)用いる代わりに、酢酸イットリウムを1.36g(4mmol)用いた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。なお、KC89の使用量は、金属酸化物前駆体100重量部に対して588重量部であった。
【0052】
比較例1
実施例1において、KC89を8.0g用いる代わりに、アルコキシ基含有シリコーンレジン「X-40-9246」(信越化学社製、分子量4000〜6000、有機官能基:メチル基、加水分解性基:メトキシ基、メトキシ基含有量10重量%)を8.0g用いた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛蛍光体微粒子を調製した。
【0053】
比較例2
実施例1において、KC89を8.0g用いる代わりに、アルコキシ基含有シリコーンレジン「X-40-9250」(信越化学社製、分子量10000〜20000、有機官能基:メチル基、加水分解性基:メトキシ基、メトキシ基含有量25重量%)を8.0g用いた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛蛍光体微粒子を調製した。
【0054】
比較例3
実施例1において、KC89を8.0g用いる代わりに、シランカップリング剤「KBM13」(メチルトリメトキシシラン、信越化学社製、分子量136.2、メトキシ含有量68重量%)を8.0g用いた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛蛍光体微粒子を調製した。
【0055】
得られた微粒子について、以下の試験例1〜3の方法に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
試験例1〔分散性〕
得られた微粒子が溶媒に分散するか否かを評価する。分散する場合を「○」、分散しない場合を「×」とし、分散する場合には分散媒も併せて示した。
【0057】
試験例2〔発光波長〕
得られた微粒子を、日立蛍光光度計F4500を用いて365nmの波長で励起させた際の蛍光スペクトルを取得し、その極大波長を測定する。なお、測定には、試験例1で分散させた微粒子の溶液をサンプルとして用いた。
【0058】
試験例3〔発光強度〕
得られた微粒子について、粒子濃度が1重量%のメタノール溶液を調製し、365nmの波長で励起させた際の発光強度を、以下の判断基準に従って評価する。
【0059】
<発光強度の評価基準>
A:一般的な照明が点灯した部屋でも十分に発光が確認できる
B:一般的な照明が点灯した部屋で何とか発光が確認できる
C:暗室のみで発光が確認できる
D:暗室でも発光が確認できない
【0060】
【表1】

【0061】
結果、実施例の蛍光体微粒子は、いずれも粒子径が小さくて分散性が良好であり、かつ、発光強度が強いものであった。一方、比較例1、2は、300℃での反応後の溶液を室温まで冷却すると、表面処理剤が高分子量であるために、粒子を巻き込んでゲル化を起こして反応液が固化し、結果として粗大化した。比較例3は300℃での反応後の溶液を室温まで冷却すると、表面処理剤が揮発しており白色の大きな塊が得られ、いずれも蛍光体微粒子を得ることができなかった。
【0062】
次に、上記の金属酸化物蛍光体微粒子を樹脂に分散させた。なお、比較例4の酸化亜鉛蛍光体微粒子は、実施例1の酸化亜鉛蛍光体微粒子の調製において、KC89の代わりにラウリン酸8.9gを用いる以外は実施例1と同様にして調製したものである。参考例1の蛍光体微粒子の分散液は、市販の酸化亜鉛水分散液(商品名:ZW-143、住友大阪セメント社製、粒子サイズ:約40nm)である。また、参考例2の蛍光体微粒子は、実施例1の酸化亜鉛蛍光体微粒子の調製において、KC89を8.0g用いる代わりに「KBM303」〔2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、信越化学社製、分子量246.4〕8.97gを用いる以外は実施例1と同様にして調製したものである。
【0063】
分散例1(アクリル樹脂への分散例)
攪拌機、還流冷却器及び窒素導入管を備えた容器に、ブチルアクリレート40g、アクリル酸2g、及び酢酸エチル30gを加えた。重合開始剤として、アゾイソブチロニトリル0.01gを加え、窒素置換後、60℃で8時間反応を行い、さらに酢酸エチル60gを加えてアクリル樹脂溶液を得た。次いで、該溶液の10gに、表2に示す蛍光体微粒子の分散液(分散溶媒:酢酸エチル、分散濃度:10重量%)0.5gをそれぞれ加え、剥離処理を施したPET上に膜厚30μmになるようにキャストし、乾燥することによりシートAを得た。
【0064】
分散例2(シリコーン樹脂への分散例)
分散例1と同様の実験装置に、平均粒子径15nmのコロイダルシリカ(スノーテックスO-40、日産化学社製、固形分濃度40重量%)20.0g、メタノール20.0g、及び2-メトキシエタノール5.0gを加えた。そこに、テトラエトキシシラン2.0g、及びジメチルジメトキシシラン(商品名:KBM22、信越化学社製)2.0gをメタノール4.0gに溶解した液を滴下ロートを用いて5分間かけて滴下して、60℃で15分間攪拌後、2-プロパノール20.0gを添加した。次いで、そこに、X-40-9225 40.0gを2-プロパノール40.0gに溶解した液を30分間かけて滴下し、60℃で1時間攪拌後、室温(25℃)に冷却した。溶媒を減圧下で留去して、水を除き、2-プロパノール20gを添加して濃度を調整して、シリカ含有シリコーン樹脂溶液を得た。次に、該溶液10gに、表2に示す蛍光体微粒子の分散液(分散溶媒:酢酸エチル、分散濃度:10重量%)0.5gをそれぞれ加え、剥離処理を施したPET上に膜厚100μmになるようにキャストし、100℃で1時間乾燥することによりシートBを得た。
【0065】
得られたシートについて、以下の試験例4〜6の方法に従って評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
試験例4〔透明性〕
得られたシートの外観を目視で観察し、蛍光体微粒子が良好に分散して透明性が良好の場合を「○」、分散せずに透明性が不良の場合を「×」とした。
【0067】
試験例5〔透明性維持〕
得られたシートを、250℃で100時間保持して、その透明性を試験例4と同様にして評価する。
【0068】
試験例6〔発光波長〕
得られたシートを、日立蛍光光度計F4500を用いて365nmの波長で励起させた際の蛍光スペクトルを取得し、その極大波長を測定する。
【0069】
【表2】

【0070】
これらより、実施例の金属酸化物蛍光体微粒子は、構成樹脂が異なっても、分散性よく透明な発光体樹脂組成物を提供することができる。比較例4及び参考例1の金属酸化物蛍光体微粒子は、アクリル樹脂への分散性が低く、発光体樹脂組成物を得ることができなかった。また、参考例2の金属酸化物蛍光体微粒子は、保存後の透明性が維持できないため、実施例の金属酸化物蛍光体微粒子は、樹脂中での分散性に加えて、その安定性にも優れることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、例えば、液晶画面のバックライト、信号機、屋外の大型ディスプレイや広告看板等の半導体素子を製造する際に、封止樹脂組成物に含有させて好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体とを200〜300℃での反応に供することにより得られる金属酸化物蛍光体微粒子。
【請求項2】
金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径が1〜100nmである、請求項1記載の金属酸化物蛍光体微粒子。
【請求項3】
ポリシルセスキオキサン誘導体中のアルコキシ基の含有量が10〜46重量%である、請求項1又は2記載の金属酸化物蛍光体微粒子。
【請求項4】
沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と、分子末端に反応性のアルコキシシリル基を有し、かつ、分子量が300〜3000であるポリシルセスキオキサン誘導体とを200〜300℃での反応に供する工程を含む、金属酸化物蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項5】
樹脂と請求項1〜3いずれか記載の金属酸化物蛍光体微粒子とを含有してなる、樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−42759(P2011−42759A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193102(P2009−193102)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】