説明

鋼矢板、及びその製造方法、並びに組合せ鋼矢板

【課題】本発明は、U型鋼矢板を連結して組合せ鋼矢板とする際に、継手部の挿入嵌合手間を省き容易に連結でき製作効率が良く、実験等を行わなくても設計上連結部の強度管理ができる構造を提供する。
【解決手段】ウェブ部2とその両端に配置されるフランジ部を有するU型鋼矢板であって、一方のフランジ部3のみに他の鋼矢板と連結するための嵌合用継手5を有し、他方のフランジ部4には嵌合用継手を有せず、且つ、前記嵌合用継手を有しないフランジ部4の先端部が、ウェブ部2とフランジ部4が交わる角部19から、前記の嵌合継手を有するフランジ部3の嵌合継手中心部17を通りウェブ部2と平行する直線7上に配置され、又は当該直線7を跨いで配置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築分野における、土留め、護岸構造を形成する鋼矢板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存のU型鋼矢板を用いて、高い剛性を有する鋼矢板壁を形成する場合や、施工能率を向上させるために一回の打設に要する鋼矢板の幅を広げるために、打設前に予め2枚の鋼矢板を嵌合してかしめまたは溶接にて連結し一枚の鋼矢板として利用する方法が一般的に知られている(例えば、非特許文献1)。一般的に、圧延にて製造される鋼矢板は、その製造装置の限界により所定以上の幅広の鋼矢板を製造することができないため、上記のように個々に圧延した鋼矢板を組み合わせて一体化することは有効な手段として利用されている。
【0003】
連結した鋼矢板間が一体化するためには、嵌合した継手部においてせん断力が確実に伝達されていることが必要であるが、通常のU型鋼矢板では、嵌合する継手部に施工上の嵌合性を考慮した余裕代として隙間が設けられており、また嵌合後の隙間の大きさが鋼矢板長手方向で一様でないために、設計値として理論的に継手部嵌合強度を特定することができない。特に、溶接にて連結した場合、設計上のど厚を特定することが困難である。そこで、継手部の嵌合強度を保証する方法として、例えば非特許文献2には、実験にて直接確かめる方法が記載されている。
【非特許文献1】STEEL SHEET PILING・GENERAL CATALOGUE・EDITION 2004-3,PROFILARBED S.A. Arcelor Group
【非特許文献2】Eurocode 3: Design of steel structures - Part5: Piling,February 1999,pp82-83
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
別々の鋼矢板を連結して一枚の鋼矢板として利用する際、従来のU型鋼矢板を用いた場合、継手部を一度鋼矢板長手方向の端部から挿入しなければならず、継手部を挿入した後に初めて連結作業が可能となるため製造効率が悪い。特に、挿入作業を鉛直方向にて行う場合には、鋼矢板2枚分の長さ以上の高さまで鋼矢板を吊り上げることができるクレーン等の重機が必要であり、また挿入作業を水平方向にて行う場合には、矢板を転がすためのローラー等の設備が必要であり、作業環境に応じて設備投資が必要となるなどコスト的な負担が大きい。特に狭い工場内では、建屋の天井高さが低い場合には挿入作業を確保するための鉛直方向空間を確保できなかったり、鋼矢板を長手方向で2枚分置くための平面的なスペースが確保できず水平方向での挿入作業も出来なかったり、嵌合作業そのものができなくなるなどの問題があった。
【0005】
また、2枚以上の鋼矢板を組み合わせて一体化したものを製品とする場合、連結部の強度を保証する必要があるが、従来のU型鋼矢板継手を嵌合したのちに連結させる方法では、嵌合部に隙間が残るため、溶接ののど厚管理が出来ず信頼性に乏しいものにならざるを得ない。また、強度を確かめるために、いちいち実験を実施してもいいが、作業負荷が大きくなるだけでなく、連結部全長に渡ってしかも全数の矢板を確かめることもできず、極めて少ない情報の中で製品保証せざるを得なかった。
【0006】
本発明は、U型鋼矢板を連結して組合せ鋼矢板とする際の従来の問題点を解決するために、継手部の挿入嵌合手間を省き容易に連結でき製作効率が良く、実験等を行わなくても設計上連結部の強度管理ができる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、第1の発明は、ウェブ部とその両端に配置されるフランジ部を有するU型鋼矢板であって、一方のフランジ部のみに他の鋼矢板と連結するための嵌合用継手を有し、他方のフランジ部には嵌合用継手を有せず、且つ、前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部が、ウェブ部とフランジ部が交わる角部から、前記の嵌合継手を有するフランジ部の嵌合継手中心部を通りウェブ部と平行する直線上に配置され、又は当該直線を跨いで配置されることを特徴とする
また、第2の発明は、第1の発明の鋼矢板において、前記フランジ部には前記鋼矢板を重ねた際に取り外しを容易とする屈曲部を有し、前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部の前記ウェブ部と平行する直線からの突出長さは、前記屈曲部から、前記ウェブ部と平行する直線までの長さ以下とすることを特徴とする。
また、第3の発明は、前記嵌合用継手を有しないフランジ部の端部は、前記鋼矢板を2枚連結する際に、前記嵌合用継手を有さないフランジ部の端部同士を溶接またはボルトにて固着するための位置決め用の折り曲げ部を有することを特徴とする。
また、第4の発明は、第1〜3の発明の鋼矢板を、圧延にて製造することを特徴とする。
また、第5の発明は、第4の発明の鋼矢板の圧延による製造方法であって、前記両方のフランジ部においてロールに対する圧下負担が等しくなるように、継手部を含む両方のフランジ部断面積を等しくすることを特徴とする。
また、第6の発明は、第1〜3の発明のいずれか1項に記載の鋼矢板を2枚連結した組合せ鋼矢板であって、前記嵌合用継手を有しないフランジ部同士が重ねられ、又は前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部同士が接触され、前記嵌合用継手があるフランジ部側が両端になり、且つ、前記2枚の鋼矢板それぞれのウェブ部が前記両端に位置する嵌合用継手同士を結ぶ直線に対して互いに反対側に配置されると共に、前記直線と前記2枚の鋼矢板のウェブ部とが平行になるように配置され、前記嵌合用継手を有しないフランジ部同士が溶接またはボルトにて連結されることを特徴とする組合せ鋼矢板である。
また、第7の発明は、第1〜3の発明のいずれか1項に記載の鋼矢板2枚を両端に配置すると共に、前記嵌合用継手があるフランジ部側が両端部になり、且つ、前記2枚の鋼矢板それぞれのウェブ部が平行になるように配置した組合せ鋼矢板であって、前記両端2枚の鋼矢板の間に、両側のフランジ部に嵌合用継手を有しない鋼矢板を1枚または複数枚配置して、前記各鋼矢板の嵌合用継手がないフランジ部同士を溶接またはボルトにて連結したことを特徴とする組合せ鋼矢板である。
また、第8の発明は、第7の発明の鋼矢板において、前記鋼矢板の中立軸が、前記両端部の嵌合用継手同士を結ぶ直線と重なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
2枚の鋼矢板を組み合せて連結する時に、継手部での嵌合作業を不要とするため、特別な設備、作業スペースを必要とせず、製造効率に優れ製造コストを低減できる鋼矢板となる。
従来のU型鋼矢板の一部を変更するだけなので、既存の製造設備を大幅に変更することなく新たな鋼矢板の製作が可能であり、更に圧延にて製造する場合には、複雑な継手の圧延工程を省略することができるため、圧延時のロール負担を軽減でき、圧延コストを低減できる。
連結部は全てすみ肉溶接、またはボルトにて製作管理できるため、連結部の強度管理が容易であり、設計値として連結部強度を設定でき、信頼性のある商品を提供できる。
本発明のU型鋼矢板を連結することで幅広の鋼矢板とすることができ、また中間に任意幅または任意枚数の両端部に嵌合用継手を設けない部材を用いることで、任意幅の幅広サイズの鋼矢板を提供でき、現場での打設回数を減らすことができる。
従来のU型鋼矢板と比べ、継手を一部省略することにより、鋼材総重量を減らすことができ、なおかつ嵌合する隣接鋼矢板間で中立軸の位置が同じであり嵌合継手部でせん断力を伝達する必要がないため、高い断面性能を発揮する鋼矢板壁の構築が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
【0010】
本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板を図1に示す。本発明の鋼矢板は、最終的には2枚以上の鋼矢板を組み合せて一体化して使用することを想定しており、2枚以上の鋼矢板を最適な方法で一体化できるよう工夫したものである。用いる鋼矢板としては、図10に示すような既存の鋼矢板用圧延設備を流用することで製造でき、製造コストをできるだけ軽減できるよう、従来のU型鋼矢板を改良した形状としている。
【0011】
図1に示すように、本発明の鋼矢板1単体の断面形状は、従来の単体のU型鋼矢板8(図2)の一部を改良した断面形状を有しており、一方の継手5はそのまま残し、鋼矢板を地中に打設して鋼矢板壁を構築する際隣接する鋼矢板と連結するための嵌合継手部として利用し、他方の継手箇所は複雑な従来のような継手形状加工をせず、板状連結部12を端部に有するフランジ部4とした、左右非対称のU型形状の断面を有する。
【0012】
嵌合用継手のないフランジ部4においては、当該フランジ部の長さが、ウェブ部とフランジ部が交わる角部19からフランジ端部6に向かって、他方の嵌合継手を有するフランジ部3の嵌合継手中心部17を通りウェブ部2と平行する直線7を跨いで延長させるようにする。嵌合継手中心部17は、図4に示すような組合せ鋼矢板として一体化したときに断面中立軸となる直線7を通る、継手内部空間のライン上を指す。
このようにフランジ部4の長さを長くし、その端部6が嵌合継手中心部17より上記直線7から飛び出すようにすることで、本発明の同一形状の鋼矢板1を2枚組み合せ、一方の鋼矢板に対して他方の鋼矢板を180度回転させ嵌合継手のないフランジ部4の板状連結部12同士を連結した後の一体化した後の鋼矢板11において、図4に示すように両端の嵌合継手中心位置17がウェブ部と平行の同一直線7上に位置することになり、この直線7が一体化した鋼矢板11の中立軸となる。
図4の例においては、それぞれ2枚のウェブ部からの距離が等しいラインが中立軸となる。実際、この一体化した組合せ鋼矢板11を土中に打設し壁体として利用するとき、隣接して嵌合する個々の組合せ鋼矢板11間で嵌合継手中心位置が断面高さ方向で同一であり、全ての組合せ鋼矢板11間で中立軸位置が同じであるため、壁体背後から土圧として作用する曲げ荷重に対して、上記直線7が壁体延長方向に渡って同一の中立軸位置となり抵抗するため、嵌合継手部における隣接鋼矢板間でのせん断力伝達不足による鋼矢板壁としての剛性低下を考慮する必要がなく、鋼矢板全断面積分を曲げ荷重に対する有効断面積として考慮することができ経済的となる。
フランジ部4が直線7から飛び出す長さとしては、本発明の2枚の鋼矢板1を組み合せるときの製作性を考慮し、2枚の鋼矢板を重ねて位置決めしやすい程度の長さは少なくとも確保するようにする。但し、板状連結部12は2枚の鋼矢板間で互いに平面同士で接することが好ましく、通常のU型鋼矢板のフランジ部4に設けられた屈曲部20を目安に連結部12の長さを設定すればよい。屈曲部20は、U型鋼矢板を上下に積み重ねた際、ウェブ部2間に隙間が形成され、個々のU型鋼矢板を掴みやすくし、運搬時に積み重ねた鋼矢板を取り外すことが容易になるために設けられている。
具体的には、2枚の鋼矢板が連結された際、一方の鋼矢板の板状連結部12の端部6が、他方の鋼矢板のフランジ部4の屈曲部20よりも、中立軸となる直線7側に来るようにすることが好ましい。また、あまり伸ばし過ぎて中立軸付近であまり曲げ荷重に抵抗しないような断面積が増え過ぎ非経済とならないようにすることが好ましい。
【0013】
嵌合用継手のないフランジ部4の長さを、図8に示すように、その端部6aが直線7の位置に来るようにし、図9に示すように、端部同士を突き合せて一枚の組合せ鋼矢板11aとしてもいいが、溶接作業のし易さ、鋼矢板連結箇所の位置決めの容易さを考慮すると、図1のタイプの鋼矢板を用いて、図4に示すように板状のフランジ部面同士が接するように重ね合わせるようにした方が、製作性が良く精度の高い組合せ鋼矢板が可能となる。
【0014】
また、嵌合用継手を設けないフランジ部を製造する手法として、例えば嵌合用継手のないフランジ部4の長さを、前記ウェブ部と平行な直線から飛び出させる方法として、図11に示すように、単に従来の鋼矢板8の一方の継手部5aの一部を継手切断ライン21で切断する方法も考えられる。しかし、継手部切断による応力開放に伴うフランジ端部の鋼矢板長手方向の波状変形発生を誘発する可能性があり、当該端部を平面状に修正するための加熱またはプレス等の矯正作業が必要になってしまい、作業切断そのものによる手間と合わせてコストアップとなってしまうことから、本発明の主旨である製作性に優れた鋼矢板という観点からはあまり好ましくない。
【0015】
本発明の鋼矢板1を連結する方法としては、溶接でもいいしボルトで連結しても構わない。以下に、溶接によって、本発明の鋼矢板1を2枚用いて1枚の組合せ鋼矢板を製作する手順を示す。
(1)図4に示すように、嵌合継手がないフランジ部4の側面同士を連結部12において重ね併せ、位置決めする。このとき、嵌合継手中心部17を結ぶ直線7に対して、それぞれのウェブ部が反対側に来るように配置し、2枚の鋼矢板のウェブ部2のラインが平行になるようにする。
(2)連結部12の片面側において、フランジ端部6をすみ肉溶接する。フランジ端部6ともう片方の本発明の鋼矢板1のフランジ部4の側面からなる隅角部をすみ肉溶接するため、従来の隙間がある状態での嵌合継手部内での溶接とは違い、溶接箇所での隙間がなくなるため、溶接部脚長管理が適切にでき信頼性のある溶接部強度管理が可能となる。
溶接量としては、施工時に重機から鋼矢板長手方向に作用する押し込み荷重、及び連結部12のせん断耐力が壁体として利用された際に受ける土圧による荷重以上となるよう、設計にて取り決める。溶接熱により、連結部において変形が生じないよう、上記設計値内で極力溶接量は少なくし、設計上可能であれば、熱による変形を抑えるために、一回の溶接作業で与える熱量が少なくなるよう連続溶接ではなく断続溶接にすることが好ましい。
(3)反対側の連結部を溶接するために、片側を溶接にて固定した2枚の鋼矢板を同時に180度反転する。
(4)もう一方の片面側の連結部12において、フランジ端部6を(2)と同様の手順ですみ肉溶接する。
【0016】
また、図13に示すように、ボルト25およびナット26にて連結する場合は、重なり合う2枚の鋼矢板それぞれの板状連結部12において、ボルト孔位置を調整し、事前に孔開け加工しおく。ボルトの本数、サイズ、間隔は、上記溶接時と同様に、施工時荷重、供用時の土圧荷重に耐えられるよう、設計にて取り決める。
【0017】
連結箇所の重ね代分を明確にし、確実に位置決めできるようにするため、図3に示すように嵌合継手がないフランジ部4a端部の一部を折り曲げ、重ね代分10を設けておくと、より一層組合せ鋼矢板の製作性が向上し、本発明の趣旨である2枚以上の鋼矢板を最適な方法で一体化できるようにするための工夫として、より好適となる。
折り曲げ方法としては、図3右側の連結部の拡大図に示すように、2枚の鋼矢板を組み合わせた後に、それぞれの連結箇所のフランジ部板厚中心線22が同一となるように折れ曲がり量を調整すれば、それぞれの鋼矢板のフランジ部に発生する曲げ応力による連結部における偏心モーメントの発生を抑えることができ、連結部の荷重負担を軽減できるため、より好ましい構造形態とすることができる。また折れ曲がり部23は緩やかな曲線とすることで、加工負担を軽減できる。当該折れ曲がり部23の加工は圧延によることが好ましいが、プレス成形等により加工しても構わない。
図5は重ね代分10を有する本発明の鋼矢板4aを2枚連結して、一枚の組合せ鋼矢板とした場合の断面図を示す。重ね代分の長さとしては、連結箇所14が断面中立軸ラインとなる直線7を通ることができるようフランジ端部からの距離を調整し、尚且つ溶接にて連結する場合は、フランジ部4a端部におけるすみ肉溶接の脚長分の空間が確保できるようにする。
【0018】
本発明の鋼矢板はその断面形状が左右非対称であるが、例えば特許文献「特許第3458109号」に示されている左右非対称型のハット型鋼矢板が、圧延可能であり既に実用化に至っているように、現状の圧延技術にて製造することへの制約はない。逆に圧延時に最もロール負担が大きく、製作精度を出すために最もロール形状を複雑にしなければならない、嵌合継手部に対して、従来の鋼矢板において2つのうちの片方の継手の圧延が省略できるため、圧延時のロール負担を軽減できるメリットがある。但し、圧延工程をより容易にするために、本発明の鋼矢板1において、両側のフランジ部3と4において、嵌合継手部または連結部を含むそれぞれのフランジ部トータルの断面積が同一になるようにすれば、ロール圧延時での両側のフランジ部圧下に要するパワーを同じにし、両側均等にロールを抑え込めば済むため、よりロール圧下制御作業の軽減につなげることが可能となる。
【0019】
本発明の鋼矢板1が壁体として利用されるとき、連結部12はその中立軸となる直線7付近にあるため、壁体に作用する曲げ荷重に対して有効に抵抗しない。そのため、連結部12付近の断面積が大きくなりその部分での鋼材重量が大きくなり過ぎると、壁体としての構成部材として不経済となってしまう。そこで、上記の圧延時のロールの両側均等な負担率を考慮し、両側のフランジ部の断面積を等しくするようにするときには、図12に示すように、フランジ部4においては、連結部付近のフランジ端部6付近の断面積はなるべく少なくなるようにし、その代わりウェブ部2とフランジ部4が交わる角部19付近のフランジ部24の板厚を大きくすることが好ましい。
【0020】
但し、ロール耐力に対して、圧延時に生じる多少の両側不均衡を許容することができれば、従来のU型形状鋼矢板を圧延するときに使用するロールをほぼそのまま流用することができ、ロール設計が容易となる。このとき、フランジ端部6付近では従来の嵌合継手形状から板状となるため、連結部周辺の断面積を縮小でき、従来のU型鋼矢板を単に2枚嵌合して組合せ鋼矢板とする場合とくらべ、ほぼ同程度の断面耐力を確保しつつ鋼材重量を数%程度減らすことが出来、経済的となる。
【0021】
以上は、本発明の鋼矢板1を2枚組み合わせて1枚の組合せ鋼矢板を製造する場合の最良の形態を示したが、本発明の鋼矢板1を2枚用いるだけでなく、別の部材を本発明の鋼矢板1の2枚の間に挟み、幅広の鋼矢板としてもよい。
【0022】
上記の別の部材の具体例として、図6に示すような、両側のフランジ部4に嵌合継手を有しない左右対称なU型形状の鋼矢板15を用い、図7に示すように、本発明の鋼矢板1を両端に配置し、その中間に2枚の当該U型形状鋼矢板15を設置し、連結部12にて固着するような構造も可能である。このように、本発明の鋼矢板1の中間に任意幅または任意枚数の部材を用いることで、任意幅の幅広サイズの鋼矢板を提供でき、現場での打設回数を減らすことができる。特に壁体として高い剛性を必要する場合は、図14に示すように、中間に、両側のU型形状鋼矢板1のウェブ部ライン27よりもウェブ部ライン28を中立軸7より距離を離した断面高さの高い部材29を配置することもできる。また壁体として構築されたとき、嵌合継手箇所を減らすことが出来るので、止水性が要求される構造物への適用に好適となる。止水性に特化すれば、図15に示すような断面直線状の部材31の両端に連結部となるフランジ部32を有する部材30を用いて、図16に示す組合せ鋼矢板を構築しても構わない。上記いずれの場合においても、組合せ鋼矢板単体全体としての中立軸の位置が、両端の嵌合継手を通るラインと等しくなるように、中間部材の断面形状を設定する。
【実施例】
【0023】
U字状の同一断面を有する従来の鋼矢板及び本発明の鋼矢板をそれぞれ3枚用いて、通常鋼矢板を打設する軸方向において、全長30cmの短い部材を切り出し、実際に組み合わせ鋼矢板を製作し、連結部にせん断変形を与える強度検査を実施した。
従来の組み合わせ鋼矢板においては、真ん中にセットした鋼矢板の両端の嵌合継手部に、別の2枚の鋼矢板を嵌合させ、嵌合部を溶接にて連結した。
本発明の組み合わせ鋼矢板においては、真ん中の鋼矢板は、両フランジ部に嵌合継手部を有しない端部が板状の鋼矢板を用い、両サイドの別の2枚の鋼矢板は、真ん中の鋼矢板と連結する側のフランジ部に嵌合継手部を有しない端部が板状の鋼矢板を用いて、鋼矢板フランジ部板厚7.7mm程度の脚長を有する隅肉溶接にて、真ん中と両サイドの鋼矢板とを連結した。
従来の鋼矢板においては、上記本発明の鋼矢板と同一の溶接量にて嵌合継手部を埋める溶接としている。試験方法としては、3枚ある鋼矢板のうち、両サイドの2枚の鋼矢板を固定し、真ん中の鋼矢板を連結箇所と平行に押し込むことで、連結部にせん断力を与えた。
結果、本発明の鋼矢板においては、通常の隅肉溶接部のせん断強度=(のど厚×溶接長×溶接箇所×許容隅肉せん断応力度)で定まる設計値以上の耐力を確保できることが確認されたが、従来の鋼矢板においては、上記設計値に達する前の7割程度の値で降伏してしまった。
このことから、本発明の鋼矢板が設計上連結部の強度管理ができる構造であることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板を示す断面図である。
【図2】従来のU型鋼矢板を示す断面図である。
【図3】連結部に重なり代分の折り曲げを設けた本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板を示す断面図である。
【図4】本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板を2枚連結した組合せ鋼矢板を示す断面図である。
【図5】連結部に重なり代分の折り曲げを設けた本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板を2枚連結した鋼矢板を示す断面図である。
【図6】組合せ用対称U型鋼矢板を示す断面図である。
【図7】本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板2枚と組合せ用対称U型鋼矢板2枚とを連結した鋼矢板を示す断面図である。
【図8】嵌合継手がないフランジ部長さを短くし、その端部を組合せ鋼矢板としたときの中立軸線位置に設けた場合の鋼矢板を示す断面図である。
【図9】図8の鋼矢板を用いた組合せ鋼矢板を示す断面図である。
【図10】既存の鋼矢板用圧延設備の一実施形態を示す斜視図である。
【図11】図2の従来のU型鋼矢板の一方の継手を切断する場合を示す断面図である。
【図12】本発明の鋼矢板において、両側のフランジ部断面積を同一にするための一実施形態を示す断面図である。
【図13】ボルトにて連結し組合せ鋼矢板を構築する場合を示す断面図である。
【図14】本発明の組合せ鋼矢板の一例を示す断面図である。
【図15】本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板2枚の間に挟む部材の一例を示す断面図である。
【図16】本発明の組合せ鋼矢板の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板
1a 両側のフランジ部の断面積を等しくした場合の本発明の鋼矢板の一実施形態を示す断面図である。
2 ウェブ部
3 嵌合用継手部を有するフランジ部
4 嵌合用継手部がないフランジ部
4a 連結部に重なり代分を有するフランジ部
5 嵌合用継手部
5a 切断する嵌合用継手部
6 嵌合用継手部がないフランジ端部
7 嵌合継手を有するフランジ部の嵌合継手中心部を通りウェブ部と平行する直線
8 従来のU型鋼矢板
9 連結部に重なり代分の折り曲げを設けた本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板
9a 連結部に重なり代分の折り曲げを設けた本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板
9b 連結部に重なり代分の折り曲げを設けた本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板
10 連結部の重なり代分
11 本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板を2枚連結した組合せ鋼矢板
12 連結部
13 連結部に重なり代分の折り曲げを設けた本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板を2枚連結した鋼矢板
14 重なり代分を有する連結部
15 組合せ用対称U型鋼矢板
16 本発明の組合せ用非対称U型鋼矢板2枚と組合せ用対称U型鋼矢板2枚とを連結した鋼矢板
17 嵌合継手中心部
18 圧延ロール
19 ウェブ部とフランジ部が交わる角部
20 嵌合用継手部がないフランジ部の屈曲部
21 継手切断ライン
22 連結部フランジ部の板厚中心線
23 連結部の重なり代分折れ曲がり部
24 ウェブ部とフランジ部が交わる角部付近のフランジ部
25 ボルト
26 ナット
27 本発明のU型形状鋼矢板のウェブ部ライン
28 断面高さの高い組合せ用対称U型鋼矢板のウェブ部ライン
29 断面高さの高い組合せ用対称U型鋼矢板
30 組合せ用部材の一例
31 組合せ用部材の断面直線部
32 組合せ用部材のフランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ部とその両端に配置されるフランジ部を有するU型鋼矢板であって、一方のフランジ部のみに他の鋼矢板と連結するための嵌合用継手を有し、他方のフランジ部には嵌合用継手を有せず、且つ、前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部が、ウェブ部とフランジ部が交わる角部から、前記の嵌合継手を有するフランジ部の嵌合継手中心部を通りウェブ部と平行する直線上に配置され、又は当該直線を跨いで配置されることを特徴とする鋼矢板。
【請求項2】
前記フランジ部には前記鋼矢板を重ねた際に取り外しを容易とする屈曲部を有し、前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部の前記ウェブ部と平行する直線からの突出長さは、前記屈曲部から、前記ウェブ部と平行する直線までの長さ以下とすることを特徴とする請求項1記載の鋼矢板。
【請求項3】
前記嵌合用継手を有しないフランジ部の端部は、前記鋼矢板を2枚連結する際に、前記嵌合用継手を有さないフランジ部の端部同士を溶接またはボルトにて固着するための位置決め用の折り曲げ部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の鋼矢板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼矢板を、圧延にて製造することを特徴とする鋼矢板の製造方法。
【請求項5】
前記両方のフランジ部においてロールに対する圧下負担が等しくなるように、継手部を含む両方のフランジ部断面積を等しくすることを特徴とする請求項4記載の鋼矢板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼矢板を2枚連結した組合せ鋼矢板であって、前記嵌合用継手を有しないフランジ部同士が重ねられ、又は前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部同士が接触され、前記嵌合用継手があるフランジ部側が両端になり、且つ、前記2枚の鋼矢板それぞれのウェブ部が前記両端に位置する嵌合用継手同士を結ぶ直線に対して互いに反対側に配置されると共に、前記直線と前記2枚の鋼矢板のウェブ部とが平行になるように配置され、前記嵌合用継手を有しないフランジ部同士が溶接またはボルトにて連結されることを特徴とする組合せ鋼矢板。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼矢板2枚を両端に配置すると共に、前記嵌合用継手があるフランジ部側が両端部になり、且つ、前記2枚の鋼矢板それぞれのウェブ部が平行になるように配置した組合せ鋼矢板であって、前記両端2枚の鋼矢板の間に、両側のフランジ部に嵌合用継手を有しない鋼矢板を1枚または複数枚配置して、前記各鋼矢板の嵌合用継手がないフランジ部同士を溶接またはボルトにて連結したことを特徴とする組合せ鋼矢板。
【請求項8】
前記鋼矢板の中立軸が、前記両端部の嵌合用継手同士を結ぶ直線と重なることを特徴とする請求項7記載の組合せ鋼矢板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−121279(P2008−121279A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306106(P2006−306106)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】