説明

防食ライニング材、防食ライニング工法、管路更生工法

【課題】既設のコンクリート構造物の壁面に、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施すこと。
【解決手段】表面1aに熱可塑性樹脂シート1dが接着され裏面1bに裏込め材に対して定着するための定着材1fが固定された鋼板1cから成る防食ライニング材1A、1B、1Cを、裏面1bがコンクリート構造物Cの壁面Wを向くように当該壁面Wから所定間隔をおいてアンカーボルト6等によって複数連続的に固定設置する。そして、設置した防食ライニング材1A、1B、1Cとコンクリート構造物Cの壁面Wとの間に裏込め材を注入充填して養生硬化させ、防食ライニング材1A、1B、1Cをコンクリート構造物Cと一体化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のコンクリート構造物の腐食を防止する防食ライニング材と、当該防食ライニング材を用いて行う防食ライニング工法および管路更生工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設のコンクリート構造物の腐食を防止するために、当該コンクリート構造物の壁面に防食ライニングを施すことが従来から行われている。例えば下記の特許文献1では、下水処理槽の内壁のようなコンクリート構造物の壁面に、熱可塑性硬質合成樹脂製のパネル支持フレームをコンクリート釘により固定し、パネル支持フレームに同素材のライニングパネルを溶接して、ライニングパネルにより壁面を被覆している。そして、ライニングパネルを支保材(抑止パネル)により壁面側に抑止した状態で、ライニングパネルと壁面との間にセメントミルク等の裏込め材を、ライニングパネルの裏面に突設された埋設固定片を埋め込むように注入充填して養生硬化させている。さらにその後、ライニングパネル同士の隙間に同素材の樹脂材を溶融固化させて、当該隙間を充填している。
【0003】
また、既設のコンクリート管の管路を更生するために、当該コンクリート管の内周面にライニングを施すことが従来から行われている。例えば下記の特許文献2では、地中に埋設された下水管等のコンクリート管の内部で、複数のブロック体をボルトとナットにより組み立てて、円筒状の新たな管路を構築している。ブロック体は、新たな管路の内周面となる円弧状の内面板と、内面板の裏面(コンクリート管の内周面側の側面)の周縁部に立設された外周板と、外周板間に格子状に設けられた補強リブおよび凸板とが合成樹脂によって一体形成されている。外周板と補強リブには、長ボルトを貫通させる貫通孔が形成され、該長ボルトと凸板には、補強材としての鉄筋が束線や接着剤によって複数本取り付けられている。複数のブロック体により新たな管路を構築すると、当該管路内に三角形の支保材を設置して管路の円筒形状を保持し、この保持状態でブロック体の外周板に設けられた注入孔からブロック体とコンクリート管の内周面との間に裏込め材を注入充填して養生硬化させている。なお、このようなブロック体を用いた工法では、下記の特許文献3に記載されているように、ブロック体同士を強固に接着させるため、ブロック体の両端面に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂吸着材を接着させることがある。
【0004】
上記に対して、コンクリート構造物の新設時から、当該コンクリート構造物の壁面に防食ライニングを施すことが従来から行われている。例えば下記の特許文献4では、片面の周縁部に枠壁が設けられかつ該枠壁内に多数のアンカー突起が設けられた合成樹脂製のライニングパネルを、複数並べてボルトとナットにより枠壁のところで接合して内型枠を形成している。そして、この内型枠と内型枠のアンカー突起側に設けられた外型枠とを支保材で支持固定した状態で、内型枠と外型枠との間にコンクリートを打設し、コンクリート硬化後にライニングパネル同士の接合部分を樹脂で溶接して、下水処理槽のようなコンクリート構造物を建設している。
【0005】
また、例えば下記の特許文献5では、片面の周縁部に断面L字状の形鋼が溶接されかつこれら形鋼の内側に多数のスタッドが溶接されたステンレス製のライニング板を、複数並べてボルトとナットにより形鋼のところで接合して型枠を形成している。そして、この型枠にスタッドと形鋼とを埋め込むようにコンクリートを打設して、放射性廃液貯蔵槽のようなコンクリート構造物を建設している。さらに、コンクリートの硬化後またはコンクリートの打設前には、ライニング板同士の接合部分を溶接している。なお、このようなステンレス製のライニング板で壁面を覆われたコンクリート構造物は、所定年数経過後、下記の特許文献6に記載されているように、ライニング板よりも塩素系物質に対する耐蝕性に優れたステンレス製のライニングパネルを、ライニング板の表面に順次溶接していくことにより、補修されることがある。
【0006】
一方、缶容器等に用いられるシート状の鋼板や、配水管等に用いられる鋼管や、プラント等に用いられる炭素鋼のような鋼材には、例えば下記の特許文献7〜9に記載されているように、腐食を防止するために表面に合成樹脂が接着されたものが従来からある。
【0007】
【特許文献1】特開平11−200658号公報
【特許文献2】特開2003−286742号公報
【特許文献3】特開2001−262984号公報
【特許文献4】特開平5−272150号公報
【特許文献5】特開2002−350590号公報
【特許文献6】特開2004−154838号公報
【特許文献7】再表97/16310号公報
【特許文献8】特開2003−294174号公報
【特許文献9】特開平9−169080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
既設のコンクリート構造物の壁面に防食ライニングを施す場合、特許文献1、2に記載されているような従来の技術では、合成樹脂製のライニング材を用いているので、ライニング材自体の強度が弱く、ライニング材とコンクリート構造物の壁面との間に裏込め材を注入充填するときに、ライニング材が反壁面側に膨れる等の変形を生じ易い。また、特許文献2では、ライニング材に補強用の鉄筋を取り付けているが、合成樹脂と鉄という異種材同士を束線や接着剤によって接合しているので、裏込め材の注入圧力や発熱によって当該接合が外れて、鉄筋がライニング材の補強的機能を果たさなくなるおそれがある。そこで、裏込め材を注入充填するときのライニング材の変形を防止するため、特許文献1、2および4に記載されているように、支保材によってライニング材の姿勢を保持することが一般的に行われているが、施工場所での支保材の組み立てや設置の作業には、非常に手間と時間がかかる。なお、特許文献5、6に記載されているようなステンレス製のライニング材は、ライニング材自体の強度は高いが、下水管等の内周面に設置すると、下水に含まれる塩素系物質によってステンレスの表面に形成されている不動態皮膜が破壊されて、腐食を生じるおそれがある。また、特許文献7〜9に記載されているような表面に合成樹脂を接着された鋼材が、既設のコンクリート構造物の壁面に防食ライニングを施すために用いられたことは従来ない。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するものであって、その課題とするところは、既設のコンクリート構造物の壁面に、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、既設のコンクリート構造物の壁面から所定間隔をおいて配置されて、当該コンクリート構造物の腐食を防止する防食ライニング材であって、前記コンクリート構造物の反壁面側の側面である表面に、熱可塑性樹脂シートが接着され、前記コンクリート構造物の壁面側の側面である裏面に、前記コンクリート構造物の壁面との間に充填される裏込め材に対して定着するための定着材が固定された鋼板から構成されている。
【0011】
上記のような防食ライニング材によると、鋼板から構成されているので、強度が高く、防食ライニング材を既設のコンクリート構造物の壁面から所定間隔をおいて配置した後、防食ライニング材と前記壁面との間に裏込め材を注入充填するときに、防食ライニング材の変形が生じ難くなり、従来のように支保材を設置する必要がなくなる。また、鋼板の裏面に定着材が固定されているので、防食ライニング材と前記壁面との間に注入充填した裏込め材が硬化すると、防食ライニング材が裏込め材に定着し、既設のコンクリート構造物と確実に一体化した状態になる。さらに、鋼板の表面に熱可塑性樹脂シートが接着されているので、耐食性が高く、表面に塩素系物質等が付着しても腐食を生じなくなる。これらの結果、既設のコンクリート構造物の壁面に、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施すことが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る防食ライニング材では、定着材は、鋼材から成り、鋼板の裏面と平行でかつ鋼板の一端部から他端部にかけて固定されている。このようにすると、定着材と鋼板とが両方とも鋼製なので、定着材を鋼板の裏面に溶接により強固に固定して、裏込め材の注入圧力や発熱によって外れないようにすることができる。また、定着材によって鋼板を補強して撓み等の変形を防止し、防食ライニング材の強度を一層高めることができる。
【0013】
また、本発明に係る防食ライニング材では、裏面と既設のコンクリート構造物の壁面との間に所定間隔を確保可能な高さを有し、かつ前記コンクリート構造物の壁面に固定するためのアンカーボルトを挿通させる挿通孔が形成された脚部を設けている。このようにすると、脚部を既設のコンクリート構造物の壁面に接地させて、当該壁面と裏面との間に所定間隔を確保した上で、アンカーボルトを挿通孔へ通して前記壁面に打ち込んで、防食ライニング材を前記壁面に容易に固定することができる。このため、特許文献1のパネル支持フレームのような他の部材を既設のコンクリート構造物の壁面と防食ライニング材との間に介在させる必要がなくなり、コストを低く抑えることが可能となる。
【0014】
さらに、本発明に係る防食ライニング材では、裏面周縁部にフランジ部を立設し、フランジ部に締結部材を貫通させる貫通孔と、締結部材をフランジ部に固定するための固定器具を挿入する開口部とを設けている。このようにすると、複数の防食ライニング材のフランジ部同士を接触させることで、複数の防食ライニング材を容易に連接させて位置決めすることができる。また、複数の防食ライニング材を連接させて、各フランジ部の貫通孔に締結部材を貫通させた後、各フランジ部の開口部から固定器具を挿入して、貫通させた締結部材をフランジ部に固定し、ライニング材同士を締結することができる。このため、締結部材として、特許文献1の長ボルトのような特殊な部材を用いる必要はなく、呼び長さが一般的なボルトとナットまたはリベット等の汎用的な部材を用いることができ、また固定器具としても、ランナ、レンチ、またはリベッタ等の汎用的な器具を用いることができ、コストを低く抑えることが可能となる。
【0015】
また、本発明は、既設のコンクリート構造物の腐食を防止する防食ライニング工法であって、表面に熱可塑性樹脂シートが接着され裏面に裏込め材に対して定着するための定着材が固定された鋼板から成る防食ライニング材を、裏面が前記コンクリート構造物の壁面を向くように当該壁面から所定間隔をおいて設置し、防食ライニング材と前記コンクリート構造物との間に裏込め材を注入充填して、防食ライニング材を前記コンクリート構造物と一体化させる。
【0016】
上記のようにすると、防食ライニング材が鋼板から構成されているので、強度が高く、防食ライニング材を既設のコンクリート構造物の壁面から所定間隔をおいて配置した後、防食ライニング材と前記壁面との間に裏込め材を注入充填するときに、防食ライニング材の変形が生じ難くなり、従来のように支保材を設置する必要がなくなる。また、鋼板の裏面に定着材が固定されているので、注入充填した裏込め材が硬化すると、防食ライニング材が裏込め材に定着し、既設のコンクリート構造物と確実に一体化した状態になる。さらに、鋼板の表面に熱可塑性樹脂シートが接着されているので、耐食性が高く、表面に塩素系物質等が付着しても腐食を生じなくなる。これらの結果、既設のコンクリート構造物の壁面に、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施すことが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る防食ライニング工法では、防食ライニング材に設けられた脚部を既設のコンクリート構造物の壁面に接地させて、防食ライニング材の裏面と前記コンクリート構造物の壁面との間に所定間隔を確保し、アンカーボルトを脚部に形成された挿通孔へ通して前記壁面に打ち込むことにより、防食ライニング材を前記壁面に固定する。このようにすると、特許文献1のパネル支持フレームのような他の部材を既設のコンクリート構造物の壁面と防食ライニング材の裏面との間に介在させなくても、防食ライニング材の脚部によって前記壁面と前記裏面との間に所定間隔を確保した上で、アンカーボルトのみによって防食ライニング材を前記壁面に容易に固定することができ、コストを低く抑えることが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る防食ライニング工法では、防食ライニング材を既設のコンクリート構造物の壁面に連続的に複数設置し、隣接する防食ライニング材同士を熱可塑性樹脂により接着した後、防食ライニング材と前記コンクリート構造物との間に裏込め材を注入充填する。このようにすると、複数の防食ライニング材間が熱可塑性樹脂によって埋められて隙間のない状態となり、裏込め材が当該間を通って表面側に漏出するのを防止することができ、複数の防食ライニング材の連続性、および既設のコンクリート構造物との一体性を高めることが可能となる。
【0019】
さらに、本発明に係る防食ライニング工法では、複数の防食ライニング材を、それぞれの裏面周縁部に立設されたフランジ部を接触させて締結部材により締結して、既設のコンクリート構造物の壁面に連続的に設置する。このようにすると、複数の防食ライニング材を順次連接させて締結し、既設のコンクリート構造物の壁面へ容易かつ確実に連続設置することが可能となる。
【0020】
また、本発明は、既設のコンクリート管の内周面をライニングして当該管路を更生する管路更生工法であって、表面に熱可塑性樹脂シートが接着され裏面に裏込め材に対して定着するための定着材が固定された鋼板から構成され、組み立てることにより環状体となる防食ライニング材を、前記コンクリート管内で裏面が前記コンクリート管の内周面を向くように前記コンクリート管の周方向および軸方向へ連続的に組み立てて新たな管路を構築し、防食ライニング材と前記コンクリート管との間に裏込め材を注入充填して、防食ライニング材を前記コンクリート管と一体化させる。
【0021】
上記のようにすると、防食ライニング材が鋼板から構成され、組み立てることによって環状体となる所謂セグメント状の部材であるので、強度が高く、複数の防食ライニング材を既設のコンクリート管内で連続的に組み立てて新たな管路を構築した後は、各防食ライニング材を既設のコンクリート管の内周面に固定しなくても、新たな管路の形状が維持される。また、組み立てた防食ライニング材と既設のコンクリート管との間に裏込め材を注入充填するときに、各防食ライニング材の変形が生じ難くなり、従来のように支保材を設置する必要がなくなる。また、鋼板の裏面に定着材が固定されているので、注入充填した裏込め材が硬化すると、各防食ライニング材が裏込め材に定着し、既設のコンクリート管と確実に一体化した状態になる。さらに、鋼板の表面に熱可塑性樹脂シートが接着されているので、耐食性が高く、表面に塩素系物質等が付着しても腐食を生じなくなる。これらの結果、既設のコンクリート管の内周面に、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施して、管路を更生することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、防食ライニング材の強度、耐食性、および裏込め材との定着性が高いので、従来のような支保材が不要となり、既設のコンクリート構造物の壁面に、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1〜図5は、本発明の第1実施形態に係る防食ライニング材を示す図である。本第1実施形態の防食ライニング材には、図1に示すAタイプ(以下、ライニング材1Aという。)と、図2に示すBタイプ(以下、ライニング材1Bという。)と、図3に示すCタイプ(以下、ライニング材1Cという。)とがある。各図において、(a)はライニング材1A〜1Cの裏面を示す図、(b)はライニング材1A〜1Cを(a)の右方から見た断面図、(c)はライニング材1A〜1Cを(a)の下方から見た側面図、(d)はライニング材1A〜1Cを(a)の下方から見た断面図、(e)はライニング材1A〜1Cの表面を示す図である。なお、各図において同一機能を有する部分には、便宜上同一符号を付している。また、各図において(c)では、反対側にある各部の図示を便宜上省略している。
【0024】
ライニング材1Aとライニング材1Bとは外形寸法が同一であり、ライニング材1A、1Bの短手方向の寸法とライニング材1Cの長手方向の寸法とは同一である。各ライニング材1A〜1Cは、表面1aに接着性ポリマーシート1eを介して熱可塑性樹脂シート1dが接着され、裏面1bに後述する裏込め材に対して定着するための定着材1fが固定された平坦な鋼板1cから構成されている。この層構造の詳細は、図4に示すとおりである。接着性ポリマーシート1eの厚みは例えば1mm未満であり、材料としては例えば接着性ポリオレフィン等を用いる。熱可塑性樹脂シート1dの厚みは例えば2〜3mm程度であり、材料としては例えばポリエチレンやポリプロピレン等を用いる。鋼板1cの厚みは例えば1〜3mm程度であり、材料としては例えば鉄やステンレス等を用いる。
【0025】
定着材1fは、異形鉄筋線材を格子状に配筋してその交点をスポット溶接等により固定した溶接金網から構成され、図1〜図3に示すように鋼板1cの裏面1bに、鋼板1cと平行でかつ鋼板1cの対向する一端部から他端部にかけてスポット溶接またはアーク溶接等により固定されている。各異形鉄筋線材の線径は例えば6mm程度である。鋼板1cは、このような定着材1fによって撓む等変形しないように補強されている。図1〜図3の定着材1fは、鋼板1cの裏面1bの対向する一方の末端から他方の末端まで届かない長さになっているが、これに代えて、一方の末端と他方の末端の少なくとも一方へ届く長さを有する定着材を用いてもよい。つまり、定着材を設ける鋼板1cの一端部または他端部の端部とは、末端と末端近傍を含む概念である。
【0026】
図1および図2に示すライニング材1A、1Bの裏面1bには、4つの脚部1gが設けられている。この脚部1gは、後述するように既設のコンクリート構造物の壁面に接地して、当該壁面と鋼板1cの裏面1bとの間に所定間隔を確保可能な高さに形成されている。また、脚部1gには、後述するアンカーボルトを挿通させる挿通孔1hが表面1a側から裏面1b側へと貫通するように形成されている。2本の脚部1gの近傍には、裏込め材を注入する注入孔1jと、エアを抜くためのエア抜き孔1kとが、表面1a側から裏面1b側へと貫通するように1つずつ形成されている。
【0027】
また、ライニング材1A、1Bの裏面1bの周縁部には、フランジ部1m、1nが裏面1bから垂直に突出するように曲げ加工により立設されている。各ライニング材1A、1Bの短手方向と平行な両方の短いフランジ部(以下、短フランジ部という。)1mには、同一ピッチでかつ同一位置に貫通孔1pがそれぞれ複数設けられている。そのうち注入孔1j側にある短フランジ部1mの内面には、ナット3が該ナット3のネジ穴を貫通孔1pと連通させた状態で溶接により複数固定されている。ライニング材1A、1Bの長手方向と平行な両方の長いフランジ部(以下、長フランジ部という。)1nには、エア抜き孔1k側の同一位置に矩形状に切り欠いた開口部1rがそれぞれ設けられている。注入孔1j側にある長フランジ部1nには、貫通孔1pがライニング材1Aとライニング材1Bとで長手方向に半ピッチずらしてそれぞれ複数設けられている。エア抜き孔1k側にある長フランジ部1nには、注入孔1j側にある長フランジ部1nの貫通孔1pと同一ピッチでかつ同一位置にU形状に切り欠いた開口部1qが設けられ、注入孔1j側にある長フランジ部1nの貫通孔1pと半ピッチずれた位置に貫通孔1pが設けられている。また、エア抜き孔1k側にある長フランジ部1nの内面には、ボルト2が貫通孔1pを貫通した状態で溶接により複数固定されている。
【0028】
上記のライニング材1A、1Bは、例えば図5に示すようにボルト2とナット3により連続的に締結される。詳しくは、同一または異なる2枚のライニング材1A、1Bのうち、一方のライニング材1A、1Bのナット3が固定された短フランジ部1mと、他方のライニング材1A、1Bのナット3が固定されていない短フランジ部1mとを、両方の短フランジ部1mに設けられた貫通孔1pが連通するように接触させる。そして、ナット3が固定されていない短フランジ部1mの開口部1rから、先端にボルト2を装着したアングルナットランナ4を挿入して、当該アングルナットランナ4によりボルト2を両方のフランジ部1mの貫通孔1pに貫通させてナット3に螺合することで、2枚のライニング材1A、1Bの短フランジ部1m同士は締結される。図5では、ライニング材1Aとライニング材1Aまたはライニング材1Bとライニング材1Bというように、同一のライニング材1A、1Bの短フランジ部1m同士を締結しているが、異なるライニング材1A、1B同士の短フランジ部1m同士を締結することもできる。
【0029】
また、異なる2枚のライニング材1A、1Bのうち、一方のライニング部材1A、1Bのボルト2が固定された長フランジ部1nと、他方のライニング部材1A、1Bのボルト2が固定されていない長フランジ部1nとを、ボルト2が後者の長フランジ部1nに設けられた貫通孔1pを貫通するように接触させる。そして、貫通したボルト2の底面と対向する位置にある他方のライニング部材1A、1Bの開口部1qから、先端にナット3を装着したラチェットレンチ5を挿入して、当該ラチェットレンチ5によりナット3をボルト2に螺合することで、2枚の異なるライニング材1A、1Bの長フランジ部1n同士は締結される。図5では、ライニング材1Bのボルト2が固定された長フランジ部1nと、ライニング部材1Aのボルト2が固定されていない長フランジ部1nとを締結しているが、ライニング材1Aのボルト2が固定された長フランジ部1nと、ライニング部材1Bのボルト2が固定されていない長フランジ部1nとを締結することもできる。
【0030】
図3に示すライニング材1Cの裏面1bの周縁部には、フランジ部1u、1vが裏面から斜め外側へ突出するように曲げ加工により設けられている。このライニング材1Cは、上述したライニング材1A、1Bを後述するように垂直に配置したときに、それらのコーナ部に配置されて、ライニング材1A、1Bと樹脂溶接または樹脂融着により接着される。樹脂溶接は、例えばプラスチック押出溶接機等を用いて行い、樹脂融着は、例えば熱風溶接機等を用いて行う。また、溶接材としては、ライニング材1A、1B、1Cの表面1aの熱可塑性樹脂シート1dと同様に、例えばポリエチレンやポリプロピレン等を用いる。
【0031】
図6A〜図6Cは、上述したライニング材1A、1B、1Cを用いて行う防食ライニング工法を説明するための図である。各図において、Cは下水処理槽等のような既設のコンクリート構造物、Wはコンクリート構造物Cの壁面、Kはコンクリート構造物Cによって区切られた空間である。
【0032】
図6Aにおいて、例えばライニング材1Aの裏面1bを既設のコンクリート構造物Cの鉛直な壁面Wに向けて近づけて行き、当該ライニング材1Aの脚部1gを壁面Wに接地させる。これにより、壁面Wとライニング材1Aの裏面1bとの間に所定間隔は確保されるので、当該状態で、図6A(a)に示すように雄型のアンカーボルト6を脚部1gに形成された挿通孔1hへ通して壁面Wに打ち込んで、ライニング材1Aを壁面Wに固定する。次に、例えば別のライニング材1Aの脚部1gを鉛直な壁面Wに接地させ、かつ当該ライニング材1Aの短フランジ部1mを先に固定したライニング材1Aの短フランジ部1mに前述したように接触させる。そして、当該状態で、図6A(b)に示すように、別のライニング材1Aと先のライニング材1Aの短フランジ部1m同士を前述したように締結し、続けて、アンカーボルト6を脚部1gの挿通孔1hへ通して壁面Wに打ち込んで、別のライニング材1Aを壁面Wに固定する。これにより、2枚のライニング材1Aが既設のコンクリート構造物Cの壁面Wに連続的に設置された状態となる。
【0033】
また、コンクリート構造物Cの水平な壁面Wにも、例えば別のライニング材1Aを、図6A(c)に示すように鉛直な壁面Wに先に固定したライニング材1Aから所定距離離して接地させて、アンカーボルト6により固定設置する。そして、垂直に設置したライニング材1A同士のコーナ部に、図6B(d)に示すようにライニング材1Cを配置して、両ライニング材1Aの隙間を塞ぎ、図6Cに示すようにライニング材1Cのフランジ部1uをライニング材1Aの表面1aに樹脂溶接Yにより接着する。先に平行に設置した隣接するライニング材1A同士も、同様の熱可塑性樹脂を用いた樹脂溶接Yにより接着する。空間K側に出ているアンカーボルト6の頭部には、熱可塑性樹脂製の保護キャップ7を被せて、当該保護キャップ7をライニング材1Aの表面1aに樹脂融着Zにより接着する。
【0034】
この後、コンクリート構造物Cの壁面Wの、各図の紙面に対して垂直な方向に、ライニング材1Aに隣接させてライニング材1Bを、ライニング材1Bに隣接させてライニング材1Aを、これらライニング材1A、1Bのコーナ部にライニング材1Cをというように、上記と同様に締結および固定を行ってライニング材1A、1B、1Cを次々と連続的に設置して行く。また、各図の紙面に対して平行な方向にも、ライニング材1A、1B、1Cを次々と連続的に設置するようにしてもよい。そして、隣接する同一または異なるライニング材1A、1B、1C同士を樹脂溶接Yにより接着し、保護キャップ7をライニング材1A、1Bに樹脂融着Zにより接着する。なお、ライニング材1A、1B、1C同士の接着は、樹脂溶接に代えて樹脂融着でもよいし、ライニング材1A、1Bへの保護キャップ7の接着は、樹脂融着に代えて樹脂溶接でもよい。
【0035】
そして、コンクリート構造物Cの壁面Wの全施工範囲に渡ってライニング材1A〜1Cを設置し終えると、図6B(e)に示すように、セメントミルク等の硬化性を有する裏込め材を供給する裏込め材供給装置(図示省略)に一端が接続されたホース9の他端を、ライニング材1A、1Bに設けられた注入孔1j(図1、図2)に接続する。このとき、ホース9は、いずれかのライニング材1A、1Bの注入孔1jに1本だけ接続するようにしてもよいし、複数のライニング材1A、1Bの注入孔1jに複数本をそれぞれ接続するようにしてもよい。また、ライニング材1A〜1Cと壁面Wとの間に形成された領域Xの閉じていない箇所(他のライニング材1A〜1Cと隣接していないライニング材1A〜1Cのフランジ部1m、1n、1v(図3)と壁面Wとの間や、ホース9が接続されていない注入孔1jおよびエア抜き孔1k(図1、図2)等)をウエスやスポンジやゴム等から成るシール部材8によって塞いで、当該領域Xを閉空間状態にする。
【0036】
次いで、ライニング材1A〜1Cと壁面Wとの間の閉領域Xにホース9を介して裏込め材を所定圧力で注入して行く。このとき、ライニング材1A、1Bのエア抜き孔1kを適宜開いて、閉領域X内にあるエアやガスを残存しないように抜いて行く。そして、図6B(f)に斜線で示すように裏込め材を閉領域X内に充填すると、裏込め材の注入を停止して、ホース9を注入孔1jから外し、注入孔1jを塞いで、裏込め材を養生硬化させる。しばらくした後、閉領域X内の裏込め材が硬化すると、ライニング材1A、1B、1Cが既設のコンクリート構造物Cと一体化した状態となり、既設のコンクリート構造物Cの壁面Wへの防食ライニングが完了する。
【0037】
上述した第1実施形態によると、ライニング材1A〜1Cが鋼板1cから構成されているので、強度が高く、ライニング材1A〜1Cを既設のコンクリート構造物Cの壁面Wから所定間隔をおいて配置した後、当該ライニング材1A〜1Cと壁面Wとの間に裏込め材を注入充填するときに、ライニング材1A〜1Cが撓む等のように変形を生じ難くなり、従来のように支保材を設置する必要がなくなる。また、鋼板1cの裏面1bに定着材1fが固定されているので、注入充填した裏込め材が硬化すると、ライニング材1A〜1Cが裏込め材に定着し、既設のコンクリート構造物Cと確実に一体化した状態になる。さらに、鋼板1cの表面1aに熱可塑性樹脂シート1dが接着されているので、耐食性が高く、表面1aに塩素系物質等が付着しても腐食を生じなくなる。これらの結果、既設のコンクリート構造物Cの壁面Wに、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施すことが可能となる。
【0038】
また、定着材1fが鋼板1cと同様に鋼製なので、定着材1fを鋼板1cの裏面1bに溶接により強固に固定して、裏込め材の圧力や発熱によって外れないようにすることができる。また、定着材1fが鋼板1cと平行でかつ鋼板1cの一端部から他端部にかけて複数本格子状に固定されているので、定着材1fによって鋼板1cを補強して撓み等の変形を防止し、ライニング材1A〜1Bの強度を一層高めることができる。
【0039】
また、ライニング材1A、1Bに脚部1gと挿通孔1hとを設けているので、脚部1gをコンクリート構造物Cの壁面Wに接地させて、当該壁面Wと裏面1bとの間に所定間隔を確保した上で、アンカーボルト6を挿通孔1hへ通して壁面Wに打ち込んで、ライニング材1A、1Bを壁面Wに容易に固定することができる。このため、特許文献1のパネル支持フレームのような他の部材を既設のコンクリート構造物Cの壁面Wとライニング材1A、1Bとの間に介在させる必要がなくなり、コストを低く抑えることが可能となる。
【0040】
また、ライニング材1A、1Bの裏面1bの周縁部にフランジ部1m、1nを立設しているので、フランジ部1m、1n同士を接触させることで、複数のライニング材1A、1Bを容易に連接させて位置決めすることができる。また、ライニング材1Cの裏面1bの周縁部にフランジ部1u、1vを設けているので、ライニング材1Cをライニング材1A、1Bの表面1aに容易に連接させて接着することができる。また、ライニング材1A、1Bのフランジ部1m、1nに貫通孔1pと開口部1q、1rを設けているので、複数のライニング材1A、1Bを連接させて、各フランジ部1m、1nの貫通孔1pにボルト2を貫通させることができる。また、当該連接状態で各フランジ部1nの開口部1q、1rからアングルナットランナ4またはラチェットレンチ5を挿入して、貫通孔1pに貫通させたボルト2とナット3を螺合して各フランジ部1m、1nに固定し、複数のライニング材1A、1B同士を締結することができる。よって、複数のライニング材1A〜1Cを順次連接させて締結し、既設のコンクリート構造物Cの壁面Wへ容易かつ確実に連続設置することが可能となる。また、ライニング材1A、1B同士を締結する締結部材として、特許文献1の長ボルトのような特殊な部材を用いる必要はなく、呼び長さが一般的なボルト2とナット3等の汎用的な部材を用いることができ、締結部材を固定する固定器具としても、アングルナットランナ4またはラチェットレンチ5等の汎用的な器具を用いることができ、コストを低く抑えることが可能となる。
【0041】
また、鋼板1cを曲げ加工してフランジ部1m、1nを立設したことで、熱可塑性樹脂シート1dが鋼板1cの表面1aからフランジ部1m、1nの外面にかけて連続的に接着された状態になっているので、ライニング材1A、1B同士の各フランジ部1m、1nを締結したときに、各ライニング材1A、1Bの鋼板1cの端部が各ライニング材1A、1Bの熱可塑性樹脂シート1dの端部を挟み込んで、当該熱可塑性樹脂シート1dが端部から剥がれるのを防止することができる。
【0042】
さらに、既設のコンクリート構造物Cの壁面Wに設置した隣接する複数のライニング材1A、1Bを熱可塑性樹脂により接着した後に、当該ライニング材1A、1Bとコンクリート構造物Cとの間に裏込め材を注入充填するので、複数のライニング材1A、1B間が熱可塑性樹脂によって埋められて隙間のない状態となる。このため、裏込め材が当該間を通って表面1a側に漏出するのを防止することができ、複数のライニング材1A、1Bの連続性、およびコンクリート構造物Cとの一体性を高めることが可能となる。
【0043】
図7は、本発明の第2実施形態に係る防食ライニング材を示す図である。本第2実施形態の防食ライニング材は、前述のライニング材1A〜1Cとは異なるDタイプのライニング材(以下、ライニング材1Dという。)である。図において、(a)はライニング材1Dの裏面を示す図、(b)はライニング材1Dを(a)の右方から見た側面図、(c)はライニング材1Dを(a)の下方から見た側面図、(d)はライニング材1Dの表面を示す図である。なお、図中、前述の図1〜図3に示した部分と同一機能を有する部分には、便宜上同一符号を付している。
【0044】
ライニング材1Dは、前述のライニング材1A、1Bと外形寸法が同一であり、ライニング材1A、1Bと同様に、表面1aに接着性ポリマーシート1eを介して熱可塑性樹脂シート1dが接着され、裏面1bに定着材1fが固定された平坦な鋼板1cから構成されている(層構造は、図4参照)。また、ライニング材1Dの裏面1bには、脚部1gと挿通孔1hとが4つずつ設けられ、注入孔1jとエア抜き孔1kとが1つずつ設けられている。ライニング材1A、1Bとの相違点としては、ライニング材1Dの裏面1bの周縁部に貫通孔や開口部が形成されたフランジ部が設けられていないことである。
【0045】
図8は、上述したライニング材1Dと前述のライニング材1Cとを用いて行う防食ライニング工法を説明するための図である。図8(a)に示すように、複数のライニング材1Dを、それぞれの脚部1gを既設のコンクリート構造物Cの鉛直な壁面Wに接地させ、アンカーボルト6により壁面Wに固定設置する。その際、ライニング材1D同士を連接させるときは、先に固定設置したライニング材1Dの近傍で別のライニング材1Dの脚部1gを壁面Wに接地させ、かつ当該ライニング材1Dの側面を先のライニング材1Dの側面に接触させて、アンカーボルト6により別のライニング材1Dを壁面Wに固定設置する。また、水平な壁面Wにライニング材1Dを固定設置するときは、鉛直な壁面Wに先に固定設置したライニング材1Dから所定距離離れた位置で別のライニング材1Dを水平な壁面Wに設置させて、アンカーボルト6により別のライニング材1Dを当該壁面Wに固定設置する。
【0046】
次いで、垂直に設置したライニング材1D同士のコーナ部に、図8(b)に示すようにライニング材1Cを配置して、ライニング材1Cをライニング材1Dの表面1aに樹脂溶接Yにより接着する。また、平行に設置した隣接するライニング材1D同士も樹脂溶接Yにより接着し、保護キャップ7をアンカーボルト6の頭部に被せてライニング材1Dの表面1aに樹脂融着Zにより接着する。そして、コンクリート構造物Cの壁面Wの全施工範囲に渡ってライニング材1C、1Dを設置し終えると、ホース9をライニング材1Dの注入孔1j(図7)に接続し、ライニング材1C、1Dと壁面Wとの間に形成された領域Xの閉じていない箇所をシール部材8で塞いで、当該領域Xを閉空間状態にする。この後、閉領域Xに裏込め材を注入しつつ、ライニング材1Dのエア抜き孔1k(図7)から閉領域X内にあるエアやガスを残存しないように抜いて行く。そして、図8(c)に斜線で示すように裏込め材を閉領域X内に充填すると、裏込め材の注入を停止して、裏込め材を養生硬化させる。しばらくした後、閉領域X内の裏込め材が硬化すると、ライニング材1C、1Dが既設のコンクリート構造物Cと一体化した状態となり、既設のコンクリート構造物Cの壁面Wへの防食ライニングが完了する。
【0047】
上述した第2実施形態によると、ライニング材1C、1Dを、表面1aに熱可塑性樹脂シート1dが接着され裏面1bに定着材1fが固定された鋼板1cから構成しているので、強度、耐食性、および裏込め材との定着性が高く、従来のような支保材が不要となり、既設のコンクリート構造物Cの壁面Wに、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施すことが可能となる。また、壁面Wに直接設置するライニング材1Dが1種類で、ライニング材1D同士を連接させる際に前述の第1実施形態のように向きに注意してライニング材1D同士を締結する必要がないので、コストの削減と作業性の向上を図ることが可能となる。
【0048】
図9〜図11は本発明の第3実施形態に係る防食ライニング材を示す図である。本第3実施形態の防食ライニング材には、図9に示すEタイプ(以下、ライニング材1Eという。)と、図10に示すFタイプ(以下、ライニング材1Fという。)とがある。各図において、(a)はライニング材1E、1Fの裏面を示す図、(b)はライニング材1E、1Fを(a)の右方から見た断面図、(c)はライニング材1E、1Fを(a)の下方から見た側面図、(d)はライニング材1E、1Fを(a)の下方から見た断面図、(e)はライニング材1E、1Fの表面を示す図である。なお、各図において(c)では、反対側にある各部の図示を便宜上省略している。
【0049】
ライニング材1Eとライニング材1Fとは外形寸法が同一であり、それぞれ後述するように組み立てることによって環状体となる所謂セグメント状の部材である。各ライニング材1E、1Fは、表面1a’に接着性ポリマーシート1e’を介して熱可塑性樹脂シート1d’が接着され、裏面1b’に裏込め材に対して定着するための定着材1f’が固定された円弧状に湾曲した鋼板1c’から構成されている(層構造は、図4参照)。接着性ポリマーシート1e’、熱可塑性樹脂シート1d’、 鋼板1c’、および定着材1f’の材料は、前述の第1実施形態のものと同様である。定着材1f’を構成する溶接金網は、鋼板1c’の曲率に合わせて湾曲させられて、鋼板1c’に溶接により固定されている。
【0050】
また、各ライニング材1E、1Fの裏面1b’の周縁部には、別の鋼板から成るフランジ部1m’、1n’が裏面1b’から鋼板1c’の径方向へ突出するようにアーク溶接等により固定立設されている。各ライニング材1E、1Fの短手方向と平行な両方の短フランジ部1m’には、同一ピッチでかつ同一位置に貫通孔1p’がそれぞれ複数設けられている。ライニング材1E、1Fの長手方向と平行な一方((a)において上側)の長フランジ部1n’には、貫通孔1p’がライニング材1Eとライニング材1Fとで長手方向に所定ピッチずらしてそれぞれ複数設けられている。ライニング材1E、1Fの長手方向と平行な他方の長フランジ部1n’には、両端部に矩形状に切り欠いた開口部1r’がそれぞれ設けられていて、中央部に一方の長フランジ部1n’の貫通孔1p’と同一ピッチでかつ同一位置にU形状に切り欠いた開口部1q’が設けられ、一方の長フランジ部1n’の貫通孔1p’と所定ピッチずれた位置に貫通孔1p’が設けられている。また、他方の長フランジ部1n’の内面には、ボルト2が貫通孔1p’を貫通した状態で溶接により複数固定されている。
【0051】
上記のライニング材1E、1Fは、例えば図11Aおよぶ図11Bに示すようにボルト2とナット3により連続的に締結される。詳しくは、図11A(b)、(c)に示すように、各ライニング材1E、1Fの一方の短フランジ部1m’の各貫通孔1p’に内側からボルト2を貫通させて、当該ボルト2の頭部に回り止め10を係合して、当該ボルト2の回転を規制する。そして、同一または異なる2枚のライニング材1E、1Fのうち、一方のライニング材1E、1Fのボルト2を取り付けた短フランジ部1m’と、他方のライニング材1E、1Fのボルト2を取り付けていない短フランジ部1m’とを、ボルト2が後者の短フランジ部1m’の貫通孔1p’を貫通するように接触させる。そして、図11A(a)、(b)に示すように、ボルト2を取り付けていない短フランジ部1m’の開口部1r’から、先端にナット3を装着したアングルナットランナ4を挿入して、当該アングルナットランナ4によりナット3をボルト2に螺合することで、2枚のライニング材1E、1Fの短フランジ部1m’同士は締結される。
【0052】
また、異なる2枚のライニング材1E、1Fのうち、一方のライニング部材1E、1Fのボルト2が固定された長フランジ部1n’と、他方のライニング部材1E、1Fのボルト2が固定されていない長フランジ部1n’とを、ボルト2が後者の長フランジ部1n’に設けられた貫通孔1p’を貫通するように接触させる。そして、図11Bに示すように、貫通したボルト2の底面と対向する位置にある他方のライニング部材1E、1Fの開口部1q’から、先端にナット3を装着したラチェットレンチ5を挿入して、当該ラチェットレンチ5によりナット3をボルト2に螺合することで、2枚の異なるライニング材1E、1Fの長フランジ部1n’同士は締結される。
【0053】
図12A〜図12Cは、上述したライニング材1E、1Fを用いて行う管路更生工法を説明するための図である。各図において、C’は地盤中に埋設された下水管等のような既設の円筒状のコンクリート管、W’はコンクリート管C’の内周面である。
【0054】
既設のコンクリート管C’の内部で、まず、例えば複数のライニング材1Eを、前述したように短フランジ部1m’同士を締結し、かつ裏面1b’をコンクリート管C’の内周面W’へ向けてコンクリート管C’の周方向へ連続的に組み立てて行く。すると、図12Aに示すようにコンクリート管C’の内部に複数のライニング材1Eから構成される環状体が形成される。この環状体の径は、コンクリート管C’の径よりも小さいので、ライニング材1Eと内周面W’との間に複数のスペーサ11を介在させて、環状体を全周に渡って内周面W’から均等に所定間隔だけ離れるように設置する。なお、スペーサ11を介在させずに、例えば内周面W’の下部に環状体を接地させるというように偏らせて設置してもよい。
【0055】
次いで、先に組み立てたライニング材1Eとは異なるタイプの複数のライニング材1Fを、前述したように短フランジ部1m’同士を締結し、かつ裏面1b’を内周面W’へ向けてコンクリート管C’の周方向へ連続的に組み立てて、コンクリート管C’の内部に複数のライニング材1Fから構成される環状体を形成する。続けて、各ライニング材1Fの長フランジ部1n’と先に組み立てた各ライニング材1Eの長フランジ部1n’とを前述したように締結して、複数のライニング材1Eから構成される環状体と複数のライニング材1Fから構成される環状体とをコンクリート管C’の軸方向(紙面に対して垂直な方向)へ連続的に組み立てる。なお、ライニング材1Eとライニング材1Fとを交互に短フランジ部1m’同士を締結して組み立てることにより、ライニング材1E、1Fから構成される環状体を形成するようにしてもよい。この場合は、一方の環状体のライニング材1Eの長フランジ部1n’と、他方の環状体のライニング材1Fの長フランジ部1n’とを締結することにより、複数の環状体をコンクリート管C’の軸方向へ連続的に組み立てる。
【0056】
上記のような手順で、複数のライニング材1E、1Fをコンクリート管C’の周方向および軸方向へ連続的に組み立てて、コンクリート管C’の全施工範囲に渡って設置すると、コンクリート管C’の内部に複数のライニング材1E、1Fから構成される新たな円筒状の管路が構築される。隣接する同一または異なるライニング材1E、1F同士は、樹脂溶接または樹脂融着により接着する。新たな管路が構築されると、図12Bに示すように、裏込め材を供給するためのホース9をライニング材1E、1Fとコンクリート管C’の内周面W’との間に挿入する。また、各ライニング材1E、1Fと内周面W’との間に形成された領域X’の閉じていない箇所(他のライニング材1E、1Fと隣接していないライニング材1E、1Fのフランジ部1n’と内周面W’との間や、開口部1q’、1r’等)を図示しないシール部材によって塞いで、当該領域X’を閉空間状態にする。
【0057】
そして、各ライニング材1E、1Fと内周面W’との間の閉領域X’にホース9を介して裏込め材を所定圧力で注入して行きつつ、開口部1q’、1r’等を適宜開いて、閉領域X’内にあるエアやガスを残存しないように抜いて行く。そして、図12Cに斜線で示すように裏込め材を閉領域X’内に充填すると、裏込め材の注入を停止して、裏込め材を養生硬化させる。しばらくした後、閉領域X’内の裏込め材が硬化すると、ライニング材1E、1Fが既設の円形状のコンクリート管C’と一体化した状態となり、当該コンクリート管C’の内周面W’への防食ライニングおよび管路更生が完了する。
【0058】
上述した第3実施形態によると、ライニング材1E、1Fが鋼板1c’から構成され、組み立てることによって環状体となる所謂セグメント状の部材であるので、強度が高く、複数のライニング材1E、1Fを既設のコンクリート管C’内で連続的に組み立てて新たな管路を構築した後は、各ライニング材1E、1Fをコンクリート管C’の内周面W’にアンカーボルト等によって固定しなくても、新たな管路の形状が維持される。また、組み立てたライニング材1E、1Fとコンクリート管C’との間に裏込め材を注入充填するときに、各ライニング材1E、1Fの変形が生じ難くなり、従来のように支保材を設置する必要がなくなる。また、鋼板1c’の裏面1b’に定着材1f’が固定されているので、注入充填した裏込め材が硬化すると、各ライニング材1E、1Fが裏込め材に定着し、既設のコンクリート管C’と確実に一体化した状態になる。さらに、鋼板1c’の表面1a’に熱可塑性樹脂シート1dが接着されているので、耐食性が高く、表面1a’に塩素系物質等が付着しても腐食を生じなくなる。これらの結果、既設の円形状のコンクリート管C’の内周面W’に、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施して、管路を更生することが可能となる。
【0059】
図13〜図16は本発明の第4実施形態に係る防食ライニング材を示す図である。本第4実施形態の防食ライニング材には、図13に示すGタイプ(以下、ライニング材1Gという。)と、図14に示すHタイプ(以下、ライニング材1Hという。)と、図15に示すJタイプ(以下、ライニング材1Jという。)と、図16示すKタイプ(以下、ライニング材1Kという。)とがある。各図において、(a)はライニング材1G〜1Kの裏面を示す図、(b)はライニング材1G〜1Kを(a)の右方から見た断面図、(c)はライニング材1G〜1Kを(a)の下方から見た側面図、(d)はライニング材1G〜1Kを(a)の下方から見た断面図、(e)はライニング材1G〜1Kの表面を示す図である。なお、各図において(c)では、反対側にある各部の図示を便宜上省略している。
【0060】
ライニング材1Gとライニング材1Hとは外形寸法が同一であり、ライニング材1Jとライニング材1Kとは外形寸法が同一であり、ライニング材1G、1Hの短手方向の寸法とライニング材1J、1Kの長手方向の寸法とは同一である。各ライニング材1G〜1Kは、それぞれ後述するように組み立てることによって環状体となる所謂セグメント状の部材である。また、各ライニング材1G〜1Kは、表面1a”に接着性ポリマーシート1e”を介して熱可塑性樹脂シート1d”が接着され、裏面1b”に裏込め材に対して定着するための定着材1f”が固定された平坦なまたは曲げ加工が施された鋼板1c”から構成されている(層構造は、図4参照)。接着性ポリマーシート1e”、熱可塑性樹脂シート1d”、 鋼板1c”、および定着材1f”の材料は、前述の第1実施形態のものと同様である。ライニング材1J、1Kの定着材1f”を構成する溶接金網は、鋼板1c”の曲げ加工形状に合わせて曲げられて、鋼板1c”に溶接により固定されている。
【0061】
ライニング材1G、1Hの裏面1b”の周縁部には、別の鋼板から成るフランジ部1m”、1n”が裏面1b”から突出するようにアーク溶接等により固定立設されている。ライニング材1G、1Hの短手方向と平行な両方の短フランジ部1m”には、同一ピッチでかつ同一位置に貫通孔1p”がそれぞれ複数設けられている。そのうち一方の短フランジ部1m”の内面には、ボルト2が貫通孔1p”を貫通した状態で溶接により複数固定されている。ライニング材1G、1Hの長手方向と平行な両方の長フランジ部1n”には、両端部に矩形状に切り欠いた開口部1r”がそれぞれ設けられている。ライニング材1G、1Hの(a)において上側にある一方の長フランジ部1n”には、貫通孔1p”がライニング材1Gとライニング材1Hとで長手方向に所定ピッチずらしてそれぞれ複数設けられている。ライニング材1G、1Hの他方の長フランジ部1n”には、一方の長フランジ部1n”の貫通孔1p”と同一ピッチでかつ同一位置にU形状に切り欠いた開口部1q”が設けられ、一方の長フランジ部1n”の貫通孔1p”と所定ピッチずれた位置に貫通孔1p”が設けられている。また、他方の長フランジ部1n”の内面には、ボルト2が貫通孔1p”を貫通した状態で溶接により複数固定されている。
【0062】
ライニング材1J、1Kの裏面1b”の周縁部には、別の鋼板から成るフランジ部1u”、1v”が裏面1b”から突出するようにアーク溶接等により固定立設されている。ライニング材1J、1Kの短手方向と平行な両方の長フランジ部1u”には、同一ピッチでかつ同一位置に貫通孔1p”がそれぞれ複数設けられている。そのうち一方の長フランジ部1u”の内面には、ボルト2が貫通孔1p”を貫通した状態で溶接により複数固定されている。ライニング材1J、1Kの長手方向と平行な両方の短フランジ部1v”には、両端部に矩形状に切り欠いた開口部1r”がそれぞれ設けられている。ライニング材1J、1Kの(a)において上側にある一方の短フランジ部1v”には、貫通孔1p”がライニング材1Jとライニング材1Kとで長手方向に所定ピッチずらしてそれぞれ複数設けられている。ライニング材1J、1Kの他方の短フランジ部1v”には、両端部に矩形状に切り欠いた開口部1r”がそれぞれ設けられていて、中央部に一方の短フランジ部1v”の貫通孔1p”と同一ピッチでかつ同一位置にU形状に切り欠いた開口部1q”が設けられ、一方の短フランジ部1v”の貫通孔1p”と所定ピッチずれた位置に貫通孔1p”が設けられている。また、他方の短フランジ部1v”の内面には、ボルト2が貫通孔1p”を貫通した状態で溶接により複数固定されている。
【0063】
上記のライニング材1G〜1Kは、それぞれのフランジ部1m”、1n”、1u”、1v”を接触させて、前述の第1実施形態や第3実施形態で説明したようにアングルナットランナ4またはラチェットレンチ5で固定されたボルト2にナット3を螺合することにより、連続的に締結される。締結状態は、前述の図5、図13A、および図13Bと略同様なので、本実施形態では図示を省略する。
【0064】
図17A〜図17Cは、上述したライニング材1G〜1Kを用いて行う管路更生工法を説明するための図である。各図において、C”は地盤中に埋設された下水管等のような既設の矩形筒状のコンクリート管、W”はコンクリート管C”の内周面である。
【0065】
既設のコンクリート管C”の内部で、まず、例えば複数のライニング材1Gとライニング材1Jを、交互にフランジ部1m”、1u”同士を締結し、かつ裏面1b”をコンクリート管C”の内周面W”へ向けてコンクリート管C”の周方向へ連続的に組み立てて行き、図17Aに示すように複数のライニング材1G、1Jから構成される環状体を形成する。次いで、先に組み立てたライニング材1G、1Jとは異なるタイプの複数のライニング材1Hとライニング材1Kとを、フランジ部1m”、1u”同士を締結し、かつ裏面1b”を内周面W”へ向けてコンクリート管C”の周方向へ連続的に組み立て行き、複数のライニング材1H、1Kから構成される環状体を形成する。続けて、各ライニング材1Hの長フランジ部1n”と先に組み立てた各ライニング材1Gの長フランジ部1n”、および各ライニング材1Kの短フランジ部1v”と先に組み立てた各ライニング材1Jの短フランジ部1v”とをそれぞれ締結して、ライニング材1G、1Jから構成される環状体とライニング材1H、1Kから構成される環状体とをコンクリート管C”の軸方向(紙面に対して垂直な方向)へ連続的に組み立てる。組み立てたライニング材1G、1Hと内周面W”との間には、複数のスペーサ11を介在させて、環状体を全周に渡って内周面W”から均等に所定間隔だけ離れるように設置する。なお、ライニング材1G〜1Kを交互にフランジ部1m”、1u”同士を締結して組み立てることにより、ライニング材1G〜1Kから構成される環状体を形成するようにしてもよい。
【0066】
上記のような手順で、複数のライニング材1G〜1Kをコンクリート管C”の周方向および軸方向へ連続的に組み立てて、コンクリート管C”の全施工範囲に渡って設置すると、コンクリート管C”の内部に複数のライニング材1G〜1Kから構成される新たな矩形筒状の管路が構築される。隣接する同一または異なるライニング材1G〜1K同士は、樹脂溶接または樹脂融着により接着する。新たな管路が構築されると、図17Bに示すように、ホース9をライニング材1G、1Hとコンクリート管C”の内周面W”との間に挿入し、各ライニング材1G〜1Kと内周面W”との間に形成された領域X”の閉じていない箇所を図示しないシール部材によって塞いで、当該領域X”を閉空間状態にする。
【0067】
そして、各ライニング材1G〜1Kと内周面W”との間の閉領域X”にホース9を介して裏込め材を所定圧力で注入して行きつつ、開口部1q”、1r”等を適宜開いて、閉領域X”内にあるエアやガスを残存しないように抜いて行く。そして、図17Cに斜線で示すように裏込め材を閉領域X”内に充填すると、裏込め材の注入を停止して、裏込め材を養生硬化させる。しばらくした後、閉領域X”内の裏込め材が硬化すると、ライニング材1G〜1Kが既設の矩形状のコンクリート管C”と一体化した状態となり、当該コンクリート管C”の内周面W”への防食ライニングおよび管路更生が完了する。
【0068】
上述した第4実施形態によると、ライニング材1G〜1Kの強度、耐食性、および裏込め材との定着性が高く、従来のような支保材が不要となり、既設の矩形状のコンクリート管C”の内周面W”に、手間をかけず短期間で強度および耐食性の高い防食ライニングを施して、管路を更生することが可能となる。
【0069】
本発明は、以上述べた実施形態以外にも種々の形態を採用することができる。例えば、以上の実施形態では、ライニング材1A〜1Kを、表面1a、1a’、1a”に接着性ポリマーシート1e、1e’、1e”を介して熱可塑性樹脂シート1d、1d’、1d”が接着された鋼板1c、1c’、1c”で構成した例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、例えば、上記接着性ポリマーシート以外の接着剤を介して熱可塑性樹脂シートが片面に接着された鋼板や、熱可塑性樹脂シートの自己接着性を利用して当該シートが片面に直接熱圧接等により接着された鋼板等から防食ライニング材を構成するようにしてもよい。
【0070】
また、以上の実施形態では、定着材1f、1f’、1f”として溶接金網を用いた例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、例えば織り金網、エキスパンドメタル、またはワイヤーラス等を定着材として用いるようにしてもよい。また、例えば図18に示すような断面がZ形の部材1zや、図19に示すような断面がきのこ形の部材1yのような鋼材加工品を、鋼板1c、1c’、1c”の裏面1b、1b’、1b”の一端部から他端部へ到るようにリブ状に固定して定着材としてもよい。
【0071】
また、以上の実施形態では、ライニング材1A、1B、1E〜1K同士を締結する締結部材としてボルト2とナット3を用い、締結部材を固定する固定器具としてアングルナットランナ4とラチェットレンチ5を用いた例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、例えば締結部材としてリベットのような汎用部品を用い、固定器具としてリベッタのような汎用器具を用いるようにしてもよい。さらに、例えば締結部材としてボルトおよびナットと、リベット等とを混在使用するようにしてもよい。また他方で、アンカーボルト6によって壁面Wに固定するライニング材1A、1Bにおいては、ライニング材1A、1B同士を締結せずに、例えば、対向する2つのフランジ部1mの一方に外側へ突出するようにピンを固定する等して突起を設け、もう一方にその突起を挿通可能な大きさの貫通孔を設け、ライニング材1A、1Bの突起と貫通孔との嵌め合いにより、ライニング材1A、1B材同士を連結するだけでもよい。このようにすると、先に壁面Wに固定したライニング材1A、1Bに対してずれたり離れたりすることなく、別のライニング材1A、1Bをアンカーボルト6によって壁面Wに固定することができるとともに、ライニング材1A、1B同士を締結する手間が省けて、作業性の向上を図ることができる。
【0072】
また、第1、第2実施形態では、ライニング材1A、1B、1Dに4つの脚部1gを設けた例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではなく、3つ以下または5つ以上の脚部を設けるようにしてもよい。また、1つの脚部を、ライニング材の中心または端部に配置したり、複数の脚部を、ライニング材の対角線上に並べて配置したり、中心線上に並べて配置したり、一端部側に寄せて配置したり、均等に点在させて配置してもよい。
【0073】
また、第3、第4実施形態では、ライニング材1E〜1Kに注入孔やエア抜き孔を設けていない例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではなく、第1、第2実施形態のライニング材1A、1B、1Dのように、ライニング材1E、1Fの少なくとも一方や、ライニング材1G〜1Kの少なくとも一方に、表側1a’、1a’’から裏側1b’、1b’’へと貫通する注入孔やエア抜き孔を設けてもよい。このようにすると、ライニング材1E〜1Kの注入孔からライニング材1E〜1Kとコンクリート構造物C’、C’’との間の閉領域X’,X’’に裏込め材を注入しつつ、ライニング材1E〜1Kのエア抜き孔から閉領域X’,X’’内にあるエアやガスを残存しないように抜くことができる。
【0074】
また、以上の実施形態では、ライニング材1A、1B、1E〜1Kのフランジ部1n、1n’、1n”、1v”に切り欠きから成る開口部1q、1q’、1q”、1r、1r’、1r”を設けた例を挙げているが、本発明はこれのみに限定するものではない。これに代えて、例えば図20に示すような、貫通孔1p’’’の近傍だけ鋼板1c’’’の裏面1b’’’からの高さが高いフランジ部1n’’’を鋼板1c’’’の裏面1b’’’周縁部に立設し、当該フランジ部1n’’’の貫通孔1p’’’よりも高さが低い部分1q’’’を開口部としてもよい。このような開口部1q’’’からも、フランジ部1n’’’の内側にアングルナットランナ4等の固定器具を挿入することができる。
【0075】
さらに、以上の実施形態では、ライニング材1E〜1Kを用いて既設のコンクリート管の管路を更生した例を挙げているが、ライニング材1A〜1Dを用いても、既設のコンクリート管の内周面を周方向の全体に渡って当該ライニング材1A〜1Dで覆って防食ライニングを施し、管路を更生することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】第1実施形態に係る防腐ライニング材を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る防腐ライニング材を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る防腐ライニング材を示す図である。
【図4】防腐ライニング材の要部拡大図である。
【図5】第1実施形態に係る防腐ライニング材の締結状態を示す図である。
【図6A】第1実施形態に係る防腐ライニング工法を説明する図である。
【図6B】第1実施形態に係る防腐ライニング工法を説明する図である。
【図6C】第1実施形態に係る防腐ライニング工法を説明する図である。
【図7】第2実施形態に係る防腐ライニング材を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る防腐ライニング工法を説明する図である。
【図9】第3実施形態に係る防腐ライニング材を示す図である。
【図10】第3実施形態に係る防腐ライニング材を示す図である。
【図11A】第3実施形態に係る防腐ライニング材の締結状態を示す図である。
【図11B】第3実施形態に係る防腐ライニング材の締結状態を示す図である。
【図12A】第3実施形態に係る管路更生工法を説明する図である。
【図12B】第3実施形態に係る管路更生工法を説明する図である。
【図12C】第3実施形態に係る管路更生工法を説明する図である。
【図13】第4実施形態に係る防腐ライニング材を示す図である。
【図14】第4実施形態に係る防腐ライニング材を示す図である。
【図15】第4実施形態に係る防腐ライニング材の締結状態を示す図である。
【図16】第4実施形態に係る防腐ライニング材の締結状態を示す図である。
【図17A】第4実施形態に係る管路更生工法を説明する図である。
【図17B】第4実施形態に係る管路更生工法を説明する図である。
【図17C】第4実施形態に係る管路更生工法を説明する図である。
【図18】他の実施形態に係る定着材を示す図である。
【図19】他の実施形態に係る定着材を示す図である。
【図20】他の実施形態に係る防腐ライニング材のフランジ部を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1A ライニング材Aタイプ
1B ライニング材Bタイプ
1C ライニング材Cタイプ
1D ライニング材Dタイプ
1E ライニング材Eタイプ
1F ライニング材Fタイプ
1G ライニング材Gタイプ
1H ライニング材Hタイプ
1J ライニング材Jタイプ
1K ライニング材Kタイプ
1a、1a’、1a” 表面
1b、1b’、1b”、1b’’’ 裏面
1c、1c’、1c”、1c’’’ 鋼板
1d、1d’、1d” 熱可塑性樹脂シート
1f、1f’、1f” 定着材
1z、1y 定着材
1g、1g’、1g” 脚部
1h、1h’、1h” 挿通孔
1m、1m’、1m” 短フランジ部
1n、1n’、1n”、1n’’’ 長フランジ部
1u、1u” 長フランジ部
1v、1v” 短フランジ部
1p、1p’、1p”、1p’’’ 貫通孔
1q、1q’、1q”、1q’’’ 開口部
1r、1r’、1r” 開口部
2 ボルト
3 ナット
4 アングルナットランナ
5 ラチェットレンチ
6 アンカーボルト
C 既設のコンクリート構造物
C’、C” 既設のコンクリート管
W 壁面
W’、W” 内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のコンクリート構造物の壁面から所定間隔をおいて配置されて、当該コンクリート構造物の腐食を防止する防食ライニング材であって、
前記コンクリート構造物の反壁面側の側面である表面に、熱可塑性樹脂シートが接着され、前記コンクリート構造物の壁面側の側面である裏面に、前記コンクリート構造物の壁面との間に充填される裏込め材に対して定着するための定着材が固定された鋼板から構成されていることを特徴とする防食ライニング材。
【請求項2】
請求項1に記載の防食ライニング材において、
前記定着材は、鋼材から成り、前記鋼板と平行でかつ前記鋼板の一端部から他端部にかけて固定されていることを特徴とする防食ライニング材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の防食ライニング材において、
裏面と前記コンクリート構造物の壁面との間に所定間隔を確保可能な高さを有し、かつ前記コンクリート構造物の壁面に固定するためのアンカーボルトを挿通させる挿通孔が形成された脚部を設けたことを特徴とする防食ライニング材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の防食ライニング材において、
裏面周縁部にフランジ部を立設し、
前記フランジ部に締結部材を貫通させる貫通孔と、前記締結部材を前記フランジ部に固定するための固定器具を挿入する開口部とを設けたことを特徴とする防食ライニング材。
【請求項5】
既設のコンクリート構造物の腐食を防止する防食ライニング工法であって、
表面に熱可塑性樹脂シートが接着され裏面に裏込め材に対して定着するための定着材が固定された鋼板から成る防食ライニング材を、裏面が前記コンクリート構造物の壁面を向くように当該壁面から所定間隔をおいて設置し、
前記防食ライニング材と前記コンクリート構造物との間に裏込め材を注入充填して、前記防食ライニング材を前記コンクリート構造物と一体化させることを特徴とする防食ライニング工法。
【請求項6】
請求項5に記載の防食ライニング工法において、
前記防食ライニング材に設けられた脚部を前記コンクリート構造物の壁面に接地させて、前記防食ライニング材の裏面と前記コンクリート構造物の壁面との間に所定間隔を確保し、アンカーボルトを前記脚部に形成された挿通孔へ通して前記壁面に打ち込むことにより、前記防食ライニング材を前記壁面に固定することを特徴とする防食ライニング工法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の防食ライニング工法において、
前記防食ライニング材を前記コンクリート構造物の壁面に連続的に複数設置し、隣接する前記防食ライニング材同士を熱可塑性樹脂により接着した後、前記防食ライニング材と前記コンクリート構造物との間に裏込め材を注入充填することを特徴とする防食ライニング工法。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の防食ライニング工法において、
複数の前記防食ライニング材を、それぞれの裏面周縁部に立設されたフランジ部を接触させて締結部材により締結して、前記コンクリート構造物の壁面に連続的に設置することを特徴とする防食ライニング工法。
【請求項9】
既設のコンクリート管の内周面をライニングして当該管路を更生する管路更生工法であって、
表面に熱可塑性樹脂シートが接着され裏面に裏込め材に対して定着するための定着材が固定された鋼板から構成され、組み立てることにより環状体となる防食ライニング材を、前記コンクリート管内で裏面が前記コンクリート管の内周面を向くように前記コンクリート管の周方向および軸方向へ連続的に組み立てて新たな管路を構築し、
前記防食ライニング材と前記コンクリート管との間に裏込め材を注入充填して、前記防食ライニング材を前記コンクリート管と一体化させることを特徴とする管路更生工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−144242(P2006−144242A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331838(P2004−331838)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(596011792)大東工機株式会社 (10)
【出願人】(501468828)有限会社インテス (20)
【Fターム(参考)】