説明

防食塗料組成物、およびそれを用いて形成された防食塗膜を含む複層塗膜形成方法

【課題】被塗物および上塗塗膜との付着性に優れ、過酷な環境下でも長期間にわたって高い防食性能を発揮する防食塗膜を形成できる防食塗料組成物、およびこれを用いた防食塗膜を有する複合塗膜の形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の防食塗料組成物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と、脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)と、アミン系硬化剤(c)とを含むことを特徴とする。上記の脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)は、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)であることが好ましく、該ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)は、245/g以上280/g以下のエポキシ当量であり、その軟化点が54℃以上85℃以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食塗料組成物に関し、より詳しくは、被塗物および上塗り塗膜との付着性に優れ、優れた防食性を有するエポキシ樹脂を含有する防食塗料組成物に関する。また、本発明は、当該防食塗料組成物から形成される防食塗膜を含む複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、橋梁、タンク、プラント等の構造物は、臨海部、河口部、水中などに設置され、極めて厳しい腐食環境下に置かれる場合が多い。かかる腐食環境に耐えるために、これらの構造物の表面には、防食塗装を施すのが一般的である。防食塗料としては、従来種々の配合組成が提案されている(たとえば特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−211464号公報
【特許文献2】特開平10−259351号公報
【特許文献3】特開平08−92349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、防食塗料から形成された防食塗膜上には、被塗物またはその部位が置かれる環境に応じて、各種上塗り塗料を塗装して上塗り塗膜を形成する。このような複合塗膜が優れた防食性を発揮するために防食塗膜には、前記被塗物表面への下地付着性および上塗り塗膜との層間付着性に優れる必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、被塗物および上塗り塗膜との両方の付着性に優れ、過酷な環境下でも長期間にわたって高い防食性能を発揮する塗膜を形成することができる防食塗料組成物を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、当該防食塗料組成物から形成される防食塗膜および当該防食塗膜を有する複合塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の防食塗料組成物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と、脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)と、アミン系硬化剤(c)とを含むことを特徴とする。
【0007】
上記の脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)は、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)であることが好ましい。
【0008】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)は、そのエポキシ当量が245以上280以下であり、その軟化点が54℃以上85℃以下であることが好ましい。
【0009】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)に対する脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)の固形分比率(b)/(a)は、質量比で5/100以上65/100以下であることが好ましい。
【0010】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)との合計に対するアミン系硬化剤(c)の固形分比率(c)/{(a)+(b)}は、質量比で15/100以上50/100以下であることが好ましい。
【0011】
アミン系硬化剤(c)は、ダイマー酸変性アミン系硬化剤(c’)であることが好ましい。
【0012】
シランカップリング剤(d)の固形分含有量は、防食塗料組成物の固形分中0.3質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の複層塗膜形成方法は、上記の防食塗料組成物を被塗物に塗装することにより防食塗膜を形成するステップと、防食塗膜上に上塗り塗膜を形成するステップとを含む、複層塗膜形成方法であって、上記の被塗物は、船舶であり、船舶の船底部、プロペラ部、水線部、外舷部、甲板部、上部構造部、ホールド部、およびバラストタンク部に防食塗料組成物を塗装することにより防食塗膜を形成するステップ(I)と、船底部、プロペラ部または船底部および水線部の防食塗膜上に防汚塗料組成物を塗装することにより防汚塗膜を形成するステップ(II)と、外舷部、甲板部、上部構造部、ホールド部、およびバラストタンク部に形成された防食塗膜上に、エポキシ樹脂系塗料、塩化ゴム樹脂系塗料、塩化ビニル樹脂系塗料、アルキッド樹脂系塗料、シリコンアルキッド樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、シリコーン樹脂系塗料、およびエポキシアクリル樹脂系塗料からなる群より選択された少なくとも1種の上塗り塗料を塗装することにより、上塗り塗膜を形成するステップ(III)とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防食塗料組成物は、被塗物との付着性に優れ、過酷な環境下でも長期間にわたって高い防食性能を発揮する防食塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<防食塗料組成物>
本発明の防食塗料組成物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と、脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)と、アミン系硬化剤(c)とを含むことを特徴とする。以下、本発明の防食塗料組成物の各構成を説明する。
【0016】
[ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)]
本発明の防食塗料組成物に用いられるビスフェノール型エポキシ樹脂(a)は、ビスフェノール型に代表される一般的なエポキシ樹脂を用いることができる。このようなビスフェノール型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型であってもビスフェノールF型であってもよい。
【0017】
上記のようなビスフェノール型エポキシ樹脂の汎用タイプの市販品としては、たとえば商品名がエピコート♯828(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量184〜194、分子量約380、油化シェル社製)、エピコート♯834−90X(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量230〜270、分子量約470、油化シェル社製)、エピコート♯1001(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量450〜500、分子量約900、油化シェル社製)、エピコート♯1004(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量875〜975、分子量約1600、油化シェル社製)、エピコート♯1007(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量1750〜2200、分子量約2900、油化シェル社製)、エピコート♯807(ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量160〜175、分子量約330、油化シェル社製)、jER1001−70X(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450〜500、分子量約900、ジャパンエポキシレジン株式会社製),jER834−90X(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量230〜270、分子量約470、ジャパンエポキシレジン株式会社製)等が挙げられる。本発明に用いられるビスフェノール型エポキシ樹脂は、上記のようなビスフェノール型エポキシ樹脂に限定されるものではなく、一般に市販されているその他のビスフェノール型エポキシ樹脂等も使用することができる。
【0018】
上述のビスフェノール型エポキシ樹脂は、他の成分の粘度との兼ね合いで適当な粘度を決めることができ、その形状は固形であっても液状であってもよい。すなわち、防食塗料組成物の粘度を高める場合には固形のビスフェノール型エポキシ樹脂を用い、粘度を低下させるためには、液状のビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0019】
このようなビスフェノール型エポキシ樹脂は、そのエポキシ当量が100以上3000以下であることが好ましく、より好ましくは150以上1000以下である。100未満であると、架橋密度が高くなることにより塗膜の可とう性が低下する場合がある。一方、3000を超えると、架橋密度が十分ではないことにより硬化性に劣ったり、防食塗膜の強靱性に劣ったりする場合がある。
【0020】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、数平均分子量が200以上5000以下のものが好ましく、より好ましくは300以上2000以下である。200未満であると塗膜物性に劣る場合があり、5000を超えると塗装に適切な粘度に調整するために、多量に溶剤を添加する必要が生じるなど、塗装作業性に劣る場合がある。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、ここでの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)により測定されるポリスチレン換算値である。
【0021】
[脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)]
本発明の防食塗料組成物に用いられる脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)は、少なくとも一部に下記一般式(1)で表されるノルボルネン骨格(m=1〜20の整数)の構成単位を有する変性エポキシ樹脂であることが好ましい。下記一般式(1)で示される構成単位を含む脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂を防食塗料組成物に配合することにより、被塗物および上塗り塗膜との付着性が向上し、さらに塗膜の耐水性が向上する。その結果、防食性能を高めることができる。
【0022】
【化1】

【0023】
上記一般式(1)において、mは1以上10以下の整数である。
一般式(1)で表される構成単位の中でも特に好ましい構成単位としては、たとえば下記一般式(2)で表されるジシクロペンタジエンを挙げることができる。ジシクロペンタジエンは、吸湿性が低くかつ軟化点が高い。このため、ジシクロペンタジエンを構成単位として含むことにより、脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂の吸湿性を低下させるとともに、適度に軟化点を高めることができ、もって優れた塗膜の防食性能を保持しつつ、塗膜強度を高めることができる。
【0024】
【化2】

【0025】
このような一般式(2)で表されるジシクロペンタジエンを構成単位として含む、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)の市販品としては、たとえばエピクロンHP7200L(エポキシ当量245〜250、軟化点54〜58、DIC株式会社製)、エピクロンHP7200(エポキシ当量255〜260、軟化点59〜63、DIC株式会社製)、エピクロンHP7200H(エポキシ当量275〜280、軟化点80〜85、DIC株式会社製)、エピクロンHP7200HH(エポキシ当量275〜280、軟化点87〜92℃、DIC株式会社製)、XD−1000−L(エポキシ当量240〜255、軟化点60〜70℃、日本化薬株式会社製)、XD−1000−2L(エポキシ当量235〜250、軟化点53〜63℃、日本化薬株式会社製)、Tactix556(エポキシ当量215〜235、軟化点79℃、Huntsman Inc社製)などを挙げることができる。これらジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)は、柔軟性を有するシクロペンタジエン環を有することにより塗膜の可とう性を付与するとともに、シクロペンタジエン環が高い疎水性を有することにより塗膜の吸湿性を低下させることができ、もって防食塗料の幅広い材料への付着性、および防食性を付与することができるものと考えられる。また、さらにジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)の分子量を低下させることにより、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)との相溶性を高めることもできる。上記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
このようなジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、そのエポキシ当量が230以上280以下であることが好ましく、245以上280以下であることがより好ましく、さらに好ましくは250以上275以下である。230未満であると、架橋密度が高くなることにより防食塗膜の可とう性が低下する。一方、280を超えると、熱硬化時の硬化性に劣ったり、防食塗膜の強靱性に劣ったりする場合がある。上記のエポキシ当量は、JIS K 7236に基づいて測定した値を採用するものとする。
【0027】
また、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の軟化点は、54℃以上85℃以下であることが好ましい。54℃未満であると、防食塗膜上にさらに上塗り塗膜を形成するときに、防食塗膜の耐熱性が十分でないことにより、防食塗膜の塑性変形が生じてしまう虞がある。85℃を超えると、被塗物との付着性が低下したり、得られる塗膜の平滑性が低下したりするという問題がある。上記のエポキシ樹脂の軟化点は、熱機械分析装置(製品名:TMA(株式会社リガク製))を用いて、粒子と同じ樹脂組成のシートを作製して測定を行なった値を採用するものとする。
【0028】
本発明の防食塗料組成物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂とジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂とを併用することにより、被塗物との付着性を向上させるとともに、その上に形成される上塗り塗膜との付着性をも向上させることができる。上記のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂との相溶性が良好であることに加え、ジシクロペンタジエン残基による分岐構造を有するため、溶剤揮発後であって硬化する前の塗膜中で結晶化が生じにくく、しかも、硬化後の塗膜中でも上記の分岐構造により塗膜に柔軟性を付与することができると考えられる。これらが良好な付着性をもたらす主要因と考えられる。このように付着性を良好にすることにより、これまで付着性を確保するのが難しかった真鍮などの素材にも防食塗料組成物を適用することができる。
【0029】
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)に対する脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)の固形分比率(b)/(a)は、質量比で5/100以上65/100以下であることが好ましく、より好ましくは10/100以上35/100以下である。5/100未満であると、防食性能を十分に得られない場合があり、65/100を超えると、防食塗膜が硬くなりすぎて被塗物への付着力が低下し、防食塗膜が剥離しやすくなる。
【0030】
上記脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂は、エステル基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1の官能基を有する脂環族系炭化水素樹脂を含むことが好ましい。このような官能基を有する脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂を配合することにより、被塗物および上塗り塗膜との付着性を向上させることができる場合がある。
【0031】
[アミン系硬化剤(c)]
本発明の防食塗料組成物に含まれるエポキシ樹脂を硬化するための硬化剤としては、アミン系硬化剤(c)を用いることが好ましい。このような組成の硬化剤を上記の2種のエポキシ樹脂と併用して用いることにより、得られる塗膜の可とう性を改善するとともに、防食塗膜と被塗物、あるいは防食塗膜と上塗り塗膜との付着性を向上させることができる。
【0032】
本発明の防食塗料組成物に用いるアミン系硬化剤(c)は、常温での塗膜の硬化を進行させる役割、いわゆる硬化剤としての役割を担うものである。このようなアミン系硬化剤(c)は、そのアミノ基が、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)および脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)中のエポキシ基に対して付加反応することにより、防食塗料組成物の硬化を開始することになる。このような防食塗料組成物は、船舶の外板の塗装などの常温環境下で塗装される用途に好適に用いられる。
【0033】
このようなアミン系硬化剤(c)としては、公知のポリアミン化合物、およびこの変性物などを挙げることができる。ここで、ポリアミン化合物としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミンなどを挙げることができる。これらの硬化剤は、単独または2種以上を組み合わせて防食塗料組成物中に配合することができる。また、ポリアミン化合物の変性物としては、ダイマー酸とポリアミン化合物とを反応させたダイマー酸変性アミン系硬化剤(c’)などを挙げることができる。これらの硬化剤は、単独または2種以上を組み合わせて防食塗料組成物中に配合することができる。
【0034】
本発明の防食塗料組成物に好適に用いられる脂肪族ポリアミンとしては、たとえばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミンなどを挙げることができる。
【0035】
本発明の防食塗料組成物に好適に用いられる脂環式ポリアミンとしては、たとえばメンセンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシレンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ポリシクロヘキシルポリアミン、ノルボルネンジアミン、フルフリールアミン、テトラハイドロフルフリールアミン、メチレンビス(フランメタンアミン)、フェナルカミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンアダクトなどを挙げることができる。
【0036】
本発明の防食塗料組成物に好適に用いられる芳香族ポリアミンとしては、たとえばメタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジメチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン(例、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン)、ジエチルトルエンジアミン、3,5−ジメチルチオトルエンジアミンなどを挙げることができる。
【0037】
また、アミン系硬化剤(c)としては、ダイマー酸とポリアミン化合物とを反応させた上記ダイマー酸変性アミン系硬化剤(c’)を用いることが好ましい。アミン系硬化剤の中でもダイマー酸変性アミン系硬化剤(c’)を用いることにより、非処理鋼材、ブラスト処理鋼材、酸処理鋼材等の鋼材に加え、亜鉛メッキ鋼材、ステンレス鋼材等の鋼材、アルミニウム(合金)材、銅(合金)材、真鍮材、繊維強化プラスティック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)等の幅広い性質を有する非鉄金属材等との付着性をさらに向上させることができる。ダイマー酸変性アミン系硬化剤(c’)の市販品の一例としては、ラッカマイドTD−966(DIC株式会社製)、アンカマイド2050(エアープロダクツ社製)、アデカハードナーEH−355(株式会社ADEKA製)を挙げることができる。ダイマー酸変性アミン系硬化剤(c’)以外のアミン系硬化剤(c)の市販品の一例としては、たとえばサンマイド308D−65T(エアープロダクツ社製)を挙げることができる。
【0038】
防食塗料組成物中に含まれるビスフェノール型エポキシ樹脂(a)および脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)中のエポキシ基の活性水素当量に対するアミン系硬化剤(c)のアミノ基の活性水素当量は、0.5以上1.2以下であることが好ましい。0.5未満であるとアミン基が不足し、1.2を超えるとエポキシ基が不足し、いずれも架橋密度が減少することにより塗膜強度が低下することになる。
【0039】
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)との合計に対するアミン系硬化剤(c)の固形分比率(c)/{(a)+(b)}は、15/100以上50/100以下であることが好ましく、より好ましくは20/100以上40/100以下である。15/100未満であるとアミン基が不足し、50/100を超えるとエポキシ基が不足し、いずれも架橋密度が減少することにより塗膜強度、特に防食性が低下することになる。
【0040】
本発明の防食塗料組成物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)および脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)を含有する成分と、アミン系硬化剤(c)を含有する成分とからなる2液の塗料であることが好ましい。
【0041】
[シランカップリング剤(d)]
本発明の防食塗料組成物は、シランカップリング剤(d)を含有することが好ましい。このようなシランカップリング剤(d)としては、エポキシ樹脂などの有機ポリマーに対して親和性を示す有機官能基と、顔料などの無機系材料に対して親和性を示す無機官能基とを併せ持つ化合物を用いることが好ましい。かかるシランカップリング剤(c)を用いることにより、有機ポリマーと無機系材料とが接する界面の接着性等を向上させることができ、もって塗膜の付着性を高めることができる。
【0042】
有機ポリマーに対して親和性を示す有機官能基としては、官能基内に極性を有することが好ましく、このような官能基としてアミノ基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、およびグリシジル基を挙げることができ、このような官能基を1種または2種以上を有することが好ましく、好ましくはエポキシ基を含有することである。
【0043】
エポキシ基を含有するシランカップリング剤としては、(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0044】
このようなエポキシ基含有シランカップリング剤の汎用タイプの市販品の一例を挙げると、たとえば(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランとしてはKBM−303(信越化学工業株式会社製)、(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランとしてはA−186(日本ユニカー株式会社製)、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとしてはKBM−403(信越化学工業株式会社製)、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとしてはA−187(日本ユニカー株式会社製)、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランとしてはKBM−402(信越化学工業株式会社製)、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランとしてはAZ−6137(日本ユニカー株式会社製)、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとしてはKBE−403(信越化学工業株式会社製)などを挙げることができ、これらシランカップリング剤を1種または2種以上含んでもよい。
【0045】
また、シランカップリング剤(d)の固形分含有量は、防食塗料組成物の固形分中0.3質量%以上3質量%以下であることが好ましい。かかる割合でシランカップリング剤(c)を含むことにより、得られる防食塗膜の被塗物および上塗り塗膜に対する付着性をより優れたものとすることができ、防食性能により優れた防食塗料組成物を得ることができる。
【0046】
なお、「防食塗料組成物」の固形分の質量とは、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と、脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)と、アミン系硬化剤(c)と、シランカップリング剤(d)との総合計量(固形分)を意味し、後述するその他の添加剤の重量以外の全ての構成材料の固形分の総和の質量を意味する。
【0047】
[その他の添加剤]
本発明の防食塗料組成物は、上記以外のその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、たとえば、顔料、溶剤、水結合剤、ダレ止め剤、色分かれ防止剤、沈降防止剤、消泡剤、塗膜消耗調整剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、顔料分散剤などを挙げることができる。
【0048】
(1)顔料
顔料としては、着色顔料、体質顔料、および防錆顔料からなる群より選択される1種以上を用いてもよい。ここで、着色顔料としては、酸化チタン、黄色酸化鉄、カーボン、弁柄等の無機着色顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機着色顔料を挙げることができる。また、体質顔料としては、たとえば、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、シリカ、ガラスフレーク等を挙げることができる。防錆顔料としては、モリブデン酸系、リン酸系、亜リン酸系、ホウ酸系、フェライト系の顔料等を挙げることができる。
【0049】
(2)溶剤
溶剤としては、たとえば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロペンタン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、ホワイトスピリット等の炭化水素類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;n−ブタノール、プロピルアルコール等のアルコールなどを挙げることができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
(3)ダレ止め剤
ダレ止め剤としては、有機粘度系Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの塩類、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス系、ポリアマイドワックス系、およびこれらの1種以上の混合物、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等を挙げることができる。このようなダレ止め剤としては、ディスパロン305(楠本化成株式会社製)、ディスパロン6900−20X(楠本化成株式会社製)、ディスパロン6650(楠本化成株式会社製)、ディスパロン6700(楠本化成株式会社製)、ターレンVA−750B(共栄社化学株式会社製)、ターレンVA−780(共栄社化学株式会社製)等の商品名で上市されているものを適宜用いることができる。
【0051】
<被塗物>
本発明の防食塗料組成物を適用する被塗物としては、特に限定されるものではなく、一部が水中(海水中)に配置される構造物の表面に特に好適に用いられる。このような被塗物としては、たとえば、船舶;港湾施設;オイルフェンス;発電所等の取水設備;冷却用導水管等の配管;橋梁;浮標;工業用水系施設;海底基地等の水中構造物などを挙げることができる。
【0052】
このような被塗物の材質としては、非処理鋼材、ブラスト処理鋼材、酸処理鋼材、亜鉛メッキ鋼材、ステンレス鋼材等の鋼材、アルミニウム(合金)材、銅(合金)材、真鍮材、繊維強化プラスティック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)等の非鉄金属材等を挙げることができる。これらの鋼材および非鉄金属材には溶接線があってもよい。特に、本発明の防食塗料組成物は真鍮材への付着性が優れることから、真鍮材で作られることが多い船舶用プロペラシャフト部に好適に用いられる。
【0053】
<防食塗膜>
本発明の防食塗料組成物を用いて形成された防食塗膜は、被塗物および上塗り塗膜との付着性に優れるため、過酷な環境下でも長期間にわたって高い防食性を発揮する。このような防食塗膜は、常法にしたがって、被塗物の表面に防食塗料組成物を塗布した後に、必要に応じて常温下または加熱下で溶剤を揮散除去することにより形成することができる。
【0054】
上記のようにして得られる防食塗膜は、その膜厚が10μm以上500μm以下であることが好ましい。10μm未満であると、薄膜すぎて均一に塗布することが困難であるだけでなく、良好な防食性を得ることができない。一方、500μmを超えると、塗膜が厚くなりすぎて塗料コストが高くなるだけでなく、塗膜の内部応力が大きくなりすぎて、得られる塗膜が剥離する場合があり好ましくない。
【0055】
このような防食塗料組成物の塗布方法としては特に限定されず、たとえば、浸漬法、スプレー法、ハケ塗り、ローラー、静電塗装、電着塗装等の従来公知の方法を挙げることができる。なお、被塗物の表面に防食塗料組成物を直接塗装してもよいし、必要に応じて被塗物の表面にショッププライマーを形成した上で防食塗料組成物を塗装してもよい。
【0056】
ここで、ショッププライマーを塗布する場合、ショッププライマーの組成としては、テトラアルコキシシリケートの加水分解初期縮合物と、酸性の溶剤分散型コロイダルシリカと、亜鉛粉末とを含有する防食塗料組成物、または亜鉛よりも高い融点を有し、かつ鉄よりも卑なる電位を有する亜鉛合金粉末を含有する防食塗料組成物、結合剤および球状の亜鉛末を含有し、亜鉛末の光透過式沈降法による平均粒子径が5〜10μmの範囲であって、かつ2μm以上の粒子が亜鉛末の全量の95体積%以上有し、亜鉛末含有量が乾燥塗膜100容量部当たり20〜60容量部であり、かつ塗膜が600℃以上の耐熱性を有する防食塗料組成物、またはこれらと類似の組成の防食塗料組成物を用いることが好ましい。
【0057】
<上塗り塗膜>
上記のようにして塗装した防食塗膜上に、上塗り塗料を塗布することにより上塗り塗膜を形成することが好ましい。このような上塗り塗膜は、上述の防食塗料組成物の塗布方法と同様の方法を用いて形成することができる。このような上塗り塗料としては、エポキシ樹脂系塗料、塩化ゴム樹脂系塗料、塩化ビニル樹脂系塗料、アルキッド樹脂系塗料、シリコンアルキッド樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、シリコーン樹脂系塗料、エポキシアクリル樹脂系塗料、および各種防汚塗料等を用いることができる。
【0058】
<複合塗膜の形成方法>
本発明の防食塗料組成物を用いて形成される複層塗膜は、防食塗料組成物を被塗物に塗装することにより防食塗膜を形成するステップ(I)と、防食塗膜上に上塗り塗膜を形成するステップ(III)とを含むことにより形成されることが好ましい。このようにして形成される複合塗膜は、防食塗膜と被塗物(下地)および上塗り塗膜との付着性が高く、過酷な環境下でも長期間にわたって高い防食性能を発揮する。すなわち、防食塗膜と上塗り塗膜との間にバインダーコートを設けなくともよく、複合塗膜の形成を簡略化することができる。
【0059】
被塗物が船舶である場合、本発明の防食塗料組成物は、船舶の船底部、プロペラ部、水線部、外舷部、甲板部、上部構造部、ホールド部、およびバラストタンク部の全ての部位に適用することができるという利点がある。船舶の表面のうちの船底部、プロペラ部、または船底部および水線部は、船舶の運航中に海水に接するため、その防食塗膜上の上塗り塗膜としては、防汚塗膜を形成することが好ましい。
【0060】
このような防汚塗膜は、防汚剤を含む加水分解型の防汚塗膜を形成するための防汚塗料、または非溶出型のシリコーンゴム組成物塗料から形成されることが好ましい。加水分解型の防汚塗膜を形成するための防汚塗料としては、金属エステル基を含有する樹脂(金属は、Cu、Zuなどの2価のもの、以下同様)、シリルアクリル基を含有する樹脂、金属エステル基およびシリルアクリル基を含有する樹脂、金属アクリル基およびシリコン含有基を含有する樹脂、シリルアクリル基およびシリコン含有基を含有する樹脂、または、金属アクリル基、シリルアクリル基およびシリコン含有基を含有する樹脂を含む加水分解型防汚塗料を挙げることができる。
【0061】
また、非溶出型の防汚塗料としては、たとえば特許第4043540号に示されるように、縮合硬化型シリコーンゴム組成物と乾燥硬化型シリコーングラフトアクリル樹脂からなり、巨視的にはそれぞれの樹脂に分離していないが、微視的には同種成分が寄り集まって形成されたミクロなドメインがアトランダムに塗膜表面に現れており、多量成分が連続相を構成し、微量成分が分散相を構成するという海島構造を形成する防汚塗料組成物を用いてもよい。このように海水に接する部分に防汚塗膜を形成することにより、フジツボ、イガイ、藻類などの生物を付着しにくくし、もって船舶の運航効率を高めることができる。上記の各防汚塗料は、通常船舶防汚塗料に配合されるような成分、たとえば防汚剤、可塑剤、加水分解調整剤、顔料、溶剤、粘度調整剤、シリコーンオイル、その他の添加剤等を含んでいてもよい。
【0062】
一方、船舶の表面のうちの外舷部、甲板部、および上部構造部は海水に接しないため、その表面の防食塗膜上には、ウレタン系、エポキシ系、アクリル系、および塩素化ポリオレフィン系からなる群より選択された少なくとも1種の上塗り塗料を塗布して上塗り塗膜を形成することができる。
【0063】
<膜厚管理>
本発明の防食塗料組成物は、塗料中の着色顔料の濃度を調整することにより、膜厚管理を容易に行なうことができる塗料とすることができる。すなわち、塗装中の塗膜と被塗物との色差の変化を目視で確認しながら、目標膜厚に達するまで防食塗料組成物の塗装を行なうことができる。なお、色差は塗膜の状態がウエットであろうと乾燥後であろうと変化しないので、塗装中の防食塗膜がウエットのうちに、被塗物またはプライマー層との色差の変化を目視により観察し、塗装中の防食塗膜が規定の膜厚に達したか否かを判定することができる。
【0064】
このような膜厚管理が可能な防食塗料組成物は、特に船舶の外板を塗布する場合のように、大型構造物を塗布する場合に特に有効である。以下にこのように膜厚管理するための条件を詳述する。
【0065】
防食塗料組成物の固形分に対して着色顔料の含有量を0.01体積%以上3体積%以下を含み、かつ、下記条件:
(1)防食塗料組成物と被塗物との色差が20以上
(2)目標乾燥膜厚の塗膜と、目標乾燥膜厚の80%未満の膜厚の塗膜との色差が2以上
(3)目標乾燥膜厚の塗膜と、目標乾燥膜厚の120%超の膜厚の塗膜との色差が1未満
を満たすように、防食塗料組成物中の着色顔料の含有量を調整することが好ましい。これにより、防食塗膜の乾燥膜厚を簡単(典型的には目視で)かつ正確に目標値にコントロールできる。この場合、着色顔料として少なくとも酸化チタンを用いることが好ましい。なお、色差の測定はSMカラーコンピュータ(型式:SM−7CH(スガ試験機株式会社製))等の色差計を使用し、一般に知られた方法で行なうことができる。
【0066】
[被塗物との色差]
(1)防食塗料組成物と被塗物との色差が20以上であることが好ましく、色差の変化を目視で確認しやすくするには、防食塗料組成物と被塗物との色差を35以上とするのがより好ましい。防食塗料組成物と被塗物との色差が20未満であると、防食塗料組成物の膜厚が目標膜厚に近づくにつれて、被塗物との色差を目視で判断しにくくなり、所望の膜厚よりも厚めに塗布してしまう傾向がある。
【0067】
ここで、防食塗料組成物の色相範囲は、マンセルの100色相環上で被塗物の色相を0とし、これに対して左回りを0〜+50、右回りを0〜−50で表示したときに、その色相範囲が−20〜−50、または+50〜+20であるような補色に近い色相のものが好ましい。上下の層の色相が補色に近い関係であるほど色差が大きくなるので、上層の防食塗料組成物の色相範囲を−40〜−50、または+50〜+40に設定するのがより好ましい。
【0068】
[目標乾燥膜厚の80%未満の膜厚の塗膜との色差]
(2)目標乾燥膜厚の塗膜と、目標乾燥膜厚の80%未満の膜厚の塗膜との色差が2以上であることが好ましい。目標乾燥膜厚の80%未満の膜厚の塗膜とは、塗装完了直前の塗膜であるが、その時点でも目標乾燥膜厚の塗膜の色調に対して2以上の色差を有しない場合、人の目には目標乾燥膜厚に達したものとして映る。このため、その部分の膜厚が目標乾燥膜厚よりも部分的に薄くなってしまう傾向がある。
【0069】
ただし、目標乾燥膜厚の塗膜と、目標乾燥膜厚の80%未満の膜厚の塗膜との色差が大きすぎると、目標乾燥膜厚に達したか否かを判定しやすい反面、僅かな膜厚差でも塗膜の色むらが顕著になる傾向がある。このため色差の上限は10であるのが好ましく、より好ましくは5である。
【0070】
[目標乾燥膜厚の120%超の膜厚の塗膜との色差]
(3)目標乾燥膜厚の120%超の膜厚の塗膜は、塗装完了直後の塗膜である。このため、目標乾燥膜厚の塗膜と目標乾燥膜厚の120%超の膜厚の塗膜との色差はできるだけ小さくすることが好ましく、1未満であることが好ましく、より好ましくは0.5未満である。色差が1以上であると、目標乾燥膜厚に達した塗膜の間でも色差が異なり、塗装後に色むらが顕著に表れる傾向がある。
【0071】
なお、被塗物の上にプライマーを塗布する場合、防食塗料組成物が満たすべき色差の上述の条件(1)〜(3)のうちの(1)を下記の条件とする必要がある。
(1’)防食塗料組成物とプライマーとの色差が20以上
(2)目標乾燥膜厚の塗膜と目標乾燥膜厚の80%未満の膜厚の塗膜との色差が2以上
(3)目標乾燥膜厚の塗膜と目標乾燥膜厚の120%超の膜厚の塗膜との色差が1未満
このような条件を満たすことにより、プライマーを形成する場合にも、防食塗膜の乾燥膜厚を簡単(典型的には目視で)かつ正確に目標値にコントロールできる。
【0072】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
<実施例1>
まず、ビスフェノール型エポキシ樹脂と、脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂と、溶剤(キシレンおよびイソブタノール)と、シランカップリング剤と、顔料と、添加剤とを表1に示す配合比で混合し、該組成物を高速ディスパーにて分散粒度が80μm以下となるように分散することにより、エポキシ液(A液)を調製した。次に、アミン系硬化剤と、溶剤とを表1に示す比率で混合することによりアミン硬化剤(B液)を調製した。上記のエポキシ液(A液)とアミン硬化剤(B液)とを混合することにより、本実施例の防食塗料組成物を得た。なお、エポキシ液(A液)とアミン硬化剤(B液)とを混合するタイミングは、塗装する15分前とした。なお、上記の分散粒度は、グラインドゲージを用いて日本工業規格(JIS K 5600 2−5)にしたがい判定した値である。
【0074】
<実施例2〜16、比較例1〜3>
表1のように各成分の組成が異なる他は、実施例1と同様の手順で材料を混合することにより、実施例2〜16および比較例1〜3の防食塗料組成物を得た。
【0075】
【表1】

【0076】
〔1〕ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−1):jER1001−70X(ジャパンエポキシレジン株式会社製)
〔2〕ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−2):jER834−90X(ジャパンエポキシレジン株式会社製)
〔3〕脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b−1):EPICLON HP−7200H(DIC株式会社)、エポキシ当量270以上280以下、軟化点80℃以上85℃以下
〔4〕脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b−2):EPICLON HP−7200HH(DIC株式会社)、エポキシ当量270以上280以下、軟化点87℃以上92℃以下
〔5〕脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b−3):Tactix 556(ハンツマン社製)、エポキシ当量215以上235以下、軟化点79℃以下
〔6〕アミン系硬化剤(c):サンマイド308D−65T(エアープロダクツ株式会社製)、固形分濃度65%
〔7〕ダイマー酸変性アミン系硬化剤(c−1):アデカハードナーEH−355(ADEKA株式会社製)、固形分濃度68%
〔8〕シランカップリング剤(d):KBM−403(信越化学株式会社製)
〔9〕酸化チタン:チタンCR−50(石原産業株式会社製)
〔10〕タルク:タルクSP−42(丸尾カルシウム株式会社製)
〔11〕ダレ止め剤:ディスパロン6900−20X(楠本化成株式会社製)
<付着性の評価>
各実施例および各比較例の防食塗料組成物を塗布して形成される防食塗膜に対し、被塗物との付着性、ショッププライマーとの付着性、および上塗り塗膜との付着性を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0077】
(1)被塗物との付着性(碁盤目付着試験)
被塗物と防食塗膜との付着性を以下のようにして評価した。まず、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム、ステンレス、真鍮、FRP、鉄の6種類の材料からなる下地板を被塗物として用意した。そして、それぞれの下地板に対し、各実施例および各比較例の防食塗料組成物を塗布した後に、23℃で7日間乾燥させることにより、乾燥膜厚が170μmの防食塗膜を形成した。
【0078】
次に、上記で防食塗膜を塗布した下地板から2枚の試験板を作成した。1枚の試験板に対してJIS K 5600.5.6に準拠して碁盤目付着試験を行なった。具体的には、試験板に対し、3mmの隙間間隔で下地板に達するまでナイフで切り込みを入れることにより25マスの碁盤目を作成し、当該碁盤目上に粘着テープを貼り合わせて、45°の角度を成す方向に粘着テープを引き剥がした。その後、防食塗膜が剥離したマス目をカウントし、全マス目に対する剥離したマス目の割合(%)を算出した。下記の基準で評点化した数値を表2の「被塗物への付着性」の行の「初期」の欄に示す。
【0079】
評価点数5:碁盤のマス目の剥離率0%
評価点数4:碁盤のマス目の剥離率0%超5%以下
評価点数3:碁盤のマス目の剥離率5%超15%以下
評価点数2:碁盤のマス目の剥離率15%超25%以下
評価点数1:碁盤のマス目の剥離率25%超
一方、上記の試験板の1枚に対し、さらに40℃の水中に3ヶ月浸漬した後に、上記と同様の条件で碁盤目付着試験を行なった。上記と同様の基準で評点化した数値を表2の「被塗物への付着性」の行の「40℃温水浸漬後」の欄に示す。
【0080】
(2)ショッププライマーとの付着性(碁盤目付着試験)
下地板とショッププライマーとの付着性を以下のようにして評価した。まず、下地板としてショットブラスト鋼板を用意した。そして、この下地板に対し15μmの厚みのショッププライマーを形成した。かかるショッププライマーは、プライマー塗料(製品名:ニッペセラモ(日本ペイントマリン株式会社製))を塗布した後に、塗板を1週間屋外で暴露することにより得られた塗膜である。
【0081】
このようにして形成したショッププライマー上に、さらに各実施例および各比較例に示される防食塗料組成物を塗布することにより防食塗膜を形成した。そして、上記と同様の条件で碁盤目付着試験を行なうことにより、防食塗膜とショッププライマーとの付着性を評価した。上記と同様の基準で評点化した数値を表2の「ショッププライマー付着性」の行の「初期」の欄に示す。
【0082】
また、上記のショッププライマー上に形成した防食塗膜に対し、40℃の水中に3ヶ月浸漬した後に、上記と同様の条件で碁盤目付着試験を行なった。上記と同様の基準で評点化した数値を表2の「ショッププライマー付着性」の行の「40℃温水浸漬後」の欄に示す。
【0083】
(3)上塗り塗膜の付着性(碁盤目付着試験)
防食塗膜と上塗り塗膜との付着性を以下のようにして評価した。まず、被塗物としてサンドブラスト鋼板を用意し、これに対し30μm±10μmの乾燥膜厚となるように各実施例および各比較例の防食塗料組成物をスプレー塗装した。その後、23℃で7日間乾燥させることにより、防食塗膜を形成した。
【0084】
かかる防食塗膜上に、エポキシ樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、およびアクリル樹脂系塗料を塗布し、23℃で7日間乾燥させることにより、それぞれ乾燥膜厚が40μm±10μmの厚みの上塗り塗膜を形成した。また、防食塗膜上に加水分解型防汚塗料を塗布し、23℃で7日間乾燥させることにより、乾燥膜厚が80μm±10μmの上塗り塗膜を形成した。また、非溶出型シリコーン系防汚塗料については、防食塗膜上に乾燥膜厚が100μm±10μmとなるようにシリコーン系中塗り塗料を塗装し、24時間経過した後に、乾燥膜厚が150μm±10μmとなるようにシリコーン系上塗り塗料を塗装し、23℃で7日間乾燥させることにより上塗り塗膜を形成した。そして、このようにして得られた上塗り塗膜に対し、上記と同様の条件で碁盤目付着試験を行なった。表2の「上塗り付着性」の欄に、上記と同様の基準で各塗料の付着性を評点化した値を示す。
【0085】
【表2】

【0086】
〔1〕エポキシ系塗料:製品名ニッペエポキシフィニッシュM(日本ペイントマリン株式会社製)
〔2〕ウレタン系塗料:製品名ポリウレマイティラックM(日本ペイントマリン株式会社製)
〔3〕アクリル系塗料:製品名ニッポンA−マリンフィニッシュ(日本ペイントマリン株式会社製)
〔4〕加水分解型防汚塗料:製品名ぷろぺら一番(日本ペイントマリン株式会社製)
〔5〕非溶出型シリコーン系防汚塗料:製品名(中塗)エコロシルク タイコート(日本ペイントマリン株式会社製)、(上塗)エコロシルク(日本ペイントマリン株式会社製)
<防食性の評価>
各実施例および各比較例の防食塗料組成物を試験板に塗布し、23℃で7日間乾燥することにより乾燥膜厚が170μmの防食塗膜をそれぞれ形成した。この試験板の表面に、カッターナイフでクロスカットの切り傷をつけて、該試験板をJISK5600−7−1の塩水噴霧試験装置に準備し、該試験板に対し塩水を1000時間噴霧した。その後、その切り傷部分の表面を観察することにより、防食塗膜の外観を評価した。該評価は、上記のクロスカットの切り傷周囲のフクレ性をASTM D−714−56A法に基づいて行ない、下記の基準で評点化した数値を表2の「外観」の欄に示した。
【0087】
フクレが発生していないもの :評価点数10
8F :評価点数8
6F :評価点数6
8MD、6M、および4F :評価点数4
6MDおよび4M :評価点数3
8D、6D、4MD、2F、および2M:評価点数2
4Dおよび2MD :評価点数1
2D :評価点数0
また、クロスカット部をナイフで剥がしたときに剥がれた塗膜の幅をクリープ幅(mm)として測定し、表2の「クリープ幅」の欄に示した。なお、クリープ幅が短いほど、防食性に優れていることを示している。
【0088】
また、ショットブラスト鋼板に対し、プライマー塗料(製品名:ニッペセラモ(日本ペイントマリン株式会社製))を塗布した後に、塗板を1週間屋外で暴露することにより、15μmの厚みのショッププライマーを形成した。かかるショッププライマー上に、各実施例および各比較例に示される防食塗料組成物を塗布することにより防食塗膜を形成し、上記と同様の方法により防食塗膜の防食性を評価した。該評価の結果を、表2の「ショッププライマー防食性」の欄に示した。
【0089】
表2の結果から、実施例の防食塗料組成物により得られる防食塗膜は、幅広い素材で構成される被塗物との付着性および防食性に優れるとともに、該防食塗膜上に塗装する上塗り塗膜との層間付着性にも優れることがわかる。これに対し、比較例の防食塗料組成物により得られる防食塗膜は、非鉄素材で構成される被塗物への付着性および防食性に劣る場合があり、また、該防食塗膜上に塗装する上塗り塗膜との付着性も良好でない場合があることがわかる。
【0090】
このように被塗物および上塗り塗膜との付着性が異なるのは、各実施例の防食塗料組成物が、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と、脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)との2種のエポキシ樹脂を併用しているのに対し、各比較例の防食塗料組成物が、これらのエポキシ樹脂のいずれか一方のみを配合したものであるため、付着力および防食性の向上効果が得られなかったものと考えられる。
【0091】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と、
脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)と、
アミン系硬化剤(c)とを含む防食塗料組成物。
【請求項2】
前記脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)は、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項3】
前記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(b’)は、そのエポキシ当量が245以上280以下であり、その軟化点が54℃以上85℃以下である、請求項2に記載の防食塗料組成物。
【請求項4】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)に対する前記脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)の固形分比率(b)/(a)は、質量比で5/100以上65/100以下である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項5】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)と前記脂環族系炭化水素樹脂変性エポキシ樹脂(b)との合計に対する前記アミン系硬化剤(c)の固形分比率(c)/{(a)+(b)}は、質量比で15/100以上50/100以下である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項6】
前記アミン系硬化剤(c)は、ダイマー酸変性アミン系硬化剤(c’)である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項7】
シランカップリング剤(d)をさらに含み、
前記シランカップリング剤(d)の固形分含有量は、前記防食塗料組成物の固形分中0.3質量%以上3質量%以下である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の防食塗料組成物を被塗物に塗装することにより防食塗膜を形成するステップと、
前記防食塗膜上に上塗塗膜を形成するステップとを含む、複層塗膜形成方法であって、
前記被塗物は、船舶であり、
前記防食塗料組成物を前記船舶の船底部、プロペラ部、水線部、外舷部、甲板部、上部構造部、ホールド部、およびバラストタンク部に塗装することにより防食塗膜を形成するステップ(I)と、
前記船底部、前記プロペラ部または前記船底部および前記水線部の前記防食塗膜上に防汚塗料組成物を塗装することにより防汚塗膜を形成するステップ(II)と、
前記外舷部、前記甲板部、前記上部構造部、前記ホールド部、および前記バラストタンク部に形成された前記防食塗膜上に、さらに、エポキシ樹脂系塗料、塩化ゴム樹脂系塗料、塩化ビニル樹脂系塗料、アルキッド樹脂系塗料、シリコンアルキッド樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、シリコーン樹脂系塗料、およびエポキシアクリル樹脂系塗料からなる群より選択された少なくとも1種の上塗り塗料を塗装することにより、上塗り塗膜を形成するステップ(III)とを含む、複層塗膜形成方法。

【公開番号】特開2011−168707(P2011−168707A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34510(P2010−34510)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(597091890)日本ペイントマリン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】