鍛造装置及び鍛造方法
【課題】抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる鍛造技術を提供することを課題とする。
【解決手段】抜き勾配が付いている勾配付き部と、抜き勾配が付いていない勾配無し部とを、円周方向に交互に有しているワークが配置されるダイ30と、このダイ30に向かって移動するパンチ50とにより、冷間鍛造又は熱間鍛造を施す鍛造装置20において、塑性変形を施し、その後にパンチ50を離すときにパンチ50側から勾配無し部17を押すパンチ側ノックアウト部材70を備える。
【効果】勾配無し部をパンチ側ノックアウト部材で直接押すことができ、抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる。
【解決手段】抜き勾配が付いている勾配付き部と、抜き勾配が付いていない勾配無し部とを、円周方向に交互に有しているワークが配置されるダイ30と、このダイ30に向かって移動するパンチ50とにより、冷間鍛造又は熱間鍛造を施す鍛造装置20において、塑性変形を施し、その後にパンチ50を離すときにパンチ50側から勾配無し部17を押すパンチ側ノックアウト部材70を備える。
【効果】勾配無し部をパンチ側ノックアウト部材で直接押すことができ、抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造素材を出発材料として、円盤状のワークを得る鍛造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の塑性加工技術の一つに鍛造法がある。この鍛造法には、型を用いて鍛造を行う型鍛造と、型を用いないで鍛造を行う自由鍛造とがある。このうち型鍛造は、量産性に優れることから、特に自動車などの車両部品の大量生産に利用されており、各種の装置が提案されている(例えば、特許文献1(図4)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図13は従来の技術の基本構成を説明する図であり、鍛造装置100は、ダイ101と、パンチ102を主要素とする。そして、パンチ102は、中心にサブパンチ103を備えており、ダイ101はノックアウト部材104を備えている。
このノックアウト部材104は、油圧シリンダなどの駆動手段105によって駆動される。
【0004】
ダイ101に鍛造素材を載せ、パンチ102及びサブパンチ103を下げて鍛造素材に塑性加工を施すことで、鍛造品(以下、ワークという)106を得る。
次に、パンチ102及びサブパンチ103を上げる。ワーク106はダイ101に載っているため、ノックアウト部材104で突き出すことで、ダイ101からワーク106を分離する。ノックアウト部材104から外すことでワーク106を得る。
【0005】
パンチ102を上げる際に、ワーク106がパンチ102に付いて上がらないように、ワーク106とパンチ102の分離性を高める必要があり、そのためには、ワーク106に十分に抜き勾配を設ける必要がある。
【0006】
直角度が要求される製品等では、テーパ部を削って直線化する加工が施される。すると、切粉の分だけ歩留まりが悪くなる。又、ニヤネットシェイプ化から最終製品に近い鍛造品が求められる。このような種々の理由により、製品によっては抜き勾配を小さくする又は抜き勾配を設けないものがある。
【0007】
この場合、ワーク106に抜き勾配を設けられないので、ワーク106とパンチ102の分離性が低下し、ワーク106がパンチ102に付いてパンチ102と共に上がることがある。すなわち、抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる鍛造技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3709327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる鍛造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、抜き勾配が付いている勾配付き部と、抜き勾配が付いていない勾配無し部とを、円周方向に交互に有しているワークが配置されるダイと、このダイに向かって移動するパンチとにより、冷間鍛造又は熱間鍛造を施す鍛造装置において、塑性変形を施し、その後に前記パンチを離すときに前記パンチ側から前記勾配無し部を押すパンチ側ノックアウト部材を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、パンチ側ノックアウト部材は、ワークが塑性変形されるときにはパンチの成形面の一部を構成する一部成形面を有し、ワークの塑性変形の際はノックアウト方向に付勢し、ワークの塑性変形後にワークからパンチを離すときにはパンチの成形面からワークを分離させる流体弾性駆動機構を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、ワークは、パンチ側から見ると、薄肉部と、この薄肉部より幅広の厚肉部とを円周方向に交互に有しており、請求項1又は請求項2記載の鍛造装置によりワークに塑性変形を施し、その後にワークからパンチを離す際は、パンチ側ノックアウト部材で厚肉部を押すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、ワークは抜き勾配が付いている勾配付き部と、抜き勾配が付いていない勾配無し部とを、円周方向に交互に有しており、勾配無し部はパンチから離型しにくい部分となる。本発明においては、パンチ側から勾配無し部を押すパンチ側ノックアウト部材を備えるので、勾配無し部をパンチ側ノックアウト部材で直接押すことができ、抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、パンチ側ノックアウト部材は、ワークが塑性変形されるときにはパンチの成形面の一部を構成する一部成形面を有する。ワークの塑性変形の際、流体弾性駆動機構によりパンチ側ノックアウト部材がノックアウト方向へ付勢されるので、鍛造素材が加圧されてキャビティ内での材料の流動を促すと共に緻密か図れ、鍛造品質の向上を図ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、ワークは、パンチ側から見ると、薄肉部と、この薄肉部より幅広の厚肉部とを円周方向に交互に有している。鍛造時、厚肉部では肉が流動する余地が多いが、薄肉部では肉が流動する余地が少ないため、厚肉部より薄肉部が高圧になりがちである。この点、本発明では、パンチ側ノックアウト部材で厚肉部を押すので、厚肉部における材料が局部的に加圧され、薄肉部と厚肉部との間での圧力差が低減でき、キビティ内での材料の流動性を均一にでき鍛造品質の向上を図ることができる。
【0016】
加えて、厚肉部が加圧されるので、厚肉部における材料が充填され易くなり、鍛造品質の向上をより一層図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】鍛造されたワークの斜視図である。
【図2】本発明に係る鍛造装置の断面図である。
【図3】パンチの断面図である。
【図4】図3の4−4線断面図である。
【図5】図3の5−5線断面図である。
【図6】図3の6−6線断面図である。
【図7】図3の7−7線断面図である。
【図8】鍛造における準備工程を示す図である。
【図9】鍛造におけるパンチ下降工程を示す図である。
【図10】パンチ側ノックアウト部材の作用図である。
【図11】鍛造におけるパンチ上昇行程を示す図である。
【図12】鍛造におけるダイ側ノックアウト工程を示す図である。
【図13】従来の技術に係る鍛造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
先ず、実施例に係る鍛造装置で製造されるワーク(鍛造品)の形状を説明する。
図1に示されるように、ワーク10は、型鍛造で塑性成形される円板状部品であり、円板部11と、この片面から突出し且つ円板部11より小径のボス部12と、円板部11の片面から突出し且つボス部12よりもさらに小径の筒部13と、からなる。
【0020】
ボス部12の外周部に、複数の凹部が円周方向に並んで形成されている。これらの凹部の形成により、結果として、ボス部12の外周部には、薄肉部14と、この薄肉部14より幅広の厚肉部15とが円周方向に交互に並んで形成される。
【0021】
薄肉部14の外側面は、パンチ(図2、符号50)に対して抜け勾配が付いている勾配付き部16が形成されている。勾配付き部16は、ワークの中心軸線18に対して上方且つ内向きに僅かに傾斜している。
【0022】
厚肉部15の外側面は、パンチ(図2、符号50)に対して抜け勾配が付いていない勾配無し部17が形成されている。勾配無し部17は、ワーク10の中心軸線18と平行に形成されている。
【0023】
次に、実施例に係る鍛造装置を説明する。
図2に示されるように、鍛造装置20は、固定部21と、固定部21に向けて移動可能な可動部22とからなる。
【0024】
固定部21は、ロアプレート23と、ロアプレート23の上面に嵌め込まれた基台25と、基台25の上に置かれた保持部材26及びダイ側スペーサ27と、ダイ側スペーサ27に支持されたダイ30と、ダイ30、ダイ側スペーサ27及び保持部材26を収納し、基台25及びロアプレート23にボルト31で締結されたダイハウジング32と、ダイ30の中心軸線33上に配置され、ロアプレート23からダイ30までを貫通して上下方向に移動可能なダイ側ノックアウト部材34と、からなる。
【0025】
ダイ30は、ワーク(図1、符号10)の下部を成形するダイ内型35と、ダイ内型35の外周部に嵌められ、円板部(図1、符号11)の外周部の成形面となるダイ外型36とからなる。
【0026】
可動部22は、アッパプレート38と、アッパプレート38にボルト31で締結されダイ30の中心軸線33上に芯出しされるパンチ側スペーサ39と、パンチ側スペーサ39に嵌められアッパプレート38にボルト31で締結されたパンチハウジング40と、パンチハウジング40に支持プレート41を介して保持されダイ30に合わさるパンチ50と、からなる。
【0027】
次に鍛造装置20の要部について説明する。
図3に示されるように、パンチ50は、パンチハウジング40の下端に支持され円板部(図1、符号11)外周部の成形面となるパンチ外型51と、パンチ外型51内に収納され、筒部(図1、符号13)の成形面となるパンチ内型53と、を備えている。パンチ内型53には、材料の中央部を押す押圧部52が設けられている。
【0028】
パンチ外型51の上下方向中央部に、すり鉢状斜面54が形成され、すり鉢状斜面54の下部に、開口部55が開口している。
【0029】
パンチ内型53は、その中心部及び円周方向に並ぶ複数の箇所に、貫通穴60を有している。
【0030】
中央に位置する貫通穴60は、パンチ内型53の上面に開口する空洞部61と、空洞部61の下側に段差部62を介して形成されパンチ内型53の下面に開口した摺動孔64と、を有している。
【0031】
円周方向に並ぶ複数の貫通穴60は、パンチ内型53の空洞部61と、空洞部61の下側に段差部62を介して形成されパンチ内型53の下面に開口した摺動凹部63と、からなる。
【0032】
貫通穴60には、ワーク(図1、符号10)の塑性成形後にワークからパンチ50を離すときに、パンチ50の成形面65からワークを分離させる流体弾性駆動機構80を備える。
【0033】
流体弾性駆動機構80は、パンチ50の成形面65からワークをノックアウトする複数のパンチ側ノックアウト部材70と、パンチ側スペーサ39の中央凹部81に上下移動自在に設けられパンチ側ノックアウト部材70を保持するノックアウト保持部材82と、パンチ側スペーサ39のスペーサ側貫通穴83及びアッパプレート(図2、符号38)のアッパ側貫通穴(図2、符号84)に摺動自在に設けられノックアウト保持部材82を押すロッド85と、アッパプレート38に設けられロッド85を進退させるシリンダ(図2、符号86)とからなる。
【0034】
パンチ側ノックアウト部材70は、摺動凹部63を上下方向に摺動する摺動部71及び第2歯車状リング71aと、第2歯車状リング71aの上端に連なる歯車形状の歯車状リング部72と、歯車状リング部72と連なり空洞部61の上部に位置する鍔部73と、鍔部73の上端から貫通穴60へ延び支持プレート41のプレート貫通穴74を貫通する軸部75と、成形面65の一部を構成する一部成形面76とからなる。また、段差部62と鍔部73の間に、パンチ側ノックアウト部材70を上方へ付勢する戻しばね77が設けられる。なお、第2歯車状リング71aは、ワーク(図1、符号10)のボス部(図1、符号12)の形状と同径に、歯車状リング部72の外形よりも大きい例を示したが、歯車状リング部72は、戻しばね77が前述の位置に収まるのであれば、第2歯車状リング71aの外径に合わせて第2歯車状リング71aと同径であってもかまわない。
【0035】
パンチ側ノックアウト部材70は、ノックアウト保持部材82が支持プレート41に支持された状態において、摺動部71及び第2歯車状リング71aを成形面65よりも下方に突出させている。また、ノックアウト保持部材82の上面と中央凹部81の間に、摺動部71の下方への突出量と同じ長さのクリアランスがある。
【0036】
すなわち、パンチ側ノックアウト部材70は、成形面65から突出する方向(図では下方)については、ノックアウト保持部材82が支持プレート41に当たる位置で移動が規制され、パンチ内型53の内部へ後退する方向(図では上方)については、ノックアウト保持部材82が中央凹部81に当たる位置で移動が規制されている。
【0037】
図4に示されるように、円周方向に並ぶ複数(図では6個)の軸部75は、ワークの複数の肉厚部(図1、符号15)に対向するように等間隔に配置されている。ノックアウト保持部材82は、ロッド85に保持される中心部87から各軸部75に枝状に延びる枝部88を有し、この枝部88の先端部に軸部75が保持されている。
中央凹部81は、ノックアウト保持部材82の枝部88に沿った形状を呈している。
【0038】
図5に示されるように、円周方向に並ぶ複数(図では6個)のパンチ側ノックアウト部材70は、ワークの複数の厚肉部(図1、符号15)に対向するように等間隔に配置されている。なお、パンチ側ノックアウト部材70の個数及び配置は、任意であるが、厚肉部(図1、符号15)の個数及び配置に合わせることが好ましい。
【0039】
図6に示されるように、可動部22は、中心に配置され図表裏方向に摺動するパンチ側ノックアウト部材70と、パンチ側ノックアウト部材70の円周方向外方に設けられるパンチ内型53と、パンチ内型53の円周方向外方に配置され図表裏方向へ摺動するとともに歯車形状を呈する歯車状リング部72と、歯車状リング部72の円周方向外方に等間隔に配置される複数の戻しばね77と、これら戻しばね77の外方に設けられるパンチ外型51と、パンチ外型51の円周方向外方に設けられるパンチハウジング40とを有する。
【0040】
図7に示されるように、中央部に摺動部71が配置され、摺動部71の円周方向外方にパンチ内型53が設けられ、パンチ内型53の円周方向外方に第2歯車状リング71aが配置され、第2歯車状リング71aの円周方向外方にパンチ外型51が設けられる。この図の第2歯車状リング71aの外形形状は、図6に示す歯車状リング部72の外形形状と同じ歯車形状であってもかまわない。
【0041】
また、パンチ外型51の開口部55は、ワークの勾配付き部(図1、符号16)及び勾配無し部(図1、符号17)のそれぞれの成形面となる勾配付き面91及び勾配無し面92を円周上に交互に有する。
【0042】
以上に説明した鍛造装置20を用いて実施する鍛造方法を図8〜図12に基づいて説明する。
図8に示されるように、ダイ30のダイ側ノックアウト部材34の上に、鍛造素材19をセットする(準備工程)。そして、可動部22を矢印(1)のように下降させ鍛造を実施する。このとき、パンチ側ノックアウト部材70は矢印(2)の方向に力が加えられる。ただし、鍛造素材19がキャビティ94内で塑性変形する際、矢印(2)の力は、鍛造素材から19受ける反力よりも小さい。結果、パンチ側ノックアウト部材70の一部成形面76が成形面65から突出することはない。
一方、パンチ側ノックアウト部材70を押上げる鍛造素材19(一部成形面76付近の鍛造素材19)は、摺動部71及び第2歯車状リング71aを介してシリンダ(図2、符号86)からの力を受け、加圧される。鍛造素材19は加圧されながら、キャビティ94全体に行き渡り、ワーク10が成形される。
【0043】
図9は可動部22を下死点に到達させたときのワーク10の成形状態を示している(パンチ下降工程)。鍛造素材(図8、符号19)の置かれたダイ30にパンチ50を合わせると、鍛造素材19は、パンチ内型53及びパンチ外型51に押し潰されて塑性変形しながら、キャビティ94内を流動する。
【0044】
すると、流動する鍛造素材19によって、パンチ側ノックアウト部材70は押上げられて上方に移動し、ノックアウト保持部材82がパンチ側スペーサ39に当たって移動が規制される。それと同時に、摺動部71の一部成形面76は、パンチ50の成形面65を構成する(キャビティ94の一部となる)ため、ワーク10の仕上がりに影響を与えない。
【0045】
図10に示されるように、ワーク10の成形が終わると、矢印(3)で示す方向に可動部22を上昇させる。パンチ50をワーク10から離型させ始めたとき、パンチ側ノックアウト部材70を矢印(4)のように移動させ、厚肉部15及び勾配無し部17を押しつつ下方に突出しながら、ワーク10をパンチ50からノックアウトする(パンチ側ノックアウト工程)。
【0046】
図11に示されるように、更に可動部22を矢印(5)で示す方向(上死点へ向かう方向)に上昇させる(パンチ上昇行程)。パンチ側ノックアウト部材70のノックアウト作用及びワーク10の自重により、ワーク10は、パンチ50から完全に離型し、ダイ30に残る。
【0047】
図12に示されるように、矢印(6)で示す方向に、ダイ側ノックアウト部材34を駆動することによって、ダイ30に残ったワーク10をダイ30からノックアウトし(ダイ側ノックアウト工程)、鍛造装置20から取出す。これで1つのワーク10の製造が完了する。
【0048】
以上に述べた鍛造装置20及び鍛造方法の作用効果を説明する。
図2に示されるように、抜き勾配が付いている勾配付き部(図1、符号16)と、抜き勾配が付いていない勾配無し部(図1、符号17)とを、円周方向に交互に有しているワーク(図1、符号10)が配置されるダイ30と、このダイ30に向かって移動するパンチ50とにより、冷間鍛造又は熱間鍛造を施す鍛造装置20において、塑性変形を施し、その後にパンチ50を離すときにパンチ50側から勾配無し部17を押すパンチ側ノックアウト部材70を備える。
【0049】
この構成により、勾配無し部17をパンチ側ノックアウト部材70で直接押すことができ、抜き勾配が設けられていない部分を有するワーク10であっても、パンチ50から確実に離型することができる。
【0050】
図3に示されるように、パンチ側ノックアウト部材70は、ワーク(図1、符号10)が塑性変形されるときにはパンチ50の成形面65の一部を構成する一部成形面76を有し、ワーク10の塑性変形の際はノックアウト方向に付勢し、ワーク10の塑性変形後にワーク10からパンチ50を離すときにはパンチ50の成形面65からワーク10を分離させる流体弾性駆動機構80を備える。
【0051】
この構成により、ワーク10の塑性変形の際、流体弾性駆動機構80によりパンチ側ノックアウト部材70がノックアウト方向へ付勢されるので、鍛造素材(図8、符号19)が加圧されてキャビティ(図9、符号94)内での材料の流動を促すと共に緻密か図れ、鍛造品質の向上を図ることができる。
【0052】
図10に示されるように、ワーク10は、パンチ50側から見ると、薄肉部(図1、符号14)と、この薄肉部14より幅広の厚肉部15とを円周方向に交互に有しており、請求項1又は請求項2記載の鍛造装置20によりワーク10に塑性変形を施し、その後にワーク10からパンチ50を離す際は、パンチ側ノックアウト部材70で厚肉部15を押す。
【0053】
この工程により、鍛造時、厚肉部15では肉が流動する余地が多いが、薄肉部14では肉が流動する余地が少ないため、厚肉部15より薄肉部14が高圧になりがちである。この点、本発明では、パンチ側ノックアウト部材70で厚肉部15を押すので、厚肉部15における材料が局部的に加圧され、薄肉部14と厚肉部15との間での圧力差が低減でき、キビティ94内での材料の流動性を均一にでき鍛造品質の向上を図ることができる。
【0054】
加えて、厚肉部15が加圧されるので、厚肉部15における材料が充填され易くなり、鍛造品質の向上をより一層図ることができる。
【0055】
尚、本発明の鍛造装置及び鍛造方法は、実施の形態では円板状部品の製造に適用したが、薄肉部と厚肉部とを交互に有する、あるいは、勾配無し部を有する一般の機械部品に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のワークの鍛造技術は、鍛造素材を出発材料として、円盤状のワークを得る鍛造技術に好適である。
【符号の説明】
【0057】
10…ワーク、14…薄肉部、15…厚肉部、16…勾配付き部、17…勾配無し部、20…鍛造装置、30…ダイ、50…パンチ、65…成形面、70…パンチ側ノックアウト部材、76…一部成形面、80…流体弾性駆動機構、86…シリンダ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造素材を出発材料として、円盤状のワークを得る鍛造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の塑性加工技術の一つに鍛造法がある。この鍛造法には、型を用いて鍛造を行う型鍛造と、型を用いないで鍛造を行う自由鍛造とがある。このうち型鍛造は、量産性に優れることから、特に自動車などの車両部品の大量生産に利用されており、各種の装置が提案されている(例えば、特許文献1(図4)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図13は従来の技術の基本構成を説明する図であり、鍛造装置100は、ダイ101と、パンチ102を主要素とする。そして、パンチ102は、中心にサブパンチ103を備えており、ダイ101はノックアウト部材104を備えている。
このノックアウト部材104は、油圧シリンダなどの駆動手段105によって駆動される。
【0004】
ダイ101に鍛造素材を載せ、パンチ102及びサブパンチ103を下げて鍛造素材に塑性加工を施すことで、鍛造品(以下、ワークという)106を得る。
次に、パンチ102及びサブパンチ103を上げる。ワーク106はダイ101に載っているため、ノックアウト部材104で突き出すことで、ダイ101からワーク106を分離する。ノックアウト部材104から外すことでワーク106を得る。
【0005】
パンチ102を上げる際に、ワーク106がパンチ102に付いて上がらないように、ワーク106とパンチ102の分離性を高める必要があり、そのためには、ワーク106に十分に抜き勾配を設ける必要がある。
【0006】
直角度が要求される製品等では、テーパ部を削って直線化する加工が施される。すると、切粉の分だけ歩留まりが悪くなる。又、ニヤネットシェイプ化から最終製品に近い鍛造品が求められる。このような種々の理由により、製品によっては抜き勾配を小さくする又は抜き勾配を設けないものがある。
【0007】
この場合、ワーク106に抜き勾配を設けられないので、ワーク106とパンチ102の分離性が低下し、ワーク106がパンチ102に付いてパンチ102と共に上がることがある。すなわち、抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる鍛造技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3709327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる鍛造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、抜き勾配が付いている勾配付き部と、抜き勾配が付いていない勾配無し部とを、円周方向に交互に有しているワークが配置されるダイと、このダイに向かって移動するパンチとにより、冷間鍛造又は熱間鍛造を施す鍛造装置において、塑性変形を施し、その後に前記パンチを離すときに前記パンチ側から前記勾配無し部を押すパンチ側ノックアウト部材を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、パンチ側ノックアウト部材は、ワークが塑性変形されるときにはパンチの成形面の一部を構成する一部成形面を有し、ワークの塑性変形の際はノックアウト方向に付勢し、ワークの塑性変形後にワークからパンチを離すときにはパンチの成形面からワークを分離させる流体弾性駆動機構を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、ワークは、パンチ側から見ると、薄肉部と、この薄肉部より幅広の厚肉部とを円周方向に交互に有しており、請求項1又は請求項2記載の鍛造装置によりワークに塑性変形を施し、その後にワークからパンチを離す際は、パンチ側ノックアウト部材で厚肉部を押すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、ワークは抜き勾配が付いている勾配付き部と、抜き勾配が付いていない勾配無し部とを、円周方向に交互に有しており、勾配無し部はパンチから離型しにくい部分となる。本発明においては、パンチ側から勾配無し部を押すパンチ側ノックアウト部材を備えるので、勾配無し部をパンチ側ノックアウト部材で直接押すことができ、抜き勾配が設けられていない部分を有するワークであっても、パンチから確実に離型することができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、パンチ側ノックアウト部材は、ワークが塑性変形されるときにはパンチの成形面の一部を構成する一部成形面を有する。ワークの塑性変形の際、流体弾性駆動機構によりパンチ側ノックアウト部材がノックアウト方向へ付勢されるので、鍛造素材が加圧されてキャビティ内での材料の流動を促すと共に緻密か図れ、鍛造品質の向上を図ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、ワークは、パンチ側から見ると、薄肉部と、この薄肉部より幅広の厚肉部とを円周方向に交互に有している。鍛造時、厚肉部では肉が流動する余地が多いが、薄肉部では肉が流動する余地が少ないため、厚肉部より薄肉部が高圧になりがちである。この点、本発明では、パンチ側ノックアウト部材で厚肉部を押すので、厚肉部における材料が局部的に加圧され、薄肉部と厚肉部との間での圧力差が低減でき、キビティ内での材料の流動性を均一にでき鍛造品質の向上を図ることができる。
【0016】
加えて、厚肉部が加圧されるので、厚肉部における材料が充填され易くなり、鍛造品質の向上をより一層図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】鍛造されたワークの斜視図である。
【図2】本発明に係る鍛造装置の断面図である。
【図3】パンチの断面図である。
【図4】図3の4−4線断面図である。
【図5】図3の5−5線断面図である。
【図6】図3の6−6線断面図である。
【図7】図3の7−7線断面図である。
【図8】鍛造における準備工程を示す図である。
【図9】鍛造におけるパンチ下降工程を示す図である。
【図10】パンチ側ノックアウト部材の作用図である。
【図11】鍛造におけるパンチ上昇行程を示す図である。
【図12】鍛造におけるダイ側ノックアウト工程を示す図である。
【図13】従来の技術に係る鍛造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
先ず、実施例に係る鍛造装置で製造されるワーク(鍛造品)の形状を説明する。
図1に示されるように、ワーク10は、型鍛造で塑性成形される円板状部品であり、円板部11と、この片面から突出し且つ円板部11より小径のボス部12と、円板部11の片面から突出し且つボス部12よりもさらに小径の筒部13と、からなる。
【0020】
ボス部12の外周部に、複数の凹部が円周方向に並んで形成されている。これらの凹部の形成により、結果として、ボス部12の外周部には、薄肉部14と、この薄肉部14より幅広の厚肉部15とが円周方向に交互に並んで形成される。
【0021】
薄肉部14の外側面は、パンチ(図2、符号50)に対して抜け勾配が付いている勾配付き部16が形成されている。勾配付き部16は、ワークの中心軸線18に対して上方且つ内向きに僅かに傾斜している。
【0022】
厚肉部15の外側面は、パンチ(図2、符号50)に対して抜け勾配が付いていない勾配無し部17が形成されている。勾配無し部17は、ワーク10の中心軸線18と平行に形成されている。
【0023】
次に、実施例に係る鍛造装置を説明する。
図2に示されるように、鍛造装置20は、固定部21と、固定部21に向けて移動可能な可動部22とからなる。
【0024】
固定部21は、ロアプレート23と、ロアプレート23の上面に嵌め込まれた基台25と、基台25の上に置かれた保持部材26及びダイ側スペーサ27と、ダイ側スペーサ27に支持されたダイ30と、ダイ30、ダイ側スペーサ27及び保持部材26を収納し、基台25及びロアプレート23にボルト31で締結されたダイハウジング32と、ダイ30の中心軸線33上に配置され、ロアプレート23からダイ30までを貫通して上下方向に移動可能なダイ側ノックアウト部材34と、からなる。
【0025】
ダイ30は、ワーク(図1、符号10)の下部を成形するダイ内型35と、ダイ内型35の外周部に嵌められ、円板部(図1、符号11)の外周部の成形面となるダイ外型36とからなる。
【0026】
可動部22は、アッパプレート38と、アッパプレート38にボルト31で締結されダイ30の中心軸線33上に芯出しされるパンチ側スペーサ39と、パンチ側スペーサ39に嵌められアッパプレート38にボルト31で締結されたパンチハウジング40と、パンチハウジング40に支持プレート41を介して保持されダイ30に合わさるパンチ50と、からなる。
【0027】
次に鍛造装置20の要部について説明する。
図3に示されるように、パンチ50は、パンチハウジング40の下端に支持され円板部(図1、符号11)外周部の成形面となるパンチ外型51と、パンチ外型51内に収納され、筒部(図1、符号13)の成形面となるパンチ内型53と、を備えている。パンチ内型53には、材料の中央部を押す押圧部52が設けられている。
【0028】
パンチ外型51の上下方向中央部に、すり鉢状斜面54が形成され、すり鉢状斜面54の下部に、開口部55が開口している。
【0029】
パンチ内型53は、その中心部及び円周方向に並ぶ複数の箇所に、貫通穴60を有している。
【0030】
中央に位置する貫通穴60は、パンチ内型53の上面に開口する空洞部61と、空洞部61の下側に段差部62を介して形成されパンチ内型53の下面に開口した摺動孔64と、を有している。
【0031】
円周方向に並ぶ複数の貫通穴60は、パンチ内型53の空洞部61と、空洞部61の下側に段差部62を介して形成されパンチ内型53の下面に開口した摺動凹部63と、からなる。
【0032】
貫通穴60には、ワーク(図1、符号10)の塑性成形後にワークからパンチ50を離すときに、パンチ50の成形面65からワークを分離させる流体弾性駆動機構80を備える。
【0033】
流体弾性駆動機構80は、パンチ50の成形面65からワークをノックアウトする複数のパンチ側ノックアウト部材70と、パンチ側スペーサ39の中央凹部81に上下移動自在に設けられパンチ側ノックアウト部材70を保持するノックアウト保持部材82と、パンチ側スペーサ39のスペーサ側貫通穴83及びアッパプレート(図2、符号38)のアッパ側貫通穴(図2、符号84)に摺動自在に設けられノックアウト保持部材82を押すロッド85と、アッパプレート38に設けられロッド85を進退させるシリンダ(図2、符号86)とからなる。
【0034】
パンチ側ノックアウト部材70は、摺動凹部63を上下方向に摺動する摺動部71及び第2歯車状リング71aと、第2歯車状リング71aの上端に連なる歯車形状の歯車状リング部72と、歯車状リング部72と連なり空洞部61の上部に位置する鍔部73と、鍔部73の上端から貫通穴60へ延び支持プレート41のプレート貫通穴74を貫通する軸部75と、成形面65の一部を構成する一部成形面76とからなる。また、段差部62と鍔部73の間に、パンチ側ノックアウト部材70を上方へ付勢する戻しばね77が設けられる。なお、第2歯車状リング71aは、ワーク(図1、符号10)のボス部(図1、符号12)の形状と同径に、歯車状リング部72の外形よりも大きい例を示したが、歯車状リング部72は、戻しばね77が前述の位置に収まるのであれば、第2歯車状リング71aの外径に合わせて第2歯車状リング71aと同径であってもかまわない。
【0035】
パンチ側ノックアウト部材70は、ノックアウト保持部材82が支持プレート41に支持された状態において、摺動部71及び第2歯車状リング71aを成形面65よりも下方に突出させている。また、ノックアウト保持部材82の上面と中央凹部81の間に、摺動部71の下方への突出量と同じ長さのクリアランスがある。
【0036】
すなわち、パンチ側ノックアウト部材70は、成形面65から突出する方向(図では下方)については、ノックアウト保持部材82が支持プレート41に当たる位置で移動が規制され、パンチ内型53の内部へ後退する方向(図では上方)については、ノックアウト保持部材82が中央凹部81に当たる位置で移動が規制されている。
【0037】
図4に示されるように、円周方向に並ぶ複数(図では6個)の軸部75は、ワークの複数の肉厚部(図1、符号15)に対向するように等間隔に配置されている。ノックアウト保持部材82は、ロッド85に保持される中心部87から各軸部75に枝状に延びる枝部88を有し、この枝部88の先端部に軸部75が保持されている。
中央凹部81は、ノックアウト保持部材82の枝部88に沿った形状を呈している。
【0038】
図5に示されるように、円周方向に並ぶ複数(図では6個)のパンチ側ノックアウト部材70は、ワークの複数の厚肉部(図1、符号15)に対向するように等間隔に配置されている。なお、パンチ側ノックアウト部材70の個数及び配置は、任意であるが、厚肉部(図1、符号15)の個数及び配置に合わせることが好ましい。
【0039】
図6に示されるように、可動部22は、中心に配置され図表裏方向に摺動するパンチ側ノックアウト部材70と、パンチ側ノックアウト部材70の円周方向外方に設けられるパンチ内型53と、パンチ内型53の円周方向外方に配置され図表裏方向へ摺動するとともに歯車形状を呈する歯車状リング部72と、歯車状リング部72の円周方向外方に等間隔に配置される複数の戻しばね77と、これら戻しばね77の外方に設けられるパンチ外型51と、パンチ外型51の円周方向外方に設けられるパンチハウジング40とを有する。
【0040】
図7に示されるように、中央部に摺動部71が配置され、摺動部71の円周方向外方にパンチ内型53が設けられ、パンチ内型53の円周方向外方に第2歯車状リング71aが配置され、第2歯車状リング71aの円周方向外方にパンチ外型51が設けられる。この図の第2歯車状リング71aの外形形状は、図6に示す歯車状リング部72の外形形状と同じ歯車形状であってもかまわない。
【0041】
また、パンチ外型51の開口部55は、ワークの勾配付き部(図1、符号16)及び勾配無し部(図1、符号17)のそれぞれの成形面となる勾配付き面91及び勾配無し面92を円周上に交互に有する。
【0042】
以上に説明した鍛造装置20を用いて実施する鍛造方法を図8〜図12に基づいて説明する。
図8に示されるように、ダイ30のダイ側ノックアウト部材34の上に、鍛造素材19をセットする(準備工程)。そして、可動部22を矢印(1)のように下降させ鍛造を実施する。このとき、パンチ側ノックアウト部材70は矢印(2)の方向に力が加えられる。ただし、鍛造素材19がキャビティ94内で塑性変形する際、矢印(2)の力は、鍛造素材から19受ける反力よりも小さい。結果、パンチ側ノックアウト部材70の一部成形面76が成形面65から突出することはない。
一方、パンチ側ノックアウト部材70を押上げる鍛造素材19(一部成形面76付近の鍛造素材19)は、摺動部71及び第2歯車状リング71aを介してシリンダ(図2、符号86)からの力を受け、加圧される。鍛造素材19は加圧されながら、キャビティ94全体に行き渡り、ワーク10が成形される。
【0043】
図9は可動部22を下死点に到達させたときのワーク10の成形状態を示している(パンチ下降工程)。鍛造素材(図8、符号19)の置かれたダイ30にパンチ50を合わせると、鍛造素材19は、パンチ内型53及びパンチ外型51に押し潰されて塑性変形しながら、キャビティ94内を流動する。
【0044】
すると、流動する鍛造素材19によって、パンチ側ノックアウト部材70は押上げられて上方に移動し、ノックアウト保持部材82がパンチ側スペーサ39に当たって移動が規制される。それと同時に、摺動部71の一部成形面76は、パンチ50の成形面65を構成する(キャビティ94の一部となる)ため、ワーク10の仕上がりに影響を与えない。
【0045】
図10に示されるように、ワーク10の成形が終わると、矢印(3)で示す方向に可動部22を上昇させる。パンチ50をワーク10から離型させ始めたとき、パンチ側ノックアウト部材70を矢印(4)のように移動させ、厚肉部15及び勾配無し部17を押しつつ下方に突出しながら、ワーク10をパンチ50からノックアウトする(パンチ側ノックアウト工程)。
【0046】
図11に示されるように、更に可動部22を矢印(5)で示す方向(上死点へ向かう方向)に上昇させる(パンチ上昇行程)。パンチ側ノックアウト部材70のノックアウト作用及びワーク10の自重により、ワーク10は、パンチ50から完全に離型し、ダイ30に残る。
【0047】
図12に示されるように、矢印(6)で示す方向に、ダイ側ノックアウト部材34を駆動することによって、ダイ30に残ったワーク10をダイ30からノックアウトし(ダイ側ノックアウト工程)、鍛造装置20から取出す。これで1つのワーク10の製造が完了する。
【0048】
以上に述べた鍛造装置20及び鍛造方法の作用効果を説明する。
図2に示されるように、抜き勾配が付いている勾配付き部(図1、符号16)と、抜き勾配が付いていない勾配無し部(図1、符号17)とを、円周方向に交互に有しているワーク(図1、符号10)が配置されるダイ30と、このダイ30に向かって移動するパンチ50とにより、冷間鍛造又は熱間鍛造を施す鍛造装置20において、塑性変形を施し、その後にパンチ50を離すときにパンチ50側から勾配無し部17を押すパンチ側ノックアウト部材70を備える。
【0049】
この構成により、勾配無し部17をパンチ側ノックアウト部材70で直接押すことができ、抜き勾配が設けられていない部分を有するワーク10であっても、パンチ50から確実に離型することができる。
【0050】
図3に示されるように、パンチ側ノックアウト部材70は、ワーク(図1、符号10)が塑性変形されるときにはパンチ50の成形面65の一部を構成する一部成形面76を有し、ワーク10の塑性変形の際はノックアウト方向に付勢し、ワーク10の塑性変形後にワーク10からパンチ50を離すときにはパンチ50の成形面65からワーク10を分離させる流体弾性駆動機構80を備える。
【0051】
この構成により、ワーク10の塑性変形の際、流体弾性駆動機構80によりパンチ側ノックアウト部材70がノックアウト方向へ付勢されるので、鍛造素材(図8、符号19)が加圧されてキャビティ(図9、符号94)内での材料の流動を促すと共に緻密か図れ、鍛造品質の向上を図ることができる。
【0052】
図10に示されるように、ワーク10は、パンチ50側から見ると、薄肉部(図1、符号14)と、この薄肉部14より幅広の厚肉部15とを円周方向に交互に有しており、請求項1又は請求項2記載の鍛造装置20によりワーク10に塑性変形を施し、その後にワーク10からパンチ50を離す際は、パンチ側ノックアウト部材70で厚肉部15を押す。
【0053】
この工程により、鍛造時、厚肉部15では肉が流動する余地が多いが、薄肉部14では肉が流動する余地が少ないため、厚肉部15より薄肉部14が高圧になりがちである。この点、本発明では、パンチ側ノックアウト部材70で厚肉部15を押すので、厚肉部15における材料が局部的に加圧され、薄肉部14と厚肉部15との間での圧力差が低減でき、キビティ94内での材料の流動性を均一にでき鍛造品質の向上を図ることができる。
【0054】
加えて、厚肉部15が加圧されるので、厚肉部15における材料が充填され易くなり、鍛造品質の向上をより一層図ることができる。
【0055】
尚、本発明の鍛造装置及び鍛造方法は、実施の形態では円板状部品の製造に適用したが、薄肉部と厚肉部とを交互に有する、あるいは、勾配無し部を有する一般の機械部品に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のワークの鍛造技術は、鍛造素材を出発材料として、円盤状のワークを得る鍛造技術に好適である。
【符号の説明】
【0057】
10…ワーク、14…薄肉部、15…厚肉部、16…勾配付き部、17…勾配無し部、20…鍛造装置、30…ダイ、50…パンチ、65…成形面、70…パンチ側ノックアウト部材、76…一部成形面、80…流体弾性駆動機構、86…シリンダ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜き勾配が付いている勾配付き部と、抜き勾配が付いていない勾配無し部とを、円周方向に交互に有しているワークが配置されるダイと、このダイに向かって移動するパンチとにより、冷間鍛造又は熱間鍛造を施す鍛造装置において、
塑性変形を施し、その後に前記パンチを離すときに前記パンチ側から前記勾配無し部を押すパンチ側ノックアウト部材を備えることを特徴とする鍛造装置。
【請求項2】
前記パンチ側ノックアウト部材は、前記ワークが塑性変形されるときには前記パンチの成形面の一部を構成する一部成形面を有し、
前記ワークの塑性変形の際はノックアウト方向に付勢し、前記ワークの塑性変形後に前記ワークから前記パンチを離すときには前記パンチの成形面から前記ワークを分離させる流体弾性駆動機構を備えることを特徴とする請求項1記載の鍛造装置。
【請求項3】
前記ワークは、前記パンチ側から見ると、薄肉部と、この薄肉部より幅広の厚肉部とを円周方向に交互に有しており、
請求項1又は請求項2記載の鍛造装置により前記ワークに塑性変形を施し、その後に前記ワークから前記パンチを離す際は、前記パンチ側ノックアウト部材で前記厚肉部を押すことを特徴とする鍛造方法。
【請求項1】
抜き勾配が付いている勾配付き部と、抜き勾配が付いていない勾配無し部とを、円周方向に交互に有しているワークが配置されるダイと、このダイに向かって移動するパンチとにより、冷間鍛造又は熱間鍛造を施す鍛造装置において、
塑性変形を施し、その後に前記パンチを離すときに前記パンチ側から前記勾配無し部を押すパンチ側ノックアウト部材を備えることを特徴とする鍛造装置。
【請求項2】
前記パンチ側ノックアウト部材は、前記ワークが塑性変形されるときには前記パンチの成形面の一部を構成する一部成形面を有し、
前記ワークの塑性変形の際はノックアウト方向に付勢し、前記ワークの塑性変形後に前記ワークから前記パンチを離すときには前記パンチの成形面から前記ワークを分離させる流体弾性駆動機構を備えることを特徴とする請求項1記載の鍛造装置。
【請求項3】
前記ワークは、前記パンチ側から見ると、薄肉部と、この薄肉部より幅広の厚肉部とを円周方向に交互に有しており、
請求項1又は請求項2記載の鍛造装置により前記ワークに塑性変形を施し、その後に前記ワークから前記パンチを離す際は、前記パンチ側ノックアウト部材で前記厚肉部を押すことを特徴とする鍛造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−240075(P2012−240075A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111428(P2011−111428)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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