説明

銅被覆アルミニウム線の製造方法および銅被覆アルミニウム線

【課題】サンドブラスト処理方法を用いてCA線を製造するに当たり、Cu被覆とAl線をより強固に密着させることができる方法を提供することにある。具体的には、Al線の表面をサンドブラスト処理する場合の前記の問題点を解決する方法を提供するものである。さらには、生産性にも優れたCA線の製造方法を提供することにある。
【解決手段】Al線表面を、Cu微粉末を用いてサンドブラスト処理した後、Cuテープを縦添えしながらその突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を行ってCuテープを前記Al線に密着させてCA複合線とし、ついで、得られたCA複合線を目的とする線径まで伸線加工を行うCA線の製造方法とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム線(以下、Al線)からなる芯材に銅被覆(以下、Cu被覆)が設けられた銅被覆アルミニウム線(以下、CA線)を製造する方法および前記製造方法によって製造したCA線に関する。
【背景技術】
【0002】
CA線は、Al線にCu被覆が施されたものであるため、軽くて成形性に優れ、またはんだ付性も良好である。このため、電子機器用の導体、ハードディスクドライブのピックアップコイルやヘッドホン用の巻線、高周波化が進んでいる高周波同軸ケーブル用の導体としても使用される。さらに軽量化の観点から、最近は自動車用のワイヤハーネスにも適用が検討されている。これは、自動車のエレクトロニクス化進んだことにより電装用ワイヤハーネスも益々重量が増加してきていることによる。一般的な自動車用の電装ワイヤハーネスは約25Kg/台程度となっている。そして、この中に占める電線重量も15Kgとなっている。自動車産業においては、軽量化が1Kg単位で進められており電線重量も問題となっている。このために、電線の軽量化、すなわち電線導体の軽量化が一つのターゲットとなっている。このような状況下で、CA線はこの問題に十分対応できるものと思われる。
前記CA線の製造は、通常ワイヤブラッシングなどによって表面を清浄にした銅テープを所定の幅にスリットし、同様に表面を清浄したAl線を包み込むように丸く成形し、その突合せ部分を連続的にTIG溶接等によって接合した後、ロール加工等によって縮径して銅テープをAl線上に密着させて銅被覆アルミニウム複合線(以下、CA複合線)とし、ついで、これを伸線機等により伸線加工を施すことによって目的とする径にすることによってCA線が製造されている。その際、前記CA複合線の段階においてCu被覆とAl線とが確実に密着されていないと、Cu被覆が剥離したり、Al線がCu被覆から露出する等の問題がある。このような状態が生じるのは、伸線加工段階でCu被覆に過大な応力が掛かるためであると考えられる。Alが露出してしまうと異種金属接触腐食によりAlが急速に腐食して断線する等の問題が生じるため、Cu被覆とAl線を強固に密着する必要がある。
このような問題点に対する解決策の一つとして、特許文献1が見られる。すなわち、造管方式により得られる複合線を所定径まで伸線加工する際に銅層とAl線との密着性を大幅に高めて、接合を促進できるようにするため、素材として使用するAl線の表面粗さが5〜50μmであり、かつ銅テープのAl線に接する面の表面粗さが10μm以下の素材を用いることによって、密着性を向上させることができるとしている。確かにこのようなCA線は、従来の製造方法によるものと比較すると密着性能が向上しているが、過度の伸線加工を行うとやはりAl線がCu被覆から露出することがあり、CA線としては今だ十分とは言えず更なる性能向上が求められている。またこのような方法は、ブラシ研磨にせよサンドブラストにせよ処理に手間が掛かるので製造コストが上昇する問題もある。また、サンドブラストの材料に関しての記載がないが、一般的にサンドブラストのブラスト粒子はセラミックスの微粉末が使用されるので、これを用いたブラスと処理ではAl線の表面にセラミックス微粉末が埋め込まれることになり、CuとAl間の金属結合を阻害することになり、結果としてその後の伸線加工処理においてCu被覆層のみが伸び切れてAl線が露出する問題が生じることになる。
【特許文献1】特開2007−152398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって、本発明が解決しようとする課題は、サンドブラスト処理方法を用いてCA線を製造するに当たり、Cu被覆とAl線をより強固に密着させることができる方法を提供することにある。具体的には、Al線の表面をサンドブラスト処理する場合の前記の問題点を解決する方法を提供するものである。すなわち、縮径加工を行ったCA複合線におけるCu被覆とAl線の密着性を良好なものとし、その後に目的とする線径に伸線加工を行ってもCu被覆が剥離したり、Al線がCu被覆から露出することのないCA線を提供することにある。さらには、生産性にも優れたCA線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載するように、Al線表面を、銅微粉末(以下、Cu微粉末)を用いてサンドブラスト処理した後、Cuテープを縦添えしながらその突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を行ってCuテープを前記Al線に密着させてCA複合線とし、ついで、このCA複合線を目的とする線径まで伸線加工を行うCA線の製造方法とすることによって、解決される。
【0005】
また、請求項2に記載するように、請求項1に記載のCA線の製造方法によって得られたCA線のCu被覆の占積率を1〜50%としたCA線とすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0006】
以上の本発明のように、Al線表面を、Cu微粉末を用いてサンドブラスト処理した後、Cuテープを縦添えしながらその突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を行ってCuテープを前記Al線に圧着、縮径してCA複合線とするので、Al線表面の酸化物が除去されてCuとAl間の金属結合を阻害することがなくなると共に、例えAl線にCu微粉末が残存したとしても、返って残留するCu微粉末がアンカーとしてCuとAlの金属結合に寄与することになるので、Cu被覆とAl線をより強固に密着させることができる。このため、その後の伸線加工においてより過度の応力が掛かってもCu被覆が剥離したり、Al線がCu被覆から露出することのないCA線が得られる。
さらに、Al線表面を、Cu微粉末を用いてサンドブラスト処理すればよいので、生産性にも優れた処理方法でありCA線の製造方法としても製造コストの上昇はない。
【0007】
本発明のCA線は、Cu被覆の占積率を1〜50%としたので、軽くて成形性に優れ、また電気的特性やはんだ付性も良好である。このため、電子機器用の導体、ハードディスクドライブのピックアップコイルやヘッドホン用の巻線として、また、CA線はその表面にCuが被覆されているので、高周波同軸ケーブル用の導体としても使用できる。さらに軽量化の観点からは、自動車用の電装ワイヤハーネスとしても十分に適用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、Al線表面を、Cu微粉末を用いてサンドブラスト処理した後、Cuテープを縦添えしながらその突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を行ってCuテープを前記Al線に密着させてCA複合線とし、ついで、得られたCA複合線を目的とする線径まで伸線加工を行うCA線の製造方法である。このためCu被覆とAl線の間が十分に金属結合して密着されたCA線であり、また、Cu微粉末を用いたサンドブラスト処理による本発明の製造方法は、他の製造方法に比較して比較的簡単に行えるので生産効率が良く生産性が高いものである。なお前記Al線には、Al合金線も含むものとする。
【0009】
このようなCA線の一般的な製造方法は、ワイヤブラッシングなどによって表面を清浄にしたCuテープを所定の幅にスリットし、同様に表面を清浄したAl線を包み込むように丸く成形し、その突合せ部分を連続的にTIG溶接等によって接合した後、ロール加工等によって縮径してCuテープをAl線上に密着させてCA複合線とし、ついで、これを伸線機等により伸線加工を行って目的とする線径(通常1mm〜50μm)とする。しかしながら、前記CA複合線の段階でCu被覆がAl線と十分に密着していないと、つぎに行われる伸線加工によってCu被覆が剥離したり、Al線がCu被覆から露出する等の問題が生じ、製品として使用できなくなる。
そこで本発明においては、電解脱脂処理をしたAl線表面を、Cu微粉末を用いてサンドブラスト処理することによって、Al線表面の酸化物が除去され清浄化されると共に、例えCu微粉末が残留してもCuとAl間の金属結合を阻害することがない。返って残留するCu微粉末がアンカー効果によりCu被覆とAl線の金属結合に寄与することになり、Cu被覆とAl線をより強固に密着させることができることを確認した。このことにより、その後の伸線加工によってもCu被覆が剥離したり、Al線がCu被覆から露出する等の問題が全く生じない。なお前記電解脱脂処理としては、例えば、脱脂液(10%NaCO)を用い電流密度が0.5〜6A/dmのような電解脱脂が行われる。
また前記Cu微粉末としては、粒径が10〜100μm程度の純Cu微粉末、Cu−Al等のCu合金微粉末が使用できる。特に、粒径が10〜50μm程度の純Cu微粉末が好ましい。なお、前記サンドブラスト処理は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行うのが良い。このことにより、サンドブラスト処理後にAl線表面に酸化物が生成するのをより防ぐことができる。
【0010】
本発明のCu微粉末によるサンドブラスト処理の効果を実験によって確認した。図1がその結果を示す図面で、CA線の縦断面の一部を模式的に示した断面図である。(a)は、本発明のCu微粉末3によってサンドブラスト処理後に縮径・伸線加工を行った場合で、Al線1とCu被覆2との層間は点線5で示したように金属結合が行われて完全に一体化していることが判る。これに対して、(b)のように従来のセラミック微粉末4によってサンドブラスト処理した後、縮径・伸線加工を行ったものはAl線1とCu被覆2との境界面が、点線5で示したように一体化している部分と、セラミック微粉末が介在してAl線とCu被覆2との層間が完全に金属結合していない部分が存在していることが判る。このように、Al線1とCu被覆2が完全に密着していないと、つぎの伸線加工によってこの部分でCu被覆に亀裂が生じたり、剥離したりして、Al線がCu被覆から露出する等の問題が生じることが確認された。
【0011】
このようにCu微粉末によってサンドブラスト処理されたAl線は、Cuテープを縦添えしながらその突合せ部を連続的に溶接してCuテープを前記Al線にフォーミングさせ、ついでロール等により圧着・縮径することによってCA複合線とする。そして、このCA複合線をダイス等の伸線機等を用いて伸線加工を行うことにより、目的とする線径、例えば1mm〜50μmのCA線とされる。このようにして得られたCA線は、Cu被覆が剥離したり、Al線がCu被覆から露出する等の問題が全くないものであった。このことは、Al線とCu被覆が完全に金属結合して密着していると考えられる。
【0012】
以上のようにして得られたCA線は、Cu被覆の占積率を1〜50%とするのが好ましい。このようなCA線とすることによって、軽量で成形性、電気的特性に優れ、またはんだ付性も良好なものである。なお、Cu被覆の占積率が1%未満では、Al線の露出の危険性が非常に高くなり、また50%を超えると、Cu線を用いたものとコスト的に余り意味がなくなるためである。より好ましくは、Cu被覆の占積率が1〜20%とするものである。Cu被覆の占積率を20%以下とすることにより、CA線の軽量化、Cu線と比較してコスト削減の効果が高くなるためである。
以上のような特性を有するCA線は、電子機器用の導体、ハードディスクドライブのピックアップコイルやヘッドホン用の巻線として、さらに軽量化の観点から自動車用の電装ワイヤハーネスとして、さらには、CA線はその表面にCuが被覆されているので、高周波帯域で使用される同軸ケーブル用の導体としても有用となる。
【実施例】
【0013】
実施例および比較例によって、本発明の効果を示す。
線径が9.5mmのAl荒引線を電解脱脂した後、アルゴンガス雰囲気のサンドブラスト処理装置内で、純Cu微粉末(平均粒径25μm)を用い連続的に30秒程度ブラスト処理を行いながら厚さ0.15mmのCuテープを縦添えして被覆し、突合せ部をTIG溶接により接合し、ロール加工による縮径処理を行って線径が1.95mmのCA複合線とした。ついで、このCA複合線を用い、伸線機によって減面率が15〜20%の条件で伸線加工して、線径が0.1mmのCA線となるまで行った。同様の伸線加工を3回行った。
また比較例1、2、3として、Al線の前処理として皮むきダイスを用いて表層を除去した後Cu被覆を前記と同様に施した後、縮径し、線径が1.95mmのCA複合線とし、このCA複合線を実施例と同様に伸線加工した。この伸線加工も3回行った。比較例4、5、6は、Al線上にCuめっき(電流密度3A/dmで、線速5m/min)によってCu被覆を形成した後、縮径し、線径が1.95mmのCA複合線とし、このCA複合線を実施例と同様に伸線加工した。この伸線加工も3回行った。
なお、Al線にセラミック微粉末(平均粒径50μm)を用いてサンドブラスト処理を行った場合のものは、CA複合線とするための縮径加工段階の線径6.0mm前後でCu被覆が割れてAl線が露出した。
評価方法は、伸線加工中にCu被覆に割れが生じてAl線が露出したときの線径(mm)を実体顕微鏡によって確認したものである。Al線の露出が見られない場合を〇印で、露出が見られた場合を×印で記載した。結果を表1に示した。
【0014】
【表1】

【0015】
表1の実施例1〜3から明らかなように、3回の実験とも、線径が1.95mmのCA複合線を伸線機によって減面率が15〜20%の条件で伸線加工して線径が0.1mmのCA線としても、Cu被覆が剥離してAl線が露出することはなかった。本発明のCA線の製造方法は、十分に有用な製造方法であることが判る。
これに対して、比較例1〜3に示したAl線の前処理として皮むきダイスを用いて表層を除去したCA複合線を使用した場合は、3回の実験とも、線径が1.4mm程度のところでCu被覆が剥離してAl線が露出していることが確認された。また、比較例4〜6のように、CuめっきによってCu被覆を形成したCA複合線を使用した場合は、3回の実験で少しバラツキが見られるが、最も伸線加工を最後まで行えた比較例4の場合でも、線径が0.175mmまでであった。早い場合は比較例5のように、線径が0.275mmまでであった。
このように本発明によれば、Al線の露出により製品として使用できなくなることがなくなるので、生産性が向上していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のCA線の製造方法は、目的とする線径まで伸線加工が問題なく行えるので、優れたCA線の製造方法である。また、得られたCA線も優れた特性を有するので、電子機器用の導体、ハードディスクドライブのピックアップコイルやヘッドホン用の巻線、自動車用の電装ワイヤハーネスとして、またCA線はその表面にCuが被覆されているので、高周波同軸ケーブル用の導体としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は、本発明のCA線の縦断面の一部を模式的に示した断面図、(b)は、従来方法によるCA線の縦断面の一部を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 Al線
2 Cu被覆
3 Cu微粉末
4 セラミック微粉末
5 AlとCuの境界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム線表面を、銅微粉末を用いてサンドブラスト処理した後、銅テープを縦添えしながらその突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を行って銅テープを前記アルミニウム線に密着させて銅被覆アルミニウム複合線とし、ついで、得られた銅被覆アルミニウム線を目的とする線径まで伸線加工を行うことを特徴とする銅被覆アルミニウム線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の銅被覆アルミニウム線の製造方法によって得られた銅被覆アルミニウム線は、銅被覆層の占積率が1〜50%であることを特徴とする銅被覆アルミニウム線。

【図1】
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【公開番号】特開2010−135138(P2010−135138A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308481(P2008−308481)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】