説明

開力軽減錠

【課題】室内外に生じた気圧差に抗して扉の開動を確実に助勢する。
【解決手段】本発明は、扉4から進退可能なようにラッチ部材54が設けられ、ラッチ部材54が進退可能なラッチ受け孔10を有するストライク板6が扉枠2に設けられ、ラッチ部材54がラッチ受け孔10から後退又は反転した状態から扉4の開動を助勢する開力軽減錠1であって、ストライク板6に形成された切欠部11と、切欠部11に設けられた当接部材16と、扉4から進退可能に設けられ、扉4からの突出時に当接部材16に当接して扉4を開方向へ助勢する押圧体47と、を備え、当接部材16は、ストライク板6からの突出長を調整可能なように扉枠2からの進退方向に沿ってスライド可能に構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンションの玄関等の気密な扉に設けられ、室内外に生じた気圧差に抗して扉の開動を助勢する開力軽減錠に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マンションや高気密化された住宅などの建物では、密閉状態で換気扇が運転されたりすると、室内の気圧が室外より低くなり、玄関扉の開動に大きな力が必要となり、特に、開動力の小さい子供や高齢者の場合、扉の開動が困難となる。
【0003】
そこで、従来、扉の円滑な開放を実現可能とするため、室内外に生じる気圧差を解消する技術が各種提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示される空錠連動ガラリは、ドアに小さな換気ドアを設け、空錠ハンドルのドア開閉動作に連動して換気ドアを開閉させ、閉ドア時の室内の負圧をなくして、円滑なドアの開放を可能にしている。
【0005】
また、特許文献2に開示される建物等の扉用室内外気圧差解消装置は、錠の操作ハンドルを操作すると、錠側の昇降棒の移動に対応して室内外気圧差解消窓孔用の開閉板が移動し、室内外の気圧差を迅速に解消可能にしている。
【0006】
さらに、特許文献3に開示される扉の構造は、扉の把手の近傍に設けられるレバーの揺動に連動して、扉の木口より突出した突出杆が扉枠に設けられた当接部に当接することにより、扉を開放方向に揺動させ、室内外の気圧差を解消し、円滑な扉の開放を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−66988号公報
【特許文献2】特開平11−324519号公報
【特許文献3】特開2004−285656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1及び2に開示されている従来の室内外気圧差解消構造は、ドアに窓孔を設けなければならないため、気密性やドアの見栄えを低下させる欠点があった。また、ドアには窓孔を開閉させる開閉板やこの開閉板を操作ハンドルの操作に連動させて作動させる昇降棒等の連動装置を設けなければならないため、機構が複雑となり、容易な取り付けができず、コストの増大する欠点があった。さらに、ドアに窓孔を設ければ、近年急増するサムターン回し等に対する防犯性を低下させる虞があった。さらにまた、窓孔を開閉する開閉板が表出することは、指の挟み込みの生じる虞があり、安全上好ましくなかった。
【0009】
また、上記した特許文献3に開示されている従来の室内外気圧差解消構造は、扉を設置する現場の状況によって扉と扉枠との隙間が必ずしも一定でないため、突出杆が当接部に意図した通りに当接せず、うまく作用しないおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、機構の簡略化や防犯性及び安全性の向上を図ると共に、室内外に生じた気圧差に抗して扉の開動を確実に助勢することができる開力助勢錠を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明は、扉から進退可能なようにラッチ部材が設けられ、該ラッチ部材が進退可能なラッチ受け孔を有するストライク板が扉枠に設けられ、前記ラッチ部材が前記ラッチ受け孔から後退又は反転した状態から前記扉の開動を助勢する開力軽減錠であって、前記ストライク板に形成された切欠部と、該切欠部に設けられた当接部材と、前記扉から進退可能に設けられ、該扉からの突出時に前記当接部材に当接して前記扉を開方向へ助勢する押圧体と、を備え、前記当接部材は、前記ストライク板からの突出長を調整可能なように前記扉枠からの進退方向に沿ってスライド可能に構成されていることを特徴とする。
【0012】
そして、本発明に係る開力軽減錠において、前記当接部材は、前記ストライク板の裏面側に設けられるトロヨケに軸状部材を介して取り付けられており、該軸状部材は、前記トロヨケと前記当接部材のうちのいずれか一方の部材に回動自在に支持されていると共にいずれか他方の部材に螺合しており、前記軸状部材の回動に伴い、前記当接部材が前記扉枠からの進退方向に沿ってスライドするように構成されているのが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る開力軽減錠において、前記切欠部は前記扉の開動方向側の縁部を切り欠くように形成され、前記押圧体の先端部は前記切欠部を通過して前記当接部材の近接離間方向に水平回転可能且つ前記当接部材に当接可能に設けられ、前記押圧体が前記当接部材の近接方向に水平回転する際に通過する前記切欠部の裏面側を覆うように切り欠きカバーが設けられていてもよい。
【0014】
また、本発明に係る開力軽減錠において、前記ストライク板からの前記当接部材の突出長を所定長に保持可能な突出長保持手段をさらに備えていてもよい。
【0015】
さらに、本発明に係る開力軽減錠において、前記当接部材は、該当接部材を支持する部材に回動自在の軸状部材を介して取り付けられており、該軸状部材の回動に伴い、前記当接部材が前記扉枠からの進退方向に沿ってスライドするように構成されており、前記突出長保持手段は、前記軸状部材を回動させて前記当接部材の突出長を調整した後に該軸状部材の回動を規制可能なように該軸状部材の表面側端部に係止可能に取り付けられていてもよい。
【0016】
さらに、本発明に係る開力軽減錠において、前記当接部材は、該当接部材を支持する部材に締結部材を介して取り付けられており、該締結部材の回動に伴い、前記当接部材が前記扉枠からの進退方向に沿ってスライドするように構成されており、前記突出長保持手段は、前記当接部材と該当接部材を支持する部材との間に介装されて該当接部材を表面側に付勢する付勢部材を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機構の簡略化や防犯性及び安全性の向上を図ることができると共に、室内外に生じた気圧差に抗して扉の開動を確実に助勢することができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す正面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す側面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図1のB−B断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材においてストライク板を取り外した状態を示す正面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材においてストライク板及び切り欠きカバーを取り外した状態を示す正面図である。
【図7】本発明の第1及び第2の実施の形態に係る開力軽減錠の扉側の部材を示す側断面図である。
【図8】本発明の第1及び第2の実施の形態に係る開力軽減錠の扉側の部材を示す平断面図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す正面図である。
【図10】図9のC−C断面図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す側面図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す正面図である。
【図13】図12のD−D断面図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1の実施の形態に係る開力軽減錠について説明する。
【0020】
本発明の第1の実施の形態に係る開力軽減錠1は、扉枠2の縦枠に取り付けられる扉枠側の部材3と、扉4に取り付けられる扉側の部材5と、を備えて構成されている。この場合、扉4は室外側に開動するように扉枠2に取り付けられており、扉枠2の縦枠には扉4の開動方向反対側に戸当り(図示省略)が形成されている。そして、この戸当りには扉4の閉鎖時に扉4との隙間をシールするパッキン(図示省略)が取り付けられており、室内側が負圧となると、扉4の内側部分がパッキンを介して戸当りに押し付けられるようになっている。
【0021】
先ず、図1〜図6を参照しながら扉枠側の部材3について詳細に説明する。ここで、図1は扉枠側の部材3を示す正面図、図2は扉枠側の部材3を示す側面図、図3は図1のA−A断面図、図4は図1のB−B断面図、図5は扉枠側の部材3においてストライク板を取り外した状態を示す正面図、図6は扉枠側の部材3においてストライク板及び切り欠きカバーを取り外した状態を示す正面図である。
【0022】
扉枠側の部材3は、扉枠2の縦枠の木口に設けられるストライク板6と、ストライク板6の裏面側に設けられるトロヨケ7と、ストライク板6とトロヨケ7との間に介装される切り欠きカバー8と、を備えている。
【0023】
ストライク板6は、図1に良く示されているように、正面視で上下に縦長の矩形板状を成し、その上下端部にはそれぞれ固定用の丸孔9が形成されている。ストライク板6の上下丸孔9の間には、上側に略矩形状のラッチ受け孔10が形成され、下側に切欠部11が形成されており、切欠部11は扉4の開動方向側(図1では左側)の縁部を切り欠くように形成されている。
【0024】
トロヨケ7は、図4及び図6に良く示されているように、正面視で上下に縦長の矩形状を成し、ラッチ受け孔10と切欠部11の一部分とを裏面側から覆うように凹状に屈曲して形成された箱部12を備えており、箱部12の下部には円形の通孔13が穿設されている。また、トロヨケ7の上下端部にはそれぞれ平坦部14が形成されており、各平坦部14にはストライク板6の丸孔9に対応した位置に固定用の丸孔15がそれぞれ形成されている。
【0025】
ストライク板6の切欠部11には当接部材16が配設されており、当接部材16は、図3に良く示されているように、軸状部材17を介してトロヨケ7の箱部12に回動自在に支持されている。当接部材16は、箱部12の底面18に平行な内側の面19と、該内側の面19から直角に屈曲して外方に延出する面20と、該延出する面20から直角に屈曲してストライク板6に平行な外側の面21と、延出する面20と外側の面21とにより形成される角部22と、を備えており、当接部材16の内側の面19にはトロヨケ7の通孔13に対応する位置にネジ孔23が形成されている。
【0026】
軸状部材17の一方(図3では左側)の端部には周方向に円環状の溝24が形成されていると共に該溝24より中央寄りに円環状の外鍔部25が形成されており、軸状部材17の一方の端部を通孔13に挿通させた状態で溝24にワッシャー26を嵌め込み、ワッシャー26と外鍔部25とで箱部12の底面18を挟持することにより、軸状部材17はトロヨケ7に回動自在に支持される。また、軸状部材17にはネジ孔23に螺挿されるネジ部27が形成されており、軸状部材17の他方(図3では右側)の端部には、例えばプラスのドライバー等の治具が係合可能な操作部28が形成されている。
【0027】
図5に良く示されているように、切り欠きカバー8は、正面視で上下に縦長の矩形状を成し、その上下端部にはそれぞれストライク板9の丸孔9及びトロヨケ7の丸孔15に対応した位置に横長円形状の長孔29が形成されている。これにより、トロヨケ7と切り欠きカバー8とストライク板9とを重合し、丸孔9,15及び長孔29にビス30を通して扉枠2に螺挿することにより、トロヨケ7と切り欠きカバー8とストライク板9とを扉枠2に固定することができる。また、この時、切り欠きカバー8に長孔29が形成されているため、ストライク板6及びトロヨケ7に対する切り欠きカバー8の横方向の取り付け位置を調整することができる。
【0028】
また、切り欠きカバー8には、ラッチ受け孔10に対応した位置に矩形孔31が穿設されており、上記したようにストライク板6及びトロヨケ7に対する切り欠きカバー8の横方向の取り付け位置を調整可能とするため、矩形孔31はラッチ受け孔10より大きくなるように形成されている。さらに、切り欠きカバー8の切欠部11に対応した位置であって、扉4の開動方向側(図5では左側)には段差部32が形成されており、これにより、扉4の開動時に後述する押圧体47が干渉しないようになっている。また、切り欠きカバー8の切欠部11に対応した位置の段差部32に隣接した位置には、開口33が形成されており、この開口33を介して、扉4の開動方向反対側(図5では右側)の当接部材16及び軸状部材17の操作部28が露出するようになっている。
【0029】
このような構成を備えた扉枠側の部材3において、治具を開口33に通して操作部28に係合させて、軸状部材17を、箱部12の底面18に支持された一方の端部を支点に、例えば正面視で時計回り方向に回転させると、軸状部材17のネジ部27に螺挿されている当接部材16は箱部12の底面18から離間する方向(外方)にスライドし、当接部材16の外側の面21のストライク板6からの突出長を増大させることができる。また、これとは反対に、軸状部材17を、例えば正面視で反時計回り方向に回転させると、当接部材16は箱部12の底面18に近接する方向(内方)にスライドし、当接部材16の外側の面21のストライク板6からの突出長を減少させることができる。
【0030】
次に、図7及び図8を参照しながら扉側の部材5について詳細に説明する。ここで、図7は扉側の部材5を示す側断面図、図8は扉側の部材5を示す平断面図である。
【0031】
扉側の部材5は、ラッチ錠の錠箱40を備えており、扉4の室外側及び室内側の面には、外側操作部材38及び内側操作部材39としてレバーハンドル(図示省略)がそれぞれ設けられている。ここで「ラッチ錠」とは、ラッチボルトや反転ラッチと称されるラッチ部材を有する錠前のことで、デッドボルトのみを有する本締り錠を除く。したがって、ラッチボルトのみを有する空錠、ラッチボルト又は反転ラッチのいずれかを有すると共に、デッドボルトを持つ錠前(例えば玄関錠)は、ここでのラッチ錠に含まれる。
【0032】
ラッチ錠の錠箱40には、外側操作部材38又は内側操作部材39の操作力によって回転する駆動カム41と、その後端部が該駆動カム41の駆動腕42と係合し且つ該駆動腕42の駆動力によって付勢手段43の付勢力に抗してスライドする摺動制御体44と、この摺動制御体44の先端部にその内端部が連結手段45を介して連結されていると共に角部に相当する中央部が錠箱40の扉の内壁面側の一側壁に垂直軸46を介して軸支されるスイング式押圧体47と、がそれぞれ組み込まれており、押圧体47の先端部48は、扉4の木口に設けられる錠箱40のフロント板49から常に突出している。
【0033】
駆動カム41は、外側操作部材38及び内側操作部材39の軸部を連結する角軸50が貫通する筒状部分51と、筒状部分51から下方斜め径方向に延出する長い駆動腕52と、この駆動腕52と略反対方向に延出する短い駆動腕53と、を備えて構成されている。
【0034】
また、ラッチ錠の錠箱40には、フロント板49から進退可能なようにラッチ部材としてのラッチボルト54が設けられている。ラッチボルト54は、係合先端部55と、係合先端部55の後端面に一体に設けられた棒状のラッチ杵56と、ラッチ杵56の後端部に連設された所定長の係合後端部57と、係合後端部57と錠箱40の後壁58との間に介装されたラッチバネ59と、を備えて構成されている。
【0035】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る開力軽減錠の作用について説明する。
【0036】
図7に示されているように、外側操作部材38の操作力によりラッチボルト54がフロント板49から突出した状態において、外側操作部材39を押し下げ、駆動カム41を図7における時計方向へ回転させると、駆動カム41の短い駆動腕53がラッチボルト54の後端部の係合部60を押し付けるため、ラッチボルト54は錠箱40の後壁58側へ後退する。
【0037】
次いで、外側操作部材38の操作力により駆動カム41をさらに時計方向に回転させ続けると、駆動カム41の長い駆動腕52が摺動制御体44の後端面を当接し、図8に良く示されているように、スイング式押圧体47は、その後端部が中心線よりも外側にやや偏芯する位置で摺動制御体44の先端部によって押される。これにより、押圧体47は、上下の垂直軸46を支点に水平回転し、押圧体47の先端部48は、切欠部11(図1参照)を通過して当接部材16の角部22(図3参照)にテコの原理で当接する。このように押圧体47の先端部48が当接部材16の角部22に当接した際には反力が発生し、この反力は扉4を開放する方向へ作用し、扉4と扉枠2との間に隙間が生じ、室内外の通気が行われる。これによって、室内外の気圧差が解消され、扉4を容易に開動させることができるようになる。
【0038】
この場合、扉枠側の部材3において、治具を開口33に通して操作部22に係合させて軸状部材17を回動させることにより、扉4と扉枠2との隙間の大きさに応じて当接部材16の外側の面21のストライク板6からの突出長を調整することができるため、押圧体4の先端部48を意図した通りに当接部材16の角部22に確実に当接させることができる。したがって、扉4を設置する現場の状況に拘わらず、室内外に生じた気圧差に抗して扉の開動を確実に助勢することができる。
【0039】
なお、上記した実施の形態において、軸状部材17は、トロヨケ7に回動自在に支持されていると共に当接部材16に螺合しているが、本発明はこの場合に限定されるものではなく、例えば、軸状部材17がトロヨケ7に螺合すると共に当接部材16に回動自在に支持される等、軸状部材17の回動に伴い当接部材16が扉枠からの進退方向に沿ってスライドするように構成されている限り、各種変更が可能である。
【0040】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第2の実施の形態に係る開力軽減錠について説明する。ここで、図9は本発明の第2の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す正面図、図10は図9のC−C断面図、図11は本発明の第2の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す側面図である。なお、以下の説明において、扉側の部材については、上記した第1の実施の形態の扉側の部材5と同様であるため、図7及び図8を参照し、その詳細な説明については説明を省略する。
【0041】
本実施の形態に係る扉枠側の部材73は、扉枠の縦枠の木口に設けられるストライク板76と、ストライク板76の裏面側に設けられる可動板78と、可動板78の裏面側に設けられる受け部材79と、可動板78及び受け部材79を覆うようにストライク板76の裏面側に設けられるトロヨケ80と、を備えて構成されている。
【0042】
ストライク板76は、正面視で上下に縦長の矩形状を成し、その左側部は直角に折り返され、上下端部76a,76bは傾斜するように裏面側に屈曲されている。そして、ストライク板76には、上下にそれぞれ固定用の丸孔81が形成され、上下丸孔81の間に、上側から順に略矩形状のラッチ受け孔82と切欠部83とが形成されており、切欠部83は扉4の開動方向側(図9では左側)の縁部を切り欠くように形成されている。
【0043】
可動板78は、正面視で上下に縦長の矩形状を成し、その左右両側部84はそれぞれ直角に折り返されている。そして、可動板78の上下端部には、ストライク板76の丸孔81に対応する位置に、それぞれ雌ネジが螺刻されたタップ孔85が形成されており、ストライク板76の表面側から皿ビス86を丸孔81に挿通してタップ孔85に螺入することにより、ストライク板76と可動板78とが一体化されるようになっている。
【0044】
可動板78の上下タップ孔85の間には、ストライク板76のラッチ受け孔82及び切欠部83に対応する位置に、上側矩形孔87及び下側矩形孔88がそれぞれ形成されている。また、可動板78の左右両側部84の上下端部には、奥行き方向(図9の紙面垂直方向)に長い長孔91がそれぞれ形成されており、長孔91は側面視でタップ孔85と干渉しない位置に配置されている。
【0045】
受け部材79は、短冊状の板状部材の上下両端部にそれぞれ形成されるフランジ部92と、各フランジ部92から内側に略直角に屈曲されて形成される上下側面93と、上下側面93の間に凹部94を備えるように形成されるように底面95と、を備えて構成されており、凹部94は切欠部83を裏面側から覆うように設けられている。
【0046】
上下のフランジ92には、それぞれ、中央に扁平な円柱形状の掛止部96が突設されており、上下の掛止部96が可動板78の正しい位置の穴に嵌着することにより、可動板78の所定位置に固定される。底面95には、左側中央に通孔97が形成されており、底面95の右側上下両端角部には、それぞれ、裏面側に突出するように弾性部98が形成されている。
【0047】
ストライク板76の切欠部83には当接部材99が配設されており、当接部材99は、軸状部材100を介して受け部材79の底面95に回動自在に支持されている。当接部材99は、可動板78の右側部84に沿うように設けられる本体部101と、本体部101の奥側端部から底面95に略平行を成すように設けられる底部102と、を備えて構成されている。本体部101には、上下2個のネジ孔103がそれぞれ左右水平方向に螺刻されており、底部102には、受け部材79の通孔97に対応する位置にビス孔104が形成されている。
【0048】
また、本体部101の頂部の凹部には受けプレート106が嵌合しており、この受けプレート106には、本体部101のネジ孔103に対応する位置にビス孔107が形成されている。そして、このビス孔107から本体部101のネジ孔103に皿ビス108を螺入することにより、本体部101と受けプレート106とが一体化されるようになっている。
【0049】
軸状部材100には周方向に円環状の段差部118が形成されており、軸状部材100の奥側(図10では左側)端部を通孔97に挿通させた状態で該端部にワッシャー109を嵌め込み、ワッシャー109と段差部118とで底面95を挟持することにより、軸状部材100は受け部材79に回動自在に支持される。また、軸状部材100にはビス孔104に螺挿されるネジ部110が形成されており、軸状部材100の表面側(図10では右側)端部には、例えばプラスのドライバー等の治具が係合可能な操作部111が形成されている。したがって、この操作部111に治具を係合させて軸状部材110を回動させることにより、扉と扉枠との隙間の大きさに応じて当接部材99のストライク板76からの突出長を所望な長さに調整することができる。
【0050】
当接部材99には、ストライク板76からの当接部材99の突出長を所定長に保持するための突出長保持手段112が取り付け可能となっている。この突出長保持手段112は、本体部101の表面を覆うように形成される正面部分113と、可動板78の左側部84に皿ビス119により固定される側面部分114と、を備えて構成されている。そして、正面部分113には、右端中央に切欠係止部115が形成されており、この切欠係止部115が軸状部材110の表面側端部に係止することにより、軸状部材110の回動が規制されるようになっている。
【0051】
トロヨケ80は、ストライク板76のラッチ受け孔82と切欠部83の一部分とを裏面側から覆うように凹状に屈曲して形成された箱部116と、箱部116の周囲に鍔状に形成されたフランジ部117と、を備えている。箱部116の左右側面には、上下の対向する位置にそれぞれ軸孔(図示省略)が形成され、該軸孔及び長孔91に挿通させた軸部118の端部をかしめることにより、可動板78がトロヨケ80に固定されるようになっている。
【0052】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る開力軽減錠の作用について説明する。
【0053】
図7に示されているように、外側操作部材38の操作力によりラッチボルト54がフロント板49から突出した状態において、外側操作部材39を押し下げ、駆動カム41を図7における時計方向へ回転させると、駆動カム41の短い駆動腕53がラッチボルト54の後端部の係合部60を押し付けるため、ラッチボルト54は錠箱40の後壁58側へ後退する。
【0054】
次いで、外側操作部材38の操作力により駆動カム41をさらに時計方向に回転させ続けると、駆動カム41の長い駆動腕52が摺動制御体44の後端面を当接し、図8に示されているように、スイング式押圧体47は、その後端部が中心線よりも外側にやや偏芯する位置で摺動制御体44の先端部によって押される。これにより、押圧体47は、上下の垂直軸46を支点に水平回転し、押圧体47の先端部48は、切欠部83を通過して当接部材99の頂部の角部にテコの原理で当接する。このように押圧体47の先端部48が当接部材99の角部に当接した際には反力が発生し、この反力は扉4を開放する方向へ作用し、扉と扉枠との間に隙間が生じ、室内外の通気が行われる。これによって、室内外の気圧差が解消され、扉を容易に開動させることができるようになる。
【0055】
この場合、扉枠側の部材73において、治具を操作部111に係合させて軸状部材110を回動させることにより、扉と扉枠との隙間の大きさに応じて当接部材99のストライク板76からの突出長を調整した後、突出長保持手段112を取り付けて切欠係止部115を軸状部材110の表面側端部に係止させることにより、軸状部材110の回動を規制することができる。これにより、扉を開閉操作している間に、一旦調整した当接部材99のストライク板76からの突出長が変化するのを防止することができ、長期間に渡って、押圧体4の先端部48を意図した通りに当接部材99に確実に当接させることができ、扉を設置する現場の状況に拘わらず、室内外に生じた気圧差に抗して扉の開動を確実に助勢することができる。
【0056】
また、上記した構成を備えた開力軽減錠では、地震の発生により扉枠が変形して当接部材99が扉と干渉した場合、当接部材99が内側に押圧されるに従って、弾性部98の裏面側への突出長が小さくなるように弾性部98が弾性変形すると共に、ストライク板76の上下端部76a,76bがトロヨケ80のフランジ部117に沿って平坦になるまで当接部材99と共に扉枠側に移動する。そのため、地震の発生により扉枠が変形した場合でも、当接部材99がストライク板76から突出せず、ストライク板76が当接部材99と共に扉枠側に移動することによって、当接部材99やストライク板76が扉と干渉するのを防止することができるため、扉を開放することができ、緊急時の避難を円滑且つ確実に行うことができるようになる。
【0057】
なお、上記した第2の実施の形態の説明では、本発明を、地震の発生により扉枠が変形した場合でも扉を開閉可能な、所謂、耐震タイプの開力軽減錠に適用した場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、耐震タイプ以外の開力軽減錠にも適用可能であることは言う迄もない。
【0058】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第3の実施の形態に係る開力軽減錠について説明する。ここで、図12は本発明の第3の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す正面図、図13は図12のD−D断面図、図14は本発明の第3の実施の形態に係る開力軽減錠の扉枠側の部材を示す側面図である。なお、以下の説明において、扉側の部材については、上記した第1の実施の形態の扉側の部材5と同様であるため、図7及び図8を参照し、その詳細な説明については説明を省略する。また、扉枠側の部材の構成のうち、上記した第2の実施の形態と同様の構成については、図12〜図14中、図9〜図11と同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0059】
本実施の形態に係る扉枠側の部材120は、扉枠の縦枠の木口に設けられるストライク板76と、ストライク板76の裏面側に設けられる可動板78と、可動板78の裏面側に設けられる受け部材121と、可動板78及び受け部材121を覆うようにストライク板76の裏面側に設けられるトロヨケ80と、を備えて構成されている。
【0060】
受け部材121は、短冊状の板状部材の上下両端部にそれぞれ形成されるフランジ部122と、各フランジ部122から内側に略直角に屈曲されて形成される上下側片123と、上下側面123の間に凹部124を備えるように形成されるように底面125と、を備えて構成されており、凹部124は切欠部83を裏面側から覆うように設けられている。
【0061】
上下のフランジ122には、それぞれ、中央に扁平な円柱形状の掛止部126が突設されており、上下の掛止部126が可動板78の正しい位置の穴に嵌着することにより、可動板78の所定位置に固定される。また、底面125には、左側中央にタップ孔127が形成されており、タップ孔127には雌ネジが螺刻されている。
【0062】
ストライク板76の切欠部83には当接部材128が配設されており、当接部材128は、可動板78の右側部84に沿うように設けられる本体部129と、本体部129の奥側端部から底面125に略平行を成すように設けられる底部130と、を備えて構成されている。
【0063】
本体部129には、上下2個のネジ孔131がそれぞれ左右水平方向に螺刻され、本体部129の頂部の凹部には受けプレート133が嵌合している。この受けプレート133には、本体部129のネジ孔131に対応する位置にビス孔134が形成されており、このビス孔134から本体部129のネジ孔131に皿ビス135を螺入することにより、本体部129と受けプレート133とが一体化されるようになっている。
【0064】
底部130には、中央の受け部材121のタップ孔127に対応する位置にザグリ穴136が形成されており、ザグリ穴136及びタップ孔127に締結部材137を螺入し、締結部材137の先端にかしめ等により抜け止め部138を形成することにより、当接部材128が受け部材121の底面125に固定される。また、締結部材137の表面側(図13では右側)端部には、例えばプラスのドライバー等の治具が係合可能な操作部139が形成されており、この操作部139に治具を係合させて締結部材137を回動させることにより、扉と扉枠との隙間の大きさに応じて当接部材128のストライク板76からの突出長を所望な長さに調整することができる。
【0065】
また、底部30には、ザグリ穴136の上下にそれぞれ凹部140が形成されており、各凹部140には、突出長保持手段としての付勢部材であるコイルバネ141が、それぞれ、受け部材121の底面125と当接部材128との間に介装された状態で収容されている。
【0066】
上記した構成を備えた扉枠側の部材120では、当接部材128がコイルバネ141により表面側に付勢されることにより、締結部材137の回動が規制されるため、扉と扉枠との隙間の大きさに応じて一旦調整された当接部材128のストライク板76からの突出長が変化するのを防止することができる。したがって、長期間に渡って、押圧体4の先端部48を意図した通りに当接部材128に確実に当接させることができ、扉を設置する現場の状況に拘わらず、室内外に生じた気圧差に抗して扉の開動を確実に助勢することができる。
【0067】
なお、上記した第3の実施の形態の説明では、本発明を、地震の発生により扉枠が変形した場合でも扉を開閉可能な、所謂、耐震タイプの開力軽減錠に適用した場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、耐震タイプ以外の開力軽減錠にも適用可能であることは言う迄もない。
【0068】
また、上記した第1〜第3の実施の形態では、当接部材16に当接する押圧体として、当接時に垂直軸46を支点に水平回転するスイング式押圧体47を使用した場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、前記押圧体としては、例えば、特開2004−285656号公報や特開2005−127044号公報に開示されているように、先端部の側面に斜面を有して略くさび状に形成されて扉4の木口から進退自在に設けられる公知な往復動タイプの押圧体を使用する等、各種変更が可能である。なお、この往復動タイプの押圧体を使用した場合には、スイング式押圧体47の場合のように扉4の開動方向側のストライク板6の縁部を大きく切り欠く必要がないため、切り欠きカバー8は不要となる。
【符号の説明】
【0069】
1 開力軽減錠
2 扉枠
4 扉
6 ストライク板
7 トロヨケ
8 切り欠きカバー
10 ラッチ受け孔
11 切欠部
16 当接部材
17 軸状部材
47 押圧体
54 ラッチボルト(ラッチ部材)
76 ストライク板
99 当接部材
100 軸状部材
112 突出長保持手段
121 受け部材(当接部材を支持する部材)
128 当接部材
141 コイルバネ(付勢部材)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉から進退可能なようにラッチ部材が設けられ、該ラッチ部材が進退可能なラッチ受け孔を有するストライク板が扉枠に設けられ、前記ラッチ部材が前記ラッチ受け孔から後退又は反転した状態から前記扉の開動を助勢する開力軽減錠であって、
前記ストライク板に形成された切欠部と、
該切欠部に設けられた当接部材と、
前記扉から進退可能に設けられ、該扉からの突出時に前記当接部材に当接して前記扉を開方向へ助勢する押圧体と、
を備え、
前記当接部材は、前記ストライク板からの突出長を調整可能なように前記扉枠からの進退方向に沿ってスライド可能に構成されていることを特徴とする開力軽減錠。
【請求項2】
前記当接部材は、前記ストライク板の裏面側に設けられるトロヨケに軸状部材を介して取り付けられており、該軸状部材は、前記トロヨケと前記当接部材のうちのいずれか一方の部材に回動自在に支持されていると共にいずれか他方の部材に螺合しており、前記軸状部材の回動に伴い、前記当接部材が前記扉枠からの進退方向に沿ってスライドするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の開力軽減錠。
【請求項3】
前記切欠部は前記扉の開動方向側の縁部を切り欠くように形成され、前記押圧体の先端部は前記切欠部を通過して前記当接部材の近接離間方向に水平回転可能且つ前記当接部材に当接可能に設けられ、前記押圧体が前記当接部材の近接方向に水平回転する際に通過する前記切欠部の裏面側を覆うように切り欠きカバーが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の開力軽減錠。
【請求項4】
前記ストライク板からの前記当接部材の突出長を所定長に保持可能な突出長保持手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の開力軽減錠。
【請求項5】
前記当接部材は、該当接部材を支持する部材に回動自在の軸状部材を介して取り付けられており、該軸状部材の回動に伴い、前記当接部材が前記扉枠からの進退方向に沿ってスライドするように構成されており、前記突出長保持手段は、前記軸状部材を回動させて前記当接部材の突出長を調整した後に該軸状部材の回動を規制可能なように該軸状部材の表面側端部に係止可能に取り付けられることを特徴とする請求項4に記載の開力軽減錠。
【請求項6】
前記当接部材は、該当接部材を支持する部材に締結部材を介して取り付けられており、該締結部材の回動に伴い、前記当接部材が前記扉枠からの進退方向に沿ってスライドするように構成されており、前記突出長保持手段は、前記当接部材と該当接部材を支持する部材との間に介装されて該当接部材を表面側に付勢する付勢部材を備えていることを特徴とする請求項4に記載の開力軽減錠。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−40548(P2013−40548A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−33232(P2012−33232)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)
【Fターム(参考)】