説明

鋼管柱基部接合方法

【課題】板厚差の大きな鋼管柱とベースプレートとのリブなしの溶接接合部を得るに際して、完全溶け込み溶接を安定して実現可能な鋼管柱基部接合方法を提供する。
【解決手段】鋼管柱11の下端外面に開先を形成し、ベースプレート12に鋼管柱の内径と同径の穴12aをあけ、鋼管柱11を、管軸方向から見てその内面が前記ベースプレート穴12aの内面と一致するようにベースプレート12に垂直に当て、鋼管柱内面に嵌合可能な外径を持ち外面に周溝13aを形成した、溶接後に取り外し可能な筒状の裏当て材13を、前記周溝13aが鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るようにして鋼管柱内面及び穴内面に当て、鋼管下端外面側から鋼管柱とベースプレートとを前記裏当て材の周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合し、次いで裏当て材を取り外す。完全溶け込み溶接を安定して実現可能であり、かつ、それを目視で確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、板厚差の大きな鋼管柱とベースプレートとのリブなしの溶接接合部を得るに際して、鋼管柱の下端部をベースプレートに溶接固定する鋼管柱基部接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に設置される照明灯や標識や信号などの主柱には一般に鋼管が使用されているが、この鋼管柱を設置する場合、鋼管柱の下端にベースプレートを溶接固定し、このベースプレートをアンカーボルトで基礎に固定するベースプレート露出型の構造が一般的である。
この場合、柱基部接合部は、鋼管柱をベースプレートに隅肉溶接をし、リブ等で補剛する柱基部接合構造が一般的であった。リブは概ね三角形で、ベースプレート上に垂直に立てかつ鋼管柱の外周面に当て、溶接固定される。
【0003】
リブを持つ柱基部接合構造では、リブが突出しているので歩行の妨げになる等の問題があり、最近のユニバーサルデザイン化の要求から、露出型でリブのない柱基部接合構造が採用されるようになっている。
この種の構造では、図12に示すように、鋼管柱1をベースプレート2にあけた穴2a内に差し込み 鋼管柱1の下端とベースプレート2の穴2aの上縁との2箇所による上下2段隅肉溶接で接合する方法が一般的である。隅肉溶接部を3で示す。この溶接方法では完全溶け込み溶接にはならない。
【0004】
特許文献1における柱基部接合方法も図12と概ね同様な方法であると言える。但し、特許文献1では、管の外周のみの隅肉溶接である点では異なる(「溶接は、管本体の外周に沿って偏在なく行われる」(段落番号[0011])との記載あり)。なお、特許文献1の発明は、溶接部にではなく、ベースプレート2の本体部の肉厚を座ぐり部の肉厚より大とした点に特徴を持つ。
【0005】
また、鋼管柱の下端外周面側に開先を形成し、ベースプレートに載せて溶接接合する裏当て材なしの開先付き溶接方法もある。
しかし、例えば照明柱の場合、一般に鋼管柱とベースプレートとの板厚差が大きいので、比較的大きな電流、電圧にて入熱量を上げて溶接するが、このため、完全に溶け込み溶接をを目指した場合、予め鋼製の裏当て材を接合部に直接設置する必要がある。
すなわち、図13に示すように、鋼管柱5の下端外周面側に開先を形成し、鋼管柱5の下端部あるいはベースプレート6に裏当て金7を先付けした状態で溶接接合する(特許文献2)。溶接部を8で示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−343119
【特許文献2】特開2000−008494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図12あるいは特許文献1のような隅肉溶接による柱基部接合方法では、非破壊による内部欠陥の検査ができない点で、溶接品質の管理上の問題がある。また、溶接強度を確保するために2段溶接(2箇所においてそれぞれ1周で2週分)する必要があり、作業能率が悪くコスト高となるという問題もある。
【0008】
前述の裏当て材なしの開先付き溶接方法では、非破壊による内部欠陥の検査が可能である。しかし、鋼管柱とベースプレートとの板厚差が大きい場合、良好な溶接部を得ることが困難である。
一方、図13のように裏当て材を用いる柱基部接合方法では、鋼管柱とベースプレートとの板厚差が大きい場合でも一応完全溶け込み溶接が可能であるが、良好な溶接部が得られる溶接条件が厳しいという問題がある。また、常に完全溶け込み溶接が行われるとも限らず、厳格な欠陥検査が不要となるような完全溶け込み溶接が安定して得られることが望まれる。
また、裏当て材があると 溶接部の裏波が目視で確認出来ないので、目視のみでの品質管理ができないという問題もある。
【0009】
本発明は上記従来の欠点を解消するためになされたもので、板厚差の大きな鋼管柱とベースプレートとのリブなしの溶接接合部を得るに際して、完全溶け込み溶接を安定して実現可能であり、かつ、それを目視で確認することができ、また作業能率が良好な鋼管柱基部接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1の発明は、板厚差の大きな鋼管柱とベースプレートとのリブなしの溶接接合部を得るに際して、鋼管柱の下端部をベースプレートに溶接固定する鋼管柱基部接合方法であって、
鋼管柱の下端外面に開先を形成し、ベースプレートに鋼管柱の内径と同径の穴をあけ、鋼管柱を、管軸方向から見てその内面が前記ベースプレート穴内面と一致するようにベースプレートに垂直に当て、鋼管柱内面に嵌合可能な外径を持ち外面に周溝を形成した、溶接後に取り外し可能な筒状の裏当て材を、前記周溝が鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るようにして鋼管柱内面及び穴内面に当て、鋼管下端外面側から鋼管柱とベースプレートとを前記裏当て材の周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合し、次いで裏当て材を取り外すことを特徴とする。
【0011】
請求項2は、請求項1の鋼管柱基部接合方法において、裏当て材が銅板又はセラミックからなることを特徴とする。
【0012】
請求項3は、請求項1又は2の鋼管柱基部接合方法において、ベースプレートに鋼管柱を仮付けし、ベースプレートの穴内に配した裏当て材固定治具を用いて裏当て材を、その周溝が鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るようにして鋼管柱内面及び穴内面に当て、ベースプレートを支持して回転させるベースプレート支持回転駆動部を持つ溶接機における前記ベースプレート支持回転駆動部に前記ベースプレートを固定し、鋼管下端外面の開先に溶接トーチを向け、ベースプレートを鋼管柱と一体に回転させつつ鋼管柱とベースプレートとを前記裏当て材の周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合し、次いで裏当て材を取り外すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼管柱の下端外面に開先を設け裏当て金を用いてベースプレートに溶接するので、そして、裏当て金が鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るように配置される周溝を持ち、この周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合されるので、溶接接合した後、裏波ビードを目視で確認して、完全溶け込み溶接がされていると確認することができる。なお、本願出願人の試験結果によれば、裏波ビードが確認されれば、完全溶け込み溶接がされたと概ね判断できる。
また、均一な裏波ビードを得ることが容易であり、一定の溶接品質を得ることが容易になる。
また、板厚の薄い鋼管柱と板厚の厚いベースプレートとの板厚差が大きい溶接では、良好な溶接部を得るための適切な溶接条件を設定することが難しいが、裏波ビードが周溝内に張り出すような溶接接合が行われる溶接条件を設定することで、完全溶け込み溶接が行われる条件を設定することが可能であり、完全溶け込み溶接を安定して実現することが可能となる。
また、従来の上下2段の隅肉溶接をする方法と異なり、1段のみで済むので、溶接作業の作業能率は良好である。
また、裏当て材は取り外し可能なので、再使用することができ、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の鋼管柱基部接合方法により鋼管柱をベースプレートに溶接固定する際の状態を説明する図で、(イ)は鋼管柱を断面で示した平面図((ロ)のB−B断面図に相当)、(ロ)は(イ)のA−A断面図である。
【図2】図1(ロ)の一部切り欠き要部拡大図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】(イ)は図1(イ)における裏当て材のみを拡大して示した図、(ロ)は(イ)の要部拡大図である。
【図5】鋼管柱とベースプレートとを図1の状態で溶接機のベースプレート支持回転駆動部に固定し、溶接する状況を説明する図である。
【図6】鋼管柱とベースプレートとが溶接接合された状態を示した断面図である。
【図7】鋼管柱とベースプレートとの溶接部を切断して撮影したマクロ断面写真であり、(イ)は隆起した裏波ビードが明確に得られた場合のもの、(ロ)は隆起した裏波ビードが得られなかった場合のものである。
【図8】図1(イ)における裏当て材及び裏当て材固定治具のみを示した拡大図である。
【図9】図8における裏当て材固定治具のみを示した図である。
【図10】(イ)は図9における4つのセグメント部材を示した図で、(ロ)は1つのセグメント部材を示したもので(イ)のC矢視図ある。
【図11】図9におけるセグメント支持部材を示した図で、(イ)は平面図、(ロ)は(イ)のD矢視図である。
【図12】従来の鋼管柱基部接合方法を示すもので、鋼管柱をベースプレートに溶接固定して基礎に設置した状態の一部切欠要部正面図である。
【図13】従来の他の鋼管柱基部接合方法を示すもので、ベースプレートに溶接固定した鋼管柱の下端部近傍の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の鋼管柱基部接合方法の実施例を、図1〜図11を参照して説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の一実施例の鋼管柱基部接合方法により鋼管柱をベースプレートに溶接固定する際の状態を説明する図で、(イ)は鋼管柱を断面で示した平面図((ロ)のB−B断面図に相当)、(ロ)は(イ)のA−A断面図である。図2は図1(ロ)の一部切欠き要部拡大図、図3は図2の要部拡大図である。
これらの図において、11は鋼管柱、12はベースプレート、13は裏当て材、14は裏当て材固定治具である。
後述する溶接試験に用いた鋼管柱11の板厚は4.2mm、ベースプレート12の板厚Tは19〜40mmであるが、本発明はこのように板厚差の大きな鋼管柱とベースプレートとのリブなしの溶接接合部を得るに際して、鋼管柱11の下端部をベースプレート12に溶接固定する鋼管柱基部接合方法であり、以下のようにして鋼管柱11をベースプレート12に溶接固定する。
鋼管柱11の下端外面に例えば45°のレ開先11aを形成し、ベースプレート12に鋼管柱11の内径と同径の穴12aをあける。
鋼管柱11の下端を、管軸方向から見てその内面が前記ベースプレート穴12aの内面と一致するようにしてベースプレート12に当てる。実施例ではルートギャップなしである。
【0017】
裏当て材13は、鋼管柱11の内面に嵌合可能な外径を持ち外面に周溝13aを形成した円筒状をなし、溶接後に取り外し可能なものである。裏当て材13は、融点が高くかつ熱伝導率の高い材質のものがよい。実施例では銅板からなる。また、セラミックを用いることもできる。裏当て材が「溶接後に取り外し可能」とは、溶接時に溶融して溶接金属部と一体に凝固することのない材質、ないし条件を満たすことを指す。
実施例の裏当て材13は、図4に示すように、両端部を互いに逆のテーパ状に尖らせた帯状の銅板を湾曲させてリング状にし、前記テーパ状の両端部13bをラップさせたものである。ラップさせた両端部13bは互いにスライド可能であり、リング状の裏当て材13の径を弾性的に拡径できる。拡径していない状態では、図4(ロ)に拡大して示すように両端部13bのテーパ面Sの全体が互いに接触しており、この時のラップ部の厚みは銅板の板厚に等しい。拡径して両端部13bを互いに離れるようにスライドさせるとラップ部の厚みは僅かに薄くなるが、僅かなので特に問題はない。
【0018】
この裏当て材13を、図3にも拡大して示すように、前記周溝13aが鋼管柱11の内面とベースプレート穴12aの内面との境界Pを跨るようにして、鋼管柱11の内面及び穴12aの内面に当て、固定する。裏当て材13を固定する裏当て材固定治具14の詳細構造、及びこれを用いて裏当て材13を固定する具体的な要領は後述する。
【0019】
上記のように鋼管柱11とベースプレート12との位置決めをし、かつ裏当て材13を内面にセットした状態で、図5に示すように、鋼管柱11の下端外面の開先に溶接トーチ32を向け、ベースプレート12を鋼管柱11と一体に回転させて、鋼管柱11とベースプレート12とを全周に亘って溶接接合する。この場合、裏当て材13の周溝13a内に裏波ビードが張り出すような溶接条件に設定した上で、溶接接合する。
溶接完了後、裏当て材13を取り外す。
これにより、図6に模式的に示したように、裏波ビード15aが明確に出た断面の溶接部(溶接金属部を15で示す)を得ることが可能である(なお、図6は後述の図7Aのマクロ断面写真に概ね相当する)。
【0020】
上述のようにして鋼管柱11をベースプレート12に溶接接合する場合に、良好な溶接部が得られる溶接部条件を選定するために行った試験について説明する。
供試体は表1に示す通りであり、鋼管柱11のサイズは、φ177.8×4.2mm、ベースプレート12は350×350×T(板厚T=19、25、36、40)mm、ベースプレート穴径は169.4(+0、−1.5mm)である。供試体の数はNo.1〜No.4の4種類・各4個の16個である。溶接資材は表1に示した通りである。
裏当て材13は、図4に示した銅板リング状のもので、図3において、幅W=30mm、板厚5mm、周溝13aの幅w=15mm、深さ1mmである。なお、裏当て材の周溝は幅は10〜20mmが適切と思われるが、必ずしもそのサイズでなくてもよい。
そして、4種類16個の供試体について、「電流A、電圧V、周波数Hz、速度mm/sec」の各溶接条件の組み合わせを種々変えて溶接を行った。
溶接条件「電流A、電圧V、周波数Hz、速度mm/sec」の組み合わせは、
「260A-35V-32Hz-650mm/sec」
「270A-30V-20Hz-400mm/sec」
「270A-35V-32Hz-650mm/sec」
「280A-34V-35Hz-700mm/sec」
「280A-36V-32Hz-650mm/sec」
「280A-34V-35Hz-800mm/sec」
「290A-34V-40Hz-800mm/sec」
「290A-36V-40Hz-800mm/sec」
「290A-38V-40Hz-800mm/sec」
で行った。
溶接完了後、外部欠陥検査と内部欠陥検査(超音波探傷試験、マクロ組織試験)を実施して溶接部の状況を確認した。外部欠陥検査ではアンダーカット、オーバーラップ、ピット、表面割れ、溶接止端形状などの溶接外観検査をし、特に裏波ビードの状況を確認した。
超音波探傷試験では、溶接部の全周について行い、欠陥の有無、欠陥の大きさ及び位置(360°周方向の位置)を調べた。また、超音波探傷試験の後、各供試体のそれぞれについて溶接ビードの周方向の2〜5箇所のマクロ断面写真を撮った。断面を調べた箇所は、裏波ビードが明確に出た箇所、及び出なかった箇所を適宜取り上げた。
【表1】

【0021】
図7A、図7Bに上記の溶接試験における溶接ビードのマクロ断面写真の一部を示す。
図7Aは隆起した裏波ビードが明確に得られた箇所(周方向の位置)のもの、図7Bは隆起した裏波ビードが得られなかった場合のものである。
外観検査で隆起した裏波ビードが明確に得られた箇所では、超音波探傷試験によってその箇所に傷は検出されず、また、断面を調べた結果、図7Aのマクロ断面写真のように完全溶け込み溶接が行われていた(鋼管柱とベースプレートとの間に未溶着部分はほとんどなかった)。
一方、裏波ビードの出なかった箇所(周方向の位置)では、超音波探傷試験でその箇所に傷が検出された場合と、されなかった場合とがあった。そして、裏波ビードの出なかった箇所について断面を調べた結果では、図7Bのマクロ断面写真のように溶け込み不足で未溶着部分がある場合と、未溶着部分のない完全溶け込み溶接となっていた場合とがあった。
なお、裏波ビードが出ない箇所(周方向位置)があった原因としては、溶接条件が適切でなかったと考えられる場合とともに、鋼管柱芯ズレが生じた場合など別の要因もあった。
以上のことから、隆起した裏波ビードが全周に亘って明確に確認できた場合には、全周について完全溶け込み溶接が行われたと判断することも可能と思われる。
なお、さらなる多数の溶接試験の結果によっては、「裏波を確認できた時は溶接品質は合格である」との検査基準とされることも考えられる。その場合には、超音波探傷試験等の内部欠陥検査を省略することが可能になる。
なお、上記16個の供試体による溶接実験では、供試体の数が十分でないので、完全溶け込み溶接と溶接条件との明確かつ規則的な関係は得られなかったが、例えば、ベースプレート板厚19mmでは「280A-36V-32Hz-650mm/sec」の溶接条件では概ね完全溶け込み溶接が行われた。ベースプレート12板厚25mm、36mmでは「280A-34V-35Hz-700mm/sec」の溶接条件で概ね完全溶け込み溶接が行われた。ベースプレート12板厚40mmでは「280A-34V-35Hz-800mm/sec」、及び「290A-38V-40Hz-800mm/sec」の溶接条件で概ね完全溶け込み溶接が行われた。
【0022】
裏当て材13を固定するために用いた実施例の裏当て材固定治具14の詳細構造を図5、図8〜図11を参照して説明する。
図8は図1(イ)における裏当て材13及び裏当て材固定治具14のみを示した拡大図、図9は 図8における裏当て材固定治具14のみを示した図である。
この裏当て材固定治具14は、4つのセグメント部材21と、この4つのセグメント部材21を支持するセグメント支持部材22とからなる。
各セグメント部材21は、図10にも示すように、扇形板部23と、その外側円弧部から立ち上がった円弧状側壁部24と、ボルト挿通穴25aを有し前記扇形板部23に垂直に固定された支持板部25とからなる。
前記セグメント支持部材22は、図11にも示すように、板状リング27と、この板状リング27の直角二方向にあけた穴27aに合わせて溶接固定したナット28と、このナット28に螺合させた裏当て材拡径ボルト29とからなる。
【0023】
上記の裏当て材固定治具14を用いて、鋼管柱11の基部をベースプレート12に溶接接合する具体的要領を説明する。
まず、ベースプレート12の穴12aに、裏当て材13を固定すべき位置をマーキングする。
そのマーキングに合わせて裏当て材13をベースプレート穴12a内に配置し、裏当て材13の内側に配置した裏当て材固定治具14でベースプレート穴12a内面に固定する。その際、裏当て材固定治具14のセグメント支持部材22の裏当て材拡径ボルト29を回して、4つのセグメント部材21の円弧状側壁部24をそれぞれ半径方向外方に押し出して、各円弧状側壁部24を介して裏当て材13を拡径し、ベースプレート12の穴12aの内面に押し当て固定する。
次いで、図5に模式的に示したベースプレート支持回転駆動部31を持つ自動溶接機における前記ベースプレート支持回転駆動部31にベースプレート12をその穴芯を水平にして固定する。31aはベースプレート12を支持する円板状の支持部、31bは支持部31aを回転駆動する駆動部を示す。
次いで、鋼管柱11の下端部を、裏当て材固定治具14でベースプレート12の穴12a内に固定された裏当て材13の外周に被せるようにして、ベースプレート12に突き当て、鋼管柱11が正確に水平になっていることを確認して、例えば周方向の3箇所でベースプレート12に仮付けする。実施例ではルートギャップ無しとしているので、鋼管柱11のベースプレート12に対するセットが容易である。
この状態では、図2、図3、図5などに示すように、裏当て材13は、その周溝13aが鋼管柱11の内面とベースプレート穴12aの内面との境界Pを跨るようにして、鋼管柱11の内面及び穴12aの内面に当たっている。
【0024】
上記のように鋼管柱11とベースプレート12との位置決めをし、かつ裏当て材13を内面にセットした状態で、図5に示すように、鋼管柱11の下端外面の開先に溶接トーチ32を向け(トーチ角度は40°又は45°など)、ベースプレート12を鋼管柱11と一体に回転させながら、鋼管柱11とベースプレート12とを全周に亘って溶接接合する。この場合、裏当て材13の周溝13a内に裏波ビードが張り出すような溶接条件に設定した上で、溶接接合する。
溶接完了後、ベースプレート12をベースプレート支持回転駆動部31の支持部31aから取り外し、次いで、裏当て材固定治具14のボルト29を緩めて、裏当て材13を裏当て材固定治具14とともに取り外す。
次いで、裏波ビードが内面に適切な状態で張り出していることを確認する。これにより、完全溶け込み溶接がされた溶接接合部を得ることができる。
なお、裏波ビードを確認し溶接不良がないことを確認した後は、裏波ビードを削って鋼管柱内面と面一にしてもよい。
【0025】
上記の鋼管柱基部接合方法によれば、周溝13aを持つ裏当て材13を、その周溝13aが鋼管柱11の内面とベースプレート12の穴12aの内面との境界Pを跨るようにしてセットして溶接するので、上述の通り、溶接接合した後、裏波ビードを目視で確認して、完全溶け込み溶接がされていると確認することができる。
板厚の薄い鋼管柱11と板厚の厚いベースプレート12との板厚差が大きい溶接では、良好な溶接部を得るための適切な溶接条件を設定することが難しいが、裏波ビードが裏当て材13の周溝13a内に張り出すような溶接接合が行われる溶接条件を設定することで、完全溶け込み溶接が行われる条件を設定することが可能であり、完全溶け込み溶接を安定して実現することが可能となる。
また、均一な裏波ビードを得ることが容易であり、一定の溶接品質を得ることが容易になる。
また、従来の上下2段の隅肉溶接をする方法と異なり、1段のみで済むので、溶接作業の作業能率は良好である。
また、裏当て材13は取り外し可能なので、再使用することができ、経済的である。
また、鋼管柱11の内面とベースプレート12の穴12aの内面とが面一なので、図13に示した従来の鋼管柱基部接合方法と比べて、鋼管柱内に多くの電線等を通すことができる。
【実施例2】
【0026】
実施例では裏当て材として銅板を用いたが、セラミックを用いることができる。セラミック製の場合、鋼管柱の内面に沿わせるために、複数に分割してセグメント状のものを用いるとよい。
裏当て材13のサイズ(幅W、板厚)は、試験例に用いたサイズに限らず、鋼管柱及びベースプレートのサイズに応じて、あるいはその他の条件に応じて、適宜変更するとよい。
裏当て材13の周溝13aの幅wは、試験例の鋼管柱及びベースプレートのサイズの場合は10〜20mmが適切である。また、周溝13aの深さhは、鋼管柱及びベースプレートのサイズによっては0.5〜5mmの範囲が適切となることも考えられる。
【0027】
実施例では、裏当て材固定治具14で裏当て材13をベースプレート穴12aの内面に押し当てることで、裏当て材固定治具14を裏当て材13とともにベースプレート12側に固定しているが、逆に、裏当て材固定治具で裏当て材13を鋼管柱11の内面に押し当てることで、裏当て材固定治具を裏当て材13とともに鋼管柱11側に固定することも可能である。また、溶接機側に固定した裏当て材固定治具で裏当て材13をセットすることも可能である。
また、裏当て材固定治具の構造は、実施例のものに限定されず、種々の構造のものを用いることができる。
【0028】
実施例では、ベースプレート12を回転駆動して溶接しているが、鋼管柱11側を回転駆動して溶接することも可能である。
実施例では溶接法としてMAG溶接を採用したが、その他のアーク溶接法を採用してもよい。また、使用する溶接機は半自動又は自動溶接機が好適であるが、必ずしもこれに限定されない。
本発明では、板厚の薄い鋼管柱と板厚の厚いベースプレートとの板厚差大なる溶接接合に適用されるが、例えば鋼管柱の板厚が4.2〜12mm、ベースプレートの板厚が16〜52mmなどで、板厚比としてはベースプレートの板厚が鋼管柱の板厚の3〜12倍程度のものに適用して好適である。
鋼管柱の具体的例としては、主として照明灯や標識や信号などの主柱であるが、本発明はベースプレート露出型でリブなしの種々の鋼管柱基部接合構造に適用できる。
【符号の説明】
【0029】
11 鋼管柱
12 ベースプレート
12a 穴(ベースプレート穴)
13 裏当て材
13a 周溝
13b 両端部
14 裏当て材固定治具
15 溶接部(溶接金属部)
15a 裏波ビード
21 セグメント部材
22 セグメント支持部材
23 扇形板部
24 円弧状側壁部
25 支持板部
25a ボルト挿通穴
27 板状リング
27a 穴
28 ナット
29 裏当て材拡径ボルト
31 (溶接機の)ベースプレート支持回転駆動部
31a 支持部
31b 回転駆動部
32 溶接トーチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚差の大きな鋼管柱とベースプレートとのリブなしの溶接接合部を得るに際して、 鋼管柱の下端部をベースプレートに溶接固定する鋼管柱基部接合方法であって、
鋼管柱の下端外面に開先を形成し、ベースプレートに鋼管柱の内径と同径の穴をあけ、鋼管柱を、管軸方向から見てその内面が前記ベースプレート穴内面と一致するようにベースプレートに垂直に当て、鋼管柱内面に嵌合可能な外径を持ち外面に周溝を形成した、溶接後に取り外し可能な筒状の裏当て材を、前記周溝が鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るようにして鋼管柱内面及び穴内面に当て、鋼管下端外面側から鋼管柱とベースプレートとを前記裏当て材の周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合し、次いで裏当て材を取り外すことを特徴とする鋼管柱基部接合方法。
【請求項2】
前記裏当て材が銅板又はセラミックからなることを特徴とする請求項1記載の鋼管柱基部接合方法。
【請求項3】
ベースプレートに鋼管柱を仮付けし、ベースプレートの穴内に配した裏当て材固定治具を用いて裏当て材を、その周溝が鋼管柱内面とベースプレート穴内面との境界を跨るようにして鋼管柱内面及び穴内面に当て、ベースプレートを支持して回転させるベースプレート支持回転駆動部を持つ溶接機における前記ベースプレート支持回転駆動部に前記ベースプレートを固定し、鋼管下端外面の開先に溶接トーチを向け、ベースプレートを鋼管柱と一体に回転させつつ鋼管柱とベースプレートとを前記裏当て材の周溝内に裏波ビードが張り出すように溶接接合し、次いで裏当て材を取り外すことを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管柱基部接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80324(P2011−80324A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235415(P2009−235415)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】