防眩フィルムの製造方法および防眩フィルム作製のための金型の製造方法
【課題】高い防眩機能を示す防眩フィルムの製作に有用な、表面に微細な凹凸形状を有する金型の製造方法を提供し、その防眩フィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すめっき工程と、該めっき工程によって銅めっきまたはニッケルめっき3が施された表面を切削加工および/または研磨加工することによって表面粗さが0.1μm以下の鏡面とする鏡面加工工程と、鏡面加工された面に複数の微細凹部18を切削加工によって形成する微細凹部形成工程と、微細凹部18が形成された面に保護膜19を形成する保護膜形成工程とを含む、金型の製造方法であって、上記微細凹部形成工程における切削加工が、切削される微細凹部間の平均最隣接距離、切削深さが特定の条件を満たす金型の製造方法、およびそれで得られた金型を用いた防眩フィルムの製造方法。
【解決手段】金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すめっき工程と、該めっき工程によって銅めっきまたはニッケルめっき3が施された表面を切削加工および/または研磨加工することによって表面粗さが0.1μm以下の鏡面とする鏡面加工工程と、鏡面加工された面に複数の微細凹部18を切削加工によって形成する微細凹部形成工程と、微細凹部18が形成された面に保護膜19を形成する保護膜形成工程とを含む、金型の製造方法であって、上記微細凹部形成工程における切削加工が、切削される微細凹部間の平均最隣接距離、切削深さが特定の条件を満たす金型の製造方法、およびそれで得られた金型を用いた防眩フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低ヘイズでありながら防眩特性に優れた防眩(アンチグレア)フィルムの製造方法、ならびに、このような防眩フィルムの作製のための金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネル、ブラウン管(陰極線管:CRT)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの画像表示装置は、その表示面に外光が映り込むと視認性が著しく損なわれてしまう。このような外光の映り込みを防止するために、画質を重視するテレビやパーソナルコンピュータ、外光の強い屋外で使用されるビデオカメラやデジタルカメラ、反射光を利用して表示を行う携帯電話などにおいては、従来から画像表示装置の表面に外光の映り込みを防止するフィルム層が設けられている。このフィルム層は、光学多層膜による干渉を利用した無反射処理が施されたフィルムからなるものと、表面に微細な凹凸を形成することにより入射光を散乱させて映り込み像をぼかす防眩処理が施されたフィルムからなるものとに大別される。このうち、前者の無反射フィルムは、均一な光学膜厚の多層膜を形成する必要があるため、コスト高になる。これに対して後者の防眩フィルムは、比較的安価に製造することができるため、大型のパーソナルコンピュータやモニタなどの用途に広く用いられている。
【0003】
このような防眩フィルムは従来から、たとえば微粒子を分散させた樹脂溶液を基材シート上に塗布し、塗布膜厚を調整して微粒子を塗布膜表面に露出させることでランダムな凹凸をシート上に形成する方法などによって製造されている。しかしながら、このような微粒子を分散させることにより製造された防眩フィルムは、樹脂溶液中の微粒子の分散状態や塗布状態などによって凹凸の配置や形状が左右されてしまうため、意図したとおりの凹凸を得ることが困難であり、ヘイズが低いものでは十分な防眩効果が得られないという問題があった。さらに、このような従来の防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した場合、散乱光によって表示面全体が白っぽくなり、表示が濁った色になる、いわゆる「白ちゃけ」が発生しやすいという問題があった。また、最近の画像表示装置の高精細化に伴って、画像表示装置の画素と防眩フィルムの表面凹凸形状とが干渉し、結果として輝度分布が発生して見えにくくなる、いわゆる「ギラツキ」現象が発生しやすいという問題もあった。ギラツキを解消するために、バインダー樹脂と分散させた微粒子との間に屈折率差を設けて光を散乱させる試みもあるが、そのような防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダー樹脂界面における光の散乱によって、コントラストが低下しやすいという問題もあった。
【0004】
一方、微粒子を含有させずに、透明樹脂層の表面に形成された微細な凹凸だけで防眩性を発現させる試みもある。たとえば、特開2002−189106号公報(特許文献1)には、エンボス鋳型と透明樹脂フィルムとの間に電離放射線硬化性樹脂を挟んだ状態で当該電離放射線硬化性樹脂を硬化させることにより、三次元10点平均粗さおよび三次元粗さ基準面上における隣接する凸部どうしの平均距離が、それぞれ所定値を満足する微細な凹凸を形成させ、その凹凸が形成された電離放射線硬化性樹脂層を前記透明樹脂フィルム上に設けたかたちの防眩フィルムが開示されている。しかしながら、特許文献1に開示される防眩フィルムによっても、十分な防眩効果、白ちゃけの抑制、高コントラスト、およびギラツキの抑制を達成することは難しかった。
【0005】
次に、表面に凹凸を有するフィルムの作製に用いられるロールの作製方法としては、たとえば、特開平6−34961号公報(特許文献2)には、金属などを用いて円筒体を作り、その表面に電子彫刻、エッチング、サンドブラストなどの手法により凹凸を形成する方法が開示されている。また、特開2004−29240号公報(特許文献3)には、ビーズショット法によってエンボスロールを作製する方法が開示されており、特開2004−90187号公報(特許文献4)には、エンボスロールの表面に金属めっき層を形成する工程、金属めっき層の表面を鏡面研磨する工程、さらに必要に応じてピーニング処理をする工程を経て、エンボスロールを作製する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、このようにエンボスロールの表面にブラスト処理を施したままの状態では、ブラスト粒子の粒径分布に起因する凹凸径の分布が生じるとともに、ブラストにより得られるくぼみの深さを制御することが困難であり、防眩機能に優れた凹凸の形状を再現性よく得ることに課題があった。
【0007】
また、上述した特許文献1には、好ましくは鉄の表面にクロムめっきしたローラを用い、サンドブラスト法やビーズショット法により凹凸型面を形成することが記載されている。さらに、このように凹凸が形成された型面には、使用時の耐久性を向上させる目的で、クロムめっきなどを施してから使用することが好ましく、それにより硬膜化および腐食防止を図ることができる旨の記載もある。一方、特開2004−45471号公報(特許文献5)、特開2004−45472号公報(特許文献6)のそれぞれの実施例には、鉄芯表面にクロムめっきし、#250の液体サンドブラスト処理をした後に、再度クロムめっき処理して、表面に微細な凹凸形状を形成することが記載されている。
【0008】
しかしながら、このようなエンボスロールの作製法では、硬度の高いクロムめっきの上にブラストやショットを行うため、凹凸が形成されにくく、しかも形成された凹凸の形状を精密に制御することが困難であった。
【0009】
特開2000−284106号公報(特許文献7)には、基材にサンドブラスト加工を施した後、エッチング工程および/または薄膜の積層工程を施すことが記載されている。また、特開2006−53371号公報(特許文献8)には基材を研磨し、サンドブラスト加工を施した後、無電解ニッケルめっきを施すことが記載されている。また、特開2007−187952号公報(特許文献9)には基材に銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、クロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されており、さらに、特開2007−237541号公報(特許文献10)には銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、エッチング工程または銅めっき工程を施した後にクロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。これらのサンドブラスト加工を用いる製法では表面凹凸形状を精密に制御された状態で形成することが難しいため、表面凹凸形状に50μm以上の周期を持つ比較的大きい凹凸形状も作製されてしまう。結果として、それらの大きい凹凸形状と画像表示装置の画素が干渉し、輝度分布が発生して見にくくなる、いわゆるギラツキが発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−189106号公報
【特許文献2】特開平6−34961号公報
【特許文献3】特開2004−29240号公報
【特許文献4】特開2004−90187号公報
【特許文献5】特開2004−45471号公報
【特許文献6】特開2004−45472号公報
【特許文献7】特開2000−284106号公報
【特許文献8】特開2006−53371号公報
【特許文献9】特開2007−187952号公報
【特許文献10】特開2007−237541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い防眩機能を示す防眩フィルムの製作に有用な、表面に微細な凹凸形状を有する金型の製造方法を提供し、さらに、その金型を用いて、優れた防眩機能を示しながら、白ちゃけによる視認性の低下が十分に防止され、高精細の画像表示装置の表面に配置したときにギラツキが発生せず、コントラストの低下しない防眩フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金型となる基材表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施し、その銅めっきまたはニッケルめっきが施された表面を鏡面とした後、その鏡面加工された面に複数の微細凹部を所定の方法および形状で切削加工によって形成し、該微細凹部が形成された面に保護膜を形成して金型とすれば、表面に所望の微細な凹凸形状を有する防眩フィルム製造のための金型が再現性よく得られることを見出した。また、その金型の凹凸面を透明樹脂フィルムに転写して得られる凹凸面付き防眩フィルムは、低ヘイズでありながら十分な防眩性能を有し、画像表示装置に適用したときにも、白ちゃけやギラツキなどが発生せず、また、コントラストも低下せずに良好な視認性を示すという、従来品では兼備していなかった性能が発現されることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0013】
本発明の金型の製造方法は、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すめっき工程と、該めっき工程によって銅めっきまたはニッケルめっきが施された表面を切削加工および/または研磨加工することによって表面粗さが0.1μm以下の鏡面とする鏡面加工工程と、鏡面加工された面に複数の微細凹部を切削加工によって形成する微細凹部形成工程と、微細凹部が形成された面に保護膜を形成する保護膜形成工程とを含む、表面に微細な凹凸形状を有する防眩フィルムの微細凹凸表面を透明支持体上に形成するための金型の製造方法であって、上記微細凹部形成工程における複数の微細凹部の切削加工が、金型用基材の表面と平行な方向に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材の表面と垂直な方向に微小往復移動する切削工具によって行われ、切削される微細凹部間の平均最隣接距離をa(μm)とし、切削深さをd(μm)とした時に以下の条件を満たすことを特徴とする。
【0014】
【数1】
【0015】
【数2】
【0016】
本発明の金型の製造方法において、上記微細凹部形成工程における上記切削工具の金型用基材の表面と垂直な方向への微小往復移動が圧電素子により行われることが好ましい。
【0017】
本発明の金型の製造方法において、上記微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部は球面の一部で形成されており、球面の半径をR(μm)とした時に以下の条件を満たすことが好ましい。
【0018】
【数3】
【0019】
【数4】
【0020】
本発明の金型の製造方法において、上記保護膜形成工程は、複数の微細凹部が形成された面にクロムめっきを施す工程であるか、または、複数の微細凹部が形成された面に炭素を主成分とする保護膜を蒸着によって形成する工程であることが好ましい。
【0021】
本発明の金型の製造方法においては、上記微細凹部形成工程の後に、表面に形成された微細凹凸形状をエッチング処理によって調整するエッチング工程を含むことが好ましい。
【0022】
本発明はまた、上述した本発明の方法によって製造された金型を用い、該金型の凹凸面を透明樹脂フィルムに転写し、次いで凹凸面が転写された透明樹脂フィルムを金型から剥がすことを特徴とする防眩フィルムの製造方法についても提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の金型の製造方法によれば、表面に微細な凹凸形状が精度良く形成されていることから、高い防眩機能を示す防眩フィルムの製造に有用なものとなる金型を再現性よく、殆ど欠陥が存在しない状態で製造できる。
【0024】
さらに、本発明の防眩フィルムの製造方法によれば、ヘイズが低く、表示画像の明るさを保ちながら、映り込み防止や反射防止、白ちゃけの抑制、ギラツキ発生防止、コントラスト低下防止など、防眩性能に優れた防眩フィルムを工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の金型の製造方法の好ましい一例を段階的に示す模式断面図である。
【図2】金型用基材の表面と平行な方向に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材の表面と垂直な方向に微小往復移動する切削工具の様子を模式的に示す図である。
【図3】平板状の金型用基材に微細凹部を切削加工を行うための装置を模式的に示す図である。
【図4】円筒状の金型用基材に微細凹部を切削加工を行うための装置を模式的に示す図である。
【図5】微細凹部間の最隣接距離aおよび切削深さdを説明するための模式図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は断面図である。
【図6】微細凹部が球面の一部で形成される場合の、微細凹部形状を模式的に示す図である。
【図7】微細凹部を規則的に配置した状態を模式的に示す図である。
【図8】微細凹部をランダムに配置した状態を模式的に示す図である。
【図9】微細凹部形成工程によって形成された凹凸面がエッチング工程によって鈍る状態を模式的に示す図である。
【図10】実施例1の微細凹部の配置を示す図である。
【図11】実施例2の微細凹部の配置を示す図である。
【図12】実施例1および実施例2で作製された金型の断面曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<金型の製造方法>
本発明の金型の製造方法の好ましい一例を段階的に示す模式断面図である。本発明の金型の製造方法は、〔1〕めっき工程と、〔2〕鏡面加工工程と、〔3〕微細凹凸形成工程と、〔4〕保護膜形成工程とを基本的に含む。以下、図1を参照しながら、本発明の金型の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0027】
〔1〕めっき工程
本発明の金型の製造方法ではまず、金型に用いる基材(金型用基材)1の表面2に、銅めっきまたはニッケルめっき3を施す。このように、金型用基材1の表面2に銅めっきまたはニッケルめっき3を施すことにより、金型用基材に存在していた微小な凹凸や鬆が解消される。また、保護膜形成工程においてクロムめっきを形成した際の密着性や光沢性をあげることができる。これは、銅めっきまたはニッケルめっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や巣などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。また、銅めっきまたニッケルめっきは切削性が良いことから、後の鏡面加工工程における鏡面加工や、微細凹部形成工程における微細凹部の切削が容易となる。
【0028】
めっき工程において用いられる銅またはニッケルとしては、それぞれの純金属であることができるほか、銅を主体とする合金、またはニッケルを主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味であり、また「ニッケル」は、ニッケルおよびニッケル合金を含む意味である。銅めっきおよびニッケルめっきは、それぞれ電解めっきで行っても無電解めっきで行ってもよいが、通常は銅めっきには電解めっきが採用され、ニッケルめっきには無電解めっきが採用される。
【0029】
銅めっきまたはニッケルめっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどとのからみから、一般的には500μm程度までで十分である。
【0030】
なお、本発明の金型の製造方法において、金型用基材1に好適に用いられる金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられ、さらに熱伝導率の観点から、スレンレス鋼やチタンなどが挙げられる。ここでいうアルミニウム、鉄、チタンなどは純金属であることもできるが、コスト、硬度、切削性などの観点から、アルミニウム、鉄、チタンなどを主体とする合金であることが好ましい。
【0031】
また、基材の形状は、当分野において従来より採用されている適宜の形状であれば特に制限されず、平板状であってもよいし、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
【0032】
〔2〕鏡面加工工程
続く鏡面加工工程では、上述しためっき工程にて銅めっきまたはニッケルめっき3が施された基材表面を切削加工および/または研磨加工によって表面粗さが0.1μm以下の鏡面とする。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきまたはニッケルめっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきしたままの状態では、表面にうねりが存在し完全に平滑な面が得られないためである。すなわち、このような深い加工目が残ったり、表面にうねりが存在した表面に後述する微細凹部形成加工を施した場合には、加工目やうねりの影響によって、設計通りの微細凹部を切削加工によって形成することができない。図1(a)には、平板状の金型用基材1の表面2に、めっき工程において銅めっきまたはニッケルめっき3が施され、さらに鏡面加工工程によって鏡面加工された表面4を有するようにされた状態を模式的に示している。
【0033】
銅めっきまたはニッケルめっきが施された金型用基材の表面を鏡面とする方法については特に制限されるものではなく、切削加工および/または研磨加工を用いることができる。切削加工によって鏡面加工を行う場合には、超精密旋盤を用い、切削工具を用いて鏡面切削することによって、該銅めっきまたはニッケルめっきが施された面を鏡面とすることが好ましい。切削工具の材質や形状などは特に制限されるものではなく、超硬バイト、CBNバイト、セラミックバイト、ダイヤモンドバイトなどを使用することができるが、加工精度の観点からダイヤモンドバイトを用いることが好ましい。また、研磨加工によって鏡面加工を行う場合には、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法などの従来公知の方法を使用することができる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。さらに、所定の表面粗さを得るために切削加工と研磨加工を組み合わせて行うこともできる。加工後の鏡面の表面粗さは、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、微細凹部形成工程における切削加工に表面粗さの影響が残るため好ましくない。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストの観点から、おのずと限界があるので、特に指定する必要性はない。
【0034】
〔3〕微細凹部形成工程
続く微細凹部形成工程では、上述した鏡面加工工程によって鏡面を形成した金型用基材1の表面4に、切削工具を用いて複数の微細凹部5を切削加工によって形成する。図1(b)には、金型用基材1の表面4に微細凹部5が形成された状態を模式的に示している。
【0035】
微細凹部形成工程における複数の微細凹部の切削加工は、銅めっきもしくはニッケルめっきが施された後に鏡面加工された金型用基材1の表面4と平行な方向6に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材1の表面4と垂直な方向7に微小往復移動する切削工具8によって行われることが好ましい。図2に銅めっきもしくはニッケルめっきが施された後に鏡面加工された金型用基材1の表面4と平行な方向6に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材1の表面4と垂直な方向7に微小往復移動する切削工具8の様子を模式的に示した。図2においては、金型用基材1を固定して図示したため、切削工具8のみが直線移動と垂直方向への微小往復移動を行っている。このような切削加工を行うことによって、金型用基材1上に所望のピッチ、深さで微細凹部5を高精度に形成することができる。
【0036】
このような切削加工を行うための装置を図3および図4に模式的に示した。図3は、金型用基材が平板状である場合の装置であり、金型用基材を設置し金型用基材の表面と平行な第1の方向(以下、「X方向」とする)と、金型用基材の表面と平行でX方向に垂直な第2の方向(以下、「Y方向」とする)に移動可能な加工テーブル9と、金型用基材の表面と垂直な方向(以下、「Z方向」とする)に移動可能なZ軸駆動部10と、Z軸駆動部10に取り付けられた微小往復移動用駆動機構部11と、微小往復移動用駆動機構部11に取り付けられた切削工具8を有する。この加工テーブル9に金型用基材1を設置し、加工装置のZ軸駆動部10を用いて微小往復移動用駆動機構部11をZ軸方向に移動させて、切削工具8と金型用基材1とを加工可能である所定量まで近づける。次に、加工テーブルのX方向への駆動により金型用基材1を一定速度で移動させる。その際、微小往復移動用駆動機構部11を用いて切削工具8をZ方向に所定の微小量だけ往復移動させる。これにより、切削工具8の先端部は金型用基材1に対して、図2に示す工具移動軌跡12a,12bを描くように移動し、高精度に微細凹部5を形成することができる。
【0037】
図4には、金型用基材1が円筒状である場合の装置を模式的に示した。図4の装置は、円筒状の金型用基材であるロールの両端を支持する支持機構13と、円筒状の金型用基材であるロールをその長手方向軸線を中心に回転させるモータ14(回転方向を以下では「X方向」とする)と、その長手方向(以下、「Y方向」とする)に移動可能なY軸駆動部15と、Y軸駆動部15に取り付けられた金型用基材の表面と垂直な方向(以下、「Z方向」とする)に移動可能なZ軸駆動部10と、Z軸駆動部10に取り付けられた微小往復移動用駆動機構部11と、微小往復移動用駆動機構部11に取り付けられた切削工具8を有する。この支持機構13に円筒状の金型用基材1を設置し、加工装置のZ軸駆動部10を用いて微小往復移動用駆動機構部11をZ軸方向に移動させて、切削工具8と金型用基材1とを加工可能である所定量まで近づける。次に、モータ14の駆動により金型用基材1をX方向に一定速度で回転させる。その際、微小往復移動用駆動機構部11を用いて切削工具8をZ方向に所定の微小量だけ往復移動させる。これにより、切削工具8の先端部は金型用基材1に対して、図2に示す工具移動軌跡12a,12bを描くように移動し、高精度に微細凹部5を形成することができる。
【0038】
微小往復移動用駆動機構部11の駆動源としては切削工具8を微小駆動できるものであれば特に制限されず、圧電素子、磁歪素子、超音波発振機などを使用することができるが、加工精度、加工速度の観点から圧電素子を用いることが好ましい。微小往復移動用駆動機構部11に取り付ける切削工具8の材質は特に制限されるものではなく、超硬バイト、CBNバイト、セラミックバイト、ダイヤモンドバイトなどを使用することが出来るが、加工精度の観点からダイヤモンドバイトを用いることが好ましい。
【0039】
切削加工によって形成される複数の微細凹部間の平均最隣接距離a(μm)と、切削深さd(μm)は下記条件を満たすことが好ましい。
【0040】
【数5】
【0041】
【数6】
【0042】
ここで、微細凹部間の平均最隣接距離とは、一つ微細凹部に注目したときに、該微細凹部の最深部と、該微細凹部に最隣接する微細凹部の最深部間の距離の平均値である。図5は、微細凹部間の最隣接距離aおよび切削深さdを説明するための模式図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は断面図である。注目した微細凹部Aに最隣接する微細凹部Bの最深部17間の距離aABが、微細凹部Aの最隣接距離となる。また、微細凹部の切削深さdとは、微細凹部形成工程によって複数の微細凹部が形成された表面の最高部16から、微細凹部最深部17までの距離である。
【0043】
ここで、防眩フィルムの微細凹凸表面は、防眩フィルムの微細凹凸表面によって発生するギラツキを抑制するという観点から、50μm以上の長周期成分を含まないことが好ましい。しかしながら、10μm以下の短周期成分のみを含む微細凹凸表面では優れた防眩性能が発現しない。よって、防眩フィルムの微細凹凸表面は、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキを十分に防止するために、10〜50μmの周期を持つ表面形状を主成分として含むことが好ましい。よって、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキを十分に防止する防眩フィルムを製造するための金型は、10〜50μmの周期を持つ表面形状を主成分として含むことが好ましい。平均最隣接距離aが40μmを上回る場合には、得られる金型に周期が50μm以上である微細凹凸表面形状が形成されやすくなり、結果として、得られる防眩フィルムを高精細の画像表示装置の表面に配置したときにギラツキが発生することとなる。また、平均最隣接距離aが10μmを下回る場合には、得られる金型に周期が10μm以下の短周期成分が多く含まれるようになり、得られる防眩フィルムに優れた防眩性能が発現しない。
【0044】
また、防眩フィルムの微細凹凸表面は、防眩フィルムの微細凹凸表面によって発生する白ちゃけを抑制するという観点から、防眩フィルムの主平面に垂直な微細凹凸表面の平均傾斜角度は3°以下であることが好ましい。また、防眩性の発現という観点から、該平均傾斜角度は0.5°以上であることが好ましい。ここで平均傾斜角度θは平均最隣接距離aおよび切削深さdより、次式で推算することができる。
【0045】
【数7】
【0046】
よって、切削深さdと平均最隣接距離aの比d/aはtan(0.5°)/2=0.0044以上が好ましく、tan(3°)/2=0.026以下が好ましい。比d/aが0.0044を下回る場合は得られる金型の平均傾斜角度が0.5°未満となり、得られる防眩フィルムが十分な防眩効果を発現しないため好ましくない。また、比d/aが0.026を上回る場合には、得られる金型の平均傾斜角度が3°を上回ることとなり、得られる防眩フィルムが白ちゃけるため好ましくない。
【0047】
また、防眩フィルムが白ちゃけを抑制しつつ、優れた防眩性を発現するためには、微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部は球面の一部で形成されていることが好ましい。微細凹部が球面の一部で形成される場合の、微細凹部形状は模式的には図6のように表すことができる。このときの球面の半径をR(μm)とした場合に、前記平均傾斜角度θは、次式で推算することができる。
【0048】
【数8】
【0049】
よって、切削深さdと球面の半径Rの比d/Rは1−cos(1°)=0.00015以上が好ましく、1−cos(6°)=0.0055以下が好ましい。比d/Rが0.00015を下回る場合は得られる金型の平均傾斜角度が0.5°未満となり、得られる防眩フィルムが十分な防眩効果を発現しないため好ましくない。また、比d/Rが0.0055を上回る場合には、得られる金型の平均傾斜角度が3°を上回ることとなり、得られる防眩フィルムが白ちゃけるため好ましくない。
【0050】
また、得られる防眩フィルムは平坦面、すなわち傾斜角度が略0°である面は5%以下であることが好ましい。平坦面が5%を超える場合には十分な防眩性を発現しないためである。平坦面の割合αは、前記平均傾斜角度θと球面の半径R、および平均最隣接距離aより、次式で推算することができる。
【0051】
【数9】
【0052】
よって、平均最隣接距離aと球面の半径Rの比a/Rは以下の条件を満たすことが好ましい。
【0053】
【数10】
【0054】
微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部を半径Rの球面の一部で形成するためには、ノーズ半径がRの切削工具を用いて、X方向の移動速度もしくは回転速度と、Z方向の微小往復移動を制御し、切削工具先端部の移動軌跡が半径Rの円弧の一部を描くように設定して加工すればよい。
【0055】
微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部は規則的に配列させて形成しても良いし、ランダムに配置しても良いが、規則的に微細凹部を形成した場合には、規則的な微細凹部配置に起因する干渉色が発生する可能性があるため、ランダムに配置することが好ましい。図7は微細凹部を規則的に配置した場合を模式的に示した。また、図8は微細凹部をランダムに配置した場合を模式的に示した。
【0056】
〔4〕保護膜形成工程
続いて、微細凹部が形成された面18に保護膜19を形成することによって、金型の表面硬度および耐摩耗性を向上させ、金型としての耐久性を向上させる。保護膜19を形成することによって、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりすることを防止することができる。図1(c)には、上述した微細凹部形成工程によって微細凹部が表面に形成された状態に保護膜19を形成した状態が示されている。
【0057】
本発明では、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを保護膜として採用することが好ましい。クロムめっきの種類は特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行われ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
【0058】
なお、保護膜形成工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。形成されるクロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であることが好ましく、3〜6μmの範囲内であることがより好ましい。クロムめっき厚みが薄いと、金型としての耐久性が不十分となる可能性がある。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなるうえに、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。また、形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下するうえに、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
【0059】
また、本発明の製造方法においては、当該保護膜形成工程は、複数の微細凹凸が形成された面に炭素を主成分とする保護膜を蒸着によって形成する工程であってもよい。光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得る炭素を主成分とする炭素膜は、本発明における保護膜として好ましく採用される。炭素を主成分とする膜としては、たとえばダイヤモンド薄膜、ダイヤモンド状炭素膜、水素化アモルファス炭素膜(以下、「DLC膜」という)が挙げられる。該炭素膜の形成方法として各種の蒸着法が用いられ、たとえば、ダイヤモンド薄膜は、マイクロ波プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、プラズマジェット法、ECRプラズマCVD法などにより、ダイヤモンド状炭素膜およびDLC膜はプラズマCVD法、イオンビーム・スパッタ法、イオンビーム蒸着法、プラズマ・スパッタ法などにより形成される。また、前記形成方法に不活性ガス、窒素、炭素から選ばれる少なくとも一種のイオンを成膜と同時に注入するIBM(イオンビームミキシング)あるいは注入する金型基材にパルスバイアスをかけて行うPBII(プラズマ・ベースド・イオン・インプランテーション)と成膜方法を組み合わせることにより、膜と金型基材との間に明瞭な界面が無くなり密着性を向上することができる。これらの炭素膜の厚みは0.1〜5μmの範囲内であることが好ましく、0.5〜3μmの範囲内であることがより好ましい。炭素膜の厚みが0.1μm未満であると、金型としての耐久性が不十分となる可能性がある。一方で、炭素膜の厚みが5μmを超えると、生産性が悪くなるため好ましくない。
【0060】
また、本発明の防眩フィルムを作製するための、金型の製造方法においては上述した〔3〕微細凹部形成工程と〔4〕保護膜形成工程との間に、微細凹部形成工程によって形成された微細凹部5をエッチング処理によって鈍らせるエッチング工程を含むことも好ましい。エッチング工程では、微細凹部形成工程によって形成された第1の表面凹凸形状20を、エッチング処理によって鈍らせる。このエッチング処理によって、切削加工によって形成された第1の表面凹凸形状20における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造された防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。図9には、エッチング処理によって、金型用基材1の第1の表面凹凸形状20が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状21が形成された状態が示されている。
【0061】
エッチング工程のエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)などを用い、表面を腐食させることによって行われるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および微細凹部形成工程により得られた微細凹部のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量は、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、微細凹部形成工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内であることが好ましく、4〜20μmの範囲内であることがより好ましい。エッチング工程におけるエッチング処理には、1回のエッチング処理によって行ってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行ってもよい。ここでエッチング処理を2回以上に分けて行う場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
【0062】
<防眩フィルムの製造方法>
本発明はまた、上述した本発明の金型の製造方法で得られた金型を用いた防眩フィルムの製造方法についても提供する。すなわち、本発明の防眩フィルムの製造方法は、本発明の金型の製造方法で製造された金型の凹凸面を透明樹脂フィルムに転写する工程と、金型の凹凸面が転写された透明樹脂フィルムを金型から剥がす工程とを含む。このような本発明の防眩フィルムの製造方法によって、好ましい光学特性を示す防眩フィルムが好適に製造される。
【0063】
金型形状のフィルムへの転写は、エンボスにより行うことが好ましい。エンボスとしては、光硬化性樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、中でも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。
【0064】
UVエンボス法は、透明樹脂フィルムの表面に光硬化性樹脂層を形成し、その光硬化性樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化性樹脂層に転写される方法である。具体的には、透明樹脂フィルム上に紫外線硬化型樹脂を塗工し、塗工した紫外線硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で透明樹脂フィルム側から紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の紫外線硬化型樹脂層が形成された透明樹脂フィルムを剥離することにより、金型の形状を紫外線硬化型樹脂に転写する。
【0065】
UVエンボス法を用いる場合、透明樹脂フィルムとしては、実質的に光学的に透明なフィルムであればよく、たとえばトリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
【0066】
またUVエンボス法を用いる場合における紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されないが、市販の適宜のものを用いることができる。また、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートをそれぞれ単独で、あるいはそれら2種以上を混合して用い、それと、イルガキュアー907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、イルガキュアー184(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)などの光重合開始剤とを混合したものを好適に用いることができる。
【0067】
一方、ホットエンボス法は、熱可塑性樹脂で形成された透明樹脂フィルムを加熱状態で金型に押し付け、金型の表面形状を透明樹脂フィルムに転写する方法である。ホットエンボス法に用いる透明樹脂フィルムとしては、実質的に透明なものであればいかなるものであってもよく、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどを用いることができる。これらの透明樹脂フィルムはまた、上で説明したUVエンボス法における紫外線硬化型樹脂を塗工するための基材フィルムとしても好適に用いることができる。
【0068】
本発明の製造方法によって得られた金型を用いて製造される防眩フィルムは、微細凹凸表面を精度よく制御されて形成されるため、十分な防眩性を発現し、かつ、白ちゃけが発生せず、画像表示装置の表面に配置した際にもギラツキが発生せず、高いコントラストを示すものとなる。
【0069】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。
【0070】
<実施例1>
縦100mm×幅100mmのステンレス(STAVAX、ウッデホルム(株)社製)の表面に無電解ニッケルめっきが施されたものを用意した。無電解ニッケルめっきの厚みは、約100μmとなるように設定した。その無電解ニッケルめっき表面を切削加工によって鏡面加工した。この鏡面加工された無電解ニッケルめっき表面に、微細凹部間の最隣接距離が25μm、切削深さが0.6μmとなるように図10に示す配置で複数の微細凹部を切削加工して金型Aを作製した。ここで切削加工は、金型用基材をX方向およびY方向に移動する加工テーブルに設置し、ノーズ半径143μmのダイヤモンドバイトを圧電素子によって駆動する微小往復移動用駆動機構部に取り付け、金型用基材をX方向に一定速度で移動させると同時に、切削工具をZ方向に所定の微小量だけ往復移動させることによって行った。また、微細凹部は半径が143μmの球面の一部となるように切削加工を行った。
【0071】
光硬化性樹脂組成物GRANDIC 806T(大日本インキ化学工業(株)製)を酢酸エチルにて溶解して、50重量%濃度の溶液とし、さらに、光重合開始剤であるルシリンTPO(BASF社製、化学名:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)を、硬化性樹脂成分100重量部あたり5重量部添加して塗布液を調製した。厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、この塗布液を乾燥後の塗布厚みが10μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化性樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させた。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm2となるように照射して、光硬化性樹脂組成物層を硬化させた。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製した。
【0072】
<実施例2>
微細凹部間の最隣接距離が40μm、切削深さが0.6μmとなるように図11に示す配置で複数の微細凹部を切削加工したこと以外は実施例1と同様にして金型Bを作製した。得られた金型Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして透明な防眩フィルムBを作製した。
【0073】
<評価試験1>
実施例1および実施例2で得られた各金型についての表面形状について評価した。表面形状の測定は、共焦点顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)を用いた。測定の際、対物レンズの倍率は50倍とした。測定データをもとに、JIS B 0601に準拠した方法で計算することにより、算術平均高さPa、平均長さPSmおよび最大断面高さPtを算出した。また、測定によって得られた断面曲線より、各金型表面の平均傾斜角度θおよび最大傾斜角度θmaxを算出した。結果を金型の作製条件と共に表1に示す。また、各金型の断面曲線を図12に示した。
【0074】
【表1】
【0075】
<評価試験2>
得られた各防眩フィルムについて、以下のような光学特性および防眩性能の評価を行った。
【0076】
(1)光学特性の評価1:ヘイズの測定
防眩フィルムのヘイズは、JIS K 7136に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠したヘイズメータHM−150型(村上色彩技術研究所製)を用いてヘイズを測定した。防眩フィルムの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。一般的にヘイズが大きくなると、画像表示装置に適用したときに画像が暗くなり、その結果、正面コントラストが低下しやすくなる。それ故に、ヘイズは低い方が好ましい。
【0077】
(2)光学特性の評価2:透過鮮明度の測定
透過鮮明度は、JIS K 7105に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠した写像性測定器ICM−IDP(スガ試験機(株)製)を用いて、防眩フィルムの透過鮮明度を測定した。この規格では、像鮮明度測定に用いる光学くしとして、暗部と明部の幅の比が1:1で、その幅が0.125mm、0.5mm、1.0mmおよび2.0mmである4種類が規定されている。これら4種類の光学くしを用いて測定された像鮮明度の和をもって透過鮮明度と呼ぶことにした。この定義による場合の透過鮮明度の最大値は400%である。この定義による透過鮮明度は大きい方が好ましい。透過鮮明度が小さくなると、画像表示装置に配置した際に像が不鮮明となる傾向があり、また、ギラツキが発生しやすくなる傾向があるため好ましくない。よって、透過鮮明度は200%以上であることが好ましく、300%以上であることがさらに好ましい。評価の際には、ヘイズ測定の場合と同様に、防眩フィルムの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。この状態でガラス基板側から光を入射させ、測定を行った。
【0078】
(3)光学特性の評価3:60度光沢度の測定
60度光沢度は、JIS Z 8741に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠した光沢計PG−1M(日本電色工業(株)製)を用いて、防眩フィルムの光沢度を測定した。この場合も、防眩フィルムの反りを防止するため、および裏面からの反射を防止するために、光学的に透明な粘着剤を用いて、防眩フィルムを凹凸面が表面となるように2mm厚みの黒色アクリル樹脂板に貼合してから、測定に供した。この状態で防眩フィルム側から光を入射させ、測定を行った。一般的に60度光沢度が小さいことは、サンプル表面が曇っていることを意味し、その結果、白ちゃけが発生しやすくなる。それ故に、光沢度は高い方が好ましいが、光沢度が高すぎると映り込みが生じ、防眩性が低下するため、30〜90%程度の値が好ましい。
【0079】
(4)防眩性能の評価1:映り込みの目視評価
防眩フィルムの裏面からの反射を防止するために、凹凸面が表面となるように黒色アクリル樹脂板に防眩フィルムを貼合し、蛍光灯のついた明るい室内で凹凸面側から目視で観察し、蛍光灯の映り込みの有無を、目視にて次の基準で3段階に評価した。
【0080】
1:映り込みが観察されない
2:映り込みが少し観察される
3:映り込みが明瞭に観察される
(5)防眩性能の評価2:白ちゃけの目視評価
防眩フィルムの裏面からの反射を防止するために、凹凸面が表面となるように黒色アクリル樹脂板に防眩フィルムを貼合し、蛍光灯のついた明るい室内で凹凸面側から目視で観察し、白ちゃけの程度を、目視にて次の基準で3段階に評価した。
【0081】
1:白ちゃけが観察されない
2:白ちゃけが少し観察される
3:白ちゃけが明瞭に観察される
結果を表2に示す。なお、表2中、たとえば実施例1の透過鮮明度の内訳は次のとおりである。
【0082】
透過鮮明度
0.125mm光学くし: 48.3%
0.5mm光学くし : 73.1%
1.0mm光学くし : 80.1%
0.5mm光学くし : 80.5%
合計 282.0%
【0083】
【表2】
【0084】
表1に示す結果から、本発明の製造方法によって作製された金型は、表面凹凸形状の傾斜角度が適切に制御されて形成されていることが分かった。また、表2に示す結果から、本発明の製造方法から得られる防眩フィルムは優れた防眩性能を示した。本発明の好ましい要件を全て満たす防眩フィルムAは、十分な防眩性能と白ちゃけの防止が達成されていた。また、透過鮮明度も高いため画像表示装置に配置した際にもギラツキが発生しない。一方、比a/Rが本発明の好ましい要件を満たさない防眩フィルムBは白ちゃけの防止と高い透過鮮明度を示したが、わずかに映り込みが発生していた。これは上述したように比a/Rが本発明の要件を満たさないために、金型Bおよびそれより得られる防眩フィルムBに平坦面が多く存在したためである。
【0085】
得られた金型Aおよび金型BにクロムめっきもしくはDLC膜を施すことによって、硬度と耐摩耗性を付与することが出来る。このような保護膜が形成された金型は耐久性が工場し、連続して使用しても凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりすることがない。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 金型用基材、2 表面、3 銅めっきまたはニッケルめっき、4 表面、5 微細凹凸、6 金型用基材の表面と平行な方向、7 金型用基材の表面と垂直な方向、8 切削工具、9 加工テーブル、10 Z軸駆動部、11 微小往復移動用駆動機構部、12a,12b 工具移動軌跡、13 支持機構、14 モータ、15 Y軸駆動部、17 微細凹部最深部、18 微細凹部が形成された面、19 保護膜、20 第1の表面凹凸形状、21 第2の表面凹凸形状。
【技術分野】
【0001】
本発明は、低ヘイズでありながら防眩特性に優れた防眩(アンチグレア)フィルムの製造方法、ならびに、このような防眩フィルムの作製のための金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネル、ブラウン管(陰極線管:CRT)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの画像表示装置は、その表示面に外光が映り込むと視認性が著しく損なわれてしまう。このような外光の映り込みを防止するために、画質を重視するテレビやパーソナルコンピュータ、外光の強い屋外で使用されるビデオカメラやデジタルカメラ、反射光を利用して表示を行う携帯電話などにおいては、従来から画像表示装置の表面に外光の映り込みを防止するフィルム層が設けられている。このフィルム層は、光学多層膜による干渉を利用した無反射処理が施されたフィルムからなるものと、表面に微細な凹凸を形成することにより入射光を散乱させて映り込み像をぼかす防眩処理が施されたフィルムからなるものとに大別される。このうち、前者の無反射フィルムは、均一な光学膜厚の多層膜を形成する必要があるため、コスト高になる。これに対して後者の防眩フィルムは、比較的安価に製造することができるため、大型のパーソナルコンピュータやモニタなどの用途に広く用いられている。
【0003】
このような防眩フィルムは従来から、たとえば微粒子を分散させた樹脂溶液を基材シート上に塗布し、塗布膜厚を調整して微粒子を塗布膜表面に露出させることでランダムな凹凸をシート上に形成する方法などによって製造されている。しかしながら、このような微粒子を分散させることにより製造された防眩フィルムは、樹脂溶液中の微粒子の分散状態や塗布状態などによって凹凸の配置や形状が左右されてしまうため、意図したとおりの凹凸を得ることが困難であり、ヘイズが低いものでは十分な防眩効果が得られないという問題があった。さらに、このような従来の防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した場合、散乱光によって表示面全体が白っぽくなり、表示が濁った色になる、いわゆる「白ちゃけ」が発生しやすいという問題があった。また、最近の画像表示装置の高精細化に伴って、画像表示装置の画素と防眩フィルムの表面凹凸形状とが干渉し、結果として輝度分布が発生して見えにくくなる、いわゆる「ギラツキ」現象が発生しやすいという問題もあった。ギラツキを解消するために、バインダー樹脂と分散させた微粒子との間に屈折率差を設けて光を散乱させる試みもあるが、そのような防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダー樹脂界面における光の散乱によって、コントラストが低下しやすいという問題もあった。
【0004】
一方、微粒子を含有させずに、透明樹脂層の表面に形成された微細な凹凸だけで防眩性を発現させる試みもある。たとえば、特開2002−189106号公報(特許文献1)には、エンボス鋳型と透明樹脂フィルムとの間に電離放射線硬化性樹脂を挟んだ状態で当該電離放射線硬化性樹脂を硬化させることにより、三次元10点平均粗さおよび三次元粗さ基準面上における隣接する凸部どうしの平均距離が、それぞれ所定値を満足する微細な凹凸を形成させ、その凹凸が形成された電離放射線硬化性樹脂層を前記透明樹脂フィルム上に設けたかたちの防眩フィルムが開示されている。しかしながら、特許文献1に開示される防眩フィルムによっても、十分な防眩効果、白ちゃけの抑制、高コントラスト、およびギラツキの抑制を達成することは難しかった。
【0005】
次に、表面に凹凸を有するフィルムの作製に用いられるロールの作製方法としては、たとえば、特開平6−34961号公報(特許文献2)には、金属などを用いて円筒体を作り、その表面に電子彫刻、エッチング、サンドブラストなどの手法により凹凸を形成する方法が開示されている。また、特開2004−29240号公報(特許文献3)には、ビーズショット法によってエンボスロールを作製する方法が開示されており、特開2004−90187号公報(特許文献4)には、エンボスロールの表面に金属めっき層を形成する工程、金属めっき層の表面を鏡面研磨する工程、さらに必要に応じてピーニング処理をする工程を経て、エンボスロールを作製する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、このようにエンボスロールの表面にブラスト処理を施したままの状態では、ブラスト粒子の粒径分布に起因する凹凸径の分布が生じるとともに、ブラストにより得られるくぼみの深さを制御することが困難であり、防眩機能に優れた凹凸の形状を再現性よく得ることに課題があった。
【0007】
また、上述した特許文献1には、好ましくは鉄の表面にクロムめっきしたローラを用い、サンドブラスト法やビーズショット法により凹凸型面を形成することが記載されている。さらに、このように凹凸が形成された型面には、使用時の耐久性を向上させる目的で、クロムめっきなどを施してから使用することが好ましく、それにより硬膜化および腐食防止を図ることができる旨の記載もある。一方、特開2004−45471号公報(特許文献5)、特開2004−45472号公報(特許文献6)のそれぞれの実施例には、鉄芯表面にクロムめっきし、#250の液体サンドブラスト処理をした後に、再度クロムめっき処理して、表面に微細な凹凸形状を形成することが記載されている。
【0008】
しかしながら、このようなエンボスロールの作製法では、硬度の高いクロムめっきの上にブラストやショットを行うため、凹凸が形成されにくく、しかも形成された凹凸の形状を精密に制御することが困難であった。
【0009】
特開2000−284106号公報(特許文献7)には、基材にサンドブラスト加工を施した後、エッチング工程および/または薄膜の積層工程を施すことが記載されている。また、特開2006−53371号公報(特許文献8)には基材を研磨し、サンドブラスト加工を施した後、無電解ニッケルめっきを施すことが記載されている。また、特開2007−187952号公報(特許文献9)には基材に銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、クロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されており、さらに、特開2007−237541号公報(特許文献10)には銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、エッチング工程または銅めっき工程を施した後にクロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。これらのサンドブラスト加工を用いる製法では表面凹凸形状を精密に制御された状態で形成することが難しいため、表面凹凸形状に50μm以上の周期を持つ比較的大きい凹凸形状も作製されてしまう。結果として、それらの大きい凹凸形状と画像表示装置の画素が干渉し、輝度分布が発生して見にくくなる、いわゆるギラツキが発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−189106号公報
【特許文献2】特開平6−34961号公報
【特許文献3】特開2004−29240号公報
【特許文献4】特開2004−90187号公報
【特許文献5】特開2004−45471号公報
【特許文献6】特開2004−45472号公報
【特許文献7】特開2000−284106号公報
【特許文献8】特開2006−53371号公報
【特許文献9】特開2007−187952号公報
【特許文献10】特開2007−237541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い防眩機能を示す防眩フィルムの製作に有用な、表面に微細な凹凸形状を有する金型の製造方法を提供し、さらに、その金型を用いて、優れた防眩機能を示しながら、白ちゃけによる視認性の低下が十分に防止され、高精細の画像表示装置の表面に配置したときにギラツキが発生せず、コントラストの低下しない防眩フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金型となる基材表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施し、その銅めっきまたはニッケルめっきが施された表面を鏡面とした後、その鏡面加工された面に複数の微細凹部を所定の方法および形状で切削加工によって形成し、該微細凹部が形成された面に保護膜を形成して金型とすれば、表面に所望の微細な凹凸形状を有する防眩フィルム製造のための金型が再現性よく得られることを見出した。また、その金型の凹凸面を透明樹脂フィルムに転写して得られる凹凸面付き防眩フィルムは、低ヘイズでありながら十分な防眩性能を有し、画像表示装置に適用したときにも、白ちゃけやギラツキなどが発生せず、また、コントラストも低下せずに良好な視認性を示すという、従来品では兼備していなかった性能が発現されることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0013】
本発明の金型の製造方法は、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すめっき工程と、該めっき工程によって銅めっきまたはニッケルめっきが施された表面を切削加工および/または研磨加工することによって表面粗さが0.1μm以下の鏡面とする鏡面加工工程と、鏡面加工された面に複数の微細凹部を切削加工によって形成する微細凹部形成工程と、微細凹部が形成された面に保護膜を形成する保護膜形成工程とを含む、表面に微細な凹凸形状を有する防眩フィルムの微細凹凸表面を透明支持体上に形成するための金型の製造方法であって、上記微細凹部形成工程における複数の微細凹部の切削加工が、金型用基材の表面と平行な方向に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材の表面と垂直な方向に微小往復移動する切削工具によって行われ、切削される微細凹部間の平均最隣接距離をa(μm)とし、切削深さをd(μm)とした時に以下の条件を満たすことを特徴とする。
【0014】
【数1】
【0015】
【数2】
【0016】
本発明の金型の製造方法において、上記微細凹部形成工程における上記切削工具の金型用基材の表面と垂直な方向への微小往復移動が圧電素子により行われることが好ましい。
【0017】
本発明の金型の製造方法において、上記微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部は球面の一部で形成されており、球面の半径をR(μm)とした時に以下の条件を満たすことが好ましい。
【0018】
【数3】
【0019】
【数4】
【0020】
本発明の金型の製造方法において、上記保護膜形成工程は、複数の微細凹部が形成された面にクロムめっきを施す工程であるか、または、複数の微細凹部が形成された面に炭素を主成分とする保護膜を蒸着によって形成する工程であることが好ましい。
【0021】
本発明の金型の製造方法においては、上記微細凹部形成工程の後に、表面に形成された微細凹凸形状をエッチング処理によって調整するエッチング工程を含むことが好ましい。
【0022】
本発明はまた、上述した本発明の方法によって製造された金型を用い、該金型の凹凸面を透明樹脂フィルムに転写し、次いで凹凸面が転写された透明樹脂フィルムを金型から剥がすことを特徴とする防眩フィルムの製造方法についても提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の金型の製造方法によれば、表面に微細な凹凸形状が精度良く形成されていることから、高い防眩機能を示す防眩フィルムの製造に有用なものとなる金型を再現性よく、殆ど欠陥が存在しない状態で製造できる。
【0024】
さらに、本発明の防眩フィルムの製造方法によれば、ヘイズが低く、表示画像の明るさを保ちながら、映り込み防止や反射防止、白ちゃけの抑制、ギラツキ発生防止、コントラスト低下防止など、防眩性能に優れた防眩フィルムを工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の金型の製造方法の好ましい一例を段階的に示す模式断面図である。
【図2】金型用基材の表面と平行な方向に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材の表面と垂直な方向に微小往復移動する切削工具の様子を模式的に示す図である。
【図3】平板状の金型用基材に微細凹部を切削加工を行うための装置を模式的に示す図である。
【図4】円筒状の金型用基材に微細凹部を切削加工を行うための装置を模式的に示す図である。
【図5】微細凹部間の最隣接距離aおよび切削深さdを説明するための模式図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は断面図である。
【図6】微細凹部が球面の一部で形成される場合の、微細凹部形状を模式的に示す図である。
【図7】微細凹部を規則的に配置した状態を模式的に示す図である。
【図8】微細凹部をランダムに配置した状態を模式的に示す図である。
【図9】微細凹部形成工程によって形成された凹凸面がエッチング工程によって鈍る状態を模式的に示す図である。
【図10】実施例1の微細凹部の配置を示す図である。
【図11】実施例2の微細凹部の配置を示す図である。
【図12】実施例1および実施例2で作製された金型の断面曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<金型の製造方法>
本発明の金型の製造方法の好ましい一例を段階的に示す模式断面図である。本発明の金型の製造方法は、〔1〕めっき工程と、〔2〕鏡面加工工程と、〔3〕微細凹凸形成工程と、〔4〕保護膜形成工程とを基本的に含む。以下、図1を参照しながら、本発明の金型の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0027】
〔1〕めっき工程
本発明の金型の製造方法ではまず、金型に用いる基材(金型用基材)1の表面2に、銅めっきまたはニッケルめっき3を施す。このように、金型用基材1の表面2に銅めっきまたはニッケルめっき3を施すことにより、金型用基材に存在していた微小な凹凸や鬆が解消される。また、保護膜形成工程においてクロムめっきを形成した際の密着性や光沢性をあげることができる。これは、銅めっきまたはニッケルめっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や巣などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。また、銅めっきまたニッケルめっきは切削性が良いことから、後の鏡面加工工程における鏡面加工や、微細凹部形成工程における微細凹部の切削が容易となる。
【0028】
めっき工程において用いられる銅またはニッケルとしては、それぞれの純金属であることができるほか、銅を主体とする合金、またはニッケルを主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味であり、また「ニッケル」は、ニッケルおよびニッケル合金を含む意味である。銅めっきおよびニッケルめっきは、それぞれ電解めっきで行っても無電解めっきで行ってもよいが、通常は銅めっきには電解めっきが採用され、ニッケルめっきには無電解めっきが採用される。
【0029】
銅めっきまたはニッケルめっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどとのからみから、一般的には500μm程度までで十分である。
【0030】
なお、本発明の金型の製造方法において、金型用基材1に好適に用いられる金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられ、さらに熱伝導率の観点から、スレンレス鋼やチタンなどが挙げられる。ここでいうアルミニウム、鉄、チタンなどは純金属であることもできるが、コスト、硬度、切削性などの観点から、アルミニウム、鉄、チタンなどを主体とする合金であることが好ましい。
【0031】
また、基材の形状は、当分野において従来より採用されている適宜の形状であれば特に制限されず、平板状であってもよいし、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
【0032】
〔2〕鏡面加工工程
続く鏡面加工工程では、上述しためっき工程にて銅めっきまたはニッケルめっき3が施された基材表面を切削加工および/または研磨加工によって表面粗さが0.1μm以下の鏡面とする。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきまたはニッケルめっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきしたままの状態では、表面にうねりが存在し完全に平滑な面が得られないためである。すなわち、このような深い加工目が残ったり、表面にうねりが存在した表面に後述する微細凹部形成加工を施した場合には、加工目やうねりの影響によって、設計通りの微細凹部を切削加工によって形成することができない。図1(a)には、平板状の金型用基材1の表面2に、めっき工程において銅めっきまたはニッケルめっき3が施され、さらに鏡面加工工程によって鏡面加工された表面4を有するようにされた状態を模式的に示している。
【0033】
銅めっきまたはニッケルめっきが施された金型用基材の表面を鏡面とする方法については特に制限されるものではなく、切削加工および/または研磨加工を用いることができる。切削加工によって鏡面加工を行う場合には、超精密旋盤を用い、切削工具を用いて鏡面切削することによって、該銅めっきまたはニッケルめっきが施された面を鏡面とすることが好ましい。切削工具の材質や形状などは特に制限されるものではなく、超硬バイト、CBNバイト、セラミックバイト、ダイヤモンドバイトなどを使用することができるが、加工精度の観点からダイヤモンドバイトを用いることが好ましい。また、研磨加工によって鏡面加工を行う場合には、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法などの従来公知の方法を使用することができる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。さらに、所定の表面粗さを得るために切削加工と研磨加工を組み合わせて行うこともできる。加工後の鏡面の表面粗さは、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、微細凹部形成工程における切削加工に表面粗さの影響が残るため好ましくない。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストの観点から、おのずと限界があるので、特に指定する必要性はない。
【0034】
〔3〕微細凹部形成工程
続く微細凹部形成工程では、上述した鏡面加工工程によって鏡面を形成した金型用基材1の表面4に、切削工具を用いて複数の微細凹部5を切削加工によって形成する。図1(b)には、金型用基材1の表面4に微細凹部5が形成された状態を模式的に示している。
【0035】
微細凹部形成工程における複数の微細凹部の切削加工は、銅めっきもしくはニッケルめっきが施された後に鏡面加工された金型用基材1の表面4と平行な方向6に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材1の表面4と垂直な方向7に微小往復移動する切削工具8によって行われることが好ましい。図2に銅めっきもしくはニッケルめっきが施された後に鏡面加工された金型用基材1の表面4と平行な方向6に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材1の表面4と垂直な方向7に微小往復移動する切削工具8の様子を模式的に示した。図2においては、金型用基材1を固定して図示したため、切削工具8のみが直線移動と垂直方向への微小往復移動を行っている。このような切削加工を行うことによって、金型用基材1上に所望のピッチ、深さで微細凹部5を高精度に形成することができる。
【0036】
このような切削加工を行うための装置を図3および図4に模式的に示した。図3は、金型用基材が平板状である場合の装置であり、金型用基材を設置し金型用基材の表面と平行な第1の方向(以下、「X方向」とする)と、金型用基材の表面と平行でX方向に垂直な第2の方向(以下、「Y方向」とする)に移動可能な加工テーブル9と、金型用基材の表面と垂直な方向(以下、「Z方向」とする)に移動可能なZ軸駆動部10と、Z軸駆動部10に取り付けられた微小往復移動用駆動機構部11と、微小往復移動用駆動機構部11に取り付けられた切削工具8を有する。この加工テーブル9に金型用基材1を設置し、加工装置のZ軸駆動部10を用いて微小往復移動用駆動機構部11をZ軸方向に移動させて、切削工具8と金型用基材1とを加工可能である所定量まで近づける。次に、加工テーブルのX方向への駆動により金型用基材1を一定速度で移動させる。その際、微小往復移動用駆動機構部11を用いて切削工具8をZ方向に所定の微小量だけ往復移動させる。これにより、切削工具8の先端部は金型用基材1に対して、図2に示す工具移動軌跡12a,12bを描くように移動し、高精度に微細凹部5を形成することができる。
【0037】
図4には、金型用基材1が円筒状である場合の装置を模式的に示した。図4の装置は、円筒状の金型用基材であるロールの両端を支持する支持機構13と、円筒状の金型用基材であるロールをその長手方向軸線を中心に回転させるモータ14(回転方向を以下では「X方向」とする)と、その長手方向(以下、「Y方向」とする)に移動可能なY軸駆動部15と、Y軸駆動部15に取り付けられた金型用基材の表面と垂直な方向(以下、「Z方向」とする)に移動可能なZ軸駆動部10と、Z軸駆動部10に取り付けられた微小往復移動用駆動機構部11と、微小往復移動用駆動機構部11に取り付けられた切削工具8を有する。この支持機構13に円筒状の金型用基材1を設置し、加工装置のZ軸駆動部10を用いて微小往復移動用駆動機構部11をZ軸方向に移動させて、切削工具8と金型用基材1とを加工可能である所定量まで近づける。次に、モータ14の駆動により金型用基材1をX方向に一定速度で回転させる。その際、微小往復移動用駆動機構部11を用いて切削工具8をZ方向に所定の微小量だけ往復移動させる。これにより、切削工具8の先端部は金型用基材1に対して、図2に示す工具移動軌跡12a,12bを描くように移動し、高精度に微細凹部5を形成することができる。
【0038】
微小往復移動用駆動機構部11の駆動源としては切削工具8を微小駆動できるものであれば特に制限されず、圧電素子、磁歪素子、超音波発振機などを使用することができるが、加工精度、加工速度の観点から圧電素子を用いることが好ましい。微小往復移動用駆動機構部11に取り付ける切削工具8の材質は特に制限されるものではなく、超硬バイト、CBNバイト、セラミックバイト、ダイヤモンドバイトなどを使用することが出来るが、加工精度の観点からダイヤモンドバイトを用いることが好ましい。
【0039】
切削加工によって形成される複数の微細凹部間の平均最隣接距離a(μm)と、切削深さd(μm)は下記条件を満たすことが好ましい。
【0040】
【数5】
【0041】
【数6】
【0042】
ここで、微細凹部間の平均最隣接距離とは、一つ微細凹部に注目したときに、該微細凹部の最深部と、該微細凹部に最隣接する微細凹部の最深部間の距離の平均値である。図5は、微細凹部間の最隣接距離aおよび切削深さdを説明するための模式図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は断面図である。注目した微細凹部Aに最隣接する微細凹部Bの最深部17間の距離aABが、微細凹部Aの最隣接距離となる。また、微細凹部の切削深さdとは、微細凹部形成工程によって複数の微細凹部が形成された表面の最高部16から、微細凹部最深部17までの距離である。
【0043】
ここで、防眩フィルムの微細凹凸表面は、防眩フィルムの微細凹凸表面によって発生するギラツキを抑制するという観点から、50μm以上の長周期成分を含まないことが好ましい。しかしながら、10μm以下の短周期成分のみを含む微細凹凸表面では優れた防眩性能が発現しない。よって、防眩フィルムの微細凹凸表面は、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキを十分に防止するために、10〜50μmの周期を持つ表面形状を主成分として含むことが好ましい。よって、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキを十分に防止する防眩フィルムを製造するための金型は、10〜50μmの周期を持つ表面形状を主成分として含むことが好ましい。平均最隣接距離aが40μmを上回る場合には、得られる金型に周期が50μm以上である微細凹凸表面形状が形成されやすくなり、結果として、得られる防眩フィルムを高精細の画像表示装置の表面に配置したときにギラツキが発生することとなる。また、平均最隣接距離aが10μmを下回る場合には、得られる金型に周期が10μm以下の短周期成分が多く含まれるようになり、得られる防眩フィルムに優れた防眩性能が発現しない。
【0044】
また、防眩フィルムの微細凹凸表面は、防眩フィルムの微細凹凸表面によって発生する白ちゃけを抑制するという観点から、防眩フィルムの主平面に垂直な微細凹凸表面の平均傾斜角度は3°以下であることが好ましい。また、防眩性の発現という観点から、該平均傾斜角度は0.5°以上であることが好ましい。ここで平均傾斜角度θは平均最隣接距離aおよび切削深さdより、次式で推算することができる。
【0045】
【数7】
【0046】
よって、切削深さdと平均最隣接距離aの比d/aはtan(0.5°)/2=0.0044以上が好ましく、tan(3°)/2=0.026以下が好ましい。比d/aが0.0044を下回る場合は得られる金型の平均傾斜角度が0.5°未満となり、得られる防眩フィルムが十分な防眩効果を発現しないため好ましくない。また、比d/aが0.026を上回る場合には、得られる金型の平均傾斜角度が3°を上回ることとなり、得られる防眩フィルムが白ちゃけるため好ましくない。
【0047】
また、防眩フィルムが白ちゃけを抑制しつつ、優れた防眩性を発現するためには、微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部は球面の一部で形成されていることが好ましい。微細凹部が球面の一部で形成される場合の、微細凹部形状は模式的には図6のように表すことができる。このときの球面の半径をR(μm)とした場合に、前記平均傾斜角度θは、次式で推算することができる。
【0048】
【数8】
【0049】
よって、切削深さdと球面の半径Rの比d/Rは1−cos(1°)=0.00015以上が好ましく、1−cos(6°)=0.0055以下が好ましい。比d/Rが0.00015を下回る場合は得られる金型の平均傾斜角度が0.5°未満となり、得られる防眩フィルムが十分な防眩効果を発現しないため好ましくない。また、比d/Rが0.0055を上回る場合には、得られる金型の平均傾斜角度が3°を上回ることとなり、得られる防眩フィルムが白ちゃけるため好ましくない。
【0050】
また、得られる防眩フィルムは平坦面、すなわち傾斜角度が略0°である面は5%以下であることが好ましい。平坦面が5%を超える場合には十分な防眩性を発現しないためである。平坦面の割合αは、前記平均傾斜角度θと球面の半径R、および平均最隣接距離aより、次式で推算することができる。
【0051】
【数9】
【0052】
よって、平均最隣接距離aと球面の半径Rの比a/Rは以下の条件を満たすことが好ましい。
【0053】
【数10】
【0054】
微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部を半径Rの球面の一部で形成するためには、ノーズ半径がRの切削工具を用いて、X方向の移動速度もしくは回転速度と、Z方向の微小往復移動を制御し、切削工具先端部の移動軌跡が半径Rの円弧の一部を描くように設定して加工すればよい。
【0055】
微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部は規則的に配列させて形成しても良いし、ランダムに配置しても良いが、規則的に微細凹部を形成した場合には、規則的な微細凹部配置に起因する干渉色が発生する可能性があるため、ランダムに配置することが好ましい。図7は微細凹部を規則的に配置した場合を模式的に示した。また、図8は微細凹部をランダムに配置した場合を模式的に示した。
【0056】
〔4〕保護膜形成工程
続いて、微細凹部が形成された面18に保護膜19を形成することによって、金型の表面硬度および耐摩耗性を向上させ、金型としての耐久性を向上させる。保護膜19を形成することによって、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりすることを防止することができる。図1(c)には、上述した微細凹部形成工程によって微細凹部が表面に形成された状態に保護膜19を形成した状態が示されている。
【0057】
本発明では、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを保護膜として採用することが好ましい。クロムめっきの種類は特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行われ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
【0058】
なお、保護膜形成工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。形成されるクロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であることが好ましく、3〜6μmの範囲内であることがより好ましい。クロムめっき厚みが薄いと、金型としての耐久性が不十分となる可能性がある。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなるうえに、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。また、形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下するうえに、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
【0059】
また、本発明の製造方法においては、当該保護膜形成工程は、複数の微細凹凸が形成された面に炭素を主成分とする保護膜を蒸着によって形成する工程であってもよい。光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得る炭素を主成分とする炭素膜は、本発明における保護膜として好ましく採用される。炭素を主成分とする膜としては、たとえばダイヤモンド薄膜、ダイヤモンド状炭素膜、水素化アモルファス炭素膜(以下、「DLC膜」という)が挙げられる。該炭素膜の形成方法として各種の蒸着法が用いられ、たとえば、ダイヤモンド薄膜は、マイクロ波プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、プラズマジェット法、ECRプラズマCVD法などにより、ダイヤモンド状炭素膜およびDLC膜はプラズマCVD法、イオンビーム・スパッタ法、イオンビーム蒸着法、プラズマ・スパッタ法などにより形成される。また、前記形成方法に不活性ガス、窒素、炭素から選ばれる少なくとも一種のイオンを成膜と同時に注入するIBM(イオンビームミキシング)あるいは注入する金型基材にパルスバイアスをかけて行うPBII(プラズマ・ベースド・イオン・インプランテーション)と成膜方法を組み合わせることにより、膜と金型基材との間に明瞭な界面が無くなり密着性を向上することができる。これらの炭素膜の厚みは0.1〜5μmの範囲内であることが好ましく、0.5〜3μmの範囲内であることがより好ましい。炭素膜の厚みが0.1μm未満であると、金型としての耐久性が不十分となる可能性がある。一方で、炭素膜の厚みが5μmを超えると、生産性が悪くなるため好ましくない。
【0060】
また、本発明の防眩フィルムを作製するための、金型の製造方法においては上述した〔3〕微細凹部形成工程と〔4〕保護膜形成工程との間に、微細凹部形成工程によって形成された微細凹部5をエッチング処理によって鈍らせるエッチング工程を含むことも好ましい。エッチング工程では、微細凹部形成工程によって形成された第1の表面凹凸形状20を、エッチング処理によって鈍らせる。このエッチング処理によって、切削加工によって形成された第1の表面凹凸形状20における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造された防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。図9には、エッチング処理によって、金型用基材1の第1の表面凹凸形状20が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状21が形成された状態が示されている。
【0061】
エッチング工程のエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)などを用い、表面を腐食させることによって行われるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および微細凹部形成工程により得られた微細凹部のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量は、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、微細凹部形成工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内であることが好ましく、4〜20μmの範囲内であることがより好ましい。エッチング工程におけるエッチング処理には、1回のエッチング処理によって行ってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行ってもよい。ここでエッチング処理を2回以上に分けて行う場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
【0062】
<防眩フィルムの製造方法>
本発明はまた、上述した本発明の金型の製造方法で得られた金型を用いた防眩フィルムの製造方法についても提供する。すなわち、本発明の防眩フィルムの製造方法は、本発明の金型の製造方法で製造された金型の凹凸面を透明樹脂フィルムに転写する工程と、金型の凹凸面が転写された透明樹脂フィルムを金型から剥がす工程とを含む。このような本発明の防眩フィルムの製造方法によって、好ましい光学特性を示す防眩フィルムが好適に製造される。
【0063】
金型形状のフィルムへの転写は、エンボスにより行うことが好ましい。エンボスとしては、光硬化性樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、中でも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。
【0064】
UVエンボス法は、透明樹脂フィルムの表面に光硬化性樹脂層を形成し、その光硬化性樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化性樹脂層に転写される方法である。具体的には、透明樹脂フィルム上に紫外線硬化型樹脂を塗工し、塗工した紫外線硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で透明樹脂フィルム側から紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の紫外線硬化型樹脂層が形成された透明樹脂フィルムを剥離することにより、金型の形状を紫外線硬化型樹脂に転写する。
【0065】
UVエンボス法を用いる場合、透明樹脂フィルムとしては、実質的に光学的に透明なフィルムであればよく、たとえばトリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
【0066】
またUVエンボス法を用いる場合における紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されないが、市販の適宜のものを用いることができる。また、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートをそれぞれ単独で、あるいはそれら2種以上を混合して用い、それと、イルガキュアー907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、イルガキュアー184(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)などの光重合開始剤とを混合したものを好適に用いることができる。
【0067】
一方、ホットエンボス法は、熱可塑性樹脂で形成された透明樹脂フィルムを加熱状態で金型に押し付け、金型の表面形状を透明樹脂フィルムに転写する方法である。ホットエンボス法に用いる透明樹脂フィルムとしては、実質的に透明なものであればいかなるものであってもよく、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどを用いることができる。これらの透明樹脂フィルムはまた、上で説明したUVエンボス法における紫外線硬化型樹脂を塗工するための基材フィルムとしても好適に用いることができる。
【0068】
本発明の製造方法によって得られた金型を用いて製造される防眩フィルムは、微細凹凸表面を精度よく制御されて形成されるため、十分な防眩性を発現し、かつ、白ちゃけが発生せず、画像表示装置の表面に配置した際にもギラツキが発生せず、高いコントラストを示すものとなる。
【0069】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。
【0070】
<実施例1>
縦100mm×幅100mmのステンレス(STAVAX、ウッデホルム(株)社製)の表面に無電解ニッケルめっきが施されたものを用意した。無電解ニッケルめっきの厚みは、約100μmとなるように設定した。その無電解ニッケルめっき表面を切削加工によって鏡面加工した。この鏡面加工された無電解ニッケルめっき表面に、微細凹部間の最隣接距離が25μm、切削深さが0.6μmとなるように図10に示す配置で複数の微細凹部を切削加工して金型Aを作製した。ここで切削加工は、金型用基材をX方向およびY方向に移動する加工テーブルに設置し、ノーズ半径143μmのダイヤモンドバイトを圧電素子によって駆動する微小往復移動用駆動機構部に取り付け、金型用基材をX方向に一定速度で移動させると同時に、切削工具をZ方向に所定の微小量だけ往復移動させることによって行った。また、微細凹部は半径が143μmの球面の一部となるように切削加工を行った。
【0071】
光硬化性樹脂組成物GRANDIC 806T(大日本インキ化学工業(株)製)を酢酸エチルにて溶解して、50重量%濃度の溶液とし、さらに、光重合開始剤であるルシリンTPO(BASF社製、化学名:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)を、硬化性樹脂成分100重量部あたり5重量部添加して塗布液を調製した。厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、この塗布液を乾燥後の塗布厚みが10μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化性樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させた。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm2となるように照射して、光硬化性樹脂組成物層を硬化させた。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製した。
【0072】
<実施例2>
微細凹部間の最隣接距離が40μm、切削深さが0.6μmとなるように図11に示す配置で複数の微細凹部を切削加工したこと以外は実施例1と同様にして金型Bを作製した。得られた金型Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして透明な防眩フィルムBを作製した。
【0073】
<評価試験1>
実施例1および実施例2で得られた各金型についての表面形状について評価した。表面形状の測定は、共焦点顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)を用いた。測定の際、対物レンズの倍率は50倍とした。測定データをもとに、JIS B 0601に準拠した方法で計算することにより、算術平均高さPa、平均長さPSmおよび最大断面高さPtを算出した。また、測定によって得られた断面曲線より、各金型表面の平均傾斜角度θおよび最大傾斜角度θmaxを算出した。結果を金型の作製条件と共に表1に示す。また、各金型の断面曲線を図12に示した。
【0074】
【表1】
【0075】
<評価試験2>
得られた各防眩フィルムについて、以下のような光学特性および防眩性能の評価を行った。
【0076】
(1)光学特性の評価1:ヘイズの測定
防眩フィルムのヘイズは、JIS K 7136に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠したヘイズメータHM−150型(村上色彩技術研究所製)を用いてヘイズを測定した。防眩フィルムの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。一般的にヘイズが大きくなると、画像表示装置に適用したときに画像が暗くなり、その結果、正面コントラストが低下しやすくなる。それ故に、ヘイズは低い方が好ましい。
【0077】
(2)光学特性の評価2:透過鮮明度の測定
透過鮮明度は、JIS K 7105に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠した写像性測定器ICM−IDP(スガ試験機(株)製)を用いて、防眩フィルムの透過鮮明度を測定した。この規格では、像鮮明度測定に用いる光学くしとして、暗部と明部の幅の比が1:1で、その幅が0.125mm、0.5mm、1.0mmおよび2.0mmである4種類が規定されている。これら4種類の光学くしを用いて測定された像鮮明度の和をもって透過鮮明度と呼ぶことにした。この定義による場合の透過鮮明度の最大値は400%である。この定義による透過鮮明度は大きい方が好ましい。透過鮮明度が小さくなると、画像表示装置に配置した際に像が不鮮明となる傾向があり、また、ギラツキが発生しやすくなる傾向があるため好ましくない。よって、透過鮮明度は200%以上であることが好ましく、300%以上であることがさらに好ましい。評価の際には、ヘイズ測定の場合と同様に、防眩フィルムの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。この状態でガラス基板側から光を入射させ、測定を行った。
【0078】
(3)光学特性の評価3:60度光沢度の測定
60度光沢度は、JIS Z 8741に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠した光沢計PG−1M(日本電色工業(株)製)を用いて、防眩フィルムの光沢度を測定した。この場合も、防眩フィルムの反りを防止するため、および裏面からの反射を防止するために、光学的に透明な粘着剤を用いて、防眩フィルムを凹凸面が表面となるように2mm厚みの黒色アクリル樹脂板に貼合してから、測定に供した。この状態で防眩フィルム側から光を入射させ、測定を行った。一般的に60度光沢度が小さいことは、サンプル表面が曇っていることを意味し、その結果、白ちゃけが発生しやすくなる。それ故に、光沢度は高い方が好ましいが、光沢度が高すぎると映り込みが生じ、防眩性が低下するため、30〜90%程度の値が好ましい。
【0079】
(4)防眩性能の評価1:映り込みの目視評価
防眩フィルムの裏面からの反射を防止するために、凹凸面が表面となるように黒色アクリル樹脂板に防眩フィルムを貼合し、蛍光灯のついた明るい室内で凹凸面側から目視で観察し、蛍光灯の映り込みの有無を、目視にて次の基準で3段階に評価した。
【0080】
1:映り込みが観察されない
2:映り込みが少し観察される
3:映り込みが明瞭に観察される
(5)防眩性能の評価2:白ちゃけの目視評価
防眩フィルムの裏面からの反射を防止するために、凹凸面が表面となるように黒色アクリル樹脂板に防眩フィルムを貼合し、蛍光灯のついた明るい室内で凹凸面側から目視で観察し、白ちゃけの程度を、目視にて次の基準で3段階に評価した。
【0081】
1:白ちゃけが観察されない
2:白ちゃけが少し観察される
3:白ちゃけが明瞭に観察される
結果を表2に示す。なお、表2中、たとえば実施例1の透過鮮明度の内訳は次のとおりである。
【0082】
透過鮮明度
0.125mm光学くし: 48.3%
0.5mm光学くし : 73.1%
1.0mm光学くし : 80.1%
0.5mm光学くし : 80.5%
合計 282.0%
【0083】
【表2】
【0084】
表1に示す結果から、本発明の製造方法によって作製された金型は、表面凹凸形状の傾斜角度が適切に制御されて形成されていることが分かった。また、表2に示す結果から、本発明の製造方法から得られる防眩フィルムは優れた防眩性能を示した。本発明の好ましい要件を全て満たす防眩フィルムAは、十分な防眩性能と白ちゃけの防止が達成されていた。また、透過鮮明度も高いため画像表示装置に配置した際にもギラツキが発生しない。一方、比a/Rが本発明の好ましい要件を満たさない防眩フィルムBは白ちゃけの防止と高い透過鮮明度を示したが、わずかに映り込みが発生していた。これは上述したように比a/Rが本発明の要件を満たさないために、金型Bおよびそれより得られる防眩フィルムBに平坦面が多く存在したためである。
【0085】
得られた金型Aおよび金型BにクロムめっきもしくはDLC膜を施すことによって、硬度と耐摩耗性を付与することが出来る。このような保護膜が形成された金型は耐久性が工場し、連続して使用しても凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりすることがない。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 金型用基材、2 表面、3 銅めっきまたはニッケルめっき、4 表面、5 微細凹凸、6 金型用基材の表面と平行な方向、7 金型用基材の表面と垂直な方向、8 切削工具、9 加工テーブル、10 Z軸駆動部、11 微小往復移動用駆動機構部、12a,12b 工具移動軌跡、13 支持機構、14 モータ、15 Y軸駆動部、17 微細凹部最深部、18 微細凹部が形成された面、19 保護膜、20 第1の表面凹凸形状、21 第2の表面凹凸形状。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すめっき工程と、
該めっき工程によって銅めっきまたはニッケルめっきが施された表面を切削加工および/または研磨加工することによって表面粗さが0.1μm以下の鏡面とする鏡面加工工程と、
鏡面加工された面に複数の微細凹部を切削加工によって形成する微細凹部形成工程と、
微細凹部が形成された面に保護膜を形成する保護膜形成工程とを含む、表面に微細な凹凸形状を有する防眩フィルムの微細凹凸表面を透明支持体上に形成するための金型の製造方法であって、
上記微細凹部形成工程における複数の微細凹部の切削加工が、金型用基材の表面と平行な方向に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材の表面と垂直な方向に微小往復移動する切削工具によって行われ、切削される微細凹部間の平均最隣接距離をa(μm)とし、切削深さをd(μm)とした時に以下の条件を満たすことを特徴とする、金型の製造方法。
【数1】
【数2】
【請求項2】
上記微細凹部形成工程における上記切削工具の金型用基材の表面と垂直な方向への微小往復移動が圧電素子により行われる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部は球面の一部で形成されており、球面の半径をR(μm)とした時に以下の条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【数3】
【数4】
【請求項4】
上記保護膜形成工程が複数の微細凹部が形成された面にクロムめっきを施す工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
上記保護膜形成工程が複数の微細凹部が形成された面に炭素を主成分とする保護膜を蒸着によって形成する工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
上記微細凹部形成工程の後に、表面に形成された微細凹凸形状をエッチング処理によって調整するエッチング工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造された金型を用い、該金型の凹凸面を透明樹脂フィルムに転写し、次いで凹凸面が転写された透明樹脂フィルムを金型から剥がすことを特徴とする防眩フィルムの製造方法。
【請求項1】
金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すめっき工程と、
該めっき工程によって銅めっきまたはニッケルめっきが施された表面を切削加工および/または研磨加工することによって表面粗さが0.1μm以下の鏡面とする鏡面加工工程と、
鏡面加工された面に複数の微細凹部を切削加工によって形成する微細凹部形成工程と、
微細凹部が形成された面に保護膜を形成する保護膜形成工程とを含む、表面に微細な凹凸形状を有する防眩フィルムの微細凹凸表面を透明支持体上に形成するための金型の製造方法であって、
上記微細凹部形成工程における複数の微細凹部の切削加工が、金型用基材の表面と平行な方向に相対的に直線移動し、かつ直線移動と同時に金型用基材の表面と垂直な方向に微小往復移動する切削工具によって行われ、切削される微細凹部間の平均最隣接距離をa(μm)とし、切削深さをd(μm)とした時に以下の条件を満たすことを特徴とする、金型の製造方法。
【数1】
【数2】
【請求項2】
上記微細凹部形成工程における上記切削工具の金型用基材の表面と垂直な方向への微小往復移動が圧電素子により行われる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記微細凹部形成工程において形成される複数の微細凹部は球面の一部で形成されており、球面の半径をR(μm)とした時に以下の条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【数3】
【数4】
【請求項4】
上記保護膜形成工程が複数の微細凹部が形成された面にクロムめっきを施す工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
上記保護膜形成工程が複数の微細凹部が形成された面に炭素を主成分とする保護膜を蒸着によって形成する工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
上記微細凹部形成工程の後に、表面に形成された微細凹凸形状をエッチング処理によって調整するエッチング工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造された金型を用い、該金型の凹凸面を透明樹脂フィルムに転写し、次いで凹凸面が転写された透明樹脂フィルムを金型から剥がすことを特徴とする防眩フィルムの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−51285(P2011−51285A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203865(P2009−203865)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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