説明

集束イオンビーム加工装置用プローブ及びプローブの製造方法

【課題】集束イオンビーム加工装置用のマニピュレータのプローブ装置について、シンプルな構造で低コスト、汎用性のある装置構成で、広い特定領域からの抽出を実現する。
【解決手段】集束イオンビーム加工装置内において、n本(n≧2)に分岐した櫛形状の先端部13を有し、その分岐間隔が20〜200μmと幅広く、広い領域の特定部位を自在に抽出することができる集束イオンビーム加工装置用プローブとその簡便なプローブ製造方法を提供する。櫛形状プローブの先端部13がプローブ支持部12と角度を有し、先端部13が試料6に平行に操作され、精度よく広い領域の特定部位を抽出することができる。その製造方法は、30μm厚み以下の金属薄板15から櫛形状部位16を集束イオンビーム加工技術により切り出し、真空装置内でマニピュレート操作できる機構のプローブ支持部12に、ガスデポジション機能を用いて取り付けて一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の分離及び加工、特に局所領域から任意の部分を抽出して計測、分析する際に用いられる集束イオンビーム加工装置用プローブ及びプローブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビームを試料に照射した時に発生する二次荷電粒子を検出することにより、微細な組織観察を行う技術はよく知られている。特に最近では、荷電粒子ビームとしてGaイオンを利用し、その際に発生する二次荷電粒子として電子を検出することにより、表面粗度や組成変化、結晶方位変化などを観察する技術が報告されている。またこの方法は、Gaイオンによるスパッタリング効果を利用して、透過電子顕微鏡用の薄片試料を作製する方法(集束イオンビーム加工法)としてもよく知られる所であり、その典型的な方法は特許文献1に開示されている。
【0003】
この集束イオンビーム加工をするための装置は、基本的には、集束したGaイオンビームを照射するためのイオンビーム光学系と、Gaイオンビームの照射対象から発生する二次電子を検出するための検出器と、該検出器で得られた二次電子に基づいて二次電子像を形成する画像表示装置を備えたものである。そしてその集束イオンビームで透過電子顕微鏡用の試料を作製するときの基本原理は、スパッタリング現象を利用している。この時、Gaイオンビームを任意且つ容易に走査することが可能であり、サブミクロンオーダーでの透過電子顕微鏡用の試料加工ができる。この結果、集束イオンビーム加工法を用いたサブミクロン厚みの極薄試料を必要とする透過電子顕微鏡用の試料作製技術は飛躍的に向上した。現在の集束イオンビーム加工法は、初期の半導体製造装置の不良解析目的分野のみならず、広く磁性材料や金属材料の材料開発や製品開発において、透過電子顕微鏡で観察する際の試料作製方法として、その地位が確立している。
【0004】
集束イオンビーム加工装置の技術進展は著しく、より局所領域の断面組織をピンポイントで試料抽出するためのマイクロサンプリング技術が、非特許文献1に報告されている。さらに断面組織だけでなく試料表面に平行な面を抽出する方法が特許文献2に開示され、集束イオンビーム加工作業時にマニピュレータを装置内で駆動させるマイクロサンプリング法は、すでに半導体分野だけでなく、広く材料開発分野での分析手法として、汎用技術化されている。なおマイクロサンプリング法技術のポイントは、集束イオンビーム加工装置内の真空領域に、マニピュレート機能を有するプローブ装置を導入することにあり、本発明はそのプローブ装置の先端部分に関するものである。類似の機能を有する集束イオンビーム加工装置は、現在では種々存在し、必ずしもそれらをマイクロサンプリング法とは呼ばずに、リフトアウト法やその他の名称で呼ぶことがあるが、本発明は、本質的に真空装置内にマニピュレート機能を有する部分を導入する場合には、すべて適用可能である。
【0005】
局所領域を抽出するためのプローブ装置の先端形状については、従来、様々な改善が行われてきた。但し、基本的に微細加工志向であり、これまでの開発は、根本が太く先端が細い針形状を前提としている。そしてそのプローブの作製技術は電解研磨法が主流であり、電界研磨技術を応用した種々の方法が、例えば、特許文献3、特許文献4等に開示されている。
【0006】
またマイクロサンプリング工程では、プローブ先端を何度も試料に装着する必要があるが、この時、タングステンガスや炭素ガスを試料位置に噴射し、そこにGaイオンビームを照射して、一種の化学気相反応を起こさせ、非晶質構造で任意形状に広がる接着力のある蒸着膜を形成させる。これがガスデポジション法と呼ばれるが、この際、半導体デバイスなどでは、ガスの拡がりによる局所的な試料汚染が問題となることがある。そこでガスを用いずに、試料を挟み込む形で母材から試料を分離、抽出することが可能な針状プローブが特許文献5に開示されている。ここでも前提は根元が太く先端が細い針形状である。また同様にガスデポジション工程を省略できる方法として、プローブの先端部が割れている形状で、抽出目的の試料片を挟んで弾性力により試料を保持しながら取り出す方法が、特許文献6に開示されている。但し、大きな領域をはさむことは難しく、また試料形状により保持が不安定になる。
【0007】
このように半導体技術分野を中心として微小領域からの試料抽出技術が進んだが、そこでの対象とする試料のサイズは、幅10μm、厚み2μm、高さ10μm程度の体積領域であった。これに対して、材料研究分野においては、例えば鉄鋼材料研究におけるように、抽出した特定領域の結晶粒径が30μmから100μm程度であれば、50μm以上の広い領域を含む特定位置抽出技術が要望されるようになるが、真空装置の中で大きな形状のマニピュレータを自在に操ることは難しく、簡便な技術開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−180739号公報
【特許文献2】特開平5−52721号公報
【特許文献3】特開平4−184838号公報
【特許文献4】特開平6−128800号公報
【特許文献5】特開2006−292766号公報
【特許文献6】特開2000−2630号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T. Ohnishiら,Proc. 25th International Symposium for Testing and Failure Analysis,California, (1999)p.449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述したような現状に鑑みてなされたものであり、集束イオンビーム加工装置用のマニピュレータのプローブ装置について、シンプルな構造で低コスト、汎用性のある装置構成で、広い特定領域からの抽出を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の要旨とするところは次の通りである。
(1)集束イオンビーム加工装置において、試料をマニピュレートするためのプローブ装置の先端部材として用いる集束イオンビーム加工装置用プローブであって、n本(n≧2)に分岐した櫛形状の先端部を有し、前記先端部の分岐間隔が20μm以上200μm以下であることを特徴とする集束イオンビーム加工装置用プローブ。
(2)前記先端部と前記先端部を支持するプローブ支持部とのなす角度が100°以上130°以下であることを特徴とする(1)に記載の集束イオンビーム加工装置用プローブ。
(3)上記(1)または(2)に記載の集束イオンビーム加工装置用プローブの製造方法であって、集束イオンビーム加工装置を用いて、厚さ30μm以下の金属薄板から、先端がn本(n≧2)に分岐した櫛形状部位をビーム加工形成する工程と、マニピュレートするための前記プローブ支持部の中央を溝加工する工程と、前記プローブ支持部と前記櫛形状部位を、ガスデポジション法により接合する工程と、前記櫛形状部位を最初の金属薄板から切り離し、前記プローブ支持部と一体化させる工程と、前記櫛形状部位の先端部分を3μm以下の幅に加工する工程と、からなることを特徴とする集束イオンビーム加工装置用プローブの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、集束イオンビーム加工作業におけるマイクロサンプリング法の工程で、従来は困難であった50μm以上の大きな試料の抽出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】集束イオンビーム加工装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の櫛形状プローブを用いたマイクロサンプリング法による特定領域を含む大体積領域の試料抽出方法の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の櫛形状プローブの製造方法の一例を示す正面図である。
【図4】プローブと試料の位置関係を説明する側面図であり、(a)は従来例、(b)は本発明例を示す。
【図5】本発明の櫛形状プローブによる試料抽出手順の例を示す写真である。
【図6】本発明の実施例であり、プローブ先端部が3本に分岐した櫛形状プローブの製造工程を示す写真である。
【図7】本発明の異なる実施例であり、(a)は製造工程を示す写真、(b)は使用例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0015】
集束イオンビーム加工装置の概要を図1に示す。対象とする試料6、及びマイクロサンプリング用のマニピュレータであるプローブ装置先端部10は、真空チャンバー1の中に配置されている。真空系で接続されたイオンビーム光学系2で、液体線源であるGaイオンがイオンビーム化され、かつ30〜40kVに加速されて、図示しない集束レンズ系を経て、試料6に照射される。イオンビームが照射された部位からは二次電子が発生し、これを二次電子検出器5で受けて、画像表示装置3で画像化する。走査されたGaイオンビームに対し発生した二次電子強度を電気量に変換する二次電子検出器5を通じて同期させることにより、走査イオン顕微鏡像が得られる。また、マニピュレート機能により真空チャンバー1内にプローブ装置9を導入する。プローブ装置9は、透過電子顕微鏡用試料作製手法として、観察したい特定部位7を抽出するためのマイクロサンプリング法を行うために、真空チャンバー1の筐体との間でベローズ8を介して真空を確保して装着される。プローブ装置先端部10の先端に、試料6の特定部位7を抽出するためのプローブ11が装着されている。一般に、このプローブ11は、鉛直方向に対して20〜30°の角度をなしており、斜めに試料6の表面に向かうように設計されている。なお、マイクロサンプリング法においては、何度もプローブ装置先端部10を試料6に接着したり離したり、また抽出した試料6の特定部位7を別の透過電子顕微鏡用の支持台に載せて接着固定する必要があり、これらの一連の操作における試料6と対象物との接着方法として、化学気相法により非晶質の蒸着膜を形成させる方法があり、このためにタングステンや炭素ガスを活用したガスデポジション機構4が装着されている。
【0016】
なお、図1に示す上記の構成は、集束イオンビーム装置、或いは収束イオンビーム装置と呼ばれていて、広く汎用的に普及している装置である。
【0017】
従来のマイクロサンプリング法でのプローブ先端形状は微細な針形状であり、その先端を、抽出したい試料片の一端に接着してピックアップする際、片持ち針形状となるため、ピックアップできる大きさは高々、幅20μm程度が最大であった。それ以上に大きな試料のピックアップにおいては、他端側が切り離し時に大きく振れやすくなるために、周囲の溝に再接着を起こすなどの作業上の困難さが生じていた。
【0018】
そこで、本発明による櫛形状プローブを用いたピックアップの様子を模式的に図2に示す。図2(a)に示す試料6の特定部位7近傍の断面組織を透過電子顕微鏡で観察するために、本発明の櫛形状プローブ20によって試料抽出する手順を説明する。この時、鉄鋼材料をはじめとして実材料の組織は不規則であり、50μm以上の大きな領域を含めて抽出する必要がある。まず抽出したい特定部位7の周囲を図2(b)に示すように、Gaイオンビーム加工により溝加工する。そして図2(c)に示すように、プローブ支持部12に取り付けられた櫛形状の先端部13により、大体積領域を抽出する。点線の円内に示したものは従来のマイクロサンプリング用プローブ22である。試料6の特定部位7を抽出する際に、櫛形状の先端部13と特定部位7は、ガスデポジション法により接着して持ち上げられる。取り出した特定部位7を、別に用意した透過電子顕微鏡ステージに適した正面形状が半円形のマウント台14に、同じくガスデポジション法で接着固定した後に、図2(d)に示すように、櫛形状の先端部13の先端部分をGaイオンビームにより切断する。このような一連の方法で、50μm以上の大体積の特定部位7を、位置決めをしながら抽出することができる。
【0019】
次に、本発明の櫛形状プローブの製造方法について、図3を参照して一例を説明する。これは集束イオンビーム加工装置内で加工作製することができる。まず、厚さ15μmのMo材質の薄板15を用意して、図3(a)に示したような櫛形状部位16をビーム加工する。ここでは、櫛形状に分岐したプローブ先端部17の針の本数がn=2、櫛形状部位16の長さ200μm、分岐間隔約20μmで作製した。櫛形状部位16は、この時点ではまだ薄板15と繋がっている。なお、薄板15の材質はMoに限ることはなく、CuやNiなどの他金属材料でも問題はない。但しNiは強磁性であるので電顕観察時に悪影響を及ぼすことがあり、非磁性の金属材料薄板であることが望ましい。またその厚みは、抽出対象とする試料6の特定部位7の厚みが数μmから十数μmであることを考えると、厚さ30μm以下の金属薄板が好ましい。30μmより厚い場合は、抽出する試料6の特定部位7の厚みに比較して厚すぎるので、操作性において悪影響を及ぼすことになる。また、薄い方がイオンビーム加工時間を削減できるので、30μmよりも薄い金属薄板であればより好ましく、図3は厚さ15μmの例である。
【0020】
次に、模式図を図3(b)に示すように、マイクロサンプリング用のプローブ支持部12の先端部18の中央を溝加工する。そして、図3(a)で加工された櫛形状部位16の上部とプローブ支持部12の先端部18とを図3(c)に示すように組み合わせて、マイクロサンプリング用の治具(プローブ支持部12)と櫛形状部位16とを一体化させる。図は正面からみたものであり、櫛形状部位16は紙面内に平行であるが、マイクロサンプリング用のプローブ支持部12は、紙面に対して80°程度の角度で取り付けられる。それ故、プローブ支持部12の先端部18と櫛形状部位16の上部との接合部分は立体構造になっていて、ここをガスデポジション法で接着して接着部19が形成される。
【0021】
その後、櫛形状部位16をGaイオンビームで切断し、図3(e)に示すように、Moの薄板15から切り離す。そして、櫛形状プローブ20のプローブとして用いられる先端部分21の形状を、それぞれさらに微細加工して、図3(f)に示すように細く整える。この時の先端部分21の1つの針の幅は、3μmより大きい場合は、櫛形状プローブ20を試料へ接着する時や切り離す時の操作性が悪くなり、特定部位の抽出に成功する歩留りが50%以下となり現実性に欠けるので、幅3μm以下とする。幅の下限は特に規定しないが、1μm程度よりも小さくなると、試料を持ち上げる時の強度が不足し、特定部位の抽出に成功する歩留りが落ちるため、実際上は1μm幅程度以上は必要とされる。このような条件を満足する加工作業により、最終的に、図3(g)に示すような形の櫛形状プローブ20が製造される。いずれも真空中の集束イオンビーム加工装置内で製造することができる。この際、図3(f)に分岐間隔を20μmと示したが、20μm未満では加工間隔が狭すぎて、イオンビーム加工時にフレッシュな表面が出た時に互いに吸着して分岐を維持することが困難になる場合があるので、分岐間隔を20μm以上とした。またFIBイオンビーム加工に供する時間を数時間以内と現実的な作業時間内とするために、分岐間隔の最大値は200μmとした。さらに定常的な加工時間を考えると、100μm間隔以下であることが望ましい。なお、本明細書において、分岐間隔とは、プローブ先端の針同士の間隙の寸法である。
【0022】
次に、この櫛形状プローブ20の立体的な構造について説明する。図4(a)に示すように、従来のマイクロサンプリング法では、プローブ22は試料に対して20〜30°、例えば図示するように30°の角度で導入され、試料の特定部位7とガスデポジション法にて接着される。これに対して、本発明の櫛形状プローブ20の先端部13は、試料表面にほぼ平行に導入され、プローブ支持部12とは、図4(b)に示すように90°以上、例えば図示するように115°の角度を有することになる。一般に、プローブ支持部の導入角度は、装置内におけるマニピュレート動作範囲と関連するが、本発明者らが調査したところ、10〜40°の範囲の導入角度であれば走査可能であることが確認できた。さらにより安定した動作とするために、20〜30°の導入角度であることが望ましい。これに対して、本発明の櫛形状プローブ20の先端部13は、プローブ支持部12とは角度を有して取り付けられるので、試料表面にほぼ平行に導入される。なお先端部13とプローブ支持部12との角度が100〜130°であれば、走査可能となる。さらに動作性を考慮した場合、先端部13がプローブ支持部12に対して110〜120°の角度範囲で取り付けられると、より安定な動作が可能になる。
【0023】
また試料によっては、表層部近傍の組織を観察したい場合があり、このような場合に、最表層にピックアップ用のプローブを接着することは、ダメージの観点から避けたい場合がある。このような場合は、抽出対象とする試料の周囲にプローブを接着することが必要であり、図5(a)に示すように、先端部25の針の長さを意図的に変化させた櫛形状プローブが有効である。これにより、目的とする試料表層部のダメージを避けつつ、図5(b)のように抽出対象とする特定範囲7の周囲に先端部25の針を接着して試料抽出することができる。
【0024】
以上の一連の説明に示した通り、集束イオンビーム装置内での加工により、50μm以上の大体積領域を抽出するために適した櫛形状プローブの作製が可能であり、その際に、目的とする試料部位に合わせて、櫛形状プローブの先端部の針を2本、3本、4本と任意にその間隔を含めて増やす事が可能であり、また先端部の長さも調整することができる。但し、針の本数が多いとそれだけプローブ加工時間が長くなり、また電顕観察用試料の抽出であることを考えると最大でも1mm程度の大きさの試料抽出が現実的であり、針の本数nは10以下が好ましい。さらに、従来のプローブ支持部を活用して、100〜130°の角度で櫛形状プローブの先端部を接着することで、抽出したい試料表面に平行に近い状態でのサンプリングが可能になった。
【実施例】
【0025】
櫛形状プローブを有するマイクロサンプリング法により、平均粒径20μm程度の鉄鋼材料中の粒界近傍の組織観察において、複数の粒界を含んだ形での大体積の試料抽出を行った。すなわち、幅60μm程度の領域を抽出するために、図6に示すように、分岐間隔が約20μmの3本の針からなる先端部26を持つ櫛形状プローブを、厚さ15μmのMo薄板から製造した。図示するように、櫛形状部位全体の長さは約200μmである。プローブ支持部と接着する部分28は3μm角とし、Mo薄板との結合部分27を最後に切り離すことで、3本の針からなる先端部26を有する櫛形状プローブができた。これにより、変形部の2個以上の結晶粒を含む特定領域を抽出することができ、粒界に応力集中して転位が集まる組織観察が可能になった。変形が集中した特定部位の組織解析では、複数の粒界を含む転位組織観察が必須であり、本発明により初めて、このような大体積部分からの電子顕微鏡用試料抽出が可能になった。
【0026】
次に、さらなる櫛形状プローブの応用として、任意形状加工ができる最近の集束イオンビーム加工法への対応も考慮し、図7に示すように、先端部を形成する針の本数n=5で、かつ、各針は必ずしも平行ではなく、両端の針が傾斜している櫛形状プローブを製造した。その加工過程を図7(a)に示す。前述の製造方法と同様にMo薄板を活用し、薄板との接続部29を確保し、最終的には接続部29をイオンビーム加工で切断した。プローブ支持部との接続は、上部30で行った。図6(b)に示す模式図のように、両端の針のうち一方の傾斜部31と他の2つの針に、L字型形状の特定領域32を接着部33で接着した。このようなL字型形状の特定領域32を抽出することで、透過電子顕微鏡で観察するための最終薄片加工を、上下方向と左右方向の二方向から行うことが可能であり、従来の透過電子顕微鏡観察が特定領域の一方向からしか観察できなかった事に対して、異なる方向からの組織観察を可能にすることができた。つまり二面観察が透過電子顕微鏡でも可能になり、結晶構造解析技術が飛躍的に進歩した。
【符号の説明】
【0027】
1 真空チャンバー
2 イオンビーム光学系
3 画像表示装置
4 ガスデポジション機構
5 二次電子検出器
6 試料
7 特定部位
9 プローブ装置
10 プローブ装置先端部
11 プローブ
12 プローブ支持部
13 (櫛形状プローブの)先端部
14 マウント台
15 薄板
16 櫛形状部位
17 プローブ先端部
18 (プローブ支持部の)先端部
19 接着部
20 櫛形状プローブ
21 先端部分
22 (従来のマイクロサンプリング法における)プローブ
26 先端部
27 Mo薄板との結合部分
28 プローブ支持部と接着する部分
29 薄板との接続部
30 上部
31 傾斜部
32 L字形形状の特定領域
33 接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム加工装置において、試料をマニピュレートするためのプローブ装置の先端部材として用いる集束イオンビーム加工装置用プローブであって、
n本(n≧2)に分岐した櫛形状の先端部を有し、前記先端部の分岐間隔が20μm以上200μm以下であることを特徴とする集束イオンビーム加工装置用プローブ。
【請求項2】
前記先端部と前記先端部を支持するプローブ支持部とのなす角度が100°以上130°以下であることを特徴とする請求項1に記載の集束イオンビーム加工装置用プローブ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の集束イオンビーム加工装置用プローブの製造方法であって、
集束イオンビーム加工装置を用いて、厚さ30μm以下の金属薄板から、先端がn本(n≧2)に分岐した櫛形状プローブ部位をビーム加工形成する工程と、
マニピュレートするための前記プローブ支持部の中央を溝加工する工程と、
前記プローブ支持部と前記櫛形状部位を、ガスデポジション法により接合する工程と、
前記櫛形状部位を最初の金属薄板から切り離し、前記プローブ支持部と一体化させる工程と、
前記櫛形状部位の先端部分を3μm以下の幅に加工する工程と、
からなることを特徴とする集束イオンビーム加工装置用プローブの製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−258322(P2011−258322A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129583(P2010−129583)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】