説明

鋼板を変形して構成部品を製造する方法およびその方法を実施する装置

本発明は、変形する前に第1の熱処理によってオーステナイト化して被覆層厚さを生長させた焼戻し鋼からなる被覆鋼板を変形することで構成部品を製造する方法に関する。発明の目的はプロセスを最適化し、プロセスの中断によって起こされるスクラップ鋼板の発生を防止することにある。このため急速に冷却したあと熱処理鋼板1を一時収容し、構成部品5への変形の前に直接、再度短時間でオーステナイト化温度に加熱し、組織変態があった後で鋼板1を変形および硬化させる。鋼板の第2の加熱は誘導加熱で加熱するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前提部に記載の焼戻し鋼からなる好ましくはアルミニウムで被覆された被覆鋼板を変形することで構成部品を製造する方法に関する。さらに本発明はその方法を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
技術の現状では硬化処理に関連して焼戻し鋼板からなる鋼板を変形する種々な方法が一般に知られている。いわゆる「直接」変形方法の場合、炉、好ましくは通過炉内で保護ガス雰囲気のもとで焼戻し鋼から平坦な鋼板がオーステナイト化される。例えば、品質が22MnB5の焼戻し鋼が使用され、オーステナイト化のため950℃で数分間熱せられる。続いて、好ましくは自動化された搬送装置を使用し、オーステナイト化された熱い平坦な鋼板が連続処理のために冷却された変形/焼戻し工具に投入される。この工具は構成部品がプレスであり、これを閉じる際に熱い鋼板は最終形状の構成部品に変形し、閉鎖された工具で適用された閉鎖圧力のもとで比較的急速に冷却されて硬化される。硬化された構成部品は工具から取り出されるが、被覆されない薄板の場合が問題となり、洗浄ステップで、例えばサンドまたは鋼球によってスケールが除去される(例えばアルミニウム被覆薄板は十分に耐食性がありスケール発生が阻止されるので、被覆された構成部品の場合にはスケール除去は不必要となる)。引き続き、変形して硬化が完了した構成部品の最終輪郭切断および穴切断が好ましくはレーザー切断で行われる。いわゆるプレスと結びついた機械的切断も考えられる。
【0003】
炉における熱処理の間に、例えば出口状態で約25μm厚さのアルミニウム被覆が約45μmの被覆厚さに生長し、鋼板の基礎材料に直接接して鉄が拡散したAlSi層が形成されて、本来の防食機能を満たす比較的硬くて脆いAlSi層となる。
【0004】
鋼板の熱処理に関する典型的な方法経過は変形の流れで例えば図1の時間−温度グラフに示す。使用する焼戻し鋼の品質、薄板の厚さ、出口の被覆層厚さなどに応じて、もちろん図1に示す値は一定の変動も伴う(熱処理下限/上限18,19)。したがって鋼板が30分以下の炉内滞留時間にわたって炉内に存在することは簡単に考えられる。
【0005】
使用する炉はしばしば、形状ネットまたは鋼板受け入れ部を備えたいわゆる通過炉または格子を備えた格子スライド炉であり、鋼板を支持して、ガスバーナによって約2分以内でオーステナイト化する温度まで加熱し、引き続き電気加熱によって数分間この温度に保持する。ガスバーナは出力が大きいのが利点であるが、これに対し電気加熱は制御が良好であるのが利点となる。
【0006】
図1によると鋼板は炉内で約950℃の基準温度に加熱されてこの温度で保持される。オーステナイト化は約720℃以上の温度で実施される。炉内滞留時間は通常は約9分とされ、鋼板は最初の数分以内で基準温度まで加熱される。それに続く約7分で硬化に必要な基礎材料の再生アニールが行われ、体心立方フェライト/パーライト組織から面心立方オーステナイトになる。その上、AlSi保護層を十分に生長させるため前記の時間間隔は特に重要となる。
【0007】
特に炉内における鋼板の最小赤熱温度および最大炉内滞留時間に関し、プロセスで良好な部品が提供される、すなわち炉から取り出された鋼板がまだ変形プロセスおよびさらなる用途に活用できる、多少とも狭い限界が確かに存在する。さらなる経過において障害が現れるとすると、それは鋼板を炉から取り出して変形/焼戻し工具へのさらなる搬送中のとき、あるいは最終輪郭切断および穴切断の場所内にあるときであり、したがって障害が存在する間、鋼板はこれ以上炉から取り出すことができず、通常は最大許容炉内滞留時間を超え、炉内に存在する鋼板はすべて不良品となるので、取り出して処理しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、焼戻し鋼板からなる被覆鋼板を変形することで構成部品を製造するこの種の方法において、プロセス経過の最適化を達成し、特に場合によっては起こりうるプロセス障害の際のコストのかかる不良鋼板の発生量を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は方法に関しては請求項1に記載の特徴およびこれに従うさらなる特徴によって解決され、発明による方法を実施する装置に関しては請求項10に記載の特徴によって解決される。
【発明の効果】
【0010】
発明による方法には様々な利点がある。鋼板の炉内滞留時間および炉外のプロセスの経過障害に関してもはや左右されない。経過を分離することによって、鋼板変形の本来のプロセスのため、より少ない面積ニーズおよびより少ないインフラストラクチュアが生じる。焼戻し鋼板の緩衝/一時収容が可能となり、特にAlSi層に影響を及ぼす熱処理が鋼板製造業者あるいは薄板納入業者でも簡単に行われる。
【0011】
このような別の場所の連続する熱処理はEP0946311B1およびDE10212400C1で開示されているようにすでに公知である。誘導加熱による赤熱処理もすでに技術の現状であり、例えば後者の文献に述べられている。
【0012】
発明による有利な実施形態およびさらなる形態はそれぞれ従属請求項に記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1に、このために適した装置2を使用して焼戻し鋼からなる被覆鋼板1を変形することで構成部品5を作る本発明による方法の経過の概略を示す。巻回された状態で供給される鋼、いわゆるコイル3から工具4を使用して鋼を広げて平坦にし、完成した構成部品5に必要な寸法の鋼板1に打抜きあるいは切断される。そこから鋼板1は緩衝領域6に導かれる。この一時収容は必ずしも必要ではなく、むしろ鋼板1は工具4を出た後、第1の炉7に直接導くことができ、ここで図2の温度−時間グラフによる熱処理を行う。第1の炉7の直後に冷却領域8が設けられ、ここで鋼板1は急冷されて熱処理の最終段階を経過する。冷却領域8を出て熱処理を終えた鋼板1は一時収容場9に導かれる。
【0014】
第1の炉7は構造の観点から、すでに述べた通過炉、カルッセル(Karussell)炉などにすることができる。
熱処理の個々の段階は図2に言及してすでに背景技術の項で始めに説明した。第1の炉7における比較的緩慢に行われる基準温度への加熱および残りの炉内滞留時間はオーステナイト化を引き起こしトポグラフィ(被覆層構造、被覆層厚さ)を変化させるため約9分の合計炉内滞留時間になる。鋼板を使用不可にしないため、経験によると最大炉内滞留時間は30分を超えてはならない。鋼板1の冷却領域8への搬送およびそこでの急速冷却は比較的短い時間内で行われ、残りの冷却は一時収容場9において室温RTで行われる。熱処理の最後には鋼板1はマルテンサイト組織になる。
【0015】
適切な搬送装置10、例えば連結アームロボットを使用して鋼板1は誘導炉11に導かれ、そこから、さらなる搬送装置12、例えば再度連結アームロボットによって連続工程に適し冷却された変形/焼戻し工具13に入れられる。この工具にはプレス成形装置14および冷却装置15が付設される。プレス成形装置14を閉じるときに高温の鋼板1は構成部品5に変形され、閉鎖された変形/焼戻し工具13において閉鎖力が適用される際、急速に冷却され、これによって硬化する。方法の最終ステップにおいて各構成部品5は搬送装置16によって切断装置17に導かれ、変形と硬化が終わった構成部品5の最終輪郭切断および穴切断が好ましくはレーザー切断を使用して行われる。勿論、適切な切断刃によって機械的手段でこれを行うこともできる。
【0016】
誘導炉11および後続の変形/焼戻し工具13で行われる鋼板1の熱処理を図3における温度−時間グラフで熱変形曲線20および熱処理下限/上限18、19によって示す。この熱処理では鋼板の誘導炉11内滞留時間が短いのが特徴となる。基準温度(オーステナイト化温度)への加熱が数秒(約10秒)内で生じ、それに続く約10秒から最大2分までの短い炉内滞留時間が加わって組織変態が進む。第1の炉7ですでに被覆の厚さと被覆構造の変化が生じたので、これ以上必要ではない。誘導炉11における極めて短い炉内滞留時間の後、鋼板は変形/焼戻し工具13に導かれ、ここで変形のほかに急速冷却が冷却領域8と同じように(熱変形曲線20と同じ経過で)進行する。変形/焼戻し工具13を出ると、構成部品5はマルテンサイト組織になっており、室温RTにおける冷却がさらなる搬送中あるいは切断装置17内で行われる。
【0017】
この方法で、最初に約500から600N/mmの引張強さであった鋼板1が約1300から1500N/mmの引張強さの構成部品5に変形される。
発明の有利なさらなる構成によると、誘導炉11で鋼板1を部分的に異なった強さに加熱することが考えられ、この結果、これが所望される場合には、変形され急速冷却された構成部品5が部分的に異なった強さを備えることになる。
【0018】
さらに、第2の熱処理(誘導炉11)の前に、例えば補強薄板(当て板)を溶接して局部的に補強することが可能であり有利になる。このように当て板された結合薄板は第2の炉に導かれ、その後、変形/焼戻し工具13に導かれる。このことは原材料の特性および形状精度に全体として好ましい効果を及ぼす。
【0019】
発明による方法はテイラー(Tailored)ブランク板を使用する際にも適用でき有利である。
発明の重要な利点は方法の個々のステップを分離する可能性にある。炉7における第1の熱処理は鋼板あるいは薄板製造業者ですでに行われ、したがってそのように予め処理された鋼板1がさらなる処理を行う企業(例えば自動車製造業者)に用意される(一時収容場9)。
【0020】
発明のさらに有利なさらなる構成において、搬送装置10に誘導子を配属するか搬送装置10に構造的に組み入れることが考えられ、その結果、変形/焼戻し工具13への搬送の間に鋼板1の熱処理が進行する。分離した誘導炉11およびこれに続くさらなる搬送装置12はそれによって省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】鋼板の変形によって構成部品を製造する発明による方法の経過を示す。
【図2】第1の鋼板熱処理の温度−時間グラフを示す。
【図3】第2の鋼板熱処理の温度−時間グラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼戻し鋼板からなる好ましくはアルミニウムで被覆された被覆鋼板を変形することで構成部品を製造する方法であって、変形の前に第1の方法ステップで鋼板は第1の炉に導びかれてオーステナイト化され、第1の炉における鋼板の炉内滞留時間は組織変態のほかに被覆層厚さの生長が行われるように選択される方法において、
熱処理された鋼板(1)を急速に冷却し、引き続き一時収容するステップと、
構成部品(5)に変形する前に直接第2の炉(11)においてオーステナイト化温度で鋼板(1)を再度短時間で加熱するステップと、
生じた組織変態の後で鋼板(1)を変形および硬化させるステップと
からなることを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の炉(7)における炉内滞留時間は9分から30分の間であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の炉(11)においてオーステナイト化温度で鋼板(1)の加熱を繰り返す際には、炉内滞留時間は、組織変態のみが生じて被覆層厚さの生長はこれ以上生じないように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第2の炉(11)における炉内滞留時間は10秒から2分30秒の間であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第1の炉(7)における鋼板(1)の加熱は電気またはガスに基づいて行われ、これに対し第2の炉(11)における加熱は誘導加熱によって行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1の加熱は鋼板あるいは薄板製造者のもとで行われ、これに対し第2の熱処理はさらなる処理を行う企業、例えば自動車製造業者のもとで行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第2の熱処理の間では鋼板(1)の表面が異なる強さで加熱されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
鋼板(1)は第2の炉(11)で再度加熱される前に少なくとも補強薄板を適用して局部的に補強されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
鋼板(1)としてテイラーブランクが使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法を実施する装置であって、
コイル(3)から鋼板(1)を作る工具(4)と、
鋼板(1)の被覆層厚さの生長を引き起こすことを含んで第1の熱処理をする第1の炉(7)と、
鋼板(1)の冷却領域(8)と、
鋼板(1)の一時収容場(9)と、
鋼板(1)を再度熱処理する第2の炉(11)と、
プレス成形装置(14)と冷却装置(15)を備えた変形/焼戻し工具(13)と、
最終輪郭切断および穴切断を行う切断装置
とから構成されることを特徴とする装置。
【請求項11】
第1の炉(7)では電気および/またはガスに基づき熱処理が行われ、第2の熱処理は誘導炉(11)で行われることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
一時収容場(9)と変形/焼戻し工具(13)との間に配置された搬送装置(10)に誘導子が組み込まれることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
鋼板(1)に少なくとも補強薄板が、特に溶接で適用される場所が冷却領域(8)と第2の炉(11)との間に配置されることを特徴とする請求項10に記載の装置。


























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−522345(P2007−522345A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552497(P2006−552497)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000853
【国際公開番号】WO2005/078144
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(500085758)アウディー アーゲー (41)
【Fターム(参考)】