説明

鉄骨ボックス柱の製造方法及び製造装置

【課題】角筒状に突き合わせたボックス部材を垂直に保持して、四隅の突き合わせ部を、それぞれ下方から上方へ移動する4個の溶接装置により溶接するボックス柱の製造に際し、それぞれの溶接装置が、他の溶接装置からの拘束力を受けることなく適正、かつ、円滑に所定の位置を上昇できるようにする。
【解決手段】ボックス部材の四隅の突き合わせ部に配置される溶接装置2を、電磁石10によるフランジ鋼板3との間の非吸着状態による一体性と、台車7の側面に設けたサイド車輪13をフランジ鋼板3の端縁に係合させることにより、それぞれ独立してフランジ鋼板3の所定位置で上昇できるように装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4枚の長尺鋼板を、長さ方向に沿った側辺が互いに直角に突き合わされるように、角筒状に組み合わせて、突き合わせ部を溶接することで製造される鉄骨ボックス柱の製造方法及びそのための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
4枚の長尺鋼板の側辺を互いに突き合わせて角筒形に組み合わせ、突き合わせ部を溶接する鉄骨ボックス柱は、市街地における超高層建築物の建設需要が高まるにつれて、益々生産量の増大化が求められつつあり、今後、一層の生産能率の向上と製造コストの低廉化が求められる時代となっている。
【0003】
従来における、鉄骨ボックス柱の製造方法としては、長尺な鋼板からなるボックス柱構成部材を、クレーン、コンベア、台車などが製造ラインと平行な向きに配列された加工装置によって、製造ラインと平行な向きに配列させて、ボックス部材をそれぞれの加工装置へ向けて一体ずつ縦向きに移送しながら製造する方法が知られている。
【0004】
このボックス部材を製造ラインに沿って縦向きに移送しながら製造する方法は、長尺なボックス部材を始端から終端まで移送するための長大な製造ライン用のスペースを必要とし、さらに部材の移送にも時間を必要とするなどの問題点を有している。
【0005】
上記のような問題点に対し、その後、ボックス部材の組立装置、溶接装置などの加工装置を、その長さ方向が製造ラインの方向と直交する横向きとなるように配列させて、ボックス部材を始端の加工装置から終端の加工装置に向けて順次転送するように移送することで、ボックス部材の移送に要する時間を短縮できるようにした製造方法も知られている。
【0006】
しかし、これらのボックス部材を製造ラインに沿って縦向き、あるいは横向き方向へ移送する製造方法では、いずれもボックス部材が厚板の場合に、溶接方法としてCO2溶接法とSAW溶接法の多層盛りによる溶接作業が必要とされ、作業に時間と手間がかかるという課題が指摘されていた。
【0007】
また、これらのボックス柱製造方法は、製造ラインとして長大なスペースを必要とするので生産能率も限界があるとされ、このような問題点を解消する手段として、ボックス部材を縦向きもしくは横向き方向へ移送するのではなく、小さいスペース上に垂直状に保持して、四隅の突き合わせ部の開先内へそれぞれ溶接トーチを配置して、下方から上方へ移動することによって四隅を同時に溶接できるようにした製造方法も知られている。
【0008】
【特許文献1】特開昭62−57778号公報
【特許文献2】特開平2−268968号公報
【特許文献3】特開平4−91865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3のような、角筒状に突き合わせたボックス部材を垂直に保持して、四隅の突き合わせ部を、下方から上方へ向けて移動するトーチにより溶接するボックス柱の製造装置は、ボックス部材を垂直に保持できるので、小さいスペース内で製造できるという利点と、四隅の溶接を一度に能率よく行えるという利点を有する。
【0010】
しかしながら、特許文献3に示された製造装置では、突き合わされたボックス部材の四隅に溶接トーチを配置する手段として、角筒状に組み合わされたボックス部材の外周に垂直な案内棒に沿って昇降する正方形の昇降枠を設けて、この昇降枠の隅角部内側に溶接トーチを設けるため、昇降枠を完璧に水平な状態に保持して上下動させることが難しく、昇降枠が多少ながら傾斜した状態で昇降するため、四隅に同時に昇降できる適正な溶接部を設けることが難しいという課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記のような従来におけるボックス柱製造方法の問題点を解消するための手段として、平行な一対のフランジ鋼板と、該フランジ鋼板の両側縁内側に直交して配置される一対のウェブ鋼板とを、箱形断面の柱状体に組立てて垂直方向に保持し、前記柱状体の四隅を構成する両フランジ鋼板の長さ方向に沿った各両側表面部には、該両側表面部への電磁石による吸引力と、フランジ鋼板の端縁へ係止されるサイド車輪の係合とによる付着性が与えられながら、上方の台車走行駆動装置に吊り下げられて、走行車輪によりフランジ鋼板の両側表面部を下方から上方へ移動する台車を備えており、それぞれの台車の側面に、上下、左右、前後方向への移動調整が可能なるように設けた溶接トーチを、柱状体の四隅に設けられた開先内へ挿入して、それぞれの台車を下方から上方へ移動することで、柱状体の四隅を同時に溶接することを特徴としている。
【0012】
台車の裏側に設けられる走行車輪は、回転面が台車の枠縁面より外側へ突出するよう取付け、台車の裏側に設けられる電磁石は、吸着面がフランジ鋼板の両側表面部との間に隙間が設けられるように取付けられていることが好ましい。
【0013】
また、台車の裏側に設けられる走行車輪は、台車が上方へ引き上げられた時に、台車がフランジ鋼板の長さ方向に沿った中心軸側へ指向するように、車軸の向きを斜め上方に向けて傾斜させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のボックス柱製造装置は、ボックス部材が組み合わされた四隅の開先に、溶接を施すためのトーチを、それぞれ独立した構成として、トーチを支持する台車をフランジ鋼板の表面へ磁力による吸引力と、サイド車輪のフランジ鋼板の端縁への係止とにより、的確な付着性と移動可能性とが与えられ、それぞれの溶接それぞれにおける他の溶接装置からの影響を受けることなく、正確な溶接作業を進めることができる。
【0015】
また、各溶接装置は、台車のフランジ鋼板に対する磁石吸引力と、サイド車輪のフランジ鋼板端縁への係止作用とにより、ボックス部材との着脱が簡単に行えるので、作業能率の向上を期待することができる。
【0016】
本発明の溶接装置の実施に際しては、溶接システムとして、タンデムエレクトロガスアーク溶接(EGW)システムを用いることが好ましく、これにより、それぞれの溶接装置の下方から上方へのワンパス溶接による溶接時間の短縮と、大幅な工数の削減、コストダウンを期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のボックス柱製造方法は、ボックス部材が組み合わされた隅角部に、溶接を施すための溶接装置が、それぞれ独立して上昇できるように配置するための手段として、溶接トーチを支持するための台車を、フランジ鋼板の表面へ磁力による吸引力と、サイド車輪のフランジ鋼板の端縁への係止作用とにより、的確な付着性と移動可能性とが与えられて、他の溶接装置からの影響を受けることなく、正確な溶接作業が進められるようにする。
【実施例】
【0018】
次に、本発明に係るボックス柱製造装置の構成を、図面に示す実施例について説明すると、このボックス柱製造装置は、図1に示すように、4枚の長尺鋼板の長手方向に沿った両側縁を互いに突き合わして、垂直に配置された箱形断面の柱状体1の四隅に、それぞれ独立して取り付け、取り外しが簡単に行えるように設けられた4台の溶接装置2により基本的に構成されている。
【0019】
箱形断面の柱状体1は、平行に配列された一対のフランジ鋼板3と、該フランジ鋼板3の長さ方向に沿った両側縁と直交して配置される一対のウェブ鋼板4とが断面箱形に組み合わされていて、それぞれのウェブ鋼板4における両側縁には、それぞれのフランジ鋼板3の裏面端縁との間に溶接用の開先5が設けられており、また、これらの開先5の裏側には裏当て金6が設けられている。
【0020】
柱状体1の四隅に装着されるそれぞれの溶接台車2は、図2乃至図6に示すように、フランジ鋼板3の長手方向に沿った両側縁3a寄りの表面に、上方から吊下げられるように配置された台車7と、この台車7を柱状体1の上方に配置した台車走行駆動ギヤボックス8から下方へ延びる駆動チエーン9により吊下げて、台車7が上下方向へ昇降するように構成されている。
【0021】
台車7の内側には、この台車7をフランジ鋼板3の長手方向に沿った両側縁3aの表面に支持させるための電磁石10と、台車7をフランジ鋼板3の両側縁3a表面に沿って上下方向へ移動させるための走行車輪11が、台車7内の四隅に設けられている。
【0022】
この台車7内に設けられる電磁石10は、磁力面10aが走行車輪11のフランジ鋼板3の表面との接触面11aよりも内側に位置するように設けられていて、走行車輪11はフランジ鋼板3の表面と接触して走行するが、電磁石10の磁力面10aはフランジ鋼板3の表面に対して吸引力を発揮するだけで、フランジ鋼板3の表面とは吸着せずに、磁力面10aとフランジ鋼板3の表面との間に空間が設けられ、台車7が上方の駆動チエーン9による引き上げ力を受けると、前記走行車輪11によってフランジ鋼板3の表面に沿って上昇するように構成されている。
【0023】
また、図3に示すように、台車7の鉛直方向に沿った一側辺7aには、台車7の内側開口縁7bと平行な向きに突出するL型鋼からなる支持具12を設けて、この支持具12に、フランジ鋼板3の端縁3cと係合することで、台車7を所定の位置に沿って上方へ移動させるサイド車輪13が設けられている。
【0024】
台車7の一側辺7aから突出させたサイド車輪13を、フランジ鋼板3の端縁3cに係合するように接触させることで、台車7をフランジ鋼板3の端面3cに沿って正しく上昇させることができるが、図4に示したように、台車7内に設ける前記走行車輪11を、図6に示したフランジ鋼板3の中心線Pの上方部へ指向するような向きに傾斜させておくと、台車7を上昇させる時に、台車7がフランジ鋼板3の中心線P上方部方向へ移動しようとして、サイド車輪13をフランジ鋼板3の端縁3cにしっかりと係合させることになり、台車7をフランジ鋼板3から外れることなく正確に上昇させることができる。
【0025】
図2に示すように、フランジ鋼板3の表面に装着される溶接装置2の台車7の外側には、柱状体1の長さ方向と直交する水平方向に複数個、好ましくは3本の主アーム15が、スリーブ14を介して出し入れできるように設けられていて、これらの主アーム15の先端には、いずれも複数本の可動アーム16を上下、左右、前後方向への移動調整可能なるように組み合わせた位置決め装置17介して、ウェブ鋼板4の両側端に設けられた開先5内へ向けて溶接トーチ18が挿入されるように設けられている。
【0026】
この主アーム15の先端に、位置決め装置17を介して設けられる溶接トーチ18を備えた溶接装置としては、タンデムエレクトロガスアーク溶接(EGW)システムを用いることが好ましく、図2及び図8のbに示すように2本の溶接トーチ18、18のうち、一方の溶接トーチ18には、厚板に対し必要とする溶接断面積が得やすくするための揺動装置19が設けられている。また、下段の位置決め装置17には、前記溶接トーチ18、18が挿入される開先5の溶融金属が表に溶落するのを防ぎ、溶接外観を整えるための水冷銅当て金20が取付けられている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明のボックス柱製造装置では、柱状体1の四隅に、溶接装置2を柱状体1の隅角部に沿って別個に独立して移動できるように設けたので、それぞれの溶接装置2は、特許文献3の溶接装置のように、一個の昇降枠によってそれぞれの溶接装置2が互いに拘束されることがなく、それぞれの溶接装置2を溶接条件に適するように円滑に上昇させることがでる。
【0028】
また、この発明の溶接装置では、4個の溶接装置2を、柱状体1の隅角部に別個に独立して設けるため、それぞれの溶接装置2は一個の昇降枠台による拘束力を受けないために、柱状体1との間に一体的な付着性が欠けるのではないかということが懸念されるが、それぞれの溶接装置2は、電磁石10によるフランジ鋼板3との間の非吸着状態による一体性と、台車7の側面にサイド車輪13を設けたことによるフランジ鋼板3端縁との係止作用とにより、それぞれの溶接装置2が確実に装着され、溶接作業を能率的に進めることができる。
【0029】
また、本発明の溶接装置によると、ボックス柱を垂直に配置して隅角部の溶接を行うので、製造作業に必要とされるスペースを、従来の縦向きもしくは横向きとする製造装置に比較して大幅に節減できるとともに、溶接システムとしてタンデムエレクトロガスアーク溶接(EGW)システムを利用することで、下方から上方への一回の溶接作業により四隅の溶接を同時に進めることができ、溶接時間の短縮と、大幅な工数の削減により、生産能率の向上とコストの低廉化を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るボックス柱製造装置の構成を示す平面図。
【図2】ボックス柱の一つの隅角部に設けられた溶接装置の構成を示す斜視図。
【図3】溶接装置を構成する台車の内側の形状を示す斜視図。
【図4】台車の内側形状を示す平面図。
【図5】図4のIV−IV線における断面図。
【図6】ボックス柱の二つの隅角部に設けられた溶接装置の構成を示すボックス柱の正面図。
【図7】ボックス柱の二つの隅角部に設けられた溶接装置の構成を示すボックス柱の側面図。
【図8】(a)は図6のa−a線における断面図、(b)は図6のb−b線における断面図、(c)は図6のc−c線における断面図。
【符号の説明】
【0031】
1:柱状体、
2:溶接装置、
3:フランジ鋼板、
4:ウェブ鋼板、
5:開先、
6:裏当て金、
7:台車、
8:台車走行駆動ギヤボックス、
9:駆動チエーン、
10:電磁石、
11:走行車輪、
12:支持具、
13:サイド車輪、
14:スリーブ、
15:主アーム、
16:アーム、
17:位置決め装置、
18:溶接トーチ、
19:揺動装置、
20:銅当て金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行な一対のフランジ鋼板と、該フランジ鋼板の両側縁内側に直交して配置される一対のウェブ鋼板とを、箱形断面の柱状体に組立てて垂直方向に保持し、
前記柱状体の四隅を構成する両フランジ鋼板の長さ方向に沿った各両側表面部には、該両側表面部への電磁石による吸引力と、フランジ鋼板の端縁へ係止されるサイド車輪の係合とによる付着性が与えられながら、上方の台車走行駆動装置に吊り下げられて、走行車輪によりフランジ鋼板の両側表面部を下方から上方へ移動する台車を備えており、
それぞれの台車の側面に、上下、左右、前後方向への移動調整が可能なるように設けた溶接トーチを、柱状体の四隅に設けられた開先内へ挿入して、それぞれの台車を下方から上方へ移動することで、柱状体の四隅を同時に溶接する鉄骨ボックス柱の製造方法。
【請求項2】
平行な一対のフランジ鋼板と、該フランジ鋼板の両側縁内側に直交して配置される一対のウェブ鋼板とを、箱形断面の柱状体に組立てて垂直方向に保持し、
前記柱状体の四隅を構成する両フランジ鋼板の長さ方向に沿った各両側表面部には、該両側表面部への電磁石による吸引力と、フランジ鋼板の端縁へ係止されるサイド車輪の係合とによる付着性が与えられながら、上方の台車走行駆動装置に吊り下げられて、走行車輪によりフランジ鋼板の両側表面部を下方から上方へ移動する台車を備えており、
それぞれの台車の外側には、前記柱状体の長さ方向と直交する水平方向に移動する主アームを設けて、これらの主アームの先端に上下、左右、前後方向への移動調整可能な位置決め装置を介して、柱状体の四隅に設けられた開先内へ向けて挿着される溶接トーチを支持させた鉄骨ボックス柱の製造装置。
【請求項3】
台車の裏側に設けられる走行車輪は、回転面が台車の枠縁面より外側へ突出するよう取付け、台車の裏側に設けられる電磁石は、吸着面がフランジ鋼板の両側表面部との間に隙間が設けられるように取付けられている請求項2の鉄骨ボックス柱の製造装置。
【請求項4】
台車の裏側に設けられる走行車輪は、台車が上方へ引き上げられた時に、台車がフランジ鋼板の長さ方向に沿った中心線上方側へ指向するように、車軸の向きを斜め上方に向けて傾斜させた請求項2の鉄骨ボックス柱の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−100236(P2008−100236A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282812(P2006−282812)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】