説明

鉛蓄電池

【課題】鉛蓄電池が、深い放電と慢性的な充電不足状態で長期間使用されると、濃厚な硫酸が沈降して電解液比重が極板の下部ほど高くなる成層化現象が発生する。その結果、負極に電池反応に寄与しない硫酸鉛の粗大結晶粒が生成(サルフェーション)して充電効率が低下し、電池寿命が急速に低下する。
【解決手段】エキスパンド格子を備えた鉛蓄電池において、前記圧延シートの片面又は両面に鉛−スズ−アンチモン系合金からなる被覆層を有する。また前記鉛−スズ−アンチモン系合金からなる被覆層は極板下部に配置されており、その配置場所は極板高さ方向に対して下側1/3から2/3であり、配置した極板は負極板のみ或いは負極板及び正極板であることを特徴とする。被覆層中のスズ含有量は1〜10%であり、アンチモン含有量は1〜10%である極板を用いることにより寿命サイクルを向上することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアイドリングストップ用途の自動車用鉛蓄電池にみられる、負極耳部及び負極板上部の腐食により著しく短寿命となる問題について対策した長寿命型鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用鉛蓄電池は、SLIバッテリーと呼ばれるように、主に、スターター(起動)、照明、イグニッションに使用され、その他、高級車では100個以上搭載されているモーターの電源にも使用されているが、前記スターター以外はエンジンが発電機を駆動して電力を供給するため、鉛蓄電池はさほど深くは放電されず、むしろ、走行中は、発電機により充電されるため満充電状態に置かれることが多かった。
しかし、近年、自動車の燃費改善や排出ガスの削減を目的に、信号待ちなどで停車中はエンジンを停止するアイドリングストップが求められるようになり、エンジン停止中は、電力は、発電機からではなく、鉛蓄電池から供給されるため、鉛蓄電池は従来よりも深く放電されるようになった(特許文献1)。
また、過充電の手前で充電を終了して発電機の負荷を軽減する過充電防止システムが導入されたため、充電効率が低い場合は充電不足状態で使用されることが多くなった。このように鉛蓄電池は、深い放電と慢性的な充電不足状態で使用されるようになり、特に充電不足状態で長期間使用したとき、濃厚な硫酸が沈降して電解液の比重が電極板の下部ほど高くなる成層化現象が発生し、その結果、負極に電池反応に寄与しない硫酸鉛の粗大結晶粒が生成(サルフェーション)して充電効率が低下した。この充電効率の低下とサルフェーションの生成という悪循環が繰り返されることで電池寿命は急速に低下した。
この改善策として負極にカーボンを多量に添加して硫酸鉛の間隙に導電パスを形成する方法が提案されているが、本発明者がこの方法をトレース実験した結果では十分な寿命延長は認められなかった。
前記アイドリングストップに対して、自動車側からは、より小電力でエンジンを再始動できる改造がなされた。しかし、この改造でサルフェーションが進行した状態でもエンジンが始動するようになったため、サルフェーションで劣化した負極部分よりも分極の小さい負極耳部や負極格子板の上部が活物質化してやせ細り、破断して鉛蓄電池が突然寿命に至るという最悪の寿命モードを招いた。
なお、前記耳部などのやせ細りは電解液が少量の制御弁式鉛蓄電池(特許文献1)でも、電解液を多量に含む液式鉛蓄電池でも発生する。
これまでに、充電時に正極側から発生する酸素により耳部が腐食するのを、耳部にマット体などを配し、そこに電解液を保持させて防止する方法が提案されている(特許文献2、3)が、この方法によっても前記耳部のやせ細りは防止できなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2003−338312号公報
【特許文献2】特開平4−249064号公報
【特許文献3】特開平8−162149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなことから、本発明者等は前記負極耳部のやせ細りの状況を調査した。その結果、次のことを知見した。即ち、電池の寿命が残り20%程度になると、負極活物質中の硫酸鉛量が50%前後に増加し、負極耳部が細り始める。その後、硫酸鉛が急速に増加し、硫酸鉛量が80〜90%に達すると、耳部の厚みは元の10%程度になって破断し易い状態になる。また、その頃になると負極劣化も寿命寸前にまで進行する。
ところで、電池の寿命モードは、負極が徐々に劣化して寿命に至るのが望ましく、前記耳部破断による突然寿命に至ることは自動車用鉛蓄電池としては回避すべきであり、そのためには、耳部破断を、負極劣化による寿命より遅らせる必要がある。
本発明は、負極劣化を遅延させるとともに、耳部破断をそれよりさらに遅延させた、突然寿命にならない長寿命の鉛蓄電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、鉛−カルシウム系合金からなる圧延シートから展開されたエキスパンド格子を備えた鉛蓄電池において、前記圧延シートの片面又は両面に鉛−スズ−アンチモン系合金からなる被覆層を有することを特徴とする鉛蓄電池である。
請求項2記載の発明は、前記鉛−スズ−アンチモン系合金からなる被覆層は極板下部に配置されていることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池である。
請求項3記載の発明は、前記被覆層の配置場所は極板高さ方向に対して下側1/3から2/3であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池である。
請求項4記載の発明は、前記配置した極板は負極板のみ或いは負極板及び正極板であることを特徴とする2記載の鉛蓄電池である。
請求項5記載の発明は、前記被覆層中のスズ含有量は1〜10%であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池である。
請求項6記載の発明は、前記被覆層中のアンチモン含有量は1〜10%であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によりサルフェーションなどによる負極劣化が抑制され長寿命である。また鉛−カルシウム系合金からなる負極格子板にスズ及びアンチモンを適量含有させたので負極格子板の電位が高まり、サルフェーションが進行した状態でも、負極格子板の耳部などが活物質化してやせ細り破断するようなことがなく突然寿命に至ることが防止される。本発明の鉛蓄電池は、電解液の20℃における比重を1.270〜1.320に規定することにより、放電容量が向上し、またガス発生による電解液の減少が抑制され、電池特性がより一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができる。
【実施例】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(比較例)
比較例の鉛蓄電池は、次のようにして作製した。
まず、鉛丹15kgと希硫酸(比重1.26:20℃換算以下同じ)110Lを混練ミキサー中に投入し鉛丹スラリーを作った。前記鉛丹スラリーと鉛粉850kgをペースト練合機に投入し、100Lの水と混練して正極活物質ペーストを作った。次に、この正極活物質ペースト85gをカルシウム合金からなるエキスパンド格子体に充填してから、温度40℃、湿度95%中に18時間放置して熟成した後に、温度60℃中に12時間放置して乾燥して未化成正極板を作った。
【0009】
次に負極板を作った。まず、鉛粉と、該鉛粉に対して15wt%の希硫酸(比重1.26)と、該鉛粉に対して12wt%の水とを混練して負極活物質ペーストを作った。次に、負極活物質ペースト80gをカルシウム合金のエキスパンド格子体からなる集電体に充填してから、温度50℃、湿度95%中に18時間放置して熟成した後に温度110℃中に2時間放置して乾燥して未化成負極板を作った。
【0010】
次に、未化成負極板8枚と未化成正極板7枚とをセパレータを介して交互に積層して各極板群を作った。
【0011】
次に化成を行った。25℃の雰囲気で22.5A、12時間の定電流で充電を行った。充電に用いた硫酸の比重は1.240とし、各セル700ml注入した。
【0012】
以上の手順により、定格電圧12V、定格容量(5時間率容量)55Ahである、比較例の80D26形自動車用鉛蓄電池(JIS D5301記載)を作製した。
(実施の形態1)
実施の形態1の鉛蓄電池は、次のようにして作製した。
【0013】
まず、エキスパンド格子用圧延シートを作った。圧延前に厚み0.1mmのPb−3%Sn−3%Sb箔を圧延前のスラブ片側の極板高さ方向に対して下側2/3に位置するように配置する。その後圧延しエキスパンド用圧延シートを完成させた。圧延シートは展開しエキスパンド格子体を作製した。この格子体を正極及び負極に用いて、比較例と同様の方法で未化成負極板及び未化成正極板を作製し、定格電圧12V、定格容量(5時間率容量)55Ahである、比較例の80D26形自動車用鉛蓄電池(JIS D5301記載)を作製した。
(実施の形態2)
実施の形態2の鉛蓄電池は、次のようにして作製した。
【0014】
実施の形態1と同様の方法でエキスパンド格子体を作製し負極のみに用いて、比較例と同様の方法で未化成負極板及び未化成正極板を作製し、定格電圧12V、定格容量(5時間率容量)55Ahである、比較例の80D26形自動車用鉛蓄電池(JIS D5301記載)を作製した。
【0015】
図1にはSBA規定(SBA S0101)のアイドリングストップ寿命試験の寿命サイクル数について、比較例を100%として、実施の形態1、2の寿命サイクル数を示した。試験条件は25℃の周囲温度で45A、59秒放電した後300A、1秒放電、その後14Vで60秒充電する充放電を1サイクルとして充放電を繰り返し、3600サイクル毎に40〜48時間の放置を入れる。寿命サイクルは放電時の電圧が7.2V未満になったサイクルとする。
【0016】
図1の左軸には比較例の寿命サイクル数を100としたときの実施の形態1及び実施の形態2のサイクル数比を示した。横軸は表面処理を施した極板下部を基準とした処理部分の割合を示している。実施の形態1、2共に表面処理部分が大きくなるに伴いサイクル数が増加する。正極、負極両側に格子の表面処理を施した実施の形態1についてはより効果が大きいことが分かる。特に表面処理の面積が1/3を超えた当たりから急激にサイクル数が増加するところから表面処理の効果が得られるのは面積1/3からと言える。
また、図1の右軸には75℃の雰囲気で14.4Vの定電圧充電を27日間行ったときの電解液の減少量を、比較例を100としたときの実施の形態1及び2の減液量比を示した。実施の形態1、2共に表面処理部分の面積が増加するに従い減液量が増加する。表面処理部分が2/3付近から急激に増加し、判定基準を大幅に超える。このことから表面処理面積の上限は2/3であると言える。このことは表面処理により添加したアンチモン等の物質により水素過電圧が低下し減液量が増加したためである。
図2は表面処理に用いた箔中のスズ含有量に対して、アイドリングストップ寿命試験のサイクル数を比較例のサイクル比で示した物である。評価電池は実施の形態1を基準とし箔のスズ含有量を変えた物である。スズ含有量1%付近からサイクル数が急激に増加し5%で極大値を示し、その後スズ含有量増加に伴い減少する。この結果からサイクル特性に効果のあるスズ含有量の範囲は1から10%であると言える。
また、図1の右軸には75℃の雰囲気で14.4Vの定電圧充電を27日間行ったときの電解液の減少量を、比較例を100としたときの実施の形態1及び2の減液量比を示した。実施の形態1、2共に表面処理部分の面積が増加するに従い減液量が増加する。表面処理部分が2/3付近から急激に増加し、判定基準を大幅に超える。このことから表面処理面積の上限は2/3であると言える。このことは表面処理により添加したアンチモン等の物質により水素過電圧が低下し減液量が増加したためである。
図3は表面処理に用いた箔中のアンチモン含有量に対して左軸にアイドリングストップ寿命試験のサイクル数を比較例のサイクル比で示した物である。評価電池は実施の形態1を基準とし箔のアンチモン含有量を替えた物である。アンチモン含有量1%付近からサイクル数が急激に増加し約10%でほぼ一定となった。また図3の右軸には表面処理に用いた箔中のアンチモン含有量に対して75℃の雰囲気で14.4Vの定電圧充電を27日間行ったときの電解液の減少量を比較例のサイクル比で示した物である。アンチモン含有量の増加に伴い一様に増加する。約10%で判定基準値を超えることから、上限の含有量は10%であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1、2のアイドリングストップ寿命試験における寿命サイクル数の比較例比及び75℃定電圧過充電寿命試験時の減液量を示す図である。
【図2】実施の形態1の箔中のスズ含有量とアイドリングストップ寿命試験における寿命サイクル数の比較例比を示した図である。
【図3】実施の形態1の箔中のアンチモン含有量とアイドリングストップ寿命試験における寿命サイクル数の比較例比及び75℃定電圧過充電寿命試験時の減液量を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛−カルシウム系合金からなる圧延シートから展開されたエキスパンド格子を備えた鉛蓄電池において、前記圧延シートの片面又は両面に鉛−スズ−アンチモン系合金からなる被覆層を有することを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記鉛−スズ−アンチモン系合金からなる被覆層は極板下部に配置されていることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記被覆層の配置場所は極板高さ方向に対して下側1/3から2/3であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記配置した極板は負極板のみ或いは負極板及び正極板であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記被覆層中のスズ含有量は1〜10%であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記被覆層中のアンチモン含有量は1〜10%であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−266514(P2009−266514A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113406(P2008−113406)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】