説明

鋼製構造材

【課題】鋼製の構造材における水の滞留を抑止して確実な排水を可能とし、ひいては構造材の腐食を防止する。
【解決手段】断面が山型ないし円弧型である所定長の鋼材51を、前記断面における凸方向の向きで揃え、所定間隔で並列配置したウェブ部50と、前記ウェブ部50をなす前記各鋼材51の端面52と固定されたフランジ部60とで鋼製構造材100を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製構造材に関するものであり、具体的には、鋼製の構造材における水の滞留を抑止して確実な排水を可能とし、ひいては構造材の腐食を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水門や橋梁等にはH型鋼など鋼製の構造材が多く使用されている。こうした構造材を組み合わせて橋梁や水門等を構築する場合、構造材自体の形状や他部材との取付関係などにより、雨水等が溜まりやすい箇所が生じることがある。そこで、こうした箇所に溜まる水を排水するための技術が提案されている。
【0003】
例えば、鋼箱の滞水防止用水抜き構造を提供することを課題として、板材に形成された排水用の貫通孔に取り付けられた水抜きボルトとその水抜きボルトに螺設された水抜きナットからなり、その水抜きボルトと水抜きナットに一連の水抜き流路が形成されたものであることを特徴とする水抜きボルト・ナット(特許文献1参照)などが提案されている。
【0004】
また、水抜き孔や排水枡構造等を考慮した技術として、壁部下方から上方にかけて複数の排水窓を開口した上桝部と、壁部上方外側に突出した排水誘導片と上桝部の高さ調整スペーサーを形成した下桝部とを、下桝部に形成した高さ調整スペーサーに上桝部を載置してなる排水桝からなることを特徴とする道路構造物の排水装置(特許文献2参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−299750号公報
【特許文献2】特開2005−248426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術にもあるように、構造材のうち応力的に影響の少ない部分に水抜き孔や各種排水装置を設けることがあるが、肝心の水抜用の開口が落ち葉などのごみで詰まってしまうことが多かったり、そもそも開口の設置場所が不適切で水抜き孔として機能せずに水が滞留していることが多い。
【0007】
水が溜まった箇所については、日照に伴う乾湿が繰り返されることとなり、構造材の塗膜が劣化して鋼材自体の腐食が生じやすい。また、前記水抜き孔にごみ等が詰まることで、構造材上への土砂堆積を促進することもある。この土砂堆積により構造材上に草や苔などが着生し、それらが保水性を有して構造材に水分を浸透させ、ひいては構造材の塗膜を劣化させることもある。
【0008】
一方、水門や橋梁等は高所や急傾斜地など人員が容易に近づけない場所に設置されている場合も多く、上記の水抜き孔等の排水機構を容易に清掃することもできない。
【0009】
そこで本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、鋼製の構造材における水の滞留を抑止して確実な排水を可能とし、ひいては構造材の腐食を防止する技術の提供を主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の鋼製構造材は、例えば、水門や橋梁の桁に用いられるH型鋼の代替物として利用できるものであり、大まかな形状としてはH型鋼に類似している。ただし前記鋼製構造材は、従来のH型鋼におけるウェブ部分に本願発明特有の構造を有している。すなわち、前記鋼製構造材は、断面が山型ないし円弧型である所定長の鋼材を、前記断面における凸方向の向きで揃え、所定間隔で並列配置したウェブ部と、前記ウェブ部をなす前記各鋼材の端面と固定されたフランジ部とからなっている。
【0011】
前記鋼製構造材において、所定間隔をもって並列配置された一組の鋼材間におけるスリット(=前記所定間隔に対応する幅を持つ)は、前記鋼材の各端面に固定されたフランジ部間の対向距離分の長さを有する。従って前記スリット上のいずれかの箇所に枯れ葉など閉塞物が付着しても、当該スリットの他の箇所からの排水は妨げられず、鋼製構造材上に水が滞留することを抑止できる。勿論、前記スリットは、並列配置された鋼材の間ごとに存在することになるから、たとえ1つのスリットが完全に閉塞されてしまったとしても、他のスリットからの排水は維持され、水の滞留が鋼製構造材の広範囲に及ぶことも抑止できる。
【0012】
また、前記鋼製構造材は、前記断面における凸方向の向きをウェブ部外方に向けて揃えた鋼材を、所定間隔で並列配置したウェブ部を備えるとしてもよい。
【0013】
また、本発明の鋼製構造材は、断面が山型ないし円弧型である所定長の鋼材を、前記断面における凸方向が互いに対向する向きに所定間隔で配置して一組をなし、当該一組の鋼材を鋼製構造材の延長方向に並列配置してなるウェブ部と、前記ウェブ部をなす前記各鋼材の端面と固定されたフランジ部とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鋼製の構造材における水の滞留を抑止して確実な排水が可能となり、ひいては構造材の腐食を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の鋼製構造材の例1を示す図である。
【図2】本実施形態の鋼製構造材の例2を示す図である。
【図3】本実施形態における変位および応力の解析結果1を示す図である。
【図4】本実施形態における変位および応力の解析結果2を示す図である。
【図5】本実施形態における変位および応力の解析結果3を示す図である。
【図6】本実施形態における変位および応力の解析結果4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態の鋼製構造材100の例1を示す図である。前記鋼製構造材100は、H型鋼と同様にウェブ部50とフランジ部60とから構成されている。そのうち、前記ウェブ部50は、断面が山型ないし円弧型である所定長(鋼製構造材におけるウェブ高さに相当する長さ)の鋼材51を、前記断面における凸方向の向きで揃え、所定間隔で並列配置したものとなっている。前記鋼材51としては、例えば、断面が山型の山形鋼、或いは断面円形の鋼管を半割したもの(図1(b)参照)を想定できる。なお、前記鋼材51の断面における凸方向の向きを、図1に示すようにウェブ部50の外方に向けて揃えると好適である。
【0017】
前記鋼製構造材100において、所定間隔をもって並列配置された一組の鋼材間におけるスリット70(=前記所定間隔に対応する幅を持つ)は、前記鋼材51の各端面52に固定されたフランジ部60の間の対向距離分(=ウェブ高さ)の長さを有する。従って前記スリット70上のいずれかの箇所に枯れ葉など閉塞物が付着しても、当該スリット70の他の箇所からの排水は妨げられず、鋼製構造材100上に水が滞留することを抑止できる。勿論、前記スリット70は、並列配置された鋼材51の間ごとに存在することになるから(図1の鋼製構造材100の例では計5箇所のスリット)、たとえ1つのスリットが完全に閉塞されてしまったとしても、他のスリットからの排水は維持され、水の滞留が鋼製構造材100の広範囲に及ぶことも抑止できる。
【0018】
また、前記ウェブ部50をなす前記各鋼材51の端面52は、フランジ部60と固定されている。例えば、前記鋼材51としての山形鋼を、前記ウェブ高さ(例:鋼製構造材が必要な強度に応じて設計される)に合わせて切断し、その端面52を前記フランジ部60を構成する鋼板に溶接(サブマージアーク溶接等)して固定する。
【0019】
上述した形態の鋼製構造材100の他に、図2に示す鋼製構造材100を想定することもできる。図2は本実施形態の鋼製構造材100の例2を示す図である。この例の場合、鋼製構造材100の前記ウェブ部50は、断面が山型ないし円弧型である所定長の鋼材51を、前記断面における凸方向が互いに対向する向きに所定間隔で配置して一組をなし、当該一組の鋼材51を鋼製構造材100の延長方向に並列配置してなる。なお、前記鋼材51としては、例えば、断面が山型の山形鋼(図2(a)の場合)、或いは断面円形の鋼管(図2(b)の場合)を想定できる。前記ウェブ部50をなす前記各鋼材51の端面52は、図1の場合と同様に前記フランジ部60と固定されている。
【0020】
図2(a)に例示する鋼製構造材100の場合、前記鋼材51が山形鋼であり、いわゆる「く」の字型で対向しあって配置され、鋼材51の各間にはスリット70が設けられている。また、鋼材51の「く」の字型の背面同士においてもスリット71を設けるとしてもよい。このようなスリット配置とすれば、鋼製構造材100における排水経路(=スリット)が更に分散化され、スリットをふさぐ閉塞物による水の滞留を抑制し、排水を確実ならしめることにつながる。
【0021】
一方、通常のH型鋼とは異なるウェブ形状を有する前記鋼製構造材100であるので、構造材として必要な強度を担保できるか解析を行って検証した。図3は本実施形態における変位および応力の解析結果1を示す図である。ここでは、比較対象となるH型鋼(サイズ:ウェブ高=300mm、フランジ幅=300mm)、第1の鋼製構造材100(サイズ:フランジ部60のフランジ幅=300mm、ウェブ部50を構成する山形鋼200mm×200mmのもの)、および第2の鋼製構造材100(サイズ:フランジ部60のフランジ幅=300mm、ウェブ部50を構成する山形鋼100mm×100mmのもの)、の3種類を解析対象とした。
【0022】
解析は、図1(a)に示すように、鋼製構造材100のフランジ部60の長さ方向の中心点に100kNの負荷を加えた場合の、前記フランジ部60のA−A線上のB点(フランジ部60の長さ方向の中心点)における変位量と応力値とを、FEM解析プログラムなど変位量や応力値の解析プログラム(既存のもの)を用いて算定する。
【0023】
こうした解析の結果、前記第1の鋼製構造材100は、前記H型鋼と比較して、最大変位量(mm)で1.26倍、前記B点の応力値で1.18倍となった。また、前記第2の鋼製構造材100は、前記H型鋼と比較して、最大変位量(mm)で1.36倍、前記B点の応力値で1.23倍となった。構造材として必要な設計強度にもよるが、前記鋼製構造材100をH型鋼に代えて採用しても問題ない強度を、前記鋼製構造材100は備えていると言える。
【0024】
また、他の解析例として、鋼材51における鋼板の板厚条件を代えて上記同様の解析をおこなった。図4は本実施形態における変位および応力の解析結果2を示す図である。ここでは、比較対象となるH型鋼(サイズ:ウェブ高=300mm、フランジ幅=300mm)、第1の鋼製構造材100(サイズ:フランジ部60のフランジ幅=300mm、ウェブ部50を構成する山形鋼200mm×200mm、板厚t=15mmのもの)、および第2の鋼製構造材100(サイズ:フランジ部60のフランジ幅=300mm、ウェブ部50を構成する山形鋼200mm×200mm、板厚t=20mmのもの)、の3種類を解析対象とした。
【0025】
この条件下での解析の結果、前記第1の鋼製構造材100は、前記H型鋼と比較して、最大変位量(mm)で1.26倍、前記B点の応力値で1.18倍となった。また、前記第2の鋼製構造材100は、前記H型鋼と比較して、最大変位量(mm)で0.95倍、前記B点の応力値で0.88倍となった。この結果から、構造材として必要な設計強度を達成するために、前記鋼製構造材100における前記ウェブ部50の鋼材51の板厚を適宜厚いものとすれば、従来のH型鋼に代えて採用しても問題ないかそれ以上の強度を、前記鋼製構造材100は備えると言える。
【0026】
また、他の解析例として、鋼材51におけるウェブ部50のウェブ高さ(=鋼材51の長さ)の条件を代えて上記同様の解析をおこなった。図5は本実施形態における変位および応力の解析結果3を示す図である。ここでは、比較対象となるH型鋼(サイズ:ウェブ高=300mm、フランジ幅=300mm)、第1の鋼製構造材100(サイズ:フランジ部60のフランジ幅=300mm、ウェブ部50を構成する山形鋼200mm×200mm、山形鋼の長さ300mmのもの)、および第2の鋼製構造材100(サイズ:フランジ部60のフランジ幅=300mm、ウェブ部50を構成する山形鋼200mm×200mm、山形鋼の長さ350mmのもの)、の3種類を解析対象とした。
【0027】
この条件下での解析の結果、前記第1の鋼製構造材100は、前記H型鋼と比較して、最大変位量(mm)で1.26倍、前記B点の応力値で1.18倍となった。また、前記第2の鋼製構造材100は、前記H型鋼と比較して、最大変位量(mm)で1.02倍、前記B点の応力値で1.01倍となった。この結果から、構造材として必要な設計強度を達成するために、前記鋼製構造材100における前記ウェブ部50のウェブ高さ、つまり鋼材51の長さを適宜長いものとすれば、従来のH型鋼とほとんど同等の強度を、前記鋼製構造材100は備えると言える。
【0028】
更に、他の解析例として、図2(a)で例示したいわゆる「く」の字型に山形鋼を対向配置してウェブ部50を構成した鋼製構造材100について上記同様の解析をおこなった。図6は本実施形態における変位および応力の解析結果4を示す図である。ここでは、比較対象となるH型鋼(サイズ:ウェブ高=300mm、フランジ幅=300mm)、鋼製構造材100(サイズ:フランジ部60のフランジ幅=300mm、ウェブ部50を構成する山形鋼200mm×200mm)、の2種類を解析対象とした。
【0029】
この条件下での解析の結果、前記鋼製構造材100は、前記H型鋼と比較して、最大変位量(mm)で1.04倍、前記B点の応力値で1.06倍となった。この結果から、前記鋼製構造材100は、従来のH型鋼とほとんど同等の強度を備えると言える。
【0030】
以上のように、従来のH型鋼と同等の強度を備える鋼製構造材100を用いて水門や橋梁等を構築するとすれば、必要な強度を十分に担保した上で、前記スリット70、71上のいずれかの箇所に枯れ葉など閉塞物が付着しても、当該スリットの他の箇所からの排水は妨げられず、鋼製構造材上に水が滞留することを抑止できる。前記スリットらは、並列配置された鋼材51の間ごとに存在することになるから、たとえ1つのスリットが完全に閉塞されてしまったとしても、他のスリットからの排水は維持され、水の滞留が鋼製構造材100の広範囲に及ぶことも抑止できる。つまり、従前の技術では必要であった水抜き孔や排水装置の清掃作業が長期間にわたって不要となり、高所や急傾斜地などでの危険な作業を人員に強いることが少なくなる。また上述のように、前記鋼製構造材100では前記スリットを介して自然排水を継続することができ、鋼製構造材自身の鋼材腐食を抑制し、板厚の減少を防ぐことができる。
【0031】
したがって本実施形態によれば、鋼製の構造材における水の滞留を抑止して確実な排水が可能となり、ひいては構造材の腐食を防止できる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0033】
50 ウェブ部
51 鋼材
52 (鋼材の)端面
60 フランジ部
70 スリット
100 鋼製構造材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が山型ないし円弧型である所定長の鋼材を、前記断面における凸方向の向きで揃え、所定間隔で並列配置したウェブ部と、前記ウェブ部をなす前記各鋼材の端面と固定されたフランジ部とからなる鋼製構造材。
【請求項2】
前記断面における凸方向の向きをウェブ部外方に向けて揃えた鋼材を、所定間隔で並列配置したウェブ部を備えることを特徴とする請求項1に記載の鋼製構造材。
【請求項3】
断面が山型ないし円弧型である所定長の鋼材を、前記断面における凸方向が互いに対向する向きに所定間隔で配置して一組をなし、当該一組の鋼材を鋼製構造材の延長方向に並列配置してなるウェブ部と、前記ウェブ部をなす前記各鋼材の端面と固定されたフランジ部とからなることを特徴とする鋼製構造材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−168805(P2010−168805A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12313(P2009−12313)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】