説明

鍛造用金型ユニット及び鍛造成形方法

【課題】金型7,11の材料コストの低減を図りつつ、金型7,11の焼付きを長期間に亘って防止して、金型寿命を十分に延ばすこと。
【解決手段】鍛造プレス3に上下に対向して着脱可能な上金型7と下金型11とを備え、上金型7及び/又は下金型11の成形面における少なくとも一部に放電エネルギーによってステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるポーラスな硬質皮膜13が形成され、硬質皮膜13は、鍛造成形中に酸化物セラミックスが生成されるように構成されたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造プレスの運転によって金属製ワークを塑性流動させて鍛造成形する際に用いられる鍛造用金型ユニット、及び鍛造プレスの運転によって金属製ワークを塑性流動させて鍛造成形する鍛造成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属製ワークから機械的強度の高い成形品を得るために、鍛造プレスの運転によって金属製ワークを塑性流動させて鍛造成形することがよく行われている。
【0003】
即ち、鍛造プレスに上下に対向して装着された上金型と下金型とを備えた鍛造成形用金型ユニットを用い、金属製ワークを下金型にセットする。そして、鍛造プレスの運転によって上金型を下金型に対して相対的に下方向へ移動させることにより、金属製ワークを上金型及び/又は下金型の成形面に沿って塑性流動させて鍛造成形する。これにより、金属製ワークから機械的強度の高い成形品を得ることができる。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に示すものがある。
【特許文献1】特開2003−39132号公報
【特許文献2】特開2000−254702号公報
【特許文献3】特開平6−71377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、金型(上金型、下金型)の焼付きを防止するために、金型自体を耐摩耗性に優れかつ高硬度のサーメットからなるようにしたり、金型の成形面における少なくとも一部にPVD又はCVDによって耐摩耗性に優れた硬質皮膜を形成したりすることが行われている。
【0006】
しかしながら、金型自体をサーメットからなるようにした場合には、サーメット自体が高速度工具鋼に比べてかなり高価な材料で、金型の材料コストが高くなる。一方、金型の成形面の一部にPVD又はCVDによって耐摩耗性に優れた硬質皮膜を形成した場合には、金属製ワークの鍛造成形中に硬質皮膜の剥離が生じ易く、金型の焼付きを長期に亘って防止できず、金型寿命を十分に延ばすことができない。つまり、金型の材料コストの低減を図りつつ、金型の焼付きを長期に亘って防止し、金型寿命を十分に延ばすことは極めて困難であるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の鍛造用金型セット及び鍛造成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、種々の実験を繰り返した結果、上金型及び/又は下金型の成形面の成形面(金型の成形面)の少なくとも一部(例えば、金属製ワークの流動方向に沿って収縮する部位)に放電エネルギーによってステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるポーラスな硬質皮膜を形成しておくことにより、硬質皮膜と金型の母材との間に生成された傾斜合金層によって、硬質皮膜と金型の母材との密着強度を十分の確保した上で、鍛造成形中に硬質皮膜に生成された酸化物セラミックスによる潤滑作用及び硬質皮膜のポーラスな組織による潤滑剤の保持作用を発揮させて、鍛造成形中における金属製ワークの流動性を高めることができるという、新規な知見(後述の実施例参照)を得ることができ、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の第1の特徴は、鍛造プレスの運転によって金属製ワークを塑性流動させて鍛造成形する際に用いられる鍛造用金型ユニットにおいて、前記鍛造プレスに上下に対向して着脱可能な上金型と下金型とを備え、前記上金型及び/又は前記下金型の成形面(金型の成形面)の少なくとも一部に放電エネルギーによってポーラスな硬質皮膜が形成され、前記硬質皮膜は、鍛造成形中に酸化物セラミックスが生成されるように構成されたことを要旨とする。
【0010】
ここで、「鍛造成形中」とは、金属製ワークを塑性流動させる間の他に、鍛造用金型ユニットを加熱したり又は下金型に金属製ワークをセットしたりする等、金属製ワークを塑性流動させる前の準備段階も含む意であって、「鍛造成形」とは、熱間鍛造成形、温間鍛造成形、冷間鍛造成形を含む意である。
【0011】
第1の特徴によると、前記鍛造プレスに上下に対向して装着された前記上金型と前記下金型を備えた前記鍛造用金型ユニットを用い、前記下金型に金属製ワークをセットする。そして、前記鍛造プレスの運転によって前記上金型を前記下金型に対して相対的に下方向へ移動させる。これにより、前記硬質皮膜に生成された酸化物セラミックスによる潤滑作用及び硬質皮膜のポーラスな組織による潤滑剤の保持作用も相まって、金属製ワークを前記金型の成形面に沿って流動塑性させて、所定形状に成形品を鍛造成形することができる。
【0012】
ここで、前記金型の成形面における少なくとも一部に放電エネルギーによってポーラスな硬質皮膜が形成され、前記硬質皮膜は、鍛造成形中に酸化物セラミックスが生成されるように構成されているため、前述の新規な知見を考慮すると、前記硬質皮膜と前記金型の母材との密着強度を十分の確保した上で、前記金型をサーメットのような高価な材料からなるようにしなくても、鍛造成形中における金属製ワークの流動性を高めることができる。
【0013】
本発明の第2の特徴は、鍛造プレスの運転によって金属製ワークを塑性流動させて鍛造成形する鍛造成形方法において、第1の特徴からなる鍛造用金型ユニットを用い、金属製ワークを前記下金型にセットする第1工程と、前記第1工程の終了後に、前記鍛造プレスの運転によって前記上金型を前記下金型に対して相対的に下方向へ移動させることにより、前記硬質皮膜に生成された酸化物セラミックスによる潤滑作用及び前記硬質皮膜のポーラスな組織による潤滑剤の保持作用も相まって、金属製ワークを前記上金型及び/又は前記下金型の成形面に沿って流動塑性させて鍛造成形する第2工程と、を具備したことことを要旨とする。
【0014】
第2の特徴によると、第1の特徴からなる鍛造用金型ユニットを用いて、金属製ワークを鍛造成形しているため、前述の新規な知見を考慮すると、前記硬質皮膜と前記金型の母材との密着強度を十分の確保した上で、前記金型をサーメットのような高価な材料からなるようにしなくても、鍛造成形中における金属製ワークの流動性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記硬質皮膜と前記金型の母材との密着強度を十分の確保した上で、前記金型をサーメットのような高価な材料からなるようにしなくても、鍛造成形中における金属製ワークの流動性を高めることができるため、前記金型の材料コストの低減を図りつつ、前記金型の焼付きを長期間に亘って防止することができ、金型寿命を十分に延ばすことができる。また、同じ理由により、鍛造成形に必要なプレス荷重を低減して、前記鍛造プレスの大型化を十分に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1から図4を参照して説明する。
【0017】
ここで、図1は、第1実施形態に係る鍛造用金型ユニットの正面図、図2は、放電電極を用いて硬質皮膜を形成する状態を説明する図、図3は、第1実施形態に係る鍛造成形方法を説明する図、図4(a)は、絞り鍛造成形前の金属製ワークを示す図、図4(b)は、絞り鍛造成形後の成形品を示す図である。
【0018】
図1に示すように、第1実施形態に係る鍛造用金型ユニット1は、鍛造プレス3の運転によって円柱状の金属製ワークWA(図4(a)参照)を塑性流動させて、所定形状の成形品WA’(図4(b)参照)に押し出し鍛造成形する際に用いられるものである。そして、第1実施形態に係る鍛造用金型ユニット1の具体的な構成は、以下のようになる。
【0019】
鍛造プレス3におけるラム5には、上金型7が着脱可能に設けられており、この上金型7は、例えば高速度工具鋼等の安価な工具鋼からなるものであって、上金型7の成形面7fは、成形品WA’の頂面に対応した形状を呈している。また、鍛造プレス3におけるテーブル9は、上金型7に上下に対向した下金型11が着脱可能に設けられており、この下金型11は、例えば高速度工具鋼等の安価な工具鋼からなるものであって、下金型11の成形面11fは、成形品WA’の外周面に対応した形状を呈している。
【0020】
なお、上金型7がラム5に着脱可能に設けられる代わりに、下金型11にガイドピン(図示省略)を介して上下方向へ移動可能に設けられるようにしても構わなく、この場合には、上金型7は、ラム5によって上方向から打圧されるものである。
【0021】
前述の新規な知見(後述の実施例参照)に基づいて、下金型11は、次のように構成されている。
【0022】
下金型11の成形面11fにおける、金属製ワークWAの流動方向(下方向)に沿って収縮する部位及びこの近傍(収縮する部位等)には、ポーラスな硬質皮膜13が放電エネルギーによって形成されており、この硬質皮膜13は、ステライト金属,TiC(チタンカーバイド),W(タングステン),WC(タングステンカーバイド),Ti(チタン),TiN(チタンナイトライド),Cr(クロム),Cr32(クロムカーバイド),Nb(ニオブ),NbC(ニオブカーバイド),V(バナジウム),VC(バナジウムカーバイド),Mo(モリブデン),Mo2C(モリブデンカーバイド),Ta(タンタル),TaC(タンタルカーバイド)のいずれか1つ又は複数の組み合わせからなる。
【0023】
より具体的には、図2に示すように、ポーラスな硬質皮膜13は、棒状の放電電極Eを下金型11の成形面11fにおける収縮する部位等に沿って相対的に移動させつつ、油のような電気絶縁性のある液L中において、下金型11の成形面11fの収縮する部位等と放電電極Eとの間にパルス状の放電を発生させて、その放電エネルギーにより、下金型11の成形面11fにおける収縮する部位等に放電電極Eの材料等(該材料の反応物質を含む)を溶着させることによって形成されものである。ここで、棒状の放電電極Eは、ステライト金属の粉末,TiCの粉末,Wの粉末,WCの粉末,Tiの粉末,TiNの粉末,Crの粉末,Cr32の粉末,Nbの粉末,NbCの粉末,Vの粉末,VCの粉末,Moの粉末,Mo2Cの粉末,Taの粉末,TaCの粉末のいずれか1つ又は複数の組み合わせを圧縮成形又は射出成形してなるものである。
【0024】
硬質皮膜13は、押し出し鍛造成形中に酸化物セラミックスが生成されるように構成されている。具体的には、硬質皮膜13は、ステライト金属からなる場合にあっては、押し出し鍛造成形中にCr23(酸化クロム)が生成されるように構成され、TiCからなる場合にあっては、押し出し鍛造成形中にTiO2(酸化チタン)が生成されるように構成されている。ここで、「押し出し鍛造成形中」とは、金属製ワークWAを塑性流動させる間の他に、鍛造用金型ユニット1を200℃以上に加熱したり、再結晶温度付近(本発明の実施形態にあっては、900〜1000℃)まで加熱した金属製ワークWAを下金型11の所定位置にセットしたりする等、金属製ワークWAを塑性流動させる前の準備段階も含む意である。
【0025】
なお、下金型11の成形面11fの一部ではなく、下金型11の成形面11fの全面にポーラスな硬質皮膜13が放電エネルギーによって形成されるようにしても構わない。また、下金型11の成形面11fだけでなく、上金型7の成形面7fにポーラスな硬質皮膜(図示省略)が放電エネルギーによって形成されるようにしても構わない。更に、鍛造用金型ユニット1の加熱温度は、塗布する潤滑剤の種類によって適切な温度を設定すればよく、200℃以上に限定されるものではない。
【0026】
続いて、第1実施形態に係る鍛造成形方法について作用を含めて説明する。
【0027】
第1実施形態に係る鍛造成形方法は、鍛造プレス3の運転によって円柱状の金属製ワークWAを塑性流動させて押し出し鍛造成形する方法であって、後記の(1-1)第1工程と、(1-2)第2工程とを備えている。
【0028】
(1-1)第1工程
図3(a)に示すように、鍛造プレス3に上下に対向して装着された上金型7と下金型11を備えた前述の鍛造用金型ユニット1を用い、上金型7の成形面7f及び下金型11の成形面11fにMoS2を主成分とする固体潤滑を塗布する。また。熱処理炉(図示省略)によって円柱状の金属製ワークWAを再結晶温度付近まで加熱すると共に、ヒータ(図示省略)によって鍛造用金型ユニット1を200℃以上に加熱する。そして、金属製ワークWAを下金型11の所定位置にセットする。
【0029】
(1-2)第2工程
前記(1-1)第1工程の終了後に、図3(b)に示すように、油圧シリンダ(図示省略)又はクランク(図示省略)の駆動によりラム5を下方向へ移動させて、上金型7を下金型11に対して相対的に下方向へ移動させる。これにより、ポーラスな硬質皮膜13に生成された酸化物セラミックスによる潤滑作用及び硬質皮膜13のポーラスな組織による潤滑剤の保持作用も相まって、金属製ワークWAを下金型11の成形面11f及び上金型7の成形面7fに沿って流動塑性させて、所定形状に成形品WA’を鍛造成形することができる。
【0030】
ここで、下金型11の成形面11fにおける収縮する部位等に放電エネルギーによってステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるポーラスな硬質皮膜13が形成され、硬質皮膜13は、鍛造成形中に酸化物セラミックスが生成されるように構成されているため(換言すれば、下金型11の成形面11fにおける収縮する部位等に放電エネルギーによってステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるポーラスな硬質皮膜13が形成された鍛造用金型ユニット1を用いて、金属製ワークWAを押し出し鍛造成形しているため)、前述の新規な知見を考慮すると、硬質皮膜13と下金型11の母材との密着強度を十分の確保した上で、金型(上金型7及び下金型11)をサーメットのような高価な材料からなるようにしなくても、押し出し鍛造成形中における金属製ワークWAの流動性を高めることができる。
【0031】
従って、第1実施形態に係る鍛造用金型ユニット1又は第1実施形態に係る鍛造成形方法によれば、金型7,11の材料コストの低減を図りつつ、金型7,11の焼付きを長期間に亘って防止することができ、金型寿命を十分に延ばすことができる。また、押し出し鍛造成形に必要なプレス荷重を低減して、鍛造プレス3の大型化を十分に抑制することができる。
【0032】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について図5から図7を参照して説明する。
【0033】
ここで、図5は、第2実施形態に係る鍛造用金型ユニットの正面図、図6は、第2実施形態に係る鍛造成形方法を説明する図、図7(a)は、据え込み鍛造成形前の金属製ワークを示す図、図7(b)は、据え込み鍛造成形後の成形品を示す図である。
【0034】
図5に示すように、第2実施形態に係る鍛造用金型ユニット15は、鍛造プレス17の運転によって円柱状の金属製ワークWB(図7(a)参照)を塑性流動させて、所定形状の成形品WB’(図7(b)参照)に据え込み鍛造成形する際に用いられるものである。そして、第2実施形態に係る鍛造用金型ユニット15の具体的な構成は、以下のようになる。
【0035】
鍛造プレス17におけるラム19には、上金型21が着脱可能に設けられており、この上金型21は、例えば高速度工具鋼等の安価な工具鋼からなるものであって、上金型21の成形面21fは、成形品WB’の上側面に対応した形状を呈している。また、鍛造プレス17におけるテーブル23は、上金型21に上下に対向した下金型25が着脱可能に設けられており、この下金型25は、例えば高速度工具鋼等の安価な工具鋼からなるものであって、下金型25の成形面25fは、成形品WB’の下側面に対応して形状を呈している。
【0036】
なお、上金型21がラム19に着脱可能に設けられる代わりに、下金型25にガイドピン(図示省略)を介して上下方向へ移動可能に設けられるようにしても構わなく、この場合は、上金型21は、ラム19によって上方向から打圧されるものである。
【0037】
前述の新規な知見(後述の実施例参照)に基づいて、下金型25は、次のように構成されている。
【0038】
即ち、上金型21の成形面21fの全面及び上金型21の成形面21fの全面には、ポーラスな硬質皮膜27が放電エネルギーによって形成されており、この硬質皮膜27は、ステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるものである。また、硬質皮膜27は、据え込み鍛造成形中に酸化物セラミックスが生成されるように構成されている。ここで、「据え込み鍛造成形中」とは、金属製ワークWBを塑性流動させる間の他に、鍛造用金型ユニット15を200℃以上に加熱したり、再結晶温度付近(本発明の実施形態にあっては、900〜1000℃)まで加熱した金属製ワークWBを下金型25の所定位置にセットしたりする等、金属製ワークWBを塑性流動させる前の準備段階も含む意である。
【0039】
なお、上金型21の成形面21fの全面及び上金型21の成形面21fの全面でなく、上金型21の成形面21fの一部及び上金型21の成形面21fの一部にポーラスな硬質皮膜27が放電エネルギーによって形成されるようにしても構わない。また、鍛造用金型ユニット15の加熱温度は、塗布する潤滑剤の種類によって適切な温度を設定すればよく、200℃以上に限定されるものではない。
【0040】
続いて、第2実施形態に係る鍛造成形方法について作用を含めて説明する。
【0041】
第2実施形態に係る鍛造成形方法は、鍛造プレス17の運転によって円柱状の金属製ワークWBを塑性流動させて据え込み鍛造成形する方法であって、後記の(2-1)第1工程と、(2-2)第2工程とを備えている。
【0042】
(2-1)第1工程
図6(a)に示すように、鍛造プレス17に上下に対向して装着された上金型21と下金型25を備えた前述の鍛造用金型ユニット15を用い、上金型21の成形面21f及び下金型25の成形面25fにMoS2を主成分とする固体潤滑を塗布する。また。熱処理炉(図示省略)によって円柱状の金属製ワークWBを再結晶温度付近まで加熱すると共に、ヒータ(図示省略)によって鍛造用金型ユニット15を200℃以上に加熱する。そして、金属製ワークWBを下金型25の所定位置にセットする。
【0043】
(2-2)第2工程
前記(2-1)第1工程の終了後に、図6(b)に示すように、油圧シリンダ(図示省略)又はクランク(図示省略)の駆動によりラム19を下方向へ移動させて、上金型21を下金型25に対して相対的に下方向へ移動させる。これにより、ポーラスな硬質皮膜27に生成された酸化物セラミックスによる潤滑作用及び硬質皮膜27のポーラスな組織による潤滑剤の保持作用も相まって、金属製ワークWBを上金型21の成形面21f及び下金型11の成形面11fに沿って流動塑性させて、所定形状に成形品WB’を鍛造成形することができる。
【0044】
ここで、上金型21の成形面21fの全面及び下金型25の成形面25fの全面に放電エネルギーによってステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるポーラスな硬質皮膜27が形成され、硬質皮膜27は、鍛造成形中に酸化物セラミックスが生成されるように構成されているため(換言すれば、上金型21の成形面21fの全面及び下金型25の成形面25fの全面に放電エネルギーによってステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるポーラスな硬質皮膜27が形成された鍛造用金型ユニット15を用いて、金属製ワークWBを据え込み鍛造成形しているため)、前述の新規な知見を考慮すると、硬質皮膜27と金型(上金型21、下金型25)の母材との密着強度を十分の確保した上で、金型21,25をサーメットのような高価な材料からなるようにしなくても、据え込み鍛造成形中における金属製ワークWBの流動性を高めることができる。
【0045】
従って、第2実施形態に係る鍛造用金型ユニット15又は第2実施形態に係る鍛造成形方法によれば、金型21,25の材料コストの低減を図りつつ、金型21,25の焼付きを長期間に亘って防止することができ、金型寿命を十分に延ばすことができる。また、据え込み鍛造成形に必要なプレス荷重を低減して、鍛造プレス17の大型化を十分に抑制することができる。
【0046】
本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【実施例】
【0047】
実施例について比較例1及び比較例2を含めて説明する。
【0048】
実施例として、高速度工具鋼製上金型と高速度工具鋼製下金型を備えかつ高速度工具製下金型の成形面の一部(例えば、金属製ワークの流動方向に沿って収縮する部位)に放電エネルギーによってステライト金属からなるポーラスな硬質皮膜が形成された鍛造用金型ユニットを用い、鍛造プレスの運転によって金属製ワークを塑性流動させて押し出し鍛造成形を行った。また、比較例1として、サーメット製上金型とサーメット製下金型を備えた鍛造用金型ユニットを用い、比較例2として、高速度工具鋼製上金型と高速度工具鋼製下金型を備えかつ高速度工具製下金型の成形面の一部(例えば、金属製ワークの流動方向に沿って収縮する部位)にCVDによってステライト金属からなる硬質皮膜が形成された鍛造用金型ユニットを用い、それぞれ押し出し鍛造成形を行った。
【0049】
そして、押し出し鍛造成形の回数(成形回数)と押し出し鍛造成形に必要なプレス荷重(必要プレス荷重)との関係をまとめると、図8に示すようになる。即ち、実施例の場合には、比較例1の場合と同じレベルまで必要プレス荷重を低減できることが分かった。また、比較例2の場合には、成形回数が6回になると、硬質皮膜が剥離して、金型の焼付きが発生したのに対して、実施例の場合には、成形回数が15回に達しても、硬質皮膜が剥離することなく、金型の焼付きが生じないことが分かった。
【0050】
実施例の場合には、1回目の押し出し鍛造成形中に硬質皮膜に酸化物セラミックスが生成されたことが確認された。なお、実施例に用いた鍛造用金型ユニットにあっては、硬質皮膜を形成する際に放電エネルギーによって硬質皮膜と下金型の母材との間に傾斜合金層が生成されていることが確認された。
【0051】
ここで、図示は省略するが、別の実施例として、ステライト金属からなるポーラスな硬質皮膜に代えて、TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるポーラスな硬質皮膜が形成された鍛造用金型ユニットを用いても、実施例と同様の結果になることが分かった。また、押し出し鍛造成形以外の鍛造成形(例えば据え込み鍛造成形)を行っても、同様の現象が生じるが分かった。
【0052】
よって、前述の鍛造成形の結果等に基づいて、本発明者は、上金型及び/又は下金型(金型)の成形面の成形面の少なくとも一部に放電エネルギーによってステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなるポーラスな硬質皮膜を形成しておくことにより、硬質皮膜と金型の母材との間に生成された傾斜合金層によって、硬質皮膜と金型の母材との密着強度を十分の確保した上で、鍛造成形中に硬質皮膜に生成された酸化物セラミックスによる潤滑作用及び硬質皮膜のポーラスな組織による潤滑剤の保持作用を発揮させて、鍛造成形中における金属製ワークの流動性を高めることができるという、新規な知見を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1実施形態に係る鍛造用金型ユニットの正面図である。
【図2】放電電極を用いて硬質皮膜を形成する状態を説明する図である。
【図3】第1実施形態に係る鍛造成形方法を説明する図である。
【図4】図4(a)は、絞り鍛造成形前の金属製ワークを示す図、図4(b)は、絞り鍛造成形後の成形品を示す図である。
【図5】第2実施形態に係る鍛造用金型ユニットの正面図である。
【図6】第2実施形態に係る鍛造成形方法を説明する図である。
【図7】図7(a)は、据え込み鍛造成形前の金属製ワークを示す図、図7(b)は、据え込み鍛造成形後の成形品を示す図である。
【図8】実施例、比較例1、及び比較例2について、鍛造成形の回数と必要プレス荷重との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
E 放電電極
WA 金属製ワーク
WA’ 成形品
WB 金属製ワーク
WB 成形品
1 鍛造用金型ユニット
3 鍛造プレス
5 ラム
7 上金型
7f 成形面
9 テーブル
11 下金型
11f 成形面
13 硬質皮膜
15 鍛造用金型ユニット
17 鍛造プレス
19 ラム
21 上金型
21f 成形面
23 テーブル
25 下金型
25f 成形面
27 硬質皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造プレスの運転によって金属製ワークを塑性流動させて鍛造成形する際に用いられる鍛造用金型ユニットにおいて、
前記鍛造プレスに上下に対向して着脱可能な上金型と下金型とを備え、
前記上金型及び/又は前記下金型の成形面の少なくとも一部に放電エネルギーによってポーラスな硬質皮膜が形成され、前記硬質皮膜は、鍛造成形中に酸化物セラミックスが生成されるように構成されたことを特徴とする鍛造用金型ユニット。
【請求項2】
前記硬質皮膜は、ステライト金属,TiC,W,WC,Ti,TiN,Cr,Cr32,Nb,NbC,V,VC,Mo,Mo2C,Ta,TaCのいずれか1つ又は複数の組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載の鍛造用金型ユニット。
【請求項3】
鍛造プレスの運転によって金属製ワークを塑性流動させて鍛造成形する鍛造成形方法において、
請求項1又は請求項2に記載の発明特定事項からなる鍛造用金型ユニットを用い、金属製ワークを前記下金型にセットする第1工程と、
前記第1工程の終了後に、前記鍛造プレスの運転によって前記上金型を前記下金型に対して相対的に下方向へ移動させることにより、前記硬質皮膜に生成された酸化物セラミックスによる潤滑作用及び前記硬質皮膜のポーラスな組織による潤滑剤の保持作用も相まって、金属製ワークを前記上金型及び/又は前記下金型の成形面に沿って流動塑性させて鍛造成形する第2工程と、を具備したことことを特徴とする鍛造成形方法。
【請求項4】
前記第1工程は、加熱した金属製ワークを前記下金型にセットするようになってあって、
前記第2工程は、前記金型ユニットを加熱した状態で、前記鍛造プレスの運転によって前記上金型を前記下金型に対して相対的に下方向へ移動させることを特徴とする請求項3に記載の鍛造成形方法。
【請求項5】
前記上金型及び/又は前記下金型の成形面の一部は、金属製ワークの流動方向に沿って収縮する部位であることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の鍛造成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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