説明

鋼管矢板構造物およびその施工方法

【課題】継手空間の洗浄およびモルタルやコンクリートの充填が容易かつ確実に行えるとともに、鋼管矢板の製造の効率を向上でき、施工効率が良好にできる鋼管矢板構造物およびその施工方法を提供すること。
【解決手段】隣り合う鋼管矢板2の継手5,6同士を嵌合させつつ地盤に貫入した複数の鋼管矢板2を備えて構成される鋼管矢板構造物において、一方の雌鋼管矢板2Aには、雌型継手5のみが2箇所に設けられ、他方の雄鋼管矢板2Bには、雄型継手6のみが2箇所に設けられ、雌鋼管矢板2Aおよび雄鋼管矢板2Bがそれぞれ対称な形状をしていることから、継手を溶接する際に生じる鋼管矢板本管4の変形が対称になり、鋼管矢板本管4を矯正する際の矯正装置が簡単になり矯正手順も容易にできることから、鋼管矢板2の製造効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管矢板構造物およびその施工方法に係り、詳しくは、互いに隣り合って打設される一対の鋼管矢板本管における一方の雌型継手と他方の雄型継手との嵌合によって当該鋼管矢板本管同士を連結して構成される鋼管矢板構造物、および当該鋼管矢板構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管矢板の継手構造として、隣り合う鋼管矢板の各々にスリットを有する円形継手鋼管を固定しておき、これらの継手鋼管同士を嵌合させつつ鋼管矢板を地中に連続して建て込み、継手鋼管内の土砂を掘削、洗浄した後に、継手鋼管内にモルタルを充填して鋼管矢板同士を連結する継手構造が一般的に利用されている。このような継手構造は、継手鋼管(P:パイプ)同士を互いに嵌合することからP(パイプ)−P(パイプ)継手(P−P継手)と呼称されている。
また、P−P継手の他に鋼管矢板の継手構造としては、軸方向にスリットを有する継手鋼管とT形鋼からなるT型の雄継手とを互いに嵌合させて鋼管矢板を連結するP−T継手や、間隔をおいて平行に内向きに設置される一対のL形鋼による雌継手と、1つのT形鋼からなる雄継手とを互いに嵌合させて鋼管矢板を連結するL−T継手などが用いられることもある。
【0003】
以上のような従来の継手構造では、以下のような不都合があった。
先ず、P−P継手の場合には、継手相互が嵌合した状態の嵌合継手部に3つの空間が形成されるために、継手嵌合後に狭隘な継手部の各空間で土砂掘削や洗浄、モルタル充填等の各作業を行う必要がある。このことから、継手部の確実な洗浄および密実にモルタル充填を行うことが困難であり、品質が不安定になる可能性があることから、モルタルの付着強度が十分に確保されず、継手部のせん断耐力が確実に発揮できない可能性がある。
また、P−T継手やL−T継手においても、P−P継手の場合と同様に、継手嵌合空間が狭隘であるために、継手部の確実な洗浄および密実なモルタルの充填を行うことは困難であり、品質が不安定になる恐れがあるため、継手部のせん断耐力が確実に発揮できない可能性がある。さらに、P−T継手やL−T継手では、地震や土圧、水圧などにより鋼管矢板に水平力が作用した際に、鋼管矢板間に生じるせん断力が継手部に伝わり継手同士が相対的にずれることで、モルタルと継手との間で相対変位が生じてモルタルが膨張することにより、継手鋼管やL形鋼からなる雌継手が開く方向に変形することから、継手部の継手鋼管やT形鋼とモルタルとの付着力が低減し、継手部のせん断耐力がさらに低下してしまうという不都合も発生する。
【0004】
以上のような従来の継手構造の不都合を解消し、継手部の土砂の掘削、洗浄およびモルタル充填に関する作業性を良好にする継手構造として、一対のL型鋼材のアーム部を内向きに配置した雌型継手と、一対のL型鋼材のアーム部を外向きに配置した雄型継手とを互いに嵌合させるL−L継手が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1に記載のL−L継手では、雌型継手と雄型継手における各L型鋼材で挟まれる本管外周面に、複数本の突起付き棒状鋼材を所定間隔で固定することで、モルタルとの付着強度を確実に発揮させることができるようになっている。そして、嵌合継手内の土砂掘削洗浄およびモルタル等のセメント系常温硬化性材料(充填材)の充填作業に十分な空間を有しているために、嵌合継手内の土砂の掘削を確実に行うことができ、かつ嵌合継手内の洗浄を確実に行うことができ、さらに嵌合継手内への充填材の充填を密実に行うことができる。従って、特許文献1に記載の継手構造では、施工性が飛躍的に向上し、かつ安定した品質になるとともに、鋼管矢板本管の外周面の棒状鋼材により充填材との付着を確実にし、継手部のせん断耐力を向上させることができることから、基礎全体の安定性を向上させることにより鋼管本数の低減や鋼管板厚の減少など建設コストの削減および施工期間の短縮が実現できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−282174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1記載のような継手構造では、L−L継手の製造工程において鋼管矢板本管に継手を取り付ける際、本管の長手方向に沿ってL型鋼材を溶接していくことから、溶接時の熱の影響で本管が正円から例えば菱形状に変形することがある。さらに、L−L継手は、鋼管矢板本管に雄型継手と雌型継手とが互いに非対称な位置に溶接固定されていることから、本管4が非対称な断面形状に変形する可能性が高く、ジャッキ等を用いて内側から均等に力を加えて正円に矯正する際に、高度な矯正手順や大掛かりな矯正装置が必要となってしまい、鋼管矢板の製造効率低下の原因となってしまう。
さらに、鋼管矢板の施工において当該鋼管矢板を地中に建て込む際には、L型鋼材に囲まれ(挟まれ)拘束された部分の土圧が上昇することによって雌型継手と雄型継手とは、各々のL型鋼材が互いに離れる外側に開くように変形することがある。このように雄型継手の各L型鋼材が外側に開いて変形した場合、後から雌型継手を嵌合させつつ他の鋼管矢板を打設した場合、変形した雄型継手に変形していない雌型継手を嵌合させるため、互いのL型鋼材同士が競ってしまい、大きな打設抵抗を受けることなり施工手間が増大するとともに、施工コストも増大する可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、継手空間の洗浄およびモルタルやコンクリートの充填が容易かつ確実に行えるとともに、鋼管矢板の製造効率が向上でき、かつ施工効率が良好にできる鋼管矢板構造物およびその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鋼管矢板構造物は、隣り合う鋼管矢板の継手同士を嵌合させつつ地盤に貫入した複数の鋼管矢板を備えて構成される鋼管矢板構造物であって、隣り合う一対の鋼管矢板のうち一方の鋼管矢板は、鋼管矢板本管と、この鋼管矢板本管の外面2箇所に設けられる雌型継手とを有する雌鋼管矢板であり、前記雌型継手は、前記鋼管矢板本管の外面に脚部が固定されるとともに、当該脚部の先端から折れ曲がるアーム部同士が互いに近づく内向きに配置される一対の雌L型鋼材を備えて構成され、隣り合う他方の鋼管矢板は、鋼管矢板本管と、この鋼管矢板本管の外面2箇所に設けられる雄型継手とを有する雄鋼管矢板であり、前記雄型継手は、前記鋼管矢板本管の外面に脚部が固定されるとともに、当該脚部の先端から折れ曲がるアーム部同士が互いに離れる外向きに配置された一対の雄L型鋼材を備えて構成され、前記雌鋼管矢板と前記雄鋼管矢板とが前記雌型継手と前記雄型継手との嵌合により連結されていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、一つの鋼管矢板本管の外周に設けられる2箇所の継手は、雄型継手あるいは雌型継手のどちらか一方のみであり、このような継手を含んだ鋼管矢板がその中心に対して対称な形状に形成されることから、継手を溶接する際に生じる鋼管矢板本管の変形が略対称に生じることとなる。このように対称な変形が生じることから、溶接後に鋼管矢板本管を元の正円に矯正する際、ジャッキなどの治具を鋼管矢板本管内部や外部の対称位置にセットして矯正することができ、高度な矯正手順や大掛かりな矯正装置が不要にできることから、鋼管矢板の製造効率を向上させることができる。
さらに、例えば、鋼管矢板の施工に際して、雌型継手を有した一対の鋼管矢板を先行して打設し、これらの鋼管矢板の間に、雄型継手を有した鋼管矢板を打設すれば、土圧で外側に開くように変形した雌型継手の空間に、変形していない雄型継手が嵌合されることから競りが生じることなく、互いの継手を良好に嵌合させることができ、施工効率を向上させることができる。
【0010】
この際、本発明の鋼管矢板構造物では、前記雌鋼管矢板における前記雌型継手の一対の雌L型鋼材間の前記鋼管矢板本管外面には、表面に凹凸を有する鋼板が固定されていることが好ましい。
このような構成によれば、雌鋼管矢板における雌L型鋼材の間に凹凸を有する鋼板(例えば、チェッカープレート等)が設けられていることから、充填材との付着を高めて継手部のせん断耐力を向上させることができる。なお、凹凸を有する鋼板は、雄鋼管矢板における雄L型鋼材の間に設けてもよいが、雄L型鋼材の間よりも雌L型鋼材の間の方が幅寸法の大きな鋼板を設けることができ、せん断耐力向上の点で有利である。さらに、このような構成であれば、前記特許文献1のように、せん断耐力向上のために鉄筋を複数条に亘って取付けることに比べ、必要な溶接本数を減らすことが可能となるため、製造時の手間が減少することに加え、溶接熱による変形も少なくなることから矯正時の手間も減少させることができる。
【0011】
また、本発明の鋼管矢板構造物では、前記雄L型鋼材の表面に凹凸が設けられていることが好ましい。
このような構成によれば、雄L型鋼材は、一対の脚部が互いに対向する側の表面に縞状の突起(凹凸)を有した縞鋼板から形成され、この縞鋼板を折り曲げたアーム部の外側表面にも縞状の突起が形成されているような構成を採用することで、充填材との付着を高めて継手部のせん断耐力をさらに向上させることができる。
【0012】
本発明の鋼管矢板構造物の施工方法は、前記いずれかの鋼管矢板構造物の施工方法であって、少なくも一対の前記雌鋼管矢板を互いに所定間隔だけ離隔した位置に打設してから、これらの雌鋼管矢板の間において、当該雌鋼管矢板の前記雌型継手に前記雄鋼管矢板の雄型継手を嵌合させつつ当該雄鋼管矢板を打設することを特徴とする。
この発明によれば、前述したように、予め打設された雌鋼管矢板の雌型継手に雄型継手を嵌合させつつ雄鋼管矢板を打設することから、継手同士に競りが生じることがなく良好に嵌合することができ、施工効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る鋼管矢板構造物を示す平面図および断面図である。
【図2】鋼管矢板構造物における鋼管矢板の継手構造を示す断面図である。
【図3】前記鋼管矢板を拡大して示す斜視図である。
【図4】鋼管矢板の製造手順の一工程である矯正工程を示す図である。
【図5】鋼管矢板の施工手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、本実施形態の鋼管矢板構造物としての鋼管矢板基礎1は、河川や海岸近傍などに設けられる橋の橋脚を支持する井筒基礎であって、川底や海底の地盤Gに貫入される複数の鋼管矢板2を平面円形に並設するとともに、これらの鋼管矢板2同士を継手部3を介して互いに連結して構成されている。ここで、一方(図2中、下側)の鋼管矢板2は、円形鋼管からなる鋼管矢板本管4(以下、単に本管4という)と、当該本管4の側面の2箇所に設けられる雌型継手5とを有して構成される雌鋼管矢板2Aである。他方(図2中、上側)の鋼管矢板2は、円形鋼管からなる鋼管矢板本管4(以下、単に本管4という)と、当該本管4の側面の2箇所に設けられる雄型継手6とを有して構成される雄鋼管矢板2Bである。
【0015】
継手部3は、隣り合って打設される一対の鋼管矢板2のうち、一方の雌鋼管矢板2Aの雌型継手5と、他方の雄鋼管矢板2Bの雄型継手6とが互いに嵌合するとともに、嵌合した雌型継手5および雄型継手6で構成される空間A,B,Cにモルタル等のセメント系常温硬化性充填材を充填することで、鋼管矢板2A,2B同士を連結するように構成されている。
【0016】
雌型継手5は、雌鋼管矢板2Aにおける本管4の外面に固定される一対の雌L型鋼材50を有して構成され、これら一対の雌L型鋼材50は、それぞれ本管4の外面に溶接固定されて本管4外面から外方に延びる脚部51と、この脚部51の先端から略直角に折れ曲がるアーム部52とを有して断面略L字形に形成されている。そして、一対の雌L型鋼材50は、各々のアーム部52の先端が互いに近づく内向きに配置され、これらのアーム部52の先端間に雄型継手6を受け入れる開口部53を有して構成されている。
【0017】
雄型継手6は、雄鋼管矢板2Bにおける本管4の外面に固定される一対の雄L型鋼材60を有して構成され、これら一対の雄L型鋼材60は、それぞれ本管4の外面に溶接固定されて本管4外面から外方に延びる脚部61と、この脚部61の先端から略直角に折れ曲がるアーム部62とを有して断面略L字形に形成されている。そして、一対の雄L型鋼材60は、各々のアーム部62の先端が互いに離れる外向きに配置されるとともに、各脚部61が雌型継手5の開口部53に挿通されるようになっている。また、図3に示すように、雄L型鋼材60は、一対の脚部61が互いに対向する側の表面に縞状の突起(凹凸)63を有した縞鋼板から形成され、この縞鋼板を折り曲げたアーム部62の外側表面にも縞状の突起63が形成されている。
【0018】
また、雌鋼管矢板2Aの本管4における雌型継手5の脚部51間の外面には、プレート8が本管4の長手方向に沿って溶接固定されている。このプレート8は、表面に縞状の突起(凹凸)を有した縞鋼板(チェッカープレート)などで構成され、本管4の長手方向に沿って連続的に溶接されて固定されている。
【0019】
以上の継手部3において、雌型継手5と雄型継手6を図2に示すように嵌合させることで、雄L型鋼材60における各脚部61間と一方および他方の本管4の外面とで囲まれた位置には、充填材が充填される主充填空間Aが形成される。また、雄L型鋼材60の脚部61の延長線上よりも外側(アーム部62の突出側)で、かつ雌L型鋼材50で囲まれた位置には、主充填空間Aに連続して充填材が充填される副充填空間が形成され、この副充填空間は、雄L型鋼材60のアーム部62と一方の鋼管矢板2Aにおける本管4の外面および雌L型鋼材50の脚部51とで囲まれた第1副充填空間Bと、雄L型鋼材60の脚部61およびアーム部62と雌L型鋼材50の脚部51およびアーム部52とで囲まれた第2副充填空間Cとに分けられる。
【0020】
次に、鋼管矢板2の製造工程を説明する。
図4は、鋼管矢板の製造手順の一工程である矯正工程を示す図である。
なお、以下では、雄鋼管矢板2Bについて図示して説明し、雌鋼管矢板2Aの図示を省略する。
先ず、雄型継手6の溶接工程としては、本管4に2つの雄L型鋼材60を同時に載置し、圧下ロールを用いて本管4の長手方向に雄L型鋼材60を本管4に押し付けることにより、本管4と雄L型鋼材60との隙間をなくしながら適当な箇所を仮付け溶接する。この後、本管4と雄L型鋼材60とを長手方向に沿って連続的にロボット溶接することによって2つの雄L型鋼材60による雄型継手6が、本管4の外面に固定される。これに続いて同様の手順によって、反対側の一対の雄L型鋼材60を本管4に固定する。
このように、一方および他方の雄型継手6において、各2つの雄L型鋼材60を同時に溶接することで、合計2回の溶接によって一本の雄鋼管矢板2Bが製造されるようになっている。
【0021】
また、雌鋼管矢板2Aも同様にして2つの雌L型鋼材50が同時に本管4に溶接されることで製造されるが、雌鋼管矢板2Aにおいては、雌L型鋼材50を溶接する前に、プレート8を溶接して本管4に固定しておく。この場合、プレート8は、一対の雌型継手5に対応した両面のプレート8をそれぞれ本管4に仮付けした後に、両面のプレート8を同時に本溶接することで、1回の溶接によって本管4の外面に固定される。
このように、雌鋼管矢板2Aは、プレート8の1回の溶接と、一対の雌型継手5の2回の溶接が行われ、合計3回の溶接によって一本の雌鋼管矢板2Aが製造されるようになっている。
【0022】
次に、図4に基づいて、鋼管矢板2の矯正工程を実施する。
以上のように雄型継手6を本溶接する際に、本管4には、溶接熱により変形が生じる。具体的には、対向する雄L型鋼材60同士の間に膨出部41が形成され、雄型継手6と他方の雄型継手6との間にも膨出部41が形成される。さらに、膨出部41と膨出部41との間には、本管4内側に入りこんでいる縮退部42が形成される。このように、4つの膨出部41と4つの縮退部42とが形成されることにより、本管4は、断面略菱形の形状に変形することとなる。
【0023】
この変形した本管4の矯正方法としては、本管4の内部にジャッキ等を入れ内部から均等に力をかけることにより断面略菱形形状を断面正円に矯正する。具体的には、本管4の内側に接触する油圧式のジャッキ9を用い、このジャッキ9の出力軸先端を対向する一対の縮退部42の内面に接触させるとともに、ジャッキ9からの力で縮退部42を外側に押し広げる。そして、ジャッキ9を本管4の長手方向に順次移動させつつ、縮退部42の内面を順次押し広げる。これに続いて他の一対の縮退部42の内面にジャッキ9の出力軸先端を接触させて押し広げるとともに、ジャッキ9を本管4の長手方向に順次移動させつつ、縮退部42を順次押し広げる。このようなジャッキ9を用いた縮退部42の押し広げを順次繰り返すことで、本管4が全長に渡って略正円に矯正されることとなる。
なお、雌鋼管矢板2Aに対しても同様の矯正工程を実施することで、雌鋼管矢板2Aの本管4も断面略正円に矯正されるようになっている。
【0024】
次に、図5を用いて鋼管矢板2の施工工程を説明する。
先ず、雌鋼管矢板2Aを互いに所定の間隔だけ離隔した位置に先行して打設する。ここで、所定間隔としては、後から打設する雄鋼管矢板2Bとの嵌合を考慮した所定寸法によって適宜設定される。このように雌鋼管矢板2Aを打設する際には、雌型継手5の内部に入り込んだ土砂の土圧によって各雌L型鋼材50が互いに外側に開くように変形することがある。
次に、打設が完了した一対の雌鋼管矢板2Aの間隔部分に雄鋼管矢板2Bを打設する。この際、前述のように外側に開いた雌型継手5に雄型継手6を嵌合させつつ、雄鋼管矢板2Bを打設する。なお、雄鋼管矢板2Bの雄L型鋼材60も互いに外側に開くような土圧をうけることとなるが、先行の雌鋼管矢板2Aの雌L型鋼材50が外側に位置しているため、雌L型鋼材50によって雄L型鋼材60の変形が拘束されるようになっている。
【0025】
以上の本実施形態によれば、鋼管矢板本管4の外周に設けられる2箇所の継手は、雌型継手5あるいは雄型継手6のどちらか一方のみであり、雌鋼管矢板2Aおよび雄鋼管矢板2Bがそれぞれ対称な形状をしていることから、継手を溶接する際に生じる鋼管矢板本管4の変形が対称に生じる。このように対称に変形することで、鋼管矢板本管4を元の正円に矯正する際、ジャッキ9などの簡単な治具を用いて容易に矯正することができ、鋼管矢板2の製造効率を向上させることができる。
また、本管4の外周に設けられる2箇所の継手は、雄型継手6あるいは雌型継手5のどちらか一方のみであり、これらの継手が対称位置に固定されることから、溶接の際の位置決めや押下げが容易になって製造効率がさらに向上できる。
【0026】
また、雄鋼管矢板2Bは、各雄型継手6を溶接する計2回の溶接で製造され、雌鋼管矢板2Aは、各プレート8を溶接する1回および各雌型継手5を溶接する2回の計3回の溶接で製造されることから、従来の鋼管矢板を製造する場合よりも溶接回数を減少させることができる。すなわち、従来の鋼管矢板では、1本の鋼管矢板あたり、プレート8を溶接する1回、雌型継手5を溶接する1回および雄型継手6を溶接する1回の計3回の溶接で製造され、2本分として6回の溶接回数が必要である。これに対して本実施形態では、雄鋼管矢板2Bの2回と、雌鋼管矢板2Aの3回とを合わせて5回の溶接回数で2本分の製造が可能となることから、製造効率が飛躍的に向上できる。
【0027】
また、プレート8が雌型継手5の雌L型鋼材50間の設けられていることから、雄L型鋼材60間に設ける場合よりも幅寸法の大きなプレート8を用いることができ、より充填材との付着を高めてせん断耐力を向上させることができる。
また、この鋼管矢板を施工する際、雌型継手5を有した雌鋼管矢板2Aを先行して打設し、一対の鋼管矢板2A間に、雄型継手6を有した雄鋼管矢板2Bを打設することから、土圧で外側に開くように変形した雌型継手5の空間に、変形していない雄型継手6を嵌合させることで、これらの継手に競りが生じず、打設抵抗の増大を防止して施工効率が向上させることができる。さらに、後から打設する雄鋼管矢板2Bの雄型継手6が外側に開くように変形しようとしても、雌型継手5によって変形が拘束されるとともに、雄型継手6と雌型継手5との嵌合が強くなる方向に土圧が作用することから、鋼管矢板2A,2B同士の連結強度を高めることができる。
【0028】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態では、鋼管矢板構造物として、鋼管矢板基礎1を例示したが、これに限らず、土留め壁や護岸構造、地下構造物用連壁など任意の構造として鋼管矢板構造物を利用することが可能であり、その用途は特に限定されるものではない。
また前記実施形態明では、各鋼管矢板2A,2Bに雌型継手5または雄型継手6を各2箇所ずつに設けたものを例示したが、1本の鋼管矢板本管の外面に3箇所以上の継手が設けられていてもよい。その場合には、3つ目の継手が他の2つの継手と異なる形態のものでもよく、つまり、前記雌鋼管矢板2Aに対して3つ目の継手として雌型継手5および雄型継手6のいずれの継手が固定されていてもよいし、前記雄鋼管矢板2Bに対して3つ目の継手として雌型継手5および雄型継手6のいずれの継手が固定されていてもよい。
【0029】
また、鋼管矢板2の施工手順としては、前記実施形態のように、先行して3本以上の複数の雌鋼管矢板2Aを打設してから、それらの間に順次雄鋼管矢板2Bを打設するものに限られない。すなわち、少なくとも一対(2本)の雌鋼管矢板2Aを打設してから、それらの間に雄鋼管矢板2Bを打設し、一方の雌鋼管矢板2Aと間隔を開けて次の(3本目以降の)雌鋼管矢板2Aを打設してから、その間隔部分に雄鋼管矢板2Bを打設するという手順を繰り返し実施する手順を採用することもできる。
【0030】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0031】
1…鋼管矢板基礎(鋼管矢板構造物)、2…鋼管矢板、2A…雌鋼管矢板、2B…雄鋼管矢板、3…継手部、4…鋼管矢板本管、5…雌型継手、6…雄型継手、8…プレート(鋼板)、50…雌L型鋼材、51…脚部、52…アーム部、60…雄L型鋼材、61…脚部、62…アーム部、63…突起(凹凸)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う鋼管矢板の継手同士を嵌合させつつ地盤に貫入した複数の鋼管矢板を備えて構成される鋼管矢板構造物であって、
隣り合う一対の鋼管矢板のうち一方の鋼管矢板は、鋼管矢板本管と、この鋼管矢板本管の外面2箇所に設けられる雌型継手とを有する雌鋼管矢板であり、前記雌型継手は、前記鋼管矢板本管の外面に脚部が固定されるとともに、当該脚部の先端から折れ曲がるアーム部同士が互いに近づく内向きに配置される一対の雌L型鋼材を備えて構成され、
隣り合う他方の鋼管矢板は、鋼管矢板本管と、この鋼管矢板本管の外面2箇所に設けられる雄型継手とを有する雄鋼管矢板であり、前記雄型継手は、前記鋼管矢板本管の外面に脚部が固定されるとともに、当該脚部の先端から折れ曲がるアーム部同士が互いに離れる外向きに配置された一対の雄L型鋼材を備えて構成され、
前記雌鋼管矢板と前記雄鋼管矢板とが前記雌型継手と前記雄型継手との嵌合により連結されていることを特徴とする鋼管矢板構造物。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管矢板構造物において、
前記雌鋼管矢板における前記雌型継手の一対の雌L型鋼材間の前記鋼管矢板本管外面には、表面に凹凸を有する鋼板が固定されていることを特徴とする鋼管矢板構造物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鋼管矢板構造物において、
前記雄L型鋼材の表面に凹凸が設けられていることを特徴とする鋼管矢板構造物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の鋼管矢板構造物の施工方法であって、
少なくも一対の前記雌鋼管矢板を互いに所定間隔だけ離隔した位置に打設してから、これらの雌鋼管矢板の間において、当該雌鋼管矢板の前記雌型継手に前記雄鋼管矢板の雄型継手を嵌合させつつ当該雄鋼管矢板を打設することを特徴とする鋼管矢板構造物の施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−111873(P2011−111873A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272216(P2009−272216)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】