説明

長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体から成るコク味向上剤の利用方法

本発明の目的は、食品のコク味を向上させ、更に、その味又は風味を向上させる方法を提供することである。
本発明は、炭素数が20以上かつ二重結合を3つ以上有するn−3系の長鎖高度不飽和脂肪酸、又は、炭素数が18以上かつ二重結合を3つ以上有するn−6系の長鎖高度不飽和脂肪酸である長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによる食品の風味又は呈味を向上又は改善する方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体から成るコク味向上剤の利用方法、より具体的には、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体、又はそれらから成るコク味向上剤及びこれを含む植物油脂組成物などを利用した食品の風味又は呈味を向上又は改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アラキドン酸(シス−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)は長鎖高度(多価)不飽和脂肪酸の一種であり動物の臓器及び組織から得られるリン脂質中に存在する。これは必須脂肪酸でありプロスタグランジン、トロンボキサンチン及びロイコトリエン等の合成の前駆体となる重要な化合物である。
【0003】
このようなアラキドン酸の機能に注目して、従来、アラキドン酸のような長鎖高度不飽和脂肪酸及びそのエステルを、栄養強化及び各種生理的作用を付与する目的で油脂及び食品等の各種組成物へ添加することが試みられてきた。
【0004】
特開平10−99048に記載の栄養強化組成物には、母乳に近い成分を実現する為に添加される成分の一種としてアラキドン酸が0.1〜10重量%含有されている。
【0005】
一方、エステル体の例としては、特開平4−197134に蒸発潜熱による生地内部の温度降下が防止されたフライ用油脂組成物が記載されているが、そこにはアラキドン酸等の不飽和脂肪酸が構成脂肪酸として20〜60重量%含有されている。
【0006】
特開平9−13075では、アラキドン酸等の長鎖多価不飽和脂肪酸を含むグリセリドからなる血中脂質濃度を低減する作用のある油脂が記載されているが、このグリセリドはエステル交換法により得られ、該長鎖多価不飽和脂肪酸の総量の40モル%未満がグリセリドの2位に結合するという天然油とは異なる構造を有するものである。特開平9−13076では、同じ構成から成る血小板凝集能を抑制する作用のある油脂が記載されている。
【0007】
又、特開平11−89513に記載のヒト乳脂肪に近似する合成脂質組成物には、アラキドン酸を含む長鎖n−6高度不飽和脂肪酸がトリグリセリドを構成する脂肪酸の一種として使用されている。
【0008】
更に、特開平10−70992及び特開平10−191886にはアラキドン酸をトリグリセリドの形で豊富に含有する微生物由来の食用油脂が記載されており、この好適用途として、未熟児用調製乳、乳児用調製乳、幼児用食品、及び妊婦用食品等が挙げられている。
【0009】
しかしながら、上記の従来技術のいずれにおいても、アラキドン酸等の長鎖多価不飽和脂肪酸を食品や植物油脂のコク等の風味を向上させる目的で使用することに関する開示はなく、このような目的に使用できる可能性を示唆する記載も見当たらない。
【0010】
一方で、このような長鎖高度不飽和脂肪酸を添加した場合には、その酸化分解物の臭い(所謂「戻り臭」)が食品等の風味を損ねるという問題点があり、その解決策として様々な手段が講じられてきた。
【0011】
かかる手段の例として、例えば、特開昭63−44843に記載の油中水中油型乳化油脂組成物においては高度不飽和脂肪酸を内相油に含有することを特徴とする技術が開示されている。特開平6−172782では高度不飽和脂肪酸を含有する油脂を粉末化する技術が記載されている。特開平9−176679では不飽和脂肪酸粉状体に粉末状の抗酸化剤を混合させる技術が開示されている。特開平9−263784では多価不飽和脂肪酸を含有する油脂にδ−トコフェノールを含有させる技術が開示されている。又、特開平11−12592では高度不飽和脂肪酸を含有する魚脂類にしょうゆ油を添加することを特徴とする技術が開示されている。
【0012】
また、食品分野における長鎖高度不飽和脂肪酸の利用例として、特開2001−78702には、油脂とエキスを水中油型に乳化させることで、まろやかさ、後味、うま味が増強された調味料が開示されており、油脂の例として魚油又は魚油を含有する油脂が挙げれられており、魚油を構成する脂肪酸のうちω3系高度不飽和脂肪酸を10%以上含む例が記載されている。
【0013】
この調味料においては、含まれる油脂の酸化を抑制する為に乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたり、油脂の酸化を防ぐためにエキスに天然物型抽出されたカルノシン、及びアンセリン等の抗酸化物質が含まれていることがこの好ましいとされている。又、調味料を製造する段階で、加熱処理等の酸化処理は一切行われていない。更に、この調味料の効果を有効に発揮できる使用する食品の例としては、水産練り製品、魚類、魚類加工品が挙げられているのみである。
【0014】
又、特許第3220155号公報には、乳脂肪以外の脂肪酸等の酸化によって得ることができる香味料組成物が開示され、この脂肪酸がω−3非共役二重結合系をもつ少なくとも1種類のポリ不飽和脂肪酸を0.01重量%を超える量含むことを特徴としている。この香味料組成物はバター様フレーバーに強く認められている甘く、クリーミィなノートが含まれるものであるが、かかるノートを得る為には油脂を必ず酸化処理する必要がある。そしてこの酸化処理は、酸化を若干遅らせるような量の酸化防止剤が存在するプロセスによる制御された酸化処理である必要がある。又、かかる酸化処理によって発生するフレーバーは揮発性成分であるので、酸化処理は密閉系で行うことが好ましいとされ、実施例においては還流凝縮器を使用して酸化処理を行っている。香味料組成物の用途としてはバターフレーバーをもつと有益な食品の香味付与に特に適していると記載されている。
【0015】
米国特許第3689289号明細書(US3689289)には還元糖とアミノ酸及びアラキドン酸またはそのアラキドン酸メチルエステルを特定の条件下で加熱反応させることで人工的なチキンフレーバーを製造する方法が記載されている。また国際公開第WO03/051139号パンフレットには還元糖とアミノ酸及びアラキドン酸を特定の条件下で加熱反応させることによる人工的なチキンフレーバーを製造する方法においてアラキドン酸をグリセリンエステルの形で使用することにより、生成したチキンフレーバーの香りに耐熱性や持続性が生じることが記載されている。
これらはいずれも糖とアミノ酸とアラキドン酸の3種の加熱反応物が人工的なチキン様の臭いを発現するもので、アラキドン酸等の長鎖高度不飽和脂肪酸が単独で、又は長鎖高度不飽和脂肪酸と糖若しくはアミノ酸とで食品の呈味を改善するという記載は見られない。
【0016】
更に、特開2002−95439号公報には、高度不飽和脂肪酸グリセリドを含有することを特徴とする調味料が開示されており、広くどのような食品とも一緒に食卓で高度不飽和脂肪酸グリセリドを摂取する旨の記載がある。この発明の目的は、酸化劣化されやすい高度不飽和脂肪酸グリセリドの酸化安定性を高めることであり、その為に、大豆の発酵加工食品、魚介類の発酵加工食品もしくはトマト成分を主体とした調味料に高度不飽和脂肪酸グリセリドを含ませることを特徴とするものである。
従って、この発明には、長鎖高度不飽和脂肪酸を酸化処理することは記載されておらず、ましてや、長鎖高度不飽和脂肪酸自体で食品のコク味を向上させ又は付与する効果等に関しては何等開示又は示唆していない。
【0017】
【特許文献1】特許第3220155号公報
【特許文献2】米国特許第3689289号明細書
【特許文献3】国際公開第WO03/051139号パンフレット
【特許文献4】特開2002−95439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、食品の分野において、とんかつ等の油調食品やカレー、餃子等の油脂含有食品等、食品によっては「コク」や「濃厚感」が必要なものがある。そのような食品へ「コク」や「濃厚感」を賦与するため、従来は、香料を添加したり、動物性油脂を単独または植物油脂に配合して使用していた。
【0019】
しかしながら、香料を添加したものにおいては、加熱調理中に香料が揮発し、賦与した「コク味」が持続しないという課題があった。また動物油脂の使用は同油脂に含まれるコレステロールや飽和脂肪酸の健康への影響が懸念されていた。植物油脂はノンコレステロールで飽和脂肪酸が少ないが、植物油脂で調理した食品は「あっさり」しており、「コク味」を必要とする食品には「物足りなさ」が感じられるという課題があった。
【0020】
これらの課題から、ノンコレステロールで飽和脂肪酸が少なく、しかも「コク味」のある油脂の実現が望まれていた。
【0021】
本発明者等は上記の課題を解決すべく研究した結果、従来は肉類等の腐臭等、オフフレーバーの原因物質とされてきたアラキドン酸等の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を単独で食品に含有させるか、又はそれを特定の範囲で含有する植物油脂で加熱調理などの酸化処理をした場合に、食品のコク味が増し、味を引き立たす効果が得られることを既に見出した(PCT/JP03/00182)。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は上記の課題を解決すべく更に研究を重ねた結果、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を食品に添加することで、コク味向上の他に、食品の味又は風味を向上させる様々な機能があることを見出し本発明を完成した。
【0023】
即ち、本発明は、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによる食品の風味又は呈味を向上又は改善する方法に係るものである。
【0024】
本明細書中において、「食品の風味又は呈味を向上又は改善する」とは、夫々の食品に有意な「コク味」や「濃厚感」を新たに付与したり、それらを向上させること、及び、その他の各食品特有の好ましくない臭いを抑制する、という効果をいう。このような本発明の効果に関する評価は、本明細書中の実施例に示した官能評価法によって行うことが出来る。
【0025】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を食品に添加することによる食品の風味又は呈味を向上又は改善する具体的な態様の代表例として、以下のものを挙げることが出来る。
【0026】
即ち、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによる、
(1)調味料の呈味改善および/またはコク味を付与する;
(2)エキスのコク味を向上させる;
(3)卵加工食品の卵風味を向上させる;
(4)スープのコク味を向上させる;
(5)カレー又はシチューにコク味を付与する;
(6)和風つゆ又はだしの加熱褐変臭を抑制する;
(7)畜肉加工食品にコク味を付与する;
(8)チャーハンのコク味及び炒め卵風味を向上させる;又は
(9)植物蛋白の蛋白臭を抑制する、方法。
【0027】
本発明で「長鎖高度不飽和脂肪酸」とは、n−3系の長鎖高度不飽和脂肪酸の場合には炭素数が20以上かつ二重結合を3つ以上有する脂肪酸を意味し、n−6系の長鎖高度不飽和脂肪酸の場合には炭素数が18以上かつ二重結合を3つ以上有する脂肪酸を意味する。更に、n−3系及びn−6系の双方ともに炭素数が20〜24かつ二重結合を4〜6有する長鎖高度不飽和脂肪酸が好ましい。n−6系の長鎖高度不飽和脂肪酸の例としてγリノレン酸、アラキドン酸(AA)及びドコサテトラエン酸(DTA)を挙げることが出来、特に、アラキドン酸が好適である。又、n−3系の長鎖高度不飽和脂肪酸の例として、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)を挙げることが出来る。
【0028】
アラキドン酸等の本発明で使用する長鎖高度不飽和脂肪酸及びそのエステル体の由来に特に制限はなく、各種動植物、微生物、藻類等から得られたものが市販されており、これら当業者には公知のものを適宜使用することが出来る。
【0029】
例えば、上記の特開平10−70992及び特開平10−191886に記載されたアラキドン酸をトリグリセリドの形で豊富に含有する微生物由来の食用油脂を使用することが出来る。更に、γリノレン酸は、それを比較的多量に含む、ボラージ油、月見草油、ローズヒップ油、及びブラックカラント油などの植物油由来のものを使用することが出来る。
【0030】
2種以上の長鎖高度不飽和脂肪酸とは又は異なる原料から得られた同種の脂肪酸を適宜混合して使用することも可能である。
【0031】
エステル体の構造及びその製造方法に特に制限はなく、これを構成するアルコール類としては、一価及び多価アルコールを使用することが出来る。多価アルコールの中でも、安全性やコストの点から好ましいものの例としてグリセロールをあげることができ、この場合にエステル体としてトリグリセリド、ジグリセリド及びモノグリセリドを構成する。これらのエステル体を構成する脂肪酸中に本発明の長鎖高度不飽和脂肪酸以外の脂肪酸が含まれていても良い。
【0032】
本発明の方法において、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体をそのまま使用しても良いし、これらを含有して成る調製物の形態である「コク味向上剤」を添加することによって食品の風味又は呈味を向上又は改善することも可能である。
【0033】
かかるコク味向上剤中の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の含有量に特に制限はないが、含有量があまり少ないと所望の効果を得るために多量のコク味向上剤が必要とされ、その他の成分に由来する雑味の悪影響が生じる可能性もある。従って、本発明のコク味向上剤は、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上含有するものである。
【0034】
コク味向上剤中には、上記活性成分の他に、コク味向上剤の効果に悪影響を与えない限り、当業者に公知の他の任意成分、例えば、乳化剤、トコフェロール類、ステロール類、リン脂質、その他の脂肪酸、その他の脂肪酸より構成されるトリグリセリド、ジグリセリド及びモノグリセリド等が含まれていても良い。
【0035】
尚、n−3系の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を使用する場合に効果を充分得るためにはそれらを酸化処理することが望ましい。酸化処理の方法に特に制限はないが、その一例として加熱処理があげられる。加熱処理の方法に特に制限はないが、酸化防止剤を存在させる必要はなく、又、酸化処理を密閉系で行う必要もない。開放系において、通常、40℃〜200℃において0.1時間〜240時間加熱する方法があり、好ましくは、80℃〜180℃において0.5時間〜72時間加熱する。
【0036】
又、n−6系の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の効果を発揮するために酸化処理は必要ないが、酸化処理することによって、その効果が一層増す。
【0037】
尚、本発明の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体から成るコク味向上剤を同様に加熱等の酸化処理することによっても、同様の効果を実施することが出来る。
【0038】
尚、エステル体の中でも特にグリセリンエステルの場合には、長鎖高度不飽和脂肪酸はそれらのエステル体に比べて揮発性が高いので、より少量で本発明の効果を得ることが出来る。対して、エステル体は揮発性が比較的低い一方で持続性に優れているので、エステル体を含む場合には相対的に含有量が多くなる。
【0039】
更に、アラキドン酸等の本発明の活性成分である脂肪酸及びそのエステル体として微生物由来のものを使用した場合には、動物由来の油脂を実質的に含有しないノンコレステロールで飽和脂肪酸含量が少ないコク味向上剤又は食品を得ることが出来る。
【0040】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を様々な食品に添加する量及び時期に特に制限はない。各食品の種類及び調理方法等に応じて、適当な時期に適当な量を添加することが出来る。尚、食品に長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加した後に、更に、食品が加熱処理されることによって、本発明の効果が一層顕著に得られる。又、本発明方法の処理対象となる食品の種類にも特に制限はない。
【発明の効果】
【0041】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を様々な食品に添加することで、食品の呈味を又は風味を改善ないし向上させることができる。又、本発明の方法の効果を得るためには、特に還元糖やアミノ酸を共存させる必要はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、代表的な食品を例にとって、本発明方法のそれらへの利用例を以下に記載する。
【0043】
(1)調味料
塩、砂糖(砂糖等の糖類)、酢(酢等の有機酸類)、MSG(グルタミン酸ナトリウム)、IN(5’−イノシン酸ナトリウム)、醤油、味噌、酸及び酵素によるタンパク加水分解物のうちの一つ若しくは複数の組み合わせで混合することにより得られた調味料に長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することで調味料の呈味を改善する及び/又はコク味を付与する。調味料の形態に特に制限はなく、例えば、粉末状、ペースト状、及び液体状等を挙げることが出来る。油脂を粉末化したものと各種調味料を混合して調製することも出来る。又、粉末化する際には、賦形剤等の各種公知の補助剤を添加することも出来る。又、乳化剤を添加して乳化しても良い。粉末化の方法は、例えば、スプレードライ及びフリーズドライなどの当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。こうして得られた調味料を各種食品に添加して食品のコク味を向上させることが出来る。
【0044】
(2)エキス(エキス類)
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体をエキスに添加もしくは含有させることにより、エキスのコク味を向上や「たきだし感」を付与させることができる。ここでいうエキスとは、鰹、さば、ホタテ及びカキ、昆布等の海産物より抽出した魚介エキス、或いは、ポーク、チキン及びビーフ等の畜産動物の肉、骨、ガラ等から抽出し得られた畜肉エキス、酵母より抽出した酵母エキス、各種野菜(たまねぎ、にんにく、キャベツ等)から抽出した野菜エキス等が含まれる。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体を添加するときのエキスの濃度は問わない。またエキスの形態としては粉末状、ペースト状、その他いずれの状態でもよく形態は問わない。既に記載したように、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体を添加するエキスに還元糖とアミノ酸の添加は必須ではなく、添加しなくても十分コク味向上効果が発現される。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体はエキス製造工程のどの過程で添加してもよい。
【0045】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を加熱後エキスに添加しても効果は発現するが、エキスと混合した後に加熱することでより効果を発現する。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体とエキスを混合し加熱した後油脂部をろ過等により取り除いてもよい。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体とエキスを混合後、加熱する温度は50〜130℃、好ましくは80〜100℃で加熱時間は10分〜6時間好ましくは1〜3時間である。尚、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体のエキスへの添加濃度は、長鎖高度不飽和脂肪酸として通常、1〜50000ppm、好ましくは10〜10000ppmである。尚、エキスに長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加した後に、加熱以外の粉化及び乾燥等の各種処理を施しても本発明の効果を得ることが出来る。
【0046】
こうして得られるエキスを、塩、砂糖(砂糖等の糖類)、酢(酢等の有機酸類)、MSG(グルタミン酸ナトリウム)、IN(5’−イノシン酸ナトリウム)、醤油、味噌、酸及び酵素によるタンパク加水分解物のうちの一つ若しくは複数の組み合わせと混合することにより得られた調味料を、カレー、スープ等の食品に添加することで、これら食品の呈味を改善する及び/又はコク味を向上させることが出来る。調味料の形態に特に制限はなく、例えば、粉末状、ペースト状、及び液体状等を挙げることが出来る。油脂を粉末化したものと各種調味料を混合して調製することも出来る。又、粉末化する際には、賦形剤等の各種公知の補助剤を添加することも出来る。又、乳化剤を添加して乳化しても良い。粉末化の方法は、例えば、スプレードライ及びフリーズドライなどの当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。
【0047】
(3)卵加工食品
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体を卵加工食品に添加することにより卵風味を向上させることができる。例えばフリーズドライ卵スープのような工業製品に通常調理で作ったような調理直後の良好な卵風味を付与することができる。またマヨネーズにおいても卵の風味を向上させることができ、特に油脂量を低減したローカロリータイプのものは通常マヨネーズに比べコク味や卵風味で劣る欠点があったが、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体を添加することによりコク味付与および卵風味の改善ができる。フリーズドライ卵スープへの添加量は喫食時に、長鎖高度不飽和脂肪酸として通常、1〜1000ppm、好ましくは10〜1000ppmである。マヨネーズへの添加量は10〜1000ppm、好ましくは20〜400ppmである。
【0048】
(4)スープ類
スープ等の液状食品に対しては、喫食時に長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の量に換算して、好ましくは1〜2000ppm、より好ましくは1〜1000ppmを含有させることによって、食品のコク味向上効果が得られる。
【0049】
(5)カレー又はシチュー類
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体をカレーに添加することによりコク味の付与されたカレーを作ることができる。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体のカレーへの添加方法は長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を植物油脂と混合し、ルーの調整に用いることができる。喫食時の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の濃度は、長鎖高度不飽和脂肪酸として通常、10〜2000ppm好ましくは50〜1000ppmである。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を調味料の形態でカレーに使用することができる。
【0050】
(6)和風つゆ、だし
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を「和風つゆ」に利用することにより醤油の加熱褐変臭を抑制し、「だし感」を付与することができる。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を完成した「つゆ」に添加しても効果は発現するが、「つゆ」の製造工程でだしや醤油などの原材料と混合することでより効果を発現する。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体と「つゆ」を混合し加熱した後油脂部をろ過等により取り除いても効果は維持される。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の添加量は喫食時に長鎖高度不飽和脂肪酸として通常0.1〜500ppm、好ましくは0.1〜100ppmである。
【0051】
(7)畜肉加工食品
ハンバーグ、ミートボール、餃子、焼売、ハム及びソーセージのような固形食品においては、長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の量に換算して、好ましくは20〜2,500ppm、より好ましくは20〜1,000ppmを含有させることによって、食品のコク味向上効果が得られる。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエスエル体をハンバーグ等の植物蛋白利用食品に添加することにより、植物蛋白由来の臭いを抑制し、呈味、風味を改善することができる。
【0052】
(8)チャーハン
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体をチャーハンの炒め油に添加して使用することによりチャーハンに「コク味」を付与し、使用した卵の卵風味を向上させることができる。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体の添加量は長鎖高度不飽和脂肪酸として2〜5000ppm好ましくは10〜1000ppmが良い。添加量はあらかじめ炒め油に添加しておくことが望ましいが特に制限されるものではなく調理どの段階で添加しても良い。
【0053】
(9)植物蛋白
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体を植物蛋白特に粒状大豆たん白を使用した加工食品に添加することにより植物たん白特有のトップ臭をマスキングし加工食品のおいしさを向上することができる。加工食品は主として粒状大豆たん白を利用するハンバーグ、ミートボール、餃子、シュウマイ、ハム、及びソーセージ等全てに適用できる。植物たん白臭のマスキング効果を発現させるための長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体の添加量はこれら加工食品中に長鎖高度不飽和脂肪酸として1〜2500ppm、好ましくは1〜500ppm、より好ましくは1〜100ppmが適切である。
【0054】
(10)油調用油脂および香味用油脂
植物油脂に長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加又は混合する等の適当な方法によって容易に調製することが出来る。
【0055】
ここで、対象となる植物油脂としては、当業者に公知に任意のものを使用することが出来る。このような植物油脂の例として、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、米油、ごま油、オリーブ油、及びパーム油等を挙げることが出来る。この中でも、特に、フライや炒め物などの加熱調理に主に利用される大豆油、菜種油、コーン油、及びパーム油等に本発明のコク味向上剤を添加することによって、本発明の効果を有利に達成することが出来る。任意の2種類以上の植物油脂を適宜混合して使用することも出来る。
【0056】
更に、植物油脂の孤立トランス異性体含量が10〜85%、特に20〜60%の範囲にある場合には、本発明の効果が一層増大する。孤立トランス異性体含量「%」は試料脂肪酸メチルエステルの赤外スペクトルを測定し、規定の計算式からエライジン酸メチルとして算出した孤立トランス異性体の試料に対する百分率をいい、基準油脂分析試験法による。このような孤立トランス異性体含量を有する植物油脂は当業者に公知の任意の手段で調製することが可能である。例えば、原料となる植物油脂に公知の方法で適当な程度の水素添加を施すことによって得ることが出来る。又、水素添加して得られた油脂を非水素添加の油脂を適宜混合することも可能である。
【0057】
尚、本発明において、「孤立トランス異性体」とは、トランス型の孤立二重結合(1個の二重結合あるいは非共役二重結合)を有する不飽和脂肪酸を意味し、その含量は「基準油脂分析法2.4.4.2−1996」で測定した値である。
【0058】
揚げ物や炒め物等の油調理用油脂組成物を得るためには、本発明の植物油脂組成物中の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の含有量は、長鎖高度不飽和脂肪酸として、通常、10〜100,000ppm、好ましくは10〜10,000ppm、より好ましくは10〜8,000ppm、更に好ましくは10〜3,000ppm、特に好ましくは20〜1,000ppmである。 このように、本発明の効果をより有効に得るためには、植物油脂組成物中の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の含有量が特定の範囲内であることが特徴である。
【0059】
こうして得られる本発明の植物油脂組成物は、揚げ物や炒め物等の様々な加熱調理法、例えば、80〜300℃、より好ましくは110〜300℃に加熱する調理法に使用することができる。このような温度範囲で加熱すると、本発明の植物油脂組成物を用いて調理した食品のコク味が増し、食品の味を一層引き立たせることが出来る。
【0060】
また長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体と植物油からなる油脂組成物を調味油、香味油の原料として用いることによりコク味の付与された香味油を製造することができる。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を原料にすれば通常の香味油の製造法でコク味の付与された香味油を製造することができる。例えば長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体とネギ、生姜、にんにく、たまねぎ等の野菜類、魚介類や畜肉類、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸などを、単独もしくは混合したものとを混合し加熱することにより製造することができる。また長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体と植物油からなる油脂組成物とポーク、ビーフ、チキンなどの畜肉フレーバーやバターフレーバーと混合することにより製造することができる。本発明の効果を有効に得るためには植物油組成物中の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体の含有量は通常0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%である。
【0061】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。尚、本明細書中、特に断わりがない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0062】
<使用した長鎖不飽和脂肪酸>
アラキドン酸(AA:純度98%,和光純薬工業(株)販売、ICN製造)、AA含有トリグリセリド(AATG:純度40〜45%:ナカライテスク(株)販売、サントリー(株)製造)、ボラージ油(γリノレン酸20%:Statfold社製)、γリノレン酸(純度99%:SIGMA社製)、「DHA27G」:(日本化学飼料(株)、DHA含量27%)、DHA:(純度98% SIGMA社)、ピュアライトオイル(=低αリノレン酸菜種油、味の素(株)、以下「PL油」)あるいはサラダ油(味の素(株))を使用した。
【0063】
<官能評価法>
以下の官能評価において、「食品の風味又は呈味を向上又は改善する」という本発明の効果は、各表中の評価項目にある「香りの強さ」、「風味の強さ」、「味の強さ」及び「後味の強さ」の中の少なくとも一つが、それぞれ、「香りの好ましさ」、「風味の好ましさ」、「味の好ましさ」及び「後味の好ましさ」を損なうことなく増大することである。尚、実施例10における「加熱褐変臭の抑制効果」及び「だし感の強さ」、実施例12における「大豆蛋白臭の強さ」も評価基準にした。畜肉エキスの評価において、香りは溶液のトップノートで評価し、風味は溶液を口に含んだ時、鼻に抜ける香りで評価した。香り、風味の強さと好ましさは畜肉エキス特有の良好な獣臭と油脂のまろやかな香り風味を評価した。
【0064】
パネル n=7
以下の実施例の結果を示した表における記号の意味は以下のとおりである。
×:コントロールより弱いまたは好ましくない;△:コントロールと同等;〇:コントロールより強いまたは好ましい;◎コントロールより明らかに強いまたは好ましい
【実施例1】
【0065】
ポークエキスA-4191(アリアケ食品)を水または湯で2%に希釈しAATGを0.001〜0.05%添加して95〜100℃で2時間加熱後、ポーク風味、油のコクに着目し官能評価を実施した。未添加品をコントロールとした。
【0066】
【表1】

【実施例2】
【0067】
ポークエキスA-4191(アリアケ食品)を水または湯で2%に希釈しAATGを0.005%添加して95〜100℃で1〜4時間加熱後、ポーク風味、油のコクに着目し、官能評価を実施した。未加熱品をコントロールとした。
【0068】
【表2】

【実施例3】
【0069】
ポークエキスパウダー2151C(仙波糖化(株)製)を水または湯で40%になるように希釈し、AATGを2%添加し95〜100℃で2時間加熱後(以下AAポークエキスと略記)、官能評価を実施。官能評価溶液は「サッポロ一番 豚骨味」(サンヨー食品(株)製)添付の粉末スープ1袋を湯500gで希釈し、AAポークエキスを0.01%〜0.07%添加したものを使用した。また、未加熱品0.07%をコントロールとした。AAポークエキスの効果、及び、エキスを用いて作成したスープの効果について観察した。
【0070】
【表3】

【実施例4】
【0071】
チキンエキス3943(IDF)を水または湯で2%に希釈しAATGを0.001〜0.05%添加して95〜100℃で2時間加熱後、チキン風味、油のコクに着目し官能評価を実施した。未添加品をコントロールとした。
【0072】
【表4】

【実施例5】
【0073】
チキンエキス3943(IDF)を水または湯で2%に希釈しAATGを0.005%添加して95〜100℃で1〜4時間加熱後、チキン風味、油のコクに着目し官能評価を実施した。未加熱品をコントロールとした。
【0074】
【表5】

【実施例6】
【0075】
酵母エキス(ギステックスXII,
DSM)を湯で2%希釈、AATGを0.001〜0.05%になるように添加し官能評価を行った。なお、AATG未添加品をコントロールとした。
【0076】
【表6】

【実施例7】
【0077】
フリーズドライ卵スープ(クノール食品)1個に160gのお湯を注いだ後、AATGを0.005%あるいはボラージ油を0.05%添加し、95〜100℃で1時間加熱後、卵の香り・風味に着目し官能評価を実施した。未添加品をコントロールとした。
【0078】
【表7】

【実施例8】
【0079】
<ポタージュスープ>
ポタージュスープ(クノールカップスープ:味の素(株))1袋(17g)にボラージ油を0.5〜2.5g添加して熱湯150mlを注ぎ、官能評価を行った。γレノレン酸添加量が3000ppmを超えると香りが強すぎて好まれなかった。
【0080】
【表8】

【実施例9】
【0081】
味の素サラダ油にAATGを1%添加した油を調製し、それらの油およびそれらを200℃で5分加熱したものをそれぞれ味の素マヨネーズ(ピュアセレクトハーフ)に1%添加した後、卵の香り・風味に着目し官能評価を実施した。未添加品をコントロールとした。
【0082】
【表9】

【実施例10】
【0083】
以下の表10記載の組成で「めんつゆ」組成物を調整した。こうして得られた濃縮タイプ麺つゆに長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体を0.0001〜0.05%添加した。長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体として「AATG」もしくは「DHA27G」を用いた。このように配合したものを90℃で30分加温した。加温後、ろ過により油脂部を除去した後、3倍に希釈して評価した。
【0084】
【表10】

【0085】
【表11】

【0086】
【表12】

【0087】
以上の表11及び表12の結果から、めんつゆに長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体を添加することにより、コク味付与、加熱褐変臭の抑制、だし感付与が確認された。
【実施例11】
【0088】
濃口醤油(キッコーマン製)を湯で2%希釈、AATGを0.001〜0.05%になるように添加し官能評価を行った。なお、AATG未添加品をコントロールとした。
【0089】
【表13】

【実施例12】
【0090】
以下の調整油を使用してハンバーグを調整した。
(1)AATG(AA含量40%)
(2)10%AATG/PL油(AA含量4%)
(3)10%「DHA27G」/PL油(DHA含量2.7%)
【0091】
下記組成物をホバートミキサーで混合し160gづつに小分けして各調整油脂を加えて混合後、30g/個に成型しホットプレートで焼いた。ホットプレート温度:200℃設定,片面5分×2 計10分
【0092】
【表14】

【0093】
【表15】

【0094】
上記表中、大豆蛋白臭の強さ:×はコントロールより大豆蛋白臭が弱い、または感じないことを意味する。
【0095】
高度不飽和脂肪酸を50〜2500ppm添加し加熱することによりコク味のあるハンバーグが得られることが確認できた。またこの濃度の高度不飽和脂肪酸を添加したハンバーグは大豆蛋白臭を感じなかった。高度不飽和脂肪酸を過剰に添加すると不快な風味となることが判明した。
【実施例13】
【0096】
<ソーセージ>
下記組成のソーセージ基本組成物に対し、10%AATG含有/PL油を2%〜0.1%、AATG1.0%を添加して定法どおりにウインナーソーセージを試作し、官能評価を行った。
【0097】
配合比
豚赤身ひき肉:45
豚背油:23
氷水:24
粉末状分離大豆蛋白(「アジプロンSU」:味の素(株)):3
カゼインNa:1
食塩:1.5
砂糖:1.5
「ポリゴンM」リン酸塩製剤:千代田化学(株):0.3
亜硝酸Na:0.02
アスコルビン酸Na:0.08
ホワイトペッパー :0.2
ナツメッグ:0.2
コリアンダー: 0.1
AA含有油脂:2.0
【0098】
調製法
原材料をフードカッターでよくカッティング混合したのち、羊腸に詰め小型スモークハウスにて乾燥・くん煙・蒸煮して冷却後、翌日官能評価を行った。結果を表16に示す。
【0099】
【表16】

【実施例14】
【0100】
<カレー>
「ピュアライトオイル」にAATGを0.02〜10.0gまたはボラージ油を5g加えて全量を15gになるように調製し、それに、薄力粉15gを混合し120℃で30分炒めた後にカレー粉(「特製エスビーカレー」、エスビー食品(株))3gを添加しさらに10分間加熱しカレールーを調整した。 コンソメスープ(「コンソメ」味の素(株)1.7%溶液)500mlを添加し加熱しコンソメスープを調整した。カレールーをコンソメスープで希釈しカレースープを調整した。
【0101】
【表17】

【0102】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/またはそのエステル体を含有した油脂でカレールーを作成することによりコク味のあるカレールーができることが確認できた。
【実施例15】
【0103】
<とんかつ>
以下の組成で長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体と植物油脂を混合し、とんかつを揚げた。
(1)PL油
(2)0.13%AATG/PL油(AA含量 500ppm)
(3)1.25%AATG/PL油(AA含量 5000ppm)
(4)3% AATG/PL油(AA含量 12000ppm)
(5)5%ボラージ油/PL油 (γリノレン酸含量 10000ppm)
「とんかつ」は75gの豚ロース肉に塩0.6g、胡椒少々をまぶし、小麦粉、20%卵溶液の順で付着させ、生パン粉を付け、各調整油で180℃、30分揚げた。
【0104】
【表18】

【0105】
植物油と長鎖高度不飽和脂肪酸よりなる油脂組成物で揚げたとんかつはコク味が付与されることが確認できた。過度な長鎖高度不飽和脂肪酸の添加は食味を損ねた。
【実施例16】
【0106】
<チャーハン>
味の素サラダ油にAATGを1%、あるいはボラージ油を3%添加した油25gをフライパンに敷き、溶き卵100g、ご飯500g、具材(ねぎ、チャーシューなど)を順に炒め、最後に塩、コショウ、MSGで味を整えた。通常のサラダ油を使用したものをコントロールとし、卵の炒め感、油のコクに着目し官能評価を実施した。
【0107】
【表19】

【実施例17】
【0108】
<香味油>
各油脂組成物を調整し、以下の方法に従って香味油を作成した。
<調整油脂組成物>
(1)PL油
(2)0.01%AATG/PL油(AA0.004%)
(3)0.1%AATG/PL油(AA0.04%)
(4)1%AATG/PL油(AA0.4%)
(5)10%AATG/PL油(AA4%)
(6)30%AATG/PL油(AA12%)
【0109】
<香味油の調整方法>
調整した油脂組成物1Lを120℃まで加温した。
加温した油脂組成物にみじん切りにした長ネギ400gを添加した。
長ネギ中より水分の蒸散がなくなるまで油温100℃に調整しながら攪拌した。
ろ過にて油脂中より長ネギを除去し香味油を得た。
【0110】
<香味油の評価方法>
インスタントラーメン(「サッポロ一番 しょうゆ味」サンヨー食品(株))をメーカー処方通りに調理した。調理したラーメン1食当りに調整した香味油を3g添加し評価を行った。
【0111】
【表20】

【0112】
植物油と長鎖高度不飽和脂肪酸よりなる油脂組成物で調整した香味油はコク味が付与されることが確認できた。過度な長鎖高度不飽和脂肪酸の添加は食味を損ねた。
【産業上の利用可能性】
【0113】
アラキドン酸等の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体、又はそれらを植物油脂に特定の範囲含有させることによって得られる植物油脂組成物を食品に含有させたり、又はこの植物油脂組成物を用いて食品を加熱調理することによって、得られる食品のコク味が増し、味を引き立たす効果が得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによる調味料の呈味改善及び/又はコク味を付与する方法。
【請求項2】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによるエキスのコク味を向上させる方法。
【請求項3】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによる卵加工食品の卵風味を向上させる方法。
【請求項4】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによるスープのコク味を向上させる方法。
【請求項5】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによるカレー又はシチューにコク味を付与する方法。
【請求項6】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによる和風つゆ又はだしの加熱褐変臭を抑制する方法。
【請求項7】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによる畜肉加工食品にコク味を付与する方法。
【請求項8】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによるチャーハンのコク味及び炒め卵風味を向上させる方法。
【請求項9】
長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体を添加することによる植物蛋白の蛋白臭を抑制する方法。
【請求項10】
長鎖高度不飽和脂肪酸がn−6系である請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
長鎖高度不飽和脂肪酸がアラキドン酸である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
長鎖高度不飽和脂肪酸がn−3系の長鎖高度不飽和脂肪酸及び/又はそのエステル体から成り、酸化処理することによって得られるものである、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
長鎖高度不飽和脂肪酸が微生物由来である、請求項1ないし12のいずれか一項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/046353
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515417(P2005−515417)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016516
【国際出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】