説明

鉄族金属のビス(ペンタジエニル)錯体の製造方法

【課題】卑金属不純物を最小に保持しながら、上記M(RPD)2錯体を高収率で製造すること。
【解決手段】式(I):M(RPD)2 (I)[式中、M=鉄、ルテニウム、又はオスミウム;R=H又は約1〜4個の炭素原子を有するアルキル基;PD=サンドウィッチ型錯体を形成する環状又は開鎖のジエニル系]の有機金属錯体の製造方法において、式(I)で示される前記錯体は少なくとも約99.99%の金属純度を有し;前記方法は、三塩化M(III)水和物及びHRPD化合物を、Al、Ga、In、Th、Cd、Hg、Li、Na、Ti、V、Cr、Mn、Pb、Ni、Ca、及びCuからなるグループから選択される少なくとも1つの還元性金属とアルコール溶剤中で反応させることを有する、有機金属錯体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄族金属のビス(ジエニル)錯体、例えば鉄族金属のビス(ペンタジエニル)錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
M(RPD)2型の有機金属錯体(前記式中、Mは鉄、ルテニウム又はオスミウムを表し;Rは水素又はアルキル基を表し;PDは、サンドウィッチ型錯体を形成する環式又は開鎖のジエニル系であることができる)は、通常では、薄膜形成に関するプロセスにおいて使用される。例えば、ルテニウム薄膜は、抵抗性層又は導電性層が望まれる半導体製造において、セラミックの装飾被覆として、及び抵抗性の加熱表面において、例えば自動車用窓使用することができる。電子部品文献は、化学蒸着(CVD)による導電性被膜形成及び抵抗性被膜を記載している。電子デバイスのために、高純度原料は高い歩留まりでの作業部分(operational parts)の作成のために必須である。
【0003】
ビス(ジエニル)ルテニウム錯体の製造のための米国特許第6,002,036号明細書及び第6,642,402号明細書に記載された方法において亜鉛及びマグネシウムはそれぞれ、還元性金属として利用されている。しかしながら、この反応中のZn又はMgの使用は、ペンタジエニル−Zn及びペンタジエニル−Mg不純物を形成することがある。この記載された先行技術では一般に反応中で水を回避するが、Kadokura(米国特許第6,002,036号明細書)はこの反応体のRuCl3水和物から微量の水が、形成することができる全てのZn(EtCp)2を分解するのに十分であることを示唆している。しかしながら、このRu塩によりどの程度の水が供給されるか指摘されていない。金属水和物は一般に非化学量論的であり、かつ一般に、FeCl3、RuCl3及びOsCl3水和物塩は、その含水量が異なる。従って、水和の水は、不所望な金属ペンタジエニル化合物の分解のために不十分であることがあり、かつこのような不純物は先行技術の錯体において存在することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,002,036号明細書
【特許文献2】米国特許第6,642,402号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
卑金属不純物を最小に保持しながら、上記M(RPD)2錯体を高収率で製造することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式(I):
M(RPD)2 (I)
[式中、M=鉄、ルテニウム又はオスミウム;R=H又は約1〜4個の炭素原子を有するアルキル基;及びPD=サンドウィッチ型錯体を形成する環状又は開鎖のジエニル系]の有機金属錯体の製造方法であって、かつ式(I)で示される化合物は少なくとも約99.99%の金属純度を有する、有機金属錯体を製造する方法に関する。この方法は、三塩化M(III)水和物及びHRPD化合物を、Al、Ga、In、Th、Cd、Hg、Li、Na、Ti、VCr、Mn、Pb、Ni、Ca及びCuからなるグループから選択される少なくとも1種の還元性金属とアルコール溶剤中で反応させることを有する。
【0007】
本発明は、一般式(I):
M(RPD)2 (I)
の有機金属錯体の製造方法に関する。
【0008】
式(I)中で、Mは、鉄、ルテニウム又はオスミウムから選択される金属、有利にルテニウムである。Rは、水素又はC1〜C4アルキル基、例えばCH3(メチル)、C25(エチル)、C37(n−プロピル又はイソプロピル)、又はC49(n−ブチル、イソブチル又はtert−ブチル)である。PDは、サンドウィッチ型錯体を形成することができる環状又は開鎖のジエニル系(配位子)を表す。適当なジエニル系はこの分野において公知であり、例えば置換されていてもよい環状ペンタジエニル、シクロペンタジエニル、インデニル、テトラヒドロインデニル、フルオレニル、及びオクタヒドロフルオレニル配位子を有する。有利なPD配位子は、少なくとも1つのC1〜C4アルキル側鎖、例えば2つのメチル側鎖を有することができる、置換されていてもよい環状ペンタジエニルである。
【0009】
本発明により製造された式(I)で示される有機金属錯体は、実質的に卑金属不純物を有しない。卑金属は、一般に公知の、容易に酸化しうる金属であり、この金属は塩酸中に溶解して、水素を放出する。例えば、Fe、Ni、Pb、Zn及び場合によりCuは、慣用的に卑金属といわれる。高い金属純度は、作業電子デバイス(operational electronic devices)の高い歩留まりでの製造のために不可避である。本発明の錯体は、有利に少なくとも99.99%(4N)の金属純度、更に有利に99.995%の金属純度を有する。換言すると、全体の金属不純物は、式(I)で示される錯体の質量の100ppm未満、又は有利な実施態様の場合に50ppm未満を有する。「金属不純物」の用語は、錯体中に存在するPt族元素(例えばB、Na及びFe)とは異なる微量金属元素を表すと解釈される。
【0010】
本発明により製造することができる式(I)で示される有利な有機金属錯体は、式1及び式2で示されるようなビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)及びビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム(II)を含む。
【化1】

【0011】
式(I)の有機金属錯体の製造方法は、三塩化M(III)水和物及びHRPD化合物と、少なくとも1つの還元性金属との、有利に粉末の形で、アルコール溶剤中での反応を有する。例えば、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)は、RuCl3水和物と、エチル−シクロペンタジエン(HEtCp)及び還元性金属との反応により製造することができる。
【0012】
アルコール溶剤は、C1〜C6アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、又はn−ヘキサノールが有利である。エタノールが、特に有利な溶剤である。
【0013】
有利な還元性金属は、限定なしで、Al、Ga、In、Th、Cd、Hg、Li、Na、Ti、VCr、Mn、Pb、Ni、Ca、及びCuが含まれる。この還元性金属は、有利に、約99%以上の純度を有し、約75ミクロン以下の粒度を有する。しかしながら、他の粒度及び純度を有する還元性金属を使用することも本発明の範囲内である。この反応混合物中に1種以上の還元性金属を有することも本発明の範囲内である。更に有利に、この還元性金属はアルミニウムである、それというのもこれはアルコール中でのRuCl3塩とペンタジエンの間での環式又は開鎖のルテノセンを得るための容易な反応のために特に有効であるためである。上述のように、還元剤としてMg又はZrを使用する先行技術のプロセスにおいて、ペンタジエニル−Zn及びペンタジエニル−Mg不純物が問題となりかつ除去することが困難である。しかしながら、同様のペンタジエニル−Al化合物は極めて不安定であるため、本発明による反応混合物中の不純物として存在することが予想されない。
【0014】
この反応は有利に不活性雰囲気下で、例えばアルゴン下で、大気圧より僅かに高い圧力で(例えば1〜2インチの水)実施される。この反応は、有利に低い温度で、例えば約−20℃以下で実施され、ゆっくりと反応させ、約12〜18時間で室温に温める。この反応が低い温度で実施されることが重要である、それというのも発熱反応がHRPD配位子の不所望な重合を引き起こしかねないためである。反応を完了するために必要な実際の時間は、特定の反応体に依存してケースバイケースで決定することができる。
【0015】
三塩化M(III)水和物、HRPD及び還元性金属の反応は、多様な副生成物、例えばHRPD二量体、PD−M−RPD及びM′(RPD)xを生じさせることがあり、その際、M′はMとは異なる金属、例えば還元性金属又は半金属を表す。M′は、この反応において使用される還元性金属であるか、又は出発材料の1つの中の不純物に由来することもあり、xはM′の原子価により決定される整数である。例えば、M′は反応体Alであることができるが、Na、K、B、Zn、Fe又はMgであることもできる。還元性金属としてMg又はZnを用いる従来技術のプロセスの場合には、ZnRPD2及びMgRDP2不純物が形成されることがあり、このような場合による汚染副生成物を所望の有機金属錯体から分離するために高価な真空蒸留装置が必要である。しかしながら、この反応に添加される水が、全てのAl(RPD)3を容易に分解して、非有機の可溶性材料になり、これは所望の有機金属錯体の精製の前に濾過により容易に除去できることが見出された。類似のZn及びMg不純物は容易に除去できない。
【0016】
従って、不所望なM′(RPD)x副生成物の除去のために、この方法は、有利に、反応混合物に全てのM′(RPD)x錯体を完全に分解するために十分な量の水を添加することを有する。この水は、金属塩反応体から反応混合物中に存在する水和の全ての水を補い、かつ反応性のAl(RPD)3又は形成されることがある他のM′(RPD)x種と反応する。この水は、有利に、全てのM′(RPD)x化合物を完全に分解することを保証するために、還元性金属反応体の原子価の変化に関して、少なくとも100%のモル過剰量で添加される。例えば、1モルのAl3+は、6モルの水を必要とする。このような過剰量は、還元性金属反応体及び不純物の両方から形成されるM′(RPD)x種を分解することを保証する。微量の卑金属は、Al及びM(Ru、Fe、Os)と比較して量的に極めて僅かに存在していて、添加される水の量は、3H2O+Al(RPD)3→Al(OH)3+3HRPDの反応に従って、全てのAl(RPD)3を分解するために十分である。全てのZn(RPD)2又はMg(RPD)2又はAl(RPD)3を分解するためにFe、Ru又はOsの三塩化水和物反応体中の水和の水を頼らないことが有利である。むしろ、過剰な水の添加が不所望なメタロセン種を完全に分解することを保証する。
【0017】
三塩化金属水和物、HRPD、及び還元性金属の反応の後で、有機金属ジエニル錯体を標準的な技術によって精製することができる。例えば、この反応混合物は、減圧下で、例えば標準的な蒸留塔を用いて蒸留することができる。有利な蒸留条件は、約150℃のポット温度及び約0.2mmHgの圧力を有する。しかしながら、特別な蒸留条件を、特定の反応体及び生成物に基づきケースバイケースで実験的に決定することもできる。
【0018】
本発明の方法に従って、式(I)で示される錯体の95%の収率を達成することができ、このプロセスは工業的な適用のために適している。この錯体の金属純度はICP−MS(イオン結合プラズマ質量分析)又は他の分析法により分析することができる。最も頻繁に生じる不純物はこのプロセスにより除去できるため、生じた生成物は、99.995%と同程度の高さの極めて高い金属純度を有する。
【実施例】
【0019】
本発明は、次の制限のない実施例との関連で説明する。部及びパーセンテージは、他に記載がない限り質量に対する。
【0020】
実施例:RuCl3水和物+HEtCpからのビス(EtCp)Ru(II)の製造
オーバーヘッド型撹拌機を備えたアルゴンでフラッシュした12Lの3つ口丸底フラスコ中に、エタノール3.5L、HEtCp(二量体、Sigma-Aldrichから市販されている)671g及びアルミニウム粉末144g(粒度75ミクロン未満、純度99+%、Sigma-Aldrichから市販されている)を装填した。別のアルゴンでフラッシュしたフラスコ中で、RuCl3水和物(W.C. Heraeus, Santa Fe Springs CAにより製造)415g、水625mL及びエタノール1876mLを合わせた。12Lフラスコの内容物を−20℃(253K)より低く冷却し、ルテニウム溶液のゆっくりとした均一な添加を開始し、3時間続けた。このルテニウム溶液の全てを添加した後に、この反応物をゆっくりと室温にまで温めた。完了後に、この反応物は灰色に呈色したスラリーとなった。
【0021】
このスラリーを不活性ガス下で濾過し、油性の固体を濃縮し、ヘキサン中へ抽出した。このヘキサン抽出物を濃縮して、琥珀色の油状物が生じた。引き続き高真空蒸留により>80%の純度で所望の生成物490gが得られた(HEtCp二量体及びCp−Ru−EtCpは生成物混合物の約8%を有する)。試料のICP−MSによる卑金属分析は、0.5ppmより高いレベルで、B(1.8ppm)及びNa(0.5ppm)だけを示した。他の全ての金属は、0.5ppmより少ない量で存在していた。特に、Ru中の通常の不純物のFeの濃度は、<0.5ppmであった。従って、この生成物は99.995%と同程度の金属純度を有していた。
【0022】
当業者には、広範なこの発明思想から離れることなしに上記の実施態様に変更を行うことができることが認識される。従って、本発明は特に記載された実施態様に限定されず、記載された請求項により定義されるように、本発明の精神及び範囲内の変更態様を含むと解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
M(RPD)2 (I)
[式中、M=鉄、ルテニウム、又はオスミウム;R=H又は約1〜4個の炭素原子を有するアルキル基;PD=サンドウィッチ型錯体を形成する環状又は開鎖のジエニル系]の有機金属錯体の製造方法において、式(I)で示される前記錯体は少なくとも約99.99%の金属純度を有し;前記方法は、三塩化M(III)水和物及びHRPD化合物を、Al、Ga、In、Th、Cd、Hg、Li、Na、Ti、V、Cr、Mn、Pb、Ni、Ca、及びCuからなるグループから選択される少なくとも1つの還元性金属とアルコール溶剤中で反応させることを有する、有機金属錯体の製造方法。
【請求項2】
還元性金属がアルミニウムである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
還元性金属が粉末の形である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのM′(RPD)x化合物が副生成物として形成され、式中、M′はMとは異なる金属であり、xはM′の原子価により決定される整数であり、前記方法は、更に、前記反応に、少なくとも1種のM′(RPD)x化合物を完全に分解するために有効な量の水を添加することを有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
M′は、Zn、Mg、Fe及びAlからなるグループから選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
更に、式(I)で示される有機金属錯体を、減圧下での蒸留により精製することを有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記蒸留を、約150℃のポット温度及び約0.2mmHgの圧力で実施する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
PDは、置換されていてもよい非環式又は環式のペンタジエニル配位子である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
PDは、約1〜約5つの側鎖を有する非環式又は環式のペンタジエニルである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
PDは、エチルシクロペンタジエニル又は2,4−ジメチルペンタジエニルである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
式(I)で示される前記有機金属錯体は、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II):
【化1】

である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
式(I)で示される前記有機金属錯体は、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム(II):
【化2】

である、請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2011−219475(P2011−219475A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83845(P2011−83845)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(390023560)ヴェー ツェー ヘレーウス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (42)
【氏名又は名称原語表記】W.C.Heraeus GmbH 
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】