説明

開環重合性基を有する二量体酸誘導体をベースとする歯科材料

【課題】かなり低い重合収縮を示し、一方で、従来はメタクリレートベースであった材料に匹敵する機械的特性および反応性を有する、モノマーおよびこれらのモノマーをベースとする歯科材料を提供すること。
【解決手段】本発明は、開環重合性基を有する水素化二量体酸から誘導されるモノマーに関し、これらのモノマーは、低い重合収縮により特徴付けられ、そして歯科材料に特に適切である。本発明はまた、本発明によるモノマーを含有する重合性組成物、ならびに歯科材料としてのこれらの重合性組成物の使用、および歯科材料(特に、コンポジット、セメント、接着剤またはコーティング)の調製のためのこれらの重合性組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開環重合性基を有する水素化二量体酸から誘導されるモノマーに関し、これらのモノマーは、低い重合収縮により特徴付けられ、そして歯科材料に特に適切である。本発明はまた、本発明によるモノマーを含有する重合性組成物、ならびに歯科材料としてのこれらの重合性組成物の使用、および歯科材料(特に、コンポジット、セメント、接着剤またはコーティング)の調製のためのこれらの重合性組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル化合物または(メタ)アクリレートなどのモノマーの重合には、通常、かなりの体積収縮が関与し、この体積収縮は、重合収縮とも称される。使用されるモノマーのこの重合収縮は、例えば、歯科材料の場合にはとりわけ、不利な収縮応力、および充填コンポジットの場合には周囲ギャップの形成、固定コンポジットまたはコーティング材料の場合には低下した基材接着、ならびにプロテーゼプラスチックの寸法安定性の悪化をもたらし得る。従って、低収縮性モノマーは、歯科分野において、かなりの興味を惹きつけている(非特許文献1および非特許文献2を参照のこと)。
【0003】
歯科分野において使用される比較的低収縮性のモノマーは、特に、高分子量のジメタクリレート架橋剤であるBis−GMAおよびUDMAであり、これらは、それぞれ6.0体積%および6.1体積%の重合収縮ΔVpを示す。しかし、これらの架橋剤は、非常に高い粘度を有するので(Bis−GMA:η=800〜1000Pa・s;UDMA:η=10Pa・s)、これらは通常、低粘度のジメタクリレート希釈剤(例えば、トリエチレングリコールジメタクリレート)との混合物中で使用される必要がある。しかし、これらのジメタクリレート希釈剤は、かなり高い重合収縮を示す(トリエチレングリコールジメタクリレート:ΔVp=14.5体積%)。
【0004】
ラジカル重合性環状モノマーは一般に、線状モノマーと比較して、低い重合収縮により特徴付けられる(非特許文献3を参照のこと)。しかし、これらのモノマーはしばしば、線状モノマーと比較してかなり低下した反応性を有し、これによって、特に歯科分野におけるこれらの実用的な応用性は、かなり制限される。
【0005】
用語「二量体酸」とは一般に、不飽和脂肪酸の環化二量化によって得られ得る、環状の、特に多価のカルボン酸をいう。代表的に、不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、リノール酸またはトール油)の、例えばアルミナにより触媒される二量化によって得られる、環状のジカルボン酸またはトリカルボン酸が存在する。このような二量体酸は通常、平均36個の炭素原子を有する(非特許文献4を参照のこと)。高純度の製品が市販されており、これらの製品は、例えば、以下の不飽和二量体酸:
【0006】
【化1】

【0007】
を含有し得る。
【0008】
不飽和二量体酸の水素化によって、対応する水素化二量体酸が得られ得る。例えば、以下の水素化二量体酸は、上に示される不飽和二量体酸の水素化によって得られ得る:
【0009】
【化2】

【0010】
特許文献1は、二量体酸から誘導されたジメタクリレート、および歯科用組成物におけるそれらの使用を記載する。これらは、重合中に低い収縮を示すが、高い可撓性および低い弾性率を有するポリマー網目構造を生成し、これは、特に歯科材料(例えば、充填コンポジット)において使用するのに不利である(非特許文献5を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0318188号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】N.Moszner,U.Salz,Progress Polymer Sci.26(2001)535−576
【非特許文献2】N.Moszner,U.Salz,Macromol.Mater.Eng.292(2007)245−271
【非特許文献3】R.K.Sadhir,R.M.Luck,Expanding Monomers,CRC Press,Boca Raton etc.1992
【非特許文献4】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,第A8巻,VCH,Weinheim and New York 1987,pp.535−536
【非特許文献5】M.Trujillo−Lemon,J.Ge,H.Lu,J.Tanaka,J.W.Stansbury,J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.44(2006)3921−3929
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、かなり低い重合収縮を示し、一方で、従来はメタクリレートベースであった材料に匹敵する機械的特性および反応性(特に、ラジカル光重合に関して)を有する、モノマーおよびこれらのモノマーをベースとする歯科材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
式(I)
【0015】
【化3】

【0016】
のラジカル重合性モノマーであって、式(I)において、
およびWは、各場合において独立して、HまたはX−R−Y−PGを表し、ここでWおよびWのうちの少なくとも1つは、X−R−Y−PGを表し、
Xは、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基もしくは尿素基を表し、
Yは、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基もしくは尿素基を表し、
Rは、各場合において独立して、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C16アルキレン基を表し、ここでRは、Xおよび/またはYもまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、
PGは、各場合において独立して、環状開環重合性基を表し、そして
a、b、cおよびdは、互いに独立して、3〜10の値を取り得る、
ラジカル重合性モノマー。
(項目2)
が、X−R−Y−PGを表し、
が、Hを表し、
Xが、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基もしくはウレタン基を表し、
Yが、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基もしくはウレタン基を表し、
Rが、各場合において独立して、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C12アルキレン基を表し、ここでRは、Xおよび/またはYもまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、そして
a、b、cおよびdが、互いに独立して、4、5、6および7の値を取り得る、
上記項目に記載のモノマー。
(項目3)
上記開環重合性基PGが独立して、
【0017】
【化4】

【0018】
から選択され、ここで
Zは、O、S、
【0019】
【化5】

【0020】
から選択され、
は、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C16アルキレン基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
〜R10は、各場合において独立して、H、−CO−OR11、−CO−R11、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アリールアルキル基を表し、
11は、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アリールアルキル基を表し、
nは、0または1であり、
pは、0、1、2または3であり、そして
qは、0、1、2または3である、
上記項目のうちのいずれかに記載のモノマー。
(項目4)
上記開環重合性基PGが独立して、
【0021】
【化6】

【0022】
から選択され、ここで
Zは、O、S、
【0023】
【化7】

【0024】
から選択され、
は、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C10アルキレン基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
〜R10は、各場合において独立して、H、−CO−OR11、−CO−R11、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C基、二環式C〜C12基、フェニル基またはベンジル基を表し、
11は、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C10アルキル基、脂環式C〜C基、フェニル基またはベンジル基を表し、
nは、0または1であり、
pは、0、1または2であり、そして
qは、0、1または2である、
上記項目のうちのいずれかに記載のモノマー。
(項目5)
上記項目のうちのいずれかに記載の少なくとも1種のモノマーを含有する、重合性組成物。
(項目6)
ラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目7)
少なくとも1種のさらなるラジカル重合性モノマーをさらに含有し、好ましくは、2個以上のラジカル重合性基を有する少なくとも1種のさらなるラジカル重合性モノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目8)
ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、Bis−GMA、エトキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、UDMA、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、およびブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートまたは1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種のモノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目9)
単官能性および多官能性のビニルシクロプロパン、二環式シクロプロパン誘導体または環状アリルスルフィドから好ましくは選択される、少なくとも1種のラジカル開環重合性モノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目10)
少なくとも1種の充填剤をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目11)
安定剤、UV吸収剤、着色剤、顔料、溶媒および潤滑剤から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目12)
(a)1重量%〜90重量%、好ましくは1重量%〜80重量%、そして特に好ましくは5重量%〜70重量%の式(I)のモノマー、
(b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜3.0重量%のラジカル重合のための開始剤、
(c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは5重量%〜50重量%のさらなるラジカル重合性モノマーであって、好ましくは、5重量%〜80重量%のさらなる開環重合性モノマーおよび0重量%〜50重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d)0重量%〜85重量%の充填剤、
(e)必要に応じて、0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.05重量%〜5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜2重量%の添加剤、ならびに
(f)0重量%〜95重量%、好ましくは0重量%〜70重量%、そして特に好ましくは0重量%〜50重量%の溶媒、
を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目13)
歯科材料の調製のための、上記項目のうちのいずれかに記載のラジカル重合性モノマー、または上記項目のうちのいずれかに記載の重合性組成物の使用。
(項目14)
上記歯科材料が、コンポジット材料、セメント材料、接着材料またはコーティング材料である、上記項目に記載の使用。
(項目15)
成形体の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物が、所望の形状を有する立体に形成され、次いで、完全にかまたは部分的に硬化させられる、プロセス。
【0025】
(摘要)
本発明は、式(I)
【0026】
【化8】

【0027】
のラジカル重合性モノマーに関し、式(I)において、
およびWは、各場合において独立して、HまたはX−R−Y−PGを表し、ここでWおよびWのうちの少なくとも1つは、X−R−Y−PGを表し、
Xは、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基もしくは尿素基を表し、
Yは、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基もしくは尿素基を表し、
Rは、各場合において独立して、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C16アルキレン基を表し、ここでRは、Xおよび/またはYもまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、そして
PGは、各場合において独立して、環状開環重合性基を表し、
a、b、cおよびdは、互いに独立して、3〜10の値を取り得る。
【0028】
本発明はまた、本発明によるモノマーを含有する重合性組成物、ならびにこれらの歯科材料としての使用、および歯科材料(特に、コンポジット、セメント、接着剤またはコーティング)の調製のための使用に関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、かなり低い重合収縮を示し、一方で、従来はメタクリレートベースであった材料に匹敵する機械的特性および反応性(特に、ラジカル光重合に関して)を有する、モノマーおよびこれらのモノマーをベースとする歯科材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の目的は、本発明に従って、式(I)
【0031】
【化9】

【0032】
のラジカル重合性モノマーによって達成される。式(I)において、
およびWは、各場合において独立して、HまたはX−R−Y−PGを表し、ここでWおよびWのうちの少なくとも1つは、X−R−Y−PGを表し、
Xは、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基もしくは尿素基を表し、
Yは、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基もしくは尿素基を表し、
Rは、各場合において独立して、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C16アルキレン基を表し、ここでRは、Xおよび/またはYもまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、
PGは、各場合において独立して、環状開環重合性基を表し、そして
a、b、cおよびdは、互いに独立して、3〜10の値を取り得る。
【0033】
式(I)および本明細書中に示される他の式は、全ての立体異性体形態および立体異性体形態、ならびに種々の立体異性体形態および立体異性体形態の混合物(例えば、ラセミ体)を網羅する。これらの式は、化学原子価理論に合う化合物のみを網羅する。
【0034】
「基が例えばO原子によって分断され得る」との表現は、これらの原子または基が、その基の炭素鎖中に挿入されていること、すなわち、両側で炭素原子と接していることを意味すると理解されるべきである。従って、これらのヘテロ原子または基の数は、炭素の数より少なくとも1小さく、そしてこれらのヘテロ原子または基は、末端にはあり得ない。本発明によれば、ある基がヘテロ原子を含み得る場合、全ての場合において、ヘテロ原子を有さない基が好ましい。
【0035】
好ましい式(I)のモノマーは、互いに独立して、
がX−R−Y−PGを表し、
がHを表し、
Xが、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基もしくはウレタン基を表し、
Yが、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基もしくはウレタン基を表し、
Rが、各場合において独立して、存在しないか、またはC〜C12アルキレン基、特に、C〜Cアルキレン基、そして好ましくは、C〜Cアルキレン基を表し、これらのアルキレン基は、1つ以上のO原子によって分断され得、ここでRは、Xおよび/またはYもまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、そして
a、b、cおよびdが、互いに独立して、4〜9の値、特に4〜8の値、好ましくは4〜7の値、そして特に、4、5、6および7の値を取り得る、
モノマーである。
【0036】
特に好ましいものは、
がX−R−Y−PGを表し、
がHを表し、
Xが、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基もしくはウレタン基を表し、
Yが、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基もしくはウレタン基を表し、
Rが、各場合において独立して、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C12アルキレン基を表し、ここでRは、Xおよび/またはYもまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、そして
a、b、cおよびdが、互いに独立して、4、5、6および7の値を取り得る、
式(I)のモノマーである。
【0037】
1つの実施形態において、式(I)のモノマーは、式(Ia)
【0038】
【化10】

【0039】
のモノマーであり、式(Ia)において、
’およびW’は、各場合において独立して、CHまたはX’−R’−Y’−PGを表し、ここでW’およびW’のうちの少なくとも1つは、X’−R’−Y’−PGを表し、
X’は、各場合において独立して、存在しないか、または−CH−O−、−C(O)−O−、−CH−O−C(O)−、−C(O)−NH−、−CH−NH−C(O)−、-CH−NH−C(O)−O−、−CH−O−C(O)−NH−もしくは-CH−NH−C(O)−NH−を表し、
Y’は、各場合において独立して、存在しないか、または−O−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−NH−、−NH−C(O)−、−NH−C(O)−O−、−O−C(O)−NH−もしくは-NH−C(O)−NH−を表し、
R’は、各場合において独立して、存在しないか、またはC〜C16アルキレン基、特にC〜C12アルキレン基、好ましくはC〜Cアルキレン基、そして最も好ましくはC〜Cアルキレン基を表し、これらのアルキレン基は、1つ以上のO原子によって分断され得、ここでR’は、X’および/またはY’もまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、
PGは、各場合において独立して、環状開環重合性基を表し、そして
a’、b’、c’およびd’は、互いに独立して、3〜10の値、特に、4〜9の値、好ましくは、4〜8の値、より好ましくは、4〜7の値、そして特に、4、5、6および7の値をとり得る。
【0040】
’がX’−R’−Y’−PGを表し、そしてW’がCHを表すことが好ましい。
【0041】
式(Ia)の好ましいモノマーは、以下の変数のうちの少なくとも1つ、好ましくは全てが、以下の示される値を有するモノマーである:
a’が、3〜10であり、そして好ましくは4または5であり、
b’が、3〜10であり、特に3〜9であり、好ましくは3〜6であり、そして最も好ましくは4、5または6であり、
c’が、3〜10であり、特に3〜9であり、好ましくは6〜9であり、そして最も好ましくは6、7または8であり、
d’が、3〜10であり、そして好ましくは6または7である。
【0042】
a’とd’との合計が11であり、かつ/またはb’とc’との合計が12であることが、特に好ましい。
【0043】
好ましい開環重合性基PGは、環状アリルスルフィド基またはビニルシクロプロパン基から誘導された基である。
【0044】
特に好ましい開環重合性基PGは、
【0045】
【化11】

【0046】
であり、ここで
Zは、O、S、
【0047】
【化12】

【0048】
から選択され、
は、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C16アルキレン基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
〜R10は、各場合において独立して、H、−CO−OR11、−CO−R11、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アリールアルキル基を表し、
11は、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アリールアルキル基を表し、
nは、0または1であり、
pは、0、1、2または3であり、そして
qは、0、1、2または3である。
【0049】
非常に特に好ましい開環重合性基PGは、
【0050】
【化13】

【0051】
であり、ここで
Zは、O、S、
【0052】
【化14】

【0053】
から選択され、
は、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C10アルキレン基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
〜R10は、各場合において独立して、H、−CO−OR11、−CO−R11、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C基、二環式C〜C12基、フェニル基またはベンジル基を表し、
11は、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C10アルキル基、脂環式C〜C基、フェニル基またはベンジル基を表し、
nは、0または1であり、
pは、0、1または2であり、そして
qは、0、1または2である。
【0054】
本発明によるモノマーは、極度に低い重合収縮により特徴付けられ、従って、低収縮性の歯科材料の調製に特に適していることが示された。驚くべきことに、本発明によるモノマーをベースとする歯科材料は、従来のメタクリレートベースの歯科材料に匹敵する優れた機械的特性および高い反応性(特に、ラジカル光重合に関して)を有することが示された。
【0055】
本発明による式(I)のモノマーは、適切に官能基化された環状モノマーから出発して、水素化二量体酸またはその適切に官能基化された誘導体との反応によって得られ得る。
【0056】
従って、Xがエステル基を表すモノマーは、水素化二量体酸と、式がHO−R−Y−PGの環状モノマーとの反応によって、得られ得る:
【0057】
【化15】

【0058】
具体例:
【0059】
【化16】

【0060】
他の場合において、水素化二量体酸の1つ以上のカルボン酸基を、適切な異なる官能基に変換することが必要であり得る。適切な方法は、原則的に有機化学から公知である。水素化二量体酸のカルボン酸基を異なる官能基に変換するのに適切な方法は、例えば、米国特許出願公開第2008/0318188号において議論されている。
【0061】
本発明による式(I)のモノマーの合成のために適切に官能基化された環状モノマーは、文献から公知である。例えば、ビニルシクロプロパンの合成および二環式シクロプロピルアクリレートの合成は、それぞれ、N.MosznerらによるMacromol.Rapid.Commun.18(1997)775−780およびA.de MeijereらによるEur.J.Org.Chem.(2004)3669−3678に記載されており、一方で、官能基化された環状アリルスルフィドの合成は、例えば、R.A.EvansおよびE.RizzardoによるJ.Polym.Sci.,Part A.Polym.Chem.39(2001)202−215およびMacromolecules 33(2000)6722−6731に記載されている。
【0062】
本発明による式(I)のモノマーのいくつかの例を、以下に列挙する:
【0063】
【化17】

【0064】
【化18】

【0065】
【化19】

【0066】
本発明はまた、少なくとも1種の上記式(I)のモノマーを含有する重合性組成物に関する。
【0067】
式(I)のモノマーをベースとする本発明による組成物は、公知のラジカル開始剤(例えば、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,第13巻,Wiley−Intersci.Pub.,New York etc.1988,754以降に記載されるもの)で重合し得る。例えば、J.P.Fouassier,J.F.Rabek(編者),Radiation Curing in Polymer Science and Technology,第II巻,Elsevier Applied Science,London and New York 1993から公知である光開始剤が、特に適切である。ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン、ジアセチル、フリル、アニシル、4,4’−ジクロロベンジルおよび4,4’−ジアルコキシベンジル)、ならびにショウノウキノンが、UV領域または可視領域のための光開始剤として好ましい。Norrish I型光開始剤(特に、アシルホスフィンオキシドおよびビスアシルホスフィンオキシド)、ならびにモノアシルトリアルキルゲルマニウム化合物およびジアシルジアルキルゲルマニウム化合物(例えば、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウムまたはビス(4−メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム)もまた、特に適切である。適切なゲルマニウム開始剤は、例えば、欧州特許出願公開第1 905 413号および欧州特許出願公開第2 103 297号に記載されている。異なる光開始剤の混合物(例えば、ショウノウキノンおよび4−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせたジベンゾイルジエチルゲルマニウム)もまた使用され得る。
【0068】
さらに、アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)またはアゾビス(4−シアノ吉草酸))、あるいは過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルまたは過酸化ジ−(tert−ブチル))もまた、ラジカル重合のための開始剤として使用され得る。ベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールが、熱硬化のための開始剤として特に適切である。
【0069】
過酸化物およびα−ジケトンは、開始を加速するために、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。好ましいレドックス系は、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルまたは構造的に関連する系)との組み合わせである。さらに、過酸化物をアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含むレドックス系もまた適切である。
【0070】
本発明による組成物は、1種以上の式(I)のモノマーを含有し得る。式(I)のモノマーに加えて、これらの組成物はまた、1個以上のラジカル重合性基を有するさらなるラジカル重合性モノマーを含有し得る。2個以上、好ましくは2個〜3個のラジカル重合性基を有する、少なくとも1種のさらなるラジカル重合性モノマーを含有する歯科材料が、特に好ましい。多官能性モノマーは、架橋特性を有する。
【0071】
好ましいさらなるモノマーは、単官能性または多官能性の(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド((メタ)アクリル化合物)である。単官能性(メタ)アクリル化合物とは、1個の(メタ)アクリル基を有する化合物を意味し、多官能性(メタ)アクリル化合物とは、2個以上、好ましくは2個〜3個の(メタ)アクリル基を有する化合物を意味する。
【0072】
好ましい多官能性モノマーは、ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、bis−GMA(メタクリル酸とビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルとの付加生成物)、エトキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、UDMA(メタクリル酸2−ヒドロキシエチルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの付加生成物)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートまたは1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートである。
【0073】
非常に特に好ましいものは、公知の低収縮性ラジカル開環重合性モノマー(例えば、単官能性または多官能性のビニルシクロプロパンまたは二環式シクロプロパン誘導体であり、好ましくは、独国特許公開第196 16 183号および欧州特許出願公開第1 413 569号に開示されるモノマー、あるいは環状アリルスルフィドであり、好ましくは、米国特許第6,043,361号および米国特許第6,344,556号に開示されるモノマー)と混合された、式(I)のモノマーの混合物である。さらに、式(I)のモノマーと、少なくとも1種のさらなる開環重合性モノマーおよび2個以上のラジカル重合性基を有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(特に、上に列挙された多官能性(メタ)アクリレート化合物)との混合物が、さらに好ましい。
【0074】
特に好ましい開環重合性モノマーは、ビニルシクロプロパン(例えば、1,1−ジ(エトキシカルボニル)−2−ビニルシクロプロパンもしくは1,1−ジ(メトキシカルボニル)−2−ビニルシクロプロパン、または1−エトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸もしくは1−メトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸とエチレングリコールとのエステル)、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,4−シクロヘキサンジオールあるいはレゾルシノールである。好ましい二環式シクロプロパン誘導体は、2−(ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル)アクリル酸のメチルエステルもしくはエチルエステル、またはそれらの3位での二置換生成物(例えば、(3,3−ビス−(エトキシカルボニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル)アクリル酸のメチルエステルもしくはエチルエステル)である。好ましくは、環状アリルスルフィドは、特に、2−(ヒドロキシメチル)−6−メチレン−1,4−ジチエパンまたは7−ヒドロキシ−3−メチレン−1,5−ジチアシクロオクタンと、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネートまたは非対称ヘキサメチレンジイソシアネート三量体(例えば、Bayer AG製のDesmodur XP 2410)との付加生成物である。
【0075】
さらに、式(I)のモノマーをベースとする本発明による組成物は、1種以上の充填剤(好ましくは、有機物または無機物の粒子性充填剤)を含有し得る。10nm〜5μmの平均粒子直径を有する充填剤が、特に適切である。好ましい無機粒子性充填剤は、酸化物ベースの非晶質球状ナノ粒子充填剤(例えば、発熱性ケイ酸または沈降ケイ酸、ZrOおよびTiO、あるいはSiO、ZrOおよび/もしくはTiOの混合酸化物が挙げられ、好ましくはこれらは10nm〜200nmの平均粒子直径を有する)、超微細充填剤、ミニフィラー(例えば、0.2μm〜5μmの平均粒径を有する石英粉末、ガラスセラミック粉末またはガラス粉末)、ならびにX線不透過性充填剤(例えば、三フッ化イッテルビウムまたはナノ粒子性酸化タンタル(V)または硫酸バリウム)である。さらに、繊維性充填剤(例えば、ガラス繊維、ポリアミド繊維または炭素繊維)もまた使用され得る。
【0076】
最後に、さらなる添加剤(例えば、安定剤、UV吸収剤、着色剤もしくは顔料)および溶媒または潤滑剤が、必要であれば、式(I)のモノマーをベースとする本発明による組成物に添加され得る。
【0077】
以下の成分を含有する組成物が、本発明によれば好ましい:
(a)1重量%〜90重量%、好ましくは1重量%〜80重量%、そして特に好ましくは5重量%〜70重量%の式(I)のモノマー、
(b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜3.0重量%のラジカル重合のための開始剤、
(c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは5重量%〜50重量%のさらなるラジカル重合性モノマーであって、好ましくは、5重量%〜80重量%のさらなる開環重合性モノマーおよび0重量%〜50重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d)0重量%〜85重量%の充填剤、
(e)必要に応じて、0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.05重量%〜5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜2重量%の添加剤、ならびに
(f)0重量%〜95重量%、好ましくは0重量%〜70重量%、そして特に好ましくは0重量%〜50重量%の溶媒。
【0078】
全ての百分率は、他に記載されない限り、この組成物の総重量に対してである。
【0079】
本発明による組成物は、特に歯科材料として、特に、コンポジット材料、セメント材料、接着材料またはコーティング材料として適切である。
【0080】
歯科用途のための材料の好ましい組成は、所望の用途に基づく。
【0081】
好ましい接着剤およびコーティング材料は、以下の成分を含有する:
(a)1重量%〜90重量%、好ましくは1重量%〜80重量%、そして特に好ましくは5重量%〜70重量%の式(I)のモノマー、
(b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜2.0重量%のラジカル重合のための開始剤、
(c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは5重量%〜50重量%のさらなるラジカル重合性モノマーであって、好ましくは、5重量%〜80重量%のさらなる開環重合性モノマーおよび0重量%〜50重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d)0重量%〜85重量%、そして好ましくは0重量%〜20重量%の充填剤、
(e)必要に応じて、0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.05重量%〜5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜2重量%の添加剤、ならびに
(f)0重量%〜95重量%、好ましくは0重量%〜70重量%、そして特に好ましくは0重量%〜50重量%の溶媒。
【0082】
好ましいセメントは、以下の成分を含有する:
(a)1重量%〜90重量%、好ましくは1重量%〜70重量%、そして特に好ましくは5重量%〜30重量%の式(I)のモノマー、
(b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜2.0重量%のラジカル重合のための開始剤、
(c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜50重量%、そして特に好ましくは5重量%〜30重量%のさらなるラジカル重合性モノマーであって、好ましくは、5重量%〜30重量%のさらなる開環重合性モノマーおよび0重量%〜10重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d)0重量%〜85重量%、そして特に好ましくは20重量%〜70重量%の充填剤、ならびに
(e)必要に応じて、0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.05重量%〜5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜5重量%の添加剤。
【0083】
好ましいコンポジットは、以下の成分を含有する:
(a)1重量%〜90重量%、好ましくは1重量%〜70重量%、そして特に好ましくは5重量%〜20重量%の式(I)のモノマー、
(b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜2.0重量%のラジカル重合のための開始剤、
(c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜50重量%、そして特に好ましくは5重量%〜20重量%のさらなるラジカル重合性モノマーであって、好ましくは、5重量%〜20重量%のさらなる開環重合性モノマーおよび0重量%〜10重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d)0重量%〜85重量%、そして特に好ましくは20重量%〜85重量%の充填剤、ならびに
(e)必要に応じて、0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.05重量%〜5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜2重量%の添加剤。
【0084】
本発明はまた、歯科材料として、そして特に、歯科材料(好ましくは、上に記載された歯科材料)の調製のための、式(I)のラジカル重合性モノマーの使用、または少なくとも1種の式(I)のモノマーを含有する重合性組成物の使用に関する。
【0085】
本発明はまた、成形体(例えば、歯冠、ブリッジ、インレーおよび義歯)の調製のためのプロセスに関し、このプロセスにおいて、本発明による組成物が、それ自体公知である様式で成形体に形成され、次いで、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、硬化させられる。この硬化は、好ましくは、ラジカル重合によって行われる。
【0086】
本発明は、実施例を参照しながら以下にさらに詳細に記載される。
【実施例】
【0087】
(実施例1)
(開環重合性水素化二量体酸誘導体RODAの合成)
21.09g(0.110mol)のN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジミド塩酸塩を、17.63g(0.100mol)の7−メチレン−1,5−ジチアシクロオクタン−3−オール、28.25g(0.050mol)の二量体酸および0.611g(0.005mol)の4−ジメチルアミノピリジンの、200mlの無水塩化メチレン中の溶液に、0℃で2時間以内で少しずつ添加した。0℃で6時間撹拌した後に、500mlの水をこの反応混合物に添加した。相分離後、その有機相を2N塩酸(100mlで2回)および水(100mlで2回)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、そしてその溶媒を除去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 4:1)での精製後、24.10g(55%)の無色の粘性液体(η=7.70Pa・s)が得られた。
【0088】
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.83−0.90,1.04−1.47,1.57−1.60(3m,62H,CH,CH,CH;a),2.27(t,J=7.5Hz,4H,O=C−CH;b),3.02および3.03(2d,J=1.68Hz,3.28Hz,各々8H,SCH−CHO;c),3.24(d,J=2.6Hz,8H,SCH−C=;d),4.99−5.05(m,2H,OCH;e),5.24(s,4H,=CH;f)。
【0089】
【化20】

【0090】
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=14.1(CH;a),22.7−34.4(CH,CH;b),32.7,37.9(SCH;c),72.3(OCH;d),120.4(=CH;e),145.0(C=CH;f),173.0(C=O;g)。
【0091】
【化21】

【0092】
IR(ダイヤモンドATR):ν=3060(w,=CH),2921,2852(s,CH,CH),1734(s,C=O),1633(w,C=C),1457(m,CH,CH),1377(m,CH),1160,1092(s,CSC,COC),903cm−1(s,=CH)。
【0093】
(実施例2)
(メタクリレート化二量体酸誘導体DMDAの合成(比較例))
30.46g(0.240mol)の塩化オキサリルを、45.20g(0.080mol)の二量体酸および0.438g(0.006mol)のN,N−ジメチルホルムアミドの、250mlの無水トルエン中の溶液に、室温で滴下により添加した。2時間後、過剰な塩化オキサリルおよび溶媒を留去した(60℃、40mbar)。得られた褐色残渣を250mlの無水塩化メチレンに溶解させ、そして20.82g(0.160mol)のメタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび17.0g(0.168mol)のトリエチルアミンの、250mlの無水塩化メチレン中の溶液に、室温で滴下により添加した。1時間後、この反応混合物を、1Nの塩酸(100mlで2回)、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(100mlで2回)および水(100mlで2回)で洗浄し、その有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、そしてその溶媒を減圧下で除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/酢酸エチル 4:1)での精製後、31.20g(51%)の橙色のわずかに粘性の液体(η=0.35Pa・s)が得られた。
【0094】
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.83−0.90,1.04−1.47,1.60−1.64(3m,62H,CH,CH,CH;a),1.95(s,6H,CH;b),2.32(t,J=7.5Hz,4H,O=C−CH;c),4.31−4.36(m,8H,OCH;d),5.59,6.13(2s,それぞれ2H,=CH;e)。
【0095】
【化22】

【0096】
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=14.1,18.3(CH;a),22.7−34.2(CH,CH;b),61.9,62.5(OCH;c),126.0(=CH;d),136.0(C=CH;e),167.1,173.0(C=O;f)。
【0097】
【化23】

【0098】
IR(ダイヤモンドATR):ν=3090(w,=CH),2923,2853(s,CH,CH),1735,1722(s,C=O),1638(w,C=C),1455(m,CH,CH),1376(m,CH),1152(vs,COC),939cm−1(m,=CH)。
【0099】
(実施例3)
(実施例1および実施例2から得られた重合性二量体酸誘導体をベースとする歯科用コンポジットの調製)
実施例2から得られた二量体酸ジメタクリレートDMDAとのメタクリレート混合物をベースとするコンポジット(コンポジットA、比較例)、および実施例1から得られた開環重合性二量体酸誘導体RODAを含有するコンポジット(コンポジットB)を、以下に与えられる表1に従って、ニーダー(Linden)によって調製した。対応する試験片をこれらの材料から調製し、これらの試験片を3分間2回、歯科用光源(Spectramat(登録商標),Ivoclar Vivadent AG)で照射し、これによって硬化させた。曲げ強度、曲げ弾性率(bending E modulus)および重合収縮を、ISO標準ISO 4049(歯科学−ポリマーベースの充填材料、修復材料および合着材料)に従って決定した。
【0100】
【表1】

【0101】
1) Bis−GMA(Esschem)
2) トリエチレングリコールジメタクリレート(Esschem)
3) シラン化発熱性SiO(Degussa)
4) 1.5μmの平均粒径を有するシラン化Ba−Al−ボロシリケートガラス充填剤(Schott)
5) SiO−ZrO混合酸化物(Tokuyama Soda,平均一次粒径:250nm)
6) 200nmの平均粒径を有するYbF(Rhone−Poulenc)
7) ビス(4−メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム。
【0102】
表2から、本発明による開環重合性二量体酸誘導体をベースとするコンポジットBが、二量体酸ジメタクリレートをベースとするコンポジットAと比較して、かなり減少した重合収縮を示し、一方で、匹敵する機械的特性を有することがわかる。
【0103】
【表2】

【0104】
1) WI=試験片の水浸漬。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化24】

のラジカル重合性モノマーであって、式(I)において、
およびWは、各場合において独立して、HまたはX−R−Y−PGを表し、ここでWおよびWのうちの少なくとも1つは、X−R−Y−PGを表し、
Xは、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基もしくは尿素基を表し、
Yは、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基もしくは尿素基を表し、
Rは、各場合において独立して、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C16アルキレン基を表し、ここでRは、Xおよび/またはYもまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、
PGは、各場合において独立して、環状開環重合性基を表し、そして
a、b、cおよびdは、互いに独立して、3〜10の値を取り得る、
ラジカル重合性モノマー。
【請求項2】
が、X−R−Y−PGを表し、
が、Hを表し、
Xが、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基もしくはウレタン基を表し、
Yが、各場合において独立して、存在しないか、またはエーテル基、エステル基、アミド基もしくはウレタン基を表し、
Rが、各場合において独立して、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C12アルキレン基を表し、ここでRは、Xおよび/またはYもまた同時に存在しない場合にのみ非存在であり得、そして
a、b、cおよびdが、互いに独立して、4、5、6および7の値を取り得る、
請求項1に記載のモノマー。
【請求項3】
前記開環重合性基PGが独立して、
【化25】

から選択され、ここで
Zは、O、S、
【化26】

から選択され、
は、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C16アルキレン基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、HまたはC〜C10アルキル基を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
〜R10は、各場合において独立して、H、−CO−OR11、−CO−R11、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アリールアルキル基を表し、
11は、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アリールアルキル基を表し、
nは、0または1であり、
pは、0、1、2または3であり、そして
qは、0、1、2または3である、
請求項1または2に記載のモノマー。
【請求項4】
前記開環重合性基PGが独立して、
【化27】

から選択され、ここで
Zは、O、S、
【化28】

から選択され、
は、存在しないか、または1つ以上のO原子により分断され得るC〜C10アルキレン基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、HまたはC〜Cアルキル基を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
は、H、−CO−OR11、−CO−R11またはR11を表し、
〜R10は、各場合において独立して、H、−CO−OR11、−CO−R11、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C基、二環式C〜C12基、フェニル基またはベンジル基を表し、
11は、1つ以上のO原子により分断され得るC〜C10アルキル基、脂環式C〜C基、フェニル基またはベンジル基を表し、
nは、0または1であり、
pは、0、1または2であり、そして
qは、0、1または2である、
請求項3に記載のモノマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のモノマーを含有する、重合性組成物。
【請求項6】
ラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1種のさらなるラジカル重合性モノマーをさらに含有し、好ましくは、2個以上のラジカル重合性基を有する少なくとも1種のさらなるラジカル重合性モノマーを含有する、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、Bis−GMA、エトキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、UDMA、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、およびブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートまたは1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種のモノマーを含有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
単官能性および多官能性のビニルシクロプロパン、二環式シクロプロパン誘導体または環状アリルスルフィドから好ましくは選択される、少なくとも1種のラジカル開環重合性モノマーを含有する、請求項7または8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の充填剤をさらに含有する、請求項5〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
安定剤、UV吸収剤、着色剤、顔料、溶媒および潤滑剤から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含有する、請求項5〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
(a)1重量%〜90重量%、好ましくは1重量%〜80重量%、そして特に好ましくは5重量%〜70重量%の式(I)のモノマー、
(b)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは0.1重量%〜3.0重量%のラジカル重合のための開始剤、
(c)0重量%〜80重量%、好ましくは0重量%〜60重量%、そして特に好ましくは5重量%〜50重量%のさらなるラジカル重合性モノマーであって、好ましくは、5重量%〜80重量%のさらなる開環重合性モノマーおよび0重量%〜50重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d)0重量%〜85重量%の充填剤、
(e)必要に応じて、0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.05重量%〜5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜2重量%の添加剤、ならびに
(f)0重量%〜95重量%、好ましくは0重量%〜70重量%、そして特に好ましくは0重量%〜50重量%の溶媒、
を含有する、請求項5〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
歯科材料の調製のための、請求項1〜4のいずれか1項に記載のラジカル重合性モノマー、または請求項5〜12のいずれか1項に記載の重合性組成物の使用。
【請求項14】
前記歯科材料が、コンポジット材料、セメント材料、接着材料またはコーティング材料である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
成形体の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、請求項5〜12のいずれか1項に記載の組成物が、所望の形状を有する立体に形成され、次いで、完全にかまたは部分的に硬化させられる、プロセス。

【公開番号】特開2012−17328(P2012−17328A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150163(P2011−150163)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】