説明

防火区画貫通部構造

【課題】火災等が発生した構造物の区画の一方から、火災等が発生していない構造物の区画の他方へ、火災等の熱が伝わることを低減することができ、耐火性、保守性に優れる防火区画貫通部構造を提供すること。
【解決手段】構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された金属配管類と、前記金属配管類の外面に設置された熱膨張性耐火シートと、前記熱膨張性耐火シートを介して前記金属配管の周囲に設置される不燃性断熱材と、を少なくとも有し、
前記金属配管類が、金属配管本体と、前記配管本体の外面に設置された合成樹脂断熱材層と、を有し、
前記不燃性断熱材が、前記熱膨張性耐火シートと、前記区画の外側表面と、に接して設置され、
前記金属配管類が、前記貫通孔の内面と前記金属配管類の外面との間に所定間隔をあけて、前記貫通孔を挿通することを特徴とする、防火区画貫通部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火区画貫通部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、船舶等の構造物の仕切り部の一方で火災が発生した場合でも、炎や煙等が他方へ広がることを防ぐために、建築物等の仕切部には通常区画が設けられている。
この建築物内部に配管類を設置する場合には、この区画を貫通する孔を設け、この貫通孔に配管類を挿通する必要がある。
しかしながら単に配管類を前記貫通孔に挿通させただけでは火災等の発生時に前記貫通孔を伝わって、炎や煙等が区画の一方から他方へ拡散する問題がある。
【0003】
この問題に対応するためにこれまで様々な構造が提案されている。
図8は第一の従来の防火区画貫通部構造300を説明するための模式断面図である。
図8に示される様に、区画50に設けられた貫通孔51に合成樹脂配管52を挿通させ、前記貫通孔51内部にある合成樹脂配管52の外面部分に熱膨張性耐火材料53を配置し、さらに前記貫通孔と熱膨張性耐火材料との隙間をモルタル54により閉塞した第一の従来の防火区画貫通部構造が知られている(特許文献1)。
この第一の従来の防火区画貫通部構造300が火災等の熱にさらされた場合には、前記熱膨張性耐火材料53が膨張して熱膨張残渣を形成すると共に、火災等の熱により軟化した合成樹脂配管52が前記熱膨張残渣により押し潰される。この熱膨張残渣により前記貫通孔51が閉塞されることから炎や煙等が区画の一方から他方へ拡散することを防止することができる。
【0004】
しかしながら図8に示された従来の防火区画貫通部構造300の場合は区画50に設けられた貫通孔51を挿通する合成樹脂管52がモルタル54により固定されている。このため前記合成樹脂管52に不具合が発見された場合でも前記合成樹脂管52を交換することが容易ではない問題があった。
【0005】
この一方、貫通孔の内部に固定導管を設置しておき、この固定導管内部に合成樹脂配管を挿通した構造も知られている(特許文献2)。
図9は第二の従来の防火区画貫通部構造310を説明するための模式断面図である。
図9に示される様に、区画60に設けられた貫通孔61に固定導管62を設置しておき、この固定導管62内部に合成樹脂配管63を挿通させる。
前記固定導管が設置された前記貫通孔61の反対側の端にはシーリング材64が設置されている。また前記貫通孔61の内面と前記合成樹脂配管63の外面との間の環状の空間に熱膨張性耐火材料層65が設置されている。
また、前記熱膨張性耐火材料層65と前記合成樹脂配管63の外面との間には隙間66が設置されている。
【0006】
しかし第二の従来の防火区画貫通部構造310の場合は、区画60に設けられた貫通孔61を挿通する前記合成樹脂配管63の位置が、前記固定導管62により固定されている。このため前記第二の従来の防火区画貫通部構造310の場合では、前記合成樹脂配管63の増設、撤去等が容易ではない問題があった。
【0007】
この問題に対応するために、前記固定導管62に代えてスリーブと呼ばれるさや管を前記区画60の貫通孔61に設置することも考えられる。そして前記スリーブ内部に前記合成樹脂配管63を挿通させておけば、前記合成樹脂配管63の増設、撤去等が容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−119608号公報
【特許文献2】特表2010−530945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら第二の従来の防火区画貫通部構造310の場合に、前記固定導管62に代えて金属スリーブを使用すると、前記金属スリーブを通じて火災等の発生している区画の一方から、火災等が発生していない区画の他方へ火災等の熱が伝わる。
先に説明した第一の従来の防火区画貫通部構造300の場合も貫通孔51を挿通する合成樹脂配管52に代えて金属配管を使用すると、上記の場合と同様、前記金属配管を通じて火災等の発生している区画の一方から、火災等が発生していない区画の他方へ火災等の熱が伝わる。
前記金属スリーブ、金属配管等を使用した防火区画貫通部構造の場合は火災等による炎、煙等を遮断することはできても、前記金属スリーブ、金属配管を通じて熱が伝わることを防ぐことが困難となる。
この熱により火災等が発生していない区画の可燃物が発火する等の新たな問題が生じる。
【0010】
本発明の目的は、火災等が発生した構造物の区画の一方から、火災等が発生していない構造物の区画の他方へ、火災等の熱が伝わることを低減することができ、耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく本発明者が鋭意検討した結果、構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔を金属配管類が挿通する防火区画貫通部構造であって、前記金属配管類との外面に熱膨張性樹脂組成物からなる熱膨張性耐火シートが設置され、不燃性断熱材が、前記熱膨張性耐火シートと、前記区画の外側表面と、に接して設置された防火区画貫通部構造が、本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、
[1]構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された金属配管類と、
前記金属配管類の外面に設置された熱膨張性耐火シートと、
前記熱膨張性耐火シートを介して前記金属配管の周囲に設置される不燃性断熱材と、
を少なくとも有し、
前記金属配管類が、金属配管本体と、前記配管本体の外面に設置された合成樹脂断熱材層と、を有し、
前記熱膨張性耐火シートが、熱膨張性樹脂組成物からなり、
前記不燃性断熱材が、前記熱膨張性耐火シートと、前記区画の外側表面と、に接して設置され、
前記金属配管類が、前記貫通孔の内面と前記金属配管類の外面との間に所定間隔をあけて、前記貫通孔を挿通することを特徴とする、防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0013】
また本発明の一つは、
[2]第二の熱膨張性耐火シートが、前記貫通孔の内面に設置されている、上記[1]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0014】
また本発明の一つは、
[3]前記区画が、中空壁である、上記[1]または[2]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0015】
また本発明の一つは、
[4]前記第二の熱膨張性耐火シートが、熱膨張性樹脂組成物層と、不燃材料層とを少なくとも積層してなり、
前記熱膨張性樹脂組成物層が、前記金属配管類の外面側に配置され、
前記不燃材料層が、前記貫通孔の内面側に配置されている、上記[2]または[3]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0016】
また本発明の一つは、
[5]不燃性保温材が、前記中空壁内部に設置され、
前記第二の熱膨張性耐火シートが、前記不燃性保温材に接して設置されている、上記[2]〜[4]のいずれかに記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の防火区画貫通部構造は金属配管類を使用するものである。また前記金属配管類と不燃性断熱材との間に熱膨張性耐火シートが設置されている。
火災等の熱により本発明の防火区画貫通部構造が加熱された場合は、前記防火区画貫通部構造に使用される金属配管類の外面に設置された熱膨張性耐火シートが火災等の熱により膨張して熱膨張残渣を形成する。この熱膨張残渣と前記不燃性断熱材が前記金属配管類を保護する。この結果、前記金属配管類を通じて区画の一方から他方へ熱が伝わることを低減することができる。
また区画の貫通孔の内面に第二の熱膨張性耐火シートを設置することにより、火災等の熱により第二の熱膨張性耐火シートが加熱された場合には、前記貫通孔の内部を熱膨張残渣により閉塞することができる。
この第二の熱膨張性耐火シートによる熱膨張残渣により、前記貫通孔の内部を火災の炎、煙等が通過することをより確実に防止することができる。
【0018】
さらに本発明の防火区画貫通部構造は、前記区画の貫通孔内部に金属配管類を固定する必要がないため、容易に金属配管類を交換、増設することができることから防火区画貫通部構造の保守管理も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明に使用する配管類と、区画との関係を説明するための模式断面図である。
【図2】図2は本発明に使用する配管類と、区画との関係を説明するための模式断面図である。
【図3】図3は実施例1に係る防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
【図4】図4は実施例1に係る防火区画貫通部構造を区画に対して垂直方向から観察した状態を示した模式断面図である。
【図5】図5は実施例2に係る防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
【図6】図6は実施例3に係る防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
【図7】図7は実施例4に係る防火区画貫通部構造を示した模式断面図である。
【図8】図8は第一の従来の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図9】図9は第二の従来の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
最初に本発明に使用する配管類と、区画との関係を説明する。
図1および2は、本発明に使用する金属配管類と、区画との関係を説明するための模式断面図である。
図1は、戸建住宅、集合住宅、高層ビル等の建築物、客船、輸送船等の船舶等の構造物に使用される区画のうち、壁等の地面に対し垂直の区画1に設けられた貫通孔2を挿通する金属配管類3を例示したものである。
【0021】
また図2は、前記構造物に使用される区画のうち、床、天井等の地面に対し水平の区画5に設けられた貫通孔2を挿通する金属配管類3を例示したものである。
【0022】
図1の場合は、金属配管類3が区画1の貫通孔2を水平に挿通している。
前記金属配管類3は、前記貫通孔2の内面と前記金属配管類3の外面との間に所定間隔をあけて、前記貫通孔2を挿通している。
前記所定間隔の大きさに限定はなく、防火区画貫通部構造の目的、用途に応じて適宜選択することができる。
【0023】
また前記金属配管類3は貫通孔2の中心を挿通する必要はなく、前記貫通孔2内部の任意の位置を挿通することができる。
【0024】
前記区画1は天井等の水平方向の区画5と連結されている。また区画5にボルト、ナット等の固定手段を用いて吊下装置6が固定されている。前記吊下装置6は区画5に対する固定部分7と、前記金属配管類3を支える支持部分9と、前記固定部分7と前記支持部分9とを連結する本体部分8と、から形成されていいる。前記吊下装置6により前記金属配管類3を前記区画1の貫通孔2に挿通させた状態で固定することができる。
なお使用する前記吊下装置6の構造に限定はなく、市販品を適宜選択して使用することができる。
【0025】
図2の場合は、金属配管類3が区画5の貫通孔2を垂直に挿通している。
図2の場合も図1の場合と同様である。前記金属配管類3が、前記貫通孔2の内面と前記金属配管類3の外面との間に所定間隔をあけて、前記貫通孔2を挿通している。
前記区画5は壁等の垂直方向の区画1と連結されている。また区画1にボルト、ナット等の固定手段を用いて支持装置10が固定されている。前記支持装置10は区画1に対する固定部分7と前記金属配管類3を支える支持部分9と、前記固定部分7と前記支持部分9とを連結する本体部分8とから形成されていて、前記支持部分9により前記金属配管類3を前記区画1の貫通孔2に挿通させた状態で固定することができる。
なお使用する前記支持装置10の構造に限定はなく、市販品を適宜選択して使用することができる。
【0026】
図1および図2に使用される金属配管類3としては、例えば、冷媒管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類、ガス管、暖冷房用媒体移送管、通気管等の気体移送用管類、電線ケーブル、光ファイバーケーブル、船舶用ケーブル等のケーブル類等、またこれらの液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類等を内部に挿通させるためのスリーブ等が挙げられる。
これらの中でも施工性の観点から冷媒管、熱媒管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類が好ましく、冷媒管、熱媒管であればさらに好ましい。
【0027】
前記金属配管類3は、液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類、スリーブ等の一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0028】
前記金属配管類3の形状については特に限定はないが、例えば、前記金属配管類3の長軸方向に対し垂直方向の断面形状が三角形、四角形等の多角形、長方形等の互いの辺の長さが異なる形状、平行四辺形等の互いの内角が異なる形状、楕円形、円形等の形状が挙げられる。これらの中でも、断面形状が円形、四角形等であるものが施工性に優れることから好ましい。
【0029】
前記金属配管類3の断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の外郭線までの距離が最も大きい辺の長さを基準として、通常、1〜1000mmの範囲であり、好ましくは5〜750mmの範囲である。
【0030】
前記金属配管類3が液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類等の場合には、通常0.5mm〜10cmの範囲であり、好ましくは1mm〜5cmの範囲である。
また前記金属配管類3がスリーブの場合には、通常10〜1000mmの範囲であり、好ましくは50〜750mmの範囲である。
【0031】
前記金属配管類3は、金属配管本体と前記配管本体の外面に設置された合成樹脂断熱材層とを有する。
前記金属配管本体に使用する金属材料としては、例えば、鉄、鋼、ステンレス、銅、二以上の金属を含む合金等を挙げることができる。
また前記合成樹脂断熱材層に使用する合成樹脂材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の合成樹脂等を挙げることができる。
前記金属材料および合成樹脂材料はそれぞれ一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0032】
また前記金属配管類は、前記金属材料および合成樹脂材料に加え、無機材料を含むものであってもよい。
本発明に使用する無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等を挙げることができる。
【0033】
前記合成樹脂断熱材層の厚みは、本発明の防火区画貫通部構造が使用される場所や目的に応じて適宜設定されるが、例えば、0.5mm〜500mmの範囲であれば好ましく、1mm〜250mmの範囲であればさらに好ましい。
前記範囲が0.5mm以上の場合には前記金属配管類3の保温性に優れ、また前記範囲が500mm以下の場合には施工性に優れる。
【0034】
前記区画1、5としては、建築物の壁、間仕切り壁、床、天井等、船舶の防火区画や船室に設けられた鋼板等が挙げられる。
これらの区画1、5に貫通孔2を設けることにより、前記貫通孔2に前記金属配管類3を挿通させることができる。
【0035】
本発明に使用する前記区画の具体例としては、例えば、コンクリートスラブ、RC壁、ALC壁、RW壁、レンガ、中空壁等を挙げることができる。
本発明に使用する中空壁はその内部に空間を有するものであればよく、特に限定はないが、例えば柱部材と耐熱パネル等を含むものが挙げられる。
具体的には、例えば、木桟、金属フレーム、鉄筋コンクリート製の柱、鋼材からなる鉄骨等の少なくとも一つのスタッドに対して一又は二以上の耐熱パネル等を両側から固定した構造のもの等を挙げることができる。
【0036】
前記耐熱パネルとしては、例えば、セメント系パネル、無機セラミック系パネル等が挙げられる。
前記セメント系パネルとしては、例えば、硬質木片セメント板、無機繊維含有スレート板、軽量気泡コンクリート板、モルタル板、プレキャストコンクリート板等が挙げられる。
前記無機セラミック系パネルとしては、例えば、石膏ボード、けい酸カルシウム板、炭酸カルシウム板、ミネラルウール板、窯業系板等が挙げられる。
【0037】
ここで前記石膏ボードとしては、具体的には焼石膏に鋸屑やパーライト等の軽量材を混入し、両面に厚紙を貼って成形したもので、例えば、普通石膏ボード(JIS A6901準拠:GB−R)、化粧石膏ボード(JIS A6911準拠:GB−D)、防水石膏ボード(JISA6912準拠:GB−S)、強化石膏ボード(JIS A6913準拠:GB−F)、吸音石膏ボード(JISA6301準拠:GB−P)等が挙げられる。
【0038】
前記耐熱パネルは一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0039】
次に本発明に使用する熱膨張性耐火シートについて説明する。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートとしては、例えば、エポキシ樹脂やゴム等の樹脂成分、リン化合物、中和された熱膨張性黒鉛、無機充填材等を含有する熱膨張性樹脂組成物をシート状に成形してなるもの等を挙げることができる。
【0040】
本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートは市販品を使用することができ、例えば積水化学工業社製フィブロック(登録商標。エポキシ樹脂やゴムを樹脂成分とし、リン化合物、熱膨張性黒鉛および無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物のシート状成形物)、住友スリ―エム社のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーキュライトを含有する樹脂組成物からなるシート材料、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料化学社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物からなるシート材料、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)等の熱膨張性シート等を入手して使用することができる。
【0041】
また本発明に使用する熱膨張性耐火シートおよび第二の熱膨張性耐火シートは、熱膨張性樹脂組成物からなるものであれば好ましい。
また第二の熱膨張性耐火シートは、熱膨張性樹脂組成物層と不燃材料層とを少なくとも積層してなるものであればより好ましい。
また第二の熱膨張性耐火シートは、具体的には熱膨張性樹脂組成物層、無機繊維層、金属箔層等の一種もしくは二種以上を積層されたものを使用することがさらに好ましい。
【0042】
前記熱膨張性樹脂組成物層は、例えば、前記熱膨張性樹脂組成物を成形したもの等を挙げることができる。
前記無機繊維層に使用する無機繊維としては、例えば、ロックウール、セラミックウール、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、セラミックブランケット等が挙げられる。
【0043】
前記金属箔層に使用する金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、錫箔、鉛箔、錫鉛合金箔、クラッド箔、鉛アンチ箔等の金属箔等が挙げられる。
【0044】
本発明に使用する第二の熱膨張性耐火シートは、熱膨張性樹脂組成物層、無機繊維層および金属箔層が、この順に積層されたものを使用することがより好ましい。
【0045】
前記第二の熱膨張性耐火シートは、取り扱い性の観点から金属箔が最外層に配置されていることが好ましい。
【0046】
また本発明に使用する熱膨張性耐火シートおよび第二の熱膨張性耐火シートは、貼着面に粘着剤を塗布したもの、前記熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性樹脂組成物に粘着成分を添加することにより、前記熱膨張性耐火シート自体に粘着性を持たせたもの等を使用することができる。
【0047】
次に本発明に使用する不燃性断熱材について説明する。
前記不燃性断熱材の素材としては、例えば、不燃性発泡体、無機繊維、無機耐火等が挙げられる。
前記不燃性発泡体としては、例えば、焼石膏粉末等の無機粉末とアルミニウム粉末等の金属粉末とを混合した後、フッ化水素酸を用いて反応させた無機金属系発泡体等、フッ化ポリオレフィン等の不燃性樹脂を発泡させてなる不燃性樹脂発泡体等が挙げられる。
前記無機繊維としては、例えば、ロックウール、セラミックウール、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、セラミックブランケット等が挙げられる。
前記無機耐火材としては、例えば、セラミック体、ケイ酸カルシウム、石膏、パーライト等が挙げられる。
【0048】
次に本発明について図面に基づき実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
以下、前記金属配管類3が区画1の貫通孔2を水平に挿通している図1と同様の場合に基づいて説明するが、前記金属配管類3が区画5の貫通孔2を垂直に挿通している図2の場合も同様に形成することが可能である。
【0050】
図3は実施例1に係る防火区画貫通部構造100を示した模式断面図である。
実施例1では構造物の仕切り部に設けられた区画1として、建築物の中空壁11が使用されている。
前記中空壁11は2枚の石膏ボードが一組となって間隔をあけて設置されることにより形成されている。
前記中空壁11には円形の貫通孔12が設置されている。前記貫通孔12の形状は円形に限定されることはなく、適宜選択することができる。
図3に示す様に、前記貫通孔12を金属配管類13が挿通している。前記金属配管類13は金属配管本体14と、前記金属配管本体14の外面に設置された合成樹脂断熱材層15とを有する。
実施例1に使用した金属配管本体14は鋼管である。
また前記合成樹脂断熱材層15に使用する素材としては、例えば、ポリプロピレンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリウレタンフォーム等の気泡を含む合成樹脂フォーム等を挙げることができる。
前記合成樹脂断熱材層15を使用することにより、前記金属配管本体14内を流れる温水、冷却水等の温度を一定に保つことができる。
【0051】
また前記金属配管類13は、前記貫通孔12の内面と前記金属配管類13の外面との間に所定間隔をあけて、前記貫通孔12を挿通している。
ここで前記貫通孔12の内面と前記金属配管類13の外面との間の所定間隔とは実際に使用される防火区画貫通部構造の目的、用途に応じて適宜設定することができるが、具体的には、前記貫通孔12の内面から、前記区画1の表面に平行な面により前記貫通孔12を切断した断面の重心までの距離の1〜99%の距離に収まる範囲であることが好ましく、5〜90%の距離に収まる範囲であればさらに好ましい。
【0052】
前記貫通孔12の内面と前記金属配管類13の外面との距離は5〜30mmの範囲であることがより好ましく、10〜20mmの範囲であればより好ましい。
【0053】
また前記金属配管類13の外面には熱膨張性耐火シート16が環状に設置されている。
前記熱膨張性耐火シート16は熱膨張性樹脂組成物からなるものであり、火災等の熱にさらされた場合には、前記熱膨張性耐火シート16は熱膨張残渣を形成する。
さらに前記熱膨張性耐火シート16の外側に不燃性断熱材17が設置されている。実施例1の場合は、前記不燃性断熱材17としてロックウールマットを使用した。
前記熱膨張性耐火シート16の厚みおよび熱膨張倍率は、前記貫通孔12ならびに前記金属配管類13の金属配管本体14および不燃性断熱材17との間を閉塞できる大きさを基準にして選択することができる。
【0054】
前記不燃性断熱材17は、前記熱膨張性耐火シート16に接すると共に、前記区画1の外側表面18と接して設置されている。
図4は実施例1に係る防火区画貫通部構造100を区画に対して垂直方向から観察した状態を示した模式断面図である。
図4では実際には区画1に設けられた貫通孔2は前記金属配管類13の周囲に設置された不燃性断熱材17により隙間なく覆われているため外部から見ることができない。説明の便宜上、図4では貫通孔12が破線により示されている。
【0055】
実施例1に係る防火区画貫通部構造100が火災等の熱にさらされた場合には、前記金属配管類13の合成樹脂断熱材層15が変形、溶融、焼失等する。しかし前記金属配管類13の金属配管本体14は火災等の熱にさらされた場合でも直ぐには変形、溶融等せず、そのままの形状を保持する。
この一方、前記熱膨張性耐火シート16は火災等の熱により膨張を開始して熱膨張残渣を形成する。
前記金属配管類13の金属配管本体14と不燃性断熱材17との空間は前記熱膨張残渣により閉塞される。この結果、前記金属配管本体14は、前記熱膨張性耐火シート16による熱膨張残渣と不燃性断熱材17とにより保護されるため、前記金属配管本体14を通じて、区画1の火災等が発生している側から火災等が発生していない側へ熱が伝わることを防止することができる。
【0056】
本発明に使用する前記熱膨張性耐火シート16の最外面は、前記貫通孔12の内面と所定の間隔をあけて設置されている。これにより前記熱膨張性耐火シート16は、前記貫通孔12の内面と接触することがなく、本発明に係る防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされた場合には区画1に火災等の熱が奪われることがない。このため前記火災等の熱により前記熱膨張性耐火シート16は速やかに膨張することから、本発明に係る防火区画貫通部構造は耐火性に優れる。
【0057】
また本発明に使用する前記金属配管類13は区画1の貫通孔2に対して固定されていない。このため前記金属配管類13の交換、追加等を簡単に実施することができる。このため本発明に係る防火区画貫通部構造100は保守管理性に優れる。
【実施例2】
【0058】
図5は実施例2に係る防火区画貫通部構造110を示した模式断面図である。
実施例2は実施例1の変形例である。
実施例2の場合は、実施例1に係る防火区画貫通部構造100に加えて、第二の熱膨張性耐火シート20が使用されている。それ以外は実施例1の場合と同様である。
第二の熱膨張性耐火シート20はアルミニウム箔ラミネートガラスクロス層と、熱膨張性樹脂組成物層とが積層されたものであり、熱膨張性樹脂組成物層を金属配管類13側に、アルミニウム箔ラミネートガラスクロス層を区画1の貫通孔2の内面側にして、前記貫通孔2の内面に第二の熱膨張性耐火シート20が設置されている。
【0059】
実施例2に係る防火区画貫通部構造110が火災等の熱にさらされた場合には、第二の熱膨張性耐火シート20の熱膨張性樹脂組成物層が膨張して熱膨張残渣を形成する。
前記第二の熱膨張性耐火シート20には不燃材料層としてアルミニウム箔ラミネートガラスクロス層が積層されている。この不燃材料層が前記熱膨張残渣を支える機能を果たす。
前記第二の熱膨張性耐火シート20により生成した熱膨張残渣は前記第二の熱膨張性耐火シート20にの不燃材料層に支えられて、前記貫通孔2内部にある前記金属配管類13側の空間を閉塞する。
実施例2に示される様に、先の実施例1の場合に加えて区画1の貫通孔2内が前記熱膨張残渣により閉塞されるため、前記金属配管本体14を通じて、区画1の火災等が発生している側から火災等が発生していない側へ熱が伝わることを防止することができる。
【実施例3】
【0060】
図6は実施例3に係る防火区画貫通部構造120を示した模式断面図である。
実施例3は実施例2の変形例である。
実施例3の場合は、実施例2に係る防火区画貫通部構造110に加えて、建築物の中空壁11の内部に不燃性保温材30が設置されている。
また実施例2に使用した前記第二の熱膨張性耐火シート20はアルミニウム箔ラミネートガラスクロス層と熱膨張性樹脂組成物層とが積層されていたが、実施例3に使用した前記第二の熱膨張性耐火シート21は熱膨張性樹脂組成物からなる。
それ以外は実施例2の場合と同様である。
【0061】
図6に示される様に、前記第二の熱膨張性耐火シート21は前記貫通孔2の内面および前記不燃性保温材30の前記貫通孔2側にある端面により支えられている。
実施例3に係る防火区画貫通部構造120が火災等の熱にさらされた場合には、第二の熱膨張性耐火シート21が膨張して熱膨張残渣を形成する。
前記第二の熱膨張性耐火シート21により生成した熱膨張残渣は、前記貫通孔2の内面および前記不燃性保温材30の前記貫通孔2側にある端面により支えられて前記貫通孔2内部にある前記金属配管類13側の空間を閉塞する。
実施例3も、先の実施例2の場合と同様に区画1の貫通孔2内が前記熱膨張残渣により閉塞されるため、前記金属配管本体14を通じて、区画1の火災等が発生している側から火災等が発生していない側へ熱が伝わることを防止することができる。
【実施例4】
【0062】
図7は実施例4に係る防火区画貫通部構造130を示した模式断面図である。
実施例4は実施例3の変形例である。
実施例3に使用した第二の熱膨張性耐火シート21は熱膨張性樹脂組成物からなるものであったが、実施例4に使用した第二の熱膨張性耐火シート20はアルミニウム箔ラミネートガラスクロス層と熱膨張性樹脂組成物層とが積層されている。
それ以外は実施例3の場合と同様である。
実施例2の場合と同様、熱膨張性樹脂組成物層を金属配管類13側に、アルミニウム箔ラミネートガラスクロス層を区画1の貫通孔2の内面側にして、前記貫通孔2の内面に第二の熱膨張性耐火シート20が設置されている。
【0063】
図7に示される様に、前記第二の熱膨張性耐火シート20は前記貫通孔2の内面および前記不燃性保温材30の前記貫通孔2側にある端面により支えられている。
実施例4に係る防火区画貫通部構造130が火災等の熱にさらされた場合には、第二の熱膨張性耐火シート20が膨張して熱膨張残渣を形成する。
前記第二の熱膨張性耐火シート20により生成した熱膨張残渣は前記第二の熱膨張性耐火シート20にの不燃材料層に支えられて、前記貫通孔2内部にある前記金属配管類13側の空間を閉塞する。
実施例4も、先の実施例3の場合と同様に区画1の貫通孔2内が前記熱膨張残渣により閉塞されるため、前記金属配管本体14を通じて、区画1の火災等が発生している側から火災等が発生していない側へ熱が伝わることを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の防火区画貫通部構造は、火災等の際に発生する炎、煙等の拡散を防止するだけでなく、火災等の際に発生する熱の拡散を低減させることができる。このため各種建築物、船舶等の構造物の防火区画に広く応用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1、5、50、60 区画
2、12、51、61 貫通孔
3、13、52、63 金属製配管類
6 吊下装置
7 固定部分
8 支持部分
9 本体部分
10 支持装置
11 中空壁
14 金属配管本体
15 合成樹脂断熱材層
16 熱膨張性耐火シート
17 不燃性断熱材
18 区画の外側表面
20、21 第二の熱膨張性耐火シート
30 不燃性保温材
53 熱膨張性耐火材料
54 モルタル
62 固定導管
64 シーリング材
65 熱膨張性耐火材料層
300、310 従来の防火区画貫通部構造
100〜130 防火区画貫通部構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された金属配管類と、
前記金属配管類の外面に設置された熱膨張性耐火シートと、
前記熱膨張性耐火シートを介して前記金属配管の周囲に設置される不燃性断熱材と、
を少なくとも有し、
前記金属配管類が、金属配管本体と、前記配管本体の外面に設置された合成樹脂断熱材層と、を有し、
前記熱膨張性耐火シートが、熱膨張性樹脂組成物からなり、
前記不燃性断熱材が、前記熱膨張性耐火シートと、前記区画の外側表面と、に接して設置され、
前記金属配管類が、前記貫通孔の内面と前記金属配管類の外面との間に所定間隔をあけて、前記貫通孔を挿通することを特徴とする、防火区画貫通部構造。
【請求項2】
第二の熱膨張性耐火シートが、前記貫通孔の内面に設置されている、請求項1に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項3】
前記区画が、中空壁である、請求項1または2に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項4】
前記第二の熱膨張性耐火シートが、熱膨張性樹脂組成物層と、不燃材料層とを少なくとも積層してなり、
前記熱膨張性樹脂組成物層が、前記金属配管類の外面側に配置され、
前記不燃材料層が、前記貫通孔の内面側に配置されている、請求項2または3のいずれかに記載の防火区画貫通部構造。
【請求項5】
不燃性保温材が、前記中空壁内部に設置され、
前記第二の熱膨張性耐火シートが、前記不燃性保温材に接して設置されている、請求項2〜4のいずれかに記載の防火区画貫通部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−255263(P2012−255263A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127788(P2011−127788)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】