説明

鉄道車両用前照灯装置

【課題】鉄道車両の進行方向の視認性を高めることが可能な鉄道車両用前照灯装置を提供する。
【解決手段】鉄道車両用前照灯装置20は、ヘッドライト25、現在位置取得部21、記憶部23、判定部24及び制御部26を備えている。ヘッドライト25は、車両1の進行方向前方を照射する。現在位置取得部21は、車両1の現在位置を取得する。記憶部23は、車両1が走行する線路について、直線区間の位置と曲線区間の位置と曲線区間の形状情報とを含む線形情報23aを記憶する。判定部24は、現在位置と線形情報23aとに基づいて、車両1が曲線区間に進入する前の切換区間に位置するのか否かを判定する。制御部26は、現在位置と線形情報23aとに基づいて、車両1が進入しようとする曲線区間の形状情報を特定し、特定された形状情報に基づいてヘッドライト25の照射方向を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に用いられる可動式の前照灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設けられた車両前照灯は、一般に進行方向の正面のみを照らすようになっている。このため、カーブ区間等を走行する際には、車両がこれから走行しようとする先の位置を前照灯で照らすことができず、運転士にとって視認性が悪いという問題がある。そして、このような問題を解決するための多くの技術が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ハンドルの操舵に連動して照射方向を可動させる技術が開示されている。また、特許文献2では、ハンドルの操作に連動して照射範囲を広げる技術が開示されている。また、特許文献3では、ハンドル操作から旋回半径を算出し、算出された値に基づいてヘッドライトの方向を変えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−42836号公報
【特許文献2】特開平8−183385号公報
【特許文献3】特開平5−294182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜3は、いずれも自動車を対象に発明されたものであり、そもそもハンドル操作を伴わない鉄道車両に適用できるものではない。一方、台車の傾きにリンクして可動するように前照灯を設計することも考えられるが、この方法では、例えば、転線時(ポイント通過時)の照射方向の調整や、車両速度に対応した照射方向の調整といった柔軟な対応をすることが困難である。
【0006】
本発明は、係る状況を鑑み、鉄道車両の走行時に、鉄道車両の進行方向である線路周辺の視認性を高めることが可能な鉄道車両用前照灯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の鉄道車両用前照灯装置は、車両の進行方向前方を照射する前照灯と、車両の現在位置情報を取得する現在位置取得手段と、車両が走行する線路の直線区間及び曲線区間の位置情報と、曲線区間の形状情報とを含む線形情報を記憶する記憶手段と、現在位置情報と線形情報とに基づいて、車両が曲線区間に進入する前の切換区間に位置するか否かを判定する判定手段と、判定手段によって車両が切換区間に位置すると判定された場合、車両が進入しようとする曲線区間の形状情報に基づいて前照灯の照射方向を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
なお、制御手段による照射方向の調整には、光軸を変えることや照射範囲を広くすることも含まれる。
【0009】
このような鉄道車両用前照灯装置によれば、現在位置と線形情報とから得ることができる車両が進入しようとする曲線区間の形状情報に基づいて、前照灯の照射方向が制御される。この結果、鉄道車両が曲線区間に進入する前から前照灯の照射方向を制御することができるので、鉄道車両の進入する線路周辺の視認性を高めることが可能となる。
【0010】
また、鉄道車両用前照灯装置では、記憶手段は、線路周辺の構造物の位置情報と、構造物に対する特定の照射指示情報をさらに記憶しており、判定手段は、現在位置と構造物の位置情報とに基づいて、車両が構造物に対して所定の距離に位置するか否かを判定し、制御手段は、判定手段によって車両が構造物に対して所定の距離に位置すると判定された場合、構造物に対応する照射指示情報に基づいて前照灯の照射方向を制御してもよい。これにより、例えば、ポイント位置では、前照灯の照射方向を調整しない等、前照灯の照射方向を調整するにあたって柔軟な対応をすることが可能となる。
【0011】
また、鉄道車両用前照灯装置は、車両の速度を検知する速度検知手段をさらに備えており、制御手段は、速度検知手段が検知する車両の速度に基づいて前照灯の照射方向を制御してもよい。これにより、前照灯は、車両速度に従って照射方向が調整される。この結果、車両の速度が速いほど、車両から遠い位置の線路周辺を照射するように前照灯を調整することができるので、運転士が確認したい位置の視認性を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、現在位置及び線形情報から得ることができる車両が進入しようとする曲線区間の形状情報に基づいて、鉄道車両が曲線区間に進入する前から前照灯の照射方向が制御されるので、鉄道車両が進行する線路周辺の視認性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係る鉄道車両用前照灯装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1の記憶部に記憶されている線形情報及び対象物情報の一例を説明する図である。
【図3】(a)は、図2で説明した線形情報のデータ構成、(b)は、図2で説明した対象物情報のデータ構成を説明する図である。
【図4】(a)は、従来の前照灯の照射方向、(b)は、図1の前照灯の照射方向を説明する図である。
【図5】図1の制御部における照射方向の調整処理を示すフローチャートである。
【図6】(a)は、図1の鉄道車両用前照灯装置における照射方向、(b)は、本発明の他の実施形態に係る鉄道車両用前照灯装置における照射方向を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な一実施形態に係る鉄道車両用前照灯装置(以下、前照灯装置と示す)20について、図1〜図5を用いて説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図1は、本発明の一実施形態に係る前照灯装置20の機能構成を示すブロック図である。
【0015】
前照灯装置20は、図1に示すように、現在位置取得部(現在位置取得手段)21と、速度検知部(速度検知手段)22と、記憶部(記憶手段)23と、判定部(判定手段)24と、ヘッドライト(前照灯)25と、制御部(制御手段)26とを含んで構成されている。
【0016】
ここで、制御部26は、図示しないCPU、主記憶装置であるRAM及びROM等を含む情報処理装置として構成されている。制御部26によって実現される機能は、CPU、RAM等のハードウェア上に所定のプログラムを読み込ませることにより実現される。
【0017】
以下、前照灯装置20の機能について説明する。現在位置取得部21は、車両1の現在位置情報を取得する部分である。具体的には、現在位置取得部21は、線路11上に所定間隔で配置されている自動列車停止装置(ATS:Automatic Train Stop)31の地上子32から現在位置情報を取得する。この場合、現在位置取得部21は、地上子32から取得できる基準位置と、車輪2の回転数から算出される距離とに基づいて車両1の現在位置情報を取得する。
【0018】
速度検知部22は、車両1の速度を検知する部分である。具体的には、速度検知部22は、車両1の車輪2の回転数を計測し、車両1の速度を検知する。記憶部23は、線形情報23aと、構造物情報23bとを記憶する部分である。
【0019】
線形情報23aは、図2に示すように、車両1が走行する線路11について直線区間の位置と曲線区間の位置と曲線区間の形状情報とを含んでいる。線形情報23aに含まれる直線区間の位置や曲線区間の位置は、キロ標(n,n+1,・・・)や座標で示される。線形情報23aに含まれる曲線区間の形状情報は、曲線半径R1,R2と曲線の向き(進行方向に向かって左向き、右向き)で示される。
【0020】
構造物情報23bは、図3(b)に示すように、構造物の位置情報(距離標)と、ヘッドライト25による構造物に対する特定の照射指示情報(備考、調整量)とを含んでいる。ここでいう構造物には、図2に示すように、トンネルT1、工事現場T2、ポイントT3をいったものがある。また、構造物には、これ以外にも、山岳区間、都市区間といった情報も含まれる。また、照射指示情報には、図3(b)に示すような、前照灯の照射方向の調整量や、調整対象となる時間等を記憶した備考情報等が含まれる。
【0021】
図1に示す判定部24は、現在位置取得部21で取得した現在位置情報と、記憶部23に記憶された線形情報23aとに基づいて、車両1が曲線区間に進入する前の切換区間に位置するのか否かを判定する部分である。ここでいう「切換区間」とは、車両1が進入しようとする曲線区間手前の一定区間をいう。図2を用いて具体的に説明すると、車両1が矢印の方向に走行する場合、切換区間は、曲線半径がR1の曲線区間手前の一定区間L1、曲線半径がR2の曲線区間手前の一定区間L2に該当する。なお、切換区間L1,L2は、車両速度、前照灯の性能等によって適宜設定される。
【0022】
また、判定部24は、車両1の現在位置情報と構造物情報23bとに基づいて、車両1が構造物に対して所定の距離に位置するのか否かを判定する部分である。
【0023】
図1に示すヘッドライト25は、車両1の進行方向前方を照射する部分である。ヘッドライト25は、図示しないモータ等の力学的な方法で光軸方向を変え、図4(a)に示す状態から図4(b)に示す状態のように、照射方向を調整することができる。また、ヘッドライト25は、ヘッドライト25周辺に配置されている図示しないリフレクタを可動させて照射方向を調整することもできる。
【0024】
図1に示す制御部26は、判定部24によって車両1が切換区間L1,L2に位置すると判定された場合、車両1が進入しようとする曲線区間の形状情報に基づいてヘッドライト25の照射方向を制御する部分である。具体的には、制御部26は、車両1が進入しようとする曲線区間の形状情報を特定すると、図3(a)に示すような対応情報に従って、ヘッドライト25の水平方向における照射方向を調整する。例えば、車両1が切換区間L1(図2参照)に位置するときは、ヘッドライト25の水平方向における照射方向をα1傾けるように調整する。
【0025】
また、制御部26は、判定部24によって車両1が構造物T1,T2,T3に対して所定の距離に位置すると判定された場合、構造物T1,T2,T3に対応する照射指示情報に基づいてヘッドライト25の照射方向を制御する部分である。具体的には、制御部26は、車両1が構造物T1,T2,T3に対して所定の距離に位置すると判定すると、図3(b)に示すような、構造物T1,T2,T3に対応する照射指示情報(調整量、備考)に従ってヘッドライト25の照射方向を制御する。
【0026】
以下、図5を用いて、前照灯装置20におけるヘッドライト25の照射方向の調整処理について説明する。最初に、現在位置取得部21は、自動列車停止装置31の地上子32から現在位置情報を取得する(ステップS01)。
【0027】
次に、判定部24は、線形情報23aを記憶する記憶部23から線形情報23aを読み出す(ステップS02)。次に、判定部24は、ステップS01において取得した現在位置情報とステップS02において読み出した線形情報23aとに基づいて、車両1の現在位置が曲線区間に進入する前の区間である切換区間に位置するのか否かを判定する(ステップS03)。
【0028】
次に、判定部24は、ステップS01において取得した現在位置情報と構造物情報23bとに基づいて、車両1の現在位置が所定の構造物に対して所定の距離に位置するか否かを判定する。例えば、判定部24は、車両1の現在位置が、図2に示すトンネルT1に対して所定の距離にあるか否かを判定する。ここで、判定部24が、車両1の現在位置がトンネルT1に対して所定の距離にないと判定した場合(ステップS04:無)は、ステップS05に移動する。また、車両1の現在位置がトンネルT1に対して所定の距離にあると判定した場合(ステップS04:有)は、ステップS07に移動する。
【0029】
ステップS04において、車両1の現在位置がトンネルT1に対して所定の距離にないと判定された場合、制御部26は、現在位置情報と線形情報23aとに基づいて、車両1が侵入しようとする曲線区間の形状情報を特定する。次に、制御部26は、図3(a)に示す曲線半径の大きさとヘッドライト25の照射方向の調整量との対応情報に基づいて、車両1が侵入しようとする曲線区間の形状情報に対応するヘッドライト25の照射方向調整量を特定する(ステップS05)。制御部26は、例えば図3(a)に示すように、車両1が進入しようとする曲線区間の曲線半径がR1の場合、ヘッドライト25の照射方向調整量をα1度と特定する。
【0030】
次に、制御部26は、ステップS05において特定された照射方向調整量に基づいて、ヘッドライト25の照射方向を調整する(ステップS06)。例えば、ステップS06において特定された照射方向調整量がα1の場合、制御部26は、図3(a)に示す状態A0から、図3(b)に示すように、ヘッドライト25の角度αを正面方向に対してα1度傾ける状態A1に調整する。
【0031】
ステップS04において、車両1の現在位置がトンネルT1に対して所定の距離にあると判定された場合、制御部26は、構造物情報23bを記憶する記憶部23から構造物情報23bを読み出す(ステップS07)。
【0032】
次に、制御部26は、図3(b)に示す構造物の種類とヘッドライト25の照射方向の調整量との対応情報に基づいてヘッドライト25の照射方向調整量を特定する(ステップS08)。制御部26は、例えば図3(b)に示すように、対象となる構造物が工事現場T2の場合、ヘッドライト25の照射方向調整量をα3度と特定する。
【0033】
次に、制御部26は、ステップS09において特定された照射方向調整量に基づいて、ヘッドライト25の照射方向を調整する(ステップS06)。例えば、ステップS06において特定された照射方向調整量がα3の場合、制御部26は、図3(a)に示す状態A0から、図3(b)に示すようにヘッドライト25の角度αをα3度傾ける状態A1に調整する。また、図3(b)に示すように、構造物情報23bを構成する情報の一つである「備考情報」に基づいて、PM10:00〜PM11:00の時間帯のみ、ヘッドライト25の角度をα3度傾ける状態A1に調整してもよい。
【0034】
以上、ステップS01〜ステップS08を実行することによって、現在位置情報と線形情報23aとから得ることができる車両1が侵入しようとする曲線区間の形状情報に基づいて、ヘッドライト25の照射方向が調整される。この結果、車両1が曲線区間に進入する前の段階からヘッドライト25の照射方向を制御して曲線区間の線路11周辺を確実に照射するので、車両1が進入しようとする線路11周辺の視認性を高めることが可能となる。
【0035】
また、本発明の前照灯装置では、図6(b)に示すように、制御部26は、速度検知部22が検知する車両1の速度に基づいてヘッドライト25の照射方向を制御してもよい。具体的には、制御部26は、車両1の速度が速いほど、車両1から遠い位置の線路11周辺を照射できるように、図6(a)に示す状態A1から、図6(b)に示す状態A2となるように制御する。
【0036】
また、制御部26は、車両1の速度が速いほど、図4(b)に示す調整角度αを大きくするように、ヘッドライト25の照射方向を制御してもよい。この場合であっても、車両1から遠い位置の線路11周辺を照射できるようになる。
【0037】
また、上記実施形態においては、曲線区間の形状情報として曲線半径を使用する例を挙げて説明したが、例えば、カント量等を使用してもよい。
【0038】
また、上記実施形態においては、制御部26は、曲線半径に基づいてヘッドライト25の照射方向を水平方向に制御する例を挙げて説明したが、例えば、ヘッドライト25の照射方向を垂直方向に制御してもよい。
【0039】
また、上記実施形態においては、制御部26は、線路11の片側にヘッドライト25を傾ける例を挙げて説明したが、例えば、左右のヘッドライト25をそれぞれ別々に制御し、線路11の両側を照射するように制御してもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、現在位置取得部21が、自動列車停止装置31から位置情報を取得する例を挙げて説明したが、ATC、ATO等の保安装置及びGPS等を利用して位置情報を取得してもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、従来の前照灯装置に換えて本発明に係る前照灯装置20を搭載した例を挙げて説明したが、例えば、従来の前照灯装置とは別に本発明に係る前照灯装置20を搭載してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…車両、2…車輪、11…線路、20…鉄道車両用前照灯装置、21…現在位置取得部、22…速度検知部、23…記憶部、23a…線形情報、23b…構造物情報、24…判定部、25…ヘッドライト、26…制御部、31…自動列車停止装置、32…地上子、R1,R2…曲線半径、L1,L2…切換区間、T1…トンネル、T2…工事現場、T3…ポイント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向前方を照射する前照灯と、
前記車両の現在位置情報を取得する現在位置取得手段と、
前記車両が走行する線路の直線区間及び曲線区間の位置情報と、前記曲線区間の形状情報とを含む線形情報を記憶する記憶手段と、
前記現在位置情報と前記線形情報とに基づいて、前記車両が前記曲線区間に進入する前の切換区間に位置するか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記車両が前記切換区間に位置すると判定された場合、前記車両が進入しようとする前記曲線区間の形状情報に基づいて前記前照灯の照射方向を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする鉄道車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記線路周辺の構造物の位置情報と、前記構造物に対する特定の照射指示情報をさらに記憶しており、
前記判定手段は、前記現在位置と前記構造物の位置情報とに基づいて、前記車両が前記構造物に対して所定の距離に位置するか否かを判定し、
前記制御手段は、前記判定手段によって前記車両が前記構造物に対して所定の距離に位置すると判定された場合、前記構造物に対応する前記照射指示情報に基づいて前記前照灯の照射方向を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記車両の速度を検知する速度検知手段をさらに備えており、
前記制御手段は、前記速度検知手段が検知する前記車両の速度に基づいて前記前照灯の照射方向を制御する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鉄道車両用前照灯装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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