説明

鋼材用熱間圧延油及び鋼材の熱間圧延方法

【課題】鋼材を200〜1200℃の範囲で加熱し圧延する際に、圧延荷重を効果的に低減し、圧延コストを低くすることができる鋼材用熱間圧延油及びこれを用いた鋼材の熱間圧延方法を提供すること。
【解決手段】基油と、数平均分子量が8000〜100000の範囲にあるイソブチレンホモポリマー及びイソブチレンコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを含む鋼材用熱間圧延油、及び上記鋼材用熱間圧延油を、ウォーターインジェクション方式により給油することを特徴とする鋼材の熱間圧延方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材用熱間圧延油及び鋼材の熱間圧延方法に関する。特に、鋼材を200〜1200℃に加熱し行われる熱間圧延加工に際し、ロールと鋼材間の摩擦係数を無給油時と同等またはさらに高くし、圧延荷重を低減させることができる鋼材用熱間圧延油及び鋼材の熱間圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素鋼、ステンレス鋼、工具鋼、ケイ素鋼等の鋼材を温間又は熱間圧延する際には、ロール表面の肌荒れ防止を目的に、高温用潤滑剤が使用され効果をおさめている。この潤滑剤としては、高温で潤滑効果のある黒鉛、ガラス、窒化ホウ素、雲母、二硫化モリブデン、酸化鉄、フッ素化黒鉛、炭酸カルシウムなどの固体潤滑剤;硫化油脂、硫化オレフィン、ジンクジアルキルジチオフォスフェート、リン酸エステルなどの極圧潤滑剤;鉱油、油脂、油脂重合体、合成エステルなどの油性向上剤;メタクリレートコポリマーやブチレンブタジエン共重合体などの付着性向上剤兼流動点降下剤を単独で、又は、2種類以上を組み合わせた物に、場合によってジターシャリブチルクレゾールやアルファナフチルアミンなどの酸化防止剤を加えたものが一般に用いられている。
【0003】
このような高温用潤滑剤は、鋼材の熱間圧延において、圧延ロールと圧延材間の摩擦係数を低下させる作用を有する。ロールと圧延材間の摩擦係数を減少させることで、圧延機において同一仕上厚さの材料を生産するに際し圧延荷重を下げロールと材料間の接触圧力を下げることができる。このため、圧延材とロール間の表面の粗度の増大及び部分的な肌荒れを抑制し、良好なロール表面に維持することで、圧延した鋼材の表面品質が良好な鋼材の圧延できる。しかし、熱間圧延油をロール表面に効率的に付着させることは、ワークロールに強力に噴射される冷却水によって洗い流されるため、非常に難しい。
【0004】
この冷却水の影響を防止するために、ワークロールに水切り板が設置されている。水切り板は、ワークロール胴長方向に隙間なく接しロール冷却水が圧延油エマルションを噴射するロール表面に流れ込むことを防止している。すなわち、熱間圧延油の一般的給油方法であるワークロール給油では、水きり板で、ロール表面の冷却水の水膜を除去することが、ワークロールへ噴射される圧延油エマルションを効率良くロール表面に付着する条件となる。しかし、高速で回転するワークロールに水切り板が完全に追従することは難しく、水切板とワークロール間に隙間が生じ、ロール冷却水がワークロール表面に水膜となって流れ込むことで、圧延油の付着を低下させ、ひいては、十分な圧延荷重減少効果が実現できない。一方熱間圧延油には、バックアップロールに噴射する方法もあるが、ワークロールに給油する場合に比較し、ロール表面に付着した圧延油がワークロール表面を介して、ロールと圧延材間に達するため、付着量が劣り、ワークロール給油と比べさらに、荷重減少効果が劣る。
【0005】
この問題を解決するため、圧延機ロールの水切り装置が提案されているが(特許文献1)、高速で回転するロールへの追従性が不明確であり、かつ、水切り機構が煩雑であるため実用的ではない。
高塩基性金属スルホネートを主成分とする潤滑剤をロール表面に供給することを特徴とする鋼材の厚板熱間圧延方法(特許文献2)、高塩基性金属塩スルホネート、黒鉛、炭酸カルシウム及びホスホン酸エステルを含有する圧延加工用潤滑剤塑性物(特許文献3)、パームオレイン油を主成分とする熱間圧延油及び熱間圧延方法(特許文献4)があるが、いずれの潤滑剤も焼付き防止性または潤滑性が劣ることから所期の目的を達成するに至っていない。
一方、エンドレス圧延を行なうに際しワークロールとバックアップロールの各々に潤滑剤を供給する熱間圧延方法(特許文献5)、上下ワークロールと上下バックアップロールの各々表面に圧延油を噴射する方法(特許文献6)があるが、いずれもロール冷却水の影響が不明確である。
【0006】
その中で、分子量200〜330のポリブロピレン、ポリイソブチレン及び少なくとも1種以上からなる基油80〜95%を用いるアルミニウム用水分散性冷間圧延油組成物(特許文献7)、液状成分に高分子化合物添加油である合成エステル+ポリアクリレートを用いた熱間圧延加工用潤滑剤組成物(特許文献8)、基油と分岐脂肪酸とポリイソブチレンを組み合わせた高温塑性加工用潤滑剤(特許文献9)がある。
【0007】
【特許文献1】特開平8−215718号公報
【特許文献2】特開平7−62375号公報
【特許文献3】特開平9−40998号公報
【特許文献4】特開平11−80764公報
【特許文献5】特開平11−290903号公報
【特許文献6】特開2006−110555号公報
【特許文献7】特開平5−98284号公報
【特許文献8】特開平7−70576号公報
【特許文献9】特開平10−259391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、炭素鋼、ステンレス鋼、工具鋼、ケイ素鋼等の材質の板材、管材棒材、線材、形鋼等の鋼材を200〜1200℃の範囲で加熱し圧延する際に、圧延荷重を効果的に低減し、圧延コストを低くすることができる鋼材用熱間圧延油及びこれを用いた鋼材の熱間圧延方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ワークロール給油は勿論、バックアップロール給油に適用した場合、同一圧延油給油量で、ワークロール給油以上の効果を実現できる圧延油を開発することに成功した。バックアップロール給油方式は、ワークロールに精緻な水切り装置をつける必要がなく、かつ、噴射装置が高温の圧延鋼材の影響を受けることがないため、保守が容易でありワークロール給油装置に比べ優れているという特徴を有している。
【0010】
本発明は、以下に示す鋼材用熱間圧延油及びこれを用いた鋼材の熱間圧延方法を提供するものである。
1.基油と、数平均分子量が8000〜100000の範囲にあるイソブチレンホモポリマー及びイソブチレンコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを含有する鋼材用熱間圧延油。
2.イソブチレンコポリマーがイソブチレンとブチレンのコポリマーである上記1記載の鋼材用熱間圧延油。
3.基油100質量部に対してポリマーを0.05〜15.0質量部含有する上記1又は2記載の鋼材用熱間圧延油。
4.鋼材を圧延する4段圧延機のバックアップロールに、上記1〜3のいずれか1項記載の鋼材用熱間圧延油を、ウォーターインジェクション方式により給油することを特徴とする鋼材の熱間圧延方法。
5.さらにワークロールに、上記1〜3のいずれか1項記載の鋼材用熱間圧延油を、ウォーターインジェクション方式により給油することを特徴とする上記4記載の鋼材の熱間圧延方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鋼材用熱間圧延油は、鋼材を圧延する4段圧延機のバックアップロールに、ウォーターインジェクション方式により給油することにより、圧延荷重を大幅に低減することができ、これにより圧延コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の鋼材用熱間圧延油において使用する基油としては、例えば、鉱油(スピンドル油、マシン油、シリンダー油等)、合成エステル(脂肪酸オクチルエステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等)、油脂(なたね油、牛脂、ラード、パームオレイン油等)、重合油脂(大豆重合油、なたね重合油、ヒマシ重合油等)、硫化油脂(硫化なたね油、硫化ラード等)、シリコーン油等の1種あるいは2種類以上の混合物が挙げられる。これらのうち、特に好ましいものは、精製鉱油、なたね油、牛脂、ラード、パームオレイン油、ペンタエリスリトールトリ脂肪酸エステル、トリメチロールプロパンイソ脂肪酸エステル、硫化なたね油、硫化ラード等である。
【0013】
本発明の鋼材用熱間圧延油において使用するポリマーは、数平均分子量8000〜100000のイソブチレンホモポリマー及びイソブチレンコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーである。本発明者らは既に圧延油成分としてのポロイソブチレンの有効性に着目し、熱間圧延油の成分系として活用していたが(特許文献9)、これは、基油と分岐脂肪酸に添加するという限定した内容であり、その効力も満足するものでなかった。
本発明は、所定の分子量範囲のものを選定使用することを特徴とするものであり、これらの特定の分子量範囲のポリマーは、特許文献8に記載される高分子化合物であるポリメタクリレートに比べ、格段に冷却水に対する残存量が多くなり、圧延荷重の減少に有効に働く。すなわち、通常はワークロール給油の方がバックアップロールに比べロール表面への圧延油付着量が多く、圧延荷重減少量も多くなるが、この所定の分子量範囲にあるイソブチレンホモポリマー及びイソブチレンコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを使用することで、ロール表面に付着し、油膜となった圧延油のロール冷却水に対する耐水性が従来の圧延油と比べ飛躍的に向上するため、バックアップロール給油での荷重減少効果が、ワークロール給油と比べ格段に優れる。一方、ワークロール給油の場合、水切り板が有効に働かず、水切板と圧延ロールの間隙からの冷却水の流れ込み、ロール表面に水膜を形成するため、ノズルから出たエマルションがロール表面へ達することができないため、ロール表面に十分な量の圧延油が付着しない。
【0014】
本発明で使用するポリマーの数平均分子量は、8000〜100000という非常に限られた範囲であり、より好ましくは30000〜60000である。数平均分子量が8000未満では、所期の効果の発現が十分でない傾向があり、100000を超えると、ポリマーの溶解が十分でなくなる傾向がある。ここで、数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミッションクロマトグラフィー法により求めたものである。
ポリマーとして特に好ましいものは、ポリイソブチレン及びイソブチレンとブチレンのコポリマーである。ブチレンとしては1−ブチレンでも2−ブチレンでもよく、イソブチレンとブチレンのコポリマー中のイソブチレン単位の含有量は好ましくは5〜99質量%、さらに好ましくは20〜90質量%である。
【0015】
本発明の鋼材用熱間圧延油に使用するイソブチレンコポリマーには、コモノマーとして、ブチレン以外のモノマーも使用できる。このようなモノマーとしては例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ジオレフィン等のオレフィン、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル)等が挙げられる。
本発明の鋼材用熱間圧延油は、基油100質量部に対して、イソブチレンホモポリマー及び/又はイソブチレンコポリマーを、好ましくは0.05〜15.0質量部、さらに好ましくは0.50〜5.00質量部含有する。0.05質量部未満では所期の効果の発現が十分でない傾向があり、15.0質量部を超えると溶解が十分でなくなり所期の性能が十分に発揮できない傾向がある。
【0016】
本発明の鋼材用熱間圧延油は、極圧剤や固体潤滑剤等の添加剤を加えても良い。極圧剤の具体例としては、ジンクジアルキルジチオフォスフェート、モリブテンカーバメート、オクチル酸コバルト等の亜鉛やモリブデンやコバルト等を含有する油溶性有機金属化合物、硫化油脂、ジドデシルポリサルファイド等の硫黄系化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル等のリン化合物、高塩基性カルシウムスルホネート、高塩基性カルシウムサリシレート等の高塩基性有機酸塩化合物などが挙げられる。また、固体潤滑剤の具体例としては、黒鉛、ガラス、窒化ホウ素、雲母、二硫化モリブデン、酸化鉄、フッ素化黒鉛、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、リン酸カリウム、ポリフェニレンスルファイド、タルク、セリサイト、炭水化物などが挙げられる。使用する場合は、この内の1種あるいは、2種以上を添加分散して使用する。これらの添加剤の使用量は特に制限されないが通常、鋼材用熱間圧延油中の1〜30質量%である。
【0017】
本発明の鋼材用熱間圧延油の酸化による劣化を防止する目的で、酸化防止剤を添加しても良い。酸化防止剤の具体例としては、アルファナフチルアミン、ジターシャリブチルフェノール等が挙げられる。また、メタクリレートコポリマー、ポリオレフィン等の流動点降下剤や付着性向上剤を添加しても良い。
【0018】
本発明の鋼材用熱間圧延油は、水で0.1〜5.0質量%程度になるように希釈し、鋼材を圧延する4段圧延機の上下のバックアップロールの少なくとも一方に好ましくは双方に給油することが好ましい。これに加え、上下のワークロールの少なくとも一方に好ましくは双方に、本発明の鋼材用熱間圧延油を給油しても良い。
バックアップロールへの供給量は圧延条件によって異なるが、本発明の鋼材用熱間圧延油(原液)として、好ましくは0.5g/m2以上、より好ましくは1.0〜5.0g/m2である。0.5g/m2未満では、効果が十分に得られない場合があり、10.0g/m2以上では、ロール表面への圧延油の付着量が著しく多くなり、圧延荷重が過大に減少するため、ロールと圧延材間でスリップが発生し、正常な圧延が不可能となる場合がある。
ワークロールへの供給量は圧延条件によって異なるが、好ましくは0.3g/m2以上、より好ましくは0.5〜3.0g/m2である。0.3g/m2未満では、効果が十分に得られない場合があり、5.0g/m2以上では、バックアップ給油時と同様に、ロールと圧延材間でスリップが発生し、正常な圧延が不可能となる場合がある。
【0019】
本発明の鋼材用熱間圧延油は、水を噴射媒体として使用する、ウオーターインジェクション方式や、空気と圧延油を混合し、噴霧するエアースプレイ方式や、高圧プランジャーポンプを用い圧延油をエアレススプレーするエアレススプレー方式、プレミックス方式により給油することができる。これらの方式のうち、ウオーターインジェクション方式により給油するのが最も好ましい。
【0020】
本発明の鋼材用熱間圧延油は、近年、熱間圧延機のワークロールにおいて使用率が高まりつつあるハイスピードスチールロールによって評価したが、従来より使用されている、ハイクロム鋳鉄製、アダマイト鋳鉄製、又はNiグレーンロールを用いても同様な効果を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
実施例
上下バックアップロール及び上下ワークロールを備えた4段式熱間圧延機を用い、表1に示す圧延条件で、表2〜表7に示す圧延油を、上下バックアップロール及び/又は上下ワークロールにウオーターインジェクション方式により給油した。圧延機に設置した圧延荷重計により圧延荷重を測定した。圧延油を給油しない場合の圧延荷重をX、圧延油を給油したときの圧延荷重をYとし、下記の式により圧延荷重減少率(%)を求めた。
圧延荷重減少率(%)=100×(X−Y)/X
【0022】
【表1】
















【0023】
【表2】

【0024】
【表3】






【0025】
【表4】

【0026】
【表5】






【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【0029】
ポリマーA:イソブチレン/ブチレンコポリマー(イソブチレン単位含有量60質量%)
ポリマーB:イソブチレンホモポリマー
ポリマーC:メタクリレートホモポリマー
TMPTO:トリメチロールプロパントリオレート
TMPIO:トリメチロールプロパンイソステアレート/イソオレート
【0030】
実施例1〜45に示すように、イソブチレンホモポリマー又はイソブチレンコポリマーを含む鋼材用熱間圧延油をバックアップロールに供給すると、圧延荷重が顕著に低減する。
これに対して、比較例1〜8に示すように、イソブチレンホモポリマー又はイソブチレンコポリマーを含まない鋼材用熱間圧延油をバックアップロールに供給しても、圧延荷重は殆ど低減しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、数平均分子量が8000〜100000の範囲にあるイソブチレンホモポリマー及びイソブチレンコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを含有する鋼材用熱間圧延油。
【請求項2】
イソブチレンコポリマーがイソブチレンとブチレンのコポリマーである請求項1記載の鋼材用熱間圧延油。
【請求項3】
基油100質量部に対してポリマーを0.05〜15.0質量部含有する請求項1又は2記載の鋼材用熱間圧延油。
【請求項4】
鋼材を圧延する4段圧延機のバックアップロールに、請求項1〜3のいずれか1項記載の鋼材用熱間圧延油を、ウォーターインジェクション方式により給油することを特徴とする鋼材の熱間圧延方法。
【請求項5】
さらにワークロールに、請求項1〜3のいずれか1項記載の鋼材用熱間圧延油を、ウォーターインジェクション方式により給油することを特徴とする請求項4記載の鋼材の熱間圧延方法。

【公開番号】特開2008−189876(P2008−189876A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28029(P2007−28029)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】