説明

銀導電膜およびその製造方法

【課題】シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、300℃以下の比較的低温で焼成しても、基板との密着性が良好である銀導電膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルコールまたはポリオール中において脂肪酸化合物およびアミン化合物の存在下で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させて第1の銀粒子分散液を用意し、アルコールまたはポリオール中においてアミン化合物の存在下で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させて第2の銀粒子分散液を用意し、第1の銀粒子分散液を基板上に塗布した後に焼成して基板上に第1の銀導電層を形成し、第2の銀粒子分散液を第1の銀導電層上に塗布した後に焼成して第1の銀導電層上に第2の銀導電層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀導電膜およびその製造方法に関し、特に、基板上に銀粒子分散液を塗布して焼成することにより形成される銀導電膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品などの電極や回路を形成する方法として、銀粉などの金属粉末をガラスフリットや無機酸化物とともに有機ビヒクル中に分散させたペーストを印刷やディッピングなどによって基板上に所定のパターンに形成した後、500℃以上の温度で加熱することによって、有機成分を除去し、銀粒子などの金属粒子同士を焼結させて銀導電膜などの導電膜を形成する所謂厚膜ペースト法が広く用いられている。このような厚膜ペースト法によって形成された導電膜と基板との密着性は、焼成工程において軟化して流動したガラスフリットが基板を濡らすことによって、また、配線を形成する金属の焼結膜中にも軟化して流動したガラスフリットが浸透すること(ガラスボンド)によって確保されている。
【0003】
また、金属粒子の粒径が数nm程度になると、比表面積が非常に大きくなって、融点が劇的に低下する。そのため、粒径が数nm程度の金属粒子を使用して導電膜を形成すると、粒径が数μm程度の金属粒子を使用した場合と比べて、微細な導電膜の配線の描画が可能になるだけでなく、300℃以下の低温で焼成しても金属粒子同士を焼結させることもできる。
【0004】
しかし、300℃以下の低い温度で焼成する場合には、従来の厚膜ペースト法と同様にガラスフリット添加しても、ガラスフリットの軟化点より低い温度であるため、ガラスフリットが軟化・流動しないので、基板を濡らすことがなく、基板に対する導電膜の密着性が悪いという問題がある。
【0005】
この問題を解消する方法として、有機溶剤に金属微粒子が分散した金属微粒子分散液およびシランカップリング剤を含むペーストをガラス基板上に塗布して、250〜300℃の温度で焼成することによってガラス基板上に金属薄膜を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、平均粒子径0.5〜20μmの金属フィラーと平均粒子径1〜100nmの金属微粒子を熱硬化性樹脂中に分散させて導電性金属ペーストを形成する方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−179125号公報(段落番号0013)
【特許文献2】WO2002/035554号公報(第6−10頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、ペーストにシランカップリング剤を添加しているので、ペーストの粘度が経時変化するという問題がある。また、特許文献2の方法では、ペーストに熱硬化性樹脂を使用しているので、このペーストを使用して形成した配線上に有機物が残存して誘電体層を形成すると、この配線を真空雰囲気中に配置した場合に、有機成分の脱離による誘電体層の膨れや真空雰囲気の環境汚染などによる回路の信頼性が低下することが懸念され、また、ペーストが樹脂を含んでいるために、ペーストの粘度を低くするのが困難であるという問題がある。
【0008】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、300℃以下の比較的低温で焼成しても、基板との密着性が良好である銀導電膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アルコールまたはポリオール中において脂肪酸化合物およびアミン化合物の存在下で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させて第1の銀粒子分散液を用意し、アルコールまたはポリオール中においてアミン化合物の存在下で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させて第2の銀粒子分散液を用意し、第1の銀粒子分散液を基板上に塗布した後に焼成して基板上に第1の銀導電層を形成し、第2の銀粒子分散液を第1の銀導電層上に塗布した後に焼成して第1の銀導電層上に第2の銀導電層を形成することにより、シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、300℃以下の比較的低温で焼成しても、基板との密着性が良好である銀導電膜を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明による銀導電膜の製造方法は、アルコールまたはポリオール中において脂肪酸化合物およびアミン化合物の存在下で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させて第1の銀粒子分散液を用意し、アルコールまたはポリオール中においてアミン化合物の存在下で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させて第2の銀粒子分散液を用意し、第1の銀粒子分散液を基板上に塗布した後に焼成して基板上に第1の銀導電層を形成し、第2の銀粒子分散液を第1の銀導電層上に塗布した後に焼成して第1の銀導電層上に第2の銀導電層を形成することを特徴とする。
【0011】
この銀導電膜の製造方法において、還元処理が80〜200℃の温度で行われるのが好ましい。また、脂肪酸化合物の沸点が100℃以上であり、アミン化合物の沸点が150〜400℃であるのが好ましく、アルコールの沸点が80〜200℃であり、ポリオールの沸点が150〜300℃であるのが好ましい。また、脂肪酸化合物およびアミン化合物の少なくとも一方が1分子中に1個以上の不飽和結合を有するのが好ましく、脂肪酸化合物およびアミン化合物が分子量100〜1000の化合物であるのが好ましい。また、還元処理の際に還元補助剤として2級アミンおよび3級アミンの少なくとも一方を添加するのが好ましい。さらに、焼成が酸化雰囲気中において100〜300℃の温度で行われるのが好ましい。
【0012】
また、本発明による銀導電膜は、脂肪酸化合物とアミン化合物とからなる有機保護剤を含む銀粒子が液状有機媒体中に分散した第1の銀粒子分散液を基板上に塗布して焼成することによって基板上に第1の銀導電層が形成され、アミン化合物からなる有機保護剤を含む銀粒子が液状有機媒体中に分散した第2の銀粒子分散液を第1の銀導電層上に塗布して焼成することによって第1の銀導電層上に第2の銀導電層が形成されていることを特徴とする。
【0013】
この銀導電膜において、脂肪酸化合物の沸点が100℃以上であり、アミン化合物の沸点が150〜400℃であるのが好ましい。また、脂肪酸化合物およびアミン化合物の少なくとも一方が1分子中に1個以上の不飽和結合を有するのが好ましく、脂肪酸化合物およびアミン化合物が分子量100〜1000の化合物であるのが好ましい。また、第1の銀粒子分散液の銀粒子中の有機保護剤の割合が10〜40質量%であり、第2の銀粒子分散液の銀粒子中の有機保護剤の割合が10質量%未満であるのが好ましい。さらに、銀粒子の平均粒径(DTEM)が20nm以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、300℃以下の比較的低温で焼成しても、基板との密着性が良好な銀導電膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による銀導電膜の実施の形態では、沸点が80〜200℃のアルコールまたは沸点が150〜300℃のポリオール中において、有機保護剤として沸点が100℃以上、好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上の脂肪酸化合物および沸点が150〜400℃のアミン化合物の存在下で、銀化合物を80〜200℃の温度で還元処理して、生成した銀粒子を回収して沸点60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体中に分散させてスラリーとし、このスラリーを固液分離して、平均粒径(DTEM)が20nm以下の銀粒子が分散した下層用銀粒子分散液(第1の銀粒子分散液)を用意する。
【0016】
また、沸点が80〜200℃のアルコールまたは沸点が150〜300℃のポリオール中において、有機保護剤として沸点が150〜400℃のアミン化合物の存在下で、銀化合物を80〜200℃の温度で還元処理して、生成した銀粒子を回収して沸点60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体中に分散させてスラリーとし、このスラリーを固液分離して、平均粒径(DTEM)が20nm以下の銀粒子が分散した上層用銀粒子分散液(第2の銀粒子分散液)を用意する。
【0017】
次いで、下層用銀粒子分散液を基板上に塗布した後に100〜300℃の温度で焼成して基板上に第1の銀導電層を形成し、その後、上層用銀粒子分散液を第1の銀導電層上に塗布した後に100〜300℃の温度で焼成して第1の銀導電層上に第2の銀導電層を形成する。
【0018】
アルコールまたはポリオール中において有機保護剤の存在下で銀化合物を還元処理すると、極性の小さい液状有機媒体中において極めて分散性の良い銀のナノ粒子(粒径20nm以下の粒子)が得られる。使用する有機保護剤の種類を変えることにより、粒径の異なる銀のナノ粒子を得ることができる。このような粒径の小さい銀粒子が分散した液を基板上に塗布して塗膜を形成すると、銀の融点は約961℃であるにもかかわらず、塗膜を焼成する際に100〜300℃の低温で焼結が起こり、銀導電膜を形成することができる。また、使用する有機保護剤の種類や銀粒子中の有機保護剤の割合を変えることにより、導電性に優れた銀導電膜や密着性に優れた銀導電膜などの特性が異なる銀導電膜を形成することができる。したがって、密着性に優れた銀導電膜を基板上に形成する下層側の銀導電層とし、導電性に優れた銀導電膜をその上に形成する上層側の銀導電層とすることにより、比抵抗が5.0μΩ・cm以下の低抵抗で密着性に優れた銀導電膜を形成することができる。
【0019】
アルコールまたはポリオールは、銀化合物の還元剤として機能するとともに、反応系の液状有機媒体としても機能する。アルコールとしては、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、シクロペンタノールなどを使用することができる。ポリオール(複数の水酸基を有する多価アルコール)としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを使用することができる。また、ポリオールの誘導体を使用することもできる。なお、Agに対するアルコールまたはポリオールのモル比を0.5〜50にするのが好ましい。
【0020】
有機保護剤として使用する脂肪酸化合物およびアミン化合物の少なくとも一方は、1分子中に1個以上の不飽和結合を有するのが好ましく、また、脂肪酸化合物およびアミン化合物は、分子量100〜1000の化合物であるのが好ましく、分子量が100〜400であるのがさらに好ましい。このような不飽和結合を有する脂肪酸化合物やアミン化合物を有機保護剤として使用することによって、還元反応において銀核を一斉に発生させるとともに、析出した銀核の成長を素早く抑制する現象が起こると考えられ、粒径20nmの小さい銀粒子を高収率で得ることができる。分子量が100未満では、粒子の凝集抑制効果が低く、分子量が1000を超えると、凝集抑制効果が高くても、銀粒子分散液を塗布して焼成するときに、粒子間の焼結を阻害して配線の抵抗が高くなってしまい、導電性がなくなる場合もある。脂肪酸化合物としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミトレイン酸、ミリストレイン酸などを使用することができる。また、アミン化合物としては、トリアリルアミン、オレイルアミン、ジオレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ラウリルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、セチルアミンなどを使用することができる。なお、これらの脂肪酸化合物およびアミン化合物は、比較的低温で分解するので、銀粒子を低温で焼結させることができる。
【0021】
銀化合物の還元反応は、加熱によって反応媒体および還元剤としてのアルコールまたはポリオールの蒸発と凝縮を繰り返す還流条件下で(蒸発したアルコールまたはポリオールを液相に還流させながら)行われるのが好ましい。この還元反応を有機保護剤の存在下で行うことにより、有機保護剤で覆われた銀粒子を生成することができる。なお、Agに対する有機保護剤のモル比を0.1〜20にするのが好ましい。
【0022】
銀化合物としては、銀塩または銀酸化物を使用することができ、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀などを使用するのが好ましく、工業的観点から硝酸銀を使用するのが好ましい。還元反応時の液中のAgイオン濃度は、0.05モル/L以上であり、0.05〜5.0モル/Lであるのが好ましい。
【0023】
また、還元処理は、還元補助剤の共存下で行うのが好ましい。この還元補助剤は、還元反応の終了近くで添加するのが好ましく、Agに対する還元補助剤のモル比を0.1〜20にするのが好ましい。還元補助剤として、分子量100〜1000のアミン化合物を使用するのが好ましく、アミン化合物の中でも還元力の強い2級アミンおよび3級アミンの少なくとも一方を使用するのがさらに好ましく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを使用することができる。
【0024】
上層用銀粒子分散液および下層用銀粒子分散液を用意するために、それぞれの還元反応後のスラリーを遠心分離器などで固液分離し、液を廃棄し、固体成分を回収する。この固体成分をメタノールなどの有機溶媒と混合して遠心分離器などで固液分離し、液を廃棄し、固体成分を回収することによって洗浄を行った。必要に応じて、この洗浄を繰り返し、最終的に得られた固体成分(沈殿物)を回収する。この固形成分を液状有機媒体と混合し、この液を遠心分離器などにより固液分離し、得られた液を(必要に応じて濃度調整して)それぞれ粒径分布が小さい銀粒子が分散している上層用銀粒子分散液および下層用銀分散液とする。
【0025】
液状有機媒体として、沸点が60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体を使用するのが好ましい。本明細書中において、「非極性または極性の小さい」とは、25℃における比誘電率が15以下、好ましく5以下であることをいう。液状有機媒体の比誘電率が高い場合には、銀粒子の分散性が悪化して沈降する場合があるので好ましくない。液状有機媒体としては、銀粒子分散液の用途に応じて各種の液状有機媒体を使用することができるが、炭化水素系の液状有機媒体を使用するのが好ましく、イソオクタン、n−デカン、イソドデカン、イソヘキサン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、トリデカン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、テトラリンなどの芳香族炭化水素などを使用することができる。これらの液状有機媒体を1種または2種以上使用することができ、ケロシンのような混合物を使用してもよい。また、液状有機媒体の極性を調整するために、回収した固体成分と混合した後の液状有機媒体の25℃における比誘電率が15以下になる範囲でアルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系などの極性有機媒体を添加してもよい。
【0026】
このようにして製造された下層用銀粒子分散液および上層用銀粒子分散液中の銀粒子は、それぞれ有機保護剤を含んでいる。
【0027】
透過電子顕微鏡(TEM)観察により測定される銀粒子の平均粒径(DTEM)は、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。また、銀粒子の平均粒径(DTEM)は、Agに対するアルコールまたはポリオールのモル比、Agに対する有機保護剤のモル比、Agに対する還元補助剤のモル比、還元反応時の昇温速度、攪拌力、銀化合物の種類、アルコールまたはポリオールの種類、還元補助剤の種類、有機保護剤の種類などによって制御することができる。
【0028】
下層用銀粒子分散液および上層用銀粒子分散液中の銀濃度は、5〜90質量%であるのが好ましく、下層用銀粒子分散液および上層用銀粒子分散液の粘度は、1mPa・s〜100Pa・sであるのが好ましい。
【0029】
銀粒子中の有機保護剤の割合を変えることによって、形成される銀導電膜の特性を大きく変化させることができる。上層側の銀導電層の形成に使用される上層用銀粒子分散液中の銀粒子は、1級アミンからなる有機保護剤を含んでいる。上層側の銀導電層は、導電に関与しているため、有機保護剤の割合が高くなると、抵抗が高くなって好ましくないので、有機保護剤の割合が10質量%未満であるのが好ましく、8質量%以下であるのがさらに好ましい。下層側の銀導電層の形成に使用される下層用銀粒子分散液中の銀粒子は、1級アミンと脂肪酸からなる有機保護剤を含んでいる。下層側の銀導電層は、基板との密着性に関与しているため、有機保護剤の割合が低過ぎると、焼結が進んで銀導電膜中に空孔が生じてしまい、密着性が悪化するので好ましくない。一方、有機保護剤の割合が高過ぎると、銀導電膜と基板の間の接触抵抗が高くなる傾向があるので好ましくない。そのため、下層用銀粒子分散液の銀粒子中の有機保護剤の割合は、10〜40質量%であるのが好ましく、15〜35質量%であるのがさらに好ましい。
【0030】
銀導電膜を形成する基板として、例えば、ガラス基板、フィルム状の有機高分子基板、シリコン基板、セラミックス基板などを使用することができる。ガラス基板は、二酸化ケイ素を主成分とする基板であれば特に限定しない。フィルム状の有機高分子基板としては、厚さは特に限定しないが、ロール・ツー・ロール方式に対応できるだけの可撓性を有し、高耐熱性を有するものが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、アラミド、ポリカーボネートなどの基板を使用することができる。シリコン基板としては、アモルファスシリコン基板、多結晶シリコン基板、単結晶シリコン基板のいずれも使用することができる。セラミックス基板としては、アルミナ基板、窒化珪素基板などを使用することができる。
【0031】
下層用銀粒子分散液および上層用銀粒子分散液を基板上に塗布する方法は、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、インクジェット法などの各種の塗布方法を使用することができるが、焼成後に銀導電膜を形成することができれば特に限定しない。
【0032】
塗布された塗膜を焼成して銀粒子を焼結させて銀導電膜を得るための焼成雰囲気は、大気雰囲気のような常圧の酸化雰囲気でよい。塗膜中の銀粒子は極めて低温で焼結するので、焼成温度は100〜400℃でよいが、使用可能な基板の種類を広げるとともに省エネルギーなどの観点から100〜300℃であるのが好ましい。塗膜を形成した基板を上記の温度域で保持する焼成時間は、10分間以上であるのが好ましく、60分間以上であるのがさらに好ましい。但し、焼成時間が長過ぎると生産性が悪くなるので、一般には300分間以下であるのが好ましい。
【0033】
銀導電膜は、低抵抗である程、効率的に電気を流すことができるので、比抵抗が低い方がよい。銀導電膜の比抵抗は、5.0μΩ・cm以下であるのが好ましく、4.0μΩ・cm以下でのがさらに好ましく、3.0μΩ・cm以下であるのがさらに好ましく、2.0μΩ・cm以下であるのが最も好ましい。
【0034】
銀導電膜の膜厚は0.1〜3.0μmであるのが好ましく、0.5〜1.0μmであるのがさらに好ましい。膜厚が0.1μmより薄くなると、大電流を流すには不向きであり、膜厚が3.0μmより厚くなると、銀導電膜の厚さのばらつきが非常に大きくなる。また、上層側の銀導電層と下層側の銀導電層の厚さの比は、一方の厚さが極端に大きくなると銀導電膜全体の特性が極端に厚い側の銀導電層の特性になってしまい、低抵抗で密着性の良好な銀導電膜を得ることができなくなるので、両者の厚さの比が40:60〜60:40であるのが好ましく、50:50に近いほど好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明による銀導電膜およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0036】
[実施例1]
反応媒体および還元剤としてのイソブタノール(和光純薬株式会社製)96gに、有機保護剤としてのオレイルアミン(和光純薬株式会社製)165gと、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)21gを添加し、マグネットスターラーで攪拌して硝酸銀を溶解させた。次に、この溶液を還流器付の容器に移し、この容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/分の流量で吹込みながら、溶液をマグネットスターラーにより100rpmの回転速度で撹拌しながら、昇温速度2℃/分で100℃まで加熱した。100℃で3時間還流した後、還元補助剤として2級アミンであるジエタノールアミン(和光純薬株式会社製)13gを添加し、1時間保持して反応を終了した。反応終了後のスラリーを遠心分離器で固液分離して、液を廃棄し、固体成分を回収した。この固体成分をメタノールと混合して遠心分離器で固液分離し、液を廃棄し、固体成分を回収することによって洗浄を行った。この洗浄を2回繰り返した後の固形成分を、25℃の比誘電率が15以下の液状有機媒体としてn−テトラデカン(沸点約250℃)に混合し、遠心分離器で30分間固液分離し、銀粒子が分散した液を回収した。なお、回収した液は、後述するように上層用銀粒子分散液として使用した。
【0037】
この上層用銀粒子分散液を透過電子顕微鏡(TEM)により約60万倍の倍率で観察した画像において、他の粒子と重なっていない独立した粒子をランダムに300個以上選択して、個々の粒子の直径(画像上に現れる粒子を囲む外接円のうち最も直径の小さい外接円の直径)を測定し、その平均値を算出することによって、上層用銀粒子分散液中の銀粒子の平均粒径(DTEM)を求めた。また、回転式粘度計(東機産業製のRE550L)によって上層用銀粒子分散液の粘度を測定した。さらに、熱重量分析装置(マックサイエンス社製のTG−DTA2000)によって上層用銀粒子分散液を10℃/分で200℃まで昇温した後に1時間保持し、さらに10℃/分で700℃まで昇温し、200℃までに減少した重量を溶媒の重量とし、200〜700℃の間に減少した重量を有機保護剤の重量とし、700℃で残っていた重量を銀重量として、上層用銀粒子分散液中の銀濃度および銀粒子中の有機保護剤の割合を以下の式によって算出した。
銀濃度(質量%)={銀の重量/(溶媒の重量+有機保護剤の重量+銀の重量)}×100
有機保護剤の割合(質量%)
={有機保護剤の重量/(有機保護剤の重量+銀の重量)}×100
【0038】
その結果、上層用銀粒子分散液の粘度は8.1mPa・s、上層用銀粒子分散液中の銀濃度は64.8質量%、上層用銀粒子分散液中の銀粒子の平均粒径(DTEM)は8.5nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は7.5質量%であった。
【0039】
また、反応媒体および還元剤としてのイソブタノール(和光純薬化学株式会社製)64gに、有機保護剤としてのオレイルアミン(和光純薬株式会社製)111gおよびオレイン酸(和光純薬株式会社製)23gと、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)14gを添加し、マグネットスターラーで攪拌して硝酸銀を溶解させた。次に、この溶液を還流器付の容器に移し、この容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/分の流量で吹込みながら、溶液をマグネットスターラーにより100rpmの回転速度で撹拌しながら、昇温速度2℃/分で100℃まで加熱した。100℃で3時間還流した後、還元補助剤として2級アミンであるジエタノールアミン(和光純薬株式会社製)9gを添加し、1時間保持して反応を終了した。反応終了後のスラリーにメタノールを加えて固液分離し、液を廃棄し、固体成分を回収した。この固体成分をメタノールと混合して遠心分離器で固液分離し、液を廃棄し、固体成分を回収することによって洗浄を行った。この洗浄を2回繰り返した後の固形成分を、25℃の比誘電率が15以下の液状有機媒体としてn−ドデカン(沸点約210℃)に混合し、遠心分離器で30分間固液分離し、銀粒子が分散した液を回収した。なお、回収した液は、後述するように下層用銀粒子分散液として使用した。
【0040】
得られた下層用銀粒子分散液について、上層用銀粒子分散液の場合と同様の方法によって、粘度、銀濃度、銀粒子の平均粒径(DTEM)および銀粒子中の有機保護剤の割合を求めたところ、下層用銀粒子分散液の粘度は11.7mPa・s、下層用銀粒子分散液中の銀濃度は46.9質量%、下層用銀粒子分散液中の銀粒子の平均粒径(DTEM)は4.1nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は31.1質量%であった。
【0041】
なお、カルボニル基、アミノ基、長鎖アルキル基、不飽和結合を確認可能なHおよび13C−NMR測定と、分子量を同定可能な熱分解ガスクロマトグラフ質量分析測定によって、本実施例および後述する実施例2で得られた上層用銀粒子分散液および下層用銀粒子分散液中の銀粒子が有機保護剤を含むことを確認した。
【0042】
次に、ガラス基板としてスライドグラス(松浪ガラス製のS−7123)を用意し、このガラス基板上に下層用銀粒子分散液をスピンコータで塗布した後、ホットプレート(AS−ONE製のHP−1L)によって200℃で60分間焼成して銀粒子を焼結させることにより、ガラス基板上に銀導電膜を形成した。
【0043】
次に、ガラス基板上に形成された銀導電膜上に上層用銀粒子分散液をスピンコータで塗布した後、ホットプレートによって200℃で60分間焼成をして、銀粒子を焼結させることにより、ガラス基板上に形成された銀導電膜上にさらに銀導電膜を形成した。
【0044】
得られた銀導電膜について、膜厚、比抵抗、炭素の有無およびガラス基板との密着性を評価した。銀導電膜の膜厚は、蛍光X線膜厚測定器(SII社製の蛍光X線膜厚測定器SFT9200)によって測定した。銀導電膜の比抵抗は、表面抵抗測定装置(三菱化学製のロレスタHP)で測定した表面抵抗と膜厚測定器で得られた膜厚から計算により求めた。銀導電膜中の炭素の有無は、X線光電子分光器(アルバック・ファイ社製のESCA5800)を使用して、X線光電子分光(ESCA)法により、銀導電膜の最表面から1/4(上層)および3/4(下層)の深さ領域における炭素のエネルギー284.3eVおよび284.5eVのピークの有無を調べることによって行った。なお、ESCAの測定条件については、X線源として1500WのAl陽極線源を使用し、分析エリアを400μmφsとし、中和銃を使用し、取り出し角を45°とし、Arスパッタエッチング速度を40nm/分(SiO換算値)とした。また、銀導電膜のガラス基板との密着性は、カッターにより銀導電膜上に1mm角の升目100個を作製し、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z1522に規定されている幅25mm当たりの粘着量が約8Nのテープ)を圧着した後に剥離し、残存する升目の数xを数え、x/100として評価した。
【0045】
その結果、銀導電膜の膜厚は700nm、上下の膜厚比は50:50であり、比抵抗は4.2μΩ・cmと低く、上層には炭素はなく、下層には炭素が存在し、ガラス基板との密着性は100/100で良好であった。
【0046】
[実施例2]
反応媒体および還元剤としてのイソブタノール(和光純薬化学株式会社製)80gに、有機保護剤としてのオクチルアミン(和光純薬株式会社製)66gおよびオレイン酸(和光純薬株式会社製)29gと、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)17gを添加し、マグネットスターラーで攪拌して硝酸銀を溶解させた。次に、この溶液を還流器付の容器に移し、この容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/分の流量で吹込みながら、溶液をマグネットスターラーにより100rpmの回転速度で撹拌しながら、昇温速度2℃/分で100℃まで加熱した。100℃で3時間還流した後、還元補助剤として2級アミンであるジエタノールアミン(和光純薬株式会社製)32gを添加し、1時間保持して反応を終了した。反応終了後のスラリーにメタノールを加えて固液分離し、液を廃棄し、固体成分を回収した。この固体成分をメタノールと混合して遠心分離器で固液分離し、液を廃棄し、固体成分を回収することによって洗浄を行った。この洗浄を2回繰り返した後の固形成分を、25℃の比誘電率が15以下の液状有機媒体としてn−ドデカン(沸点約210℃)に混合し、遠心分離器で30分間固液分離し、銀粒子が分離した液を回収した。
【0047】
この回収した液を下層用銀粒子分散液として使用するとともに、実施例1と同様の上層用銀粒子分散液を使用して、実施例1と同様の方法によってガラス基板上に銀導電膜を形成した。
【0048】
得られた下層用銀粒子分散液について、上層用銀粒子分散液の場合と同様の方法によって、粘度、銀濃度、銀粒子の平均粒径(DTEM)および銀粒子中の有機保護剤の割合を求めたところ、下層用銀粒子分散液の粘度は5.1mPa・s、下層用銀粒子分散液中の銀濃度は49.5質量%、下層用銀粒子分散液中の銀粒子の平均粒径(DTEM)は6.1nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は19.8質量%であった。
【0049】
また、得られた銀導電膜について、実施例1と同様の方法により、膜厚、比抵抗、炭素の有無およびガラス基板との密着性を評価した。その結果、銀導電膜の膜厚は900nm、上下の膜厚比は50:50であり、比抵抗は3.3μΩ・cmと低く、上層には炭素はなく、下層には炭素が存在し、ガラス基板との密着性は100/100で良好であった。
【0050】
[比較例1]
下層用銀粒子分散液を使用しなかった以外は、実施例1と同様の方法によって、ガラス基板上に単一層構造の銀導電膜を形成し、得られた銀導電膜について、実施例1と同様の方法により、膜厚、比抵抗、炭素の有無およびガラス基板との密着性を評価した。なお、銀導電膜中の炭素の有無は、銀導電膜の最表面から1/4の地点で判断した。その結果、銀導電膜の膜厚は940nmであり、比抵抗は2.7μΩ・cmと低く、上層に炭素はなかったが、ガラス基板との密着性は0/100で不十分であった。
【0051】
[比較例2]
上層用銀粒子分散液を使用しなかった以外は、実施例1と同様の方法によって、ガラス基板上に単一層構造の銀導電膜を形成し、得られた銀導電膜について、実施例1と同様の方法により、膜厚、比抵抗、炭素の有無およびガラス基板との密着性を評価した。なお、銀導電膜中の炭素の有無は、銀導電膜の最表面から1/4の地点で判断した。その結果、銀導電膜の膜厚は320nmであり、比抵抗は9.5μΩ・cmと高く、上層に炭素が存在し、ガラス基板との密着性は100/100で良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明による銀導電膜は、LSI基板の配線、FPD(フラットパネルディスプレイ)の電極や配線、微細なトレンチ、ビアホール、コンタクトホールの埋め込みなどの配線形成材料として利用することができる。また、車の塗装などの色材としても利用することができ、医療、診断、バイオテクノロジーなどの分野において生化学物質などを吸着させるキャリアにも利用することができる。
【0053】
また、本発明による銀導電膜は、低温焼成が可能であるため、フレキシブルなフィルム上への電極形成材料として利用することができ、エレクトロニクス実装においては、接合材として利用することもできる。さらに、導電性皮膜として電磁波シールド膜や、透明導電膜などの分野における光学特性を利用した赤外線反射シールドなどにも利用することができ、ガラス基板上に印刷して焼成し、自動車ウインドウの防曇用熱線などにも利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールまたはポリオール中において脂肪酸化合物およびアミン化合物の存在下で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させて第1の銀粒子分散液を用意し、アルコールまたはポリオール中においてアミン化合物の存在下で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させて第2の銀粒子分散液を用意し、前記第1の銀粒子分散液を基板上に塗布した後に焼成して前記基板上に第1の銀導電層を形成し、前記第2の銀粒子分散液を前記第1の銀導電層上に塗布した後に焼成して前記第1の銀導電層上に第2の銀導電層を形成することを特徴とする、銀導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記還元処理が80〜200℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の銀導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪酸化合物の沸点が100℃以上であり、前記アミン化合物の沸点が150〜400℃であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀導電膜の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールの沸点が80〜200℃であり、前記ポリオールの沸点が150〜300℃であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の銀導電膜の製造方法。
【請求項5】
前記脂肪酸化合物および前記アミン化合物の少なくとも一方が1分子中に1個以上の不飽和結合を有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の銀導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪酸化合物および前記アミン化合物が分子量100〜1000の化合物であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の銀導電膜の製造方法。
【請求項7】
前記還元処理の際に還元補助剤として2級アミンおよび3級アミンの少なくとも一方を添加することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の銀導電膜の製造方法。
【請求項8】
前記焼成が酸化雰囲気中において100〜300℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の銀導電膜の製造方法。
【請求項9】
脂肪酸化合物とアミン化合物とからなる有機保護剤を含む銀粒子が液状有機媒体中に分散した第1の銀粒子分散液を基板上に塗布して焼成することによって基板上に第1の銀導電層が形成され、アミン化合物からなる有機保護剤を含む銀粒子が液状有機媒体中に分散した第2の銀粒子分散液を第1の銀導電層上に塗布して焼成することによって第1の銀導電層上に第2の銀導電層が形成されていることを特徴とする、銀導電膜。
【請求項10】
前記脂肪酸化合物の沸点が100℃以上であり、前記アミン化合物の沸点が150〜400℃であることを特徴とする、請求項9に記載の銀導電膜。
【請求項11】
前記脂肪酸化合物および前記アミン化合物の少なくとも一方が1分子中に1個以上の不飽和結合を有することを特徴とする、請求項9または10に記載の銀導電膜。
【請求項12】
前記脂肪酸化合物および前記アミン化合物が分子量100〜1000の化合物であることを特徴とする、請求項9乃至11のいずれかに記載の銀導電膜。
【請求項13】
前記第1の銀粒子分散液の銀粒子中の有機保護剤の割合が10〜40質量%であり、前記第2の銀粒子分散液の銀粒子中の有機保護剤の割合が10質量%未満であることを特徴とする、請求項9乃至12のいずれかに記載の銀導電膜。
【請求項14】
前記銀粒子の平均粒径(DTEM)が20nm以下であることを特徴とする、請求項9乃至13のいずれかに記載の銀導電膜。


【公開番号】特開2008−171760(P2008−171760A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5922(P2007−5922)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】