説明

銅箔及びそれを用いたフレキシブルプリント基板

【課題】耐熱性、導電性、及び屈曲性に優れつつ高強度である銅箔及びそれを用いたフレキシブルプリント基板を提供する。
【解決手段】300℃で30分の熱処理後に、4.5×10-3≧(引張強度/ヤング率)≧3×10-3を満たし、かつ引張強度が250MPa以上で導電率が80%IACS以上である銅箔であって、Ti、Zr及びMgの群から選ばれる1種以上の元素を合計1000〜3000ppm含むか、又はTi、Zr、Mg、Cr、Sn、In及びAgの群から選ばれる2種以上の元素を合計1000〜3000ppm含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブルプリント基板等の配線部材に用いて好適な圧延銅箔及びそれを用いたフレキシブルプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板(以下、「FPC」と称する)はフレキシブル性を有するため、電子回路の折り曲げ部や可動部に広く使用されている。例えば、HDDやDVD及びCD−ROM等のディスク関連機器の可動部や、折りたたみ式携帯電話機の折り曲げ部等にFPCが用いられている。
FPCは一般に、基材フィルムに回路となる銅箔を張り合わせて加熱することにより製造され、銅箔としては、電解銅箔より屈曲性に優れたタフピッチ銅や無酸素銅の圧延銅箔が使用される。又、屈曲性を向上させるため、圧延銅箔は焼鈍した状態でFPCに使用される。
【0003】
特に、携帯電話等の薄型化が進展し、それに応じて可動部に用いられるFPCの屈曲半径は小さくなる傾向にあり、より高い屈曲性が要求されている。そこで、最終圧延後に焼鈍された銅箔の板厚方向に貫通した結晶粒の割合を多くし(結晶粒径を大きくし)、屈曲による変形を単結晶の変形とさせて屈曲性を向上させた圧延銅箔が報告されている(特許文献1参照)。
又、最終冷間圧延後の再結晶焼鈍の後に圧延面でのX線回折で求めた200面の積分強度(I (200) )が,微粉末銅のX線回折で求めた200面の積分強度(I0 (200) )に対し,I (200) /I0 (200) ≧40とし、立方体集合組織が著しく発達した圧延銅箔が報告されている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006-117977号公報
【特許文献2】特開2001-323354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2記載の技術の場合、屈曲特性を向上させるために強度が低く、柔らか過ぎるという問題があった。例えば、特許文献2記載の技術の場合、強度に寄与する(111)面の割合が極めて少ない。
一方、材料の強化方法には、固溶元素の添加と、強加工による加工硬化とがあるが、前者は固溶元素の添加により導電率が低下するためFPC用銅箔に適用するには制限がある。又、加工硬化を行う場合、加工度が高いほど強度が向上するが、FPC用銅箔をフィルムと貼合せて熱処理を行う際、焼き鈍されて粗大再結晶粒が形成されるため、かえって強度が低下することがある。
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、耐熱性、導電性、及び屈曲性に優れつつ高強度である銅箔及びそれを用いたフレキシブルプリント基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討した結果、FPC加工時の熱処理で再結晶集合組織を発達させず完全に再結晶させないよう制御することで、異方性がなく粗大結晶粒が生じ難い銅箔が得られ、(引張強度/ヤング率)の比を一定範囲に管理して強度と屈曲性を向上できることを見出した。この銅箔はFPC加工時の熱処理で強度が低下し難く、組織は (100)方位と(111)方位を適度に含み、ヤング率もこれらの方位の割合を反映した大きさとなる。そのため、(111)方位を持つ圧延上り材よりもヤング率が小さい、つまり、従来の銅箔より(引張強度/ヤング率)の比を高くできるので屈曲性に優れる。
【0007】
すなわち、本発明の銅箔は、300℃で30分の熱処理後に、4.5×10-3≧(引張強度/ヤング率)≧3×10-3を満たし、かつ引張強度が250MPa以上で導電率が80%IACS以上であることを特徴とする。
【0008】
又、本発明の銅箔は、300℃で30分の熱処理後に、4.5×10-3≧(引張強度/ヤング率)≧3×10-3を満たし、かつヤング率が90〜130GPaで導電率が80%IACS以上であることを特徴とする。
【0009】
又、本発明の銅箔は、300℃で30分の熱処理後に、X線回折による(200)方位の積分強度I(200)と(111)方位の積分強度I(111)との比率が15≧I(200)/I(111)≧1.5であり、かつ導電率が80%IACS以上であることを特徴とする。
【0010】
最終圧延加工度が80〜96%であり、最終圧延の直前での結晶粒径が5〜10μmで製造されていることが好ましい。
焼鈍時間を30分としたときの半軟化温度が300℃以上であることが好ましい。
Ti、Zr及びMgの群から選ばれる1種以上の元素を合計1000〜3000ppm含むこと、又はTi、Zr、Mg、Cr、Sn、In及びAgの群から選ばれる2種以上の元素を合計1000〜3000ppm含むことが好ましい。
【0011】
本発明のフレキシブルプリント基板は、前記銅箔を用いたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性、導電性、及び屈曲性に優れつつ高強度である銅箔が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る銅箔について説明する。なお、本発明において%は特に断らない限り、質量%を示すものとする。
又、本発明の実施の形態に係る銅箔は、FPC等の導電性を要求されるため、導電率が80%IACS以上である。なお、本発明の銅箔は銅合金箔も含む。
【0014】
[σ/E(引張強度/ヤング率)の比]
本発明の実施の形態に係る銅箔は、4.5×10-3≧(引張強度/ヤング率)≧3×10-3を満たす。
従来から、材料の屈曲寿命と材料表面にかかるひずみの大きさとの関係は、バスキン(Basquin)の式(式1)として知られている。
log(2N) ∝{c−(1/b)log(σ/E) }+(1/b)・log(ΔεT /2) (1)
N:屈曲寿命、b:材料固有の負の定数、σ:破断強度、E:ヤング率、ΔεT:ひずみの大きさ
式1より、σ/E(引張強度/ヤング率)が大きいほど、ひずみに対する屈曲寿命は大きくなり、屈曲性が良好となる。又、σ/Eを大きくするためには、強度を大きくするかヤング率を小さくすればよい。
【0015】
ヤング率を下げるには再結晶集合組織を発達させるとよいが、再結晶集合組織を発達させるために焼鈍すると、焼鈍軟化が起こって強度が低下し、σ/Eが大きくならない。
そこで、FPC加工時の熱処理で再結晶集合組織を発達させず完全に再結晶させないよう制御することで、異方性がなく粗大結晶粒が生じ難い銅箔が得られ、(引張強度/ヤング率)の比を一定範囲に管理して強度と屈曲性を向上できる。この銅箔はFPC加工時の熱処理で強度が低下し難く、組織は (100)方位と(111)方位を適度に含み、ヤング率もこれらの方位の割合を反映した大きさとなる。そのため、(111)方位を持つ圧延上り材よりもヤング率が小さい、つまり、従来の銅箔より(引張強度/ヤング率)の比を高くできるので屈曲性にも優れる。
【0016】
再結晶集合組織の発達を抑えるためには、圧延加工度をあまり大きくせず、圧延前結晶粒径を小さくし過ぎないことがよい。これは、圧延加工度が高く、圧延前結晶粒径が小さいほど再結晶集合組織が発達しやすいためである。
好ましい圧延加工度と圧延前結晶粒径の範囲としては、最終圧延加工度が80〜96%であり、最終圧延の直前での結晶粒径が5〜10μmである。
【0017】
σ/E<3×10-3であると、強度が低下し、特にFPC加工時の熱処理で強度が著しく低下する。一方、σ/Eは高いほどよいが、FPC加工時の熱処理(300℃で30分)では4.5×10-3が上限であり、これより高いσ/Eを得ようとすると熱処理温度を300℃未満とする必要があり、FPCを製造することができない。
【0018】
[ヤング率]
ヤング率が低いほどσ/Eを大きくすることができるが、ヤング率が90GPa未満であると、箔が柔らかくなり過ぎて腰がなくなり、屈曲時の摺動半径にFPC(箔)の変形が追随できずに腰折れが発生することがある。腰折れが発生すると、腰折れ部に変形荷重が集中して破断する。一方、銅箔のヤング率は最大で130Gpa程度である。
以上のことから、本発明の一実施形態に係る銅箔は、ヤング率を90〜130Gpaに規定される。
【0019】
[結晶方位]
ヤング率は結晶方位と相関があり、銅を含む面心立方格子では(100)方向でもっともヤング率が低く、その他の方位のヤング率は(100)方向のヤング率より高い。そのため、圧延方向に(100)方位が揃うように再結晶集合組織を発達させることで、圧延平行方向のヤング率を下げることができる。(100)方位への集合度は、X線回折による(200)方位の積分強度I(200)と、(111)方位の積分強度I(111)との比率であるI(200)/I(111)の値で評価できる。
I(200)/I(111)<1.5であると、ヤング率を低減させる(100)方位が少なくなり、σ/Eが小さくなって屈曲性が向上しない場合がある。一方、I(200)/I(111)>15であると、ヤング率は低下するが強度が大幅に低下し、箔が柔らかくなり過ぎて腰がなくなり腰折れが発生することがある。
以上のことから、本発明の一実施形態に係る銅箔は、15≧I(200)/I(111)≧1.5の範囲に規定される。
【0020】
[組成]
一般に、銅箔をFPCに加工する工程での熱処理温度は250〜350℃程度(箔とフィルムとの2層材の場合)であるため、添加元素を含まない純銅は完全に再結晶してしまう。従って、加工時の再結晶を抑制するため、本発明の実施形態に係る銅箔は、導電率が低下しない範囲で元素を含む。
本発明の実施形態に係る圧延銅箔は、Ti、Zr及びMgの群から選ばれる1種以上の元素を合計1000〜3000ppm含むか、又はTi、Zr、Mg、Cr、Sn、In及びAgの群から選ばれる1種以上の元素を合計1000〜3000ppm含むことが好ましい。
上記した元素は耐熱性向上に有効な元素である。これは、耐熱性を向上させる元素は、FPC加工工程での銅箔の再結晶による結晶粒の粗大化を抑制できるからである。但し、添加元素を多量に含有すると導電率が低下し、FPC用銅箔として好ましくない。
【0021】
そこで、導電率への影響が少なく、かつ少量でも耐熱性向上に有効な元素を選択する。
図1は、銅箔の添加元素としてよく用いられるCu,Sn,Mg,Ag,In,Fe,Cr,Zn,Ti,Be,Cd,Zrをそれぞれ純度99.96%以上の電気銅に所定量添加し溶解し、得られた鋳塊を熱間圧延で厚さ10mmにした後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して、厚さ0.1mmとしたときの、半軟化温度を示す。
半軟化温度は、試料を焼鈍してゆきビッカース硬さを測定した際の、焼鈍前のビッカース硬さと、完全に軟化したとき(30分焼鈍後にそれ以上焼鈍温度を上げても強度(ビッカース硬さ)が変化しない状態を、完全に軟化したとみなす)ときの中間のビッカース硬さを示す焼鈍温度を示す。
【0022】
図1から、添加元素によって半軟化温度が異なることがわかる。純銅の半軟化温度は160℃であるので、この温度を基準とし、各元素の半軟化温度が160℃から上昇した分(ΔT)を求めて表1に比較した。
【0023】
【表1】

【0024】
Snは耐熱性を向上させる元素として有効であることが知られており、本発明ではSnを添加元素を選択する際の基準におく。従って、表1より、SnのΔTSnを1としたとき、各元素(0.05%添加時)のΔTの比(ΔT/ΔTSn)を求めた。この比がSnに対して各元素が耐熱性を向上させる度合(効き具合)を示す。この比より、Snと同等(上記比が0.7以上)の元素は、Mg,Ag,In,Cr,Ti,Cd,Zrである。但し、Cdは添加元素として不適である。
これらの元素の合計添加量が1000ppm(0.1質量%)未満の場合、耐熱性向上に有効でなく、合計添加量が3000ppmを超えると導電率が低下する傾向にある。
なお、合金の導電率はマティーセン(Matthiessen)の式によって計算することができ、この式に上記元素のΔρiを代入すると、およそ合計添加量が3000ppmを超えると導電率が80IACS未満となる。Δρiは文献値(著者:村上陽太郎・亀井清 著、「朝倉金属工学シリーズ 非鉄金属材料学」、初版第1刷、朝倉書店、1978年4月発行、p13)による。
【0025】
本発明の実施の形態に係る銅箔において、圧延平行方向の表面の最大高さRyが0.5μm以下であり、かつ厚みが20μm以下であることが好ましい。
銅箔厚みが薄いほど屈曲時に銅箔にかかる変形量が小さくなるため、同一の屈曲半径で比較した場合に屈曲寿命が長くなるからである。
一方、銅箔厚みを薄くするためには最終圧延加工度を高くする必要があるが、強加工すると銅箔表面にオイルピットができて表面が粗くなる。そして、Rzが大きくなる程、引張り強度(TS)は低下する。これはオイルピット部分で銅箔の実効厚みが薄くなり、その部分に荷重が集中するためである。一方でヤング率は表面粗さによらないので、Rzが大きいとσ/Eの値が小さくなり屈曲性が低下する傾向にある。
このようなことから、Ryが0.5μm以下であることが好ましい。Ryを0.5μm以下とする方法としては、圧延油粘度とロール粗さ等の圧延条件を設定して最終圧延加工度に上限を設けることが挙げられる。
【0026】
本発明のフレキシブルプリント基板(FPC)は、前記銅箔を用いたものである。
なお、FPCの加工工程内で過度に加熱すると再結晶がすすみ、集合組織が発達してしまう。従って、FPCの加工工程内での熱処理温度を、銅箔の半軟化温度+50℃以下とするのがよい。
【0027】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。又、本発明の作用効果を奏する限り、上記実施形態における銅合金がその他の成分を含有してもよい。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
純度99.96%以上の電気銅に、表2、3に示す元素をそれぞれ添加し、鋳塊を得た。この鋳塊を熱間圧延して厚さ10mmとした後、表面を面削し、冷間圧延と焼鈍を繰り返し、最終厚さ0.1mmの板状試料とした。
各板状試料について、半軟化温度を測定した。半軟化温度は、板状試料を焼鈍してゆき、焼鈍前のビッカース硬さと、完全に軟化したときのビッカース硬さを求め、これらの中間のビッカース硬さを示すときの焼鈍温度とした。
又、各板状試料について、表面の最大高さRyをJIS-B0601(触針式粗さ測定に従って測定し、最終圧延前の結晶粒径をJIS-H0501(切断法)に従って測定した。
各板状試料について、最終圧延後の引張り強度(TS)をJIS-Z2241に従って測定し、ヤング率(E)をヤング率測定器(日本テクノプラス株式会社製TE-RT(非接触静電駆動方式片持ち式固有振動法ヤング率測定器)を用いて測定した。ヤング率測定の際の試料寸法は長さ15mm×幅3.2mmとした。
なお、各板状試料に対し、FPC加工における熱履歴と同等の熱処理として300℃で30分間の焼鈍を施した後の引張り強度及びヤング率についても測定した。
【0029】
又、上記鋳塊を熱間圧延して厚さ10mmとした後、表面を面削し、冷間圧延と焼鈍を繰り返し、表2、3に示す最終厚さの箔を得た。得られた箔の片面に銅粗化めっきを行い、キャスト法でポリイミド(厚み20μm)と箔を積層した後にエッチング加工を行って所定パターンの回路を形成し、FPCサンプル(幅12.7mmの長尺状で、回路幅1mm)を得た。
【0030】
各FPCサンプルについて、4端子法により25℃の導電率を測定した。
又、以下の方法で屈曲試験を行った。
屈曲試験(ICP)は、FPCサンプルを長手方向にU字に曲げ、一端を可動板に固定し、他端を固定板に固定し、可動板をFPCサンプルの長辺方向に往復振動させて行った。試験条件は、U字の曲率半径1mm、振動ストローク5mm、振動周波数1200回/分とした。また、屈曲試験中の試料の電気抵抗を測定し、初期抵抗から10%抵抗が増加するまでの屈曲回数を求めた。試料の電気抵抗が初期抵抗の10%増加するまでに要する屈曲回数が10万回以上であれば◎、5万回以上10万回未満であれば○、1万回以上5万回未満を△、1万回未満を×とした。評価が◎か○であれば、実用上問題ない。
摺動屈曲試験装置は、特開2001-323354号公報の図1に記載されているものと同様なものとした。
得られた結果を表2、表3に示す。なお、表2、表3の添加元素の割合(組成の添字)は質量%である。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表2から明らかなように、4.5×10-3≧σ/E≧3×10-3を満たす各実施例の場合、屈曲性が優れていた。
【0034】
一方、圧延時に強加工した(98%)比較例1の場合、圧延直後の引張強度は高かったが熱処理後に強度が低下し、σ/E<3×10-3となったため、屈曲性が劣化した。これは強加工によってせん断帯が導入されたためと考えられる。
最終圧延後に焼鈍(450℃で30分)を加えた比較例2の場合、ヤング率は低下したがそれ以上に強度が著しく低下し、σ/E<3×10-3となったため、屈曲性が劣化した。
比較例3の場合、熱処理後に強度が著しく低下し、σ/E<3×10-3となったため、屈曲性が劣化した。これは、圧延前の結晶粒径が大きい(10nmを超えた)ため、圧延によって加工強化し難くなったためと考えられる。
【0035】
熱処理を200℃で30分行った比較例4の場合、σ/E は4.5×10-3を超えたが、そもそもこの熱処理温度ではFPCを製造できないため、不適である。
添加元素の量が1000ppm未満である比較例5、7の場合、熱処理後に強度が著しく低下し、σ/E<3×10-3となったため、屈曲性が劣化した。これは、添加元素が少ないために熱処理時の再結晶を抑制できなかったためと考えられる。特に、比較例7の場合、(200)方位が極端に増えたために強度が最も低下し、材料の腰がないために屈曲試験時に腰折れが生じた。
添加元素の量が3000ppmを超えた比較例6,8の場合、導電率が80%IACS未満となった。
【0036】
表3より、公知のタフピッチ銅を用いた参考例1,2の場合、熱処理後に強度が著しく低下し、σ/E<3×10-3となったため、屈曲性が劣化した。
公知のタフピッチ銅にAgを0.019質量%添加した参考例3〜5の場合、公知の無酸素銅にSnを0.012質量%添加した参考例6,7の場合も、熱処理後に強度が著しく低下し、σ/E<3×10-3となったため、屈曲性が劣化した。なお、参考例3〜7は、特開2001-323354号公報(段落0011)に記載の公知の銅材料である。
公知の7/3黄銅を用いた参考例8,9の場合、σ/Eは3×10-3以上となり屈曲性に優れたが、導電率が80%IACS未満となった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】添加元素を加えた銅の半軟化温度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
300℃で30分の熱処理後に、4.5×10-3≧(引張強度/ヤング率)≧3×10-3を満たし、かつ引張強度が250MPa以上で導電率が80%IACS以上であることを特徴とする銅箔。
【請求項2】
300℃で30分の熱処理後に、4.5×10-3≧(引張強度/ヤング率)≧3×10-3を満たし、かつヤング率が90〜130GPaで導電率が80%IACS以上であることを特徴とする銅箔。
【請求項3】
300℃で30分の熱処理後に、X線回折による(200)方位の積分強度I(200)と(111)方位の積分強度I(111)との比率が15≧I(200)/I(111)≧1.5であり、かつ導電率が80%IACS以上であることを特徴とする銅箔。
【請求項4】
最終圧延加工度が80〜96%であり、最終圧延の直前での結晶粒径が5〜10μmで製造されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅箔。
【請求項5】
焼鈍時間を30分としたときの半軟化温度が300℃以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の銅箔。
【請求項6】
Ti、Zr及びMgの群から選ばれる1種以上の元素を合計1000〜3000ppm含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅箔。
【請求項7】
Ti、Zr、Mg、Cr、Sn、In及びAgの群から選ばれる2種以上の元素を合計1000〜3000ppm含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅箔。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の銅箔を用いたフレキシブルプリント基板。

【図1】
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【公開番号】特開2009−108376(P2009−108376A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282690(P2007−282690)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】