説明

長期間高温下使用に供される耐侵食・腐蝕性炭化物サーメット

セラミックス相がCr23、Cr、Crおよびそれらの混合物よりなる群から選択されるサーメットを提供する。バインダー相は、ある特定のNi/Cr合金およびあるFe/Ni/Cr合金よりなる群から選択される。これらのサーメットは、高温において侵食から表面を保護するのに特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーメット組成物に関する。より詳細には、本発明は、炭化クロム含有サーメット組成物および耐高温侵食・腐食用途におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
耐摩耗性および耐薬品性の材料は、金属表面の侵食または腐食を促進するおそれのある物質に金属表面が暴露される多くの用途で使用される。
【0003】
種々の化学プロセスおよび石油プロセスに使用される反応器容器および移送ラインは、材料の劣化から表面を保護するための材料を備えることの多い金属表面を有する装置の例である。これらの容器および移送ラインは典型的には高温で使用されるので、それらを劣化から保護することが技術的課題である。現在は、高温で侵食性または腐食性の環境に暴露される金属表面を保護するために耐熱性ライナーが使用される。しかしながら、これらの耐熱性ライナーの寿命は、石油処理および石油化学処理で遭遇することの多いライナーの機械的摩損(特に高速微粒子に暴露されたとき)によって著しく制限される。耐熱性ライナーはまた、一般に亀裂および破砕を呈する。従って、高温における侵食および腐食に対してより耐性のあるライナー材料が必要とされている。
【0004】
セラミックス金属複合体即ちサーメットは、セラミックスの硬度と金属の破壊靭性とを属性として有することが知られているが、それは比較的緩和な温度(例えば、25℃から約300℃以下まで)で使用した場合に限られる。例えば、炭化タングステン(WC)系サーメットは、硬度と破壊靭性とを兼ね備えているので、流体で冷却される切削工具やドリルビットのような耐高摩耗用途に有用である。しかしながら、WC系サーメットは、約600°F(315℃)を超える高温度が持続すると劣化する。
【0005】
炭化クロムは、その3つの結晶学的形態:立方晶(Cr23)、六方晶(Cr)および斜方晶(Cr)が高温で優れた耐酸化性を有するので、サーメットに使用するのに潜在的に好適なセラミックス相であったが、これらの炭化物から形成されるサーメットは、典型的には、高温で変態を起こして、そのようなサーメットの特性に有害な影響を及ぼすマイクロ構造相を形成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新しい改良されたサーメット組成物を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、高温で使用するのに適した炭化クロム含有サーメット組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、高温で長期間使用するのに適した長期間マイクロ構造安定性を有する炭化クロム含有サーメット組成物を提供することである。
【0009】
本発明の更に他の目的は、高温条件下で侵食や腐食から金属表面を保護するための改良された方法を提供することである。
【0010】
これらのおよび他の目的は、以下の詳細な説明から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
広義には、本発明は、バインダー相中に分散された炭化クロムセラミックス相を含むサーメット組成物である。サーメット組成物の全体積の約50体積%〜約95体積%を構成するセラミックス相は、Cr23、Cr、Crおよびそれらの混合物よりなる群から選択される炭化クロムである。
【0012】
バインダー相は、
(i)約60重量%〜約98重量%のNi;約2重量%〜約35重量%のCr;並びに5重量%までの、Al、Si、Mn、Tiおよびそれらの混合物よりなる群から選択される元素を含有する合金;および
(ii)約0.01重量%〜約35重量%のFe;約25重量%〜約97.99重量%のNi;約2重量%〜約35重量%のCr;並びに約5重量%までの、Al、Si、Mn、Tiおよびそれらの混合物よりなる群から選択される元素を含有する合金
よりなる群から選択される。いずれの場合においても、重量%は、合金の全重量を基準にする。
【0013】
妥当な場合には好ましい実施形態を含めて、本発明のこのおよび他の実施形態について以下の詳細な説明で明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一実施形態では、本発明は、連続したバインダー相中に分散された炭化クロムセラミックス相を含むサーメット組成物である。
【0015】
セラミックス相は、サーメット組成物の全体積の約50体積%〜約95体積%を構成し、セラミックス相は、Cr23、CrおよびCrよりなる群から選択される炭化クロムであり、この群には、それらの化学量論量未満および化学量論量超の変動が包含されるものとする。
【0016】
セラミックス相の粒度径は、典型的には約3mm未満、好ましくは約100μm未満、より好ましくは約50μm未満である。分散セラミックス粒子は、任意の形状をとりうる。いくつかの例としては、球体、楕円体、多面体、歪曲球体、歪曲楕円体および歪曲多面体の形状が挙げられるが、これらに限定されるものではない。粒度径とは、3D形状粒子の最長軸の寸法を意味する。光学顕微鏡法(OM)、走査型電子顕微鏡法(SEM)および透過型電子顕微鏡法(TEM)のような顕微鏡法を用いれば、粒度を決定することができる。
【0017】
バインダー相は、
(i)約60重量%〜約98重量%のNi;約2重量%〜約35重量%のCr;並びに約5重量%までの、Al、Si、Mn、Tiおよびそれらの混合物よりなる群から選択される元素を含有する合金;および
(ii)約0.01重量%〜約35重量%のFe;約25重量%〜約97.99重量%のNi;約2重量%〜約35重量%のCr;並びに約5重量%までの、Al、Si、Mn、Tiおよびそれらの混合物よりなる群から選択される元素を含有する合金
よりなる群から選択される。いずれの場合においても、重量%は、合金の全重量を基準にする。
【0018】
高温で使用するのに適したサーメット組成物の具体例としては、以下のものが挙げられる:
(1)78重量%のNi、約4重量%のFeおよび18重量%のCrを含むバインダー中の約50体積%のCr
(2)78重量%のNi、約4重量%のFeおよび18重量%のCrを含むバインダー中の約70体積%のCr
(3)75重量%のNi、約7重量%のFeおよび約18重量%のCrを含むバインダー中の約94体積%のCr
(4)72重量%のNi、約10重量%のFeおよび18重量%のCrを含むバインダー中の約50体積%のCr23
(5)67重量%のNi、15重量%のFeおよび18重量%のCrを含むバインダー中の約50体積%のCr23;および
(6)77重量%のNi、5重量%のFeおよび18重量%のCrを含むバインダー中の約90体積%のCr23
【0019】
好ましいサーメット組成物は、次のとおりである:
(1)バインダー(i)中の50体積%〜90体積%のCr23
(2)バインダー(i)中の50体積%〜90体積%のCr
(3)65体積%〜95体積%のCrとCrの混合物(後者は、混合物の約1体積%〜約18体積%)およびバインダー(i);
(4)バインダー(i)中の50体積%〜95体積%のCr
【0020】
サーメット組成物は、出発原料として炭化クロムセラミックス粉末およびバインダー粉末をそれぞれ50:50〜95:5の体積比で利用して、混合、ミリング、プレス、焼結および冷却を行うなどの一般的な粉末冶金法により作製される。好ましくは、炭化クロム粉末は、Cr23、CrおよびCrのうちの1つであるが、これらの混合物を使用することも可能である。好ましくは、バインダーは、表1に示される合金組成物のうちの1つである。
【0021】
【表1】

【0022】
これらの粉末は、粉末を互いに実質的に分散させるのに十分な時間をかけてエタノールのような十分量の有機液体の存在下でボールミルによりミリングされる。液体は除去され、そしてミリングされた粉末は乾燥され、ダイ中に配置され、グリーン体の状態にプレスされる。次に、グリーン体は、約10分間〜約4時間の範囲内の時間をかけて約1200℃超かつ約1600℃までの温度で焼結される。焼結操作は、好ましくは、不活性雰囲気中もしくは還元性雰囲気中または真空下で行われる。例えば、不活性雰囲気はアルゴンであってよく、還元性雰囲気は水素であってよい。その後、焼結体は、典型的には周囲条件まで冷却される。本明細書に記載の方法に準拠してサーメットを製造すれば、厚さ5mmを超えるバルクサーメット体を製造することができる。
【0023】
これらのプロセス条件の結果として、バインダー中に1種または複数種の炭化物が分散される。更に、プロセスの結果として、セラミックスおよびバインダーがいくらかの組成変化を生じる。例えば、利用される炭化物セラミックスがCrでありかつバインダーがNi−20Cr合金である場合、得られるサーメットは、バインダー相のCrがいくらか低減されてCr相とCr相の両方を含有していた。一方、利用されるセラミックスが同一のバインダー中のCr23である場合、セラミックスの組成は実質的に変化しない。
【0024】
サーメット相(およびサーメット構成部分)の体積パーセントは、多孔度に基づく細孔体積を除外したものである。サーメットは、0.1〜15体積%の範囲内の多孔度により特性付けることができる。好ましくは、多孔度の体積は、サーメットの体積の0.1〜10%未満である。多孔度を構成する細孔は、好ましくは、連結されているのではなく、サーメット体中に個別の細孔として分布している。平均細孔径は、好ましくは、炭化クロムセラミックス相の平均粒度と同一であるかまたはそれ未満である。
【0025】
本発明に係るサーメットの特徴の1つは、高温でさえもそのマイクロ構造が長期間安定であるので約300℃〜約1000℃の範囲内の温度において金属表面を侵食から保護すべく使用するのに特に適していることである。この安定性のおかげで、長期間(例えば2年間超)にわたりその使用が可能である。これとは対照的に、多くの公知のサーメットは、高温で変態を起こして、サーメットの特性に有害な影響を及ぼす相を形成する。
【0026】
計算熱力学的計算法の技術分野の当業者に公知の相図計算(CALPHAD)法を用いて計算熱力学により本発明に係るサーメットの長期間マイクロ構造安定性を確認した。種々の炭化物相、それらの量、バインダー量およびそれぞれの化学的特性により、長期間マイクロ構造安定性を有するサーメット組成物が得られることを、これらの計算で確認した。更に、本発明に係るサーメット組成物を800℃で空気中に1000時間暴露する実験室実験を行った。この1000時間高温暴露後に得られたサーメットのバルクマイクロ構造の解析を行ったところ、SEMにより調べた場合、出発マイクロ構造が実質的に保持されていることが判明した。
【0027】
本発明のサーメット組成物は、1000℃までの温度に暴露されたときに少なくとも25年間持続する長期間マイクロ構造安定性を呈しうる。
【0028】
本発明に係るサーメットの他の特徴は、約3MPa・m1/2超、好ましくは約5MPa・m1/2超、最も好ましくは約10MPa・m1/2超の破壊靭性を有することである。破壊靭性とは、単調荷重条件下で材料の亀裂伝播に耐える能力である。破壊靭性は、亀裂が材料中を不安定な形で伝播するときの臨界応力拡大係数として定義される。好ましくは、曲げサンプルの引張側に予亀裂を設けて3点曲げジオメトリーで荷重を加えることにより、破壊力学理論を用いて破壊靭性を測定する。先の段落に記載した本発明に係るサーメットのバインダー相は、主に、この属性を付与する役割を担う。
【0029】
本発明に係るサーメットは高温安定性であるので、耐熱材が現在利用されている用途に適している。好適な用途としては、プロセス容器、移送ライン、サイクロン(例えば、精製工業で使用される流動接触分解ユニットのサイクロンのような流体固体分離サイクロン)、グリッドインサート、サーモウェル、バルブボディー、サイドバルブのゲートおよびガイド、触媒再生器などに用いられるライナーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。従って、特に約300℃〜約1000℃で侵食性または腐食性の環境に暴露される金属表面は、本発明に係るセラミックス組成物の層を表面に配設することにより保護される。本発明に係るサーメットは、機械的手段または溶接により金属表面に固定することができる。
【実施例】
【0030】
体積パーセントの決定:
それぞれの相、構成部分の体積パーセントおよび細孔の体積(または多孔度)は、走査型電子顕微鏡法により2次元面積分率から決定した。焼結サーメットサンプルを走査型電子顕微鏡法(SEM)で調べて、好ましくは1000倍の倍率で二次電子画像を取得した。SEMで走査した区域に対して、エネルギー分散型X線分光法(EDXS)を用いてX線ドット画像を取得した。サンプルの5つの隣接区域についてSEMおよびEDXSの分析を行った。次に、それぞれの区域に対して画像解析ソフトウェア:エダックス・イメイジング/マッピング・バージョン3.2(EDX Imaging/Mapping Version 3.2)(米国ニュージャージー州07430モーウォーのエダックス・インコーポレーテッド(EDAX Inc,Mahwah,New Jersey 07430,USA))を用いて、それぞれの相の2次元面積分率を決定した。5つの測定値から面積分率の算術平均を求めた。次に、平均面積分率に100を掛けることにより体積パーセント(体積%)を求めた。実施例に記されている体積%は、相の測定量が2体積%未満のときは±50%の精度を有し、相の測定量が2体積%以上のときは±20%の精度を有する。
【0031】
重量パーセントの決定:
サーメット相中の元素の重量パーセントは、標準的EDXS分析により決定した。
【0032】
本発明について更に具体的に説明すべく、以下に実施例を記載するが、これらに限定されるものではない。
【0033】
実施例1
高密度ポリエチレンミリングジャー中でエタノールを用いて、70体積%の平均直径14.0μmのCr粉末(純度99.5%、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)製)および30体積%のNi−20Cr合金バインダー粉末(アルファ・エイサー(Alfa Aesar)、325メッシュ未満で篩分けられた)を分散させた。エタノール中の粉末をボールミルによりイットリア強化ジルコニアボール(直径10mm、東ソー・セラミックス製)と共に100rpmで24時間混合した。真空オーブン中、130℃で24時間加熱することにより、混合粉末からエタノールを除去した。液圧式一軸プレス(スペックス3630自動Xプレス(SPEX 3630 Automated X−press))を用いて直径40mmのダイにより5,000psiで乾燥粉末を圧縮した。得られたグリーンディスクペレットをアルゴン中、25℃/分で400℃まで昇温し、残留溶媒を除去すべく30分間保持した。次に、ディスクをアルゴン中、15℃/分で1450℃に加熱し、1450℃に1時間保持した。次に、温度を−15℃/分で100℃未満に低下させた。
【0034】
得られたサーメットは、
i)20μmの平均粒度を有する63体積%のCr
ii)20μmの平均粒度を有する12体積%のCr
iii)25体積%のCr低減合金バインダー(87Ni:13Cr(重量%単位))
を含む。
【0035】
図1は、この実施例に従って処理されたサーメットのSEM画像であり、バーは20μmを示す。この画像では、炭化クロム相は明色に見え、バインダー相は暗色に見える。
【0036】
実施例2
70体積%の平均直径14.0μmのCr粉末(純度99.5%、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)製)および30体積%のNi−20Cr合金バインダー粉末(アルファ・エイサー(Alfa Aesar)、325メッシュ未満で篩分けられた)を使用し、実施例1の混合・プレス手順に準拠した。次に、ディスクを水素中、15℃/分で1400℃に1時間加熱した。次に、温度を−15℃/分で100℃未満に低下させた。
【0037】
得られたサーメットは、
i)20μmの平均粒度を有する67体積%のCr
ii)33体積%のCr富化合金バインダー(76Ni:24Cr(重量%単位))
を含んでいた。
【0038】
図2は、この実施例に従って処理されたサーメットのSEM画像であり、バーは20μmを示す。この画像では、炭化クロム相は明色に見え、バインダー相は暗色に見える。
【0039】
実施例3
70体積%の平均直径14.0μmのCr23粉末(純度99.5%、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)製)および30体積%のNi−20Cr合金バインダー粉末(アルファ・エイサー(Alfa Aesar)、325メッシュ未満で篩分けられた)を使用し、実施例2の手順に準拠した。
【0040】
得られたサーメットは、
i)20μmの平均粒度を有する67体積%のCr23
ii)33体積%のCr富化合金バインダー(69Ni:31Cr(重量%単位))
で構成されていた。
【0041】
図3は、この実施例に従って処理されたサーメットのSEM画像であり、バーは20μmを示す。この画像では、炭化クロム相は明色に見え、バインダー相は暗色に見える。
【0042】
実施例4
85体積%の平均直径14.0μmのCr粉末(純度99.5%、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)製)および15体積%のNi−20Cr合金バインダー粉末(アルファ・エイサー(Alfa Aesar)、325メッシュ未満で篩分けられた)を使用し、実施例2の手順に準拠した。
【0043】
加熱時、いくらかのCr相がCr相と置き換わる。結果として、炭化物の体積分率が増大し、バインダー中のCr含有率が低減する。得られたサーメットは、
i)20μmの平均粒度を有する80体積%のCr
ii)20μmの平均粒度を有する7体積%のCr
iii)13体積%のCr低減合金バインダー(85Ni:15Cr(重量%単位))
で構成されていた。
【0044】
実施例5
実施例1、2および3のサーメット組成物をリンドバーグ(Lindberg)ボックス炉内の空気中に800℃で1000時間暴露した。暴露後、SEMを用いてサンプルを分析した。3つの先に述べたサンプルのいずれにおいても、新しい相の析出、もとの相組成の比率の変化、それぞれの化学的特性の変化はすべて、有意には観測されなかった。従って、実施例1、2および3のサーメット組成物は長期間マイクロ構造安定性を有することが確認された。
【0045】
実施例6(比較例)
実施例1の手順並びに70体積%の平均直径14.0μmのCr粉末(純度99.5%、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)製)および30体積%の平均直径6.7μmの304SS合金バインダー粉末(オスプレイ・メタルズ(Osprey Metals)、Fe(残分):18.5Cr:9.6Ni:1.4Mn:0.63Si、95.9%が−16μm未満で篩分けられた)を用いて、好ましい熱力学的に安定なサーメットを形成しない系の比較例を作製する。次に、ディスクをアルゴン中、15℃/分で1400℃に加熱し、1400℃に1時間保持した。加熱時、有意な体積%のCr相がCr相と置き換わる。最終結果として、炭化物の体積分率は増大し、バインダー中のCr含有率は低減する。
【0046】
得られたサーメットは、次の非平衡マイクロ構造体:
i)20μmの平均粒度を有する8体積%のCr
ii)20μmの平均粒度を有する72体積%のCr
iii)20体積%のCr低減合金バインダー
で構成されていた。
【0047】
次に、焼結ディスクを空気中、800℃で1000時間加熱した。空気中、800℃に1000時間暴露した後、このサーメットは、
i)>9.5体積%のCr
ii)>85.5体積%のCr
iii)<5体積%のCr低減合金バインダー(13.2Si:9.4Cr:8.9Fe:68.5Ni(重量%単位))
を含む。
【0048】
図4は、この実施例に従って空気中で加熱した後のサーメットのSEM画像であり、バーは10μmを示す。この画像では、炭化クロム相は明色に見え、バインダー相は暗色に見える。この図は、この比較的短期間の高温暴露を行った後の<5体積%の304SSおよび>95体積%の炭化クロムを示している。金属組成物は、クロム含有率が低減されることによりサーメットの破壊靭性が低下した。
【0049】
実施例7
実施例1〜4の各サーメットを高温侵食・摩損試験(HEAT)に付したところ、1.0×10−6cc/グラム(SiC侵食材)未満の侵食率を有することが判明した。
利用した手順は、次のとおりであった:
1)直径約35mmおよび厚さ約5mmのサーメットディスク試料を秤量した。
2)次に、標的から1インチの位置で終端する直径0.5インチのチューブから45°の角度で送出される加熱空気に連行された1200g/分のSiC粒子(粒度220番、#1グレードのブラック・シリコン・カーバイド(Black Silicon Carbide)、イリノイ州ノースブルックのUKアブレイシブス(UK abrasives,Northbrook,IL))をディスクの片面の中心に当てた。
SiCの速度は、45.7m/秒であった。
3)工程(2)を732℃で7時間行った。
4)7時間後、試料を周囲温度に冷却させ、秤量して重量損失を求めた。
5)市販のキャスタブル耐火物の試料の侵食を調べ、比較標準として使用した。比較標準の侵食に1の値を与えた。サーメット試料の結果を表2で比較標準と比較する。表2において、1を超える値はいずれも、比較標準よりも改善されたことを示している。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例8
実施例1〜4の各サーメットを腐食試験に付したところ、約1.0×10−11/cms未満の腐食率を有することが判明した。利用した手順は、次のとおりであった:
1)約10mmの正方形および約1mmの厚さのサーメット試料を粒度600番のダイヤモンド仕上げで研磨し、アセトンで洗浄した。
2)次に、熱重量分析計(TGA)を用いて800℃で100cc/分の空気に試料を暴露した。
3)工程(2)を800℃で65時間行った。
4)65時間後、試料を周囲温度に冷却させた。
5)腐食表面の断面顕微鏡観察により、酸化物スケールの厚さを求めた。
6)試料表面上に形成された酸化物スケールの厚さはすべて1μm未満であったことから、優れた耐腐食性であることが示される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】30体積%のNi−20Crバインダー中で出発物質Crを用いて作製されたサーメットの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。Ni−20Crは、80重量%のNiおよび20重量%のCrを示す。
【図2】30体積%のNi−20Crバインダー中で出発物質Crを用いて作製されたサーメットの表面のSEM画像である。
【図3】30体積%のNi−20Crバインダー中で出発物質Cr23を用いて作製されたサーメットの表面のSEM画像である。
【図4】30体積%の304ステンレス鋼(304SS)バインダー中で出発物質Crを用いて作製されたサーメットの表面を800℃に1000時間暴露した後のSEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーメット組成物であって、
(a)前記サーメット組成物の全体積を基準にして50体積%〜95体積%のセラミックス相(前記セラミックス相は、Cr23、Cr、Crおよびそれらの混合物よりなる群から選択される炭化クロムである);および
(b)下記(i)および(ii):
(i)合金であって、前記合金の全重量を基準にして60重量%〜98重量%のNi;2重量%〜35重量%のCr;並びに5重量%までのAl、Si、Mn、Tiおよびそれらの混合物よりなる群から選択される元素を含有する合金
(ii)0.01重量%〜35重量%のFe;25重量%〜97.99重量%のNi;2重量%〜35重量%のCr;並びにAl、Si、Mn、Tiおよびそれらの混合物よりなる群から選択される5重量%までの元素を含有する合金
よりなる群から選択されるバインダー相
を含むことを特徴とするサーメット組成物。
【請求項2】
前記バインダーは、(i)であることを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項3】
前記炭化クロムは、Cr23であることを特徴とする請求項2に記載のサーメット組成物。
【請求項4】
前記炭化クロムは、Crであることを特徴とする請求項2に記載のサーメット組成物。
【請求項5】
前記炭化クロムは、CrとCrの混合物であることを特徴とする請求項2に記載のサーメット組成物。
【請求項6】
前記炭化クロムは、Crであることを特徴とする請求項2に記載のサーメット組成物。
【請求項7】
前記バインダーは、(ii)であることを特徴とする請求項1に記載のサーメット組成物。
【請求項8】
1000℃までの温度に暴露したときに少なくとも25年間持続する長期間マイクロ構造安定性を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のサーメット組成物。
【請求項9】
300℃〜850℃の範囲内の温度で侵食性物質に暴露される金属表面の保護方法であって、請求項1〜7のいずれかに記載のサーメット組成物を前記金属表面に配設することを含むことを特徴とする金属表面の保護方法。
【請求項10】
前記表面は、流体固体分離サイクロンの内部表面を含むことを特徴とする請求項9に記載の金属表面の保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−530777(P2007−530777A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533190(P2006−533190)
【出願日】平成16年5月18日(2004.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/015558
【国際公開番号】WO2004/104250
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】