説明

鋼板温度履歴測定装置

【課題】鋼板温度履歴測定の面倒が少なく、炉内温度の高い熱処理炉でも、鋼板の何処でも鋼板温度履歴を測定することが可能な鋼板温度履歴測定装置を提供する。
【解決手段】磁石5の収納された磁石用断熱ケース4を、アーム3を介して、記録装置1の収納された4つの記録装置用断熱ケース2に接続したことにより、磁石5の磁力によって、接触温度センサ7及び記録装置用断熱ケース2に収納された記録装置1を、磁性体である鋼板Sの表面の何処にでも吸着させて温度履歴を測定することができると共に、熱による磁力の低下を抑制防止することができ、もって鋼板温度履歴測定の面倒が少なく、炉内温度の高い熱処理炉でも、鋼板の何処でも鋼板温度履歴を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通板される鋼板の熱処理炉内での温度履歴を測定する鋼板温度履歴測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば連続焼鈍炉の新設・改修・ヒートパターン変更などのタイミングで、焼鈍炉の加熱能力や冷却能力を把握するため、或いはヒートパターンを確認(品質確認)するために、鋼板の炉内温度履歴を測定していた。具体的には、熱電対に接合されたサンプル鋼板を母材となる鋼板に取付け、熱電対を払い出しながら、鋼板と共に炉内を通板するサンプル鋼板の温度履歴を炉外で測定していた。測定後、炉内からサンプル鋼板が出てきたら、熱電対を測定器側で切り離し、これを連続焼鈍炉の出口で巻き取り回収していた。しかしながら、この温度履歴測定装置では、数十メートルもある炉内へサンプル鋼板を通過させるために、それに見合った長さの熱電対が必要となり、測定時の払い出しや測定後の巻き取りが煩わしいという問題がある。
【0003】
これに対し、本出願人は、下記特許文献1に記載される鋼板温度履歴測定装置を提案した。この鋼板温度履歴測定装置は、サンプル鋼板に予め熱電対などの温度センサを取付け、この温度センサで検出される鋼板温度を、一般にデータロガと呼ばれる記録装置によって所定のタイミングで記録可能とし、この記録装置を断熱ケース内に収納してサンプル鋼板ごと一体化する。この鋼板温度履歴測定装置を、鋼板に形成された穴部にフックするようにして取付け、この鋼板ごと、炉内に通板してサンプル鋼板の温度を記録装置に記録する。鋼板温度履歴測定装置が炉外に払い出されたら、それを鋼板から取り外し、記録装置に記録されている鋼板の温度を読み出して温度の履歴を測定する。
【0004】
また、本出願人は、これに先駆けて、下記特許文献2に記載される鋼板温度履歴測定装置を提案した。この鋼板温度履歴測定装置は、熱電対が取付けられた架台を磁石の磁力で鋼板に吸着可能とし、この熱電対で検出された鋼板の温度を炉外で測定する。熱電対で検出された温度を炉外で測定するのは、前述のように面倒であるから、この検出された温度を、例えばデータロガなどの記録装置に記録可能とし、これを鋼板と一緒に炉内に通板して鋼板温度を記録するようにすれば、炉外測定の面倒がなくなる。
【特許文献1】特開2005−281811号公報
【特許文献2】実開平5−3949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載される鋼板温度履歴測定装置では、鋼板に穴を開けなければならないことや、この穴にフックするように装置を取付けなければならないという面倒がある。また、穴の開いている箇所でしか鋼板温度履歴を測定できないという問題もある。
これに対し、前記特許文献2に記載される鋼板温度履歴測定装置をデータロガなどの記録装置と一緒に用いる場合には、鋼板に穴を開けたり、穴にフックするように装置を取付けたりといった面倒がないばかりでなく、磁石の吸着する箇所なら、何処でも鋼板温度履歴を測定できるという利点もある。しかしながら、この特許文献2に記載される鋼板温度履歴測定装置では、炉内温度、正確には装置が吸着している鋼板の温度が高い場合には、磁石が磁力を失って装置が鋼板から外れてしまうという問題がある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、鋼板温度履歴測定の面倒が少なく、炉内温度の高い熱処理炉でも、鋼板の何処でも鋼板温度履歴を測定することが可能な鋼板温度履歴測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の鋼板温度履歴測定装置は、通板される鋼板の熱処理炉内での温度履歴を測定する鋼板温度履歴測定装置であって、鋼板の表面に接触して当該鋼板の温度を検出する接触温度センサと、前記接触温度センサで検出された鋼板の温度を所定のタイミングで記録し且つ記録装置用断熱ケース内に収納された記録装置と、前記記録装置及び接触温度センサを磁力によって鋼板の表面に吸着し且つ複数の磁石用断熱ケース内に個別に収納された磁石とを備えたことを特徴とするものである。
【0007】
また、前記磁石が収納された磁石用断熱ケースを、アームを介して、所定角度だけ回転可能に、前記記録装置が収納された記録装置用断熱ケースに接続したことを特徴とするものである。
また、前記磁石がネオジム磁石であることを特徴とするものである。
また、前記接触温度センサを、二つの磁石用断熱ケース間に掛け渡された横材に取付けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
而して、本発明の鋼板温度履歴測定装置によれば、磁石の磁力によって、接触温度センサ及び記録装置用断熱ケースに収納された記録装置を、磁性体である鋼板の表面の何処にでも吸着させて温度履歴を測定することができると共に、磁石用断熱ケースに磁石を収納したことによって、熱による磁力の低下を抑制防止することができ、もって鋼板温度履歴測定の面倒が少なく、炉内温度の高い熱処理炉でも、鋼板の何処でも鋼板温度履歴を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の鋼板温度履歴測定装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の鋼板温度履歴測定装置の一実施形態を示す全体斜視図である。本実施形態の鋼板温度履歴測定装置は、磁性体である鋼板の表面に磁力で吸着し、その表面温度を直接検出し、記録することで鋼板表面温度の履歴を測定しようとするものである。図中の符号1は、一般にデータロガと呼ばれる記録装置である。この記録装置1は、例えば温度センサで検出された温度を所定のタイミング、例えば1秒間隔で読込んで次々と記録するものであり、例えばその間隔やタイミングは自在に設定可能である。
【0010】
前記記録装置1は、記録装置用断熱ケース2内に、取出し可能に収納されている。後述するように、例えば連続焼鈍炉内の鋼板の温度履歴を記録装置1で記録したら、記録装置用断熱ケース2内から記録装置1を取出し、当該記録装置1に記録されている鋼板温度履歴のデータを、例えばコンピュータシステムなどによって読出し、必要に応じて、データに処理を加える。
【0011】
記録装置用断熱ケース2は、連続焼鈍炉を通過するときに、記録装置1の温度を当該記録装置1の耐熱温度未満に維持し、且つ可及的に薄く形成される必要があるので、連続焼鈍炉の炉温と在炉時間とに基づいて、記録装置用断熱ケース2の材料の選定と厚みの調整を行う。この記録装置用断熱ケース2の材料としては、例えば本出願人が先に提案した特開2005−274297号公報に記載されるように、平均温度800℃のときに熱伝導率が0.08kcal/mh℃以下の高機能断熱材を用いることができ、その成分%は、例えばSiO:59.0mass%、ZrO:40.0mass%、Al:0.4mass%、他:0.6mass%である。
【0012】
この高機能断熱材からなる記録装置用断熱ケース2によれば、例えば700℃の高温炉で180秒経過しても、内部温度を60〜70℃程度に維持することができる。データロガなどの記録装置1の耐熱温度が105℃程度であり、連続焼鈍炉における在炉時間はせいぜい180秒程度であることから、この記録装置用断熱ケース2内に収納された記録装置1を十分保護することが可能である。
【0013】
例えば、図1の矢印方向を鋼板の通板方向と定義したとき、記録装置用断熱ケース2の四隅からは、通板方向及びその逆方向に向けて、2本ずつ、アーム3が突設されている。このアーム3は、夫々、図1の上下方向に向けて、15°程度回転自在であり、その先端部に、磁石用断熱ケース4が回転自在に取付けられ、その内部に、磁石5が収納されている。
【0014】
磁石用断熱ケース4には、前記記録装置用断熱ケース2と同じ高機能断熱材を用いることができる。また、磁石5には、ネオジム磁石を用いた。ネオジム磁石は、材料にネオジムNdを用いる磁石で、磁束密度が高く、強い磁力を有し、ハードディスクやCDプレーヤー、ヘッドフォンや携帯電話などに広く用いられている。しかし、一方で、温度が80℃を越えると、次第に磁力が低減し、磁性体である鋼板にも吸着しなくなってしまう。そこで、本実施形態では、磁石5を磁石用断熱ケース4内に収納する。この磁石用断熱ケース4によれば、前述のように700℃の連続焼鈍炉に180秒在炉したときの内部温度は70℃以下であるから、磁石5の磁力を確保することができ、もって連続焼鈍炉から払い出されるまで鋼板に吸着し続けることができる。ちなみに、本実施形態では、磁石5の大きさを40mm×40mm×7mm(長さ×幅×高さ)とし、鋼板に対する磁力作用面の面積を広くして十分な吸着力が得られるようにした。
【0015】
特に、平均温度800℃のときに熱伝導率が0.08kcal/mh℃以下の高機能断熱材を用いれば、断熱ケースの厚さを薄くすることができ、更に、ネオジム磁石を用いれば、その強い磁力と相俟って、比較的大型となる記録装置用断熱ケースを用いる場合であっても、十分に鋼板に吸着させることができる。
通板方向先方の2つの磁石用断熱ケース4の間、並びに通板方向後方の2つの磁石用断熱ケース4の間には、夫々、横材6が掛け渡されている。そして、通板方向先方の横材6の中央部には、接触温度センサ7が取付けられており、この接触温度センサ7と記録装置用断熱ケース2内に収納されている記録装置1とが配線8によって接続されている。接触温度センサ7には、例えば熱電対などを用いることも可能であるし、炉内温度が耐熱温度以下の接触式の温度センサを用いることも可能である。
【0016】
この鋼板温度履歴測定装置を鋼板にセットする場合には、例えば図2に示すように、連続焼鈍炉Rの入側で、通板される鋼板Sの上方に、例えば糸で吊るようにして鋼板温度履歴測定装置を配し、温度履歴を測定したい箇所が来たら、糸を切るか、糸を手放す。すると、鋼板温度履歴測定装置が自重で鋼板Sの表面上に落下し、そのとき磁石5の磁力で吸着する。糸は、炉内で燃焼してしまう。勿論、磁力で吸着させる箇所は、鋼板S表面の何処でも構わない。
【0017】
また、連続焼鈍路内の鋼板Sは、図3に示すようにフラットではない。具体的には、鋼板Sを案内するハースロールH.Rの部分では上に凸、即ち膨らんでおり、それ以外の部分では下に凸、即ち窪んでいる。本実施形態の鋼板温度履歴測定装置では、磁石5を収納した磁石用断熱ケース4がアーム3を介して、所定角度だけ回転可能に、記録装置用断熱ケース2に取付けられているので、例えば鋼板Sが窪んでいる箇所では図4に示すようにアーム3が上向きに回転して磁石用断熱ケース4が鋼板Sに密着し、例えば鋼板Sが膨らんでいる箇所では図5に示すようにアーム3が下向きに回転して磁石用断熱ケース4が鋼板Sに密着する。磁石用断熱ケース4が常に鋼板Sに密着すると、それらの間の横材6に取付けられている接触温度センサ7も常に鋼板Sに密着し、鋼板Sの表面温度を正確に検出し続けることができる。
【0018】
本実施形態の鋼板温度履歴測定装置の実施例として、鋼板の通板速度40mpm、鋼板の板幅1000mm、鋼板の板厚0.3mm、炉内温度(均熱温度)700℃、在炉時間180秒の連続焼鈍炉で鋼板の温度履歴を測定したところ、本実施形態の鋼板温度履歴測定装置は、炉外に払い出されるまで鋼板に吸着したまま、当該鋼板の表面温度履歴を正確に測定し続けることができた。
【0019】
このように、本実施形態の鋼板温度履歴測定装置によれば、磁石5の磁力によって、接触温度センサ7及び記録装置用断熱ケース2に収納された記録装置1を、磁性体である鋼板Sの表面の何処にでも吸着させて温度履歴を測定することができると共に、磁石用断熱ケース4に磁石5を収納したことによって、熱による磁力の低下を抑制防止することができ、もって鋼板温度履歴測定の面倒が少なく、炉内温度の高い熱処理炉でも、鋼板の何処でも鋼板温度履歴を測定することができる。
【0020】
また、磁石5の収納された磁石用断熱ケース4を、アーム3を介して、記録装置1の収納された記録装置用断熱ケース2に、所定角度だけ回転可能に接続したことにより、熱処理炉内で記録装置1の収納された記録装置用断熱ケース2を鋼板Sに吸着し続けることができる。
また、磁石5をネオジム磁石したことにより、強い磁力で、記録装置1の収納された記録装置用断熱ケース2を鋼板Sに吸着し続けることができる。
また、二つの磁石用断熱ケース4間に掛け渡された横材6に接触温度センサ7を取付けたことにより、熱処理炉内で、鋼板Sに接触温度センサ7を常に接触させ続けることができ、もって鋼板Sの温度履歴を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の鋼板温度履歴測定装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の鋼板温度履歴測定装置のセッティングの説明図である。
【図3】連続焼鈍炉内の鋼板の状態の説明図である。
【図4】図1の鋼板温度履歴測定装置の作用の説明図である。
【図5】図1の鋼板温度履歴測定装置の作用の説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1は記録装置、2は記録装置用断熱ケース、3はアーム、4は磁石用断熱ケース、5は磁石、6は横材、7は接触温度センサ、8は配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通板される鋼板の熱処理炉内での温度履歴を測定する鋼板温度履歴測定装置であって、鋼板の表面に接触して当該鋼板の温度を検出する接触温度センサと、前記接触温度センサで検出された鋼板の温度を所定のタイミングで記録し且つ記録装置用断熱ケース内に収納された記録装置と、前記記録装置及び接触温度センサを磁力によって鋼板の表面に吸着し且つ複数の磁石用断熱ケース内に個別に収納された磁石とを備えたことを特徴とする鋼板温度履歴測定装置。
【請求項2】
前記磁石が収納された磁石用断熱ケースを、アームを介して、所定角度だけ回転可能に、前記記録装置が収納された記録装置用断熱ケースに接続したことを特徴とする請求項1に記載の鋼板温度履歴測定装置。
【請求項3】
前記磁石がネオジム磁石であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板温度履歴測定装置。
【請求項4】
前記接触温度センサを、二つの磁石用断熱ケース間に掛け渡された横材に取付けたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の鋼板温度履歴測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−60418(P2010−60418A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226098(P2008−226098)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】