説明

防火用熱膨張性目地材

【課題】火災発生初期の環境温度が200℃に達していない状況でも、隙間を閉塞して煙や熱を遮断することが可能であり、かつ、膨張後の形状保持性に優れ、燃焼時にハロゲンガスなどの有害ガスを発生しない防火用熱膨張性樹脂組成物及び防火用熱膨張性目地材を提供する。
【解決手段】ブチルゴム:25〜80質量%、該ブチルゴムと加硫可能なゴム:5〜60質量%及びスチレン系熱可塑性エラストマー:15〜70質量%を含有するゴム成分100質量部に対して、膨張開始温度が130〜150℃である熱膨張性黒鉛:20〜75質量部と、水酸化アルミニウム:15〜60質量部と、ホウ酸:20〜70質量部と、前記水酸化アルミニウム及びホウ酸以外の無機充填剤:20〜60質量部と、加硫剤及び加硫促進剤:各々0.02〜5質量部とを含有する組成物を、未加硫のまま成形加工して、加硫度が10%以下の目地材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性樹脂組成物及びこの組成物を使用した防火用熱膨張性目地材に関する。より詳しくは、ドアやシャッターなどの開口部の扉、隙間部及び通気口などに装着される防火材に関する。
【背景技術】
【0002】
火災が発生した場合、火炎は、住宅建築物及び船舶の廊下や通気部、鉄道車両などの連結部分を介して急速に広がり、階上や隣室、連結車輛への延焼を助長させる。このような事態を防止するために、防火扉や防火シャッター又は防火隔壁などが設置されている。これらの防火扉、防火シャッター及び防火隔壁としては、一般に、薄板状の金属からなる表面材と裏面材との間に合成樹脂の断熱性発泡体を挿入したサンドイッチ状の構造体が使用されている。
【0003】
このような構造体の他に、扉やシャッターの周囲又は枠部分に貼付され、火災が発生して高温となった場合に、熱膨張して隙間を閉塞させる目地材も開発されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、熱膨張性材料を使用した従来の防火材は、200℃以上の高温になったときに膨張し、隙間を閉塞して延焼防止するものであり、200℃未満の温度では膨張が起こらないため、火災初期において煙の侵入などを防ぐことができないという欠点があった。
【0004】
そこで、従来、熱膨張開始温度が140〜180℃の中和処理された熱膨張性黒鉛と、リン化合物とを、特定量配合することにより、従来よりも低い温度で膨張を開始するようにした耐火性シート状成形体が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−98041号公報
【特許文献2】特許第3838780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した特許文献2に記載の技術によれば、200℃未満で膨張させることは可能となるが、その一方で、熱膨張後の形状保持性が劣るという問題点もある。この問題を解決するため、特許文献2においては、ハロゲン化された樹脂を配合する処方が提案されているが、この方法では、燃焼ガス中にハロゲンガスが発生するという問題が生じる。
【0007】
また、特許文献2に記載の耐火性シート状成形体では、中和処理した熱膨張性黒鉛を使用しているが、この場合、酸処理した黒鉛を更に中和処理する工程が必要となるため、製造コストが増加するという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は、火災発生初期の環境温度が200℃に達していない状況でも、隙間を閉塞して煙や熱を遮断することが可能であり、かつ、膨張後の形状保持性に優れ、燃焼時にハロゲンガスなどの有害ガスを発生しない熱膨張性樹脂組成物及び防火用熱膨張性目地材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、以下の熱膨張性樹脂組成物及び目地材を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明に係る防火用熱膨張性樹脂組成物は、ブチルゴム:25〜80質量%、該ブチルゴムと加硫可能なゴム:5〜60質量%及びスチレン系熱可塑性エラストマー:15〜70質量%を含有するゴム成分100質量部に対して、膨張開始温度が130〜150℃である熱膨張性黒鉛:20〜75質量部と、水酸化アルミニウム:15〜60質量部と、ホウ酸:20〜70質量部と、前記水酸化アルミニウム及びホウ酸以外の無機充填剤:20〜60質量部と、加硫剤及び加硫促進剤:各々0.02〜5質量部とを含有するものである。
【0011】
本発明に係る防火用熱膨張性目地材は、前述した熱膨張性樹脂組成物を成形加工して得られるものであり、加硫度が10%以下となっている。
この目地材は、50℃の温度条件下で120日間保持した後の加硫度が70%以上であることが好ましい。
また、例えば140〜160℃の温度条件下で膨張を開始するようにしてもよい。
更に、扉、扉枠部、扉と壁との隙間部又は通気口に貼付することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、200℃未満の温度で膨張を開始するため、火災発生後の環境温度が200℃に達していない初期段階でドアやシャッター及び通気口などの隙間を閉塞させ煙や熱を遮断し延焼を防止することができ、更に、熱膨張後の膨張層は形状が十分に保持され、かつ、発生する燃焼ガスにはハロゲンのような有害な成分を含まない防火材を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る熱膨張性樹脂組成物(以下、単に組成物ともいう。)について説明する。本実施形態の組成物は、耐火用途に使用されるものであり、ブチルゴム、このブチルゴムと加硫可能なゴム及びスチレン系熱可塑性エラストマーを含有するゴム成分100質量部に対して、膨張開始温度が130〜150℃の熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウム、ホウ酸及びその他の無機充填剤、加硫剤及び加硫促進剤を、それぞれ特定量配合したものである。
【0015】
[ブチルゴム:ゴム成分全体の25〜80質量%]
ブチルゴムは、本実施形態の組成物のゴム成分の1つであり、これを配合することにより、組成物の成形性が向上すると共に、成形体(目地材)に可撓性及び防水性を付与することができる。また、ブチルゴム含有量を変えることにより、成形体(目地材など)の粘着性を調整することもできる。
【0016】
ただし、ブチルゴム含有量がゴム成分全体の25質量%未満の場合、成形性が低下して成形品(目地材など)の表面が荒れたり、成形品(目地材など)の可撓性や防水性が不十分となったりする。また、ブチルゴム含有量が80質量%を超えると、成形体(目地材など)が夏場のように高温環境下に曝されると、可塑化によりだれて変形しやすくなるという問題が生じる。よって、ブチルゴム含有量は、ゴム成分全体の25〜80質量%とする。
【0017】
一方、ゴム成分中のブチルゴム含有量を60質量%よりも多くすると、組成物に粘着性が発現するため、目地材などの成形体にした場合、接着剤やピンなどを使用しなくても、自身の粘着力により被着体に貼付することが可能となる。なお、ゴム成分中のブチルゴム含有量が25〜60質量%の場合は、粘着性が小さくなるため、成形後に被着体に装着する際は、粘着シール、接着剤又は釘やピンなどの金具を使用することが望ましい。
【0018】
[ブチルゴムと加硫可能なゴム:ゴム成分全体の5〜60質量%]
本実施形態の組成物には、成形体の機械的強度を確保すると共に、例えば防火用目地材用途においては好適な粘着性を得るために、ゴム成分として、ブチルゴムと加硫可能なゴムが配合されている。このようなゴムとしては、例えば、天然ゴム、エチレンープロピレンージエンゴム及びスチレンーブタジエンゴムなどが挙げられる。また、これらのゴムは、単体で使用してもよいが、混練性及び成形性などを改善するために2種以上を混合して使用することもできる。更に、これらの中でも、特に、エチレンープロピレンージエンゴムを使用することが好ましく、これにより、混練性及び成形性をより良好にすることができる。
【0019】
ただし、ブチルゴムと加硫可能なゴムの含有量がゴム成分全体の5質量%未満の場合、強度が低下して、加工時に変形や破断が生じやすくなる。また、60質量%を超えると、成形性が低下し、得られる成形体は外観性が劣るものとなる。よって、よって、ブチルゴムと加硫可能なゴムの含有量は、ゴム成分全体の5〜60質量%とする。
【0020】
[スチレン系熱可塑性エラストマー:ゴム成分全体の15〜70質量%]
スチレン系熱可塑性エラストマーは、成形性、強度、可撓性及び寸法安定性などを向上させる効果がある。具体的には、成形加工時に熱可塑性エラストマー中のハードセグメントであるスチレン樹脂部が溶融し、流動性を発現して成形性の改善に効果を発揮する。また、常温では、ソフトセグメントであるゴム部がゴム弾性を発現して強度及び可撓性の改善に効果を発揮すると共に、ハードセグメントが成形品の寸法安定性を改善する。
【0021】
更に、スチレン系熱可塑性エラストマーを添加すると、火災時には熱によりハードセグメントが溶融し、熱膨張した膨張性黒鉛を一時的につなぎとめる効果も得られる。ただし、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、ゴム成分全体の15質量%未満の場合、成形性が低下して、成形体は外観性が劣り、火災時の膨張後の形状保持性も低いものとなる。同様に、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が70質量%を超えると、成形性が低下して加工しにくくなる。
【0022】
本実施形態の組成物に添加されるスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えばビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共合体を使用することができる。そのビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、p−メチルスチレン、α―メチルスチレン及びビニルキシレンなどが挙げられ、これらは単体で使用されていても、2種以上組み合わせて使用されていてもよい。また、これらのビニル芳香族化合物のうち、特に、スチレンが好ましい。
【0023】
一方、共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン及び1,3−ペンタジエンなどが挙げられ、これらは単体で使用されていても、2種以上組み合わせて使用されていてもよい。これらの共役ジエン化合物のうち、特に、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0024】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーを構成するハードセグメントとソフトセグメントの比率(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、20/80〜60/40が好ましく、より好ましくは25/75〜40/60である。ハードセグメントが20%よりも少ないスチレン系熱可塑性エラストマーを使用すると、成形性が低下することがあり、また、ハードセグメントが60%を超えるスチレン系熱可塑性エラストマーを使用すると、可撓性が低下することがある。
【0025】
[熱膨張性黒鉛:20〜75質量部]
熱膨張性黒鉛は、本実施形態の組成物及びその成形体に熱膨張性を付与する成分であり、天然グラファイト粉末を無機酸及び強酸化剤で処理して得られるグラファイト層状構造を維持した結晶化合物である。また、本実施形態の組成物においては、特に、膨張開始温度が130〜150℃のものを使用する。
【0026】
この熱膨張開始温度が130℃未満の場合、混練温度及び成形加工温度に近いため、混練又は成形加工時に一部熱膨張が起こり、得られる組成物や成形体は熱膨張率が低いものとなる。また、熱膨張開始温度が150℃を超える熱膨張黒鉛を使用すると、組成物や成形体の熱膨張開始温度が高くなるため、火災発生の初期段階で熱膨張して隙間を充填するという効果が得られなくなる。
【0027】
一方、熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜400メッシュ程度であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の粒度が400メッシュよりも小さいと、成形体にしたときの熱膨張度が不足することがある。また、熱膨張性黒鉛の粒度が20メッシュより大きくなると、ゴムに混練する際に分散性が低下することがある。
【0028】
この熱膨張性黒鉛の含有量がゴム成分100質量部あたり20質量部よりも少ないと、火災時の熱膨張倍率が小さくなり、また75質量部を超えると、熱膨張倍率は大きくなるものの、得られる配合物の強度が低下すると共に、成形性が低下し、表面状態が悪くなる。よって、熱膨張性黒鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、
20〜75質量部とする。
【0029】
[水酸化アルミニウム:15〜60質量部]
水酸化アルミニウムは、加熱時の脱水反応による吸熱反応で温度上昇を抑制する効果がある。ただし、ゴム成分100質量部あたりの含有量が15質量部未満の場合、難燃性が低下し、また、60質量部を超えると、成形性が低下する。よって、本実施形態の組成物では、水酸化アルミニウム含有量を、ゴム成分100質量部に対して、15〜60質量部とする。
【0030】
また、水酸化アルミニウムの粒径は、特に限定されるものではないが、分散性の観点からは、1〜50μmとすることが望ましい。
【0031】
[ホウ酸:20〜70質量部]
ホウ酸は、熱膨張後の形状保持剤として作用する。このホウ酸の含有量は、使用する膨張性黒鉛の使用量によって適宜設定することができるが、ゴム成分100質量部あたり20質量部未満の場合、熱膨張後の形状保持性が低下する。また、ホウ酸の含有量が、ゴム成分100質量部あたり70質量部を超えると、組成物の硬度が高くなって可撓性が低下する。よって、ホウ酸の含有量は、ゴム成分100質量に対して、20〜70質量部とする。
【0032】
本実施形態の組成物に配合されるホウ酸は、公知の製法で得られるものを使用することができ、オルトホウ酸及びメタホウ酸のいずれでもよいが、通常は、オルトホウ酸が使用される。また、このホウ酸は、通常、粉末の状態のものを使用する。この場合、粉末の粒径は、特に制限されるものではないが、比較的粒径の小さなもの、具体的には、100μm程度以下、好ましくは20μm程度以下のものが好ましい。
【0033】
[無機充填剤(水酸化アルミニウム及びホウ酸を除く):20〜60質量部]
水酸化アルミニウム及びホウ酸以外の無機充填剤は、燃焼後に熱膨張体の骨材として膨張形状を保持させるために添加される。ただし、この無機充填剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して20質量部未満の場合、熱膨張後の発泡体の強度が不足して耐熱性や難燃性が不十分となり、また、60質量部を超えると、加工性が低下する。よって、水酸化アルミニウム及びホウ酸以外の無機充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部あたり、20〜60質量部とする。
【0034】
その種類は、特に限定されるものではなく、公知の無機充填剤を採用することができる。一例としては、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムなどの金属酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及びハイドロタルサイトなどの含水無機物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩、シリカ、珪藻土、硫酸バリウム、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、活性白土、セピオライト、ガラス繊維、ガラスビーズ、グラファイト、カーボンファイバー、炭素繊維、各種金属粉などが挙げられる。
【0035】
なお、前述した無機充填剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらの無機充填剤の中でも、特に、炭酸カルシウムが好ましい。更に、その粒径は、ゴム成分への分散性の観点から、1〜50μmであることが望ましい。
【0036】
[加硫剤及び加硫促進剤:各0.02〜5質量部]
加硫及び加硫促進剤は、本実施形態の組成物及びその成形体に、自然加硫性を付与するため配合される。ここで、「自然加硫」とは、混練処理などで発生する熱や人工的な加熱による加硫でなく、太陽光の輻射熱などによって、使用環境下で起こる加硫をいう。
【0037】
即ち、本実施形態の組成物は、加硫剤及び加硫促進剤を配合しているにもかかわらず、目地材などに成形する段階では加硫を行わず、未加硫のまま成形体が製造される。そして、その成形体を、その優れた柔軟性と粘着性を活かして被着体に貼り付け、環境下で自然加硫によって被着体表面へ固着化させる。
【0038】
その自然加硫性に基づく特性を最適化するため、加硫剤及び加硫促進剤の含有比率は、それぞれゴム成分100質量部に対して0.02〜5質量部の範囲とする。加硫剤又は加硫促進剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、0.02質量部未満であると、自然加硫性が発揮されなかったり、自然加硫の進行が遅すぎたりして、目地材などの成形体の固着化速度が不十分となる。また、加硫剤及び加硫促進剤を、ゴム成分100質量部あたり5質量部を超えて使用すると、自然加硫速度が速くなり、保管時の安定性が低下する。
【0039】
本実施形態の組成物に配合される加硫剤の種類は、特に限定されるものではなく、公知の加硫剤を採用することができる。一例としては、硫黄、ポリスルフィドなどの硫黄系化合物、p−キノンジオキシム、p−p−ジベンゾイルキノンオキシムなどのオキシム系化合物、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物系化合物が挙げられる。この中でも、特に、好ましい加硫剤は、硫黄系化合物である。また、例えば硫黄系化合物とそれ以外の加硫剤とを組み合わせるなどのように、2種以上の加硫剤を組み合わせて用いることも可能である。
【0040】
一方、加硫促進剤の種類も、特に限定されるものではなく、公知の加硫促進剤を採用することができる。その一例としては、テトラメチルチウラムジスルフィドやテトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどのチウラム系化合物、2−メルカプトベンゾチアゾールやジベンゾチアゾールジスルフィドなどのチアゾール系化合物、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、n−ブチルアルデヒドアニリンなどのアルデヒドアミン系化合物、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系化合物、ジオルソトリルグアニジンやジオルソニトリルグアニジンなどのグアニジン系化合物、ジエチルチオユリア、トpリメチルチオユリアなどのチオユリア系化合物、及び亜鉛華などが挙げられる。
【0041】
これらの中でも、特に好ましい加硫促進剤は、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛などのジチオカルバミン酸塩系化合物である。これらの化合物は、単独で用いてもよいが2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0042】
[その他の成分]
本実施形態の組成物には、その効果を阻害しない範囲で、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、加工助剤及び滑剤などを併用することができる。加工性の調整に有効な軟化剤や可塑剤の例としては、パラフィン系やナフテン系などのプロセスオイル、流動パラフィンやその他のパラフィン類、ワックス類、フタル酸やアジピン酸系、セバシン酸系やリン酸系などのエステル系可塑剤類、ステアリン酸やそのエステル類などが挙げられる。
【0043】
[製造方法]
次に、本実施形態の熱膨張性樹脂組成物の製造方法について説明する。本実施形態の組成物は、先述した各成分を未加硫の状態で混練することにより得られる。その混練方法は、特に限定されるものではないが、60〜110℃にて各成分を混練することが望ましい。これにより、混練中の加硫反応を制御することができるため、混練後の組成物を自然加硫可能な状態とすることができる。
【0044】
なお、110℃を超えた温度で混練処理を行った場合には、混練中に加硫反応が進行してしまい、得られた組成物の柔軟性が低下したり、適切な自然加硫性が発揮されなかったりすることがある。また、混練温度が60℃未満の場合は、スチレン系熱可塑性エラストマーの溶融温度に達していないため、組成物中に未溶融のスチレン系エラストマーが分散された状態となり、強度が不十分となるばかりでなく、成形品に外観不良が発生することがある。
【0045】
より具体的には、本実施形態の組成物は、例えばツーローター式混練装置を用いて85℃にて40回転/分の回転速度で5分間混練した後、加硫剤及び加硫促進剤を添加し、更に100℃にて前記回転数で5分間混練することにより得られる。この混練処理工程で使用されるツーローター式混練装置は、特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができる。具体的には、85℃〜100℃において、40回転/分の回転速度での混練を可能とする装置であればよく、例えば、バンバリーミキサー及びニーダーミキサーなどを使用することができる。
【0046】
以上詳述したように、本実施形態の熱膨張性樹脂組成物は、特定の無機充填剤と特定の膨張開始温度を有する熱膨張黒鉛の組み合わせているため、従来品よりも優れた熱膨張性及び膨張後の形状保持性を有し、かつ優れた耐火性能を発揮する成形品(目地材などの熱膨張性防火材)が得られる。また、ハロゲン化合物などの有害ガスを発生する成分を含有していないため、燃焼時の安全性にも優れている。
【0047】
更に、本実施形態の組成物は、ブチルゴムを含んだ特定の配合によるゴム成分と、加硫剤及び加硫促進剤を組み合わせているため、粘着性を有する配合にした場合は、成形品を貼り付ける施工段階では粘着性を有し、経時で加硫が進行し、最終的に接着状態となる貼付性能を実現することができる。一方、粘着性が少ない配合にした場合は、成形品を、被着体の形状に沿って接着剤又はピンなどで装着することができ、経時で材料強度が増加するため強固な防火材として機能する。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る防火用熱膨張性目地材(以下、単に目地材ともいう。)について説明する。本実施形態の目地材は、前述した防火用熱膨張性樹脂組成物を未加硫のまま所定形状に成形したものであり、その加硫度が10%以下である。成形後の加硫度が10%を超えていると、その後の加硫速度が速くなり、目地材の保存安定性が低下する。
【0049】
また、本実施形態の目地材は、50℃雰囲気下で120日間保持したときに、70%以上まで加硫することがより好ましい。これにより、一定期間を経過した後でも、目地材が十分な粘着性や強度を有するようにすることができる。なお、この自加硫速度は、異なる温度及び期間において評価することも当然可能である。
【0050】
更に、本実施形態の目地材は、140〜160℃の温度条件下で熱膨張を開始することが好ましい。これにより、従来よりも低温で膨張が開始するため、火災発生初期の環境温度が200℃に達していない状況でも、隙間を閉塞して煙や熱を遮断することが可能となる。
【0051】
一方、本実施形態の目地材の形状は、特に限定されるものではなく、被着材の形状に合わせて、適宜設計することができる。例えば、テープ状に成形すればドアの枠部などに貼り付けることができ、また、シート状に成形すれば開閉扉表面を覆うこともできる。また、その成形方法も、特に制限されるものではなく、従来のプレス成形、押出成形及びカレンダー成形などの各種成形方法を、自由に採用することができる。
【0052】
そして、本実施形態の目地材は、加硫工程を経ずに、その優れた柔軟性と粘着性を活かして、扉及び扉枠部や通気口部などの被着体に装着され、環境下で自然加硫によって被着体表面へ固着化させる。
【0053】
以上詳述したように、本実施形態の防火用熱膨張性目地材は、ゴム成分、熱膨張性黒鉛、ホウ酸、水酸化アルミニウム、その他の無機充填剤各成分と、加硫剤、加硫促進剤を前述した特定比率で含有させた未加硫の組成物を使用し、未加硫のまま成形しているため、良好な柔軟性と粘着性を有している。
【0054】
また、この目地材は、自然加硫性を備え、適切な加硫速度と十分な加硫後の強度を発揮するため、建築部材などに装着した際には経時で強固な装着状態を保持することができる。更に、従来よりも低温で熱膨張を開始するため、火災発生後の環境温度が200℃に達していない初期段階でドアやシャッター及び通気口などの隙間を閉塞させ煙や熱を遮断し延焼を防止することができる。更にまた、本実施形態の目地材は、ハロゲン化合物を含有していないため、燃焼しても有害ガスが発生しない。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【0056】
本実施例においては、本発明の範囲内の実施例1,2の熱膨張性組成物及び本発明の範囲から外れる比較例1〜9の熱膨張性組成物を用いて目地材を作製し、その特性を評価した。
【0057】
本実施例で使用した各配合成分は以下の通りである。
(1)ゴム:ブチルゴム(JSR社製「ブチル268」)
エチレン−プロピレン−ジエンゴム(JSR社製「EP−51」)
SBS(JSRシェル社製「クレイトンD1101」)
(2)膨張性黒鉛A:膨張開始温度130〜150℃(BAC社製「ACT671」)
膨張性黒鉛B:膨張開始温度200〜230℃(エア・ウオータ社製「SS−3」)
(3)水酸化アルミニウム(住友化学社製「C−301R」)
(4)ホウ酸(BOR社製)
(5)無機充填剤:炭酸カルシウム(備北粉化工業社製「ホワイトンSB」)
(6)加硫剤:粉末硫黄(細井化学工業社製)
(7)加硫促進剤A:ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製「ノクセラーPZ」)
加硫促進剤B:ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製「ノクセラーBZ」)
(8)軟化剤:ナフテン系オイル(出光興産社製「NP−24」)
【0058】
また、前述した各組成物混練には、加圧ニーダー(モリヤマ社製/混合容量3リットル/DS3−10MWB−S型)を使用し、混練温度を実施例1,2及び比較例1〜8は100℃に、比較例9は130℃にして、回転速度:40回転/分で、5分間混練した。更に、目地材の成形は、60m/m単軸押出機(三葉製作所製/60K−16D−HB)を用いて、シリンダー温度を実施例1,2及び比較例1〜8は90℃に、比較例9は130℃にして、押出成形を行った。
【0059】
一方、実施例及び比較例の各目地材の評価項目及び評価方法を以下に示す。なお、評価には、テープ状に加工した各目地材から、厚さ2mm×幅20mm×長さ50mmの試験片を切り出して使用した。
【0060】
<熱膨張開始温度>
実施例及び比較例の各目地材から切り出した試験片を、連続的に雰囲気温度を変更できるギヤーオーブン内に設置し、各温度に0.5時間保持した後、取りだして体積変化が起こった温度を測定した。
【0061】
<熱膨張倍率>
実施例及び比較例の各目地材から切り出した試験片を、300℃で保持された雰囲気内に0.5時間放置した後の膨張倍率を測定した。
【0062】
<加工性>
60m/m単軸押出機(三葉製作所製「60K−16D−HB」)で厚さ2mm、幅20mmのテープ状の防火用目地材を押出成形し、その際、テープ外観に不良が発生したり、吐出性にむらが生じたりしたものを「不可」と評価した。
【0063】
<形状保持性>
前述した熱膨張倍率測定後の試験片を、目視と指触で評価した。その際、型崩れせず指で触っても崩れないものを「良」、指触ですぐ崩れるか又は既に崩れてしまったものを「不可」とした。
【0064】
<加硫度>
JIS K6300に規定されている方法で、キュラストメーターIII型(JSRトレーディング社製)によりトルクを測定し、下記数式1により加硫度を算出した。なお、下記数式1におけるMXはある期間を経た材料のトルク値、MLは測定曲線におけるトルクの最小値、MMは測定曲線におけるトルクの最大値である。
【0065】
【数1】

【0066】
<引張強度>
プレス成形した厚さ5mmのシートから3号ダンベルに打ち抜き、速度500mm/分で引張り、最大応力を求めた。
【0067】
<T型剥離接着強度>
JIS K6854に規定されている剥離接着強さ試験方法に準拠して接着強度を測定した。具体的には、厚さ2mm×縦25mm×横150mmのSUS板に試験片を挟んで圧着し、貼付直後と、50℃オーブン中に120日間放置した後のそれぞれについて、T型剥離接着強度を測定した。その際、剥離速度は50mm/分とした。
【0068】
以上の結果を、下記表1にまとめて示す。
【0069】
【表1】

【0070】
上記表1に示すように、膨張開始温度が200℃を超えている熱膨張性黒鉛を使用した比較例1の目地材は、膨張開始温度が高く、200℃未満の環境での防火性能は見込めないものであった。一方、比較例2,3の目地材は、加硫剤及び加硫促進剤を配合していないため、非粘着タイプでは目地材強度が小さいままで、粘着タイプでは粘着強度が低いままなので、経時変化により破損や引き剥がれ生じる可能性が高いものであった。
【0071】
また、比較例4の目地材は、熱膨張性黒鉛の含有量が20質量部であるため、十分な熱膨張倍率が得られなかった。比較例5の目地材は、水酸化アルミニウムの含有量が60質量部を超えていたため、加工性が劣っていた。比較例6の目地材は、ホウ酸の含有量が20質量部未満であったため、形状保持性が劣っていた。
【0072】
更に、比較例7の目地材は、ホウ酸の含有量が70質量部を超えていたため、形状保持性は優れるもの膨張率が抑制され、更に、可撓性が低下して引張強度が低下した。比較例8の目地材は、無機充填剤の含有量が60質量部を超えていたため、加工性が低かった。比較例9の目地材は、混練・成形の温度が130℃と高かったため、試験片の加硫が進行し、成形性が低下し、初期接着強度が低かった。
【0073】
これに対して、実施例1,2の目地材は、全ての項目において、比較例1〜9の目地材よりも優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴム:25〜80質量%、該ブチルゴムと加硫可能なゴム:5〜60質量%及びスチレン系熱可塑性エラストマー:15〜70質量%を含有するゴム成分100質量部に対して、
膨張開始温度が130〜150℃である熱膨張性黒鉛:20〜75質量部と、
水酸化アルミニウム:15〜60質量部と、
ホウ酸:20〜70質量部と、
前記水酸化アルミニウム及びホウ酸以外の無機充填剤:20〜60質量部と、
加硫剤及び加硫促進剤:各々0.02〜5質量部と、
を含有する防火用熱膨張性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱膨張性樹脂組成物を成形加工して得られ、加硫度が10%以下である防火用熱膨張性目地材。
【請求項3】
50℃の温度条件下で120日間保持した後の加硫度が70%以上であることを特徴とする請求項2に記載の防火用熱膨張性目地材。
【請求項4】
140〜160℃の温度条件下で膨張を開始することを特徴とする請求項2又は3に記載の防火用熱膨張性目地材。
【請求項5】
扉、扉枠部、扉と壁との隙間部又は通気口に貼付されることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の防火用熱膨張性目地材。

【公開番号】特開2012−17380(P2012−17380A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154617(P2010−154617)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【特許番号】特許第4669573号(P4669573)
【特許公報発行日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(591129771)シー・アール・ケイ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】