説明

間充織幹細胞による腎疾患及び多臓器不全の治療法と間充織幹細胞馴化培地

間充織幹細胞により馴化した培地を含み、臓器機能不全、急性腎不全、多臓器不全、移植腎の早期機能不全、移植片拒絶反応、慢性腎不全、創傷及び炎症性疾患の治療のための方法と組成が提供される。また、間充織幹細胞、又は間充織幹細胞由来の内皮細胞、又は間充織幹細胞により馴化した培地の治療量を投与することを含む、増殖因子及びサイトカイン発現を調節するための方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概しては臓器機能不全、多臓器不全、腎機能障害、創傷治癒及び炎症性疾患の治療法に関し、より具体的には、間充織幹細胞、事前分化により間充織幹細胞から派生した内皮細胞、間充織幹細胞馴化培地、あるいはそれらの組成物を用いた治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
多臓器不全(MOF:Multi−Organ Failure)は未解決のまま残されている大きな医学的問題である。MOFは、敗血症を伴う重病患者にて(特に大きな手術や外傷を経験した後に)発生する。急性循環不全、急性腎不全(ARF:Acute Renal Failure)、細胞膜漏出、そして肺、肝臓、心臓、血管及び他の臓器における機能不全といった特徴がMOFには見られる。挿管及び換気補助、昇圧剤や抗生物質及びステロイドの投与、血液透析、そして非経口的栄養法などをはじめとする最も積極的な形態の療法を利用してもMOFによる死亡率は100%に近い。それに加えて、手術創又は外傷による創傷に感染が生じるとそれらの治癒に大きな障害をもたらし、感染の再発やさらなる疾病率及び死亡率[の上昇]に寄与することになる。
【0003】
ARFとは、「数時間又は数日間以内の腎機能における急性劣化であり、通常は腎臓で取り除かれるはずの有毒代謝物質が蓄積して生じるもの」、として定義されている。ARFの最も一般的な要因としては、腎尿細管及び腎糸球体末端部の血管内皮細胞に生じる虚血性傷害が挙げられる。このような虚血性ARFの主な病因論としては、出血や血栓事象、急性循環不全、ショック(shock)、敗血、大掛かりな心臓血管外科手術、動脈狭窄などから生じる血管内容積の収縮が挙げられる。一方、腎毒性ARFは放射線造影剤が原因とされており、例えば化学療法剤、抗生物質、シクロスポリンなどの薬剤が頻繁に使用される。AKFを伴う危険が最も高い患者としては、糖尿病患者、本来から腎疾患・血管疾患・肝臓病・心疾患を有する患者、高齢者、癌患者、及び様々な原因で低血圧を伴う患者などが挙げられる。
【0004】
虚血性及び腎毒性のARFは尿細管細胞の細胞死をもたらす。致死下に損傷を受けた尿細管細胞は脱分化し、極性を失い、そしてビメンチン、間充織細胞マーカー、Pax−2、(通常胎生腎中の間充織上皮分化転換の過程においてのみ発現する)転写因子を発現する。
【0005】
腎臓は、激しい急性発作の後でさえも自己再生成し、それによってほぼ正常な機能を回復できる驚くべき能力を持っている。損傷を受けたネフロン(腎単位)片節の再生成は、残存する尿細管細胞の移動と増殖と再分化及び内皮細胞の並列修復の結果であると考えられている。但し、重症のARFの場合には、残存する尿細管細胞・内皮細胞の自己再生成能力を超過してしまう。何らかの原因により孤立性ARF(即ち、MOFを伴わずに単独で生じるARF)を伴う患者の死亡率は引き続き50%以上である。集中治療による補助と血液透析、並びに最近使用されている心房性ナトリウム利尿ペプチド、インスリン様成長因子I(IGF−I:Insulin−like Growth Factor−I)、より優れた生物学的適合性を有する透析膜、持続的血液透析などの介入法が存在するにもかかわらず、前記のような惨憺たる予後の改善は見られていない。
【0006】
別のタイプの急性型腎不全である移植関連急性腎不全(TA−ARF:Transplant−Associated Acute Renal Failure)は多くの場合腎臓移植によりもたらされる。腎臓の被移植者はきまって早期移植片機能不全(EGD:Early Graft Dysfunction)を起こし、その結果腎臓機能の損失につながり、移植片機能が回復するまで血液透析による治療が必要になる。臓器提供者が高齢者であったり極めて低年齢であったりする場合、又は欄外の移植片品質が限界レベルの場合、あるいは死体臓器提供者から該提供者の腎臓を採出する時点から及び被移植者の体内へそれを移植するまでの時間(「冷虚血時間」として知られている)が長期間に及ぶ場合には、TA−ARFの危険性が高くなる。TA−ARFによる早期移植片機能不全は、TA−ARFによって生じる進行性且つ不可逆的な腎臓機能の損失による移植片機能損失の加速化や、急性拒絶反応出現率の上昇により移植腎の早期喪失につながるなど、深刻な長期的影響を伴う。したがって、TA−ARFによる早期移植片機能不全に対する治療又は予防を提供する必要がある。
【0007】
慢性腎不全(CRF)は、ネフロン(腎単位)の進行性損失とそれに続く腎機能の損失である。腎臓の糸球体損傷、血管損傷及び炎症性損傷は共に最終的なネフロン損失と終末期腎疾患に起因する。本質的にあらゆる形態のCRFにおける最終共通路は、腎間質に最も目立って現われる自己永続可能な繊維化及び硬化過程である。
【0008】
多くの腎障害の特徴としては、腎外性障害同様に、極めて炎症誘発的な性質を持っている、ということが挙げられる。例えば、終末期腎疾患の患者における感染及び敗血は死亡率の上昇につながる。様々な増殖因子及びサイトカインはこれらの障害の病態生理において中心的な役割を果たす。このような増殖因子やサイトカインのレベルを調節することにより、炎症反応などの疾患を伴う患者に対する治療法を提供できる。
【0009】
これらをもとに、ARFの予防や、自然腎に既存するARF自体の治療又はMOFの一部としてのARFの治療、移植腎のARFの治療、臓器不全一般及び炎症の治療に現在利用されている療法では、多数存在する当該の患者グループにおける疾病率と死亡率を著しく改善することに成功していない。それ故に、MOFや腎機能障害、臓器不全及び炎症性障害の治療を改善する必要性が差し迫っている。
【0010】
本発明は、MOF、腎機能障害、臓器不全、炎症性及び変形性障害を治療するための、且つ、これらの患者の損傷臓器中の増殖因子とサイトカインの発現をこれらの患者の体内において調節するための、間充織幹細胞と間充織細胞由来の内皮細胞及び間充織幹細胞からの馴化培地を提供する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
先行技術の短所を一つ又は複数緩和するための治療法と組成物をここに提示する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、臓器機能不全、急性腎不全、多臓器不全、移植腎の早期機能不全、移植片拒絶反応、慢性腎不全、創傷及び炎症性障害を治療する方法を提供する。該方法には、間充織幹細胞(MSC)にさらすことによって馴化された薬剤として許容される培地の治療量を、それを必要とする患者に導入することが含まれる。
【0013】
本発明の別の様態では組成物が提供されている。該組成物には、MSCにさらすことによって馴化された薬剤として許容される培地が含まれる。
【0014】
本発明の別の様態は、患者の損傷臓器における少なくとも一つの増殖因子の発現を調節する方法を提供する。該方法には、増殖因子の発現を調節するために有効量のMSC、内皮細胞(EC)又はMSC馴化培地を患者に投与することが含まれる。
【0015】
本発明の別の様態は、患者の損傷臓器における少なくとも一つのサイトカインの発現を調節する方法を提供する。該方法には、サイトカインの発現を調節するために有効量のMSC、内皮細胞又はMSC馴化培地を患者に投与することが含まれる。
【0016】
当業者であれば、以下例証として提示且つ説明される発明の好ましい実施形態の説明から本発明の利点を明確に理解できるはずである。当然のことながら、当該発明にはその他の及び異なる実施形態も適用でき、また、その詳細については種々様々な点で変更態様を適用できる。よって、図面及び明細書の説明は、本質的に例として記載されているに過ぎず本発明を制限するものではない、と見なされるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、間充織幹細胞、間充織幹細胞由来の内皮細胞、間充織幹細胞由来の馴化培地、及びそれらの組合わせを、損傷組織の修復、組織損傷の危険の高い患者における組織と臓器との損傷の回復及び予防、及び損傷臓器内のサイトカインと増殖因子発現レベルの調節に利用する。本発明の一態様では、間充織幹細胞(MSC)を必要とする患者に間充織幹細胞を投与しうる。多臓器不全、ならびに例としてはこれらに限定されないが自然腎の急性腎不全や多臓器不全に伴う自然腎のARF及び移植腎臓のARFをはじめとする腎機能障害、臓器機能不全、創傷治癒、及び炎症性疾患の治療又は予防にMSCの投与を使用しうる。また、炎症性疾患の治療又は予防など、患者の炎症性サイトカイン及び増殖因子の発現を調節するためにもMSCを使用しうる。なお当業者にとっては当然のことながら、前記以外の疾患の治療又は予防のためにもMSCを投与しうる。
【0018】
本発明の別の様態では、培養中でMSCにさらすことによって馴化された培地(MSC馴化培地:MSC−CM)を、それを必要とする患者に投与しうる。一例として、下記のものに限定されないが、多臓器不全、ならびに例としてはこれらに限定されないが自然腎の急性腎不全や、多臓器不全における自然腎のARF、移植腎臓のARFをはじめとする腎機能障害、臓器機能不全、創傷治癒、及び炎症の治療又は予防にMSC−CMを使用しうる。また、炎症性疾患の治療又は予防など、患者の炎症性サイトカイン及び増殖因子の発現を調節するためにもMSC−CMを使用しうる。なお当業者にとっては当然のことながら、前記以外の疾患の治療又は予防のためにもMSC−CMを投与しうる。
【0019】
定義
【0020】
「幹細胞」という用語は、自己再生能を有し様々な細胞型に分化する細胞のいかなるものをも指す。ここで使用される幹細胞は、「成体の」幹細胞である。即ち、該幹細胞は胚芽に由来するものではない。
【0021】
「培養」又は「細胞培養」という用語は、細胞(複数可)が一般的に細胞増殖との適合性を有する又はその生存可能性を維持するための割当場所及び増殖条件となるように定義される境界内にある一つ又は複数の細胞を指す。なお、「培養」という用語は動詞として使用される場合、細胞の増殖又はそれの生存可能性の維持に適する当該場所及び増殖条件を提供する過程を示す。
【0022】
「馴化培地」という用語は、開始培地中には存在しなかった細胞によって生成された少なくとも一つの付加的成分を培地に含むのに十分な時間をかけて、培養中で増殖された細胞にさらされた培地を指す。本発明で使用する馴化培地を培養中の細胞から取り除き、0.22μMのフィルタを通してろ過することにより、馴化培地が殺菌され、且ついかなる細胞、細胞断片及び微粒子が除去される。開始培地は、例えばLifeTechnologies−GibcoBRL社(メリーランド州ロックヴィル市)やSigma−Aldrich社(ミズーリ州セントルイス市)又はBioWhittaker社(メリーランド州ウォーカーズヴィル市)などの製造供給元から市販される培地を含む、当業者に周知のいかなる培地をも使用しうる。培地を必要とする患者への投与に使用される培地は、薬剤として許容される組成物として(すなわち、in vivo<生体内>での用途に適切な形態で)準備される。これは一般に、発熱物質並びにその他のヒト又は動物に有害でありうる不純物を本質的に含まない培地組成を準備することを要する。薬剤として許容される培地は、上記のような製造供給元により市販されている。「薬剤として許容される」という語句は、動物又はヒトに投与された時に副作用やアレルギー反応又は他の有害反応をもたらさない分子的実体と組成に関する。また補助的有効成分を組成物に組み入れることも可能である。
【0023】
「治療有効量」という用語は、毒性をもたらさず、いかなる医学的治療の際にも適度なベネフィットリスク比(対危険便益比)を伴う望ましい結果及び効能を提供するのに十分な幹細胞又は馴化培地の量を指す。
【0024】
「治療有効時間」という用語は、馴化培地又は幹細胞の治療有効量が投与されるまでの期間であり、且つある状態の症状を一つ又は複数軽減するのに十分な期間を指す。
【0025】
「治療する」という用語は、ある状態の症状の少なくとも一つを改善させることを指す。
【0026】
「状態」という用語は、疾病、及び/又は傷害(例えば外傷など)や治療(例えば、手術や臓器提供者からの組織の移植など)に対する反応
を指すために用いられている。
【0027】
「増殖因子」という用語は、それ自体及び/又は他の様々な隣接の又は遠隔の細胞に作用をもたらすことができる細胞によって生成されるところの、タンパク質、ポリペプチド、又はサイトカインを含むポリペプチドの複合体を指す。一般に増殖因子は、発達上又は多数の生理的刺激若しくは環境刺激に反応することのいずれかにおいて、特定の細胞型の増殖及び/又は分化に影響する。代表的な増殖因子の例としては、これらに限定されないが、インシュリン、インシュリン様増殖因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、基本的FGF(bFGF)を含む繊維芽細胞成長因子(FGFs)、PDGF−AA及びPDGF−ABを含む血小板由来増殖因子(PDGFs)、肝細胞増殖因子(HGF)、変換増殖因子アルファ(TGF−α)、TGF−βとTGF−βを含む変換増殖因子ベータ(TGF−β)、表皮成長因子(EGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、成長ホルモンインターロイキン、プロスタグランジン及びその他同等のものが挙げられる。
【0028】
ここに使用される「サイトカイン」又は「サイトカイン(複)」という用語は、細胞間の相互作用に影響し且つ免疫反応の持続期間と強度を調整する生体分子の一般クラスを指す。また、これらの分子は細胞外環境において生じる過程も調整する。
【0029】
「炎症誘発サイトカイン」という用語が示すものの例としてはこれらに限定されないが、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)、インターロイキン−ベータ(IL−1β)及びインターフェロン−ガンマ(IFN−γ)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、リポ多糖類結合蛋白質、溶性リポ多糖類受容体(CD−14)、ケモカインが挙げられる。ケモカインは、特異的な白血球細胞亜型の活性化因子及び走化性因子として主に作用する40以上の小さな(約6〜約14kDa前後の)誘導型且つ分泌型の炎症誘発ポリペプチド超科に属する。
【0030】
「抗炎症性サイトカイン」という用語が指すものの例としてはこれに限定されないが、溶性のTNF受容体(TNF−RI及びTNF−RII)、インターロイキン受容体拮抗薬(IL−1ra)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−13(IL−13)、及び変換増殖因子ベータ(TGF−β)が挙げられる。
【0031】
「炎症性(の)」という用語は疾病又は状態に関連して用いられる場合、正規の方法には不適当な及び/又は正規の方法では解消されない炎症が原因で生じた、又はそれによりもたらされた、又はそれをもたらす病理過程を指す。炎症は、物理学的作用物質、化学的作用物質又は生物学的作用物質によってもたらされた傷害又は異常な刺激に反応して生じる。これらの反応としては、局所反応や、その結果として生じる形態学的変化、有害物質の破壊又は除去、及び修復及び治癒につながる反応が挙げられる。炎症性疾患及び炎症状態は全身性でありうるし、若しくは特定の組織又は臓器に局所的に生じうる。
【0032】
次のものを含む多くの疾患(以下の例示には限定されない)で炎症が生じるということは既知の事実である。全身炎症反応(SIRS);アルツハイマー病(及び、慢性神経炎症、神経膠活性化、小膠細胞の増加、老人斑の形成、及び療法に対する反応などのそれに関連した状態と症状);筋萎縮性側索硬化症(ALS);関節炎(及び、急性関節炎、抗原誘導性の関節炎、慢性リンパ球性甲状腺炎に関連した関節炎、コラーゲン誘導性の関節炎、若年性関節炎、関節リウマチ、変形性関節症、予後の連鎖球菌誘導性の関節炎、脊椎関節症、痛風性関節炎などを含むがこれらに限定されない、それに関連した状態と症状);喘息(及び、気管支喘息、慢性閉塞性気道疾患、慢性閉塞性肺疾患、若年性喘息及び職業性喘息などのそれに関連した状態と症状);心疾患(及び、動脈硬化、自己免疫性心筋炎、慢性心臓低酸素状態、鬱血心不全、冠動脈疾患、心筋症、及び大動脈平滑筋細胞活性化、心臓アポトーシス及び心臓細胞機能の免疫修飾を含む心臓細胞機能不全などのそれに関連した状態と症状);糖尿病(及び自己免疫の糖尿病、インシュリン依存性(1型)糖尿病、糖尿病性歯周炎、糖尿病性網膜症及び糖尿病腎症などのそれに関連した状態と症状);胃腸の炎症(及び、セリアック病、関連骨減少症、慢性大腸炎、クローン病、炎症性腸感染、及び潰瘍性大腸炎などのそれに関連した状態と症状);胃潰瘍;ウイルス性肝炎及びその他のタイプの肝炎などの肝性炎症;コレステロール胆石と肝線維症;HIV感染症(及び、変性反応、神経変性反応及びHIV関連ホジキン病などのそれに関連した状態と症状);川崎症候グループ(及び、皮膚粘膜リンパ節症候グループ、頚リンパ節腫症、冠動脈病変、浮腫、発熱、白血球増加、軽度の貧血、皮膚剥離、発疹、結膜発赤、血小板増加症などのそれに関連した状態と症状);多発性硬化症、腎症(及び、糖尿病腎症、末期腎臓疾患、急性・慢性糸球体腎炎、急性・慢性間質性腎炎、狼瘡腎炎、グッドパスチャー症候グループ、血液透析残存物及び腎臓部の虚血再潅流傷害などのそれに関連した状態と症状);神経変性病(及び、急性神経変性、老化と神経変性病におけるIL−1の誘発、視床下部神経細胞のIL−1誘発塑化、及び慢性ストレス超反応などのそれに関連した状態と症状);眼障害(及び、糖尿病性網膜症及びグレーブス眼障害、ブドウ膜炎などを含むそれに関連した状態と症状);骨粗鬆症(及び、歯槽骨、大腿骨、橈骨、椎骨又は手根骨の骨量の減少又は骨折発生率、閉経後の骨量の減少、塊化、骨折の発生率、又は骨量の減少速度などのそれに関連した状態と症状);中耳炎(成人又は小児)、膵臓炎又は膵臓細葉炎、歯周病(及び、成人、早期発症、及び糖尿病などのそれに関連した状態と症状);肺疾患(慢性肺疾患、慢性副鼻腔炎、ヒアリン膜症、SIDSにおける低酸素状態及び肺疾患などを含む);冠動脈又は他の血管移植片の再狭窄;リウマチ(関節リウマチ、リウマチ性アショフ体、リウマチ性疾患及びリウマチ性心筋炎などを含む);慢性リンパ球性甲状腺炎を含む甲状腺炎;尿路感染(慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候グループ及び尿石症などを含む)等。円形脱毛症、自己免疫性心筋炎、グレーブス病、グレーブス眼障害、硬化性苔癬、多発性硬化症、乾癬、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症、甲状腺疾患(例えば、甲状腺腫及びリンパ腫症性甲状腺腫〔橋本甲状腺炎、リンパ節様甲状腺腫〕、睡眠障害や慢性疲労症候グループ及び肥満〔非糖尿病性のものと、糖尿病関連のものの両方を含む〕)などの自己免疫疾患を含む免疫疾患。細菌、ウイルス(例えば、サイトメガロウィルス、脳炎、エプスタイン-バーウイルス、ヒト免疫不全ウィルス、インフルエンザウイルスなど)、又は原虫(例えば、熱帯熱マラリア原虫、トリパノソーマなど)によってもたらされるリーシュマニア症、らい病、ライム病、ライム病心臓炎、マラリア、大脳マラリア、脳膜炎、マラリア関連の尿細管間質性腎炎)などの感染病に対する抵抗。脳外傷(卒中及び虚血、脳炎、脳症、癲癇、周産期脳外傷、長期にわたる熱性けいれん、SIDS及びクモ膜下出血などを含む)、低出生体重(例えば、脳性麻痺)、肺損傷(急性出血性肺損傷、グッドパスチャー症候グループ、急性虚血性再潅流)、(例えば、毒性オイル症候グループ珪肺症に対する罹病性などの)職業・環境汚染物によってもたらされた心筋機能障害、放射線損傷を含む外傷に対する反応、及び(例えば、火傷又は熱傷、慢性創傷、手術創及び脊椎損傷などの)創傷治癒反応の効率。受精能/生殖能、妊娠可能性、早産、出生前・出生時合併症(早産による低出生体重、脳性麻痺、敗血症、甲状腺機能低下、酸素依存、頭蓋異常、早期発症閉経を含む)などを含むホルモン調節[機能に関連する状態]。移植に対する被験者の反応(拒絶又は受容)、急性期反応(例えば発熱反応)、一般的な炎症反応、急性呼吸窮迫反応、急性全身炎症反応、創傷治癒、癒着、免疫炎症反応、神経内分泌反応、発熱現象及び抵抗、急性期反応、ストレス反応、罹病性、反復運動によるストレス、テニス肘、疼痛管理及び反応。
【0033】
間充織幹細胞
【0034】
本発明のMSCは、骨髄、末梢血、皮膚、毛根、筋肉又は脂肪組織、子宮内膜、血液、臍帯組織又は臍帯血液、及び様々な組織の初代培養から得られうる。
【0035】
本発明で使用されるMSCを得るためにいかなる供給源をも使用しうるが、骨髄から該MSCを単離することが好ましい。一例として、骨髄穿刺液を単離して洗浄し、インビトロ(in vitro)(ガラス器内などの生体外環境)において培地に再懸濁して無菌培養に入れるようにしても良い。最初に、培地中で血清が単離された細胞に接種(plated)される。本質的にMSC以外の細胞はすべて非癒着性であり洗浄時に除去される間、MSCは培養皿に付着する(Friedenstein, Exp. Hematol. 4:267−74, 1976)。MSCは、明確に定義された多分化能性幹細胞グループを産出しながら培養中で培養して増殖する。さらなるMSC−CMの増殖・生成を続ける前に、又は患者にMSCを投与する前に、残留マクロファージ又はその他の造血細胞系統を除去するためにFACSによってMSCのCD45陽性細胞がさらに枯渇される。本発明のMSCはCD34及びCD45陰性であることが好ましいが、該MSCとしては、SH2、SH4、CD29、CD44、CD71、CD90、CD106、CD120a陽性及びCD124、CD14、CD34、CD45陰性であることがさらに好ましい。MSCは、癒着分離法以外にも、密度勾配分割法や免疫的選択法、白血球搬出法及びその他同等のものを含む(但しこれらに限定されない)当業者に周知のいかなる技術によっても単離しうる。
【0036】
また、MSCは、単離された幹細胞がMSCであることを示すために形態学的及び機能的にテストしうる。Pittengerらによると、例えば、MSCを骨細胞と脂肪細胞へ分化させるために細胞の一部分を分化培地において培養しうる、と報告している(Science. 284: 143−147, 1999)。残りのMSCを培養中で引き続き増殖させて患者への投与や馴化培地の生成に使用しうる、或いは低温保存して後で使用するようにもしうる。
【0037】
MSCは、患者から、又は定義された状況下に適合性を有するが同種異系である提供者(ドナー)由来のものでありうる。当業者には周知のHLA適合性を含む、移植される臓器に対して定義されるような類似した適合性を有する提供者からのドナー幹細胞を使用しうる。MSCはインビトロ(in vitro)において増殖することができるので、MSCの複数投与が可能となり、MSCの治療効果をさらに増大することができる。自家幹細胞の使用により免疫寛容の懸念が解消される。
【0038】
本発明のMSCは、患者への投与前に、又はMSC−CMの生成前に、遺伝子組み換えを行いうる。MSCは、抗炎作用を及ぼし、且つ腎臓内血行動態を向上させるために、生成物が細胞の生存を助け細胞の移動と増殖を刺激するとして知られる遺伝子を使用して遺伝子組み換えを行いうる。MSCに導入された遺伝子の発現は、これらの遺伝子の被制御活性化及び不活性化の両方を可能にする薬剤感受性プロモータを含む(但しこれに限定されるものではない)様々なプロモータの制御下に置かれうる。MSCを遺伝子組み換えするための発現ベクターのクローニングが当業者に公知の材料と方法を使用して行われる。MSCの遺伝子組み換えは、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ウイルス・ベクターを含む感染、電気穿孔法及びその他同等のものを含む当業者に公知の方法を使用して達成しうる。
【0039】
インビトロ(in vitro)における事前分化による本明細書に記載されるMSC由来の内皮細胞(EC:Endothelial Cells)も本発明において使用しうる。ECは、MSCに対して、或いはMSC又はMSC−CM(及びそれの組合わせ)と組み合わせて、前記のような患者への導入に使用されうる。投与用ECの処方は後述する。
【0040】
別途指示無き限り、本発明の実施には、本発明が属する技術分野の範囲に含まれる従来のウィルス学的、微生物学的、分子生物学的方式及び組換DNA技術が採用されるものとする。これらの技術は、諸文献において詳細に説明されている。例として、Sambrookらによる「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(仮訳:分子クローニング:実験手引き書)」(現行版)、「DNA Cloning: A Practical Approach(仮訳:DNAクローニング:実用的研究方法)』第I巻・第II巻(D.Glover編)、「Oligonucleotide Synthesis(仮訳:オリゴヌクレオチド接合)」(N.Gait編、現行版)、「Nucleic Acid Hybridization(仮訳:核酸雑種形成)』(B.Hames,S.Higgins編、現行版)、「Transcription and Translation(仮訳:転写と翻訳)」(B.Hames,S.Higgins編、現行版)、「CRC Handbook of Parvoviruses(仮訳:パルボウィルスのCRC手引き)」第I巻・第II巻(P.Tijssen編)、「Fundamental Virology(仮訳:基本ウィルス学)第二版』第I巻・第II巻(B.N.Fields,D. M. Knipe編)を参照のこと。
【0041】
MSC馴化培地
【0042】
MSC馴化培地(MSC−CM)は、培地を馴化するのに十分な時間をかけて上記MSCを培養することにより得られうる。非限定的な一例として、以下のようにMSC−CMを得ても良い。MSCは、上記のようにして得ても良く、また培養中に接種された細胞として得ても良い。例えばFACS分類によるCD45陽性細胞の癒着接種と除去によって他の細胞型が枯渇してしまったMSCは、実質的に各培養物が密集しており、本質的に接触が阻止された培養物へと発達しうる。該培養物が増殖するとともに、MSCは血清を含んだ培地において増殖しうる。また、MSCは、MSC又はMSC−CMの被移植者からの自家血清でも増殖しうる。いったん培養物が高サブコンフルエント(すなわち、約3−5×10 MSC/T−75フラスコ)まで増殖すると、無血清MSC−CMが望ましい場合には血清を培地から除去しうる。
【0043】
MSCは通常の酸素状態、すなわち、室内気+5%CO(pO約21%)にて増殖しうる。その代わりとして、且つ好ましくは、MSCは低酸素状態(pO≦5%)でも増殖しうる。培地は、MSC存在下で、MSC培養物への培地の添加前には存在しなかった成分を少なくとも一つ培地に加えるのに十分な時間、定温放置にて培養される。培地を馴化する期間としては1〜3日間が好ましく、2日間がより好ましい。MSC−CMを収集してから、MSC−CMを殺菌し、あらゆる微粒子をも除去するために微細孔フィルター(0.22μMフィルターなど)によって濾過するようにしても良い。該MSC−CMはそのまま患者に投与しても、後で投与できるように好ましくは−120℃で冷凍して保存しても良い。また、例えば遠心分離、透析、濾過、凍結乾燥及びその他同等のものによってMSC−CMを濃縮してもよい。
【0044】
MSCにより培地に加えられた成分が少なくとも一つ存在することは、生物検定としての、ELISA、又はHPLCなどの分離分析を用いて確認しうる。例えば、例として掻爬、ATP枯渇、又はこれら両方によって損傷を受けた近位尿細管性細胞を使用することによりインビトロ(in vitro)においてMSC−CMをテストしうる。生存、繁殖及び/又は増殖の刺激に対して細胞を評価するために、煮沸したMSC−CM又は無血清培地を単独で対照として使用することによりMSC−CMを細胞に添加しうる。また、MSC−CMはin vivo(生体内)においてもテストしうる。MSCに関連して上記されるように、MSC−CMは、単回投与、複数回投与又は連続投与、又はこれらの組合わせにより投与しうる。本発明の馴化培地(CM)を生成するためのMSCの供給源に対しては、必ずしも直接患者に移植されるMSCと同じレベルの適合性が要求されるとは限らない。MSC−CMの生成及び使用については、後述される実施例を参照してさらに詳しく説明する。
【0045】
治療有効量の投与
【0046】
ある実施形態では治療有効量のMSCが患者に導入され、別の実施形態では治療有効量のMSC−CM又はECが患者に投与される。治療有効量のMSC、EC及びMSC−CMは、これらのいかなる組合わせとしても投与されうる。治療有効量は、治療を受ける患者の体重によって決定されるが、病状の重症度や、療法開始時における病状の進展段階(例えば、初期、末期、等)、及び合併症の有無によって、さらに変更されうるものである。治療量はまた、患者に導入する際の方法に基づいても決定されうる。治療量は、療法中の投与が一回なのか又は複数回なのかによる。治療量のMSC−CMの投与は、例えば24時間(但し、必ずしもこれに限定されない)の持続注入によって行いうる。好ましくは、約0.01ml〜約0.2ml/体重100gのMSC−CMを含んだ治療投与量が投与されれば良く、さらに好ましくは、約0.04ml〜約0.10ml/体重100gのMSC−CMを含んだ治療投与量が導入されるのがよい。ただし、それ以外の投与量も可能である。好ましくは、治療投与量中、被移植者の体重1キログラム当たり約0.01〜約5×10個の細胞を含むMSC又はECが投与されれば良く、さらに好ましくは、治療投与量中、被移植者の体重1キログラム当たり約0.02〜約1×10個の細胞を含むものが投与されるのが良い。使用される細胞の数は、被移植者の体重と状態、投与数又は頻度、及びその他当業者に周知の変数に依存する。例えば、治療投与量は、療法中の投与が一回なのか又は複数回なのかによる。それに続く治療投与量は、治療量のMSC、EC、MSC−CM又はそれらの組成物を含みうる。MSC又はMSC−CMの治療量は、治療の必要性をもたらしている事象の前に(例えば手術、化学療法による治療などの前に)、患者に対して投与しても良い。
【0047】
好ましくは、注射によって、又は静脈内(すなわち、大静脈などのような太い中心静脈内)に点滴注入するか又は動脈内(すなわち、大腿動脈を介して副腎動脈内)に点滴注入することによって、MSCとEC及びMSC−CMを患者に投与すればよい。MSC、EC及びMSC−CMの導入には、本発明の属する技術分野において一般に知られている導入方法のいかなるものをも使用しうる。
【0048】
MSCとECがインビトロ(in vitro)において増殖可能であり、且つMSC−CMが採取・保存可能であるので、MSC、EC及びMSC−CMの治療効果をさらに増大するためにMSC、EC及びMSC−CMを複数投与することが可能である。治療抵抗性(血液透析、非経口的栄養法、抗生物質、集中治療)のARFを単独で又はMOF又は多臓器機能不全に伴って有する患者や、最も重度な形態の治療抵抗性ARFが発現する危険が最も高いか又は最も重症度の高い治療抵抗性ARFが今にも発達しようとしている患者や、大動脈瘤修復などの危険度の高い手術を受ける予定になっている外傷又は外科患者や、感染しており治癒不能な創傷をもつ患者や、術後にMOFを発達中の患者や、移植腎臓に影響を及ぼす重症のARFを伴う患者、及び治療を必要とする炎症性疾患を伴ういかなる患者をも含む(但し、これらに限定されない)代表的患者集団が、MSC、EC及びMSC−CMの投与により効果を得ることができる場合がある。上述のように、MSC、EC又はMSC−CMの治療量投与は、治療を要する状態が発現する前、発現中、もしくは発現後に行いうる。複数の異なる治療量を患者に提供してもよい。腎臓、肺、肝臓、心臓などのあらゆる損傷臓器に関連した状態において、MSC、EC及びMSC−CMによる療法を使用しうる。
【0049】
治療有効量のMSC、EC及びMSC−CMを投与した結果の評定は、当業者に一般に知られている技術を用いた評定により行いうるものであり、ここに挙げられる実施例に限定されない。例えば、血清クレアチニン、BUN、電解質レベル、クレアチニンクリアランス(糸球体ろ過値)の測定、尿排出及び組織像を判断することにより腎臓の治療をモニター監視しうる。実験型を使って、肺中の含水量と浸潤細胞を計測することによって治療有効量の投与による肝臓及び肺の病状軽減状態を評価し、また、肝臓については組織学的に評価しうる。患者及び実験型中の組織及び肝酵素の生検サンプルを計測しても良い。
【0050】
増殖因子の調節
【0051】
損傷臓器中の増殖因子及びサイトカインの発現を調節するために、MSC、EC又はMSC−CMを、それを必要とする患者にも与えうる。例えば、増殖因子及び抗炎症性サイトカインの発現レベルを増やすためにMSC、EC又はMSC−CMを投与しうる。また、増殖因子及び炎症反応促進性サイトカインの発現レベルを下げるためにもMSC、EC又はMSC−CMを投与しうる。
【0052】
増殖因子発現レベルの調節は、例えば血漿中で、又は、組織又は血球中の増殖因子の発現レベルを計測することによっても計測しうる。血漿中の増殖因子の検出については、R&D Systems社(ミネソタ州ミネアポリス市)によって販売されているような市販のELISAキットを使用して計測しうる。組織及び血球中の増殖因子の発現レベルは、例えば、以下の実施例に記載されるマイクロアレイ解析又は実時間PCRにより決定されうる。増殖因子調節の計測評価を行う方法として当業者に公知のいかなる検定法をも使用できる。
【実施例】
【0053】
ここで、下記の非制限的な実施例に基づいて本発明を説明する。
【0054】
実施例1:MSCの単離
【0055】
麻酔下に、正常の成体ラット(雄性又は雌性の、Sprague−Dawley又はFisher 344系統)の大腿から、25ゲージ注射針の付いた注射器を使って無菌PBSにより大腿を洗浄(flush)することによって、MSCを集菌した。単離された細胞吸引液を回転させて、吸引液に含有される細胞を沈殿させた。沈殿物を培地(ミズーリ州セントルイス市内Sigma−Aldrich社;10−20%ウシ胎仔血清を含むMEM又はDMEM/F12)の中で再懸濁し、任意に70μmメッシュ(カリフォルニア州サンノゼ市Becton & Dickinson社製)でろ過してから、培地の入った75cmの一次培養フラスコ内に接種した。非癒着細胞は、培養液中72時間後に培養液で繰り返し洗浄することによって取り除いた。癒着細胞は低密度で新しいフラスコへと移し、約3−5×10 MSC/フラスコまで増殖させた。細胞の外観は紡錘状であった。MSC表現型は、特異性分化培地で骨細胞及び脂肪細胞に分化することによって確認された(Pittengerら、「Science」284:143−147、1999年)。任意的に、あらゆるCD34及びCD45陽性細胞を排除するため、癒着細胞をFACSによってさらに精製した。MSCは、被移植者への投与や、EC又はMSC−CMの生成に使用したり、或いは後で使用するために凍結保存した。
【0056】
実施例2:MSC−CMの調製
【0057】
MSC−CMの生成に、実施例1に記載される方法で単離したMSCを使用した。MSCが高サブコンフルエント(すなわち、約3−5×10 MSC/T−75フラスコ)になるまで増殖させ、MSCを無血清培地で繰り返し洗浄することによってウシ胎仔血清を培養物から取り除いた。その後1−3日間、大気下(pO〜21%)
で、又は低酸素状態(pO≦5%)の下に、MSCを培養することによって無血清培地を馴化した。無細胞上澄み液(MSC−CM)を採取し、0.22μMのフィルタでろ過してから、―120℃の無菌条件下にて冷凍した。インビトロ(in vitro)においてテストする前、又はARFを伴うラットに投与する前に、MSC−CMを解凍し、さらなる調整操作を加えることなくアリコート(一定分量)を使用したり、或いは対照としての投与前に20分間100℃にてアリコート(一定分量)を煮沸したりした。無血清MSC−CM中のタンパク質絶対濃度は、ビウレット・タンパク質検定の検出下限にあった。
【0058】
実施例3:MSC投与
【0059】
虚血性/再潅流型のARF(「虚血性ARF」)は、麻酔下のラットにおいて、両腎茎の時限クランピングにより誘導され、結果として腎臓への血液供給を阻止することになり、それが原因で「虚血性の」発作が発生して腎臓機能の急な消失(すなわち、ARF)につながった。45分間の両側性腎虚血により重症ARFの標準モデルが確立された。該45分間の両側性腎虚血の治療結果は、血流再開後72時間、糸球体濾過率が基準値の5%未満の場合、死亡率50%であった。重症ARF標準モデルの組織診では、皮髄境界部に広範囲におよぶ腎尿細管壊死と重度な維管束うっ血が認められた。35分間の両側性腎虚血により中等度ARF標準モデルが確立された。中等度ARF標準モデルは、血清クレアチニン・レベル約1.5mg/dL及び死亡率10%未満(<10%)を示す。これらのARF標準モデルは、急性循環不全や敗血や外傷を伴ったり、血管手術後であるなどのARF患者を含む最も一般的且つ最も重度のARF患者の場合と非常によく似ている。
【0060】
ARF発症直後又は24時間後に、MSCを静脈内注入(頚静脈、大腿静脈、又は尾静脈内に注入)、又は動脈内注入(頚動脈又は大腿動脈を介して大動脈内に注入)した。すべての研究において投与された細胞の総数が被実験動物一匹あたり約1×10〜1.5×10個であった。同数の繊維芽細胞と同量の無血清培地を対照として使用した。
【0061】
血中クレアチニン及びBUNレベルの測定と、クレアチニン・クリアランス(糸球体ろ過値)及び尿排出の計測によって、実験型における(つまり患者の)腎機能を監視した。全体的な結果は、体重減少、血流動態及び生存を測定することによって評価された。MSCによる治療を施行したARF動物及び対照の動物を屠殺後、腎臓における組織学的損傷(アポトーシス、壊死、維管束のうっ血及び損傷、炎症細胞浸潤巣)及び修復(有糸分裂生起、細胞の再分化、充血除去など)の度合いを検討した。
【0062】
組織像及び損傷度指標(score)は以下のように評価した。固定されている腎臓の冠状断をH&Eで染色し、25個の正方格子からなる目盛付き対物レンズ(倍率20倍)を使用してランダムな皮質野で尿細管の損傷度を採点評価した(Chatterjeeら 「カルパイン抑制剤−1はラットの腎虚血/再潅流傷害を軽減化する。」Kidney Int. 59: 2073−2083、2001)。それぞれの腎臓について、尿細管のプロフィールと該格子間に存在する100個の交点を検討した。「造血幹細胞動員関連の顆粒球増多症によって急性腎不全が凄まじく悪化する」と題するTogelらの報告(J.Am.Soc.Nephrol.15:1261−1267,2004)に示されるように1mm当たりの白血球浸潤を採点評価した。
【0063】
免疫組織化学法は以下のようにして実施された。腎臓のパラフィン切片をキシレンで脱パラフィン化し、アルコール系及び水の中で再水和した。ペルオキシダーゼ遮断試薬で伏培(定温放置)後に、DAKO社製(カリフォルニア州カーピンテリア市)の即時使用可能PCNA染色用製剤中にて、モノクローナルのマウス抗ラットPC−10抗体でスライドを標識付けした。腎臓皮質及び外部髄質からランダムに選択された4分画中の正電荷の原子核数を倍率20倍で数えることにより、PCNA陽性細胞(有糸分裂生起のマーカー)の採点評価を行った。PCNAの評点を得るために全ての領域及び全ての腎臓からのデータをプール(合併収集)した。アポトーシスの評点は、Roche社製(ドイツ国マンハイム市)の原位置細胞死検出キット(In Situ Cell Death Detection Kit)を使用してTUNEL検定により得られた。腎臓切片をプロテイナーゼKで脱パラフィン化、再水和、且つ温浸(digest)して、37℃で60分間TUNEL反応液により標識付けした。切片標本の正電荷の原子核を蛍光顕微鏡でスクリーニングし、また、すべての腎臓に関して皮質及び外部髄質中のランダムに選択された切片10個を倍率40倍で数えた。アポトーシスの評点を得るために全領域及び全腎臓からのデータをプール(合併収集)した。
【0064】
図1aと図1bに示されるように、中等度ARFを伴うラットに対して血流再開直後にMSCを投与した場合(1a)又は血流再開後24時間後に投与した場合(1b)、血清クレアチニンによって決定される腎機能が著しく向上した。重度のARFを伴うラット(対照動物における24時間の血清クレアチニン=4.5±0.5mg/dL)についても、血流再開直後にMSCを与えられた動物で同じような向上が認められた。治療執行動物中の血清クレアチニンレベルは、MSC注射の24時間後で2.1±0.5 mg/dLであった(対照比較:P=0.002)(図2a)。また、重度のARFを伴うラットの腎損傷指標、白血球浸潤指標、PCNA指標及びTUNEL染色指標についても評価した。MSCにより治療したラットの損傷指標(P=0.004)(図2b)、対照動物と比較したPCNA染色指標(P=0.023)(図2c)、及び皮質中のアポトーシス細胞数の低下(P<0.0001)(図2d)は有意義な好結果であった。治療した動物と対照動物の白血球浸潤指標も類似したものであった。
【0065】
実施例4:MSC−CMによるインビトロ(in vitro)治療
【0066】
実施例2で説明した方法でMSC−CMを調製した。MSC−CMを損傷尿細管細胞に加えて用いたインビトロ(in vitro)における治療を以下のようにテストした。近位尿細管表現型である正常ラット腎臓細胞(メリーランド州ロックヴィル市内ATTC社から購入した「NRK」)を、10cmのペトリ皿の中で、密集状態になるまで、10%FCS(ユタ州ローガン市Hyclone社製)、pH 7.40、37℃、5%CO及び大気を伴うDMEMにおける培養液中で増殖させた。いったんNRKが密集状態になった時点で、無血清DMEMで細胞を3回洗浄し、且つ細胞培地を無血清DMEMと取り替えた。NRKは、0.1mMのアンチマイシンで30分及び1mMの2−デオキシグルコースで30分定温放置することによって約75−90%ATP枯渇した。その後、無菌メスを使ってNRK上に擦過傷をつけた(つまり、いくつかの並列する擦過傷を、尿細管細胞単分子層中に生成した。)ATP枯渇度はルシフェラーゼ・キット(ミズーリ州セントルイス市シグマ社製)を使用した並行調査にて測定された。
【0067】
損傷細胞培養を慎重に洗浄して、アンチマイシン及び2−デオキシグルコースを除去し、(大気培養又は低酸素培養の)MSC−CMを含む無血清DMEMと対照培地を培養に加えた。容量を一定に維持しながら以下のものを添加した。
MSC−CM:0.2、0.5、1.0ml、総培地量5ml
煮沸済MSC−CM(20分、〜100℃):0.2、0.5、1.0ml、総培地量5ml
低酸素MSC−CM:0.2、0.5、1.0ml、総培地量5ml
ウシ胎仔血清:10%、陽性対照、総培地量5ml
無血清培地:0.2、0.5、1.0ml、陰性対照、総培地量5ml
【0068】
治療後24及び48時間経過した時点で損傷NRKを評価した。各グループにおいて少なくとも4〜6件の独立した実験を行った。表1に示されるように、運動性変化生起(motogenesis)と有糸分裂生起、及びアポトーシスの度合いを計測評価した。運動性変化生起については、創傷治癒の目的で創傷領域への細胞移動量を計測する。半細胞分裂促進投与量であると判明している0.2mlのMSC−CMで運動性変化生起をテストした。
【0069】
有糸分裂生起については、細胞の増殖及び生存量を計測する。24時間と48時間の時点でMTT検定法により有糸分裂促進性を計測した。MTT検定では、NADH及びNADPHなどの還元当量を生成すべく、代謝的に活性な細胞によって(部分的にはデヒドロゲナーゼ酵素の作用によって)、黄色のテトラゾリウムMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾリル−2)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)が還元され、NADH及びNADPHのような還元相当物を生成する。その結果得られた細胞内の紫色ホルマザンは可溶性となり、分光測光手段によって定量化できる。
【0070】
アポトーシスは、上述のTUNEL検定法(アネキシンV(Annexin−V)や、市販の抗体を用いたFACS解析によるPIを使用)及び免疫細胞化学による細胞形態学を用いて計測された。その結果を表1に示す。
【表1】

表1中のデータは、平均値(%)± 第5グループSFM(=100%)陰性対照のSDとして表記。
※: 少なくともp<0.05 (第1グループのデータを第2〜第5グループのデータと比較した場合)
※※: 少なくともp<0.05 (第4グループを第2グループと5グループからのデータと比較した場合、及び第4グループを第1グループと比較した場合)
【0071】
表1に示されるように、MSC−CMは、培養中の損傷細胞における対照培地と比較して、著しく運動性変化生起及び有糸分裂生起を刺激し、アポトーシスによる細胞死を抑制する。また、運動性変化生起と有糸分裂生起及びアポトーシスに対するMSC−CM作用は(一回分の)投与量に依存する(図示せず)。低酸素状態で生成されたMSC−CMは、大気下で馴化されたMSC−CMよりも著しく強力であった。48時間の時点で集菌したMSC−CMは24時間で採取されものよりも若干強力であった。
【0072】
実施例5: In VivoにおけるMSC−CM投与
【0073】
実施例2で説明した方法でMSC−CMを調製した。MSC−CMは、下記載されるような単回投与又は持続注入プロトコル(治験実施計画)に則って注入した。
【0074】
MSC−CM注入の単回投与のために、(40分間の虚血後に行った腎茎クランプ除去に続く)血流再開直後、そして再び24時間及び48時間の時点において、(大気か又は低酸素pOの下に馴化された、もしくは対照としてDMEM(SFM)の下に馴化された培地から得られた煮沸済又は未煮沸の)MSC−CM 0.2mL(0.07mL/100g)を、虚血/再潅流によるARF(I/R ARF)を伴うラットグループ(成体、雄性SDラット、n=6〜8/各々)に対して注入した(尾静脈経由のs.c.又はi.v.)。3日間の観察期間中に、生存状態や体重の記録、腎機能(血清クレアチニン、BUN、腎血流量)の測定及び腎臓損傷の組織学的な指標により結果を評価した。
【0075】
MSC−CMの単回投与を使用したin vivoにおける治療の結果を表2に示す。
【表2】

表2におけるデータは平均±SDとして表記。
※: 少なくともp<0.05 (第A1グループのデータを第A2及び第A4グループのデータと比較した場合、及び第A1グループを第A3グループクレアチニン及びBUNデータと比較した場合)。第A2グループと第A4グループのデータの間に有意差は認められなかった。
【0076】
表2に示されるように、煮沸済MSC−CM(大気又は低酸素pO)とSFMのいずれにも結果の向上は認められなかった。血流再開後24時間、48時間及び72時間の時点にて煮沸してないMSC−CMで動物を治療した場合には、血清クレアチニン及びBUNの上昇が著しく少なかった。それに加えて、煮沸してないMSC−CMで治療したラットの腎血流量及び腎臓の損傷度指標は、SFM又は煮沸したMSC−CMで治療した動物におけるものに対して著しく優れたものであった。低酸素pO下で得た未煮沸のMSC−CMの腎臓保護作用は、大気pO下で得た未煮沸のMSC−CMで得られたものよりも優れていた。
【0077】
持続注入プロトコルのために、ラットグループ(n=4−6/各々)の腹膜に、Alzet社製小型浸透圧ポンプを使用して間断なく培地(上記煮沸済又は未煮沸のMSC−CM又はSFM、24時間/300g当たり0.2 mL)を注入した。上記のように3日間の観察期間を通じて結果を評価した。生存状態の記録、腎機能(血清クレアチニン、BUN、クリアランス、腎血流量)の測定及び腎臓損傷の組織学的な指標により該結果の評価を行った。MSC−CMで治療したARFを伴うラットにて測定されたすべての変数を、煮沸済MSC−CM及びSFMで治療した同様の虚血性ARFを伴うラットにて測定された変数と比較した。結果として得られた計測値はすべて、いずれかのタイプの(すなわち、大気及び低酸素pOのいずれかによって得られた)MSC−CMにおいて有意義な向上を示した。大気下及び低酸素状態で生成されたMSC−CMのデータを表3に示す。
【表3】

表3におけるデータは平均±SDとして表記。
※: 少なくともp<0.05 (第B1グループのデータを第B2、第B3、第B4グループのデータと比較した場合)。第B2グループと第B4グループのデータの間に有意差は認められなかった。
【0078】
表3に示されるように、血流再開後24時間、48時間及び72時間の時点に煮沸しなかったMSC−CMで動物を治療した場合には、血清クレアチニン及びBUNの上昇が著しく少なかった。それに加えて、その腎血流量及び腎臓の損傷度指標については、SFM又は煮沸したMSC−CMで治療した動物におけるものに対して有意義に優れた結果が得られた。表3に示されるように、腹腔内持続注入については、煮沸済MSC−CM及びSFMのいずれにも結果の向上は認められなかった。MSC−CMの単回注入により得られた結果と持続注入により得られた結果との間に有意差は認められなかった。低酸素pO下で得た未煮沸のMSC−CMの腎臓保護作用は、大気pO下で得た未煮沸のMSC−CMで得られたものよりも優れていた。
【0079】
実施例6:MSCによる増殖因子遺伝子発現の調節
【0080】
実施例1と実施例3の説明に記載した方法でMSCを得てARFを伴うラットに投与した。実時間PCRを使用して、MSC投与を伴う場合と伴わない場合のラットの腎臓における増殖因子及びサイトカイン発現の調節を評価した。
【0081】
汚染DNAを除去するためのDNase温浸(digestion)段階を含むQiagen社製(カリフォルニア州バレンシア市)のRNeasyキットを使用して実時間PCR用のRNAを抽出した。42℃で60分間、M−MLV逆転写酵素(カリフォルニア州カールスバード市内Invitrogen社製)を使用して逆転写を行った。
【0082】
以下のプライマーを使用して、β−アクチン転写物に相対した標的遺伝子コピー数の定量化を伴う実時間PCRを行った。

【0083】
Molecular Probes社製(オレゴン州ユージーン市内)のSYBR Green I(非特異性二本鎖DNA挿入蛍光染料)を使用して実時間PCR増幅作用を監視するために、Cepheid社製(カリフォルニア州サニーヴェール市内)のSmart−Cyclerシステムを使用した。タカラバイオ社製(滋賀県)のTaKaRa Ex TaqTm R−PCR Versionにより総量25μLで全反応を行った。反応条件は、熱変性時温態(hot)開始=120秒、95℃; 融解=10秒、95℃; アニーリング=12秒、63℃; 増幅=15秒間、72℃、であった。蛍光生成物の計測については、非特異性生成物及びプライマ二量体が計測されてしまうことを避けるために特異性生成物の最高融解値より2℃低い値に設定し、各SDF−Iサイクル後6秒間85℃で行った。最適なアニーリング温度と融解温度は、サンプルを実行する前にプライマに対して決定される。反応混合物の融解温度解析によって、生成物の典型的な融解温度が単独のシャープなピークである特徴的な融解曲線が見られた。生成物の特異性は融解曲線によって決定され、また、非特異バンドを形成するためにゲルを対照とした。サンプルは重複状態で流し、平均交差点(CP)値を計算に使用した。該CPは、増幅された遺伝子量が背景蛍光発光異常の閾値に達するサイクルであり、初期のコピー開始量を定量化するために決定されたものである。以下の方式を使用して比較CP法によりmRNA発現の相対定量を計算した。
比率=(E標的ΔCP標的(対照−サンプル)/(E基準ΔCP基準(対照−サンプル)
【0084】
(Eは実時間PCR能率;CP、つまり交差点、及びサンプルと対照間の差異)(Pfafflら:「相対発現のグループ単位比較と統計分析用の相対発現ソフトウェアツール(REST)が実時間PCRをもたらす」Nucleic Acids Res 30:e36,2002)
【0085】
内在性コントロールβ−アクチン遺伝子を標的遺伝子とした相対定量値は、遺伝子と比較した相対的な発現を示す数値として表記する。汚染DNAと非特異増幅作用が増幅してしまう可能性を避けるため、次のことに配慮を施した。
(a) DNaseの温浸段階をRNA抽出プロトコルに含む。
(b) 増幅されるべきcDNA内部のイントロン配列を含むようにプライマのいくつかを設計した。
(c) 適切な陰性対照(無定型対照)でも反応を行った。
(d) 増幅された生成物の融解曲線(解離グラフ)を分析することによって生成物の均一な増幅を再確認した。
(e) ゲル電気泳動を行って増幅生成物の正確なサイズ及び非特異バンドの不在の両方をめいめい確認した。
【0086】
MSC投与の結果、内部制御として各遺伝子の発現を正規化するためにβ- アクチン発現を使用した実時間PCRにより、増殖因子遺伝子の発現の変化を示す。実時間PCRで示された、MSC投与後24時間の時点で炎症反応促進性サイトカインTNF−αとIL−1β及びIFN−γをコード化する遺伝子の発現の低下が認められた(図3a)。図3aにさらに示されるように、MSCにより治療した動物はIL−10(抗炎症性サイトカイン)の発現の増加を示した。図3bに示されるように、MSCにより治療した動物は、腎臓におけるbFGF及びTGF−αの発現増加を示したが、対照腎臓と比較してHGF発現の減少を示した。図3cは、MSCにより治療した腎臓が対照腎臓に比較してBcl−2発現が増加した一方iNOS発現が減少したことを示す。
【0087】
実施例7:MSCの遺伝子組み換え
【0088】
実施例1の項に記載されるような方法で単離したMSCは、患者への投与前に、又はMSC−CMの生成前に遺伝子組み換えを行いうる。
【0089】
単離されたMSCは、赤血球生成促進因子(EPO:Erythropoietin)を含むRetroTet−ARTシステム(Rossiら.Nature Genetics.20:389−393、1998)のレトロウイルスのベクターにより形質導入された。Phoenix両種性細胞系統は、FUGENE 6トランスフェクション試薬(インディアナ州インディアナポリス市Roche社製)により3つのレトロウイルスプラスミドで別々にトランスフェクト(核酸導入)した。トランスフェクトされたレトロウイルスプラスミドは以下の通りである。
1) 発現プラスミドHRSp−EPO−IRES−EGFP.HRSphKGFのHRSpuroGUSプラスミドではGUSがmEPOに代わった(Beru Nら、Ann. N.Y. Acad. Sci.,554: 29−35,1989)。mCMVがmEPOの発現の駆動源となり、SV40プロモータがピューロマイシンの駆動源となっている。IRESは、遺伝子2つの転写を助ける。
2) TCN−転写活性化因子プラスミド。TCN−トランス活性化因子は、tet−07を結合し、ドキシサイクリン(Dox)存在下で転写を活性化する。
3) TCN−転写抑制因子プラスミド。TCN−転写抑制因子プラスミドは、tet−07を結合し、Dox不在下で転写を抑制する。ヒヒの間充織幹細胞における調節不能EPO発現については、Bartholomew,Aらにより実証されている(Hum Gene Ther., 12,1527−1541,2001.)。
【0090】
トランスフェクション(核酸導入)後48時間経過した時点で0.45μMフィルタを使ってろ過することにより、3つのプラスミドでトランスフェクトされたレトロウイルス生成細胞系統からのMSC形質導入用の上澄みを得た。標的MSC細胞は、1×10細胞/mlの密度で接種した。形質導入に向けて、8μg/mlポリブレンをレトロウイルス培地に加えた。MSCを培養中で増殖し、形質導入されたMSCの一部分をmEPO遺伝子発現の定量化のために使用した。
【0091】
まず、RNAqueous−4PCRキット(テキサス州オースティン市内Ambion社製)を使用して、形質導入されたMSCから全RNAを抽出し、100ナノグラムの全RNAを一段階式RT−PCR(カリフォルニア州カールスバード市内Invitrogen社製)に使用した。
【0092】
次に、実時間PCRを行った。オリゴdTをもつSuperScript II RNase H−Reverse Transcriptase(Invitrogen社製逆転写酵素)を使って、First−Strand cDNAを100ナノグラムの全RNAに合成した。mEPO遺伝子発現を定量化するために、実時間PCRの標準プロトコルをSmart Cycler(カリフォルニア州サニーヴェール市内Cepheid社製)に使用した。
【0093】
Doxを使用せずに治療したMSC mEPO形質導入サンプルとDoxにより治療したMSC mEPO形質導入サンプルとの間の相違に関する定量化は、mEPO cDNAのコード配列の領域に隣接するmEPOプライマを使用して一段階式RT−PCRと実時間PCRにより実施した。
【0094】
mEPOフォワード: 5’−GGC CAT AGA AGT TTG GCA AG −3’ (配列ID NO:35)
【0095】
mEPOリバース: 5’−GTG GTA TCT GGA GGC GAC AT −3’(配列ID NO:36)
【0096】
図4に示されるように、形質導入され他MSC mEPO細胞のmEPO遺伝子発現はDox治療により調節可能である。
【0097】
一段階式RT−PCRを使用して、mEPOプライマにより期待通り200bpのPCR生成物を得ることができた。これは配列決定法により確認した。1μg/mlでのDox治療では、24時間の時点でEPO遺伝子発現がピークに達した。実時間PCRでの結果によると、Doxにより治療したサンプルにおけるEPO発現が〜4倍増加したことが示されている。
【0098】
実施例8: MSC−CMによる増殖因子遺伝子発現の調節
【0099】
実施例5の項にて上述されるMSCによる増殖因子遺伝子発現の調節の場合と同様に、増殖因子遺伝子発現の調節を検討する際にはMSC−CMを使用することになる。実施例2及び実施例4の項に記載されている方法でMSC−CMを生成・投与する。ラットの腎臓中の増殖因子及びサイトカインの発現レベルの調節に関して(MSC投与に関する記述において説明されている方法で)MSC−CMを投与した場合と投与しない場合とを評価するために実時間PCRを使用する。同じプライマ及び状態を実施例5の項に記載されている方法で使用する。増殖因子遺伝子発現の調節におけるMSC−CM投与の結果を、実施例5の項に記載されている方法で評価する。また、MSC−CMによる増殖因子遺伝子発現の調節に使用するために、例えば実施例6の項に記載されている方法で遺伝子を組み換えたMSCからMSC−CMを生成する。
【0100】
実施例9: MSC、EC、又はMSC−CM、及びそれらの組成物
【0101】
静脈内注入(頚静脈、大腿部または尾静脈内注入)により、又は動脈内注入により(頚動脈又は大腿動脈経由で副腎大動脈に注入することによって)、あるいはMSCを単独で、又はECを単独で(調製法については後述)、又はMSC−CMを単独で、あるいはMSCをEC又はMSC−CMと組み合わせて、もしくはECをMSC−CMと組み合わせて、腹腔内に注入することによって、様々な治療プロトコルの相対的な腎臓保護効力と臓器保護効力をテストする。同時投与及び連続投与ならびに投与の時期(前記症状の発症後と、何らか危険度の高い状況が発生する前の両方)に関して投与をテストする。
【0102】
実験型中の腎機能、組織学的研究及びその結果を上述のように監視する。
【0103】
実施例10:多臓器不全に対するMSC及びMSC−CMの投与
【0104】
多臓器不全に起因する多くの悪影響に対抗できるように身体能力を促進することと、複数臓器の修復及びそれらの機能回復を目的として、MSC及びMSC−CMの投与に関する調査を行う。この調査に使用される多臓器不全モデルは、老齢ラットの敗血症モデルである。該老齢ラットの敗血症モデルにはグラム陰性菌(LPS)からの内毒素が注入され、且つ盲腸せん孔が認められ、結果として細菌性腹膜炎や臨床的多臓器不全のあらゆる症状(ARFを含む)が発現している。MSC又はMSC−CM投与の後の臓器機能における向上を検討する。MSC及びMSC−CM投与により好結果をもたらすことに成功した場合、実験対象の多臓器不全に一般に認められる100%という死亡率を低下させ、且つ該当する場合は、創傷の修復を著しく高めるという効果が期待できる。MSC及びMSC−CMの治療有効投与量を、それぞれ別々に、又は両者を組み合わせて、あるいは連続投与にて投与する。また、下記される方法で調整したECは、多臓器不全において、MSC又はMSC−CMと併用して、もしくは単独で投与しうる。
【0105】
実施例11:インビトロ(in vitro)における分化によるMSCからのEC調製
【0106】
患者に対する治療有効量投与のためのECは、インビトロ(in vitro)における分化によってMSCから生成される。当業者に公知の技術を用いMartrigel(登録商標)にMSCを接種する。(Matrigelは、ニュージャージー州フランクリンレイクス市内にあるBD Biosciences社から販売されている。)1〜3日間、血清又は増殖因子のない培地においてMartrigel(登録商標)上でMSCを培養する。あるいは、ヒトVEGFをもつヒト・フィブロネクチンの上で、7日間又は所定の密集度が達成されるまでMSCを増殖する。当プロトコルに従って、MSCをEC表現型に分化する。PECAM−1(CD31)、フォンビルブラント因子、eNOS、及びVEGFレセプタ2の発現、dil−ac−LDL取込み、並びにその他当業者に公知の適切なマーカーを示すことによって、前記いずれかの方法によって生成された細胞のEC表現型を確認する。その後、ECを患者に投与するか、又はMSCに関連して上述されるように将来的に投与するために凍結保存する。いくつかの実施形態では、実施例7の項に記載されているようにECの遺伝子を組み換える。ECは、単独で、又はMSCやMSC−CMと組み合わせて投与する。ECの治療効能は、MSCに関連して上述される方法により監視且つ評価を行う。
【0107】
実施例12:ECによる増殖因子遺伝子発現の調節
【0108】
上記実施例5の項に記載されるMSCによる増殖因子遺伝子発現の調節の場合と同様に、MSC−CMを使用して増殖因子遺伝子発現の調節を検討する。上記実施例11の項に記載される方法で、ECを生成して投与する。MSC投与に関連して上述されるように、実時間PCRを使って、ECを投与したラットの腎臓とECを投与していないラットの腎臓における増殖因子及びサイトカインの発現レベルの調節作用を評価する。実施例5の項に記載されるものと同じプライマ及び条件を使用する。増殖因子遺伝子発現の調節に対するEC投与の結果を、実施例5の項で説明されている方法で評価する。
【0109】
本明細書においては、本発明の好ましい実施形態に関してのみ記載されているが、当業者であれば、特許請求の範囲により定義される本発明の精神と範囲から逸脱することなく、特に本稿にて記載されていない追加・変形・代用及び削除などを行いうることと、文言上又は均等論により特許請求の範囲の意味するところである実施形態のすべてがそこに包含されるべきものであることが容易に理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1a】血流再開直後のMSC注入用血清クレアチニン・レベルのグラフを示す図である。同一の中等度急性腎不全を伴い賦形剤で治療を受けた対照動物と比較した場合、血流再開直後のMSCの投与が腎機能における有意な向上を示している。
【図1b】血流再開後24時間のMSC注入に続く血清クレアチニン・レベルのグラフを示す図である。同一の中等度急性腎不全を伴い賦形剤で治療を受けた対照動物と比較した場合、血流再開後24時間のMSCの投与が腎機能における有意な向上を示している。
【図2a】血流再開(reflow)直後の細胞注入に関する血清クレアチニン・レベルを示すグラフであり、MSC投与により重症のARFを伴ったラットの腎機能向上(賦形剤又は繊維芽細胞を注入した対照動物では得られなかった有益な効果)を示す図である。
【図2b】MSC投与に伴う損傷度指標の向上を示す損傷度指標のグラフを示す図である。
【図2c】MSC投与により増殖する細胞数の増加を示すPCNA染色のグラフを示す図である。
【図2d】MSC投与によるアポトーシス細胞数の減少を示すアポトーシス指標のグラフを示す図である。
【図3a】腎臓全体におけるサイトカイン発現を示す図である。
【図3b】腎臓全体における増殖因子発現を示す図である。
【図3c】腎臓全体におけるアポトーシスとNOS遺伝子の発現を示す図である。
【図4】MSCにおけるDox調節可能Epo発現を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器機能不全、急性腎不全、多臓器不全、早期移植腎機能不全、移植片拒絶反応、慢性腎不全、創傷及び炎症性疾患を治療する方法であり、培養中の間充織幹細胞(MSC)にさらすことによって馴化した、薬剤として許容される培地の治療量を、それを必要とする患者に導入することを含む方法。
【請求項2】
酸素圧力が5%以下である培養条件下で増殖したMSCにさらすことによって該培地を馴化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
大気酸素条件下の培養中で増殖したMSCにさらすことによって該培地を馴化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
培養中で該MSCに24時間より長時間さらすことによって該培地を馴化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
高サブコンフルエントのMSCにさらすことによって該培地を馴化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該培地を全身投与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該培地を動脈内投与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該培地を静脈内投与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該培地を腹腔内投与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
遺伝子組換えMSCによって該培地を馴化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該培地を約24時間の持続注入によって投与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該培地を0.07ml/100gの投与量で投与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
治療量のMSCを該患者に導入することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項14】
インビトロ(in vitro)におけるMSCの分化によって生成された内皮細胞(EC)の治療量を該患者に導入することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
培養中のMSCにさらすことによって馴化された、薬剤として許容される培地を含む組成物。
【請求項16】
該培地が無血清であることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
酸素圧力が5%以下である培養中でMSCにさらすことによって該培地を馴化することを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
大気酸素条件下にて培養中のMSCにさらすことによって該培地を馴化することを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
高サブコンフルエントのMSCにさらすことによって該培地を馴化することを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
該MSCの遺伝子が組み換えられていることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項21】
該培地が、培養中のMSCにさらすことによって得られた該培地と比較して濃縮した培地であることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項22】
該MSCがヒト細胞であることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項23】
該培地を24時間以上該MSCにさらすことを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項24】
患者の損傷臓器における少なくとも一つの増殖因子の発現を調節する方法であり、該増殖因子の発現を調節するためにMSC又はEC又はMSC馴化培地の有効量を患者に投与することを含む方法。
【請求項25】
該患者の腎臓の細胞内における該発現を調節することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
GM−CSF、G−CSF、bFGF及びそれの組み合わせから該増殖因子が選択されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項27】
患者の損傷臓器における少なくとも一つのサイトカインの発現を調節する方法であり、該サイトカインの発現を調節するためにMSC又はEC又はMSC馴化培地の有効量を患者に投与することを含む方法。
【請求項28】
該炎症性サイトカインが炎症反応促進性サイトカインであることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
該炎症反応促進性サイトカインが、TNF−α、IL−1β、IL−6、IL−8、リポ多糖結合蛋白質、MCP−1、CD−14、IFN−γ、ケモカイン、及びそれらの混合物からなるグループより選択されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
該炎症性サイトカインが反炎症性サイトカインであることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項31】
該抗炎症性サイトカインがTNF−RI、TNF−RII、IL−IRA、IL−4、IL−IO、IL−12、IL−13、TGF−β、及びそれらの混合物からなるグループより選択されることを特徴とする請求項30に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−544957(P2008−544957A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511092(P2008−511092)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/016489
【国際公開番号】WO2006/121445
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(507373782)
【氏名又は名称原語表記】UNITED STATES OF AMERICA DEPARTMENT OF VETERAN’S AFFAIRS
【出願人】(505191906)ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファンデーション (5)
【Fターム(参考)】