説明

防振装置

【課題】締結固定するための部品が必要になって部品点数の増加を招くと共に、部品を締結固定するための組み付け工数の増加をもたらすことになり、更に、固定部材に連結穴を開けるためのスペースを確保しなければならず、固定部材が大型化し重量が増加してしまうことが避けられない。
【解決手段】エンジンユニットを吊り下げ保持するための連結ロッド12の上端側を弾性保持するゴム弾性体13を、ゴム弾性体13の下端側が固着される環状部20と、環状部20の開口縁下側に突出して、ブラケット11の楕円形開口或いは長円形開口の貫通孔14の内部に配置される筒状部21とを有し、筒状部21の下端側を内側から外側に拡径させてブラケット11に筒状部21を密着固定させた筒状連結体18によって、ブラケット11に取り付け固定させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等における振動発生源であるエンジンユニットから車体への振動伝達を防止する防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等における振動発生源であるエンジンユニットを車体に吊り下げた状態で搭載する際に、エンジンユニットと車体との間に介在させて、車体への振動伝達を防止する防振装置が知られている。
このような防振装置として、例えば、「防振装置」(特許文献1参照)がある。この従来の「防振装置」は、エンジンユニット(パワーユニット)に連結されてエンジンユニットを吊り下げ保持するための連結保持部材(連結ロッド)が取り付けられた取り付け部材(本体ケーシング)と、車体に取り付け固定される固定部材(本体プレート)との間に配置され、両部材を弾性的に連結する弾性部材(ゴム弾性体)を有している。
【0003】
この弾性部材は、取り付け部材と固定部材の何れにも加硫接着により固着されており、弾性部材の弾性変形によって、エンジンユニットが発生させる振動変位を減衰吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−321964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の「防振装置」は、弾性部材が固着された固定部材を、取り付け穴に挿通したボルト等の締結部材により車体に締結固定しているため、締結固定するための部品が必要になって部品点数の増加を招くと共に、部品を締結固定するための組み付け工数の増加をもたらすことになる。更に、固定部材に取り付け穴を開けるためのスペースを確保しなければならず、固定部材が大型化し重量が増加してしまうことが避けられない。
【0006】
この発明の目的は、エンジンユニットを吊り下げ保持するための連結保持部材が取り付けられた取り付け部材を車体との間で弾性的に連結する弾性部材が固着された固定部材を、部品点数及び組み付け工数の増加を招くことなく、更に、大型化し重量増加することなく、車体に締結固定することができる防振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明に係る防振装置は、下端側にエンジンユニットを吊り下げ保持するための連結保持部材と、楕円形開口或いは長円形開口の貫通孔を有し車体に固定される車体固定部材と、前記車体固定部材の上面側に配置されて前記貫通孔を貫通させた前記連結保持部材の上端側を弾性保持する弾性部材と、を有しており、前記弾性部材を、前記弾性部材の下端側が固着される環状部と、前記環状部の開口縁下側に突出して前記貫通孔の内部に配置される筒状部とを有し、前記筒状部の下端側を内側から外側に拡径させて前記車体固定部材に前記筒状部を密着固定させた筒体によって、前記車体固定部材に取り付け固定させている。
【0008】
また、この発明の他の態様に係る防振装置は、前記貫通孔を形成する前記車体固定部材の内周面と、前記貫通孔に密着固定させた前記筒状部の外周面との間に、前記車体固定部材と前記筒状部の接触を阻止するゴム部材を配置している。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る防振装置によれば、エンジンユニットを吊り下げ保持するための連結保持部材の上端側を弾性保持する弾性部材を、弾性部材の下端側が固着される環状部と、環状部の開口縁下側に突出して、車体固定部材の楕円形開口或いは長円形開口の貫通孔の内部に配置される筒状部とを有し、筒状部の下端側を内側から外側に拡径させて車体固定部材に筒状部を密着固定させた筒体によって、車体固定部材に取り付け固定させているので、エンジンユニット吊り下げ保持するための連結保持部材が取り付けられた取り付け部材を車体との間で弾性的に連結する弾性部材が固着された固定部材(筒体)を、部品点数及び組み付け工数の増加を招くことなく、更に、大型化し重量増加することなく、車体に締結固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の一実施の形態に係る防振装置を装置設置状態上下方向に沿う断面で示す説明図である。
【図2】図1の防振装置の筒状連結体が取り付けられたブラケットを底面側から見た平面図である。
【図3】筒状連結体の筒状部の下端側を貫通孔に固定する際の固定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係る防振装置を装置設置状態上下方向に沿う断面で示す説明図である。図2は、図1の防振装置の筒状連結体が取り付けられたブラケットを底面側から見た平面図である。
【0012】
図1及び図2に示すように、防振装置10は、自動車等の車両における振動発生源であるエンジンユニット(図示しない)を振動受部である車体(図示しない)に支持するマウント装置として用いられており、車体に固定されるブラケット(車体固定部材)11と、エンジンユニットが連結された連結ロッド(連結保持部材)12と、ブラケット11の上面側で連結ロッド12の上端側を弾性保持するゴム弾性体(弾性部材)13とを有している。
【0013】
この防振装置10により、エンジンユニットは吊り下げた状態で車体に搭載されることになり、ブラケット11と連結ロッド12の間にゴム弾性体13を介在させることで、エンジンユニットから車体への振動伝達を防止或いは緩和することができる。なお、吊り下げ保持されるエンジンユニットは、エンジン及びギヤボックスを含むパワーユニットであっても良い。
【0014】
ブラケット11は、金属製部材により形成されて、平板状の基部11aの略中央部に、基部11aの表裏面を貫通する貫通孔14(図1,2参照)を有しており、基部11aの下面側に突設された二箇所の脚部11bに開けられた取り付け孔15(図1参照)を介して、例えば、ボルト締結により車体に固定される。貫通孔14は、車体左右方向に対し車体前後方向に長い長穴となる、楕円形開口或いは長円形開口(図2参照)からなり、貫通孔14を形成するブラケット11の内周面は、下端側が下方外側に傾斜する傾斜面により形成され下端に向かって拡径されている(図1参照)。なお、楕円形開口或いは長円形開口は、円形開口ではない開口形状を含むものとする。
【0015】
連結ロッド12は、上下両端側をネジ軸とする丸棒状に形成されており、下端側の下端ネジ軸12aを、図示しないエンジンユニットのネジ穴(例えば、パワーユニットを構成するギャボックスのネジ穴)に螺着することで、ロッド下端側にエンジンユニットが連結される。これにより、連結ロッド12を介してエンジンユニットを車体に吊り下げ保持することができる。
【0016】
この連結ロッド12には、貫通孔14を形成するブラケット11の内周面との間に所定の間隙を有して貫通孔14の内部に配置されるように、貫通孔14の開口形状の縮小相似形からなる平面形状を有しゴム等の弾性部材により形成された、ストッパゴム16が加硫接着されている。ストッパゴム16は、例えば、エンジンユニットに対し荷重が加わって連結ロッド12が車体前後或いは左右方向へと変位しようとしたとき、貫通孔14を形成するブラケット11の内周面に接触することにより、エンジンユニットの車体前後或いは左右方向への所定変位量以上の変位を阻止すると共に、連結ロッド12からブラケット11への振動伝達を抑制することができる。
【0017】
ゴム弾性体13は、ゴム部材により、貫通孔14の開口を覆うことができる貫通孔14の開口形状に相似した底面形状を有し、上部が厚肉となるように内部空間が略円錐台形状となる、筒状体に形成されており(図1参照)、圧縮変形に対応する弾性力を有している。このゴム弾性体13は、貫通孔14の開口を覆ってブラケット11の基部11aの上面側に配置され、内部空間を、貫通孔14を貫通させた連結ロッド12が貫通し、上端側から、連結ロッド12の上端ネジ軸12bを含む先端側が突出している(図1参照)。
【0018】
上端ネジ軸12bを突出させたゴム弾性体13の上端面は、上端ネジ軸12bを貫通させてゴム弾性体13の上方に配置した本体ケーシング17に加硫接着により固着されており、ゴム弾性体13の下端面は、ブラケット11に取り付け固定された筒状連結体(筒体)18に加硫接着により固着されている(図1参照)。ゴム弾性体13の上端面から突出する上端ネジ軸12bは、本体ケーシング17の上端面に接して上端ネジ軸12bの外周側に装着された連結リング19の上端面に、上端ネジ軸12bに螺着させた固定ナット19aを圧接させることにより、本体ケーシング17に連結固定され一体化する。
【0019】
筒状連結体18は、金属部材により形成されて、ゴム弾性体13の下端側が固着される環状部20と、環状部20の開口縁下側に突出して貫通孔14の内部に収納状態に配置される筒状部21とを有している。筒状部21は、筒体開口形状が貫通孔14の開口形状と略一致するように楕円形開口或いは長円形開口を有する長孔形状に、且つ、筒体周壁の高さが貫通孔14を形成するブラケット11の内周面の高さと略一致するように形成され、環状部20は、筒状部21の一端開口側に位置する外向きフランジ形状に形成されている。
【0020】
この環状部20の上面に、ゴム弾性体13の下端面を加硫接着し固着することにより、筒状連結体18とゴム弾性体13を一体化させ、筒状部21を、貫通孔14の内部に配置し筒状部21の下端側を内側から外側に拡径させることにより、筒状部21の外周面を貫通孔14を形成するブラケット11の内周面に密着させた状態で、筒状部21を貫通孔14内に配置固定させている。
つまり、上端側が本体ケーシング17に下端側が筒状連結体18の環状部20に、それぞれ固着されたゴム弾性体13は、ブラケット11の基部11aの上面側に配置されて、貫通孔14を車体上下方向に貫通し下端側にエンジンユニットが連結された連結ロッド12の上端側を、弾性保持している。
【0021】
図3は、筒状連結体の筒状部の下端側を貫通孔に固定する際の固定方法を示す説明図である。図3に示すように、筒状連結体18の筒状部21の下端側を貫通孔14に固定する際、環状部20をブラケット11の基部11aの上面に載置し、筒状部21を貫通孔14の内部に配置した後、環状部20の上面側と筒状部21の下端側とを挟み込んだ状態で、環状部20と筒状部21に押圧力(図中、白抜き矢印参照)を加える。
【0022】
このとき、環状部20及び筒状部21に加える押圧力の方向は、環状部20には、ブラケット11の基部11aの上面に向かって基部11aの上面に対し略直角に上方から、筒状部21の下端側には、内側から外側、即ち、外向き斜め下方に傾斜する傾斜面からなる貫通孔14を形成するブラケット11の内周面に向かって、ブラケット11の内周面に対し略直角となるように内側下方から外側斜め上方に向けて、とし、押圧力の大きさは、環状部20に比べ筒状部21の方が大きくなるようにする。
【0023】
つまり、ブラケット11の内周面に対し斜め方向に押圧力を加えることで、筒状部21の下端側を内側から外側に拡径させて貫通孔14の内部に配置した筒状部21をブラケット11に密着固定させることができ、その結果、筒状連結体18を、楕円形開口或いは長円形開口からなる、貫通孔14を形成するブラケット11の内周面に沿ってカシメるように展性を伴った塑性変形を行わせて、ブラケット11に対し密着固定状態にすることができる。なお、内側から外側に拡径させた筒状部21の外表面が接触する、貫通孔14を形成するブラケット11の内周面は、内側から外側に拡径させた筒状部21の下端側形状に対応する形状に形成されている。
【0024】
また、貫通孔14を形成するブラケット11の内周面と貫通孔14に密着固定させた筒状部21の外周面との間に、ブラケット11の内周面と筒状部21の外周面が直接接触するのを阻止する薄ゴム(ゴム部材)22を配置している。薄ゴム22は、筒状部21の筒体周壁の全周に渡る帯状に、且つ、ブラケット11の内周面と筒状部21の外周面が直接接触するのを阻止することができる厚みを有してできるだけ薄く、形成されている。
【0025】
このように、筒状部21の下端側に、貫通孔14を形成するブラケット11の内周面に向かって斜め下方から押圧力を加え、筒状部21の下端側を内側から外側に拡径させて、ブラケット11の内周面に筒状部21を密着固定させることにより、ストッパゴム16の車体前後方向への変位と車体左右方向への変位に対し特性差を出すことができる楕円形開口或いは長円形開口を有する貫通孔14に、筒状連結体18をボルト等を用いることなく密着固定させることができる。
【0026】
この結果、エンジンユニットの連結ロッド12が取り付けられた本体ケーシング17を車体との間で弾性的に連結するゴム弾性体13が固着された筒状連結体18を、部品点数及び組み付け工数の増加を招くことなく、更に、大型化し重量増加することなく、車体に締結固定することができる。
つまり、筒状連結体18をブラケット11にボルト等を用いることなく密着固定させようとした場合、カシメによる固定が考えられるが、楕円形開口或いは長円形開口に沿うようにカシメによる固定を行った場合、開口全域に渡って確実な締め付け固定ができ難く固定力にムラが発生し易いことから、がたつきや異音の発生が生じ易かった。このため、楕円形開口或いは長円形開口についてはカシメによる固定は行わなかった。
【0027】
これに対し、筒状部21の下端側を内側から外側に拡径させて、筒状部21を、楕円形開口或いは長円形開口からなる貫通孔14を形成するブラケット11の内周面に密着固定させたので、楕円形開口或いは長円形開口に沿って確実に密着固定させることができ、筒状部21と貫通孔14を形成するブラケット11の内周面との間でがたつきや異音の発生を抑えることができる。
これは、筒状部21に対し斜めに、即ち、筒状部21を貫通する中心軸線に対し傾斜した方向に押圧力を加えて、下端側を内側から外側に拡径させることで、中心軸線方向(車体上下方向)及び中心軸線に直交する方向(車体左右方向)の両方向何れにも拘束力を持たせることができ、加えて、筒状部21の下端が両側に広がって中心部への位置寄せが生じるので、必然的に位置精度を高めることができるからである。
【0028】
このように、筒状部21の開口形状が、円形に対して部材自体の形状精度が低い楕円形や長円形においては、所謂、一般的なカシメを行った場合、内径同士の寸法公差が厳しくできず隙間が出易いが、筒状部21に対し斜めに押圧力を加えることで、ブラケット11に対し密着固定させるための加工精度を高めることができるので、精度が低いのを補ってより正確、且つ、確実な密着固定を行うことができる。
【0029】
また、貫通孔14を形成するブラケット11の内周面と筒状部21の外周面との間に薄ゴム22を配置することにより、初期状態では発生しなかった隙間が、例えば、経年変化により発生し、その結果、貫通孔14と筒状部21の間で相対運動が生じたとしても、金属部材同士が直接接触するのを阻止することができるので、筒状部21を、貫通孔14内でストッパゴム16が変位する際のストッパ当たり面としても機能させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明によれば、エンジンユニットを吊り下げ保持するための連結保持部材の上端側を弾性保持する弾性部材を、弾性部材の下端側が固着される環状部と、環状部の開口縁下側に突出して、車体固定部材の楕円形開口或いは長円形開口の貫通孔の内部に配置される筒状部とを有し、筒状部の下端側を内側から外側に拡径させて車体固定部材に筒状部を密着固定させた筒体によって、車体固定部材に取り付け固定させているので、エンジンユニット吊り下げ保持するための連結保持部材が取り付けられた取り付け部材を車体との間で弾性的に連結する弾性部材が固着された固定部材(筒体)を、部品点数及び組み付け工数の増加を招くことなく、更に、大型化し重量増加することなく、車体に締結固定することができることから、自動車等における振動発生源であるエンジンユニットから車体への振動伝達を防止する防振装置に最適である。
【符号の説明】
【0031】
10 防振装置
11 ブラケット
11a 基部
11b 脚部
12 連結ロッド
12a 下端ネジ軸
12b 上端ネジ軸
13 ゴム弾性体
14 貫通孔
15 取り付け孔
16 ストッパゴム
17 本体ケーシング
18 筒状連結体
19 連結リング
19a 固定ナット
20 環状部
21 筒状部
22 薄ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端側にエンジンユニットを吊り下げ保持するための連結保持部材と、楕円形開口或いは長円形開口の貫通孔を有し車体に固定される車体固定部材と、前記車体固定部材の上面側に配置されて前記貫通孔を貫通させた前記連結保持部材の上端側を弾性保持する弾性部材と、を有する防振装置において、
前記弾性部材は、
前記弾性部材の下端側が固着される環状部と、前記環状部の開口縁下側に突出して前記貫通孔の内部に配置される筒状部とを有し、前記筒状部の下端側を内側から外側に拡径させて前記車体固定部材に前記筒状部を密着固定させた筒体により、前記車体固定部材に取り付け固定されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記貫通孔を形成する前記車体固定部材の内周面と、前記貫通孔に密着固定させた前記筒状部の外周面との間に、前記車体固定部材と前記筒状部の接触を阻止するゴム部材を配置したことを特徴とする請求項1に記載の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−94649(P2011−94649A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246738(P2009−246738)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】