説明

鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法

【課題】本発明は、出荷前に、ロールのマクロ組織に存在する偏析の程度と位置を迅速、且つ簡便に検出可能な鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法を提供することを目的としている。
【解決手段】鋼材圧延用ロールの胴部端面又は全表面を、渦流探傷器のセンサで走査し、得られた電気信号の波形により、該ロールのマクロ組織における共晶炭化物に富む層の位置及び大きさを検出するようにした。特に、この発明は、遠心鋳造で製造した鋼材圧延用ロールの用途先を決定するのに有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法に係わり、特に、遠心鋳造方式で凝固させた該ロールのマクロ組織の偏析(組織ムラともいう)を迅速、且つ簡便に検出し、用途先の仕分けに有効に寄与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
厚鋼板、薄鋼板、条鋼、鋼管等の鋼材を製造するには、ロールによる熱間圧延が行われる。そのロールには、従来より、鋳型鋳造や遠心鋳造で製造されたニッケル・グレーン・ロール、ハイス・ロール、高クロム・ロール、鋳鉄ロール、複合ロール等、様々なものが使用されている。そして、いずれのロールも、厳しい圧延条件下で使用されるため、その強度、耐摩耗性、耐熱性等を十分吟味した上で、圧延対象に応じて材質の決定が行われている。
【0003】
ところが、これらロールは、使用中に表面が磨耗したり、疵等の発生が避けられないので、別のものと交換をする必要がある。その交換は、例えば、熱間広幅帯鋼圧延における7段のロールスタンドからなる仕上圧延機の場合、圧延した累積鋼材量が1000〜3000トン(1サイクルという)に達したら行われる。ただし、その交換で1段目〜3段目までのスタンドに組み入れるロールは、以前に使用して一旦取り外されられたが、研削等の手入れをしなくても表面状態が良好と判断したものを再利用され、通常3〜5サイクルは使用される。そして、3〜5サイクル使用後は、表面の研削をして再使用できる状態にしたもの(50〜60mmの厚み分だけ研削可能)で交換を行う。
【0004】
4〜6段目のスタンドに組み入れられるロールは、上記同様に1〜3サイクルさせ、最終段(7段目)のロールは、鋼材のサイズに影響が大なので、1サイクルの利用で、前記したように、表面の研削をして再使用できる状態にしたものに取り替えられる。従って、ロールの寿命とは、7段のスタンドで再使用されたロールのサイクル数若しくは累積鋼材量の平均値で表される。
【0005】
このようなロールの交換作業は、圧延装置の停止を伴うので、鋼材の生産性やロール原単位を低下させ、経済的なデメリットを生じさせる。そのため、例えば、薄鋼板の熱間圧延では、通常は、累積圧延量が数万トンを達成するまでは交換せずに使用できることが望ましい。
【0006】
しかしながら、ロールの使用中にその表面の凹凸が選択的に多くなると、該凹凸が模様として被圧延材である鋼材の表面に転写して、該鋼材の疵発生等、品質問題を起こす。そのため、各圧延工程の技術者は、使用ロールの選択、早めのロール交換等、ロール管理に十分な配慮をしているのが現状である。
【0007】
一方、ロールの製造者(前記技術者)は、予めロールの品質(組成、サイズ、疵等)を検査してから出荷している。しかしながら、前記表面の凹凸に影響を与える凝固組織(マクロ組織)での偏析については、適当な非破壊検査ができないため、実施されていないのが現状であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、出荷前に、ロールのマクロ組織に存在する偏析の程度と位置を迅速、且つ簡便に検出可能な鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ね、その成果を本発明に具現化した。
【0010】
すなわち、本発明は、鋼材圧延用ロールの胴部端面又は全表面を、渦流探傷器のセンサで走査し、得られた電気信号の波形により、該ロールのマクロ組織における共晶炭化物に富む層(前記使用中の表面凹凸の原因となる)の位置及び大きさを検出することを特徴とする鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法である。
【0011】
この場合、前記センサを、8mm角の励磁コイル及び3mmφの検出コイルを備えた一様プローブとし、それらに供給する電流の周波数を200〜600KHzとするのが好ましい。また、前記ロールが遠心鋳造方式で製造されたものであることが一層好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出荷前に、非破壊で、ロールの凝固時に形成されたマクロ組織に存在する偏析の程度と位置を迅速、且つ簡便に検出できるようになる。その結果、出荷されるロールの個々について、利用先での使用条件(どの圧延機に組み入れるか)の決定が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、発明をなす経緯をまじえ、本発明の最良の実施形態を説明する。
【0014】
まず、発明者は、鋼材圧延中にロールの表面に発生する凹凸の原因について検討した。そして、該凹凸は、ロールを鋳造で製造する際に形成される凝固組織(以下、マクロ組織と称し、肉眼又は10倍以下の低倍率顕微鏡で観察したロール材の金属状態組織であり、結晶粒の大きさや分散状況等を知るのに便利である)の影響を受けていると結論した。つまり、ロールのマクロ組織は、各ロールで異なり、Fe、Cr、Mo等とCとが共晶を形成している炭化物(以下、共晶炭化物という)が多い部分とか樹脂状晶の多い部分とかの存在程度が違い、圧延中に優先的に磨耗したり、残存したりするため、凹凸が形成されるのである。通常、共晶炭化物は硬くて磨耗し難いので、凸部になり、比較的柔らかい樹脂状晶が凹部になる。
【0015】
そこで、発明者は、それらの偏析状態(位置、大きさ等)を予め検出できれば、そのロールの適切な使用条件の設定に役立つと考え、検出手段を検討した。そして、従来より非破壊で鋼材の疵を検査するに利用されている渦流探傷器での実験を行った。
【0016】
実験に用いた渦流探傷装置のシステムを図3に示す。渦流センサ1としては、一様プローブ及びクロスポイント・プローブの2種類とし、測定結果はノートパソコン2に表示するようにした。なお、渦流探傷器3としては、アスワン電子(株)製の商品名 aect1000を用いた。試料4は、遠心鋳造で製造したロール7の胴部8の端面9よりサイズが長さ50mm×幅20mm×厚み10mmの試料を切り出した。その理由は、ロール7の胴部端面には、図4(b)に示すように、マクロ組織が層状になって出現(バウム・クーヘンの端面に類似している)し、それがロールの軸方向にも延長しているからである。なお、この傾向は、特に遠心鋳造ロールで顕著である。
【0017】
実験で得られた電気信号の波形を図1に示す。多くの試料について同様の波形を多数入手し、試料のマクロ組織(試料面を腐食させて観察する)と比較したところ、図2のマクロ組織で示す共晶炭化物に富む層(白色部分)が波形のピーク6で検出できることが確認できた。つまり、共晶炭化物に富む層(白色部分)と樹脂状晶に富む層(黒色部分)との境界がピーク位置に対応し、共晶炭化物に富む層(白色部分)と樹脂状晶に富む層(黒色部分)との区別が明確にできることが明らかになり、それらの層の存在位置と大きさがピーク6に反映していた。そこで、実際のロールの胴部端面又は表面をセンサ1で走査すれば、実用するロールの共晶炭化物に富む層の検出が迅速にできると考え、本発明を完成させたのである。
【0018】
本発明では、渦流センサ1の種類を特に限定しないが、8mm角の励磁コイル及び3mmφの検出コイルを備えた一様プローブの利用が好ましい。実験結果が他のプローブより良好であったからである。また、プローブに供給する電流の周波数は200〜600KHzが好ましい。200KHz未満では、明確な波形が出現せず、600KHz超えでは、理由は定かでないが、上記対応関係が明確でなかったからである。さらに、本発明は、遠心鋳造方式で鋳造したロールに適用するのが良い。そのようなロールに、偏析が層状に表れる頻度が高いからである。
【実施例】
【0019】
C:2.5 mass%,Cr:8 mass%、V:5 mass%含有する溶鋼を遠心鋳造(鋳型の回転数:700rpm、鋳込み温度:1350℃)して、鋼板圧延に用いられるロールを15本製造した。そして、図3に示した渦流探傷システムと同様のものを採用し、本発明に係る鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法をこれらロールに適用し、マクロ組織の偏析状況を調査した。つまり、ロールの胴部端面を図4の→方向にセンサ1で走査し、共晶炭化物に富む層(白色部分)を検出した。なお、ロールの胴部端面は広いので、どの位置を選択するかが問題になる。しかしながら、複数箇所での走査結果の平均と一箇所での結果に大差がなかったので、ここでは、一箇所での結果を採用することにした(本発明の実施では、複数箇所での平均としても良い)。使用したセンサ1は、8mm角の励磁コイル及び3mmφの検出コイルを備えた一様プローブとし、それらに供給する電流の周波数を200〜600KHzとした。
【0020】
その結果、1本当たりの調査に要した時間は、10分間程度であり、極めて迅速な調査が行えた。共晶炭化物の存在は、得られた電気信号のピーク6が出現する位置で、ピーク6の数と大きさで評価すると共に、1本のロール当たりの偏析程度は、ピーク面積の総和を3階級にランク付けした(総和が比較的小さいものをC,中間をB,大きいものをAとする)。表1に、そのランク付けの出現度数(ロール本数)を示す。また、これらロールを実際に薄板の圧延に使用し、そのロール交換までの時間を寿命として表1に示す。なお、前記ピーク面積の総和は、確認のために別途行ったマクロ組織の画像処理で得た共晶炭化物に富む層(白色部分)の面積と対応していた。
【0021】
【表1】

【0022】
表1より、偏析の多いものが寿命(交換までに圧延した累積鋼材量)が短いことが明らかである。この結果は、寿命の短いロールを薄板圧延より負荷の少ない用途に利用すれば寿命が延長することを示唆するものである。つまり、出荷前にロールの使用条件の選択が容易に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】鋼材圧延用ロールから切り出した試料のマクロ組織を渦流探傷器で調査した一例を示す図である。
【図2】鋼材圧延用ロールから切り出した試料のマクロ組織を示す図である。
【図3】鋼材圧延用ロールのマクロ組織を調査する渦流探傷システムを示す図である。
【図4】鋼材圧延用ロールの模式図であり、(a)は側面を、(c)は断面を示す。
【符号の説明】
【0024】
1 渦流センサ
2 ノートパソコン
3 渦流探傷器
4 試料
5 センサ・ホルダ
6 ピーク
7 ロール
8 ロールの胴部
9 胴部の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材圧延用ロールの胴部端面又は全表面を、渦流探傷器のセンサで走査し、得られた電気信号の波形により、該ロールのマクロ組織における共晶炭化物に富む層の位置及び大きさを検出することを特徴とする鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法。
【請求項2】
前記センサを、8mm角の励磁コイル及び3mmφの検出コイルを備えた一様プローブとし、それらに供給する電流の周波数を200〜600KHzとすることを特徴とする請求項1記載の鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法。
【請求項3】
前記ロールが遠心鋳造方式で製造されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼材圧延用ロールのマクロ組織における偏析検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−147435(P2007−147435A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341877(P2005−341877)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】