説明

防風雪シート

【課題】風速を減速させるための防風シート、雪の吹き込み量を減少させるための防雪シート等に好適なシートであって、かつ再帰反射性能を有し、夜間でも防風雪柵を発見しやすく安全な防風雪シートを提供する。
【解決手段】繊維群Aと、繊維群Bとが格子状に配されてなり、該繊維群Aと該繊維群Bにより囲繞されるメッシュ状空隙の、該繊維群Aの配列方向及び該繊維群Bの配列方向の幅がそれぞれ2〜15cmである織編構造物からなるシートであって、該織編構造物にガラスビーズを含有する樹脂が付着しており、該ガラスビーズの含有量が該樹脂100重量部に対して30〜100重量部であり、該ガラスビーズの粒径が30〜120μmである防風雪シートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風速を減速させるための防風シート、雪の吹き込み量を減少させるための防雪シート等に好適なシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、北海道や東北地方を始めとする吹雪発生地域では、道路脇に防風雪柵を設置し、道路上への積雪や視程障害を避けることが行われて来た。この防風雪柵は、一定間隔で設置された支柱間にパネルをはめ込む構造となっている。このような防風雪柵は、防風雪の効果はあるものの、視界を確保しづらいことや、景観上の問題から、降雪期間以外はパネルが取り外される場合が多い。しかしながら、毎年降雪期間の前後にパネルの設置および撤去の作業を行わねばならず、その作業負担の軽減が求められていた。その解決策のひとつとして、従来使用されていたパネルの代わりに、メッシュ状のシートを用いることで、パネルの設置および撤去を不要とし、視界を確保しながら、防風雪効果を得る方法が提案されている。例えば、特許文献1には、メッシュ布帛に樹脂加工を施したメッシュシートが開示されており、このようなメッシュ状のシートを用いた場合は、シートの向こう側が見通せ、視界が良好なために、降雪期間以外でも、そのまま設置しておくことが可能で撤去作業の必要がない。しかしながら、このようなシートを降雪期間に用いた場合、そのメッシュ部分に雪が詰まり、視界が確保できなくなって、メッシュシートを利用した利点が発揮できないばかりか、詰まった雪の重みでシートが破損することがあった。これらの問題に対して、特許文献2では、メッシュ状のシートを構成する繊維群中にニクロム線および/または糸状発熱体を配し、その発熱作用により融雪を行うとき、所望のシートが得られることを究明し、上記問題を解決している。しかし、これらのメッシュ状のシートを道路脇に防風雪柵として用いた場合、その特徴である視界の良好性から夜間においては防風雪柵自体が見えにくく、車の運転者から発見されにくいといった問題が残されている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−170244号公報
【特許文献2】特開2001−140224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は上記従来技術の有する問題点を解決し、風速を減速させるための防風シート、雪の吹き込み量を減少させるための防雪シート等に好適なシートであって、かつ再帰反射性能を有し、夜間でも防風雪柵を発見しやすく安全な防風雪シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、次に構成のシートしたとき、上記課題を達成することができることがわかった。
【0006】
かくして、本発明によれば、繊維群Aと、繊維群Bとが格子状に配されてなり、該繊維群Aと該繊維群Bにより囲繞されるメッシュ状空隙の、該繊維群Aの配列方向及び該繊維群Bの配列方向の幅がそれぞれ2〜15cmである織編構造物からなるシートであって、該織編構造物にガラスビーズを含有する樹脂が付着しており、該ガラスビーズの含有量が該樹脂100重量部に対して30〜100重量部であり、該ガラスビーズの粒径が30〜120μmであることを特徴とする防風雪シートが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、夜間でも車などのライトを再帰反射し、運転者が道路脇に設置した防風雪柵を発見しやすく、安全な走行を促すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の防風雪シートは、繊維群Aと繊維群Bとが格子状に配されてなり、該繊維群Aと該繊維群Bにより囲繞されるメッシュ状空隙が形成された織編構造物からなる。該メッシュ状空隙の、繊維群Aの配列方向及び繊維群Bの配列方向の幅はそれぞれ2〜15cmであることが必要である。この幅が2cmより小さい場合は、風や雪の通過量が低くなり過ぎる上、シートが重くなり、施行面積が限定されるばかりでなく、透明感も損なわれ、設置された場合の視界が悪くなる。一方、幅が15cmを超える場合は、風の流速を減少させることが困難になる。上記の幅は、用途や所望の流量に応じ、2〜15cmの範囲で繊維群Aの配列方向及び繊維群Bの配列方向それぞれ任意に設定しても構わない。
【0009】
上記繊維群Aにおいては、隣り合う繊維同志が0.5mm以上の間隔で配置されており、スリット状空隙が形成されていることが好ましい。該スリット状空隙は、通常の風速(10m/秒以下)下では適度の風速減速効果を呈し、且つシートを通過した流体(例えば風など)が乱流となるのを防止する働きをする。一方、強風(20m/秒以上)下では、風を極力逃がして、シートの取り付け部等に過大な張力がかかり、破損が起こるのを防止する。また、シートの透明感も向上させることができる。隣り合う繊維どうしの間隔、すなわち、スリット状空隙の幅は、用途や所望の流量に応じて適宜設定すれば良いが、あまり大きくなり過ぎると、その効果が充分に発現しないので、高々5mm程度に止めることが好ましい。上記繊維群Aを構成する繊維の種類や繊度には特に制限はなく、合成繊維、半合成繊維、再生繊維或いは天然繊維のフィラメント糸、紡績糸等が任意に採用できるが、強度や耐光性の点からポリエステルマルチフィラメント糸、中でも、下撚を施した複数のポリエステルマルチフィラメント糸を引き揃えた後上撚を施した、いわゆる撚糸コード状のポリエステルマルチフィラメント糸であることが好ましい。
【0010】
また、上記繊維群Bは、繊維群Aと同様、隣り合う繊維どうしが0.5mm以上の間隔で配置されて、スリット状空隙が形成されていても良く、隣り合う繊維どうしが上記繊維群Aよりも密に配置されて、繊維群が一体化されていても良い。上記繊維群Bを構成する繊維の種類や繊度には特に制限はなく、繊維群Aと同様合成繊維、半合成繊維、再生繊維或いは天然繊維のフィラメント糸、紡績糸等が任意に採用できるが、糸が密に配置されていてかたくなり易いので、ポリエステルマルチフィラメント糸の無撚糸であることが好ましい。
【0011】
上記繊維群A及びBの幅は、所望の流量や強度に応じて適宜設定すれば良いが、メッシュ状空隙部の幅と同じく、2〜15cmであることが好ましい。この幅が2cm未満の場合、強力が弱くなるか、または耐久性が悪くなる場合がある。一方、この幅が15cmを超える場合は、流動体の通過量が減少し、乱流が起き易くなるため、透明感が低下し、設置した場合の視界が悪くなる。
【0012】
本発明においては、上記織編構造物にガラスビーズを含有する樹脂が付着しており、該ガラスビーズの含有量が該樹脂100重量部に対して30〜100重量部であり、該ガラスビーズの粒径が30〜120μmであることが肝要である。これにより、優れた再帰反射性能をシートに付与することができる。
【0013】
ここで再帰反射とは、反射物に照射された光が反射物にあたり、照射された方向に反射する現象を指す。シートが十分な再帰反射性能を発揮するためには、該シートの5°と50°のゲイン値の差が、0.1〜5.0であることが好ましく、0.5〜3.0であることがより好ましい。上記ゲインの差が、0.1未満では再帰反射として肉眼で確認できない場合があり、5.0を越えるとゲイン差が大きすぎて、光源より少しずれただけで反射光を確認できなくなる場合がある。本発明は、前記構成のシートとすることにより、かかるゲイン値の差を達成できることを見出したものである。
【0014】
ガラスビーズの含有量は、樹脂100重量部に対して30〜100重量部、好ましくは50〜80重量部とする必要がある。ガラスビーズの含有量が30重量部未満であると樹脂内部に埋もれてしまうガラスビーズが多くなり、再帰反射性能が十分発揮できない場合がある。逆にガラスビーズの含有量が100重量部より多い場合は、樹脂がガラスビーズを保持しきれず、シートからガラスビーズが脱落してしまう可能性がある。
【0015】
上記ガラスビーズの粒径としては、30〜120μm、好ましくは50〜100μmのものを用いる。ガラスビーズの粒径が30μm未満であると上記含有量では、樹脂内部に埋もれてしまうガラスビーズが多くなり、再帰反射性能が十分発揮できない場合がある。逆にガラスビーズの粒系が120μmより大きいと樹脂の屈曲性が損なわれ、クラックなどの外観品位に問題が発生する可能性がある。
【0016】
ガラスビーズを保持しこれを織編構造物に付着させる樹脂には、耐光性や磨耗性などを向上させる効果もある。該樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン或いはポリエステル等が例示されるが、耐候性、コストの面からポリ塩化ビニルが好ましい。
【0017】
樹脂の付着量は100〜300g/mであることが好ましく、150〜250g/mであることがより好ましい。樹脂の付着量が100g/m未満であるとガラスビーズを十分シートに保持できなくなるばかりか、防風雪ネットの耐候性が悪くなる可能性がある。、逆に、樹脂の付着量が300g/mより大きいとなるとシート重量が大きくなり、かつ繊維間に存在する空隙を減少させてしまう。また、樹脂に埋もれてしまうガラスビーズの割合が多くなり、再帰反射性能が低下する傾向にある。
【0018】
本発明においては、シートの全空隙率は、20〜80%であることが好ましく、40〜70%であることが更に好ましい。該空隙率が20%未満の場合、シート自体が重くなり、例えば防風シートとして使用した場合、風をはらんで取り付け部位に過大な張力がかかることがある。一方、該空隙率が80%を超える場合は、風速を制御することが困難になることがある。すなわち、防風シートとして使用する場合、風速20m/秒における風速減速率を30〜70%の範囲に制御することが好ましいが、空隙率が80%を超える場合、空気の透過量が多すぎて、上記の風速減速率の範囲に制御することが困難になる。
【0019】
また、上記シートの、繊維群Aの配列方向及び繊維群Bの配列方向の強力はそれぞれ100kg/10cm〜1000kg/10cmであることが好ましい。該強力が100kg/10cm未満の場合は、シートが破断し易くなり、耐久性が悪くなる場合がある。一方、該強力が1000kg/10cmを超える場合は、シートが重く且つ硬くなり、作業性が低下する場合がある。
【0020】
本発明のシートは、公知の方法により前述した構成を有するメッシュ状空隙が形成された織編を成形し、これにガラスビーズを含有させた樹脂を塗布することに製造することができる。この際、樹脂を塗布する方法は、ディッピングであってもコーティングでも良いが、非常に空隙が多いシートであるため、繊維側面にも均等に樹脂を塗布できるディッピングの方が好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、実施例中のシートの物性は下記の方法により測定した。
【0022】
(1)全空隙率
10Wの蛍光灯を内蔵したライトボックスのステージガラス上にシートを置き、その透過光写真を撮影する。尚、撮影、焼き付けに際しては、シートの1繰り返し単位が等倍率で印画紙上に再現される様に、撮影倍率と焼きつけ倍率を調節した。上記の写真においては、メッシュ状空隙及びスリット状空隙を主とする空隙部は、白く明るい領域として再現されているので、1繰り返し単位内にある全空隙の面積の総和(これをS1とする)、及び1繰り返し単位の占める面積(これをS0とする)を求め、下記式により全空隙率を算出した。なお、測定は1種のシートについて5回実施し、その平均値を全空隙率の値とした。また、繊維群Aを構成する繊維の見かけ直径及びスリット状空隙の幅も上記の写真から測定した。
全空隙率(%)=S1/S0×100
【0023】
(2)視界良否
シートの透明感上記方法により敷設された防風シートの視界良否を官能評価した。
【0024】
(3)ゲイン値の差
暗室の壁に上記シートを貼り、壁より2mの位置からプロジェクター(日本アビオニクス製 MP−700)の白画面を照射し、シート表面の輝度を輝度計(コニカミノルタ製 LS−100)にて測定した。得られた輝度を下記式に代入してゲイン値に換算した。なお、ゲイン値を測定する位置はプロジェクターの位置を0°とし、右に5°ずれた位置と50°ずれた位置で行い、5°と50°のゲイン値の差を求めた。
ゲイン値=輝度/照度×3.14
【0025】
(4)ガラスビーズの平均粒径
乾固した粒子を日立製作所製透過型電子顕微鏡S−3500Nで写真撮影し、任意の100点について選び出し、球相当径を求め、平均粒子径とした。
【0026】
[実施例1〜3、比較例1、2]
経緯挿入ラッセル編機(9G)を使用し、筬L3に、経挿入糸(繊維群A)である、高強力のポリエステルマルチフィラメント糸(帝人ファイバー製、BHT1000−192)を4本引き揃えた糸条に40t/mの撚りを掛けた糸条、9本/inの密度となるように12in、12outで供給し、筬L1、L2には、絡み糸である高強力のポリエステルマルチフィラメント糸(帝人ファイバー製、BHT50−24)をL1が10/01、L2が01/10の組織となるように、2バーで12in、12outで供給し、さらに、緯挿入糸(繊維群B)として、高強力のポリエステルマルチフィラメント糸(帝人ファイバー製、BHT1000−192)を6本引き揃えた糸条に40t/mの撚りを掛けた糸条を供給して5本/inの密度で6in、6outで編成し、メッシュ状空隙を有する編物を得た。繊維群Aの、幅は30mm、スリット状空隙の幅は3.8mmであり、繊維群Bの、幅は30mm、スリット状空隙の幅は1.6mmであった。また、編物のメッシュ状空隙の幅は、A繊維群の配列方向が30mm、B繊維群の配列方向が31mmであった。
【0027】
引き続き、ガラスビーズ(ユニチカ製 UB−02M(平均粒径32μm)、UB−24M(平均粒径54μm)、UB−47M(平均粒径84μm)、SPM−25(平均粒径25μm)、UB−79L(平均粒径132μm))を、それぞれ水分散ポリ塩化ビニル樹脂(日信化学製 ビニブラン680S)を50重量%分散させた水に、樹脂100重量部に対してガラスビーズが80重量%となるよう添加し、これをディップ加工により上記編物に付着含浸させ、シートを得た。樹脂の付着量は170g/mとした。
【0028】
[実施例4〜6、比較例3、4]
経緯挿入ラッセル編機(24G)を使用し、筬L3に、経挿入糸(繊維群A)である高強力のポリエステルマルチフィラメント糸(帝人ファイバー製、BHT1000−192)を、00/11の組織、24本/inの密度となるように32in、38outで供給し、筬L1、L2には、絡み糸である高強力のポリエステルマルチフィラメント糸(帝人ファイバー製、BHT50−24)をL1が10/01、L2が01/10の組織となるように、2バーで32in、38outで供給し、さらに、緯挿入糸(繊維群B)として、高強力のポリエステルマルチフィラメント糸(帝人ファイバー製、BHT1000−192)を4本引き揃えた糸条に40t/mの撚りを掛けた糸条を供給して6.75本/inの密度で9in、9outで編成し、メッシュ状空隙を有する編物を得た。繊維群Aの、幅は34mm、スリット状空隙の幅は3.0mmであり、繊維群Bの、幅は30mm、スリット状空隙の幅は0.5mmであった。また、編物のメッシュ状空隙の幅は、A繊維群の配列方向が36mm、B繊維群の配列方向が40mmであった。
【0029】
引き続き、ガラスビーズ(ユニチカ製 UB−47M(平均粒径84μm))を、水分散ポリ塩化ビニル樹脂(日信化学製 ビニブラン680S)を50重量%分散させた水に、樹脂100重量部に対してガラスビーズが表1の添加量(重量%)となるよう添加し、これをディップ加工により上記編物に付着含浸させ、シートを得た。樹脂の付着量は170g/mとした。
【0030】
[比較例5]
実施例1と同様のメッシュ状空隙を有する編物を用い、ガラスビーズを添加せず50重量%の水分散ポリ塩化ビニル樹脂(日信化学製 ビニブラン680S)のみをディップ加工により付着含浸させ、シートを得た。樹脂の付着量は170g/mとした。
【0031】
[比較例6]
ポリエステル基材に塩化ビニル樹脂をコーティングしたテント布(帝人ファイバー製 ニューパスティ)を比較用のシートとして用いた。
【0032】
上記実施例及び比較例で得られたシートの、空隙率、視界良否、5°と50°におけるゲイン値との差、及び、外観品位を黙示的に判断した結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のシートは、風速を減速させるための防風シートや雪の吹き込み量を減少させるための防雪シート等に好適に用いることができる。特に道路脇に設置する防風雪柵として用いる場合では、夜間、車の運転手に防風雪柵の存在を気づかせ、安全な走行を促すことが可能となるため、産業的利用価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維群Aと、繊維群Bとが格子状に配されてなり、該繊維群Aと該繊維群Bにより囲繞されるメッシュ状空隙の、該繊維群Aの配列方向及び該繊維群Bの配列方向の幅がそれぞれ2〜15cmである織編構造物からなるシートであって、該織編構造物にガラスビーズを含有する樹脂が付着しており、該ガラスビーズの含有量が該樹脂100重量部に対して30〜100重量部であり、該ガラスビーズの粒径が30〜120μmであることを特徴とする防風雪シート。
【請求項2】
樹脂の付着量が、100〜300g/mである請求項1に記載の防風雪シート。
【請求項3】
防風雪シートの、5°と50°のゲイン値の差が0.1〜5.0である請求項1または2に記載の防風雪シート。

【公開番号】特開2009−108445(P2009−108445A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283124(P2007−283124)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】