説明

金属酸化物被膜及び金属酸化物被膜被覆部材

【課題】複雑な表面形状の基材表面に所望の色で、かつ均一な発色で成膜できる金属酸化物被膜及び金属酸化物被膜被覆部材を提供する。
【解決手段】金属酸化物被膜は、金属酸化物を主成分とする無機顔料からなる金属酸化物被膜であって、前記金属酸化物が、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、アンチモン(Sb)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)の中から選ばれる少なくとも2つの金属の酸化物を主成分とし、L*a*b*表色系(CIE表色系)による色評価が90<L*<100、一10<a*<10、−10<b*<10の範囲の色度であり白色系の色を呈し、高周波スパッタリング法によって形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物被膜及び金属酸化物被膜が基材に形成されている金属酸化物被膜被覆部材に関し、特に無機顔料からなる装飾性を有する金属酸化物被膜及び金属酸化物被膜被覆部材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化被膜は、装飾性薄膜として例えば、眼鏡のフレームや、時計外装部品等の装飾品の表面被膜として用いられている。これらの金属酸化被膜を基材表面に形成する薄膜形成方法としては、イオンプレーティング法、抵抗加熱方式による真空蒸着法またはスパッタリング法等が採用されている。
【0003】
これらの方法によって得られる金属酸化膜のうち、例えば、金属基材上に屈折率の高い酸化チタン層を干渉効果の作用する膜厚範囲で形成することにより、金属基材の色から色度が大きく変化することを利用して様々な色の薄膜を提供する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、イオンプレーティングその他の蒸着法により、基材上に有色の硬質薄膜(例えばTiN)を形成した後、更にその上に透明な硬質薄膜(例えばAlN)を干渉膜として積層形成し、この透明な硬質薄膜を各種膜厚に調整して干渉膜として積層形成することにより、種々な色を現出する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
また、遊技用コインの表面全体に、イオンプレーティング又はスパッタリングによってチタン−アルミニウム合金の被膜層を形成し、その被膜層を陽極酸化処理して酸化被膜層を形成し、この酸化被膜層の表面における光の干渉作用によって発色させる技術が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−252634号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平9−125232号公報(第2頁、図1)
【特許文献3】特許第3048232号公報(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら従来技術における金属酸化膜においては、基材表面上に薄膜を積層形成させる際、薄膜の膜厚を微妙に制御することで様々な色を形成させるものであり、どのような色が現出されているかは薄膜形成中にチャンバの覗き窓から目視して目的とする色になるまで薄膜の積層形成を続行し膜厚を調整する必要がある。さらに正確に膜厚を制御するには、膜厚モニタを用いる必要がある。また、陽極酸化被膜の発色も酸化被膜表面における光の干渉作用によって起こり、酸化被膜層の厚さを陽極酸化電圧によって制御する必要がある。
【0008】
このように従来技術における干渉色は、微妙な膜厚の違いでも色が変化する。このため製品内、製造工程におけるバッチ内、バッチ間で安定した発色が得られず、基材表面が凸凹面である場合には、同一製品上であっても部分形状による膜厚の違いが発生するため、均一な干渉が得られないという問題があった。
【0009】
本発明の目的は複雑な表面形状の基材表面に所望の色で、かつ均一な色で成膜できる金属酸化物被膜とこの金属酸化物被膜を基材に形成した金属酸化物被膜被覆部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の金属酸化物被膜は、金属酸化物を主成分とする無機顔料からなる金属酸化物被膜であって、前記金属酸化物が、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、アンチモン(Sb)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)の中から選ばれる少なくとも2つの金属の酸化物を主成分とし、L*a*b*表色系(CIE表色系)による色評価が90<L*<100、一10<a*<10、−10<b*<10の範囲の色度であり白色系の色を呈し、高周波スパッタリング法によって形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、金属酸化物被膜は、膜厚が0.1〜15.0μmの範囲で形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の金属酸化物被膜被覆部材は、基材の少なくとも一部に高周波スパッタリング法によって金属酸化物被膜が形成されており、この金属酸化物被膜が金属酸化物を主成分とする無機顔料からなる金属酸化物被膜であって、金属酸化物が、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、アンチモン(Sb)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)の中から選ばれる少なくとも2つの金属の酸化物を主成分とすることを特徴とする。
【0013】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、基材の少なくとも一部に膜厚が0.1〜15.0μmの範囲の金属酸化物被膜が形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、基材の少なくとも一部にL*a*b*表色系(CIE表色系)による色評価が90<L*<100、一10<a*<10、−10<b*<10の範囲の色度であり、白色系の色を呈する金属酸化物被膜が形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、基材が少なくとも1層の下地被膜を有し、該下地被膜の上層の少なくとも一部に金属酸化物被膜が形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、下地被膜がその一部に金属酸化物被膜が欠落した下地被膜露出部を有することを特徴とする。
【0017】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、下地被膜露出部が少なくとも一部に欠落した基材露出部を有することを特徴とする。
【0018】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、表面に少なくとも1層の保護被膜が形成されていることを特徴とする。
【0019】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、基材が、プラチナ(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、ステンレス、黄銅の中から選ばれる少なくとも1つの金属、または合金からなることを特徴とする。
【0020】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、基材が、焼結セラミックス、ガラスまたはプラスチックからなることを特徴とする。
【0021】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、基材が装飾品であることを特徴とする。
【0022】
また、金属酸化物被膜被覆部材は、基材が時計外装部品であることを特徴とする。
【0023】
従来技術における干渉色を利用した有色薄膜では複雑形状品に対して、膜厚を均一に発色する成膜をするのは非常に困難であった。これに対し本発明者は均一な色に形成される被膜を開発すべく鋭意研究実験を重ねた結果、無機顔料を成膜する事により膜厚に関係なく均一な色の薄膜を形成できることを見いだしたものである。また、無機顔料は一般に絶縁物である事が多いが、この無機顔料の成膜方法として検討した結果、高周波スパッタリング法により成膜を行うことで課題を解決できることを見いだし、この知見に基づき本発明を完成させるに至ったものである。
【発明の効果】
【0024】
以上のように本発明によれば凹凸模様を有する表面形状の基材や複雑な形状をなす基材の表面に均一で鮮やかな色の金属酸化物被膜を得ることができる。また、この金属酸化物被膜を基材表面の必要部分に形成することや、模様形状に形成することができ、デザイン性やカラーバリエーションに優れた金属酸化物被膜被覆部材を得ることができる。
【0025】
また、基材表面に下地被膜と金属酸化物被膜との二層構造の被膜を形成し、この下地被膜の一部に金属酸化物被膜が欠落した下地被膜露出部を設けることによりデザイン性やカラーバリエーションをさらに向上させることができると共に高級感のある金属酸化物被膜被覆部材を得ることができる。さらに、透明保護被膜を設けることにより金属酸化物被膜の剥離や摩耗を防止し外部との接触によって生ずる傷を防止できると共に一層鮮やかな色を呈する金属酸化物被膜被覆部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本実施形態における金属酸化物被膜は金属酸化物を主成分とする無機顔料からなり、この金属酸化物は、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、アンチモン(Sb)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)の中から選ばれる少なくとも2つの金属の酸化物を主成分としている。また、本実施形態における金属酸化物被膜被覆部材は基材表面の全面または一部に前述の金属酸化物被膜を高周波スパッタリング法によって形成したものである。
【0027】
この金属酸化物被膜被覆部材の製造方法は真空装置のチャンバ内に無機顔料ターゲットと、被処理物である基材を配置し、チャンバ内を排気し、所定圧力(5×10−3Pa以下)に達したのち、不活性ガスであるArガスをチャンバ内ヘ導入し設定圧力(0.1〜1.3Pa)に調整後、ターゲットに高周波電力(500w〜2,500w)を印加し、ターゲットから蒸発した無機顔料粒子を基材へ堆積させることにより形成し、膜厚に関係なく均一な色の金属物酸化被膜を基材表面に形成する。これによってデザイン性やカラーバリエーションに優れ高級感のある金属酸化物被膜被覆部材を実現したものである。
また、無機顔料ターゲットは通電しない絶縁物であることが多く、ターゲットに電圧を印加して行う通常のスパッタリング法に用いることができず、高周波スパッタリング法でなければ成膜することができない。
【0028】
この金属酸化物被膜の膜厚は0.1〜15.0μmの範囲に形成するのが好ましく、0.3〜1.5μmの範囲に形成するのがより好ましい。膜厚が0.1μmより小さい場合は、下地の色調を透過してしまい被膜自体の発色が得られなくなるため好ましくない。また、膜厚が15.0μmより大きい場合は成膜方法の特徴として面粗さが増してしまい黒っぽい発色になってしまう上、被膜応力が大きくなるため剥離しやすくなってしまうため好ましくない。
【0029】
また、本実施形態における金属酸化物被膜は白色系の色を呈し、L*a*b*表色系(CIE表色系)による色評価が90<L*<100、一10<a*<10、−10<b*<10の範囲の色度が好ましく、92<L*<98、一5<a*<5、−5<b*<5の
範囲の色度が鮮やか白色系の色を呈するため、より好ましい。この範囲の色度は白色系と呼ぶことができる範囲であり、この範囲を外れると実用上きれいな白色系の発色とは言い難くなるため、商品価値が低くなってしまう。
【0030】
このL*a*b*表色系(CIE表色系)は、国際照明委員会で用いられている色座標で、以下の感覚色度を表すものである。
L*:黒 ← マイナス(−)側、プラス(+)側 → 白
a*:緑 ← マイナス(−)側、プラス(+)側 → 赤
b*:青 ← マイナス(−)側、プラス(+)側 → 黄
【0031】
また、基材表面に下地被膜と金属酸化物被膜との二層構造の被膜を形成し、この下地被膜の一部に金属酸化物被膜が欠落した下地被膜露出部を設けることもできる。この下地被膜は、湿式メッキまたは乾式メッキのいずれで形成しても良く、金属酸化物被膜と異なる色を用いることで、下地被膜露出部と金属酸化物被膜との組み合わせによる所謂ツートンカラーを実現することが可能である。この結果、デザイン性やカラーバリエーションをさらに向上させることができると共に白色を主とした高級感のある被覆部材を得ることができる。さらに、下地被膜露出部の一部に欠落した基材露出部を設けることもでき多色の組み合わせが可能となり所謂マルチカラーも実現出来る。
【0032】
さらに、金属酸化物被膜被覆部材の表面、即ち、基材露出部、下地被膜露出部または金属酸化物被膜の少なくとも一部に透明性の保護被膜を設けることができる。これによって金属酸化物被膜や下地被膜の剥離や摩耗を防止し外部との接触によって生ずる傷を防止することができる。また、表面に透明保護被膜を設けることより一層鮮やかな色を呈する金属酸化物被膜被覆部材を得ることができる。
【0033】
また、本実施形態における基材としては、プラチナ(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、ステンレス、黄銅等の各種金属、または合金を用いることができる。さらに、焼結セラミックス、ガラスまたはプラスチック等種々の材料を用いることができる。この結果、本実施形態における金属酸化物被膜被覆部材は食器、玩具、置物等多くの製品に適応が可能であるが、装飾品、特に時計外装部品に適応することで優れた効果を発揮するものである。
【0034】
図1から図3は本発明の実施例1から実施例3における金属酸化物被膜被覆部材を示す図で、図4、図5は本発明の各実施例において基材に金属酸化物被膜を形成し金属酸化物被膜被覆部材を得るための真空装置を示す図である。以下、本発明の金属酸化物被膜及び金属酸化物被膜被覆部材の具体的実施例について図1から図5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0035】
実施例1における金属酸化物被膜被覆部材は装飾品の中の時計用外装部品として時計用バンドを例としたものであり、その表面の全面に無機顔料からなる金属酸化物被膜を設けた例である。図1は、実施例1における金属酸化物被膜被覆部材としての時計用バンドを示す図で、図1(a)は斜視図、図1(b)は、図1(a)における時計用バンドの部分拡大断面図である。図1に示すように、本実施例における金属酸化物被膜被覆部材としての時計用バンド10は、複数の駒で構成されている。この時計用バンド10の基材12はチタン(Ti)材からなり、基材12の表面の全面に膜厚tの値が0.6μmの金属酸化物被膜13が形成されている。この金属酸化物被膜13は、酸化チタン(TiO):酸化アルミニウム(Al):の含有比率が9:1の複合酸化物である無機顔料から形成されている。また、金属酸化物被膜13は、L*a*b*表色系(CIE表色系)による色評価がL*=95、a*=0、b*=−2の色度であり、鮮やかな白色系の色を呈する。この金属酸化物被膜13は高周波スパッタリング法によって形成されたものであり、以下にその形成方法について説明する。
【0036】
図5に示す真空装置のチャンバ5へ無機顔料(TiO:Al=9:1の複合酸化物)ターゲツト6と、被処理物8としての時計用バンド10の基材12を基材ホルダ9に取付、約80mmの距離で配置したのち、5.0×10−3Paまで排気し、その後Arガスを25cc/minの流量で真空チャンバ5内ヘ導入し、真空度を0.6Paに調整する。その後、無機顔料ターゲット6に2,000wの高周波電力を印加し、約1時間スパッタリングを行った。約20分間冷却した後、チャンバ5内を大気圧にし被処理物8としての時計用バンド10の基材12を取り出したところ、時計用バンド10の基材12に均一な白色を呈する金属酸化物被膜13が形成されていることが確認された。また、この金属酸化物被膜13は、従来技術における干渉色を利用した被膜に比して、非常に硬く耐摩耗性に優れていることが確認された。
【0037】
このように本実施例によれば装飾性に優れ鮮やかな白色を呈する時計用バンドを得ることができる。なお、図5に示す真空装置は、回転機構7を備えており基材ホルダ9が回転すると共に被処理物8自体も回転するように基材ホルダ9に取り付けられるようになっている。したがって、時計用バンドの駒の全表面に金属酸化物被膜を形成することができる。以上のように本実施例によれば時計用バンドのような複雑な形状をなす基材の全表面に均一で鮮やかな白色系の金属酸化物被膜を形成することができる。また、装飾性に優れ鮮やかな白色を呈する時計用バンドを得ることができると共に時計用バンドのデザイン性やカラーバリエーションをさらに向上させることができる。
【実施例2】
【0038】
実施例2における金属酸化物被膜被覆部材は時計外装品の中の時計ケースを例としたものであり、時計ケースの外側表面の全面に下地被膜を形成し、この下地被膜の一部に金属酸化物被膜を形成した例である。図2は、実施例2における金属酸化物被膜被覆部材としての時計ケースを示す図で、図2(a)は斜視図、図2(b)は、図2(a)におけるA−A断面図である。図2に示すように、本実施例における金属酸化物被膜被覆部材としての時計ケース15の基材16はチタン(Ti)材からなり、基材16の全面に下地被膜17として公知のイオンプレーティングによる黒色の窒炭化チタン(TiCN)被膜が成膜されている。下地被膜17である窒炭化チタン(TiCN)被膜の厚さaの値は1μmとした。
【0039】
さらに、下地被膜17における時計ケース15の上斜面及び足上面に対応する部分を除く下地被膜17の表面には膜厚bの値が2μmの金属酸化物被膜18が形成されている。この金属酸化物被膜18は、酸化チタン(TiO):酸化アルミニウム(Ai)の含有比率が8:2の複合酸化物である無機顔料から形成されている。また、この金属酸化物被膜18は、L*a*b*表色系(CIE表色系)による色評価がL*=90、a*=−1、b*=5の色度であり、鮮やかな白色系の色を呈する。この金属酸化物被膜18は実施例1と同様に高周波スパッタリング法によって形成されたものである。以下にその形成方法について説明する。
【0040】
図4に示す真空装置のチャンバ1へ無機顔料(TiO:Al=8:2の複合酸化物)ターゲツト2と、被処理物3として表面の全面に下地被膜17としてイオンプレーティングによる黒色の窒化チタン(TiCN)被膜が成膜されている時計ケースの基材16を基材ホルダ4に取付、約80mmの距離で配置した。このとき、時計ケース15の上面側をターゲツト6と対向するように配置し、下地被膜露出部17aとなる時計ケース15の上斜面及び足上面に対応する部分の表面にはマスキングを行った。その後、5.0×10−3Paまで排気し、その後Arガスを25cc/minの流量で真空チャンバ5内ヘ導入し、真空度を0.6Paに調整する。その後、無機顔料ターゲット2に2,000wの高周波電力を印加し、約120分スパッタリングを行った。約20分間冷却した後、チャンバ1内を大気圧にし被処理物3としての時計ケースの基材16を取り出したところ、時計ケース15の下地被膜露出部17aを除く下地被膜17の表面に均一な白色を呈する金属酸化物被膜18が形成されていることが確認された。また、この金属酸化物被膜18は、実施例1と同様に従来技術における干渉色を利用した被膜に比して、非常に硬く耐摩耗性に優れていることが確認された。
【0041】
以上のように本実施例によれば金属酸化物被膜を基材表面の必要部分に形成することができるため時計ケースの基材の一部に均一で鮮やかな白色系の金属酸化物被膜を形成することができる。また、下地被膜露出部である窒炭化チタン(TiCN)被膜による黒色と白色を呈する金属酸化物被膜との組み合わせによる所謂ツートンカラーの時計ケースを得ることができる。この結果、装飾性、デザイン性やカラーバリエーションに優れた時計ケースを得ることができる。
【実施例3】
【0042】
実施例3における金属酸化物被膜被覆部材は時計外装品の中の時刻を表示するための指針を例としたものであり、その表面の全面に下地被膜を形成し、この下地被膜の一部に金属酸化物被膜を形成し、さらに金属酸化物被膜の表面に保護被膜を設けた例である。図3は、実施例3における金属酸化物被膜被覆部材としての時計用の指針を示す図で、図3(a)は時針20a、図3(b)は分針20b、図3(c)は秒針20cを示す斜視図であり、図3(d)は、図3(a)における時針20aのB−B断面図である。本実施例においては、指針の中の図3(a)、図3(d)に示す時針20aを例として説明する。
【0043】
図3(a)、図3(d)に示すように、本実施例における金属酸化物被膜被覆部材としての時計用の時針20aの基材21は黄銅材からなり、基材21の表面の全面に下地被膜22として湿式メッキによるニッケル(Ni)メッキが施されている。この下地被膜22としてのニッケル層の厚さcの値は2μmである。さらに、下地被膜22における時針20aの上面側に対応する下地被膜上面部22aには膜厚dの値が0.5μmの金属酸化物被膜23が形成されている。この金属酸化物被膜23は、酸化チタン(TiO):酸化アルミニウム(Al)の含有比率が9:1の複合酸化物である無機顔料から形成されている。また、この金属酸化物被膜23は、L*a*b*表色系(CIE表色系)による色評価がL*=100、a*=−3、b*=1の色度であり、鮮やかな白色系の色を呈する。この金属酸化物被膜23は実施例1と同様に高周波スパッタリング法によって形成されたものである。以下にその形成方法について説明する。
【0044】
図4に示す真空装置のチャンバ1へ無機顔料(TiO:Al=9:1の複合酸化物)ターゲツト2と、被処理物3として表面の全面に下地被膜22として湿式メッキによるニッケル(Ni)メッキが施されている時針の基材21を基材ホルダ4に取付、約80mmの距離で配置した。このとき、時針20aの上面側に対応する下地被膜上面部22aをターゲツト6と対向するように配置し、下地被膜上面部22a以外の表面にはマスキングを行った。その後、5.0×10−3Paまで排気し、その後Arガスを25cc/minの流量で真空チャンバ5内ヘ導入し、真空度を0.6Paに調整する。その後、無機顔料ターゲット2に2,000wの高周波電力を印加し、約30分スパッタリングを行った。約20分間冷却した後、チャンバ1内を大気圧にし被処理物3としての時針の基材21を取り出したところ、時針20aの上面側に対応する下地被膜上面部22a上に均一な白色を呈する金属酸化物被膜23が形成されていることが確認された。また、この金属酸化物被膜23は、実施例1と同様に従来技術における干渉色を利用した被膜に比して、非常に硬く耐摩耗性に優れていることが確認された。
【0045】
次に、時針の基材21の上面に対応する金属酸化物被膜23の表面に2液式のウレタン塗料の第1剤と第2剤とを混合しスプレー等により塗布した。その後、70℃で60分間加熱保持し硬化させ透明性の保護被膜24を形成した。
【0046】
以上のように本実施例によれば金属酸化物被膜を基材表面の必要部分に形成することができるため時計用の時針20aの上面に均一で鮮やかな白色系の金属酸化物被膜23を形成することができる。また、時針20aの上面に形成されている金属酸化物被膜23に透明性の保護被膜24を設けることより一層鮮やかな白色を呈する時計用の時針20aを得ることができる。この結果、装飾性に優れ鮮やかな白色を呈する時計用の指針を得ることができると共に時計用の指針のデザイン性やカラーバリエーションをさらに向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本実施形態においては一層の酸化物被膜トを形成した例で説明したが、これに限定されるものではなく、複数層の酸化物被膜トを形成することができる。
また、本実施形態においては酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)を酸化物被膜として形成した例で説明したが、これに限定されるものではなく、他物質の酸化物被膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例1における金属酸化物被膜被覆部材としての時計用バンドを示す図で、図1(a)は斜視図、図1(b)は、図1(a)における時計用バンドの部分拡大断面図である。
【図2】本発明の実施例2における金属酸化物被膜被覆部材としての時計ケースを示す図で、図2(a)は斜視図、図2(b)は、図2(a)におけるA−A断面図である。
【図3】本発明の実施例3における金属酸化物被膜被覆部材としての時計用の指針を示す図で、図3(a)、図3(b)、図3(c)は時針、分針、秒針を示す斜視図、図3(d)は、図3(a)における時針のB−B断面図である。
【図4】本発明の実施例で基材に金属酸化物被膜を形成する真空装置の主要部を示す模擬断面図である。
【図5】本発明の実施例で基材に金属酸化物被膜を形成する他の真空装置の主要部を示す模擬断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1、5 真空装置
2、6 無機顔料ターゲット
3、9 基材ホルダ
4、8 被処理物
7 回転機構
10 時計用バンド
12 時計用バンドの基材
13 金属酸化物被膜
15 時計ケース
16 時計ケースの基材
17 下地被膜ト
17a 下地被膜ト露出部
18 金属酸化物被膜
20a 時計の時針
20b 時計の分針
20c 時計の秒針
21 時針の基材
22 下地被膜ト
22a 下地被膜ト上面部
23 金属酸化物被膜
24 透明保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を主成分とする無機顔料からなる金属酸化物被膜であって、前記金属酸化物が、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、アンチモン(Sb)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)の中から選ばれる少なくとも2つの金属の酸化物を主成分とし、L*a*b*表色系(CIE表色系)による色評価が90<L*<100、一10<a*<10、−10<b*<10の範囲の色度であり白色系の色を呈し、高周波スパッタリング法によって形成されていることを特徴とする金属酸化物被膜。
【請求項2】
膜厚が0.1〜15.0μmの範囲で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物被膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属酸化物被膜が基材の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする金属酸化物被膜被覆部材。
【請求項4】
前記基材が少なくとも1層の下地被膜を有し、該下地被膜の上層の少なくとも一部に前記金属酸化物被膜が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の金属酸化物被膜被覆部材。
【請求項5】
前記下地被膜がその一部に前記金属酸化物被膜が欠落した下地被膜露出部を有することを特徴とする請求項4に記載の金属酸化物被膜被覆部材。
【請求項6】
前記下地被膜露出部が少なくとも一部に欠落した基材露出部を有することを特徴とする請求項5に記載の金属酸化物被膜被覆部材。
【請求項7】
表面に少なくとも1層の保護被膜が形成されていることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の金属酸化物被膜被覆部材。
【請求項8】
前記基材が、プラチナ(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、ステンレス、黄銅の中から選ばれる少なくとも1つの金属、または合金からなることを特徴とする請求項3から請求項7のいずれか1項に記載の金属酸化物被膜被覆部材。
【請求項9】
前記基材が、焼結セラミックス、ガラスまたはプラスチックからなることを特徴とする請求項3から請求項7のいずれか1項に記載の金属酸化物被膜被覆部材。
【請求項10】
前記基材が装飾品であることを特徴とする請求項3から請求項9のいずれか1項に記載の金属酸化物被膜被覆部材。
【請求項11】
前記基材が時計外装部品であることを特徴とする請求項3から請求項10のいずれか1項に記載の金属酸化物被膜被覆部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−254853(P2007−254853A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82586(P2006−82586)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(591021279)シチズン東北株式会社 (21)
【Fターム(参考)】