説明

鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法

【課題】 簡易的な装置でより効率よく、短時間で凝集性能の優れた鉄−シリカ水処理凝集剤を製造する方法を提供することにあり、更には、保存安定性の優れた鉄−シリカ水処理凝集剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】 第二鉄塩水溶液または第二鉄塩と鉱酸を含む水溶液とケイ酸塩水溶液とを衝突混合させることを特徴とする鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法であり、更に、pHが0.3〜1であって、鉄濃度が30g/L〜120g/L、SiO濃度が10〜50g/Lとなるように製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄−シリカ水処理凝集剤の新規な製造方法に関する。より詳しくは、高い鉄濃度においても、保存安定性に優れる鉄−シリカ水処理凝集剤を簡便に製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の用水や排水等から懸濁物質やその他の不純物を除いて浄化処理を行う為に、凝集剤を該用水や排水中に注入してこれらの不純物を凝集・沈殿させて処理する水処理方法が行われており、この目的の凝集剤としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄などが用いられている。
【0003】
上記凝集剤の中でも硫酸アルミニウムまたはポリ塩化アルミニウムが汎用されている。これら凝集剤を使用した場合、水温が低下したり、水中の有機物、たとえば藻類が増加したりすると凝集剤の添加量を増加させなければならないが、アルミニウムは両性金属であるため、可溶性アルミニウムとなり、処理水中に残留するという問題点がある。また、アルミニウム系凝集剤は低水温では凝集性が低下するため、その使用量が増大するという欠点もある。
【0004】
上記のような問題の解決のため、近年重合ケイ酸(シリカゾル)に鉄塩を添加した鉄−シリカ水処理凝集剤が、その高い凝集性能と、発生する凝集物を土壌へ還元できることより注目されている。
【0005】
かかる鉄−シリカ水処理凝集剤は、容器中でケイ酸塩水溶液を塩酸、硫酸等の無機酸水溶液へ添加してSiO濃度が1〜6質量%程度のシリカゾルを得、次いで該ケイ酸溶液を数時間攪拌しつつ重合を進行させた後、そこへ鉄塩を添加することにより得ることができる(特許文献1、2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載された方法で良好な性能を有する凝集剤を得るためには重合ケイ酸(シリカゾル)を60℃程度に加熱し、数時間攪拌しつつ重合させなければならない。そのため、加熱の為の装置が必要となり、また、製造に長時間を要するため、工業的な実施において問題があった。
【0007】
一方、工業的に簡便な方法で鉄−シリカ水処理凝集剤を製造する方法も提案されている。例えば、塩化鉄水溶液に直接ケイ酸塩水溶液を加えることにより、鉄とシリカの反応を起すと同時にシリカゾルの重合も行う、重合槽が不要な鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、この方法によれば、塩化鉄水溶液中にケイ酸塩水溶液を加えていくため、塩化鉄、シリカ等の濃度が絶えず変化する状態にあり、均一な凝集剤を大量に作るには、強力な撹拌や、長時間の反応が必要となる場合があった。本発明者等が追試したところ、添加するケイ酸塩水溶液のSiO濃度が76g/L以上のものを使用すると、反応中のシリカゾルをゲル化させないためには、1Lのケイ酸ソーダを添加するのに1時間以上を要した。また、ケイ酸塩水溶液を徐々に添加しても攪拌の状態により、シリカのゲル化トラブルを引き起こし、安定した製造ができない場合などがあり、改善の余地があった。
【0009】
【特許文献1】特公平4−75796号公報
【特許文献2】特許第2732067号公報
【特許文献3】特許第3700892号公報
【特許文献4】特開2003−38908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、簡易的に短時間で高い凝集性能を示す鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記製造方法において、高い鉄濃度で、保存安定性に優れる鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、ケイ酸塩水溶液と第二鉄塩水溶液とを原料とする前記の鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法において、該水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量に対して、少なくとも一部の第二鉄塩水溶液を予め衝突混合することにより、得られる反応液、或いは、該反応液に更に第二鉄塩水溶液を、通常の混合方法、例えば、従来の容器において行う攪拌混合などにより混合する操作を行う場合であっても、前記シリカのゲル化トラブルもなく、短時間で、高い凝集性能を維持した鉄−シリカ水処理凝集剤を安定して得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、ケイ酸塩水溶液と第二鉄塩水溶液との反応により鉄−シリカ水処理凝集剤を製造するに際し、上記鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量と第二鉄塩水溶液の少なくとも一部とを衝突混合させる衝突混合工程を含むことを特徴とする鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、上記衝突混合工程において、ケイ酸塩水溶液に対して、衝突混合させる第二鉄塩水溶液の好ましい下限量を確認した。
【0014】
即ち、本発明によれば、上記衝突混合工程において、衝突混合させる第二鉄塩水溶液の混合量が、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量中の珪素元素(Si)に対して鉄元素(Fe)で0.5倍モル以上となる量である、請求項1記載の鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法が提供される。
【0015】
更に、上記方法を使用して、得られる鉄−シリカ水処理凝集剤について、より保存安定性の高い条件を検討した結果、SiO濃度、鉄濃度およびpHについて、下記の範囲が効果的であることを見出した。
【0016】
即ち、本発明によれば、鉄−シリカ水処理凝集剤が、pH0.3〜1.5であり、鉄元素濃度(Fe)が20g/L〜120g/L、SiO濃度が10g/L〜50g/Lであり、且つ、Si/Feモル比が1以下である、前記の鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法をも提供される。
【0017】
更にまた、本発明の前記鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法において、得られる鉄−シリカ水処理凝集剤を上記条件に調整する態様として、以下の態様を含む。
【0018】
(1)衝突混合工程において、使用するケイ酸塩水溶液の全量と第二鉄塩水溶液の一部とを衝突混合させて部分混合液を得、該部分混合液に残部の第二鉄塩水溶液を任意の方法により混合して目的とする鉄−シリカ水処理凝集剤を得る態様。
【0019】
(2)衝突混合工程において、使用するケイ酸塩水溶液の全量と第二鉄塩水溶液の全量とを衝突混合させて目的とする鉄−シリカ水処理凝集剤を得る態様。
【0020】
(3)上記(1)、(2)の態様において、衝突混合工程において鉱酸を添加することによりpH調整して目的とする鉄−シリカ水処理凝集剤を得る態様。
【0021】
(4)上記(1)、(2)において、衝突混合後に鉱酸を添加することによりpH調整して目的とする鉄−シリカ水処理凝集剤を得る態様。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記衝突工程により、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量と第二鉄塩水溶液の少なくとも一部とを衝突混合させることによって、凝集性能が高い鉄−シリカ水処理凝集剤を、短時間で安定して製造することができる。
【0023】
特に、上記方法において、得られる鉄−シリカ水処理凝集剤のpH、鉄およびケイ素濃度、更に、該鉄と珪素とのモル比を特定の範囲となるように製造することにより、長期保存安定性に優れる鉄−シリカ水処理凝集剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明において、原料となるケイ酸塩は、通常のシリカゾル、鉄−シリカ水処理凝集剤に使用できるものであれば、特に制限されるものではなく、ケイ酸アルカリ塩、具体的には、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム等を使用することができる。中でも、原料のコスト等を考慮すると、ケイ酸ソーダを使用することが好ましい。ケイ酸ソーダを使用する場合、SiOとNaOのモル比は特に制限されるものではないが、モル比2.5〜4.0が好適である。
【0025】
本発明において、上記ケイ酸塩を含む水溶液の濃度は、他方の原料である第二鉄塩水溶液(またはおよび鉱酸を含む水溶液)のpH、鉄等の濃度、および所望とする鉄−シリカ水処理凝集剤のpH、鉄、シリカ濃度に応じて適宜決定してやればよいが、下記に詳述する衝突混合により鉄−シリカ水処理凝集剤を製造するためには、SiO濃度が20g/L〜130g/Lのものを使用することが好ましい。即ち、この範囲を満足することにより、短時間で高濃度であって、瞬時にゲル化物を生じることがなく、しかも、凝集性に優れる鉄−シリカ水処理凝集剤、また、保存安定性に優れる鉄−シリカ水処理凝集剤を容易に製造することもできる。
【0026】
特に、本発明によれば、後述のように、第二鉄塩溶液を撹拌しながらケイ酸塩水溶液を添加する従来の製造方法では困難であった、例えば、SiO濃度が76g/L以上のケイ酸塩水溶液を原料として使用することもできる。そのため、本発明は、高濃度の鉄−シリカ水処理凝集剤を短時間で製造することができる。従って、高濃度の鉄−シリカ水処理凝集剤は、製造の効率化が図られると共に、貯蔵、輸送面においても有利である。また、使用時には、これを必要とする濃度に希釈して使用することが可能になり、濃度による凝集能の調製も可能となり、その工業的な利用価値は極めて高くなる。
【0027】
本発明において、他方の原料となる第二鉄塩は、通常の鉄−シリカ水処理凝集剤に使用できるものであれば、特に制限されるものではなく、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等を使用することができる。
【0028】
本発明において、第二鉄塩水溶液における鉄の濃度は、特に制限されるものではなく、所望とする鉄−シリカ水処理凝集剤の鉄濃度に応じて、適宜決定すればよい。本発明において好適に採用される上記第二鉄塩水溶液における塩化第二鉄の濃度は、180g/L〜600g/Lが好ましい。
【0029】
本発明の特徴は、ケイ酸塩水溶液と第二鉄塩水溶液とを原料とする前記の鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法において、該水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量に対して、少なくとも一部の第二鉄塩水溶液を衝突混合にて行う衝突混合工程を含むことにある。
【0030】
ケイ酸塩水溶液と第二鉄塩水溶液との反応において、衝突混合の工程は、本発明において初めて採用されたものである。これにより、反応容器内でこれらの水溶液を攪拌混合する従来の製造方法で発生していたシリカのゲル化トラブルもなく、短時間で、高い凝集性能を維持した鉄−シリカ水処理凝集剤を安定して得ることができる。
【0031】
ここで、上記ケイ酸塩水溶液は、その全量を第二鉄塩水溶液と衝突混合によって反応させることが重要である。即ち、ケイ酸塩水溶液が第二鉄塩水溶液と衝突混合することにより、第二鉄塩水溶液との反応により、ケイ酸塩水溶液中のシリカ成分がゲル化し難い形態に変化し、衝突混合時或いはその後の第二鉄塩水溶液との反応によるゲルの発生を防止しているものと推定される。
【0032】
従って、本発明において、衝突混合によってケイ酸塩水溶液の全量と反応させる第二鉄塩水溶液の量は、その一部でもよいし、全量でもよい。
【0033】
衝突混合工程において、第二鉄塩水溶液の一部をケイ酸塩水溶液と衝突混合させる場合、衝突混合させる第二鉄塩水溶液の混合量が、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量中の珪素元素(Si)に対して鉄元素(Fe)で0.5倍モル以上、特に、0.8〜5.0倍モルとなる量であることが好ましい。
【0034】
本発明において、衝突混合とは、上記原料を含む第二鉄塩水溶液とケイ酸塩水溶液とを衝突させることにより、両水溶液を混合させるのと同時に反応させるものである。具体的には、2つの原料供給管が合流し、該原料供給管の合流部にて1つの排出管と連結してなる管型反応器(Y字管型、T字管型反応器等)を使用することにより、両原料水溶液を上記合流部にて衝突混合させることができる。これら管型反応器の中でも、排出等の安定性を考慮すると、Y字管型反応器、例えば、特開2003−221222号に記載されている反応器を使用することが好ましい。図1に本発明に使用可能なY字管型反応器の例を示す。
【0035】
図1に示すY字管型反応器では、各々の原料供給管の中間に絞り部が設けられている。この絞り部の径と、ポンプから供給される原料水溶液の量を適宜調節することにより、衝突混合の際の衝突速度を設定することが可能である。
【0036】
Y字管型反応器において、2つの原料供給管のなす角度は、30〜180度、好ましくは45〜150度、さらに好ましくは60〜120度である。
【0037】
このような装置を使用する場合、前記合流部となる反応部において、両水溶液がいずれも5m/秒以上、好ましくは7m/秒以上、更に好ましくは10m/秒以上の速度で衝突するように原料供給管4に両水溶液を供給することが好ましい。上記供給速度の上限は特に制限されないが、20m/秒程度以上に供給速度を上げても効果は頭打ちとなる傾向がある。
【0038】
また、反応物が1m/秒以上、好ましくは1.3m/秒以上、更に好ましくは1.5m/秒以上の速度で排出管6から排出することが好ましい。排出管を細くすれば排出速度を速くすることができ、一方、太くすると排出速度は遅くなる。
【0039】
前記Y字管型反応器を使用する好適な態様について、図1を基づいて説明する。
【0040】
先ず、第二鉄塩水溶液の貯蔵槽1と、ケイ酸塩水溶液の貯蔵槽2と、貯蔵槽1および貯蔵槽2に各々貯蔵されている第二鉄塩水溶液(または第二鉄塩および鉱酸を含む水溶液)とケイ酸塩水溶液とをY字管型反応器3の原料供給管4(または原料供給管4’)に供給し、反応部5において両水溶液を衝突混合させて、反応させる。そして、反応部5から排出管6を通して反応物を取り出すことにより、鉄−シリカ水処理凝集剤を製造することができる。
【0041】
本発明において、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液と第二鉄塩水溶液との割合は、特に限定されず、公知の割合を制限なく採用することができるが、本発明の方法は、ケイ素に対して鉄の割合が多い組成においても、問題なく製造可能である。
【0042】
尚、前記したように、上記の割合で使用するケイ酸塩水溶液と第二鉄塩水溶液のうち、第二鉄塩水溶液は、その少なくとも一部を衝突混合によって混合すればよく、残部は、通常の混合、例えば、攪拌機付きの反応槽、邪魔板付きの管型混合装置等の混合装置を使用した混合方法によって混合することもできる。
【0043】
なお前述の通り、第二鉄塩水溶液の一部のみをケイ酸塩水溶液と衝突させる際にも、Fe/Siがモル比で0.5以上となる量以上の第二鉄塩水溶液を使用することが好ましい。
【0044】
従って、本発明は、前記したように、以下の態様を含むものである。
【0045】
(1)衝突混合工程において、使用するケイ酸塩水溶液の全量と第二鉄塩水溶液の一部とを衝突混合させて部分混合液を得、該部分混合液に残部の第二鉄塩水溶液を任意の方法により混合して目的とする鉄−シリカ水処理凝集剤を得る態様。
【0046】
(2)衝突混合工程において、使用するケイ酸塩水溶液の全量と第二鉄塩水溶液の全量とを衝突混合させて目的とする鉄−シリカ水処理凝集剤を得る態様。
【0047】
本発明の方法によれば、上記第二塩化鉄水溶液とケイ酸塩水溶液の少なくとも一部とを上記衝突混合により反応させる衝突混合工程を設けることにより、短時間で、且つ、凝集性能の優れた鉄−シリカ水処理凝集剤を製造することができる。
【0048】
また、10g/L〜60g/LとSiO濃度の高い、凝集性能の優れた鉄−シリカ水処理凝集剤を、1分間で2L以上も製造することができる。従って、前記した従来技術である、重合ケイ酸(シリカゾル)の重合を進行させた後、第二鉄塩水溶液を添加する方法、或いは、反応容器内で、塩化鉄水溶液中にケイ酸塩水溶液を加える方法と比較して、シリカのゲル化を抑えながら、極めて短時間で製造することができ、かつ、これら従来技術と同等或いはそれ以上の凝集性能を発揮できる。
【0049】
さらに驚くべきことに、本発明の衝突混合により製造した鉄−シリカ水処理凝集剤は、従来技術により製造した鉄−シリカ水処理凝集剤に比較して、より長期の保存安定性を有している。
【0050】
本発明の方法により得られる鉄−シリカ水処理凝集剤の優れた凝集性能を維持したまま、より長期の安定性を保持するために、得られる鉄−シリカ水処理凝集剤は、pHが0.3〜1.5、好ましくは、1.3未満0.4以上、であって、鉄濃度が20g/L〜120g/L、好ましくは、20g/L〜100g/L、SiO濃度が10〜50g/L、好ましくは、10g/L〜50g/Lとなるように製造することが好ましい。
【0051】
因みに、上記条件に調整することにより得られた鉄−シリカ水処理凝集剤は、後記の実施例に示すように、30℃で、30日以上、最長で80日もの長期間にわたって、ゲル化物が生じること無く保存することも可能となる。しかも、高濃度の鉄−シリカ水処理凝集剤であるため、輸送費が低減でき経済的にも有利となり、実際の使用に際しては、現場で任意の濃度に薄めて使用することもできる。
【0052】
本発明において、第二鉄塩水溶液は酸性を呈するため、得られる鉄−シリカ水処理凝集剤のpHを下げるためのpH調整剤として使用することも可能であるが、該凝集剤のpHを、鉄濃度を変えることなく下げたい場合は、鉱酸を併用しても良い。かかる鉱酸は、特に制限されないが、硫酸や塩酸が好適に用いられる。
【0053】
すなわち、本発明においては、前記のように以下の態様を含むものである。
【0054】
(3)前記(1)、(2)の態様において、衝突混合工程において鉱酸を添加することによりpH調整して目的とする鉄−シリカ水処理凝集剤を得る態様。
【0055】
(4)前記(1)、(2)において、衝突混合後に鉱酸を添加することによりpH調整して目的とする鉄−シリカ水処理凝集剤を得る態様。
【0056】
上記(3)の態様において、鉱酸は、衝突混合工程においてどのように添加してもよいが、最も推奨されるのは、第二鉄塩水溶液中に予め混合し、これとケイ酸塩水溶液と衝突混合する方法である。上記態様において、鉱酸の添加は、衝突混合工程および衝突混合後の両時点で行うことも勿論可能である。
【0057】
本発明の方法によって得られた鉄−シリカ水処理凝集剤は、そのまま、或いは適当な濃度に希釈して、各種排水の水処理剤として、有効に使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0059】
(1)衝突混合装置(鉄−シリカ水処理凝集剤の製造装置)
図1に示すY字管型反応器で、絞り部の管径(内径)1.4mm×長さ10mmのケイ酸ソーダ水溶液を原料供給管4、同じく絞り部の管径(内径)1.2mm×長さ10mmの塩化第二鉄水溶液を原料供給管4’から供給し、反応部5にて衝突混合させ、排出管6(管径(内径)6mm×長さ30mm)から混合液を取り出すようにしたものを使用した。Y字管型反応器の二つの原料供給管4および4’がなす角度は90度であった。
【0060】
(2)粘度測定
(株)エーアンドディの音叉型振動式粘度計を用い30℃で測定した。
【0061】
(3)凝集性能の評価
水道水にカオリン(和光純薬製水質試験用濁度標準液1000度)を添加し、濁度20に調整したものを試験水としてジャーテストを行った。1000mlの試験水に、水1Lに対しFeが5mg相当になるように凝集剤を添加し、攪拌速度150rpmで5分間攪拌し、続けて攪拌速度50rpmで10分間攪拌し、さらに、10分間静置した後、上澄み液50mlを採取した。濁度を測定する方法により、本願発明により得られた鉄−シリカ水処理凝集剤の水処理に対する性能を調べた。
【0062】
(4)保存安定性の評価
安定性は、鉄−シリカ水処理凝集剤を、30℃で放置し、目視で沈殿やゲル化の度合いを判定し、沈殿或いはゲル化が起こるまでの日数で評価した。
【0063】
実施例1
市販のケイ酸ソーダ(ケイ酸塩水溶液:SiO濃度28質量%、SiO/NaOモル比3.15)を水で希釈し、SiO濃度70g/Lの水溶液とした。一方、市販の39質量%塩化第二鉄溶液(第二鉄塩水溶液)を水で希釈し塩化第二鉄濃度190g/Lの水溶液とした。これらの水溶液のそれぞれの全量を用い、原料供給管4からのケイ酸ソーダ水溶液の流量を1.0L/min、原料供給管4’からの塩化第二鉄水溶液の流量を0.9L/minとなるように供給し、反応部5で衝突混合させ、排出管6から取り出した。鉄−シリカ水処理凝集剤5Lを約2分40秒で得た。
【0064】
このときに反応部5へ供給されるケイ酸ソーダ水溶液及び塩化第二鉄水溶液の流速は、原料供給管の長手方向にそれぞれ10.8m/s、13.3m/sであった。また該水処理凝集剤が排出管6から排出される流速は、1.1m/sであった。
【0065】
得られた鉄−シリカ水処理凝集剤は、シリカのゲル化物などはなく、黄褐色の透明な液体であった。この水処理凝集剤は、SiO濃度37g/L、鉄濃度31g/L、Si/Feモル比1.11であり、pHは1.54であった。
【0066】
このようにして得られた水処理凝集剤について、前記方法に従って凝集性能を確認し、30℃での保存安定性を観察した。これらの結果を表1に示す。
【0067】
実施例2
実施例1で得られた鉄−シリカ水処理凝集剤に硫酸を加え、凝集剤のpHを1.05とした。硫酸を加え、最終的な鉄−シリカ水処理凝集剤とするまでの時間は、衝突混合開始から約4分であった。この水処理凝集剤の凝集性能および保存安定性を表1に示す。
【0068】
実施例3
実施例1で得られた鉄−シリカ水処理凝集剤を水で希釈し、塩化第二鉄水溶液および硫酸を加え、水処理凝集剤のSiO濃度を16g/L、鉄濃度を60g/L、Si/Feモル比0.25、pHを0.85とした。水で希釈し、塩化鉄水溶液および硫酸を加え、最終的な鉄−シリカ水処理凝集剤とするまでの時間は、衝突混合開始から約5分であった。この凝集剤の凝集性能および保存安定性を表1に示す。
【0069】
実施例4
ケイ酸ソーダ水溶液は、市販のケイ酸ソーダ(SiO濃度28質量%、SiO/NaOモル比3.2)を水で希釈し、SiO濃度110g/Lの水溶液とした。塩化第二鉄および鉱酸を含む水溶液は、市販の38質量%塩化第二鉄水溶液を水で希釈し、更に48質量%硫酸を加え、硫酸を濃度44g/Lで含む塩化第二鉄濃度258g/Lの塩化第二鉄水溶液とした。これらの水溶液を用い、原料供給管4’からのケイ酸ソーダ水溶液の流量を1.0L/min、原料供給管4からの硫酸含有塩化第二鉄混合水溶液の流量を0.9L/minとなるように供給し、反応部5で衝突混合させ、排出管6から取り出した。
【0070】
鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量と第二鉄塩水溶液の一部との反応液(これを、「部分混合液」ともいう。)5Lを約2分40秒で得た。このときに反応部5へ供給されるケイ酸ソーダ水溶液及び硫酸含有塩化第二鉄混合水溶液の流速はそれぞれ10.8m/s、13.3m/sであった。
【0071】
尚、上記衝突混合工程において、衝突混合させる第二鉄塩水溶液の混合量は、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量中の珪素元素(Si)に対して鉄元素(Fe)で0.78倍モルとなる量であった。
【0072】
得られた部分混合液は、シリカのゲル化物などはなく、黄褐色の透明な液体であった。この部分混合液はSiO濃度58g/L、鉄濃度42g/L、Si/Feモル比1.28、pH1.08であった。
【0073】
この部分混合液500mlを容器に取り、これに水875ml、38質量%塩化第二鉄水溶液460mlを攪拌下に加え、SiO濃度16g/L、鉄濃度60g/L 、Si/Feモル比0.25、pH0.82の鉄−シリカ水処理凝集剤1835mlを得た。この鉄−シリカ水処理凝集剤を製造は、衝突混合開始から約5分で行うことができた。また、この水処理凝集剤の凝集性能および保存安定性を表1に示す。
【0074】
実施例5
ケイ酸ソーダ水溶液のSiO濃度を90g/L、硫酸含有の塩化第二鉄水溶液の塩化第二鉄濃度を264g/L及び硫酸濃度20g/Lとした以外は、実施例4と同様な反応を行い、シリカのゲルなどがない黄褐色の透明な部分混合液5Lを約2分40秒で得た。
この部分混合液は、SiO濃度47g/L、鉄濃度43g/L、Si/Feモル比1.02、pH1.58であった。
【0075】
尚、上記衝突混合工程において、衝突混合させる塩化第二鉄水溶液の混合量は、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量中のケイ素元素(Si)に対して鉄元素(Fe)で0.98倍モルとなる量であった。
【0076】
この部分混合液500mlを容器に取り、これに水330ml、38質量%塩化第二鉄水溶液350ml、50質量%硫酸4.0mlを攪拌下に加え、SiO濃度20g/L、鉄濃度75g/L、Si/Feモル比0.25、pH0.73の鉄−シリカ水処理凝集剤1184mlを得た。この鉄−シリカ水処理凝集剤の製造は、衝突混合開始から約5分で行うことができた。また、この鉄−シリカ水処理凝集剤の凝集性能、保存安定性を表1に示す。
【0077】
実施例6
実施例5で、衝突混合により製造したSiO濃度47g/L、鉄濃度43g/L、Si/Feモル比1.02、pH1.58の部分混合液500mlに水310ml、40質量%塩化第二鉄水溶液350ml、50質量%硫酸20mlを加え、SiO濃度20g/L、鉄濃度75g/L、Si/Feモル比0.25、pH0.18の鉄−シリカ水処理凝集剤1180mlを得た。この鉄−シリカ水処理凝集剤を製造は、衝突混合開始から約5分で行うことができた。また、この水処理凝集剤の凝集性能および保存安定性を表1に示す。
【0078】
実施例7
実施例5で、衝突混合により製造した、SiO濃度47g/L、鉄濃度43g/L、Si/Feモル比1.02、pH1.58の部分混合液500mlを容器に取り、これに水330ml、42質量%塩化第二鉄水溶液110ml、50質量%硫酸6.5mlを加え、SiO濃度25g/L、鉄濃度47g/L、Si/Feモル比0.5、pH0.98の鉄−シリカ水処理凝集剤946mlを得た。この鉄−シリカ水処理凝集剤を製造は、衝突混合開始から約5分で行うことができた。また、この水処理凝集剤の凝集性能および保存安定性を表1に示す。
【0079】
参考例1
市販のケイ酸ソーダ(SiO濃度28重量%、SiO/NaOモル比3.15)を水で希釈し、SiO濃度80g/Lの希釈ケイ酸ソーダ溶液1Lを硫酸濃度50g/Lの希釈硫酸1Lの中に攪拌しながら1時間で導入し、SiO濃度40g/L、pH2.0のシリカゾル溶液2Lを得た。このシリカゾル溶液にアルカリを添加し、pH4に調整したのち、室温で3時間熟成させた。
【0080】
このシリカゾル液を200ml取り、水50ml及び39.5質量%塩化第二鉄溶液150mlを加え、SiO濃度20g/L、鉄濃度75g/L、Si/Feモル比0.25、pH0.42の鉄−シリカ水処理凝集剤400mlを得た。この鉄−シリカ水処理凝集剤は、ケイ酸ソーダの滴下開始から製造までに4時間20分を要した。この水処理凝集剤の凝集性能および保存安定性を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例8、9
実施例5において、衝突混合における塩化第二鉄水溶液の混合量を、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量中のケイ素元素(Si)に対して鉄元素(Fe)で表2に示す倍モルとなる量に変化させ、残部の塩化第二鉄水溶液の添加量が、実施例5と同様になるように調整して、鉄−シリカ水処理凝集剤を得た。得られた水処理凝集剤の凝集性能および保存安定性を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例10
ケイ酸ソーダ水溶液のSiO濃度を90g/L、硫酸含有の塩化第二鉄水溶液の塩化第二鉄濃度を270g/L及び硫酸濃度31g/Lとした以外は、実施例4と同様な反応を行い、シリカのゲルなどがない黄褐色の透明な中間混合液5Lを約2分40秒で得た。この部分混合液のSiO濃度は47g/L、鉄濃度44g/L、Si/Feモル比1.00、pH1.17であった。
【0085】
尚、上記衝突混合工程において、衝突混合させる塩化第二鉄水溶液の混合量は、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量中のケイ素元素(Si)に対して鉄元素(Fe)で1.00倍モルとなる量であった。
【0086】
この部分混合液を500ml取り、これに水563ml、39質量%塩化第二鉄水溶液118ml、50質量%硫酸4.4mlを加え、SiO濃度20g/L、鉄濃度37g/L、Si/Feモル比0.5、pH1.01の鉄−シリカ水処理凝集剤1184mlを得た。この鉄−シリカ水処理凝集剤の製造は、衝突混合開始から約5分で行うことができた。また、この鉄−シリカ水処理凝集剤の凝集性能、保存安定性を表2に示す。
【0087】
[比較参考例1,2]
表2に示した比較参考例1,2は、特許文献3(特許第3700892号)に開示されているデータであり、塩化鉄と硫酸の混合水溶液を攪拌しつつ、そこへケイ酸ソーダを添加する方法によって製造された鉄−シリカ水処理凝集剤の凝集剤性状及び性能である。上記実施例10で得られた水処理凝集剤のシリカ濃度より、やや低濃度のものとやや高濃度のものとを挙げている。鉄濃度及びpHは実施例10で得られた水処理凝集剤と同等である。
【0088】
これらのデータと実施例10で得られた水処理凝集剤の性能を比較すると、実施例10で得られた水処理凝集剤は、シリカ濃度がやや低濃度のもの、高濃度のもののどちらに比べても、より良好な(長期の)保存安定性が得られている。
【0089】
さらに、実施例10の保存安定性評価の温度条件である30℃は、比較参考例における保存安定性評価の温度条件である室温よりも厳しい条件である。従って、同一の温度条件で保存安定性を対比すると、本発明の製造方法で得られる鉄−シリカ水処理凝集剤と比較参考例における水処理凝集剤とでは、より明確に保存可能日数に差が生じるものと予測される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の製造方法に好適に使用可能な反応器の概略図(Y字管型反応器部分は、断面図である。)
【符号の説明】
【0091】
1 第二鉄塩水溶液(または第二鉄塩および鉱酸を含む水溶液)の貯留槽
2 ケイ酸塩水溶液の貯留槽
3 Y字型反応器
4 原料供給管
4’ 原料供給管
5 反応部
6 排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩水溶液と第二鉄塩水溶液との反応により鉄−シリカ水処理凝集剤を製造するに際し、上記鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量と第二鉄塩水溶液の少なくとも一部とを衝突混合させる衝突混合工程を含むことを特徴とする鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法。
【請求項2】
上記衝突混合工程において、衝突混合させる第二鉄塩水溶液の混合量が、鉄−シリカ水処理凝集剤の製造に使用するケイ酸塩水溶液の全量中の珪素元素(Si)に対して鉄元素(Fe)で0.5倍モル以上となる量である、請求項1記載の鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法。
【請求項3】
得られる鉄−シリカ水処理凝集剤が、pH0.3〜1.5であり、鉄元素濃度(Fe)が20g/L〜120g/L、SiO濃度が10g/L〜50g/Lであり、且つ、Si/Feモル比が1以下である、請求項1又は2に記載の鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法。
【請求項4】
衝突混合工程で得られた混合物に、第二鉄塩水溶液の残部を添加する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法。
【請求項5】
衝突混合工程で得られた混合物に、第二鉄塩水溶液の残部および鉱酸を添加する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鉄−シリカ水処理凝集剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−307529(P2008−307529A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122888(P2008−122888)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(000193508)水道機工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】