説明

鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法

【課題】鉄筋コンクリート構造物の施工において、打設したコンクリートの乾燥収縮によるひび割れの発生を低減させる工法を提供する。
【解決手段】収縮帯を横断する鉄筋を重ね継手により接続する構成とし、同収縮帯の内方に向かって伸びる左右の鉄筋のうち一方の基準鉄筋には、その先端部から鉄筋コンクリート構造物の耐力確保に必要な長さを隔てた位置に、予め算出したコンクリートの目標初期収縮量に相当する長さのマーキングを施し、他方から伸びる重ね鉄筋は、その先端が前記基準鉄筋にマーキングした目標初期収縮量の幅寸を超える長さで同基準鉄筋と重ね合わせており、打設したコンクリートの乾燥収縮量が前記目標初期収縮量に達した段階で、収縮帯に後打ちコンクリートを打設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄筋コンクリート構造物の施工において、打設したコンクリートの乾燥収縮によるひび割れの発生を低減させる工法の技術分野に属し、更に云えば、鉄筋コンクリート構造物の一部にコンクリートを打設しない収縮帯を設け、打設したコンクリートの初期収縮後に、同収縮帯へ後打ちコンクリートを打設するひび割れ低減工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄筋コンクリート構造物を構成するコンクリートは、本来的に引張力に弱く、乾燥による収縮が生じやすい。こうした乾燥収縮は、鉄筋コンクリート構造物を構築した直後から初期ひび割れとして数多く発現するため、ひび割れを低減する工法が様々に研究され実用に供されていると共に、開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載した発明は、コンクリートにおけるひび割れが発生すると予想される想定境界面の両側に、突起部材が固定されたひび割れ低減用棒鋼を埋め込んでいる。前記ひび割れ想定境界面に作用する、分離させようとする応力に対して、コンクリートに対する棒鋼の付着力及び突起部材の付着力並びに突起部材によるコンクリート部の支圧作用が働き、ひび割れの発生を低減できる工法である。
【0004】
しかし、コンクリートの対する棒鋼の付着力及び突起部材の付着力で、抑制できる乾燥収縮の変形量はかなり小さなものに限られ、乾燥収縮の変形量が大きい横に長い構造物には実施しても効果が低い工法である。因みに横長構造物のひび割れ低減工法としては、一般的にエクスパンションジョイント工法が実施されている。しかし、防水性や使用性の悪さ、建設費が嵩むなどの問題がある。
また、この工法は要するに、乾燥収縮が生じた際のひび割れを低減することを主な目的とした技術であり、そもそもひび割れの原因であるコンクリートの乾燥収縮をごく自然に行わせてひび割れを防止する技術ではない。
【0005】
ところで、近年、変形量の大きな横長構造物であってもエキスパンションジョイントを使用せず、収縮帯を設けてコンクリートの乾燥収縮をごく自然に行わせ、その後、収縮帯にコンクリートを充填してひび割れを低減する技術が一応提案されてはいる。つまり、構造物の一部分にコンクリートを打設しないスペース(収縮帯)を設けておくことで、構造物の大部分を占める先行打設したコンクリートの初期収縮を積極的に行わせ、完成した鉄筋コンクリート構造物に生じるひび割れの発生を低減させる工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−111228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した先行打設したコンクリートに収縮帯を設けコンクリートの乾燥収縮後に、上記収縮帯に後打ちコンクリートを打設する工法を具体的に実施する場合、健全な鉄筋コンクリート構造物の構築を目指して次の課題点を解決しなければならない。
即ち、構造物の一部分である収縮帯には、同収縮帯を横断する鉄筋が突き出ている。これらの鉄筋には、コンクリート構造物の収縮により既に過度の伸び変形が生じているから、その破断を防止する対策が必要であるが、先行打設したコンクリートの初期収縮を念頭に置いた有効的な解決策は未だ具体的に提案されていない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、上記課題点を簡易な方法で解決した、収縮帯を設けた鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法を提供することである。更に云えば、先行して打設するコンクリートの初期収縮を念頭に置いた有効的な継手構造を実現でき、初期収縮の進捗状況と、継手構造が構造耐力上満たすべき必要条件を満足している否かを、リアルタイムで容易に把握(判断)して、健全で高品質の構造物の建設に寄与する鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法は、
鉄筋コンクリート構造物の一部にコンクリートを打設しない収縮帯を設け、打設したコンクリートの初期収縮後に、同収縮帯へ後打ちコンクリートを打設するひび割れ低減工法において、
前記収縮帯を横断する鉄筋を重ね継手により接続する構成とし、同収縮帯の内方に向かって伸びる左右の鉄筋のうち一方の基準鉄筋には、その先端部から鉄筋コンクリート構造物の耐力確保に必要な長さを隔てた位置に、予め算出したコンクリートの目標初期収縮量に相当する長さのマーキングを施し、他方から伸びる重ね鉄筋は、その先端が前記基準鉄筋にマーキングした目標初期収縮量の幅寸を超える長さで同基準鉄筋と重ね合わせており、
打設したコンクリートの乾燥収縮量が前記目標初期収縮量に達した段階で、収縮帯に後打ちコンクリートを打設することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載した鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法において、
重ね鉄筋の先端が目標初期収縮量の幅寸に達しない位置までコンクリートが収縮した場合は、重ね鉄筋に添え筋を接続するなどの補強手段を施すことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載した発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法は、
鉄筋コンクリート構造物の一部にコンクリートを打設しない収縮帯を設け、打設したコンクリートの初期収縮後に、同収縮帯へ後打ちコンクリートを打設するひび割れ低減工法において、
前記収縮帯を横断する鉄筋を機械式継手で接続する構成とし、同収縮帯の内方へ同一線上で相対峙する配置とした左右の鉄筋の一方に予め機械式継手を配置し、両鉄筋の先端から機械式継手の最少接続長さをマーキングし、両鉄筋の先端間は、機械式継手に定められている鉄筋間の空き寸法から予め算出したコンクリートの目標初期収縮量の幅寸を引いた寸法だけ空けており、
打設したコンクリートの乾燥収縮量が前記目標初期収縮量に達した段階で、両鉄筋を機械式継手により接続して収縮帯へ後打ちコンクリートを打設することを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載した鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法において、
鉄筋を機械式継手で接続した際、同機械式継手の両端から両鉄筋にマーキングされた機械式継手の最少接続長さ部分が見える場合は、修正処理を施すことを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項1又は3に記載した鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法において、
収縮性の低いコンクリート又は無収縮モルタルが収縮帯へ打設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜2及び5に記載した発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法は、コンクリートを打設しない収縮帯2内を横断する鉄筋を重ね継手により接続する構成であり、具体的には収縮帯2の内方に向かって伸びる左右の鉄筋3、4のうち一方の基準鉄筋3には、その先端部から鉄筋コンクリート構造物1の耐力確保に必要な長さL1を隔てた位置に、予め設定されたコンクリートの目標初期収縮量に相当する長さL2のマーキングMを施している。また、他方から伸びる重ね鉄筋4は、その先端が前記マーキングMした目標初期収縮量に相当する長さL2を超える長さで基準鉄筋3と重ね合わせている。
したがって、基準鉄筋3と重ね鉄筋4が先行打設したコンクリートの初期収縮に伴い、上記マーキングMされた目標初期収縮量に相当する長さL2内を離間方向にそれぞれ移動するので、初期収縮の進捗状況を一目瞭然に把握でき、先行して打設するコンクリートの初期収縮を念頭に置いた有効的な継手構造を実現できる。斯くすると、経過期間と重ね鉄筋4の移動距離から現在の収縮量を数値として算出でき、収縮帯2へ後打ちコンクリート打設した後の鉄筋コンクリート構造物1全体の乾燥収縮量を高い精度で予想することができ、以後の建築予定に役立てることができる。
【0015】
また、継手構造が構造耐力上満たすべき必要条件を満足しているか否かの判断は、重ね鉄筋4の先端位置が、上記マーキングMされた目標初期収縮量に相当する長さL2内にあるか否かを目視するのみの簡易な方法で行うことができる。
つまり、前記マーキングMは、構造物の耐力確保に必要な長さL1(ラップ長)を隔てて施しているため、重ね鉄筋4がマーキング幅寸L2内にあれば当然構造耐力上の必要条件を満足させているのである。逆に、予め算出した収縮待機期間(例えば1か月)が経過する前に、重ね鉄筋4の先端が、上記マーキングMした前記長さL2内に達しない位置までコンクリートが収縮している場合、構造耐力基準を満足していないことが一目瞭然である。その場合、直ちに重ね鉄筋4に添え筋40を接続するなどの補強手段を施して、確実に構造耐力基準をクリアできるので、健全で高品質な鉄筋コンクリート構造物1の構築に寄与できる。
のみならず、予め算出した収縮待機期間(例えば1か月)が経過し、重ね鉄筋4がマーキングMを施した長さL2内であっても、その収縮量が算出した目標初期収縮量に達していない場合には、前記収縮待機期間を延ばして確実に目標初期収縮量を達成させる等の判断も容易に行えるし、前記収縮待機期間前に目標初期収縮量に達している場合には、収縮帯2へのコンクリート打設の時期を早めるなど、収縮量の変化にも容易に対応して効率的な鉄筋コンクリート構造物1の構築に寄与できる。
【0016】
請求項3及び4に記載した発明は、収縮帯2を横断する鉄筋を機械式継手5により接続する構成であり、具体的には、収縮帯2の内方に向かって同一線上で相対峙する配置とした左右の鉄筋30、40のうち一方の鉄筋40に機械式継手5を配置する。そして、両鉄筋の先端から機械式継手5の最少接続長さT1をマーキングMし、両鉄筋30、40の先端は、機械式継手5に定められている鉄筋間の空き寸法からコンクリートの目標初期収縮量に相当する長さを引いた寸法T2だけ空けて配置している。したがって、コンクリートの初期収縮の進捗状況は鉄筋同士の先端空き寸法を見ればリアルタイムで視認できるし、初期収縮後、両鉄筋30、40同士を機械式継手5により接続した際、同機械式継手5の両脇からマーキングM部分がはみ出て見えるか否かで構造上必要な最少接続長さT1を確保しているどうかを容易に目視判断できるので、修正処理が必要な場合には直ちに処理が行え、健全で高品質な鉄筋コンクリート構造物1の構築に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法を実施するため構造物の所定箇所に収縮帯を設けた状態を示した立面図である。
【図2】図1に示した収縮帯の一部を拡大した平面図である。
【図3】A、Bは図2の拡大斜視図である。
【図4】A、Bは、基準鉄筋と重ね鉄筋による重ね継手の構成を示し、Cは初期収縮後の構造耐力基準を合格した場合の鉄筋位置を示し、Dは構造耐力基準を不合格の場合の両鉄筋の位置を示した図である。
【図5】図3Aの異なる継手構造(機械式継手)を示した斜視図である。。
【図6】A、Bは、鉄筋に機械式継手の設置する構成を示し、Cは初期収縮後の構造耐力基準を合格した場合を示し、Dは構造耐力基準を不合格の場合を示した図である。
【図7】本発明の鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法を上層階に繰り返して実施した一例を示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物1の一部にコンクリートを打設しない収縮帯2を設け、打設したコンクリートの初期収縮後に、同収縮帯2へ後打ちコンクリートを打設するひび割れ低減工法である。
このひび割れ低減工法は、前記収縮帯2を横断する鉄筋を重ね継手により接続する構成とされている。具体的には、前記収縮帯2の内方に向かって伸びる左右の鉄筋3、4のうち一方の基準鉄筋3には、その先端部から鉄筋コンクリート構造物1の耐力確保に必要な長さL1を隔てた位置に、予め算出されたコンクリートの目標初期収縮量に相当する長さL2のマーキングMが施されている。
【0019】
前記目標初期収縮量に相当する長さL2の算出方法は、予めコンクリートの種類や骨材の種類などの設計情報と過去のデータから、構造物の収縮率の変化と最大収縮量が算出できる。設計者は上記算出データの傾向を鑑みて、目標初期収縮量を設定する(例えば最大収縮量の1/2など)。因みにこの目標初期収縮量を設定すると自ずと過去データから収縮待機期間が導き出せる。前記目標初期収縮量を設定すると次式、
Δδ=ε×L(目標初期収縮量の幅寸=目標初期収縮量(率)×構造物全長)
から、目標初期収縮量に相当する長さL2を算出できる。
【0020】
他方から伸びる重ね鉄筋4は、その先端が前記基準鉄筋3にマーキングされた目標初期収縮量に相当する長さL2を超える長さで同基準鉄筋3と重ね合わせる。
打設したコンクリートの乾燥収縮量が前記目標初期収縮量に達したことを確認した段階で、前記基準鉄筋3と重ね鉄筋4とを接続して、収縮帯2に収縮性の低いコンクリート又は無収縮モルタルを打設する。
【実施例1】
【0021】
以下に、本発明を図面に示した実施例に基づいて説明する。
本発明は、図1に示したように構造物1の一部に約1mの帯状の幅または1スパン分だけコンクリートを打設しない収縮帯2を設け、打設したコンクリートの初期収縮後に、同収縮帯2へ後打ちコンクリートを打設するひび割れ低減工法に好適に実施される。
【0022】
上記コンクリートを打設しない収縮帯2には、図2の平面図及び図3A、Bの拡大図に示すように、同収縮帯2を横断する鉄筋3、4(30、40)が複数突き出ている。図3Aは、柱10、10間に架設されている梁材11に設けられた収縮帯2内の鉄筋の状態を示し、図3Bには、壁12とスラブ13に設けられた収縮帯2内の鉄筋の状態を示した。本実施例は、図示の通り収縮帯2を横断する鉄筋3、4(30、40)を重ね継手により接続する構成で実施される。
本発明のひび割れ低減工法の内容を端的に云うと、収縮帯2を横断する上記鉄筋3、4が、初期コンクリートの初期収縮に追随して離間方向にそれぞれ移動する性質を効果的に利用して、初期収縮の進捗状況の把握及び継手構造の構造耐力基準が満足できるか否かの判断を容易にならしめる点にある。
【0023】
以下に、その概要を詳しく説明する。図4A〜Dに、前記鉄筋3、4の重ね継手の具体的構成を示した。
先ず、先行打設されたコンクリートの初期収縮が始まる前の鉄筋3、4の構成について図4A、Bから説明する。即ち、図4Aに示すように、収縮帯2の内方に向かって伸びる左右の鉄筋のうち一方の鉄筋3(以下、基準鉄筋3と云う。)に、予め算出されたコンクリートの目標初期収縮量に相当する長さL2のマーキングMが施される。このマーキングMは、先端部から鉄筋コンクリート構造物1の耐力確保に必要な長さL1を隔てた位置にペンキ等を塗装して施される。前記長さL1の目安は鉄筋の直径の40倍である。また、目標初期収縮量に相当する長さL2の算出方法については、具体的数字を挙げて後述する。
【0024】
次に、他方から伸びる鉄筋4(以下、重ね鉄筋4と云う。)は、その先端が、前記基準鉄筋3にマーキングMされた目標初期収縮量に相当する長さL2を超える長さL3となる状態で、前記基準鉄筋3と重ね合わせる。前記幅寸L2より超える長さL3に位置させる意味は、算出した目標初期収縮量を超える初期収縮が生じた場合に対応するためである。
上述した状態でコンクリートの初期収縮を、目標初期収縮量の設定から導き出された収縮待機期間(例えば1か月)待つことになる。
【0025】
次に、上記収縮待機期間内に生じるコンクリートの初期収縮の進捗状況の把握及び重ね継手が構造耐力上必要な条件を満足しているか否かの判断方法を図4C、Dから説明する。
初期収縮の進捗状況の把握は、コンクリートの初期収縮に伴い基準鉄筋3と重ね鉄筋4が、上記マーキングMした目標初期収縮量に相当する長さL2内を離間方向にそれぞれ移動するので、初期収縮の進捗状況がリアルタイムで一目瞭然に視認できる。
また、鉄筋3、4の重ね継手が構造耐力上必要な条件を満たしているか否かの判断は、前記マーキングMは構造耐力上必要な長さL1を隔ててなされているため、重ね鉄筋4の先端が、上記マーキングMされた目標初期収縮量に相当する長さL2内にあるか否かを目視するのみの簡易な方法で行うことができる。
したがって、図4Cに示すように、重ね鉄筋4がマーキング幅寸L2内にあれば当然構造耐力の条件を満たしているのである。この際、マーキングM内の重ね鉄筋4の先端が、図4Bにおいて重ね鉄筋4を上記目標初期収縮量に相当する長さL2を超えた長さL3だけ入り込んでいれば、目標初期収縮量に丁度達していると判断できる。
ただし、長さL3が0となるまでは、構造耐力上必要な長さL1は確保されることから、L3の長さに厳密にこだわって後打ちコンクリートを打設する必要はない。むしろ、収縮待機期間内にできる限り大きな初期収縮量を発生させることに主な目的をおくべきである。なぜなら、収縮帯2へ後打ちコンクリートを打設して先行打設コンクリートと一体化した後、構造物全体に生じる収縮量を最小限に低減してひび割れを防止できるからである。
【0026】
また、図4Dに示すように、上記収縮待機期間(例えば1か月)が経過する前に、重ね鉄筋4の先端位置が上記目標初期収縮量に相当する長さL2に達しない位置まで収縮している場合には、重ね鉄筋4に添え筋40を接続するなど補強手段を施して、健全で高品質の鉄筋コンクリート構造物1の建設に寄与できるし、早い段階で確実に構造耐力基準を確保できるので、作業効率や経済性の利点が見込める。
【0027】
そして、上記収縮待機期間(例えば1か月)が経過し、上記のように基準鉄筋3と重ね鉄筋4との重ね継手が構造耐力基準を満足している状態を確実に確認すると、前記収縮帯2へ型枠を設け、同収縮帯2へ収縮性の低いコンクリート又は無収縮モルタルを打設して、コンクリートと一体化する。
上記一連の作業を上下方向に繰り返し行って上階を施工してゆき、図7に示す鉄筋コンクリート構造物1を完成させるのである。
【0028】
本発明は、上記のように目標初期収縮量に相当する長さL2をマーキングMしたので、予め算出した収縮待機期間(例えば1か月)が経過し、重ね鉄筋4がマーキングの幅寸L2内であっても、目標初期収縮量に達していない場合には、前記収縮待機期間を延ばして確実に目標初期収縮量を達成させる等の判断も容易に行える。また、前記収縮待機期間前に、目標初期収縮量に達している場合には、収縮帯2へのコンクリート打設の時期を早めて、効率的な構造物の建設に寄与できる。
更に云うと、経過期間と重ね鉄筋4の移動距離から現在の収縮量を数値として算出できるので、収縮帯2へ後打ちコンクリート打設した後の鉄筋コンクリート構造物1全体の乾燥収縮量を予想することができ、以後の建築予定に役立てることができる。
【0029】
次に、上述した目標初期収縮量に相当する長さL2の算出方法を例を上げて説明する。
先ず長さ100mの鉄筋コンクリート構造物を対象とした。最大収縮率の設定は、使用するコンクリートの種類や骨材の種類を決定し、過去データを鑑みて800μ(10−6)とした。目標初期収縮量(率)は、最大収縮量の半分である400μ(10−6)と設定する。過去のデータから前記目標初期収縮量(率)に達するのは、コンクリート打設から約1か月後であるので、収縮待機期間は1か月と導き出せる。
したがって、基準鉄筋3へマーキングMされる前記目標初期収縮量(率)に相当する長さL2は以下の式により算出される。
式:Δδ(L2)=ε×L(目標初期収縮量の幅寸=目標初期収縮量(率)×構造物全長)
L2=(400・10−6)×(100・10−3
L2=40mm
したがって、初期設定収縮量に相当する長さL2は、40mmとなる。
【実施例2】
【0030】
次に、請求項3に記載した発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法を図5、図6に基づいて説明する。
本実施例2は、端的に云うと、実施例1の継手構造が重ね継手であるのに対し、機械式継手5を使用したひび割れ低減工法である。
この機械式継手5による実施は、図5(図2)に示した梁材11間に設けられた収縮帯2を横断する鉄筋30、40に実施されるものである。図3Bに示した壁12とスラブ13に設けられた収縮帯2は、その両端から例えば直径13mmの鉄筋が200mmピッチ程度で多数突き出ている状態であるため、機械式継手5による鉄筋3、4の接続はコストが嵩むなどの理由から積極的には実施されないが、適宜実施することも可能であることを付言する。
【0031】
以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
即ち、図6Aに示すように、前記収縮帯2の内方へ向かって同一線上で相対峙する配置とした左右の鉄筋30、40の一方の鉄筋40に予め機械式継手5を配置する。また、前記両鉄筋30、40の先端箇所には、その先端から機械式継手5に予め定められている最少接続長さT1を等分にマーキングMしておく。この最少接続長さT1は機械式継手5のカタログ等に記載されている構造耐力上必須の長さである。マーキングMは上述したペンキ等による塗装である点は同様である。
【0032】
図4Aに示した空き幅寸T2は、機械式継手5に予め定められている鉄筋間の空き寸法(例えば30mm)から前記コンクリートの目標初期収縮量に相当する長さ(例えば10mm)を引いた値(T3=30−10)となる。なお、この目標初期収縮量は実施例1で説明したと同様の算出手法により導き出された数値である。
図4Bは、コンクリートの初期収縮が生じた場合を示している。図示した空き寸法T3は、T2に初期収縮量を加えた値である。初期収縮が目標初期収縮量以下であれば、空き寸法T3は機械式継手5に予め定められている鉄筋間の空き寸法を満たすことは勿論、機械式継手5への最少接続長さT1を確保できることになる。
【0033】
次に、機械式継手5による鉄筋30、40の接続が構造耐力基準を満足しているか否かの判断方法について図4C、Dから説明する。
つまり、予め算出した収縮待機期間(例えば1か月)が経過した後に、図4Cのように、両鉄筋30、40同士を機械式継手5により接続する。その際、両鉄筋30、40の先端にマーキングMした(最低接続長さT1)部分が機械式継手5の両端部からはみ出ていない(見えない)場合には、確実に最低接続長さT1分が機械式継手5内へ収められており、構造耐力基準を満足していると視認できる。
【0034】
しかし、図4Dに示すように、両鉄筋30、40同士を機械式継手5により接続した際に、両鉄筋30、40のマーキングM部分が機械式継手5の両端部からはみ出ていれば、構造耐力基準を満たしていないことが一目瞭然である。
この場合には、図示することは省略するが両鉄筋30、40の先端部分を切断し、添え筋を継ぎ足して、機械式継手5へ差し込むべき最低接続長さT1、T1を確保する修正処理が行われる。また、初期収縮の進捗状況を鉄筋30、40の間の先端空き寸法を見ればリアルタイムで視認できるので、収縮量が著しい場合には、機械式継手5をかしめる前の早い段階で修正処理を行って構造耐力基準を確保できる。
【0035】
上記のように機械式継手5による両鉄筋30、40の連結状態が確実に構造耐力基準を満足している状態とした上で、上述したと同様に収縮帯2へ収縮性の低いコンクリート又は無収縮モルタルを打設して先行打設したコンクリートと一体化し、ひび割れを低減させた鉄筋コンクリート構造物1を構築するのである。
【0036】
以上に実施形態を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のため付言する。
【符号の説明】
【0037】
1 構造物
2 収縮帯
3、4(30、40) 鉄筋
5 機械式継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の一部にコンクリートを打設しない収縮帯を設け、打設したコンクリートの初期収縮後に、同収縮帯へ後打ちコンクリートを打設するひび割れ低減工法において、
前記収縮帯を横断する鉄筋を重ね継手により接続する構成とし、同収縮帯の内方に向かって伸びる左右の鉄筋のうち一方の基準鉄筋には、その先端部から鉄筋コンクリート構造物の耐力確保に必要な長さを隔てた位置に、予め算出したコンクリートの目標初期収縮量に相当する長さのマーキングを施し、他方から伸びる重ね鉄筋は、その先端が前記基準鉄筋にマーキングした目標初期収縮量の幅寸を超える長さで同基準鉄筋と重ね合わせており、
打設したコンクリートの乾燥収縮量が前記目標初期収縮量に達した段階で、収縮帯に後打ちコンクリートを打設することを特徴とする、鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法。
【請求項2】
重ね鉄筋の先端が目標初期収縮量の幅寸に達しない位置までコンクリートが収縮した場合は、重ね鉄筋に添え筋を接続するなどの補強手段を施すことを特徴とする、請求項1に記載した鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法。
【請求項3】
鉄筋コンクリート構造物の一部にコンクリートを打設しない収縮帯を設け、打設したコンクリートの初期収縮後に、同収縮帯へ後打ちコンクリートを打設するひび割れ低減工法において、
前記収縮帯を横断する鉄筋を機械式継手で接続する構成とし、同収縮帯の内方へ同一線上で相対峙する配置とした左右の鉄筋の一方に予め機械式継手を配置し、両鉄筋の先端から機械式継手の最少接続長さをマーキングし、両鉄筋の先端間は、機械式継手に定められている鉄筋間の空き寸法から予め算出したコンクリートの目標初期収縮量の幅寸を引いた寸法だけ空けており、
打設したコンクリートの乾燥収縮量が前記目標初期収縮量に達した段階で、両鉄筋を機械式継手により接続して収縮帯へ後打ちコンクリートを打設することを特徴とする、鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法。
【請求項4】
鉄筋を機械式継手で接続した際、同機械式継手の両端から両鉄筋にマーキングされた機械式継手の最少接続長さ部分が見える場合は、修正処理を施すことを特徴とする、請求項3に記載した鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法。
【請求項5】
収縮性の低いコンクリート又は無収縮モルタルが収縮帯へ打設されることを特徴とする、請求項1又は3に記載した鉄筋コンクリート構造物のひび割れ低減工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80223(P2011−80223A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232194(P2009−232194)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】