説明

鉛フリーはんだ

【課題】鉛フリーはんだの熱伝導率を向上させ、コストと信頼性とを両立した、200℃以上で使用可能な、高温鉛フリーはんだを提供する。
【解決手段】鉛フリーはんだに、グラフェンまたはグラファイトを添加することとする。鉛フリーはんだが、Biを主成分とし、Agを含み、残りが他の不可避的不純物元素から構成される。鉛フリーはんだが、Biを主成分とし、0<Ag≦11wt%のAgを含む。グラフェンまたはグラファイトの添加量が、5wt%以上で30wt%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温鉛フリーはんだに、カーボン材料である、グラフェンやグラファイトを添加し、熱伝導率を向上させた高温鉛フリーはんだに関し、特に、BiAg系の高温鉛フリーはんだに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーデバイスの使用温度は200℃以上へと高温化が求められている。
そのため、はんだにおいても、使用温度が200℃以上であることが望まれる。しかし、高温化が容易なPbは、RoHS(電子・電機機器における特定有害物質の使用制限についての欧州連合(EU)による指令)により規制されるため、鉛フリーの高温はんだが必要となる。
【0003】
鉛フリーの高温はんだとしては、現在、SnAg合金が使用されているが、使用可能温度は150℃であるため、求められている200℃では、使用することができない。SnAg合金を200℃まで使用することができるようにするための一つの方法として、Agの添加量を上げることが挙げられるが、コストが高くなってしまう。
【0004】
低コストと200℃の高温使用との両立を目的に、Snの代わりにBiを用いたBiAg合金を用いた、鉛フリーはんだの検討が行なわれている(特許文献1参照)。
特許文献1においては、鉛フリーはんだは、それぞれ2wt%から18wt%および98wt%から82wt%の量の銀とビスマスの合金を含むものとされている。このBiAg合金でなる鉛フリーはんだは、メルティングポイントが260℃であり、高温鉛フリーはんだとして期待される。
【0005】
特許文献2には、Sn、Sb、Ag、Cuを主要構成元素とし、42wt%≦SB/(Sn+Sb)≦48wt%で、5wt%≦Ag<20wt%で、3wt%≦Cu<10wt%、かつ5wt%≦Ag+Cu≦25wt%の組成を有し、残りが他の不可避的不純物元素から構成された、高温鉛フリーはんだが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、Agが2〜12wt%、Auが40〜55wt%、その他がSnからなる高温鉛フリーはんだが開示されている。
特許文献1〜3に示されるように、最近では、高温鉛フリーはんだの開発が、急ピッチでおこなわれている。
【0007】
グラファイトは層状物質で、層毎の面内は、強い共有結合(sp)で炭素間が繋がっているが、層と層の間(面間)は、弱いファンデルワールス力結合している。それゆえ層状にはがれる(へき開完全)。電子状態は、半金属的である。グラファイトが剥がれて厚さが原子一個分しかない単一層となったものはグラフェンと呼ばれ、金属と半導体の両方の性質を持つことから現在研究が進んでいる。
グラフェンは、非特許文献1のように、2004年に発見された新規のナノカーボン材料である。このグラフェンの移動度は15000cm/Vsとシリコンに比べて一桁以上高い値を示すことから、産業応用として、様々なものが提案されており、シリコンを超えるトランジスタへの応用、スピン注入デバイス、単分子を検出するガスセンサーなど、多岐にわたっている。中でも導電性薄膜や透明導電膜への適用は注目されており、活発に開発が行なわれている。
【0008】
グラフェンの機械強度については、非特許文献2に報告されており、ヤング率は1TPaという非常に高い強度を有している。また熱伝導率については非特許文献3に報告されており、4000〜5000W/mKという、金属に比べて一桁以上高い値を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−533327号公報
【特許文献2】特開2007−152385号公報
【特許文献3】WO2006/049024
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K. S. Novoselov, A. K. Geim, S. V. Morozov, D. Jiang, Y. Zhang, S. V. Dubonos, I. V. Grigorieva, A. A. Firsov, Science 306 666 (2004).
【非特許文献2】C. Lee, X. Wei, J. W. Kysarand J. Hone, Science 321 385-388 (2008).
【非特許文献3】A. A. Balandin, S. Ghosh, W. Bao, I. Calizo, D. Teweldebrhan, F. Miao, and C. N. Lau, NanoLett. 8 902-907 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示されたBiAg合金は低熱伝導率であり、はんだとして使用する場合、長期信頼性などを確保することが難しい。
また特許文献2に開示された合金は、4元はんだであり、各成分を調整する場合に手間を要する可能性もある。
【0012】
さらに特許文献3に開示された合金は、Auを多量に用いており、コスト面の問題がある。
本発明の目的は、鉛フリーはんだの熱伝導率を向上させ、コストと信頼性とを両立した、200℃以上で使用可能な、高温鉛フリーはんだを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、上記の課題を解決するために、
鉛フリーはんだに、グラフェンまたはグラファイトを添加することとする。
鉛フリーはんだが、Biを主成分とし、Agを含み、残りが他の不可避的不純物元素から構成されることが好ましい。
鉛フリーはんだが、Biを主成分とし、0<Ag≦11wt%のAgを含むことが更に好ましい。
グラフェンは、単一層のシート状で添加されることが好ましい。
グラファイトは、グラフェンが2層以上積層されたシート状で添加されることが好ましい。
グラフェンもしくはグラファイトの添加量が、5wt%以上で30wt%未満であることが好ましい。
Agの添加量が上記の範囲であると、Agの有する高融点という効果を保ちつつコストを下げることができるので好ましい。
グラフェンが単層であると、熱伝導率が4000W/mK以上であり、グラファイトの2倍となるので、高温使用時の耐久性が向上するという理由で好ましい。
グラファイトが、グラフェンが2層以上積層されたものであると、熱伝導率はグラフェンに劣るものの、機械的強度が厚くなるほど強くなるため延性が向上するので好ましい。なお、あまりグラファイトが厚くなると、はんだ中での挙動に不都合を起こす場合も有り得るので最高で10層程度が特に好ましい。
グラフェンもしくはグラファイトの添加量が5wt%以上で30wt%未満であると、グラフェンがBiAg合金を架橋し、強度が増加するので好ましい。ただ、グラフェンもしくはグラファイトの添加量が、30wt%を超えると、はんだ自体の特性に影響を与える可能性もあるので、上限は30wt%とすることが特に好ましい。
なお、本発明においては、単層のグラフェンのみをグラフェンと呼び、2層以上グラフェンが積層されたものは、グラファイトと呼ぶものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特にBiAg合金の中にグラフェンもしくはグラファイトを添加することにより、グラフェンがBiAgに濡れ性が有るため、BiAgを補強するようにグラフェンが働き、引っ張り強度の増加が見込める。また、グラフェンが高い熱伝導率を有することから、BiAgに添加することで、高い熱伝導率を有することができ、200℃以上の高温への対応、高信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の、鉛フリーはんだにグラフェンを添加した場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のグラフェンの製造方法は、BiAgはんだの場合、BiとAgとを溶融させた液の中にグラフェンシートを添加して攪拌することで作製される。グラフェンシートの製造方法としては、化学的剥離によって得ることができる。
【0017】
化学的剥離によるグラフェンシート薄膜の製造は、従来公知の方法により行なうことができる。例えばHummers法(濃硫酸、硝酸ナトリウム共存下で過マンガン酸カリウムを用いて酸化する方法)により、酸化グラファイトを合成し、これを溶媒に展開して超音波を照射することで、酸化グラファイトが層方向に剥離し、酸化グラフェンを含む懸濁液が得られる。
【0018】
具体的には、グラファイトを濃硫酸中に浸し、過マンガン酸カリウムを加えて反応させた後、反応物を硫酸中に浸し、過酸化水素を加えて反応させて、酸化グラファイトを得る。グラファイトを濃硫酸中で過マンガン酸カリウムを加えて反応させることで、炭素原子に酸素原子が結合し、層間に酸素原子が導入されて酸化グラファイトが得られる。
【0019】
次いで、このようにして得られた酸化グラファイトを溶液に分散することで、層間に溶媒分子が挿入され、層方向にのみ剥離させることができ、面方向のサイズが大きい酸化グラフェンを高い収率で回収できる。また、溶媒に分散後の溶液を遠心分離し、上澄み液を回収することで、酸化グラフェンを高濃度に含む懸濁液が得られる。溶媒としては、特に限定されるものではないが、極性溶媒が好ましい。極性溶媒は、溶解度パラメータが高い。例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、N−ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドンから選ばれる1種又は2種以上の混合液などが挙げられる。
【0020】
懸濁液中の酸化グラフェンの濃度は、0.001〜0.1mg/mlが好ましく、0.003〜0.01mg/mlがより好ましい。0.001mg/ml未満であると、最終的に得られるグラフェン薄膜の厚みを大きくすることが困難になる傾向にある。一方、0.1mg/mlを超えると、成膜の際に酸化グラフェン同士が凝集し、均一に成膜することが難しくなる傾向がある。
【0021】
得られる酸化グラフェンは単層であることが好ましい。
酸化グラフェンの還元には、純ヒドラジンまたはヒドラジン一水和物を100℃に加熱した酸化グラフェン溶液に添加することで行なっている。加熱温度は、好ましくは50〜120℃、より好ましくは100〜120℃の温度である。
【0022】
還元する時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上行なう。このようにして酸化グラフェンシートを還元することで、還元されてグラフェンシートの溶液となる。こうして得られたグラフェンシートの大きさは、面方向で100nmから100μmである。
【0023】
一方、鉛はんだにグラファイトを添加する場合には、市販品を購入して使用した。
[実施例]
グラファイトの粉末(平均粒径400μm)を1g、NaNOを0.76g、HSOを33.8mlをフラスコに加え、均一になるまで攪拌した。次に、KMnOを44.50gを攪拌しながらフラスコに少量ずつ添加した。その際、フラスコの温度を5〜7℃以下に冷却した。2時間攪拌した後、冷却を停止し、30℃に保った状態で5日間攪拌してスラリーを得た。
【0024】
このスラリーを攪拌しながら、HSO(5wt%)水溶液500ml中に添加し溶解させ、2時間攪拌した。攪拌後、H(30wt%)溶液を茶色から明るい黄色になるまで添加し、2時間攪拌した。
【0025】
この溶液を、1000G、5minの条件で遠心分離を行い、溶液中の酸化グラファイトを沈殿させた。そして上澄液を捨て、HSO(3wt%)水溶液500ml、H(0.5wt%)水溶液を500ml添加した。この工程を10回繰り返し、沈殿物を回収して酸化グラファイトを得た。
【0026】
得られた酸化グラファイトにメタノールを0.03mg/mlになるように添加し、攪拌した。この時に酸化グラファイトの層間が剥離され、酸化グラフェンが得られた。得られた酸化グラフェン溶液50mlを、5分間遠心分離を行い、未剥離の酸化グラファイトを取り除いて、単層の酸化グラフェン溶液を得た。
【0027】
この酸化グラフェン溶液を100℃に加熱し、2mlのヒドラジン一水和物を添加した後、60min保持することで還元し、グラフェン溶液とした。
アルミナの坩堝に、Biを9.25g、Agを0.25g(Agは5wt%)、上記で作製したグラフェンを0.5g入れたものを、電気炉にて大気雰囲気中で、500℃に加熱することで溶融させた。溶融したことを確認した後、電気炉から坩堝を取り出し、水冷にて直ちに冷却し、1分以内に冷却することで、析出・分離を防止した。
【0028】
作製されたグラフェンを含むBiAgはんだは、グラフェンを添加する前は機械強度が30MPa、熱伝導率が30W/mKであったものが、グラフェンの添加後には、機械強度は約2倍向上し、熱伝導率は3倍以上の100W/mKとなり、本発明の効果が証明された。この時の様子を図1に示す。10がBiAg系はんだであり、11がグラフェンシートであり、12はグラフェンシートが添加されたBiAg系はんだの状態を示す。
【0029】
また上記実施例では、BiAg鉛フリーはんだの場合を述べたが、特許文献3に記載の構成において、Agを5wt%、Auを45wt%含む場合に、上記と同様にしてグラフェンを添加したところ、50MPaであった機械強度が78MPaとなるという効果が得られた。
【0030】
また、別の実施例としてグラファイトを添加する場合は、熱膨張グラファイト(日本黒鉛製)を0.5g計量して添加する以外は、グラフェンの場合と同様の方法で作製したものにおいて、作製されたグラファイトを含むBiAgはんだは、グラファイトを添加する前は機械強度が30MPa、熱伝導率が30W/mKであったものが、グラファイトの添加後には、機械強度は98MPaとなり、熱伝導率は2倍以上の65W/mKとなり、本発明の効果が証明された。なお、本実施例でのグラファイトの積層層数は5層とした。
【0031】
このように、本発明は、鉛フリーはんだをBiAg合金に限定するものではなく、機械的強度、熱伝導率の向上を目的とする、高温鉛フリーはんだ全般に適用することができるものであり、その産業上の利用価値は大きい。
【符号の説明】
【0032】
10 BiAg系はんだ
11 グラフェンシート
12 グラフェンシート入りのはんだ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛フリーはんだに、グラフェンまたはグラファイトを添加したことを特徴とする鉛フリーはんだ。
【請求項2】
鉛フリーはんだが、Biを主成分とし、Agを含み、残りが他の不可避的不純物元素から構成されることを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ。
【請求項3】
鉛フリーはんだが、Biを主成分とし、0<Ag≦11wt%のAgを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉛フリーはんだ。
【請求項4】
前記グラフェンは、単一層のシート状で添加されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の鉛フリーはんだ。
【請求項5】
前記グラファイトは、グラフェンが2層以上積層されたシート状で添加されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の鉛フリーはんだ。
【請求項6】
前記グラフェンもしくは前記グラファイトの添加量が、5wt%以上で30wt%未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の鉛フリーはんだ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−18010(P2013−18010A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151039(P2011−151039)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】