説明

銅張積層板の製造方法、それに用いる銅箔、及び銅張積層板のラミネート装置。

【課題】屈曲性と生産性に共に優れた銅張積層板の製造方法、それに用いる銅箔、及び銅張積層板のラミネート装置を提供する。
【解決手段】銅箔6と樹脂層2とをラミネート法によって加熱積層する前に、銅箔6に対し、再結晶粒の占める面積率が銅箔表面の金属組織において10%以上80%以下で、かつ予備加熱後の銅箔6の引張強さが予備加熱前の引張強さの40〜90%となるように、銅箔6を220〜280℃の到達温度まで3秒以内に昇温し、かつ到達温度で1秒〜5秒保持する予備加熱を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路の屈曲部分に好適に用いられるフレキシブルプリント基板(FPC:Flexible Printed Circuit)に使用されるフレキシブル銅貼積層板、それに用いる銅箔、及び銅張積層板のラミネート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話等の配線のうち、屈曲部分に使用されるFPCは、銅箔にポリイミドのワニスを塗布し、熱を加えて乾燥、硬化させ積層板とするキャスト法と呼ばれる方法や、予め接着力のある熱可塑性ポリイミドを塗布したポリイミドフィルムと銅箔とを重ねて加熱ロールなどを通して圧着するラミネート法と呼ばれる方法によって製造されている。これらの方法で得られたフレキシブル銅貼積層板は二層フレキシブル銅貼積層板と呼ばれている。
又、エポキシ系などの接着剤で銅箔とポリイミドフィルムを接着した三層フレキシブル銅貼積層板も知られている。
これらのFPC用銅箔として、再結晶焼鈍させ、屈曲性を与える200面のI/I0を40以上とした技術が知られている(特許文献1,2)。
さらに、本発明者らは、ラミネート法で二層フレキシブル銅貼積層板を製造する際、ラミネート速度をある程度遅くして、銅箔の結晶粒径を大きくし、屈曲性を向上させる技術を報告している(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特開2001-323354号公報(段落0014)
【特許文献2】特開平11-286760号公報
【特許文献3】特開2009-292090号公報(請求項3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ラミネート法で作製したCCL(Copper Clad Laminate:銅張積層板)では、銅箔の(200)方位への配向度が高くならず、屈曲性が低下するという問題が発生している。これは、ラミネート法の場合、フィルムと銅箔とをヒートロールで圧着するため、銅箔がヒートロールにより急速に加熱され、(200)方位への配向度が高くならないためと考えられる。
又、特許文献3記載の技術は、ラミネート速度をある程度遅くすることで、ラミネート時に銅箔をゆっくりと加熱し、(200)方位への配向度を高めているが、ラミネート速度を遅くすると生産性が低下するという問題がある。
従って、本発明の目的は、屈曲性と生産性に共に優れた銅張積層板の製造方法、それに用いる銅箔、及び銅張積層板のラミネート装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の銅張積層板の製造方法は、銅箔と樹脂層とをラミネート法によって加熱積層する前に、前記銅箔を220〜280℃の到達温度まで3秒以内で昇温し、かつ前記到達温度で1秒〜5秒保持する予備加熱を行う。
【0006】
本発明の銅張積層板の製造方法は、銅箔と樹脂層とをラミネート法によって加熱積層する前に、前記銅箔に対し、再結晶粒の占める面積率が前記銅箔表面の金属組織において10%以上80%以下で、かつ前記予備加熱後の前記銅箔の引張強さが前記予備加熱前の引張強さの40〜90%となる予備加熱を行う。
【0007】
前記予備加熱を、前記加熱積層と同一のラインで行うことが好ましい。
前記予備加熱を、前記銅箔と熱源との直接接触、又は熱源からの輻射熱により行うことが好ましい。
【0008】
本発明の銅箔は、前記銅張積層板の製造方法に用いる銅箔であって、250℃に保持された熱源に1秒間〜5秒間直接接触させたとき、自身の表面の金属組織において再結晶粒の占める面積率が10〜80%となり、かつ前記接触後の前記銅箔の引張強さが前記接触前の引張強さの40〜90%となり、その後に350℃に保持された熱源に1秒間〜5秒間直接接触させたとき、I/I0(200)が60以上となる。また再結晶粒の占める面積は10~80%であればよいが、より好ましくは40~80%である。なぜならば、この場合には350℃に保持された熱源に1秒間〜5秒間直接接触させたときのI/I0(200)が65を超え、より高い屈曲性が得られるからである。
【0009】
本発明の銅箔において、Ag及びSnの群から選ばれる1種以上を合計0.05質量%以下含むことが好ましい。
【0010】
本発明の銅張積層板のラミネート装置は、銅箔と樹脂層とを連続して積層する銅張積層板のラミネート装置であって、前記銅箔を予備加熱する予備加熱装置と、前記予備加熱装置の後段に配置され、樹脂層と前記予備加熱された銅箔とを加熱積層する加熱プレス機とを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、屈曲性と生産性に共に優れた銅張積層板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る銅張積層板のラミネート装置を示す図である。
【図2】予備加熱による銅箔の再結晶率と引張り強さ比との関係を模式的に表す図である。
【図3】予備加熱後の実施例1の銅箔の組織の顕微鏡写真を示す図である。
【図4】予備加熱後にさらに350℃×1秒加熱後の実施例1の銅箔の組織の顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
高屈曲性を発揮するフレキシブル銅貼積層板を得るために重要な点は、積層板になった時点で、銅箔の金属組織を屈曲性にとって好ましい状態に再結晶させることである。屈曲性に最も好ましい金属組織は、立方体方位が非常に発達し、かつ結晶粒界が少ない、言い換えれば結晶粒が大きな組織である。ここで立方体方位の発達の程度は、200面のX線回折強度比I/I0(I:銅箔の200面の回折強度、I0:銅粉末の200面の回折強度)の大きさで表すことができ、この値が大きいほど立方体方位が発達していることを示す。
一方、フレキシブル銅貼積層板に積層する前の銅箔材料を、予め(200)方位の再結晶に適した温度範囲で充分に焼鈍しておき、(200)方位への配向度を高めておけば屈曲性はよくなるが、再結晶した銅箔は非常に柔らかいため、取り扱い時にオレやシワが発生しやすい。そのため、ラミネート装置に取り付ける前の銅箔コイルでは、銅箔にある程度の強度が必要であり、(200)方位への配向度を十分に高めることは難しい。
【0014】
そこで、銅箔を予備加熱して部分的に再結晶させ、(200)方位への配向度を十分に高めた後、樹脂層とラミネートすればCCLに屈曲性を付与することができる。特に、銅箔コイルを連続ラミネート装置のライン上で予備加熱し、同一ライン上で直ちに樹脂層とラミネートすれば、銅箔の強度を考慮せずにラミネート前に銅箔を部分的に再結晶させ、(200)方位への配向度を向上させて屈曲性を付与することができる。
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る銅張積層板の製造方法について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%(質量%)を示すものとする。図1は、本発明の銅張積層板のラミネート装置1の構成例を示す。なお、図1のラミネート装置1は、両面CCL用の装置であるが、まず、第1の銅箔4にワニス状の樹脂組成物2aを塗布し、硬化させて樹脂層2を形成する。そして、この片面CCLの樹脂層2面に、第2の銅箔6を重ね合わせてラミネートロール20、21で加熱積層する。
従って、図1のラミネート装置1においては、第2の銅箔6の予備加熱が、本発明の対象となる。
【0016】
図1において、ラミネート装置1は、銅箔6を予備加熱する1対のヒートロール(予備加熱装置)30、31と、ヒートロール30、31の後段に配置された1対のラミネートロール20,21(加熱プレス機)とを備えている。コイル状の銅箔6は巻き出され、ヒートロール30、31で予備加熱された直後に(ラミネート装置1の同一ライン上で)、ラミネートロール20,21に連続して導入される。ヒートロール30、31とラミネートロール20,21とは、ラミネート装置1の同一ライン上にある。又、ヒートロール30、31はラミネートロール20,21の直前の位置にある(ヒートロール30、31とラミネートロール20,21との間に他のロールが無い)。このため、銅箔の強度を考慮せずにヒートロール30、31で銅箔6を充分に予備加熱して再結晶化させた後、ラミネートロール20,21に導入することができる。
【0017】
図1における銅張積層板の製造方法を具体的に説明する。まず、コイル状の第1の銅箔4を連続的に巻出し、その片面に、アプリケーションロール10、11を用いてワニス状の樹脂組成物2aを連続的に塗布する。この樹脂組成物2aは硬化後に樹脂層2となる。次に、樹脂組成物2aを塗布した第1の銅箔4を乾燥装置15に導入し、樹脂組成物2aを硬化(又は半硬化させる)。このようにして、第1の銅箔4の片面に樹脂層を形成し、片面銅張積層板を得る。ここで第1の工程が終了した後にコイル状に巻き取り、第2の工程に進む場合もある。
【0018】
次に、コイル状の第2の銅箔6を連続的に巻出し、ヒートロール30、31で220〜280℃の到達温度まで3秒以内に昇温し、かつこの到達温度で1秒〜5秒保持する予備加熱を行う。これにより、第2の銅箔6が適度に再結晶化した状態でラミネートされる。またこの予備加熱は、昇温と保持温度の条件が上記条件範囲に含まれる条件であれば単一の加熱装置で行ってもよく、複数の加熱装置で行ってもよい。
ここで、上記した到達温度での保持時間が1秒未満であると、銅箔6の再結晶集合組織が充分に発達しない。これは優先方位が成長する以前に、ランダムに再結晶粒の核生成が起こり、それぞれが成長してしまうためと考えられる。上記した到達温度での保持時間を1秒以上とすると、再結晶しやすい優先方位だけを核生成させることができ、その後のラミネート法での加熱積層時の加熱により、予備加熱で生成した優先方位の核を成長させることができる。一方、保持時間が5秒を超えると、生産性が低下する。
又、到達温度が220℃未満であると、銅箔6の再結晶集合組織が充分に発達せず、又、保持時間が長くなるために生産性が低下する。到達温度が280℃を超えると、銅箔全体が再結晶し、完全軟化に近くなって強度が低下して加熱積層が困難になる。さらに銅箔が高温まで短時間に加熱されることにより、優先方位が成長する前にランダムに再結晶粒の核生成が起こり、(200)方位への配向度が高くならない。又、到達温度が280℃を超えると、銅箔表面が酸化してエッチング性や樹脂層との密着性が低下したり、銅箔表面の防錆剤が揮発して保存性が低下する。
【0019】
この予備加熱によって、銅箔6の再結晶率(銅箔6表面の金属組織において、再結晶粒の占める面積率)が10〜80%、引張り強さが予備加熱前の40〜90%に調整される。ここで、「引張り強さ比」を((予備加熱後の引張り強さ)/(予備加熱前の引張り強さ))×100で規定する。
図2は、予備加熱による銅箔の再結晶率と引張り強さ比との関係を模式的に表す。再結晶率が10%未満であると銅箔6の再結晶集合組織が充分に発達せず、再結晶率が80%を超えると銅箔全体が再結晶し、完全軟化に近くなって強度が低下して加熱積層が困難になる。
又、引張り強さが予備加熱前の90%を越えると、再結晶率も10%未満となって銅箔6の再結晶集合組織が充分に発達しない。引張り強さが予備加熱前の40%未満である場合は、再結晶率も80%を超えて銅箔全体が再結晶し、完全軟化に近くなる。
【0020】
予備加熱は、ラミネートロール20,21等による加熱積層(ラミネートプレス)と別ラインで行ってもよいし、また同一のラインで行ってもよい。但し、予備加熱によって銅箔の大幅に強度が低下する場合には、シワや折れの発生を防止するために、加熱積層と予備加熱とを同一のラインで行うことが好ましい。
【0021】
予備加熱の方法は特に制限されないが、銅箔と熱源との直接接触、または熱源からの輻射熱によって行うことが好ましい。これは、一般に銅箔の熱処理に用いられる対流式加熱装置(焼鈍炉等)は、材料の昇温速度が遅く所定の熱処理条件が得にくいこと、また設備が大型化するためにラミネートの加熱プレス機と同一ラインに設置することが難しいからである。
銅箔と熱源との直接接触法の具体例としては、上記したヒートロール30、31を挙げることができる。熱源からの輻射熱法の具体例としては、赤外線加熱(IR加熱)を挙げることができる。
【0022】
そして、例えば350〜400℃に加熱されたラミネートロール20、21の間に樹脂層2(裏面に第1の銅箔4が積層されているもの)及び第2の銅箔6を連続的に通箔する。このとき、第1の銅箔4の樹脂層2側に第2の銅箔6を合わせて加熱積層(ラミネート)し、両面銅張積層板8を得る。両面銅張積層板8は適宜コイルに巻き取られる。
【0023】
本発明の銅張積層板製造方法に用いられる銅箔(第2の銅箔6に相当)は、250℃に保持された熱源に1秒間〜5秒間直接接触させたとき、自身の表面の金属組織において再結晶粒の占める面積率が10〜80%となり、かつ前記接触後の前記銅箔の引張強さが前記接触前の引張強さの40〜90%となり、その後に350℃に保持された熱源に1秒間〜5秒間直接接触させたとき、I/I0(200)が60以上となる特性を有する。
250℃に保持された熱源に接触後の銅箔の特性は、上記予備加熱で得られる特性を表している。又、350℃に保持された熱源に1秒間〜5秒間直接接触させたときの特性は、ラミネートによる加熱積層時の加熱で得られる特性を表しており、I/I0(200)が60以上であれば、得られたCCLの屈曲性に優れる。
【0024】
又、本発明の銅張積層板製造方法に用いられる銅箔の組成に制限はないが、タフピッチ銅(JIS-1100)、無酸素銅(JIS-1020)、及びこれらにAg及びSnの群から選ばれる1種以上を合計0.05質量%以下含むものが好ましい。Ag及びSnの群から選ばれる1種以上の合計量が0.05質量%を超えると、銅箔の再結晶を妨げるため、予備加熱によって所定の組織が得られない可能性がある。
銅箔の再結晶を促進させるため、銅箔の半軟化温度が100℃〜200℃であることが好ましい。半軟化温度が100℃〜140℃程度であることがさらに好ましい。ここで半軟化温度とは、30分焼鈍後の強度が、焼鈍前の強度と完全再結晶状態での強度との中間値となる焼鈍温度を意味する。
【0025】
樹脂層2としては、ポリイミド;PET(ポリエチレンテレフタレート);エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂;飽和ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができるがこれらに限定されない。又、これら樹脂層の成分を溶剤に溶かしたワニス(例えば、ポリイミドの前駆体のポリアミック酸溶液)を第1の銅箔4の片面に塗布し、加熱することで溶媒を除去して反応(例えばイミド化反応)を進行させ、硬化させてもよい。樹脂層2の厚みは、例えば1〜15μm程度とすることができる。
又、樹脂層2としてフィルム状のものを用い、これを第1の銅箔4及び/又は第2の銅箔6に加熱積層してもよい。
【0026】
両面CCL用の銅張積層板のラミネート装置としては、上記したように銅箔4の片面にキャスト法で樹脂層2を形成した後、この樹脂層2面に銅箔6を合わせて加熱積層する装置の他、樹脂フィルムの両面に銅箔を加熱積層する装置としてもよい。後者の場合、樹脂フィルムの両面に2枚の銅箔を同時に加熱積層してもよく、樹脂フィルムの片面に第1の銅箔を加熱積層した後、第2の銅箔を加熱積層してもよい。この場合、第1の銅箔及び第2の銅箔にいずれも予備加熱を行う予備加熱装置を設けるとよい。
片面CCL用の銅張積層板のラミネート装置としては、樹脂フィルムの片面に第1の銅箔を加熱積層する装置が挙げられ、銅箔に予備加熱を行う予備加熱装置を設ける。
さらに、樹脂フィルムに銅箔を加熱積層する際、樹脂フィルム側に予め接着層が形成されたものを用いるとよいが、接着層を用いずに樹脂フィルムと銅箔とを加熱積層してもよい。又、樹脂フィルムと接着層の組成が異なるものは3層CCLとなるが、樹脂フィルムと接着層の組成が同一の場合、加熱積層後は銅箔と樹脂フィルムが積層された2層CCLとなる。
【実施例】
【0027】
<銅箔>
表1に示す組成のインゴットを製造し、熱間圧延で10mm前後まで加工し、冷間圧延と焼鈍とを繰り返して製造し、冷間圧延後に、表1に示す条件で予備加熱を行ったものを用いた。予備加熱は銅箔(後述する屈曲性の評価ではCCL)を、所定温度に加熱した2枚の銅板で挟んで行った。銅箔の組成は表に示すとおりである。銅箔は99%の最終加工度で圧延し、厚み18μmとした。予備加熱後の箔の片面に化学処理(銅系粗化めっき)を施し、CCLの積層に供した。
予備加熱前後の銅箔の再結晶率、引張強度比を測定し、さらに予備加熱後の銅箔の半軟化温度を測定した。再結晶率の測定は、銅箔表面を電子顕微鏡で観察し、得られた画像を二値化したものを画像解析し、再結晶部の面積率を算出した。引張強度はJISに従った。
又、予備加熱後の銅箔を、350℃に加熱した2枚の銅板で挟んで1秒間保持した後、200面のX線回折強度比I/I0を測定した。
【0028】
<CCLの製造>
ラミネート法で二層フレキシブル銅貼積層板を製造するためのポリイミドフィルムとして、両面に熱可塑性ポリイミドを接着剤として塗布した厚み25μmのフィルム(宇部興産社製のユーピレックスVT)を用いた。表面の熱可塑性ポリイミド接着剤は、コア部のポリイミドフィルムと異種の樹脂ではなく、銅箔と積層した後は、全体として基体樹脂となって二層フレキシブル銅貼積層板になる。
接着剤を両面に有する上記ポリイミドフィルムの両面に、上記した予備加熱後の2枚の銅箔を化学処理面がそれぞれフィルムに対向するようにして重ね、フィルムを各銅箔で挟み込んで積層し、約300℃の加熱ロールで通箔速度3m/分として加熱積層(ラミネート)した。
【0029】
<屈曲性の評価>
ラミネート法で得た二層フレキシブル銅貼積層板(CCL)のうち、片方の銅箔を塩化第ニ鉄水溶液でエッチングして除去した。この後、既知のフォトリソグラフイ技術を用い、残った銅箔に回路幅200μmの配線を形成し、エポキシ系の接着剤が塗布されたポリイミドフィルムをカバーレイとして熱圧着して屈曲試験用のFPCを作製した。
IPC摺動屈曲試験機を使用し、曲げ半径1mmで毎分100回の繰り返し摺動を上記FPC片に負荷し、配線の電気抵抗が初期から10%上昇した屈曲回数を終点とした。屈曲回数が10万回を超える場合を良い(○)、10万回未満を悪い(×)と判定した。
【0030】
搬送性は、ラミネート後のCCLにおいて、折れまたはシワに起因する銅箔の孔または切れが、通板長さ1mあたりに5箇所以上発生するものを評価×とした。
又、生産性は、予備加熱の保持時間が5秒を超えたものを評価×とした。
【0031】
得られた結果を表1に示す。なお、表1のTPCはタフピッチ銅(JIS-1100)を表し、OFCは無酸素銅(JIS-1020)を表す。又、例えばAg190ppm−TPCは、TPCにAgを190質量ppm添加した組成を表す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、各実施例の場合、ラミネート法によって加熱積層する前に、銅箔を220〜280℃の到達温度まで3秒以内に昇温し、かつこの到達温度で1秒〜5秒保持する予備加熱を行った。このため、ラミネート時の加熱を模した350℃×1秒の加熱後に銅箔の200面の配向度が60以上となり、生産性、搬送性及び屈曲性がいずれも優れたものとなった。
図3は予備加熱後の実施例1の銅箔の組織の顕微鏡写真を示し、図4は、予備加熱後にさらに350℃×1秒の加熱後の実施例1の銅箔の組織の顕微鏡写真を示す。予備加熱により、部分的に再結晶組織が発生し、さらにラミネート時の加熱(350℃×1秒)により、再結晶組織が増えることがわかる。
【0034】
一方、予備加熱をしなかった比較例6と、予備加熱時の到達温度が220℃未満である比較例1,3の場合、いずれも350℃×1秒の加熱後の銅箔の200面の配向度が60未満となり、得られたCCLの屈曲性が劣った。
予備加熱時の到達温度までの昇温時間が3秒を超えた比較例2の場合、到達温度と保持時間が適正であっても、充分な再結晶率が得られず、得られたCCLの屈曲性が劣った。これは、低温に銅箔が長時間曝されたために再結晶の駆動力となる転位が解放されてしまったためと考えられる。なお、比較例2は、昇温速度が遅い対流式加熱装置(焼鈍炉等)を模した例である。
又、予備加熱時の到達温度が280℃を超えた比較例4,5の場合、再結晶率が100%となって完全軟化に近くなり、強度が低下して搬送性が劣った。又、350℃×1秒の加熱後の銅箔の200面の配向度も60未満となり、得られたCCLの屈曲性が劣った。
予備加熱時の保持時間が5秒を超えた比較例7の場合、予備加熱時間が長くなって生産性が劣るとともに、再結晶率が100%となって完全軟化に近くなり、強度が低下して搬送性が劣った。
銅箔中のSnの添加量が0.05質量%(500ppm)を超えた比較例8の場合、予備加熱しても再結晶が生じず、350℃×1秒の加熱後の銅箔の200面の配向度が60未満となり、得られたCCLの屈曲性が劣った。
【符号の説明】
【0035】
1 銅張積層板のラミネート装置
2 樹脂層
6 銅箔
20,21 ラミネートロール(加熱プレス機)
30、31 ヒートロール(予備加熱装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔と樹脂層とをラミネート法によって加熱積層する前に、前記銅箔を220〜280℃の到達温度まで3秒以内で昇温し、かつ前記到達温度で1秒〜5秒保持する予備加熱を行うことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項2】
銅箔と樹脂層とをラミネート法によって加熱積層する前に、前記銅箔に対し、再結晶粒の占める面積率が前記銅箔表面の金属組織において10%以上80%以下で、かつ前記予備加熱後の前記銅箔の引張強さが前記予備加熱前の引張強さの40〜90%となる予備加熱を行うことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項3】
前記予備加熱を、前記加熱積層と同一のラインで行う請求項1又は2に記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項4】
前記予備加熱を、前記銅箔と熱源との直接接触、又は熱源からの輻射熱により行う請求項1〜3のいずれかに記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の銅張積層板の製造方法に用いる銅箔であって、
250℃に保持された熱源に1秒間〜5秒間直接接触させたとき、自身の表面の金属組織において再結晶粒の占める面積率が10〜80%となり、かつ前記接触後の前記銅箔の引張強さが前記接触前の引張強さの40〜90%となり、
その後に350℃に保持された熱源に1秒間〜5秒間直接接触させたとき、I/I0(200)が60以上となる銅箔。
【請求項6】
Ag及びSnの群から選ばれる1種以上を合計0.05質量%以下含む請求項5に記載の銅箔。
【請求項7】
銅箔と樹脂層とを連続して積層する銅張積層板のラミネート装置であって、
前記銅箔を予備加熱する予備加熱装置と、
前記予備加熱装置の後段に配置され、樹脂層と前記予備加熱された銅箔とを加熱積層する加熱プレス機とを備えた銅張積層板のラミネート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−148192(P2011−148192A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11361(P2010−11361)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】