説明

鉄道車両用腰掛

【課題】180度回転して向きが反転可能な腰掛において、乗客が個別に送風調節及び風向調節を容易にして、温冷感の個人差の補正を可能にする鉄道車両用腰掛を提供する。
【解決手段】腰掛を180度回転させても、腰掛の回転部分に設けた空気ダクトと固定側に設けた補助ダクトの合わせ面が同じ位置になるように、外そで3a,3bの内部で且つ腰掛の回転中心軸に対して点対称な位置に空気ダクトが設けられている。外そで3a,3bの肘掛上面から腰掛に座っている乗客に向かって調和空気の風向調節を行う風向グリル20a,20bが空気ダクト出口に、乗客の操作により送風を入り・切りする送風スイッチ21a,21bが肘掛上面に設けられている。乗客が個別に冷風あるいは温風の風量調節を容易にできるので、温冷感に対する個人差を解消できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用腰掛に関し、特に、乗客の温冷感の個人差を解消するのに好適な鉄道車両用腰掛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両にあっては、客室内の温度分布を均一化するために種々の工夫がなされている。しかし、窓側の乗客はブラインドからの輻射熱により暑く感じる場合があるなど、温冷感の個人差を補正できないという問題があった。
【0003】
そこで、車体の床下に配置された空調装置から送り出された調和空気を、床や側構体の腰部近傍に配置された空調ダクト吐出口まで立ち上げ、乗客の近傍から冷風あるいは温風を吹出して、冷風あるいは温風が乗客に到達するようにした方式が考案されている。さらに、腰掛の内部にも送風路を設けて、乗客個別に調和空気を送風するようにして、温冷感の個人差を解消する方法が考えられている(特許文献1)。
【0004】
上記の従来技術は、固定式の腰掛から調和空気を吹き出し、乗客が個別に風量調節を容易にできる点については考慮されているが、180度回転して向きを反転可能な腰掛については、送風路の配置が全く考慮されておらず、乗客が個別に風量調節をすることについては全く考慮されていなかった。
【0005】
さらに、グリーン車などの高級な腰掛は座布団と背もたれがリクライニングして座面が沈み込むなど、座席全体が動く構造となっているので、実際には座席の動く部分には送風路を確保できないという問題があった。
【特許文献1】特開平10−109644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、180度回転して向きを反転可能な腰掛において、いずれの回転位置でも腰掛から、乗客個別に調和空気を送風可能にする点で解決すべき課題がある。
本発明の目的は、180度回転して向きを反転可能な腰掛において温冷感の個人差を補正できるように、乗客が個別に送風調節及び風向調節を容易にできるような鉄道車両用腰掛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、180度回転して向きを反転可能な鉄道車両用腰掛において、前記腰掛の脚台に対する回転中心軸に対して点対称な位置に調和空気を吐出する空気ダクトを設けたことを特徴とする。
【0008】
この鉄道車両用腰掛によれば、180度回転して向きを反転可能としたいずれの回転位置でも、腰掛の内部に設けられた送風路である空気ダクトを通じて調和空気が吐出され、腰掛に着いた乗客は自己の温冷感に合わせて調和空気を個別に利用することができる。
【0009】
この鉄道車両用腰掛において、前記空気ダクトは前記腰掛の外そでの内部に設けられており、前記脚台には前記空気ダクトに調和空気を導く補助ダクトを設けることができる。腰掛の回転中心軸に対して点対称な腰掛幅方向の外そでの内部に空気ダクトを設けているので、腰掛を180度回転させて反転させるとき、腰掛がいずれの向きを向いていても、腰掛の回転部分に設けた空気ダクトと固定側である脚台に設けた補助ダクトの合わせ面が同じ位置になり、調和空気を補助ダクトから空気ダクトに送ることができる。
【0010】
また、この鉄道車両用腰掛において、前記空気ダクトが前記外そでにおいて開口する空気ダクト出口に、風向を自由に変えられる風向グリルを設け、更に、前記空気ダクト内に設けられた送風手段を入り・切りする送風スイッチを前記外そでの肘掛部に設けることができる。空気ダクト出口に設けた風向グリルによって、腰掛の外そでの肘掛上面から腰掛に座っている乗客に向かって調和空気の風向調節を行うことができる。また、空気ダクト内に設けられた送風手段のための送風スイッチを肘掛上面に設けることで、乗客が送風スイッチを操作して送風手段を入り・切りし易くなり、空気ダクトを通して個別に調和空気を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、180度回転して向きを反転可能な腰掛がいずれの向きを向いていても、乗客は、腰掛に設けられた空気ダクトを通して個別に冷風あるいは温風を得ることができるので、温冷感に対する個人差を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明による鉄道車両用腰掛の実施例を説明する。図1は本発明による鉄道車両用腰掛の一実施例である二人掛け用の腰掛の概略平面図、図2は図1に示す腰掛の左側面図であって外そでの主要断面部を示した図、図3は図1に示す腰掛の右側面図であって外そでの主要断面部を示した図である。図4は腰掛の概略正面図で、各ダクトの主要断面部を示した図である。
【0013】
図1において、鉄道車両用腰掛の一実施例として示した二人掛け用の腰掛は、乗客二人が着座可能な座布団1a,1b、背もたれとしての背ずり2a,2b、座布団1a,1bの各外側に配置されている外そで(肘掛と一体物)3a,3b、座布団1a,1bの中間に配置されている一つの中そで(肘掛と一体物で左右共用)4、及び座布団1a,1bの前方内寄りに配置された足置き台レバー5a,5bを有している。外そで3a,3bの肘掛には風向グリル20a,20bが設けられており、外そで3a,3bの肘掛上には、風向グリル20a,20bに隣接して、後述する空気ダクト内に設けられる送風手段のための送風スイッチ21a,21bが設けられている。
【0014】
図2と図3に示すように、外そで3a,3bの内部には空気ダクト22a,22bが設けられている。空気ダクト22a,22bは、下方からの調和空気を吸入する送風手段としての軸流ファン23a,23bを内蔵している。軸流ファン23a,23bは、送風スイッチ21a,21bを操作することで入り・切りされる。腰掛は脚台6によって床面との間を適切な高さに保たれている。また、足置き台レバー5a,5bを操作することによって、足置き台8a,8bの姿勢を変更することができる。背ずり2a,2bの背面には、後方座席の乗客のためのテーブル9a,9bが設けられている。
【0015】
空調装置からの調和空気を空気ダクト22a,22bに導くために、補助ダクト30が脚台6に固定されて設けられている。補助ダクト30の出口には、吹出し空気の整流と異物の浸入を防止するためのフィルタ31a,31bが設置されている。
【0016】
外そで3a,3bの内部に設けられている空気ダクト22a,22bの設置位置は、腰掛において、脚台6に対する回転中心軸に対して点対称位置とされている。したがって、二人掛け用腰掛を180度回転させて向きを反転させても、窓側と通路側の腰掛の配置と向きが逆になるだけで、反転によって入れ代わった空気ダクト22a,22bと補助ダクト30の相対位置は変わらない。
【0017】
次に、空調装置から供給される調和空気の流れを図4により詳細に説明する。車両の床下に懸垂されている空調装置から送風される調和空気は、横ハリ41と床の間に通した床中配風ダクト32に供給された後、側パネル40と内装材の間に通したフレキシブルダクト33に導かれて、荷棚下の吹出グリル34から車内に吹出される。
【0018】
本実施例では、従来のフレキシブルダクト33の他に、腰掛の脚台6側に補助ダクト30を設けて、床中配風ダクト32から調和空気を供給している。補助ダクト30は、窓側の腰掛の外そで下面に床から立ち上げたダクトと、反対側(通路側)の腰掛の外そで下面まで導いたダクトから構成されており、いずれのダクトの出口も脚台6に対する回転中心軸に対して点対称位置に配置されている。調和空気は、それぞれのダクトから両方の外そでに設けた空気ダクト22a,22bに供給されるようになっている。
【0019】
図4において、腰掛は回転装置10によって脚台6に回転可能に支持されており、ペダル7を踏むことにより腰掛の脚台6に対するロックが解除される。当該ロックの解除状態で、二人掛け用腰掛を180度回転させると、窓側と通路側の腰掛の配置と向きが逆になるが、反転入れ代わった空気ダクト22a,22bと補助ダクト30との相対位置は変わらない。腰掛は180度回転するため、補助ダクト30と空気ダクト22a,22bの合わせ面には一定の隙間を設けている。この隙間は腰掛の組立誤差を勘案して決定される。
【0020】
軸流ファン23a.23bが停止している状態では、補助ダクト30から吹出す調和空気は、空気ダクト22a,22bとの合わせ面に設けられている前記隙間から多少洩れて、乗客の足元を冷房または暖房する。軸流ファン23a,23bが回転している状態では、補助ダクトから吹き出す調和空気は空気ダクト22a,22bに吸い込まれて、外そで3a,3bの上面に設けた風向グリル20a,20bから吹き出る。乗客は冷房時に暑いと感じれば送風スイッチ21a,21bを入れて、風向グリル20a,20bの角度を調節して涼感を得ることができる。暖房時も同様である。
【0021】
車内に吐出された全ての調和空気は、車内の空気と混合されて快適な温度となり、床面に設けられている吸入口36から床中リターンダクト35に吸い込まれて、空調装置に戻っていく。なお、空気ダクト22a,22bの入口と出口についても、異物の侵入を防止するフィルタを設置することが好ましい。
【0022】
以上説明した本実施例によれば、腰掛を180度回転させても乗客は、調和空気を直接得ることができるので、個別に温冷感の個人差を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の鉄道車両用腰掛の一実施例を示す二人掛け用腰掛の平面図である。
【図2】図1に示す腰掛の左側面図であり、外そでの主要断面を示した図である。
【図3】図1に示す腰掛の右側面図であり、外そでの主要断面を示した図である。
【図4】図1に示す腰掛の正面図で、ダクトの主要断面を示した図である。
【符号の説明】
【0024】
1a,1b…座布団 2a,2b…背ずり
3a,3b…外そで 4…中そで
5a,5b…足置き台レバー 6…脚台
7…ペダル 8…テーブル
9…足置き台 10…回転装置
20a,20b…風向グリル 21a,21b…送風スイッチ
22a,22b…空気ダクト 23a,23b…軸流ファン
30…補助ダクト 31…フィルタ
32…床中配風ダクト 33…フレキシブルダクト
34…吹出グリル 35…床中リターンダクト
36…吸入口
40…側パネル 41…横ハリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
180度回転して向きを反転可能な鉄道車両用腰掛において、前記腰掛の脚台に対する回転中心軸に対して点対称な位置に調和空気を吐出する空気ダクトを設けたことを特徴とする鉄道車両用腰掛。
【請求項2】
前記空気ダクトは前記腰掛の外そでの内部に設けられており、前記脚台には前記空気ダクトに調和空気を導く補助ダクトを設けたことを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用腰掛。
【請求項3】
前記空気ダクトが前記外そでにおいて開口する空気ダクト出口に、風向を自由に変えられる風向グリルを設けたことを特徴とする請求項2記載の鉄道車両用腰掛。
【請求項4】
前記空気ダクト内に送風手段が設けられているとともに、前記送風手段を入り・切りする送風スイッチを前記外そでの肘掛部に設けたことを特徴とする請求項2記載の鉄道車両用腰掛。
【請求項5】
前記脚台に設けた前記補助ダクトの吹出口は、前記外そでの下面から一定の隙間を持たせて設置したことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項記載の鉄道車両用腰掛。
【請求項6】
前記補助ダクトの吹出口、並びに前記空気ダクトの入口及び出口において、少なくとも前記補助ダクトの吹出口にはフィルタが配置されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項記載の鉄道車両用腰掛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−137651(P2010−137651A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314564(P2008−314564)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】