説明

防かび性を有する床部材

【課題】防かび作用、特に白癬菌に高い効果を有する床部材を提供する。
【解決手段】有機防かび剤が少なくとも2種含まれた防かび剤であって、前記少なくとも2種の防かび剤のうち1つの防かび剤のIOB値が0より大きく0.85以下、他の1つの防かび剤のIOB値が1.3以上であることを特徴とする床部材用防かび剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた防かび性を有する床部材、特に柔道用畳やペット用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症に対する認識の高まりに伴い、樹脂製品へ抗菌剤、防かび剤等を配合した製品が多く氾濫している。
従来の抗菌製品は細菌に対する効果が一般的であった。例えば一般社団法人抗菌製品技術協議会(SIAA)の推進するSIAAマークでは主に大腸菌と黄色ぶどう球菌の2種類による抗菌性評価を実施しており、細菌に対する効果を主な対象としている。一方で真菌を原因とする悪影響等に対する認識も強くなってきており、繊維評価技術協議会の推進するSEK規格では2009年より従来の抗菌加工マークに加え、抗かび加工マーク制度をスタートさせている。
【0003】
昔から人間にとって最も一般的な真菌症に白癬が挙げられる。一般に「水虫」と呼ばれている疾患である。白癬は白癬菌の感染を原因とし、最も多いのは足に生じる足白癬である。他にも爪に生じる爪白癬といったように、白癬菌は感染場所も足、爪、頭皮、その他様々な体部を対象とし、非常に多様な感染症を引き起こす真菌である。
日本では屋内で裸足で行動することも多いため、特に足白癬患者による白癬菌の伝播が感染拡大の一因と考えられる。
また最近では、柔道等スポーツの国際化に伴い、従来日本国内では確認されていなかった白癬菌、例えばTrichophyton tonsuransのような欧米由来の白癬菌、所謂「外来白癬菌」の感染が急速に広がっており、問題となっている。
【0004】
現在、柔道等では樹脂製の畳表を備えた畳が一般的に使用されている。特に畳表部分にはポリ塩化ビニルシートを用いた畳が柔道では広く用いられている。一般のイグサ製の畳で防虫、抗菌加工は一般的であるのと同様、樹脂製畳表でも抗菌性を付与しているケースも多い。
【0005】
しかしながら、通常の抗菌畳は細菌類を主に考慮しているため、銀系抗菌剤を使用していることが多い。一般に銀系抗菌剤は安全性が高く、細菌には優れた抗菌性を示すが、真菌への効果は限定的といわれている。また、その抗菌メカニズムから、抗菌剤周囲を有機物で覆われた場合は抗菌性が大幅に低下すると考えられる。柔道等の武道場で使用する畳は、一般用途の畳に比較し、人間の体表面から発生する汗や垢、体液等の有機物が常に付着する傾向が強いことから、銀系抗菌剤の優れた性能が発揮され難いケースも考えられる。特に近年は外来白癬菌による柔道選手の集団感染も増加しており、銀系抗菌剤だけでは予防に不安を残す結果となっている。
【0006】
特許文献1には、2種のイミダゾール系有機抗菌剤と銀系抗菌剤を含む抗菌剤組成物が開示され、畳に使用できることが記載されている。
【0007】
また、近年のペットブームに伴い、ペットが保持する細菌や真菌が人に感染する人畜共通感染症を引き起こす事例が出てきている。例えば猫からMicrosporum canisがヒトに移り、炎症を引き起こすケースが知られている。同時に最近では様々なペットを屋内で飼育するケースも多く、そのためペットの尿、涎といった体液やフケ等の老廃物が床や壁に付着することも考えられ、付着するこれらの有機物を栄養物として微生物は繁殖する。
【0008】
一方、銀系抗菌剤以外にも真菌用として様々な有機系防かび剤が開発されており、ポリ塩化ビニル等ビニル系樹脂へ配合され得る薬剤も多い。従来はポリ塩化ビニルシートやレザー分野では2,3,5,6−テトラクロロ−4−メチルスルホニルピリジン(TCMSP)や1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(BIT)等の防かび剤が使用されてきたが、これらの薬剤は感作性や皮膚刺激性といった問題から、畳のような皮膚に直接接触する製品への配合は望ましくない。特に柔道畳等の用途は畳表面と肌が強力に擦過する。
【0009】
チアベンダゾール等のイソチアゾリン系防かび剤は皮膚刺激性や感作性といった安全性に優れており、比較的安全性が高い薬剤として工業製品から柑橘系防腐剤等の分野まで広く使用されている。ところがこれら薬剤は耐熱性が低く、160℃以上の高温では黄変が発生するため、製品の色目の変化を起こしやすく配合濃度を高めることが困難であった。
【0010】
また、一般にビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)には柔軟性を付与するためにDOPやDIDPといった可塑剤を添加する。この可塑剤はポリ塩化ビニルとの相溶性の良いものが選択されており、可塑剤はポリ塩化ビニル樹脂中に比較的安定的に存在する。しかしながら、時間をかけて徐々にブリードアウトすることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−312609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、防かび作用、特に白癬菌に高い効果を有し、人体に影響の少ない床部材用防かび剤及び床部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下の床部材用防かび剤及び床部材が提供される。
1.有機防かび剤が少なくとも2種含まれた防かび剤(組成物)であって、
前記少なくとも2種の防かび剤のうち1つの防かび剤のIOB値が0より大きく0.85以下、
他の1つの防かび剤のIOB値が1.3以上であることを特徴とする床部材用防かび剤(組成物)。
2.前記少なくとも2種の防かび剤が、イミダゾール系防かび剤であることを特徴とする1に記載の床部材用防かび剤(組成物)。
3.前記床部材がビニル樹脂又はオレフィン樹脂製表面を持つ化学畳であることを特徴とする1又は2に記載の床部材用防かび剤(組成物)。
4.1ないし3のいずれか記載の防かび剤(組成物)が含まれていることを特徴とする床部材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、防かび作用、特に白癬菌に高い効果を有し、人体に影響の少ない床部材用防かび剤及び床部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】抗白癬菌評価での培養の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の床部材用防かび剤(組成物)は、少なくとも2種の有機防かび剤を含む。尚、本発明は防かび作用を主目的とするが、細菌に対する抗菌性も付随的に含む。
本発明で用いる防かび剤は、床部材表面に適用するため、皮膚表面への影響、安全性が高いことが望ましい。即ち皮膚刺激性は弱刺激性以下、感作性はないことが望ましい。
本発明では、床部材表面は素足で歩くことを想定しているため、床部材表面に有機物が付着しても防かび性を発揮することが望ましいことから、特定の有機系防かび剤を用いる。
【0017】
また、効果の発揮されるタイミングをずらして長時間効果を持続させることから、可塑剤親和性の異なる2種以上の有機防かび剤を併用して含有させることが望ましい。これにより単剤で配合する場合よりも配合量を減らすことができ、黄変が少なくなる。
有機系防かび剤はその構造により可塑剤への親和性が異なるが、可塑剤との親和性が高い防かび剤は可塑剤と共存する傾向が強い。従って、例えばポリ塩化ビニル中に可塑剤と共に安定的に存在することができ、時間をかけて徐々に可塑剤と共にブリードアウトする可能性が高い。即ち、長期間に亘り徐々に表面に露出し効果を発揮する傾向が強く、製造初期は抗かび効果が低いものの、持続性が高くなる。一方、可塑剤との親和性が低い防かび剤は可塑剤と分離傾向にあるためブリードアウトの速度が早く、持続性が劣る傾向があるが製造初期から表面への露出するために抗かび効果を発揮する。本発明では親和性の高い防かび剤と親和性の低い防かび剤を組み合わせているので、持続性が高く防かび効果も高い。
【0018】
防かび剤の選定方法としては可塑剤親和性を考慮する場合、親和性の指標として例えば無機性/有機性値(IOB)を用いる。ポリ塩化ビニルのIOB値が0.33であり、一般に使用される可塑剤DOPのIOB値は0.28、DIDPのIOB値は0.24である。特に親和性高い組合せを考慮した場合、IOB値として、樹脂と可塑剤のIOB値±0.5以内が望ましい。±0.3以内がより望ましい。ポリ塩化ビニル樹脂用可塑剤とポリ塩化ビニルのIOB値は概ね0.20以上0.33以下であることから、可塑剤親和性の高い防かび剤としてIOB値が0より大きく0.85以下であることが望ましい。一方で、可塑剤親和性の低い防かび剤としては、IOB値が樹脂と可塑剤のIOB値より好ましくは約1以上、より好ましくは1.5以上大きい。従ってIOB値1.3以上の防かび剤が望ましい。
【0019】
ここで無機性/有機性値(IOB)とは、各種有機化合物の極性を有機概念的に取り扱った値であり、炭素(C)1個を有機性20とし、これに対し各種極性基の無機性、有機性の値を定め、無機性値の和と有機性値の和を求め比をとった値である[改編・化学実験学−有機化学編−,河出書房,1971を参照]。
【0020】
有機防かび剤としては、例えばイミダゾール系の防かび剤としてベンゾイミダゾールカルバミン酸化合物、イオウ原子含有ベンゾイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾールの環式化合物誘導体、トリアゾリル基含有化合物等が例示できる。
【0021】
ベンゾイミダゾールカルバミン酸化合物としては、1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、1−ブチルカルバモイル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、6−ベンゾイル−1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、6−(2−チオフェンカルボニル)−1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル等が例示できる。
イオウ原子含有ベンゾイミダゾール化合物としては、1H−2−チオシアノメチルチオベンゾイミダゾール、1−ジメチルアミノスルフォニル−2−シアノ−4−ブロモ−6−トリフロロメチルベンゾイミダゾール等が例示できる。
ベンゾイミダゾールの環式化合物誘導体としては、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール、2−(2−クロロフェニル)−1H−ベンゾイミダゾール、2−(1−(3,5−ジメチルピラゾリル))−1H−ベンゾイミダゾール、2−(2−フリル)−1H−ベンゾイミダゾール等が例示できる。
他に、イミダゾール系としてミコナゾールや、トリアゾール系のフルコナゾール、イトラコナゾール等が例示できる。また、トリアゾリル基含有化合物としてはデブコナゾール等が例示できる。
【0022】
チアゾリル基としては、例えば2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル等が例示できる。また、カーバメート基としては、このカーバメート基における炭化水素基が、例えば、メチル、エチル、n−2−プロピル、iso−プロピル等のアルキル基が好ましく、メチル基あるいはエチル基が特に好ましい。
具体的には、チアゾリル基を有するものとして、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール(チアベンダゾール)等が例示できる。また、カーバメート基を有するものとして、メチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル(カルベンダジム)、エチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル等が例示できる。2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとは、熱的安定性が比較的に高く、特に樹脂成形体として利用することが容易であり、また例えばグレープフルーツやオレンジ、バナナ等の防かび剤(食品添加物)としても既に利用され、人体への影響が比較的に小さい材料として確認されたものであることから、特に好ましい。
【0023】
皮膚刺激性及び感作性を組み合わせた観点から、防かび剤としては例えばIOB値0より大きく0.85以下ではチアベンダゾール(0.46)やジンクピリチオン(0.45)、ミコナゾール(0.32)、デブコナゾール(0.45)等、IOB値1.33以上ではカルベンダジム(2.1)の組合せが挙げられる。
【0024】
本発明の防かび剤(組成物)は、熱可塑性樹脂の床部材に用いることが好ましい。床部材として特によく用いられるのは塩化ビニル、塩化ビニリデン等のビニル樹脂である。ポリプロピレンやポリエチレン等のオレフィン樹脂を用いることも可能である。本発明の防かび剤(組成物)はビニル樹脂又はオレフィン樹脂製表面を持つ化学畳に好適に使用できる。
本発明の防かび剤(組成物)を床部材に混合して防かび性床部材が得られる。防かび性床部材は例えば防かび剤として上記の少なくとも2種の有機防かび剤のみを含み銀系抗菌剤は必須ではない。
【0025】
例えば、このような防かび性床部材は、以下のようにして製造できる。ビニル系樹脂やオレフィン樹脂を加熱ロール上で溶融混練し、可塑剤、安定剤等の添加剤と共に選定した2種類以上の防かび剤を添加し、充分に樹脂へ分散させた後、シート状に成形する。防かび剤は樹脂から徐々にブリードアウトして効果を発揮することから、成形されたシート表面には型押しやバフィング等の方法で意匠性を持たせることも可能である。また、シート製造時に発泡剤を添加し、発泡シートとすることで柔軟性を向上させることも可能である。
シート形状以外にも、フロアマット、畳、絨毯、基材との貼り合わせ等各種形状にすることができる。例えば、インフレーションによりフィルム形状へ成形、このフィルムを紙縒り状にした上で縦糸として横糸と編み上げることで畳表の形状とすることも可能である。さらには単層シートに限らず、多層構造のシート形状としてもよい。多層とした場合、少なくとも最表面へ防かび剤(組成物)を配合することが望ましい。
【0026】
上述したように、防かび性床部材は、樹脂に防かび剤を含めた、例えば、カレンダー成形、インフレーション成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法等の公知の成形方法を用いてシート状に成形されたもの、或いは紙縒りやストリップといった紐状にして編んだ形態のものを基本とする。
樹脂種と成形方法によっては成形温度が200℃を超える可能性があり、この場合は有機防かび剤の昇華温度や分解温度等の物理的特性を考慮する必要が有る。
【0027】
また、シート表面へ防かび剤(組成物)を含む樹脂溶液をグラビアコート等の方法で塗工することも可能である。但し、表面への防かび剤のブリードアウトが必要であるため、塗工層の乾燥厚みは3μm以下にすることが望ましい。
【0028】
防かび剤(組成物)を樹脂に混練する際は、予め同じような樹脂で高濃度のマスターバッチを作製して混練することが望ましい。例えばポリプロピレン樹脂へ防かび剤(組成物)を0.25質量%添加する場合、同じポリプロピレン樹脂で予め2.5質量%程度のマスターバッチを作製しておき、このマスターバッチを10倍に希釈して押出し成形するという手法が使用できる。希釈倍率は成形性や経済性等の点から適宜変更してよい。
塩化ビニル樹脂(PVC)等の樹脂に防かび剤(組成物)を添加する際は、樹脂マスターバッチの他に、防かび剤(組成物)を可塑剤に予備分散したものを用いてもよい。可塑剤は液体であるため、パウダーの分散も容易でPVCへの混合性も良好である。使用できる可塑剤は特に限定されないが、DOP(ビス(2−エチルヘキシル)フタレート)、DIDP(ジイソデシルテレフタレート)等種々使用できる。
【0029】
本発明の防かび剤は、1μm以下の粒径に粒度調整されていることが好ましい。1μm以下の粒径に粒度調整すると、樹脂中への分散性が向上するとともに、成形体の表面の平滑性が得られると同時に、ブリードアウトの安定性に寄与する等、良好な含有状態が得られる。従って、容易に安定した高い抗菌防かび作用を成形体に発揮させることできる。
【0030】
防かび性床部材は、特に適用制限はないが、例えば、微生物である菌類(真菌類、細菌類、藻類等)が繁殖しやすい環境に使われる部品や部位に直接、あるいは粘着層を有した粘着テープ等のように被取付部の表面に接着あるいは貼着、又は粘着層を設けずに単に挾持する等して利用される。
最も適している用途は、柔道畳の表皮材やペット用フロアマットである。
【0031】
防かび性床部材は、少なくとも2種の防かび剤(組成物)を0.05質量%以上10.0質量%以下で含有することが好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下で含有することが特に好ましい。
ここで、含有量が0.05質量%より少なくなると、十分な防かび性を発揮できなくなるおそれがある。一方、含有量を10.0質量%より多くしても、防かび性能はほとんど変化がない一方、例えば床部材の強度が低下したり、表面の平滑性等の外観が損なわれ、防かび剤の過剰なブリードアウトによる外観不良等の特性に影響を及ぼしたり、成形時における作業性や成形性等が低下したりする等の不都合を生じるおそれがある。このように、必要最小限の含有量で十分な防かび性を発揮させつつ、防かび剤の含有量の増大によるコストの増大を抑えるため、防かび剤(組成物)の含有量を0.05質量%以上10.0質量%以下にすることが好ましい。
【0032】
防かび性床部材が、上記のIOB値の異なる防かび剤を含有していると、樹脂からのブリードアウト特性が異なる結果、防かび性が適度に持続する。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例等を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
塩化ビニル樹脂(PVC)(IOB;0.33)用可塑剤であるDOP(IOB;0.28)に有機防かび剤として市販のチアベンダゾール(2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール)(IOB;0.46)(関東化学株式会社より試薬として入手)及びカルベンダジム(メチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル)(IOB;2.1)(関東化学株式会社より試薬として入手)を、それぞれ0.3質量%となる状態に添加し、超音波分散機(ブランソン社製)により充分に分散し、防かび剤分散可塑剤液を調製した。続いてPVCと抗カビ分散可塑剤液とを1:1の割合で混合し、バンバリーミキサで混練後、カレンダーロールでシート状に成形した。このシートを表皮層として、繊維基布と貼り合わせて、PVCレザーである樹脂積層体を作製した。この樹脂積層体を試験片とした。
【0034】
実施例2
実施例1のチアベンダゾール(防かび剤)をジンクピリチオン(IOB;0.45)(アーチ・ケミカルズ・ジャパン)に変えた他は実施例1と同様にPVCレザーを作製した。
【0035】
実施例3
実施例1のチアベンダゾール(防かび剤)をプリベントールA8(IOB;0.45)(デブコナゾール、ランクセス社)に変えた他は実施例1と同様にPVCレザーを作製した。
【0036】
比較例1
防かび剤を添加しなかった他は実施例1と同様にPVCレザーを作製した。
【0037】
比較例2
防かび剤としてカルベンダジムのみを0.6質量%用いた他は実施例1と同様にPVCレザーを作成した。
【0038】
比較例3
防かび剤として銀系抗菌剤ノバロンのみを0.5質量%用いた他は実施例1と同様にPVCレザーを作製した。
【0039】
比較例4
防かび剤チアベンダゾールのみを0.6質量%用いた他は実施例1と同様にPVCレザーを作成した。
【0040】
評価例1
実施例1〜3及び比較例1〜4で得られたPVCレザー(試験片)を以下の方法で評価した。
[防かび性評価]
(1)寒天培地の調製
JIS規格培地にポテトデキストロースブロス(Difco社製)を加えた平板培地を用いた。組成は以下の通りである。
精製水 1,000ml
硝酸アンモニウム 3.0g
リン酸二水素カリウム 1.0g
硝酸マグネシウム七水和物 0.5g
塩化カリウム 0.25g
硫酸鉄(II)七水和物 0.002g
ポテトデキストロースブロス(Difco社製) 7.0g
寒天 25g
【0041】
(2)混合胞子液の作製
ポテトデキストロース培地に表1に示す20種類の試験菌を接種し十分に生育させた。シャーレに下記組成の湿潤液を20ml加え、胞子を回収した。胞子液を濾過後、湿潤液にて胞子数を1×106±1個/mLに調整した。
精製水 1,000ml
スルホコハク酸ジオクチルナトリウム 0.05g
【0042】
【表1】

【0043】
(3)培養試験
(1)で調製した寒天培地に、実施例1,2及び比較例1〜3で得られたPVCレザー(試験片)を載せ、さらに(2)で作製した混合胞子液をまいた。温度・湿度サーモスタット付きサーキュレーターを用いて、温度29±1℃、湿度85%R・H(相対湿度)以上を維持して、28日間培養した。
【0044】
試料表面の菌の発育状態を、以下の5段階評価により判定した。結果を表2に示す。
0 全く菌が発育しない
1 10%以下の発育
2 10〜30%以下の発育
3 30〜60%以下の発育
4 60%以上の完全発育
【0045】
[抗白癬菌評価]
以下の白癬菌を用いた。
・Trichophyton mentagrophytes NBRC32409
・Trichophyton tonsurans KMU6426(金沢医科大より分与)
・Microsporum canis NBRC31609
図1に示すように、防かび性評価の(1)に準じて作製した寒天培地に、上記の白癬菌の胞子液をまいた後、その上から薄く寒天培地で覆った試験片を載せた。試験片表面の寒天培地は、畳表面に付着した汗や垢等の有機物を想定したものである。温度を29±1℃、湿度85%R・H以上とした状態で14日間カビを培養した。カビの生育状況を目視で、防かび性評価と同じ5段階評価により判定した。結果を表2に示す。
【0046】
[持続性評価]
5cm角の試験片(PVCレザー)2枚の間に和紙を挟み、さらに上下に和紙を重ねた(和紙3枚とPVCレザー2枚が交互に重なっている状態)。重ねた状態で1kg荷重をかけ、140℃の恒温槽に240時間入れた。定期的に確認し、和紙が可塑剤を充分に吸収している場合は、新しいものと交換した。240時間経過後、3cm角に切断し、防かび性評価と同じ5段階評価により判定した。結果を表2に示す。
【0047】
[変色試験]
JIS A 1415(WX−B;窓ガラスを透過した太陽光のショミレーション)に準じてキセノンフェードメータ(BPT63℃)を用いて暴露試験実施し、ΔEを測定した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から、実施例1,2,3の防かび性は、防かび剤未配合の比較例1や銀系抗菌剤を配合した比較例3に比較し、かなり高かった。
白癬菌評価では、従来標準的に用いている銀系抗菌剤(比較例3)では表面に有機物が存在すると防かび性が低下するが、実施例1,2,3は明確な効果を示した。
持続性では、カルベンダジム単独配合した比較例2では加熱促進条件下で速やかにブリードアウトして効果を減じるのに対し、実施例1,2,3は防かび性を残している。
変色試験でもチアベンダゾール単独配合の比較例4より実施例1,2,3では黄変が軽減した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の防かび剤は、化学畳やペット用シート等の床部材に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機防かび剤が少なくとも2種含まれた防かび剤であって、
前記少なくとも2種の防かび剤のうち1つの防かび剤のIOB値が0より大きく0.85以下、
他の1つの防かび剤のIOB値が1.3以上であることを特徴とする床部材用防かび剤。
【請求項2】
前記少なくとも2種の防かび剤が、イミダゾール系防かび剤であることを特徴とする請求項1に記載の床部材用防かび剤。
【請求項3】
前記床部材がビニル樹脂又はオレフィン樹脂製表面を持つ化学畳であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の床部材用防かび剤。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか記載の防かび剤が含まれていることを特徴とする床部材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−20945(P2011−20945A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166053(P2009−166053)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】