説明

鉄骨梁組体

【課題】 鉄骨梁組の製造が容易で、熟練した特殊技術を身につけていない者でも簡単に鉄骨梁組の組立・製作が可能で、建築コスト・大型母屋の製造コスト等を大幅に削減することができ、多様な形状・構造の鉄骨梁組にも対応可能な汎用性を有する鉄骨梁組を提供する。
【解決手段】 複数のH型鋼大梁と、H型鋼大梁と交差して連結される複数の大型母屋とからなり、大型母屋は複数のZ型鋼を連結してなり、Z型鋼は、平行に設けられた一対の平板と、互いの平板の縁部を直角に連結する一つの連結板とからなり、Z型鋼の一方の平板と、H型鋼大梁の一方の平板とが接して連結され、大型母屋は、隣り合うZ型鋼の一部が重なり合って連結されていることを特徴とする。また、H型鋼大梁と大型母屋の連結部は、隣り合う前記Z型鋼の一部が重なり合って連結された箇所と同位置であっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁組体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造(s造)の建築物を建造する時には、鉄骨梁組を使用するのが一般的である。図11は従来一般的に使用されてきた鉄骨梁組を示した説明図であり、図12は図11に示された鉄骨梁組の正面図である。
【0003】
この鉄骨梁組は、複数の大梁間に屋根材を取り付けるための小梁を設けている。大梁としてはH型鋼を使用し、小梁は大梁よりも小型なH型鋼を使用している。大梁と小梁の連結は、ガセットプレートと呼ばれる鉄板をH型鋼の平板間に溶接連結し、ガセットプレートと小梁を高力ボルトによって締結し、大梁と小梁を連結していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した鉄骨梁組は、大梁と小梁を連結するために、大梁とガセットプレートを溶接して連結固定する必要がある。しかし、溶接は作業時間がかかってしまう、溶接作業者の技術力によって強度等の出来上がりに差が生じてしまうといった問題を有していた。また、図13に示されたように鉄骨梁組に使用される大梁及び小梁の数量が多いと、大梁に溶接するガセットプレートの数量も増えるため、鉄骨梁組製造・組立にかかる時間も長くなり、建設全体の工期に影響してしまうという問題も生じていた。
【0005】
また、溶接による連結は、連結箇所の変更及び若干の調整等ができないため、鉄骨梁組の製造・組立には完全な施工図が求められる。しかし、建設現場や作業現場では、何らかの要因でガセットプレートの位置変更や、連結箇所の若干の調節が求められる場合がある。この時、大梁にガセットプレートを溶接している場合は、小梁の設置位置の変更ができず、大梁を新たに製造し直したり、別の箇所に新たなガセットプレートを取り付けなければならず、非常に困難で大変であった。
【0006】
また、小梁とガセットプレートを連結する時、図示されたように、小梁の下端側の一部を切除しないと連結できない。つまり、H型鋼の一部を切除する作業が必要となり、小梁の製造コストがかかってしまうという問題も有していた。
【0007】
以上のことから、鉄骨梁組の製造・組立が容易で、熟練した特殊技術を身につけていない者でも簡単に鉄骨梁組の製作が可能で、建築コスト・小梁の製造コスト等を大幅に削減することができ、多様な形状・構造の鉄骨梁組にも対応可能な汎用性を有する鉄骨梁組の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る鉄骨梁組体は、複数のH型鋼大梁と、H型鋼大梁と交差して連結される複数の大型母屋とからなり、大型母屋は、複数のZ型鋼を連結してなり、Z型鋼は、平行に設けられた一対の平板と、互いの平板の縁部を直角に連結する一つの連結板とからなり、Z型鋼の一方の平板と、H型鋼大梁の一方の平板とが接して連結され、大型母屋は、隣り合うZ型鋼の一部が重なり合って連結されていることを特徴とする。
【0009】
また、H型鋼大梁と大型母屋の連結部は、隣り合うZ型鋼の一部が重なり合って連結された箇所と同位置であっても良い。
【0010】
また、H型鋼大梁と大型母屋の連結部には、略L型のネコプレートが設けられていても良い。
【0011】
また、H型鋼大梁は、複数が等間隔且つ平行に設けられていても良い。
【0012】
また、複数の大型母屋は、等間隔且つ平行に設置され、H型鋼大梁と直交していても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る鉄骨梁組体は、複数のH型鋼大梁と、H型鋼大梁と交差して連結される複数の大型母屋とからなり、大型母屋は複数のZ型鋼を連結してなり、Z型鋼は平行に設けられた一対の平板と、互いの平板の縁部を直角に連結する一つの連結板とからなり、Z型鋼の一方の平板と、H型鋼大梁の一方の平板とが接して連結されていることを特徴とするため、H型鋼大梁と大型母屋の連結が非常に容易で、鉄骨梁組体製造及び組立にかかる時間を大幅に短縮することができ、コスト低減に多大に貢献することができる。更に、H型鋼大梁と大型母屋の連結箇所の変更や若干の調整も容易なため、どの様な形状・を有する鉄骨梁組にも適用することができ、汎用性を有する鉄骨梁組体を提供することができる。
【0014】
また、本発明に係る大型母屋は、隣り合うZ型鋼の一部が重なり合って連結されているため、大型母屋製造に係る時間及び作業量を低減することができ、製造コスト低減に多大に貢献することができる。更に、大型母屋の長さ調節等も容易であるため、鉄骨梁組体の長さ調節や大型母屋の設置位置の調節等も容易に可能とすることができる。更に、建設現場・作業現場でも大型母屋の組立が可能となるため、建築現場の環境を問題にせず、利便性を有する鉄骨梁組体を提供することができる。
【0015】
また、H型鋼大梁と大型母屋の連結部は、隣り合うZ型鋼の一部が重なり合って連結された箇所と同位置であるため、H型鋼大梁と大型母屋の連結及びZ型鋼同士の連結を同一箇所で行うことができ、それぞれの連結が強固になると共に、無駄な連結具や連結補助具を使用する必要が無くなり、効率の良い連結ができる。
【0016】
また、H型鋼大梁と大型母屋の連結部には、略L型のネコプレートが設けられているため、H型鋼大梁と大型母屋の連結を更に強固にすることができ、鉄骨梁組体の強度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る鉄骨梁組体2について、図を参照にしながら説明する。図1は、本発明に係る鉄骨梁組体2の一実施の形態を示した説明図であり、図9は本発明に係る鉄骨梁組体2を示した平面図である。なお、これらの図は、本発明を説明するためだけのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0018】
本発明に係る鉄骨梁組体2は、複数のH型鋼大梁4と、H型鋼大梁4と交差する複数の大型母屋10とからなることを特徴とする。
【0019】
H型鋼大梁4は、図1に示されたように平行に設けられた一対の平板6と、平板6の中心を直角に連結する一つの連結板8を有している。このH型鋼は、一般的な鉄骨梁組を形成する際に用いられるものを使用することができ、寸法、材料等の種々の条件は適宜設定すれば良い。
【0020】
このH型鋼大梁4の設置箇所・設置間隔等については、鉄骨梁組体2の形状・構造を考慮して適宜設定すれば良いが、図9に示されたように、複数のH型鋼大梁4を等間隔且つ平行に設けても良い。
【0021】
また、本発明に係る大型母屋10は、複数のZ型鋼12を連結してなることを特徴とする。図10は、Z型鋼12の一形態を示した説明図である。本発明に係るZ型鋼12は、平行に設けられた一対の平板14と、互いの平板14の縁部を直角に連結する一つの連結板16とからなる。図中では、平板14の端部に折り曲げ部が設けられているが、適宜設定すれば良い。また、Z型鋼12の材料、寸法等の条件は、鉄骨梁組体2の形状、構造、寸法、強度等の種々の条件を考慮して適宜設定すれば良い。
【0022】
この大型母屋10は、隣り合うZ型鋼12の一部が重なり合って連結されていることを特徴とする。このZ型鋼12の連結は、図1に示されたように、隣り合うZ型鋼12の一部を重ね合わせ、連結板16上にてボルト締結をしている。連結箇所は、連結板16上に限らずその他の部位を連結しても良く、連結方法についても、隣り合うZ型鋼12を重ね合わせて連結することができれば、ボルト締結以外のどの様な連結方法を使用しても良い。ボルト締結する場合は、図1に示されたように、4箇所締結するのが良いが、連結強度等を考慮して適宜設定すれば良い。このZ型鋼12の連結では、連結補助具等を使用しても良く、適宜設定すれば良い。
【0023】
大型母屋10にZ型鋼12を使用することで、Z型鋼12を重ね合わせて連結することができ、大型母屋10の長さを任意に設定及び調節が可能となる。つまり、H型鋼やC型鋼は、H型鋼同士、C型鋼同士を重ね合わせて連結することができないため、長い大型母屋10が必要な場合は、H型鋼同士又はC型鋼同士を溶接連結するか、長いH型鋼又はC型鋼を製造するしかない。これに対して、Z型鋼12は、一部を重ね合わせて連結することができるため、溶接する必要が無くなり、大型母屋10の製造が容易となる。また、Z型鋼12の連結本数、Z型鋼12の重ね合わせる長さ等を調節することで、大型母屋10の長さを自在に調節できるため、どの様な大きさ、形状の鉄骨梁組にも対応することが出来るため、製造・組立が非常に容易で汎用性を有した鉄骨梁組体2を提供することができる。
【0024】
H型鋼大梁4と大型母屋10の連結については、H型鋼大梁4にZ型鋼12を積載し、H型鋼大梁4の平板6とZ型鋼12の平板14をボルト締結して連結するのが良い。図2及び図3は、本発明に係る鉄骨梁組体2の断面図である。図2は、隣り合うZ型鋼12の一部が重なり合った箇所と、H型鋼大梁4とZ型鋼12の連結部が同位置である場合を示した図であり、図3は、その他の場合を示した図である。また、図4は、本発明に係る鉄骨梁組体2の正面図である。図示された連結方法では、H型鋼大梁4とZ型鋼12の連結がボルト締結で済むため、連結作業が非常に容易である。また、ボトル締結用の貫通穴を形成するだけで良いため、大型母屋10の設置箇所の決定、設置位置の調節が非常に容易である。また、何らかの要因によってH型鋼大梁4と大型母屋10の連結箇所を変更しなければならない場合でも、即座に対応することができる。
【0025】
また、上記したボルト締結以外にも、その他の連結方法を用いても良い。例えば、図5に示されたように、H型鋼大梁4と大型母屋10の連結部に、略L型のネコプレート18を設けても良い。図6及び図7は、図5に示された鉄骨梁組体2の断面図である。図6は、隣り合うZ型鋼12の一部が重なり合った箇所と、H型鋼大梁4とZ型鋼12の連結部が同位置である場合を示した図であり、図7は、その他の場合を示した図である。また、図8は、図5に示された鉄骨梁組体2の正面図である。このネコプレート18は、一方の板部材をH型鋼大梁4の平板6に溶接し、もう一方の板部材をZ型鋼12の連結板16とボルト締結している。このネコプレート18を設けた場合は、H型鋼大梁4とZ型鋼12をボルト締結しなくても良いが、適宜設定すれば良い。このネコプレート18以外にも、H型鋼大梁4と大型母屋10の連結を補助する連結補助部材等を設けても良い。
【0026】
また、H型鋼大梁4と大型母屋10の連結部は、隣り合うZ型鋼12の一部が重なり合って連結された箇所と同位置であっても良い。図1、図2、図5又は図6等に示されたように、H型鋼大梁4と大型母屋10の連結箇所と、隣り合うZ型鋼12の一部が重なり合った箇所を同位置とすることで、H型鋼大梁4と大型母屋10を連結すると共に、隣り合うZ型鋼12同士の連結もでき、効率良い連結が可能となる。また、隣り合うZ型鋼12同士の連結を更に強固にすることができる。
【0027】
また、複数の大型母屋10の設置間隔や設置位置等の条件については、鉄骨梁組体2の形状・構造を考慮して適宜設定すれば良いが、図9に示されたように、等間隔且つ平行に設置され、H型鋼大梁4と直交していても良い。
【0028】
次に、本発明に係る鉄骨梁組体2の組立方法について説明する。まずH型鋼大梁4を所定位置に設置する。次に、H型鋼大梁4上の所定位置に大型母屋10を積載する。この時、大型母屋10は予め複数のZ型鋼12を連結した状態でも良いし、H型鋼大梁4にZ型鋼12を積載した後、複数のZ型鋼12を連結して大型母屋10としても良い。
【0029】
ネコプレート18を設ける場合は、H型鋼大梁4と大型母屋10との連結部において、H型鋼大梁4の平板6とネコプレート18の一方の平板部材とを溶接して連結する。ネコプレート18のもう一方の平板部材は、Z型鋼12の連結板16とボルト締結する。
【0030】
H型鋼大梁4と大型母屋10の連結位置が決定した後、Z型鋼12の平板14とH型鋼大梁4の平板6をボルト締結して連結すれば、H型鋼大梁4と大型母屋10の連結が完了する。上記行程を繰り返し、全てのH型鋼大梁4と大型母屋10を連結すれば鉄骨梁組体2を組み立てることができる。
【0031】
以上が本発明に係る鉄骨梁組体2についての説明であるが、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の条件及び設定は変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る鉄骨梁組体の一実施の形態を示した説明図である。
【図2】図1に示された鉄骨梁組体の断面図である。
【図3】図1に示された鉄骨梁組体の断面図である。
【図4】図1に示された鉄骨梁組体の正面図である。
【図5】本発明に係る鉄骨梁組体の一実施の形態を示した説明図である。
【図6】図5に示された鉄骨梁組体の断面図である。
【図7】図5に示された鉄骨梁組体の断面図である。
【図8】図5に示された鉄骨梁組体の正面図である。
【図9】本発明に係る鉄骨梁組体を示した平面図である。
【図10】本発明に係るZ型鋼を示した説明図である。
【図11】従来の鉄骨梁組の一形態を示した説明図である。
【図12】従来の鉄骨梁組の連結部を示した正面図である。
【図13】従来の鉄骨梁組を示した平面図である。
【符号の説明】
【0033】
2 鉄骨梁組体
4 H型鋼大梁
6 平板
8 連結板
10 大型母屋
12 Z型鋼
14 平板
16 連結板
18 ネコプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のH型鋼大梁と、該H型鋼大梁と交差して連結される複数の大型母屋とからなる鉄骨梁組体であって、該大型母屋は、複数のZ型鋼を連結してなり、該Z型鋼は、平行に設けられた一対の平板と、互いの該平板の縁部を直角に連結する一つの連結板とからなり、該Z型鋼の一方の平板と、前記H型鋼大梁の一方の平板とが接して連結され、前記大型母屋は、隣り合うZ型鋼の一部が重なり合って連結されていることを特徴とする鉄骨梁組体。
【請求項2】
前記H型鋼大梁と前記大型母屋の連結部は、隣り合う前記Z型鋼の一部が重なり合って連結された箇所と同位置であることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨梁組体。
【請求項3】
前記H型鋼大梁と前記大型母屋の連結部には、略L型のネコプレートが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄骨梁組体。
【請求項4】
前記H型鋼大梁は、複数が等間隔且つ平行に設けられていることを特徴とする請求項1〜3に記載の鉄骨梁組体。
【請求項5】
前記複数の大型母屋は、等間隔且つ平行に設置され、前記H型鋼大梁と直交していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鉄骨梁組体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−152673(P2006−152673A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344480(P2004−344480)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(301066051)株式会社 桑本賢一設計事務所 (5)
【Fターム(参考)】