説明

鉄筋用継手及びその製造方法

【課題】端部に雄ねじが形成された鉄筋を連結する継手の新たな製造方法を提供する。
【解決手段】筒状本体部と該筒状本体部から半径方向外周側へ膨出された凸条部とを備えてなる第1の前駆体を形成するステップと、第1の前駆体の筒状本体部の内周面へ雌ねじを螺刻して第2の前駆体を形成するステップと、第2の前駆体において筒状本体部と凸条部と貫通し、軸方向に連続する切欠きを形成するステップと、を含む鉄筋用継手の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋用継手及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋を連結する方策として、連結すべき鉄筋の各先端に雄ねじを形成し(ねじ節鉄筋)、内周面に雌ねじが螺刻されている筒状の継手(カプラー)を各先端雄ねじ部へ螺合させることが行なわれている。
本発明に関連する技術を開示する先行文献として、特許文献1及び特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4‐92920号公報
【特許文献2】特開平10‐2467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ねじ節鉄筋は多くの鉄筋メーカーが製造しており、鉄筋用の機械式継手の中でも現在最も普及している工法である。この継手は鉄筋の節(先端)がねじ状に形成されているため、カプラーの装着が簡単で、また、カプラーの挿入長さを確認するだけで応力が確実に伝達されるという特徴がある。ただし、カプラーとねじ節の間にはゆるみがあるのでこのゆるみを解消する方法として、1. カプラーの端部よりロックナットを締め付け、カプラーとナット間の鉄筋に初期張力を与えるトルク固定方式と、2. カプラーの両端を軽く締め付けたのち、カプラーとねじの空隙にモルタルを注入する無機グラウト方式、3.充墳材として樹脂を用いる有機グラウト方式の3種類がある。有機グラウト方式は耐火性に乏しいため、耐火性能が要求される部材の鉄筋継手には適用できない点に注意が必要である。
しかし、これらの方法は手間とコストがかかるため、簡単に鉄筋と鉄筋をつなぐ継手が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、継手を縮径して鉄筋端部に形成された雄ねじへ継手内周の雌ねじを圧接すれば、両者の間のゆるみを防止できるのではないかと考えた。
そこで、筒状の継手において円周方向の一部を切り欠いて、切欠部の両縁からそれぞれ外方へ舌片を延設して、この一対の舌片をボルトで締め付ける構成を検討した。
この発明の第1の局面はかかる継手の製造方法を提案する。
即ち、筒状本体部と該筒状本体部から半径方向外方へ膨出された凸条部とを備えてなる第1の前駆体を形成するステップと、
前記第1の前駆体の前記筒状本体部の内周面へ雌ねじを螺刻して第2の前駆体を形成するステップと、
前記第2の前駆体において前記筒状本体部と前記凸条部と貫通し、軸方向に連続する切欠きを形成するステップと、
を含む鉄筋用継手の製造方法。
【0006】
このように規定されるこの発明の第1の局面の製造方法によれば、筒状本体部と凸条部とからなる第1の前駆体は、横断面形状を均一として、押出し成形可能であるので、簡易かつ安価に製造できる。
また、第1の前駆体の筒状本体部の内周面へ雌ねじ部を螺刻する際に、筒状本体部には何ら切欠きが形成されていないので、その形状が安定している。もって、第2の前駆体を効率良くかつ安定して形成可能となる。
このように雌ねじを形成した後に筒状本体部及び凸条部にこれらを貫通する切欠きを形成することとなるが、この切欠きが筒状本体部及び凸条部を貫通していることにより、切削工具の位置合わせに高い精度が要求されることがない。よって、切欠きを効率良く形成できる。
【0007】
なお、この切欠きにより凸条部は一対の舌片に分割される。その厚さ方向にねじ穴が貫通され、ボルトが通される。このボルトを締めることにより、切欠きがなくなるように一対の舌片が当接する。切欠の消失分に応じて筒状本体部が縮径し、これにより、筒状本体部の内周面の雌ねじが鉄筋の先端の雄ねじに圧接される。
ボルト締めで切欠きが無くなるように筒状本体部を変形、即ち縮径する際に、筒状本体部の変形が容易になるように、筒状本体部の外周面へ軸方向に連続する溝を形成することができる。換言すれば、この溝の形成された部分において筒状本体部が薄肉となるので当該部分で変形しやすくなる。
【0008】
この溝は、筒状本体部において切欠きから周方向に180度の位置にその中心が位置するように形成することが好ましい。ボルト締め時の力が効率良く当該溝の薄肉部にかかるのでボルト締め作業の省力化を達成できる。更には、凸条部(舌片)と反対側に位置する筒状本体部の外周面が削除されることにより、継手の最大径(最大幅)を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1はこの発明の実施形態の継手の斜視図である。
【図2】図2は同じく平面図である。
【図3】図3は同じく正面図である。
【図4】図4は同じく側面図である。
【図5】図5は検討例の継手の平面図である。
【図6】図6第1の前駆体の斜視図である。
【図7】図7は第2の前駆体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態について説明をする。
図1はこの発明の実施の形態の継手1の構造を示す斜視図である。
図2〜図4に継手1の平面図、正面図及び側面図を示す。
この継手1は、筒状本体部3と一対の舌片11、12とを備え、全体が鋼材からなる。
筒状本体部3の内周には雌ねじ4がその全面に螺刻されている。雌ねじ4のピッチ、有効径等の各諸元は鉄筋の先端に形成された雄ねじ部のそれらに対応するものである。
筒状本体部3において舌片11、12の反対側(円周方向180度の位置)に溝5が軸方向に連続して形成されている。この溝5により筒状本体部3に薄肉部6が形成され、筒状本体部3はこの薄肉部6において変形しやすくなる。
なお、溝を複数形成することが可能である。
継手1の最大幅を抑制する見地から、少なくとも1つの溝を舌片11、12の反対側に形成することが好ましい。溝を複数形成する場合には、この反対側の溝を中心に円周方向に均等に分配されるようにする。
【0011】
舌片11、12は筒状円筒部3の切欠き20の両縁から半径方向外方へ膨出した板状の部材である。図2に示すように、舌片11、12の膨出量はボルトの頭部の幅と等しくすることが好ましい。継手の径を小さくするためである。
舌片11、12には貫通孔15、16が穿設されている。この例では貫通孔15、16の内周面に雌ねじを形成してボルトを螺合できるようにしている(図2参照)。
図2の状態からボルト30を締めつけると、舌片11、12が互いに近づく。このとき、筒状本体部3はもっぱらその薄肉部6で変形して縮径し始める。そして舌片11、12が相互に当接するまでボルト30を締めつける。これにより、切欠き20の幅の長さに応じて筒状本体部3の径が縮径し、その内周面の雌ねじ20は図示しない鉄筋先端の雄ねじに圧接される。
これにより、この継手によれば、ガタツキの発生することなく鉄筋を連結できる。
【0012】
上記において切欠き20の幅は特に限定されるものではないが、筒状本体部3の内周長さ2〜10%とすることが好ましい。切欠き20は継手1の軸方向へ全体に連続して形成されている。
筒状本体部3において舌片11、12との連結部には、舌片11、12に対する垂直壁8、9を設けて、ボルト30の頭部と筒状本体部3の外周面との干渉を防止することが好ましい。
このように垂直壁8、9を設けることにより、ボルトの締め付け力が筒状本体部3へより直接的にかかることとなる。
図5に示すように、筒状本体部3の外周面から舌片11,12が膨出されていると、ボルト30の締め付け時に舌片11,12が優先的に変形し、筒状本体部3の縮径に使われる力が小さくなる。
ボルト30の締め付け力を筒状本体部3の縮径に有効に作用させる見地から、舌片11、12と筒状本体部3との連結部の外周へ凹部を設け、この凹部へボルト30を配設する。すなわち、ボルト30をより筒状本体部3へ近づけることにより、ボルト30による締め付け力の方向を筒状本体部3の周方向へ一致させることが好ましい。
この凹部の筒状本体部3側の面が既述の垂直壁8、9となる。この凹部は、少なくともボルト30の頭部が収まる側の舌片12と筒状本体部3との連結部に形成されればよい。
同様の見地から、舌片11、12において筒状本体部3の外周面の延長面との交差部分に、ボルト(好ましくはその軸部)が位置することが好ましい。
【0013】
次に、この継手1の製造方法について説明する。
先ず、図6に示すように、鋼材を押し出して、筒状本体部41と凸条部43とを備えた第1の前駆体40を形成する。なお、図6において、図1と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この第1の前駆体40をダイスに固定して、汎用的なねじ切り装置(タップ装置)により、筒状本体部41の内周面に雌ねじ4を螺刻する(第2の前駆体50:図7)。
【0014】
次に、凸条部43の中央に筒状本体部41まで貫通する切欠き20を切削により形成する(図1参照)。この切欠き20は凸条部43及び筒状本体部41の各軸方向に連続して形成され、筒状本体部41がその円周方向に連続する部位を持たないようにする。また、凸条部43もその幅方向に連続する部位を持たないようにする。
この例では、凸条部43の中央に切欠き20を設け、左右の舌片11、12の幅を均等としたが、舌片11、12の幅が異なるように切欠き20を形成してもよい。ボルトの頭側の舌片を薄くすることによりボルト頭部の出っ張りが抑制できる。
その後、貫通孔15、16を穿設する。
上記において、筒状本体部41に対し、切欠き20の形成段階で溝5を形成してもよい。
【0015】
本発明は、前記各局面および前記各実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【符号の説明】
【0016】
1 継手
3、41 筒状本体部
4 雌ねじ
5 溝
11、12 舌片
20 切欠き
43 凸条部
40 第1の前駆体
50 第2の前駆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状本体部と該筒状本体部から半径方向外方へ膨出された凸条部とを備えてなる第1の前駆体を形成するステップと、
前記第1の前駆体の前記筒状本体部の内周面へ雌ねじを螺刻して第2の前駆体を形成するステップと、
前記第2の前駆体において前記筒状本体部と前記凸条部と貫通し、軸方向に連続する切欠きを形成するステップと、
を含む鉄筋用継手の製造方法。
【請求項2】
内周面に雌ねじを螺刻した筒状本体部であって、軸方向に連続する切欠が形成され、
前記筒状本体部において前記切欠の両縁から半径方向外方に舌片が膨出され、
前記筒状本体部と前記舌下片との連結部分の外周側に凹部が設けられ、前記舌片に締結されるボルトが前記凹部に配設される、鉄筋用継手。
【請求項3】
前記筒状本体部において前記切欠きと反対位置の外周面へ軸方向に連続する溝が形成される、請求項2に記載の鉄筋用継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−60771(P2013−60771A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200927(P2011−200927)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(503337069)有限会社アートスクリュー (4)
【出願人】(511224863)フレックス工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】