説明

鋳鉄の鋳造方法及びその方法を使用した内燃機関用シリンダヘッドの製造方法

【課題】鋳鉄による鋳造に際し,その一部における耐摩耗性及び耐熱性を向上するようにした鋳造方法と、この鋳造方法を使用した内燃機関用シリンダヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】鋳鉄の鋳造を行う鋳物型A内に,黒鉛粉末と,銅粉末と,ニッケル粉末と,鉄−クロム合金粉末と,コバルト−モリブデン−クロム合金粉末と,残りが純鉄粉末を混合し固め成形して成る金属粉末圧粉体Bを設置し,次いで,前記鋳物型内に,溶融した鋳鉄を注ぎ込み,この溶融した鋳鉄の熱を利用して前記金属粉末圧粉体を焼結及び拡散させることにより,鋳造時に,鋳造物の一部に前記金属粉末圧粉体による焼結層を生成するとともに,その焼結層を鋳造物の母材に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,鋳鉄による鋳造に際し,その一部における耐摩耗性及び耐熱性を向上するようにした鋳造方法と,この鋳造方法を使用した内燃機関用シリンダヘッドの製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,内燃機関におけるシリンダヘッド等のように,部分的に耐摩耗性及び耐熱性が必要な部分には,耐摩耗性及び耐熱性を有する合金製の部材を,冷し嵌めにて固着するか,鋳込むようにしていたが,前記部材のガタ付き及び脱落が発生するおそれがあるばかりか,コストの大幅なアップ等を招来するという問題があった。
【0003】
そこで,本発明者達は,先の特許出願(特願2004−059455号)において以下に述べるようにした鋳造方法を提案した。
【0004】
すなわち、この先願の鋳造方法は,
「鋳鉄の鋳造を行う鋳物型内に,0.5〜1.5wt%の黒鉛粉末と,3〜10wt%の銅粉末と,10〜20wt%のニッケル粉末と,10〜15wt%の鉄−クロム合金粉末と,15〜30wt%のコバルト−モリブデン−クロム合金粉末と,残りが純鉄粉末を混合し固め成形して成る金属粉末圧粉体を配設し,次いで,前記鋳物型内に,溶融した鋳鉄を注ぎ込み,この溶融した鋳鉄の熱を利用して前記金属粉末圧粉体を焼結及び拡散させることにより,鋳造時に,鋳造物の一部に前記金属粉末圧粉体による焼結層を生成するとともに,その焼結層を鋳造物の母材に結合する。」
というものである。
【0005】
この先願の鋳造方法において,前記金属粉末圧粉体に対する黒鉛粉末の添加は,焼結の促進及び鋳造物のうち前記金属粉末圧粉体の母材組織を耐熱性を有するオーステナイトにする効果を図るためであるが,その配合比が0.5wt%未満では焼結促進の効果が少なく,その配合比が1.5wt%を超えると炭化物の生成が多くなり靱性の低下及び被削性の低下が生じる。
【0006】
前記金属粉末圧粉体に対する銅粉末の添加は,融点の低い銅による液相の発生にて焼結を促進する効果を図るためであるが,その配合比が3wt%未満では焼結促進の効果が少なく他の合金粉末における未拡散の部分が多く残り,その配合比が10wt%を超えると液相の発生量が多くなるため焼結層の変形が生じて寸法精度が悪くなる。
【0007】
前記金属粉末圧粉体に対するニッケル粉末の添加は,純鉄粉末に拡散して鋳造物のうち前記金属粉末圧粉体の母材組織を耐熱性を有するオーステナイトにする効果を図るためであるが,その配合比が10wt%未満ではオーステナイト生成量が少なくなる一方,純鉄粉末が未拡散のままで残る部分におけるフェライト(このフェライトが多くなると,その分だけ前記オーステナイト生成量が少なくなる)及び黒鉛粉末だけが拡散している状態のままで残る部分におけるパーライト(このパーライトが多くなると,その分だけ前記オーステナイト生成量が少なくなる)が多くなって,耐熱性が低下することになり,また,その配合比が20wt%を超えると添加量に見合った効果が得られない。
【0008】
前記金属粉末圧粉体に対する鉄−クロム合金粉末の添加は,クロムの一部が純鉄粉末に拡散して鋳造物のうち前記金属粉末圧粉体の母材組織を耐熱性を有するオーステナイトにする効果と,未拡散の鉄−クロム合金粉末による耐摩耗性の向上の効果とを図るためであるが,その配合比が10wt%未満ではオーステナイト生成量が少なくなる一方,純鉄粉末が未拡散のままで残る部分におけるフェライト及び黒鉛粉末だけが拡散している状態のままで残る部分におけるパーライトが多くなって,耐熱性が低下することになり,また,その配合比が15wt%を超えると添加量に見合った効果が得られないばかりか,金属粉末圧粉体への固め成形性が悪化する。
【0009】
前記金属粉末圧粉体に対するコバルト−モリブデン−クロム合金粉末の添加は,このコバルト−モリブデン−クロム合金は高硬度の硬質粒子であることから,これを分散することによる耐摩耗性の向上の効果と,コバルト及び/又はクロムの一部が純鉄粉末に拡散して鋳造物のうち前記金属粉末圧粉体の母材組織を耐熱性を有するオーステナイトにする効果とを図るためであるが,その配合比が15wt%未満では耐摩耗性向上の効果が少なく,その配合比が30wt%を超えると金属粉末圧粉体への固め成形性が悪化するために鋳造に際して十分な焼結が得られずに耐摩耗性が低下する。
【0010】
そして,金属粉末圧粉体に対する純鉄粉末の添加は,粉末の混合物を所定の形状に固め成形するときにおける成形性向上の効果と,固め成形後における多孔質の密度を高くし空隙率を低くする効果とを図るためのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで,前記先願の鋳造方法においては,前記鉄−クロム合金粉末の配合比が10wt%未満の場合には,耐熱性を有するオーステナイトの生成量が少なくなる一方,純鉄粉末が未拡散のままで残る部分におけるフェライト及び黒鉛粉末だけが拡散している状態で残る部分におけるパーライトが多くなって,耐熱性が低下することになるから,前記鉄−クロム合金粉末の配合比の下限値を10wt%に規定しており,その一方で,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の配合比が,30wt%を超える場合には,金属粉末圧粉体への固め成形性が悪化するために十分を焼結が得られずに耐摩耗性が低下することになるから,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の配合比の上限値を30wt%に規定していた。
【0012】
つまり,前記先願の鋳造方法においては,金属粉末圧粉体による耐摩耗性の向上は,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の配合比を30wt%を超えることがないように添加する場合が限度であり,耐摩耗性をこれ以上に向上することはできないと考えられていたのであった。
【0013】
本発明は,前記先願の鋳造方法を基本的に踏襲するものの,金属粉末圧粉体による耐摩耗性を,更に向上することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この技術的課題を達成するため本発明における鋳造方法は,請求項1に記載したように,
「鋳鉄の鋳造を行う鋳物型内に,黒鉛粉末と,銅粉末と,ニッケル粉末と,鉄−クロム合金粉末と,コバルト−モリブデン−クロム合金粉末と,残りが純鉄粉末を混合し固め成形して成る金属粉末圧粉体を設置し,次いで,前記鋳物型内に,溶融した鋳鉄を注ぎ込み,この溶融した鋳鉄の熱を利用して前記金属粉末圧粉体を焼結及び拡散させることにより,鋳造時に,鋳造物の一部に前記金属粉末圧粉体による焼結層を生成するとともに,その焼結層を鋳造物の母材に結合するようにした鋳造方法において,
前記黒鉛粉末の配合比を0.5〜1.5wt%に,前記銅粉末の配合比を3〜10wt%に,前記ニッケル粉末の配合比を10〜20wt%に,前記鉄−クロム合金粉末の配合量を10wt%未満に,そして,コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の配合比を15wt%を超えて多くする一方,前記鉄−クロム合金粉末における粒径を,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径よりも小さくする。」
ことを特徴としている。
【0015】
また,本発明における鋳造方法は,請求項2に記載したように, 「前記請求項1の記載において,前記鉄−クロム合金粉末における粒径が,約149ミクロンであるに対して,前記鉄−クロム合金粉末における粒径が,約74ミクロン以下である。」
ことを特徴としている。
【0016】
次に,本発明におけるシリンダヘッドの製造方法は,請求項3に記載したように,
「前記請求項1又は2の記載において,前記金属粉末圧粉体をリング状にして,このリング状の金属粉末圧粉体を,内燃機関におけるシリンダヘッドを鋳造する鋳造型内のうち,当該シリンダヘッドにおける吸気ポート及び排気ポートのいずれか一方又は両方における弁座部に設置し,この状態でシリンダヘッドを鋳造し,鋳造後に前記弁座部を,前記金属粉末圧粉体における焼結層がバルブシートに露出するように機械加工する。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
前記金属粉末圧粉体に対する鉄−クロム合金粉末の配合比の上限値を10wt%未満にした場合には,前記したように,耐熱性を有するオーステナイトの生成量が少なくなる一方,純鉄粉末が未拡散のままで残る部分におけるフェライト及び黒鉛粉末だけが拡散している部分が未拡散のままで残るパーライトが多くなるものの,これは前記鉄−クロム合金粉末における粒径を前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径と同じくした場合であり,前記鉄−クロム合金粉末における粒径を,前記金属粉末圧粉体に対して同時に添加するコバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径よりも小さくすることにより,この鉄−クロム合金粉末における全体の表面積が,その粒径を前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末と同じくした場合よりも,増大するから,クロムにおける純鉄粉末への拡散が促進し,前記金属粉末圧粉体の母材組織のオーステナイト生成量を,配合比を10wt%未満と少なくした場合においても,増大することができる一方,純鉄粉末が未拡散のままで残る部分におけるフェライト及び黒鉛粉末だけが拡散している状態のままで残る部分におけるパーライトを少なくすることができる。
【0018】
一方,前記鉄−クロム合金粉末の配合比を10wt%未満と少なくする一方,この鉄−クロム合金粉末における粒径を,前記金属粉末圧粉体に対して同時に添加するコバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径よりも小さくすることにより,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の配合比を,先願発明における上限値である30wt%を超えて多くした場合における金属粉末圧粉体への固め成形性の悪化を確実に回避することができ,換言すると,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の配合比を,金属粉末圧粉体への固め成形性の悪化を招来することなく,ひいては,鋳造に際して十分な焼結を得ることがきる状態のもとで,30wt%を超えるように多くすることができるから,耐摩耗性及び耐熱性を,先願発明の場合よりも大幅に向上できる。
【0019】
この場合,請求項2に記載したように,前記鉄−クロム合金粉末における粒径は,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径が約149ミクロンである場合,略半分の約74ミクロン以下にすることが好ましい。
【0020】
また,請求項3に記載した製造方法によると,吸気ポート及び排気ポートのいずれか一方又は両方の弁座部における耐熱性を向上し,且つ,前記弁座部におけるバルブシートの耐摩耗性と,このバルブシートに着座を繰り返すバルブ側における耐摩耗性との両方を同時に向上したシリンダヘッドを,低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下,本発明の実施の形態を,内燃機関における鋳鉄製のシリンダヘッドを鋳造することに適用した場合について説明する。
【0022】
図1及び図2は,内燃機関における鋳鉄製のシリンダヘッド1を示し,このシリンダヘッド1は,従来から良く知られているように,その内部に,吸気ポート2及び排気ポート3と,冷却水ジャケット4とが形成され,前記吸気ポート2におけるシリンダヘッド1の下面1aへの開口部には,ポペット型の吸気バルブ5が着座するバルブシート6aを有する弁座部6が,前記排気ポート3におけるシリンダヘッド1の下面1aへの開口部には,ポペット型の排気バルブ7が着座するバルブシート8aを有する弁座部8が各々設けられている。
【0023】
図3は,前記シリンダヘッド1を鋳造するための鋳造型Aを示す,この鋳造型Aは,前記シリンダヘッド1における下面を形成する下型A1と,前記シリンダヘッド1の上面を形成する上型A2と,前記吸気ポート2を形成する中子A3と,前記排気ポート3を形成する中子A4と,前記冷却水ジャケット4を形成する中子A5とによって構成されており,この鋳物型Aにおける空間部に,溶融した鋳鉄を注ぎ込むことにより,前記シリンダヘッド1を鋳造するように構成している。
【0024】
この鋳造に際しては,前記吸気ポート2用の中子A3及び排気ポート3用の中子A4のうち,前記弁座部6,7の箇所に,図4に示すように,以下に述べる各種の金属粉末の混合物を多孔質のリング状に固め成形して成る金属粉末圧粉体Bを,当該金属粉末圧粉体Bが前記中子A3,A4の表面から突出するようにして固定装着しておき,この状態で,前記溶融した鋳鉄を注ぎ込むことで,この溶融した鋳鉄の熱を利用して前記金属粉末圧粉体を焼結及び拡散させることにより,鋳造時に,前記シリンダヘッド1のうち吸気ポート2及び排気ポート3における弁座部6,7の部分に前記金属粉末圧粉体Bによる焼結層を生成するとともに,その焼結層を鋳造物の母材に結合するようにする。
【0025】
図5及び図6は,鋳造後におけるシリンダヘッド1を示すものであり,この鋳造されたシリンダヘッド1には,その下面1aを二点鎖線D1で示すようにする機械加工するとともに,その吸気ポート2及び排気ポート3における前記下面1aに対する開口部内を二点鎖線D2で示すようにする機械加工することにより,前記金属粉末圧粉体Bによる焼結層を,前記吸気ポート2及び排気ポート3の弁座部6,8における円錐形のバルブシート6a,8aに露出するのであり,これにより,前記吸気ポート2及び排気ポート3の弁座部6,8における耐摩耗性及び耐熱性を向上できる。
【0026】
ところで,前記金属粉末圧粉体Bは,黒鉛粉末と,銅粉末と,ニッケル粉末と,鉄−クロム合金粉末と,コバルト−モリブデン−クロム合金粉末と,残りが純鉄粉末を混合して,多孔質に固め成形して成るものであり,その各種粉末の配合比は,前記黒鉛粉末を0.5〜1.5wt%に,前記銅粉末を3〜10wt%に,前記ニッケル粉末を10〜20wt%に,前記鉄−クロム合金粉末を10wt%未満にし,そして,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末を15wt%を超えて多くする一方,前記鉄−クロム合金粉末における粒径を,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径よりも小さくしている。
【0027】
ここにおいて,前記黒鉛粉末の添加は,焼結の促進及びシリンダヘッド1のうち前記弁座部6,8の付近における母材組織を耐熱性を有するオーステナイトにする効果を図るためであり,その配合比が0.5wt%未満では焼結促進の効果が少なく,その配合比が1.5wt%を超えると炭化物の生成が多くなり靱性の低下及び被削性の低下が生じる。
【0028】
前記銅粉末の添加は,融点の低い銅による液相の発生にて焼結を促進する効果を図るためのであり,その配合比が3wt%未満では焼結促進の効果が少なく他の合金粉末における未拡散の部分が多く残り,その配合比が10wt%を超えると液相の発生量が多くなるため焼結層の変形が生じて寸法精度が悪くなる。
【0029】
前記ニッケル粉末の添加は,純鉄粉末に拡散してシリンダヘッド1のうち前記弁座部6,8の付近における母材組織を耐熱性を有するオーステナイトにする効果を図るためであり,その配合比が10wt%未満ではオーステナイト生成量が少なくなる一方,純鉄粉末が未拡散のままで残る部分におけるフェライト及び黒鉛粉末だけが拡散している状態のままで残る部分におけるパーライトが多くなって,耐熱性が低下することになり,また,その配合比が20wt%を超えると添加量に見合った効果が得られない。
【0030】
前記鉄−クロム合金粉末の添加は,クロムの一部がシリンダヘッド1のうち前記弁座部6,8の付近における母材組織に拡散して,この部分における母材組織を耐熱性を有するオーステナイトにする効果と,未拡散の鉄−クロム合金粉末による耐摩耗性の向上の効果とを図るためである。
【0031】
前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の添加は,このコバルト−モリブデン−クロム合金は高硬度の硬質粒子であることから,これを分散することによる耐摩耗性の向上の効果と,コバルト及び/又はクロムの一部がシリンダヘッド1のうち前記弁座部6,8の付近における母材組織に拡散して前記硬質粒子の母材組織への結合を強固にするとともに、前記母材組織をオーステナイト化する効果とを図るためである。
【0032】
そして,前記純鉄粉末の添加は,粉末の混合物を所定の形状に固め成形するときにおける成形性向上の効果と,固め成形後における多孔質の密度を高くし空隙率を低くする効果とを図るためである。
【0033】
この場合において,前記した先願発明は,前記黒鉛粉末における配合比を0.5〜1.5wt%に,前記銅粉末における配合比を3〜10wt%に,前記ニッケル粉末における配合比を10〜20wt%に,前記鉄−クロム合金粉末における配合比を10〜15wtに,そして,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における配合比を15〜30wt%に規定していた。
【0034】
すなわち,前記した先願発明においては,前記鉄−クロム合金粉末における粒径を約149ミクロンにするというように,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径の約149ミクロンと同じにしたために,この鉄−クロム合金粉末における配合比を,オーステナイト生成量が少なくなる一方,純鉄粉末が未拡散のままで残る部分におけるフェライト及び黒鉛粉末だけが拡散している状態のままで残る部分におけるパーライトが多くなることを回避するために10〜15wt%と可成り多くする一方,このように鉄−クロム合金粉末における配合比を多くしたことによって,金属粉末圧粉体への固め成形性が悪化することを回避するために,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における配合比を15〜30wt%に規定しければならないから,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末による耐摩耗性の向上は,コバルト−モリブデン−クロム合金粉末を,上限値で30wt%添加する場合が限度であった。
【0035】
これに対して,本発明においては,前記鉄−クロム合金粉末における粒径を,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径より小さくするものである。
【0036】
このように,前記鉄−クロム合金粉末における粒径を,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径よりも小さくすることにより,この鉄−クロム合金粉末における全体の表面積が,その粒径を前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末と同じくした場合よりも,増大するから,クロムにおける純鉄粉末への拡散が促進し,前記金属粉末圧粉体Bの母材組織のオーステナイト生成量を,配合比を10wt%未満と少なくした場合においても,増大することができる一方,純鉄粉末が未拡散のままで残る部分におけるフェライト及び黒鉛粉末だけが拡散している状態のままで残る部分におけるパーライトを少なくすることができる。
【0037】
一方,前記鉄−クロム合金粉末の配合比を10wt%未満と少なくする一方,この鉄−クロム合金粉末における粒径を,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径よりも小さくすることにより,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における配合比を,先願発明において上限値である30wt%を超えて多くした場合における金属粉末圧粉体への固め成形性の悪化を確実に回避することができ,換言すると,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の配合比を,金属粉末圧粉体Bへの固め成形性の悪化を招来することなく,ひいては,鋳造に際して十分な焼結を得ることがきる状態のもとで,30wt%を超えるように多くすることができるから,耐摩耗性及び耐熱性を,先願発明の場合よりも大幅に向上できるのである。
【0038】
次に,耐摩耗性の評価を,本発明による実施例1及び実施例2と,前記先願発明による比較例とについて,以下に述べる実物単体摩擦試験によって実施した。
【0039】
この実物単体摩擦試験は,前記弁座部6の部分を200℃にした状態で,この弁座部6におけるバルブシート6aに対して,バネにて閉に付勢されるポペット型の吸気バルブ5を,モータ駆動の回転カムにてその一回転当たり一回着座することを,前記回転カムにおける毎分の回転数を1200にして16時間にわたって継続することによって,前記バルブシート6aにおける摩耗量と,この着座する吸気バルブ5側における摩耗量との両方を測定するという実験である。
【0040】
この実験において,前記実施例1,実施例2及び比較例に使用する各種粉末における成分は,表1の通りにした。
【0041】
【表1】

【0042】
また,前記各種粉末における粒径は,黒鉛粉末を除いて,表2の通りにした。
【0043】
【表2】

【0044】
そして,実施例1,実施例2及び比較例において,各種粉末の配合比は,表3の通りにした。
【0045】
【表3】

【0046】
そして,これら,実施例1,実施例2及び比較例の各々についての「実物単体摩擦試験」の結果は,図7の通りであった。
【0047】
すなわち,前記実施例1及び実施例2のように,鉄−クロム合金粉末における粒径を,コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径よりも小さくすることにより,前記鉄−クロム合金粉末における配合比を,先願発明における下限値よりも少なくすることができる一方で,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における配合比を,先願発明における上限値よりも多くすることができ,これにより,前記弁座部6におけるバルブシート面6a側における耐摩耗性,及び,このバルブシート面6aに対して繰り返して着座するバルブ側における耐摩耗性との両方を,先願発明の場合(比較例)よりも大幅に向上できるのであった。
【0048】
しかも,バルブシート面6aの耐摩耗性及びバルブ側における耐摩耗性の向上は,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における配合比の増大に比例するのであった。
【0049】
なお,前記した実験において,前記鉄−クロム合金粉末における配合比の下限値は,3wt%であり,これより未満に少なくした場合には,鉄−クロム合金粉末を添加する効果を認めることはできなかった。
【0050】
また,前記した実験において,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における配合比の上限値は,70wt%以下であり,これを超えて多くした場合は,前記鉄−クロム合金粉末における粒径を小さくしたことによる固め成形性の改善を認めることができないのであった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】内燃機関用シリンダヘッドにおける一部を示す縦断正面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】前記シリンダヘッドにおける鋳物型の一部を示す縦断正面図である。
【図4】前記鋳物型に装填する金属粉末圧粉体の斜視図である。
【図5】鋳造したシリンダヘッドの一部を示す縦断正面図である。
【図6】図5の要部拡大図である。
【図7】実物単体摩擦試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 シリンダヘッド
2 吸気ポート
3 排気ポート
4 冷却水ジャケット
5 吸気バルブ
7 排気バルブ
6,8 弁座部
6a,8a バルブシート面
A 鋳物型
A1 下型
A2 上型
A3,A4,A5 中子
B 金属粉末圧粉体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄の鋳造を行う鋳物型内に,黒鉛粉末と,銅粉末と,ニッケル粉末と,鉄−クロム合金粉末と,コバルト−モリブデン−クロム合金粉末と,残りが純鉄粉末を混合し固め成形して成る金属粉末圧粉体を設置し,次いで,前記鋳物型内に,溶融した鋳鉄を注ぎ込み,この溶融した鋳鉄の熱を利用して前記金属粉末圧粉体を焼結及び拡散させることにより,鋳造時に,鋳造物の一部に前記金属粉末圧粉体による焼結層を生成するとともに,その焼結層を鋳造物の母材に結合するようにした鋳造方法において,
前記黒鉛粉末の配合比を0.5〜1.5wt%に,前記銅粉末の配合比を3〜10wt%に,前記ニッケル粉末の配合比を10〜20wt%に,前記鉄−クロム合金粉末の配合量を10wt%未満に,そして,コバルト−モリブデン−クロム合金粉末の配合比を15wt%を超えて多くする一方,前記鉄−クロム合金粉末における粒径を,前記コバルト−モリブデン−クロム合金粉末における粒径よりも小さくすることを特徴とする鋳鉄の鋳造方法。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記鉄−クロム合金粉末における粒径が,約149ミクロンであるに対して,前記鉄−クロム合金粉末における粒径が,約74ミクロン以下であることを特徴とする鋳鉄の鋳造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2の記載において,前記金属粉末圧粉体をリング状にして,このリング状の金属粉末圧粉体を,内燃機関におけるシリンダヘッドを鋳造する鋳造型内のうち,当該シリンダヘッドにおける吸気ポート及び排気ポートのいずれか一方又は両方における弁座部に設置し,この状態でシリンダヘッドを鋳造し,鋳造後に前記弁座部を,前記金属粉末圧粉体における焼結層がバルブシートに露出するように機械加工することを特徴とする内燃機関用シリンダヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−61890(P2007−61890A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254837(P2005−254837)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】