説明

除染能力評価方法及びこれに用いられる評価用模擬試料

【課題】低コストで除染能力の評価を行う。
【解決手段】この模擬試料10は、母材11上に、Co層12、酸化鉄層13が順次積層されて構成される。酸化鉄層13は、マグネタイト(四酸化三鉄)層131、ヘマタイト(三酸化二鉄)層132が順次積層されて構成される。Co層12は、放射性同位元素である60Co等の付着層を模しており、酸化鉄層13はその上に付着した錆を模している。除染処理をこの模擬試料10に対して行い、Coの蛍光X線がどの箇所からも許容レベル以下となるまで適宜繰り返すことができ、それまでに要した除染処理量あるいはこれに要した時間の総計の長短によって除染能力を評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質で汚染された試料における放射性物質の除去(除染)能力を評価用模擬試料を用いて評価する方法、及びこの評価用模擬試料に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉や加速器等、強い放射線が発生する装置(以下、原子炉等)の解体・廃棄に際しては、放射性物質で汚染された多量の部材を取り扱うことが必要になる。これらの部材の解体・廃棄に際しては、放射性物質(汚染物質)を除去した上で廃棄することが必要である。また、解体や廃棄の際だけでなく、例えば原子炉等の定期点検時にも、放射性物質で汚染された部材の表面の除去並びに交換等を行うため、同様である。こうした部材においては、部材を構成する鋼鉄に含まれる鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の原子核が中性子照射されることによって生成された58Coや60Co等が高レベルγ線を放射するため、主な汚染物質となる。この汚染物質の除去(除染)を行う方法(除染方法)としては、多数のものが知られている。例えば、汚染された被汚染試料の表面をブラスト処理等で物理的に、あるいは化学反応を利用して化学的に削ることによって放射性物質を除去することができる。
【0003】
また、特許文献1には、極めて短い持続時間を持つパルス状のレーザー光で被汚染試料の表面を照射することによって汚染物質を蒸発させ、蒸発した汚染物質を照射された気体や液体中に取り込み、この気体や液体を回収することによって除染を行う技術が記載されている。特許文献2には、特に水噴流導光レーザーをこのレーザー光として用いることによって、高効率で除染を行うことができることが記載されている。
【0004】
こうした除染処理を行うにあたり、その除染能力を評価することは重要である。ところが、実際に放射性物質で汚染された試料に対して除染処理を行ってその除染能力を評価する場合、除染処理前後での試料からの放射線量率の比較測定が必要になる。この場合、例えば58Coや60Co等が発するγ線の線量率を除染処理前後で比較測定する。このためには、有害な放射線を出す試料を取り扱うための大規模な放射線防護施設が必要になる。また、試料から放射される放射線の強度を精密に測定するためには、特別な測定環境や測定設備が必要である。従って、除染能力の評価を正確に行うためには多大なコストがかかる。
【0005】
危険な放射性物質を用いず、代わりに、危険性が低く比較的安価な模擬試料を用いて除染能力を評価する技術が特許文献3に記載されている。ここでは、放射性廃棄物ではない酸化ウランを混合した砂(模擬ウラン廃棄物)に対して除染処理を行い、処理前後のウラン濃度を測定することによって除染能力が評価される。ここで用いられる酸化ウランは放射性でないウランを主成分としており、ウランの濃度は、一般的な化学的分析法や質量分析法によって算出することができる。従って、安全かつ簡易に除染能力を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−315995号公報
【特許文献2】特開2007−315996号公報
【特許文献3】特開2002−303694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば実際の原子炉等の廃棄物は、特許文献3に記載のような模擬試料とは異なり、部材の表面に単に放射性物質が付着しているだけの形態ではない。
【0008】
例えば、原子炉等に用いられる冷却水の配管においては、表面に放射性物質が付着した上に、錆(酸化鉄)が付着する。また、実際の部材においては、経年変化による応力腐食割れに起因する多数の亀裂や孔食が発生しており、亀裂や孔食上に放射性物質が付着することもある。更に、放射性物質の元素はイオン化する場合もあるため、こうした亀裂や孔食の内部深くまで侵入することがある。従って、模擬試料を用いてこの廃棄物に対する除染能力を評価することは困難であり、実際に放射性物質で汚染された試料を用いて除染能力が評価されていた。このため、前記の通り、大規模な放射線防護施設や特別な放射線測定環境、測定設備が必要になり、除染能力の評価に際しては、多大なコストを要した。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の除染能力評価方法は、部材上に存在する放射性物質を除去する除染処理の除染能力を評価する除染能力評価方法であって、前記部材と同一物質からなる母材上に、非放射性のコバルト層、酸化鉄層が順次形成された構成の評価用模擬試料に対して、前記除染処理を行い、前記除染処理を行った後の前記評価用模擬試料表面のコバルト量を測定することによって、前記除染能力を評価することを特徴とする。
本発明の除染能力評価方法において、前記コバルト量の測定は蛍光X線強度を測定することによって行うことを特徴とする。
本発明の除染能力評価方法において、前記酸化鉄層は、四酸化三鉄からなる層を含むことを特徴とする。
本発明の除染能力評価方法において、前記四酸化三鉄からなる層は黒染めっきによって形成されることを特徴とする。
本発明の除染能力評価方法において、前記酸化鉄層は、三酸化二鉄からなる層を含むことを特徴とする。
本発明の除染能力評価方法において、前記三酸化二鉄からなる層は塗布により形成されることを特徴とする。
本発明の除染能力評価方法において、前記母材表面に亀裂又は孔食を形成することを特徴とする。
本発明の除染能力評価方法において、機械的処理後に酸洗浄を行うことにより、前記亀裂又は孔食を形成することを特徴とする。
本発明の評価用模擬試料は、部材上に放射性物質が付着した構成の放射性廃棄物における前記放射性物質を除去する除染処理の除染能力を評価するために用いられる、前記放射性廃棄物を模した評価用模擬試料であって、前記部材と同一物質からなる母材上に、非放射性のコバルト層、酸化鉄層が順次形成された構成を具備することを特徴とする評価用模擬試料。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のように構成されているので、低コストで除染能力の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る評価用模擬試料の構成の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る除染能力評価方法のフロー図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る評価用模擬試料に対して除染処理を行った際の断面構造の変化を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る除染能力評価方法における表面組成分析を行なう際の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る除染能力評価方法につき説明する。この除染能力評価方法においては、実際の放射性物質(放射性廃棄物)ではなく、非放射性の評価用模擬試料(以下、模擬試料)が用いられ、除染能力が評価される。ここで用いられる模擬試料は、実際の原子炉等の冷却水配管の廃棄物を模した、あるいはこの廃棄物が除染される際の状況を模した構成をもつ。この模擬試料の構成につき以下に説明する。
【0014】
実際の原子炉等における放射性廃棄物において最も影響の大きい放射性同位元素は60Co、58Co等のコバルト放射性同位元素(以下、60Co等)である。これらは主に、原子炉で発生した中性子が鋼材等に含まれる非放射性の59Coに照射されることによって生成され、天然における存在量は極めて少ない。60Co、58Coの半減期はそれぞれ5.27年、71日で、強いγ線源となる。これらが水中に溶出してイオン化し、水流によって移動し、原子炉を構成する部材の表面に付着することによってこの部材が放射性となり、この部材が放射性廃棄物となる。ただし、この部材においては、単に60Co等が表面に付着するだけでなく、その上にも各種の物質が更に付着する。ここで特に多く付着する物質は、錆(酸化鉄)である。また、60Co等や錆が付着する部材表面の状態も様々であり、経年変化による応力腐食割れに起因する多数の亀裂や孔食が発生している場合が多い。
【0015】
この模擬試料は、この構成を模しており、かつ、この模擬試料に対して除染処理を行う工程は、実際の部材上において汚染物質(60Co等)が除去される工程を模している。しかしながら、この模擬試料は放射性物質を含まず、容易に製造することができ、かつ、これに対して除染処理を行った際の結果から除染能力を適正に評価することができる。
【0016】
図1は、ここで用いる模擬試料10の断面構成である。この模擬試料10は、母材11上に、コバルト(Co)層12、酸化鉄層13が順次積層されて構成される。酸化鉄層13は、マグネタイト(四酸化三鉄:Fe)層131、ヘマタイト(三酸化二鉄:Fe)層132が順次積層されて構成される。Co層12は付着した60Co等を模しており、酸化鉄層13はその上に付着した錆を模している。
【0017】
母材11としては、実際の原子炉等廃棄物と同様の材料が用いられ、例えばステンレス鋼(SUS304L、SUS316L等)等が用いられる。実際の原子炉等廃棄物と同様の状態とするために、その形状や厚さは適宜設定することができる。この際、冷間加工を行えば、表面残留応力が発生し、表面硬化層が形成されるため、実際の原子炉廃棄物により近い状態を再現することができる。
【0018】
また、実際の原子炉等廃棄物に更に近い状態とするためには、例えば、その表面をグラインダ処理等の機械的処理を行うことによって、表面残留応力を付与する。この状態で例えば塩酸等を用いた酸処理を行うことにより、表面に亀裂や孔食を発生させることができる。すなわち、表面残留応力を付与した状態で酸処理を行うことによって、実際の原子炉等廃棄物における冷間加工応力腐食割れによる亀裂や孔食を再現することができる。図1は、この亀裂20の断面方向を示している。この亀裂や孔食の深さは、実際の原子炉等廃棄物の種類(定期点検時の廃棄物、廃炉時の廃棄物等)により異なる。例えば、深い場合(廃炉時の廃棄物等に相当)の場合には、100μm程度を基準とする深さであり、浅い場合(定期点検時の廃棄物等に相当)の場合には、1μm程度を基準とする深さとすることができる。
【0019】
その後、Co層12をめっきによって母材11上に形成する。この場合、コバルトめっき液を用いためっき作業によってCoを母材11上に形成することができる。Co層12は、放射性同位元素である60Co等の付着層を模しているが、放射性である必要はなく、安定同位元素である59Coを用いることができる。59Coと60Co等は同位体であるため、原子核が放射性であるか否かだけが異なり、その物理的、化学的性質の差は無視できる程度に小さい。除染処理としては、各種のものが知られているが、いずれも、物理的、又は化学的な処理であるため、60Co等と59Coに対する除去能力は同等である。従って、除染処理によるCo層12(59Co)の変化を調べることにより、除染能力の評価を行うことができる。
【0020】
マグネタイト層131は、鉄やステンレスにおける錆止め処理として一般的に知られている黒染めっきによってCo層12上にFeとして形成することができる。このマグネタイト層131の厚さは、めっき条件等で制御することが可能であるが、一般的には2μm程度である。また、母材11に亀裂20が形成されている場合でも、亀裂20内部のCo上に形成することができる。マグネタイト層131は、付着した錆を模しているが、黒染めっきによって容易に形成することができる。
【0021】
ヘマタイト層132は、赤色の顔料として知られる三酸化二鉄(赤鉄鉱)の粉末で構成される。これを形成するためには、通常の塗料と同様に、溶剤に三酸化二鉄粉末を混合した液状の混合物を塗布し、溶剤を蒸発させればよい。従って、通常の塗料と同様に、溶剤に対する粉末の濃度や塗布回数の調整によって、ヘマタイト層132の厚さを制御することができる。また、マグネタイト層131と同様に、これを容易に形成することができる。
【0022】
以上より、実際の原子炉等廃棄物を模した構成をもつ模擬試料10を製造することができる。この模擬試料10には実際の放射性同位元素は含まれていないために、その取り扱いは容易である。また、この模擬試料10は、めっきや塗布の単純な工程を用いて容易に製造することができ、かつ、これを構成する各層の膜厚も一様とすることが可能であり、実際の原子炉等廃棄物と同様の亀裂や孔食を形成することも容易である。従って、低コストでこの模擬試料10を製造することができる。
【0023】
本発明の実施の形態となる除染能力評価方法は、この模擬試料10を用いて行われる。図2に示すように、この除染能力評価方法においては、まず、模擬試料10が作成され(S1)、この模擬試料10に対して、実際の放射性廃棄物に対して行われるものと同様の除染処理が行われる(S2)。その後、模擬試料10の表面組成の分析を行うことにより、除染能力が評価される(S3)。
【0024】
模擬試料10の作成(S1)については、前記の通りである。
【0025】
次に、この模擬試料10に対して、除染能力を評価する対象となる除染処理を行う(S2)。除染処理としては、試料表面を物理的、化学的に研磨する方法や、レーザー光によって汚染層を除去する特許文献1、特許文献2に記載された方法等を適用することができる。この除染処理に際しての模擬試料10の表面付近の断面構造の変化を図3に示す。図3においては、模擬試料10が、その表面側から除去されていく状態が示されており、除染処理前の状態を示す(a)から除染処理終了後の状態を示す(e)までの亀裂20付近の状態が模式的に示されている。ここで除去すべき対象は、60Co等を模したCo層12であり、研磨やレーザー光の照射によって、ヘマタイト層132,マグネタイト層131、Co層12が上から順次除去される。ただし、母材11中に存在する亀裂20中では、Co層12の除去は容易ではなく、母材11の表面における亀裂20以外の領域が除去された図3(d)の状態においても残存している。この状態は、実際に亀裂や孔食が存在する原子炉等廃棄物に対して除染処理が行われる状況を模している。このように、亀裂や孔食が存在する原子炉廃棄物に対しては、母材の大部分の表面が除去された状態(図3(d))であっても、亀裂や孔食中の放射性同位元素は残存している。従って、充分な除染を行うためには、図3(e)の状態にすることが必要である。
【0026】
なお、実際の原子炉等廃棄物においては、Coの放射性同位元素だけではなく、他の放射性同位元素として例えば54Mn等も存在し、除染処理において、平坦な部分におけるCoの除去効率とMnの除去効率とは異なる場合もある。しかしながら、特に亀裂20が深い場合、実際の除染処理において処理時間を要するのは、平坦な部分における放射性同位元素を除去する工程(図3における(b)から(c)に至る工程に対応)ではなく、亀裂20中の放射性同位元素を除去する工程(図3における(c)〜(e)に至る工程に対応)である。亀裂20中の放射性同位元素を除去する工程に要する時間は、主に母材11の種類によって決まり、放射性同位元素の種類がこの時間に与える影響は小さい。従って、Co層12を用いた上記の模擬試料10を用いることによって、除染能力の評価を適切に行うことができる。また、この際、Co層12の厚さを実際に付着する放射性物質の厚さと同程度とする必要はなく、これよりも厚くしてもよい。例えば、この厚さを、実際に付着する放射性物質の1000倍以上の厚さとすることもできる。この場合には、Co層12が除去される工程(放射性同位元素が除去される工程に対応)の評価をより精密に行うことができる。この場合においても、Co層12をめっきによって容易に形成することができ、かつ、このCo層12は放射性でないため、危険性は全くない。
【0027】
この除染能力評価方法においては、この状況を、除染処理後の模擬試料10に対する表面組成分析を行い、表面のCo量を測定する(S3)ことによって精度よく評価することができる。表面組成分析は、蛍光X線の解析によって行うことが可能である。具体的には、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)が可能である。この場合の測定装置の概要が図4である。真空中で、電子ビーム光学系30から模擬試料10に対して、電子ビーム31が照射される。これによって模擬試料10から発せられた2次電子は、2次電子検出部40で検出される。この際、電子ビーム光学系30によって、模擬試料10の表面において電子ビーム31を走査することができる。この際に発生した2次電子を2次電子検出部40で検出することができ、走査に応じた2次電子画像が得られる。この機能(装置)は、いわゆるSEM(Scanning Electron Microscope)であり、これにより、模擬試料10表面の2次電子画像が得られる。これによって、観察者は、このSEMの出力画像(2次電子画像)において、模擬試料10表面の亀裂20等を確認することができる。
【0028】
電子ビーム31の照射によって模擬試料10表面の元素が発する蛍光X線(特性X線)は、X線検出部50によって検出される。X線検出部50としては、例えば半導体検出器等が用いられ、X線の強度(カウント)と、X線エネルギーとが測定され、X線スペクトルが得られる。このX線スペクトルにおいて、Co層12(Co)の発する蛍光X線と、母材11の主成分であるFe、Cr等の発する蛍光X線とを識別することができれば、各々のピーク強度からCo、Fe、Cr等の存在比率を算出することができる。これにより、Coが表面に残留しているか否かを確認することができる。なお、この際の蛍光X線のエネルギーは、一般の原子炉廃棄物(放射性廃棄物)における60Co等が発するγ線のエネルギーよりもはるかに小さい。従って、通常のEPMA測定器を用いて安全に測定を行うことができ、この測定に際し、放射線防護のための大規模な施設は不要である。蛍光X線強度は60Coが発するγ線よりもはるかに強く、容易に高精度で検出できる。
【0029】
また、蛍光X線の検出に際しては、電子ビーム31の走査に応じて特定エネルギーをもつX線のカウント数を測定することもできる。従って、例えばCoの蛍光X線の2次元画像も、上記の2次電子画像と同様に得ることができる。従って、亀裂20中に局所的にCoが残留している状況(図3(c)(d))も的確に認識することが可能である。
【0030】
模擬試料10表面からのCoの蛍光X線強度が許容レベル以下となった場合に、除染処理が終了した(図3(e)の状態になった)と認識される。この許容レベルとは、例えばX線検出部50の検出限界である値、あるいは、母材11中にCoが存在している場合には、母材11中のCo濃度に対応する値である。除染能力は、この除染処理時間の長短で評価することができる。また、図2のフローにおいて、除染処理(S2)と表面組成分析(S3)は、表面組成分析(S3)においてCoの蛍光X線がどの箇所からも(特に亀裂20や孔食において)許容レベル以下となるまで適宜繰り返すことができ、それまでに要した除染処理量あるいはこれに要した時間の総計の長短によって除染能力を評価することができる。
【0031】
ここで用いられた模擬試料10において、母材11は、実際の放射性廃棄物と同様の材料(例えばSUS304L、SUS316L等、あるいは炭素鋼等)とすることができる。マグネタイト層131、ヘマタイト層132の厚さも、例えば定期点検の際の放射性廃棄物を模す場合には薄く、原子炉等の廃棄の際の放射性廃棄物を模す場合には厚く、適宜設定することができる。また、前記の通り、マグネタイト層131の厚さは黒染めっき条件により、ヘマタイト層132の厚さは塗布条件(塗布回数、濃度等)により、それぞれ任意かつ容易に制御できる。Co層12の厚さについても、マグネタイト層131と同様にめっき条件により制御することが可能である。
【0032】
また、実際の原子炉等廃棄物の表面における亀裂や孔食を模した亀裂20を前記の処理によって容易に形成することができ、かつ、この亀裂や孔食の内部の放射性同位元素(60Co等)の除去の状況も、Co層12が除去される状況によって再現することができる。また、定期点検の際の放射性廃棄物を模す場合には亀裂20を浅くし、原子炉等の廃棄の際の放射性廃棄物を模す場合には亀裂20を深くしてもよい。すなわち、この模擬試料10においてCo層12が除去される状況を、実際の放射性廃棄物における60Co等が除去(除染)される状況を忠実に再現したものとすることができる。また、前記の通り、亀裂や孔食が深い場合には、Co層12の厚さを実際の放射性物質の厚さの1000倍以上とすることも可能である。
【0033】
このCo層12が除去される状況の評価は、SEM及びEPMAによって容易かつ正確に行うことができる。しかも、Co層12を非放射性の59Coで構成することができ、他の構成要素であるマグネタイト層131、ヘマタイト層132も非放射性であるため、模擬試料10を取り扱うための放射線防護施設、特別な放射線測定環境や放射線測定設備等は一切不要である。
【0034】
従って、上記の除染能力評価方法、あるいは上記の模擬試料を用いて、低コストで再現性よく除染能力の評価を行うことができる。
【0035】
なお、上記の例では、酸化鉄層13は、マグネタイト層131、ヘマタイト層132の2層構造であるとしたが、この構成は実際の放射性廃棄物の形態・構造によって適宜設定することができる。例えば、酸化鉄層13をマグネタイト層131、ヘマタイト層132のいずれかの単層、あるいは、下層側にヘマタイト層132、上層側にマグネタイト層131を形成した2層構造としてもよい。いずれの場合でも、上記と同様に酸化鉄層13を容易に形成することができ、その厚さ制御も容易である。
【0036】
また、Co量を測定するための表面組成分析として、EPMAを用いる場合について説明したが、これに限られるものではなく、他の分析方法、例えば、レーザー光を用いた組成分析法であるレーザーブレークダウン分光法等を用いることもできる。
【0037】
また、上記の例では、原子炉や加速器等に用いられる冷却水系の配管の廃棄物を模したものとして上記の模擬試料を説明したが、これに限られるものではない。これ以外の放射性廃棄物であっても、錆が付着し、かつ亀裂や孔食が部材に発生するものであれば、上記の模擬試料における各構成要素を実際の放射性廃棄物に適合させることによって、放射性廃棄物に対する除染能力を適切かつ簡易、安全に評価することが可能である。
【0038】
本発明の模擬試料の実施例として、各種の放射線廃棄物を適切に模した構成の例を表1に示す。
【0039】
【表1】

【符号の説明】
【0040】
10 模擬試料(評価用模擬試料)
11 母材
12 Co層
13 酸化鉄層
20 亀裂
30 電子ビーム光学系
31 電子ビーム
40 2次電子検出部
50 X線検出部
131 マグネタイト層
132 ヘマタイト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材上に存在する放射性物質を除去する除染処理の除染能力を評価する除染能力評価方法であって、
前記部材と同一物質からなる母材上に、非放射性のコバルト層、酸化鉄層が順次形成された構成の評価用模擬試料に対して、前記除染処理を行い、
前記除染処理を行った後の前記評価用模擬試料表面のコバルト量を測定することによって、前記除染能力を評価することを特徴とする除染能力評価方法。
【請求項2】
前記コバルト量の測定は蛍光X線強度を測定することによって行うことを特徴とする請求項1に記載の除染能力評価方法。
【請求項3】
前記酸化鉄層は、四酸化三鉄からなる層を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の除染能力評価方法。
【請求項4】
前記四酸化三鉄からなる層は黒染めっきによって形成されることを特徴とする請求項3に記載の除染能力評価方法。
【請求項5】
前記酸化鉄層は、三酸化二鉄からなる層を含むことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の除染能力評価方法。
【請求項6】
前記三酸化二鉄からなる層は塗布により形成されることを特徴とする請求項5に記載の除染能力評価方法。
【請求項7】
前記母材表面に亀裂又は孔食を形成することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の除染能力評価方法。
【請求項8】
機械的処理後に酸洗浄を行うことにより、前記亀裂又は孔食を形成することを特徴とする請求項7に記載の除染能力評価方法。
【請求項9】
部材上に放射性物質が付着した構成の放射性廃棄物における前記放射性物質を除去する除染処理の除染能力を評価するために用いられる、前記放射性廃棄物を模した評価用模擬試料であって、
前記部材と同一物質からなる母材上に、非放射性のコバルト層、酸化鉄層が順次形成された構成を具備することを特徴とする評価用模擬試料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−256273(P2010−256273A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109050(P2009−109050)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】