説明

開栓性に優れたボトル缶およびその製造方法

【課題】ネジ部の外面側に施されている保護塗膜に割れや剥離が生じることのないボトル缶であって、製造工程的に生産性が高く、塗料のコストダウンが可能であり、特に自動販売機のホットベンダーで販売されたボトル缶であっても老人や子供でも開栓が容易となる、開栓性が優れているボトル缶の提供。
【解決手段】円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶において、ボトル缶口頸部のための塗料として、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム薄板製のボトル缶に関し、ネジ部の外面側に施されている保護塗膜に割れや剥離が生じることのないボトル缶であって、製造工程的に生産性が高く、塗料のコストダウンが可能であり、特に自動販売機のホットベンダーで販売されたボトル缶であっても老人や子供でも開栓が容易となる、開栓性が優れているボトル缶およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製ボトル缶(本発明においては単に「ボトル缶」という。)は、金属板をしぼり加工、しごき加工などにより有底円筒体としたのち、有底円筒体の胴部外面全体にサイズコート塗装・焼付け、胴部外面の必要部分に印刷、胴部外面全体にトップコート(オーバーコートとも云う)塗装・焼付けされ、胴部内面全体に内面塗装・焼付けされ、しかる後、円筒体の開口部に傾斜状の肩部と小径円筒状の口頸部を形成するためのネックイン加工及び口頸部の外面にネジ加工を行うことにより製造されている。従って、印刷のない部分の胴部外面、即ち口頸部対応部分は、金属地側からサイズコート層及びトップコート層の2層となり、印刷のある部分の胴部外面はサイズコート層、印刷インキ層及びトップコート層の3層となっている。上記サイズコート層は、ボトル缶の口頸部のような過酷な縮径加工(ネックイン加工)が行われる場合において不可欠な層であり、加工時の割れ等を考慮して、一般的に低弾性率のものが使用されている。又、該サイズコート層は、印刷インキ層またはトップコート層との密着性を向上させるために、エポキシ/フェノール系樹脂またはTgが30〜40℃程度のポリエステル/アミノ系樹脂をベースとした塗料が通常使用されている。
【0003】
一方、トップコート層は塗装面を保護したり缶表面の滑性を向上させるために、ワックスを含んだエポキシ/フェノール系樹脂またはポリエステル/アミノ系樹脂をベースとした塗料が一般的であり、エポキシ/フェノール系樹脂またはポリエステル/アミノ系樹脂は上記サイズコート層と同様のものを使用できる。又、ワックスとしては、パーム油、ラノリンワックス、ポリプロピレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、フッ素樹脂ワックスなどが使用でき、これらワックスは、開栓性にも効いてくるので重要である。その後、内容物によっては充填後において、レトルト処理(高温殺菌処理)などの殺菌処理が行われる。また販売に際して、自動販売機などにおいて加熱して販売されることもあって、成形加工や熱経歴により塗装面のひび割れや剥離をおこさないようにすることが必要となっている。このようなトップコート層のひび割れは耐腐食性を低下させると共に、ボトル缶の開栓トルクを増大させ、ボトル缶の品質を低下させることになるため、これらボトル缶の塗装に関しての課題、特にネジ部、ネック部の塗装に関する問題を解決するために多くの提案がなされている。
【0004】
例えば、缶基体の表面に形成された複数層の塗膜が、ネジ部及びそれより下のボトル缶全体に形成された第1層の塗膜と、ネジ部より下の所定範囲に形成された第2層及び第3層の塗膜とからなり、第1層の塗膜のヤング率が第3層のそれより低く保持されたボトル缶の提案(特許文献1参照)、容器本体の外周面の下地塗装が、少なくとも加工度が高い部分に設けられる塗料と、加工度が低い部分に設けられる塗料とに分けて塗装される金属容器であって、前記加工度が高い部分に設けられる塗料がサイジングニスであり、前記加工度が低い部分に設けられる塗料がベースコートとした金属容器(ボトル缶)の提案(特許文献2参照)がある。これらの提案の塗装方法は製造工程における手数を省くことができると共に、製造コストを削減することができるメリットがある。
【0005】
また、口金部(口頸部とも云う)より下方には、ベースコート層とインキ層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成され、前記口金部には、サイズコート層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成したボトル缶の提案(特許文献3参照)や缶のデザイン性を高めるために缶の外面側で、口頸部の上端付近から少なくともネジ部の領域までは、ガラス転移温度(Tg)が25〜50℃のポリエステル樹脂を主成分とするサイズコート層のみで形成し、口頸部に冠着されるキャップで覆い隠されない部分となる口頸部の一部と肩部と胴部の領域には、印刷インキ層とその上を覆うガラス転移温度(Tg)が20〜30℃のポリエステル樹脂を主成分とするオーバーコート層とから形成されたボトル型缶の提案(特許文献4参照)がある。
しかしながら、上記いずれの提案においても、開栓トルクの改善に関しては全く考慮されていなかった。
【0006】
一方、キャップに設けられた雌ネジ部と螺合する雄ネジ部を口部に設け、キャップを回転させることによって閉栓開栓されるボトル缶であって、塗装された雄ネジ部の外面平均膜厚が、5.0〜10.1μmであるボトル缶であり、ボトル缶の開栓閉栓時におけるキャップの回転トルクを増加させず、その回転トルクを適宜なものに保って消費者は快適に開栓閉栓されるボトル缶を提供することを目的としたボトル缶の提案(特許文献5参照)がある。しかしこのボトル缶においては、ボトル缶の耐傷つき性に問題がある上、自動販売機などにおいて高温度に長時間保持される場合においては、塗料の種類も明らかでないので確実に開栓トルクを低く保持できるという保証は不明である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−205945号公報
【特許文献2】特開2003−221039号公報
【特許文献3】特開2003−226337号公報
【特許文献4】特開2005−280768号公報
【特許文献5】特開2006−044659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ボトル缶の場合、ネックイン加工、ネジ加工などの成形度の厳しい成形加工が行われるため、通常トップコート塗装のみではこれらの成形度の厳しい成形加工の際、塗膜が剥離してしまうので下塗りとして、密着性の高いサイズコート塗料を必要としていた。また、通常サイズコート塗装は滑性が乏しいのでサイズコート塗装のみでは、開栓閉栓トルクが高くなってしまうという問題がある。従って、従来では少なくとも口頸部においては、サイズコート塗装及びその上のトップコート塗装の2層構造となっていた
本発明は、耐腐食性の向上や傷付き難くすること等を目的とした塗装がされながらも、ネックイン加工、ネジ加工などにおいて微細なひび割れの生起がなく、レトルトなどの殺菌処理の際や販売時におけるホットベンダー(通常60℃)においても、ボトル缶の開栓閉栓時におけるキャップの回転トルクを増加させず、その回転トルクを適宜なものに保って消費者は快適に開栓閉栓されるような外面塗料(トップコート)が塗布されたボトル缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の通りである。
(1)円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶において、少なくとも口頸部の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、加熱乾燥後の塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみが塗布されていることを特徴とするボトル缶。
(2)円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶において、口頸部の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、加熱乾燥後の塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみが塗布され、口頸部より下部のボトル缶の胴部外面には胴部用トップコート塗料が、口頸部用トップコート層と胴部用トップコート層とが継ぎ目部分で円周状に重なり部を形成して、塗布されていることを特徴とするボトル缶。
【0010】
(3)上記ポリエステル樹脂を主成分とする口頸部用トップコート塗料にアミノ樹脂を配合したことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のボトル缶。
(4)上記口頸部用トップコート塗料として、ポリエステル樹脂100質量部に対し、アミノ樹脂を40〜90質量部及びワックスを0.1〜3.0質量部配合したものであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のボトル缶。
(5)上記口頸部用トップコート塗料中の固形成分が20〜50質量%の有機溶剤系塗料であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のボトル缶。
(6)円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶の製造方法において、少なくとも前記口頸部対応部分の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、加熱乾燥後の塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみを塗布し、次いで口頸部を形成するためのネックイン加工、及び該口頸部の外面にネジ加工を行うことを特徴とするボトル缶の製造方法。
【0011】
(7)円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶の製造方法において、前記口頸部対応部分の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、加熱乾燥後の塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみを塗布し、口頸部より下部のボトル缶の胴部外面には胴部用トップコート塗料を、口頸部用トップコート層と胴部用トップコート層とが継ぎ目部分で円周状に重なり部を形成して塗布し、次いで口頸部を形成するためのネックイン加工、及び該口頸部の外面にネジ加工を行うことを特徴とするボトル缶の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、密着性が良く滑性の良い塗料を見出したことにより、口頸部を1層のみの塗装とすることができる。即ち、本発明におけるボトル缶は、口頸部の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみが塗装されており、これにより口頸部の塗装において、従来形成されていたサイズコート塗装の塗布工程を省略することができると共に、ボトル缶の開栓閉栓時におけるキャップの回転トルクを適宜なものに保持することが出来るという効果を奏する。 またこれより下の部分においても直接に胴部用トップコートを塗布することにより、従来口頸部分と一緒に塗布していたサイズコート塗装工程を省略することが出来るという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、アルミニウム薄板製のボトル缶とは、底部と胴部とが一体成形された缶胴と口頸部に施されるキャップとからなる、所謂2ピース缶と称されるものと、底部と胴部とを別個に製造し、これらを接続して形成された缶胴と口頸部に施されるキャップとからなる、所謂3ピース缶と称されるものとがある。これらボトル缶は、通常の方法によりアルミニウム薄板を打ち抜き、これをしぼり加工、しごき加工などにより円筒体としたのち、口頸部対応部分のみに口頸部用トップコート、缶胴の必要部分に印刷、口頸部用トップコートと継ぎ目部分で重なり部を設けて缶胴下部までを缶胴用トップコートの塗装を行なうか、または口頸部用トップコートをそのまま缶胴部にも塗布し、その後ネックイン加工、ネジ加工などの成形度の厳しい成形加工が行われたアルミニウムボトル缶である。この円筒体は、塗装した後にネックイン加工の縮径加工やネジ加工等の加工が行われるため、従来はトップコートのみではこの際に塗装に傷や剥離がおきやすく、下塗りとしてサイズコート塗装が必要であった。本発明では少なくとも口頸部のみを特定の口頸部用トップコート塗料のみで塗布し、従来のサイズコート塗装は省略する。また、口頸部より下部のボトル缶の塗装には、当該口頸部用トップコート層と継ぎ目部分で円周状に重なり部を設けて胴部用トップコート塗料を塗装するか、または口頸部用トップコートをそのまま缶胴部にも塗装する。
【0014】
本発明を含め一般的なボトル缶の各部の名称を図1に示す。図1に示すようにボトル缶の側面は口頸部と胴部からなり、口頸部はカール部(肩部を含む)、ネジ部、スカート部からなる。
本発明はボトル缶の上記口頸部の外面側に、ワックスを含むポリエステル樹脂を主成分とする、塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみを塗布する(図2及び3の符号1)。
本発明においてガラス転移温度(Tg)は塗料を塗布後加熱乾燥して塗膜としたときの塗膜の転移温度、即ち加熱乾燥後のボトル缶に塗布されている状態での塗膜の転移温度を言う。加熱乾燥は通常200℃前後、30秒程度で行われる。
口頸部より下部の胴部には第1の形態としては図2に示すように胴部用トップコートを塗布する。図において2が胴部用トップコート塗料の塗膜である。この図の場合では胴部の印刷層の有無に関係なく適用できる。
【0015】
第2の形態としては上記の口頸部用のトップコート層をそのまま口頸部より下部の部分に塗布する(図は省略)。この場合には印刷層は設けない。その理由は、本発明の口頸部用塗料はTgを高くするために分子量の高いポリエステル樹脂を使用しており、そのため溶剤として溶解力の強い溶剤を使用する必要があり、胴部に印刷層がある場合には、その印刷層が溶解力の強い溶剤によって溶かされるためである。
第3の形態は図3に示すように胴部にはベース層4を塗布し、それに印刷インキ層3を設け、その上に胴部用トップコート2または口頸部用のトップコート層1を塗布する。
第1、第3の形態において図2、3に示すように口頸部用トップコートと胴部用トップコートとはスカート部の下部で継ぎ目部5を形成し、継ぎ目の全周で重なり部を設ける。第2の形態ではこの継ぎ目が不要となり、工程が簡略化される。
【0016】
本発明の口頸部用トップコート塗料は、熱可塑性のポリエステル樹脂を主成分とする。サイズコートやトップコートとして通常ポリエステル樹脂を主成分とする塗料は使用されているが、本発明のポリエステル樹脂を主成分とする塗料は、通常のものよりもポリエステル樹脂の重合度を高めたり、あるいはこれに配合する成分により、通常のサイズコート塗料よりも塗膜となったときのガラス転移温度(Tg)が高温度側にシフトした60〜100℃、好ましくは70〜80℃の塗料である。本発明で使用される熱可塑性ポリエステル樹脂の代表的なものはポリエチレンテレフタレート(PET)であるが、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等も使用可能である。
ガラス転移温度(Tg)が60℃より低い場合には、レトルト処理や長時間ホットベンダーに入れておいた場合に、キャップ内面に塗料の部分的融着がおこり、開栓トルクの上昇が避けられない。一方ガラス転移温度(Tg)が100℃より高いときは、溶剤に対する溶解度が低下し、粘度も上昇するので固形分濃度の低い塗料しか製造できないことになる。
【0017】
本発明におけるトップコート層はポリエステル樹脂を主成分、即ち、ポリエステル樹脂単独、またはこれにアミノ樹脂、エポキシ樹脂等を配合したものである。これらの中でアミノ樹脂は硬化性を高めることができ好ましい。またエポキシ樹脂を配合すると密着性を向上させることができる。アミノ樹脂はメラミン、尿素などとホルムアルデヒドとを反応させた樹脂が一般的に使用可能であり、エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂等が使用可能である。
これらの樹脂の配合量はポリエステル樹脂100質量部に対し、90質量部以下が好ましい。特にアミノ樹脂の場合は好ましくは30〜90質量部、さらに好ましくは35〜50質量部を配合する。エポキシ樹脂では10質量部以下、好ましくは3〜7質量部配合する。
【0018】
なおさらに、レトルト処理やホットベンダーにおいても開栓トルクをできるだけ小さく保持するために、さらにワックスを塗料中に0.1〜3.0質量%、好ましくは0.3〜0.7質量%配合したものを使用する。この場合、少量のフッ素系ポリマーを配合することが好ましい。
なお、ワックスとして、融点の異なる三種の混合物、即ち、低融点:30〜60℃、中融点:61〜100℃、高融点:101〜300℃の三種のワックスの混合物を使用することが好ましい。低融点ワックスは滑り性が優れており、高融点ワックスは耐性が優れているので、両方の特性を利用するためにブレンドする。
開栓トルクを適当な大きさに保持するためには、塗膜のガラス転移温度(Tg)と、ワックスの共同作用が必要である。又、該塗料中にシリコンオイルを0.01〜1.0質量%配合させることにより、キャップの内面塗料と口頸部用トップコート塗料とのブロッキングを防止し、開栓トルクを低減させる効果が得られる。
【0019】
本発明の口頸部用トップコート塗料に使用するポリエステル樹脂は、レトルト殺菌処理やホットベンダーにおける塗料に使用した樹脂による融着をできるだけ防ぐために、塗膜のガラス転移温度(Tg)を60〜100℃に保持する必要があり、そのためにサイズコート塗料に一般的に使用されてきた合成樹脂に比して、ガラス転移温度(Tg)を高くしたこと[塗膜のガラス転移温度(Tg)は、合成樹脂のガラス転移温度(Tg)、平均分子量及び配合比によって決められる。]と、仮に溶融したとしても、キャップと口頸部の塗装との接着を防止するためにさらにワックスを配合したものであり、この結果レトルト殺菌処理やホットベンダーにおいても、ボトル缶の開栓閉栓時におけるキャップの回転トルクを増加させず、その回転トルクを適宜なものに保って消費者は快適に開栓閉栓が保証されるボトル缶を提供できた。
【0020】
本発明の口頸部用トップコート塗料はレベリング剤及び消泡性を高めるためにシリコーン樹脂を少量配合した方が好ましい。しかしシリコーン樹脂量が多いときは、重なり部で胴部用トップコート塗料をはじくので注意が必要である。また、本発明の口頸部用トップコート塗料と口頸部より下の胴部用トップコート塗料には円周状に全周の重なり部を設ける。これは、口頸部用トップコート塗料と胴部用トップコート塗料との間に隙間があると、この部分は未塗装となるため、レトルト処理やホットベンダー内で変色する恐れがあるからである。塗装工程での塗布幅のバラツキを考慮すると、未塗布部分の発生を避けるためには、口頸部用トップコート塗料と胴部用トップコート塗料との間には、円周状に全周の重なり部を設ける必要がある。そこで、シリコーン樹脂量が多いときは、胴部用トップコート塗料をはじき未塗装部分ができてしまうので、シリコーン樹脂量の最適化が必要となる。
【0021】
本発明の口頸部用トップコート塗料は、ポリエステル樹脂塗料をベースとしているため、アルミニウムとの密着性がよく、また樹脂分のガラス転移温度(Tg)が高くても加工に際しての金属の変形に十分追随できるので、加工によるひびの発生や剥離の問題がなく、さらにワックスを配合することによりボトルキャップの開栓を容易にすることが確実に保持できる。
本口頸部用トップコート用塗料の溶剤としては、炭化水素系、ケトン系、アルコール系、エステル系、セロソルブ系等の溶剤あるいはこれらの混合溶剤を使用する。これら塗料中の固体成分としては、約20〜50質量%、好ましくは25〜35質量%のものが、粘度的に使用しやすい。
【0022】
口頸部より下部の缶胴部の部分に使用される胴部用トップコートにはガラス転移温度が約30〜40℃のポリエステル/アミノ系樹脂やエポキシ/フェノール系樹脂等が用いられる。
前記第3の形態におけるベースコート層は印刷における金属地のメタリック感をなくして印刷像を明確にするために、必要に応じて、印刷前にベースコート塗料(TiO2等の顔料を配合したポリエステル系塗料。ガラス転移温度が約30〜40℃)を塗装・焼付けしておくものである。このベースコート層に印刷を施し、その上に上記の胴部用や口頸部用の塗料が塗布される。印刷には通常の印刷インキが用いられる。
【0023】
次に塗装方法について説明する。
塗装に際しては、口頸部の外面側にワックスを配合した、塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃のポリエステル樹脂を主成分とする口頸部用トップコート塗料を口頸部または口頸部と胴部の全面に塗布した後、塗料の加熱乾燥を行う。胴部には必要により塗料を塗布する前に印刷しておく。
口頸部用トップコート塗料の加熱乾燥温度は通常の場合と同様にオーブンを用い、例えばピーク温度で約200℃、約30秒程度でよい。塗膜量は15〜55mg/100cm2、好ましくは20〜40mg/100cm2である。
胴部に胴部用トップコートを用いる場合は、必要により印刷した後さらにその上に該口頸部用トップコート塗装とその継ぎ目で円周状に重なり部を設けて、胴部用トップコート塗装を行った後加熱乾燥する。胴部用トップコート塗装は例えば塗膜量:40〜100mg/100cm2、乾燥温度、時間:約200℃×30秒で行う。
ベースコート層を設けるときは先ずベースコート塗料を塗膜量:150〜250mg/100cm2で塗布し、加熱乾燥を行う。その温度は例えば約200℃×30秒である。
なお、ボトル缶の内面には内面塗装が施され、約200℃×60秒程度の加熱乾燥が行われる。
【実施例】
【0024】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[口頸部用トップコート塗料組成]
口頸部用トップコート塗料を表1に記載の組成に調製した。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例1)
JIS3104のアルミニウム板からなる310mlのアルミニウムボトル缶用の有底円筒体の口頸部対応部分に、前記表1に記載の塗料Aを20mg/100cm2の厚さに塗布したのち、これより下部の部分に胴部用トップコート塗料としてポリエステル/アミノ系樹脂塗料(ガラス転移温度約35℃)を、塗膜量:約70mg/100cm2塗布して、それぞれピーク温度;200℃、30秒加熱乾燥し、内面塗料を塗布し、ピーク温度;210℃、60秒で加熱乾燥を行い、その後ネックイン加工、ネジ加工を行い、ボトル缶本体を成形した。
このボトル缶に水を充填したのち別に製造したキャップにより密閉したのち、所定の処理を行い、口頸部の塗層についてそれぞれの測定を行った。測定件数はn=3でその平均値を表2に示す。
【0027】
(実施例2、比較例1、比較例2)
実施例1と同様に、実施例2においては表1の塗料Bを、比較例1は表1の塗料Cを、比較例2は表1の塗料Dを用いた他は、実施例1と同様にボトル缶を作成し、内容物を充填し、所定の処理を行い、それぞれの測定を行った。測定件数はn=3でその平均値を表2に示す。
【0028】
[測定方法]
(1)ガラス転移温度(Tg)
測定器:(株)リガク製 型番:サーモプラスTMA8310
荷重:10g
測定方法:昇温ペネトレーション法
昇温速度:4℃/分
Tgの測定:試料中へピンが貫入していく過程を測定し、貫入し始めた温度をTgとする。
(2)鉛筆硬度:三菱ユニ使用
処理条件:原型 そのまま
湯中 85℃湯中
蒸気熱処理 125℃蒸気中30分+85℃湯中
(3)耐溶剤性:下地が露出するまでのアセトンラビング回数
(4)スクリューキャップ加工性:塗膜のひび、剥離を視覚判定
処理条件:原型 そのまま
煮沸 煮沸(約100℃、30分)
蒸気処理 125℃蒸気中30分
【0029】
(5)耐レトルト性:レトルト処理後の白化、ブリスターを視覚判定
処理条件:蒸気処理(125℃、30分)
(6)開栓トルク:60℃で1日保存し、60℃で開栓したときの1stトルク(缶胴口部のキャップシーリング材が滑り始める時の最大トルク)を測定
(7)視覚判定基準
◎ :優秀
〇 :良好
△ :普通
× :やや劣る
××:劣る
【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、口頸部におけるサイズコートの塗布工程を省略できると共に、ボトル缶の開栓閉栓時におけるキャップの回転トルクを適宜なものに保持し、またこれより下の部分には直接に胴部用トップコートを塗布することにより従来口頸部分と一緒に塗布されていたサイズコート塗装工程を省略することが出来る。又、耐腐食性の向上や傷付き難くすること等を目的とした塗装がされながらも、ネックイン加工、ネジ加工などにおいて微細なひび割れの生起がなく、レトルトなどの殺菌処理の際や販売時におけるホットベンダー(通常60℃)においても、ボトル缶の開栓閉栓時におけるキャップの回転トルクを増加させず、その回転トルクを適宜なものに保って消費者は快適に開栓、閉栓されるような外面塗料(トップコート)が塗布されたボトル缶である。このため老人や子供でも開栓が容易となる、開栓性が優れているボトル缶が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ボトル缶の一般的な各部名称示すための断面図。
【図2】本発明による塗膜構成の一例を示す断面図。
【図3】本発明による塗膜構成の他の例を示す断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶において、少なくとも口頸部の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、加熱乾燥後の塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみが塗布されていることを特徴とするボトル缶。
【請求項2】
円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶において、口頸部の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、加熱乾燥後の塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみが塗布され、口頸部より下部のボトル缶の胴部外面には胴部用トップコート塗料が、口頸部用トップコート層と胴部用トップコート層とが継ぎ目部分で円周状に重なり部を形成して、塗布されていることを特徴とするボトル缶。
【請求項3】
上記ポリエステル樹脂を主成分とする口頸部用トップコート塗料にアミノ樹脂を配合したことを特徴とする請求項1又は2に記載のボトル缶。
【請求項4】
上記口頸部用トップコート塗料として、ポリエステル樹脂100質量部に対し、アミノ樹脂を40〜90質量部及びワックスを0.1〜3.0質量部配合したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のボトル缶。
【請求項5】
上記口頸部用トップコート塗料中の固形成分が20〜50質量%の有機溶剤系塗料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のボトル缶。
【請求項6】
円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶の製造方法において、少なくとも前記口頸部対応部分の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、加熱乾燥後の塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみを塗布し、次いで口頸部を形成するためのネックイン加工、及び該口頸部の外面にネジ加工を行うことを特徴とするボトル缶の製造方法。
【請求項7】
円筒体の胴部と口頸部とが一体的に形成されたアルミニウム薄板製のボトル缶の製造方法において、前記口頸部対応部分の外面側に、ワックスを配合したポリエステル樹脂を主成分とする、加熱乾燥後の塗膜のガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の口頸部用トップコート塗料のみを塗布し、口頸部より下部のボトル缶の胴部外面には胴部用トップコート塗料を、口頸部用トップコート層と胴部用トップコート層とが継ぎ目部分で円周状に重なり部を形成して塗布し、次いで口頸部を形成するためのネックイン加工、及び該口頸部の外面にネジ加工を行うことを特徴とするボトル缶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−56350(P2008−56350A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127654(P2007−127654)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000186854)昭和アルミニウム缶株式会社 (155)
【Fターム(参考)】