説明

集束イオンビーム装置

【目的】 MEMSや半導体デバイス半導体素子の構造解析や不良解析において、より高速、かつ高精度の加工と高分解能の像観察を実現する。
【構成】 イオン源1のエミッタ先端からイオン源に最も近い集束レンズ2を構成している接地電極までの距離が5〜14mmの範囲にある2段レンズ光学系をFIB装置に搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam; FIB)に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、集束イオンビーム装置は多くの分野で利用されている。特に、この細く絞ったビームは微小領域に対応可能であり、この領域で使用される。また、この装置は、イオン源からのイオンビームをレンズで細く集束して試料に照射するものであり、微小領域での試料の加工及び試料の観察に用いられる。例えば、比較的小さな電流のイオンビームを試料に照射すれば、試料から発生する2次粒子を検出することにより試料の観察に用いることができる。また、比較的大きな電流のイオンビームを試料に照射すれば、試料を加工することができる。
【0003】
さらに、集束イオンビームは微細な電気部品や機械部品(Microelectrical mechanical systems; MEMS)や半導体デバイスなどの構造解析や不良解析に用いられる。これらの素子は近年集積化しており、そのため、一般に、積層構造を有している。そのためこれらを検査するには、所定の層まで断面加工してその断面構造を検査する必要がある。MEMSや半導体デバイスの微細化と共にその構造も次第に複雑になったため、その検査対象断面数は、益々増し、一断面当たりの検査に使える時間は益々短くなっている。集束イオンビームは加工及び観察が共に可能であるので、MEMSや半導体デバイスの構造解析や不良解析に有効である。まず、イオンビームの電流を大きくして半導体の表面から所定の層まで加工して、それから、イオンビームの電流を小さくして所定の層の状態を検査するのである。
【0004】
ところで、例えば、特許第3265901号に記載されている従来の装置は、光学系について、イオン源のイオンエミッタ先端から試料までの全イオン光学長は300mmから450mmの範囲にあり、イオン源から集束レンズ中心までの距離は45mm以下、対物レンズ中心から試料までの距離は40mm以下である。この光学系が形成するFIBの最大電流密度Jmaxは15A/cm2以上、加工モードの仕上げ加工ビームはビーム電流IpがIp≧数10pAでビーム径dがd≦40nm、また観察モードの観察ビームはIp≧数pAでd≦15nAである。
【0005】
【特許文献1】特許第3265901号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、イオンビーム装置では、加工モードにおいて、加工位置精度はほぼそのビーム径dで決まるため、dが充分に小さくないとMEMSや半導体デバイスの構造解析や不良解析の際に、その微細な構造やパターンに適応できないという問題が生じる。一方、加工速度はそのビーム電流Ipにほぼ比例するため、Ipが充分に大きくないと、加工速度が遅くなる。そのため、構造解析や不良解析においてFIB加工の更なる高スループット化のニーズに応えるためには、加工ビームのビーム径を大きくすることなく、更なるビームの大電流化、つまり大電流密度化が課題となっている。一方、観察モードでは、イオンビームが充分に細くないと、構造解析や不良解析の際に、微細なMEMSや半導体デバイスの構造やパターンの観察ができないという問題が生じる。さらに、観察モードにおいて、イオンビームの電流が充分に大きくないと、得られる信号が小さすぎ、充分なS/Nをもった像の検出ができないという問題が生じる。また、半導体の微細化の進展とともにその観察ビームの更なる微細化も課題となっている。
【0007】
上記の従来例では、FIB加工の特に高電流側における更なる高スループット化のニーズに応えていなかった。例えば、従来装置における30kV Ga-FIBにおいて、d≒1μmのビームはIp≒16nAであり、このビームにてSi試料表面に縦20μm×横20μm×深さ20μmの穴加工を行うことを考える。30kV Ga-FIBによるSi試料の加工収率YはFIBの走査速度に依存し、0.2〜0.8μm3/nA・sの範囲にある。Y=0.25μm3/nA・s条件下では、この穴加工の時間は約17分にもなる。従って、この種の加工をたくさん短時間に行ないたいというMEMSや半導体デバイスの構造解析や不良解析における高スループット化のニーズには応えられていなかった。
【0008】
本発明の目的は、この特に高電流側における高スループット化及び観察ビームの微細化のニーズに応えるイオンビーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、MEMSや半導体デバイスの構造解析や不良解析を対象として、FIBのビーム径d、及び、イオンビーム電流Ipについて解析及び実験を繰り返し、以下の条件が必要であることを見出した。すなわち、高電流側の加工モードに対してビーム電流Ipが20nA以上で、その試料位置でのビーム径dが0.5×(Ip/20nA)3/2 [μm]以下で、ただしそのd最大値は3μmを越えないFIBが必要である。条件式d≦0.5×(Ip/20nA)3/2 [μm]は、例えばIp=20nAの時d≦0.5μm、またd=1μmの時Ip≧31.7nAのFIBに相当する。d最大値が3μmを越えないという条件は、対象とするMEMSや半導体デバイスの微細性から導入したものである。また、加工ビームの最大電流密度Jmaxについては約50A/cm2が必要である。一方、観察モードに対しては、従来例と同じく、Ip≧数pAでd≦15nmのFIBであるが、dの最小値dminに関しては、dmin≦6nmでそのビーム電流Ipが0.001nA以上のFIBが必要であることを見出した。
【0010】
この数値を達成するため、すなわち、本発明の目的であるところの半導体、不良解析を実現するため、本発明では、イオン源から放出されたイオンビームを試料上に加速して集束させる集束レンズ及び対物レンズを有し、集束レンズは、少なくとも引き出し電圧が印加された第1電極、および接地電位が印加された第2電極を備える集束イオンビーム装置において、イオン源のエミッタ先端から前記集束レンズの第2電極までの距離が5〜14mmの範囲にあるように構成した。
【0011】
上記の構成によれば、高電流側の加工モードに対して前記ビーム電流Ipが20nA以上で、試料位置でのビーム径dが0.5×(Ip/20nA)3/2 [μm]以下のFIBが形成できる。つまり、Ip=20nmでd≦0.5μm、d=1μmではIp≧31.7nAのFIBである。また、加工ビームの最大電流密度Jmaxは50A/cm2が達成できる。例えば、d=1μmでIp≒32nAのFIBを用いて前述と同様にSi試料表面に縦20μm×横20μm×深さ20μmの穴加工をした場合、その穴加工の時間は約8.5分と従来値の約1/2に短縮できる。一方、観察モードに対しては、dの最初値dminに関して、dmin≦6nmでそのビーム電流Ipが0.001nA以上のFIBが形成できる。この結果として、MEMSや半導体デバイスの構造解析や不良解析が高スループットでかつ高精度に可能となる。
【0012】
なお、特開2002-251976号公報には、液体金属イオン源から集束レンズまでの距離を10mm以下にすることが記載されている。しかし、その目的は、イオン源からの距離と共に広がっていく放出イオンが集束レンズの電極(中心孔の外側部)に当たらないようにするためである。放出イオンが集束レンズに当たるとその個所はスパッタリングにより削れてしまい、装置の寿命が短くなってしまうからである。しかし、この公知例は本発明とは目的が異なるため、集束レンズ電極の電位情報に関しては全く記載がない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、MEMSや半導体デバイスの構造解析や不良解析が高スループットに実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
図1は、FIB装置のイオン光学系概略構成図である。イオン源1は、輝度の高いガリウム(Ga)の液体金属イオン源(Liquid Metal Ion Source; LMIS)である。イオン源1から放出されたイオンは集束レンズ2と対物レンズ8により試料10に集束させられる。FIB9のビーム径あるいはビーム電流は集束レンズ2の直後に置かれたビーム制限絞り3にて決まり、試料10上でのビーム走査は静電型偏向器7にて行われる。試料10は試料ステージ11に載せられおり、XYZ移動と回転、傾斜が可能である。ビーム制限絞り3の下流側には、アライナー/スティグマ4、ブランカー5、ブランキングプレート6が配置されている。FIB照射によって試料10から放出された2次粒子は、荷電粒子検出器12によって検出される。
【0015】
集束レンズ2は、図2にその概略が示されるように4枚電極で構成されており、上から1枚目、2枚目、…と数え、その電極をそれぞれ2_1、2_2、…とする。1枚目から4枚目までのそれぞれの電極には、引き出し電圧Ve(イオン源のエミッタ電位を基準)、接地電位、レンズ電位V1、接地電位が印加されている。2枚目の電極を分割して光軸にそって2分割する場合もあるが、両者は同電位であり、この間にレンズ作用は発生しない。
【0016】
次に、集束レンズの切り替えによるモード変化を説明する。集束レンズの第3枚目電極1_3の電位V1を切り替えて2種類の集束モード、つまり(a)FIB加工用の高電流密度ビームモードと、(b)走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope; SIM)像観察用の微細ビームモードを実現する。加工モードにおいては、ビーム径毎に(ビーム制限絞り3の孔径毎に)レンズ電位V1は更に調整されている。図2において、光軸近傍にイオン行路を左右1本づつ示しているが、左側の行路が代表的な観察ビームに対応し、右側の行路が代表的な加工ビームに対応している。
【0017】
ここで、本発明の実施例を明確とするため、従来の技術について説明する。従来装置のレンズ構成は、図2と同様であり、レンズ電極間の光学長のみが異なる。イオン源1のイオンエミッタ先端から試料10までの全イオン光学長Ltは300〜450mmの範囲、イオンエミッタ先端から集束レンズ中心までの距離Z3は45mm以下、対物レンズ中心から試料までの距離Liは40mm以下である。従来装置における、FIB加工用とSIM像観察用の両モードについて、ビーム径d及びビーム電流Ipの代表的カーブを、図3のグラフ上(両対数スケール)にConv.(Mil.)とConv.(Obs.)として示してある。カーブ上のマーク●及び○はビーム制限絞りの種々の孔径に対応し、1本のカーブ上ではIpの小さい側のマークほどこの絞り孔径は小さい。従来の集束イオンビーム装置は以下のようにまとめられる。
(1)加工ビームの最大電流密度Jmaxは約15A/cm2である。
(2)Ip=数10pAを持つ仕上げ加工ビームのビーム径dは≦40nmである。
(3)微細ビーム(観察)モードでは、Ip≧数pAでd≦15nmのビームが形成できる。
(4)加工モードのカーブ(Conv.(Mill.))はIp≧20nAの大電流側において、ビーム径dは球面収差によるビーム径dsが支配的になり、Ipに対して1.5乗の比例式(d=K・Ip1.5;Kは比例定数)近似でき、両対数グラフではこの近似式は傾き1.5の直線になる(後で説明する)。その比例式の比例定数K値はd及びIpの単位をそれぞれμm及びnAにとった時、常に0.5より大きい(つまり、例えば、Ip=20nAのビームは常にd>0.5μmである)。図3において、点(Ip,d)=(20nA,0.5μm)は○で示してあり、この点を通る傾き1.5の直線も示してある。
【0018】
本発明のFIB装置では、二種類のビーム、つまり、加工モードにおいてIp≧20nAの大電流側ではK値を常に0.5以下にするビームを提供し、また観察モードにおいてはdの最小値dminとして、dmin≦6nmでIp≧0.001nAのビームを提供する。
【0019】
本発明の実施例であるFIB装置におけるイオン光学系の概略を、図2を用いて説明する。光学系は集束レンズ2と対物レンズ8の2段静電レンズ構成であり、イオンエミッタ先端から集束レンズ2の第1、第2、第3、及び第4電極までの距離をそれぞれZ1、Z2、Z3及びZ4とする。この4枚の集束レンズは、第1及び第2電極から構成される、引き出し加速レンズと第2、第3及び第4電極から構成されるユニポテンシャルレンズの組合せレンズである。イオン源はGa液体金属イオン源(LMIS)であり、イオン源の加速電圧Vaccは、イオンのスパッタ加工を効率的に行なうため、30〜40kVとした。ただし、設計許容度として約3%をとり、加速電圧Vaccの最大範囲は29〜41kVとした。引出し電圧Veは5.5〜8.5kVとした。イオン源1のイオンエミッタ先端から試料10までの全イオン光学長Ltは従来装置(特許第3265901号)と同様、300mmから450mmの範囲にあり、対物レンズ中心から試料までの距離も従来装置と同様、40mm以下であり、本発明の課題を達成するためにも、この範囲の制限は必要である。
【0020】
光学長と電位を固定し、FIBを形成する集束レンズの入射側でのビーム半開角をαoとすると、ビーム径dは、一般に、ガウス像径dg、色収差によるビーム径dc、及び球面収差によるビーム径dsを用いて次式で表される。
2=dg2+dc2+ds2 (1)
dg=Mts (2)
dc=Hc・αo・ΔV (3)
ds=(1/2)Hs・αo3 (4)
Hc=Mt・Cc/Ve (5)
Hs=My・Cs (6)
【0021】
ここでΔVは放出イオンのエネルギー幅ΔEの電圧換算値、Veは引き出し電圧(エミッタ電位を原点として)、Dsはイオン源の仮想ソースサイズ(≒50nm)、Mはイオン光学系のレンズ倍率で集束レンズと対物レンズのそれぞれの倍率MとMの積に等しい。αoはイオン源側でのビーム半開角、Cc及びCsはそれぞれ色及び球面収差係数(ただし、イオン源側定義)である。一方、ビーム電流Ipはイオン源の放射角電流密度dI/dΩ(≒20μA/sr)を用いて、次式で表される。
p=(dI/dΩ)(παo2) (7)
【0022】
pが大きく球面収差によるビーム径dsが支配的でd≒dsが成立する領域では式(4)と(7)から比例定数Kを用いて
d=KIp3/2 (8)
と近似できる。
【0023】
以上の議論から、レンズ条件とレンズ間距離などの光学距離を一定とし、ビーム制限絞りの孔径のみを可変として得られるd−Ipカーブの基本的特徴として、このカーブを図4に示すように両対数でプロットすると、dは電流の大、中、小領域ではそれぞれ球面収差、色収差、及びガウス像が支配的なビーム径(ds、dc、及びdg)で近似できることがわかる。図3の加工モードのd−Ipカーブにおいては、光学距離は一定であるが、中電流領域においてビーム制限絞りの各孔径毎にビーム電流密度が最大になるようにレンズ条件を調整しており、その両対数メモリ上での近似直線の傾きは1/2から外れ1/4に近くになっている。
【0024】
まず、加工モードにおいてIp≧20nAの大電流側でこのK値を常に0.5以下にするビームを取り上げる。これは、大電流領域においてdsを小さくすることに相当する。dsを小さくすることは、Hsを小さくすること、つまり、Mtと共にCsを小さくすることである。ここでCsは光軸z上のイオン源エミッタから試料までの光軸に沿っての以下の積分から求まる。
Cs=(1/64)∫(V/Ve)1/2[4S’2+3S4−5S2S’−SS”]r4dz (9)
【0025】
ここで、SはV’/Vで、Vは光軸上の電位、V’はVのzに関する一次微分(=dV/dz)、rは光軸からの離軸量である。この被積分項の中にはrの4乗項が入っており、Csを小さくするにはレンズの中でいかにrの小さいビームを通すかがポイントであるかを見出した。
【0026】
Cs値には集束レンズと対物レンズが寄与するが、大電流化には前者の寄与が大きいため、Csを小さくするためには、集束レンズ2の引き出し加速レンズ領域(電極2_1から2_2間)の出口電極2_2(電極2_2は、その後に位置するユニポテンシャルレンズ領域[電極2_1から2_4間]の入り口電極を兼務)のz位置において、ビーム(ただし、αo=1rad)の離軸量rの4乗値r4が小さいことが必要であることがわかった。具体的には、Ipが20nA以上で、そのビーム径dが0.5×(Ip/20nA)3/2 [μm]以下のビームを形成するには、種々の計算と実験の結果、MtとCsを共に小さくする課題の内、特にCsを小さくすることが重要であり、そのためには、r4≦1600mm4(r≦6.3mm)の制限が必要であることがわかった。
【0027】
次に、観察モードにおける条件、dmin≦6nmでIp≧0.001nAについて考える。これを満足するためには、観察モードにおいては、レンズ電圧V1は接地電位であり、式(1)においてdを主に決めているのはdgとdcである。特にdgはdの最小値限界を示すもので、レンズ倍率Mt(=M12)が重要となる。そこでは、集束レンズ2のレンズ倍率M1が重要で、種々の計算と実験の結果、M1≦8の制限が必要であることがわかった。集束レンズの像点位置をエミッタ側に置いた場合(つまり、仮想像点とした場合)、M1が大きくなるとM2は小さくなるが、M1の増大率の方が勝るため、Mtが大きくなり、その結果、dgも大きくなるからである。
【0028】
上記の制限、つまり、加工モードにおけるr4≦1600mm4と観察モードにおけるM1≦8の両者を満足させるためには、種々の計算と実験の結果、イオン源1のエミッタ先端から集束レンズ構成している接地電位の接地電極2_2までの距離Z2が14mm以下である必要があることがわかった。Z2が短すぎるとエミッター1と電極2_1間や、電極2_1と2_2間で放電が起こるため、実用的には5mm以上が必要である。その結果、Z2の範囲は5〜14mmになった。
【0029】
特許第3265901号に記載の従来装置においては、イオン源1から集束レンズ中心(代表電極としてレンズ作用に支配的な第3電極2_3位置を採用)までの距離Z3が45mm以下と条件提示されているが、この条件だけでは不十分で、本発明では、イオン源1からイオン源に最も近い集束レンズの接地電極2_2までの距離Z2に関して上述の範囲5〜14mmの制限が必要である。
【0030】
以下、この範囲制限を代表的な光学長における計算特性グラフ図5(a)〜図5(c)を用いて説明する。いずれのグラフもM1及びr4のZ2依存性カーブを示している。引出し電圧Ve=6,7及び8kVである。グラフ図5(a)〜図5(c)におけるVacc及び電極2_1と2_2間距離ZL1についての計算条件を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
範囲制限M1≦8mm及びr4≦1600mm4の両者を満足するZ2[mm]の上限値は、図5(a)において、Ve=6、7及び8kVの時、それぞれ8.3、9.3及び11mmである。図5(b)においては同様に、8.5、11.4及び12.5であり、図5(c)においては同様に、12.2,13.5及び13.7である。これらを勘案したZ2最大値は13.7であり、小数を四捨五入して14とした。
【0033】
図3のd−Ip特性カーブ(Present(Mill)とPresent(obs))は、図5(b)の光学系(ただし、Ve=8kV)における特性カーブである。また、レンズ条件はビーム制限絞りの各孔径毎にビーム電流密度が最大になるように調整してある。加工モードの特性カーブPresent(Mill)におけるK値として0.2が得られている。d≒1μmのIpは、約70nAになる。また、図3のd−Ipグラフには、電流密度J=10と50A/cm2の直線(傾き1/2)も引いてある。本発明装置における加工モードのd−Ip特性カーブが部分的にJ=50A/cm2の直線を越えており、Jmax≧50A/cm2を達成している。
【0034】
本実施例によれば、従来装置と比べ加工ビームにおいて、例えばd≒1μmのIpは種々の光学条件下でも3倍以上に増大できた。d≒1μmのビームを用いた加工(加工精度は約1μm)では、加工時間が1/3以下に短縮できるようになり、MEMSや高機能微細素子などの構造解析や不良解析におけるスループットは3倍以上に大きく改善できた。一方、観察モードのSIM像観察においては、その最高像分解能は6nm以下であり、観察モードのビーム特性は従来装置と同等かそれ以上である。
【0035】
本発明装置を特許第2774884号記載の試料分離方法(以下、μサンプリング法と呼ぶ)に適用した実施例について説明する。μサンプリング法では、高機能微細Si素子などの構造解析や不良解析において、Si素子基板を分割することなく、透過電子顕微鏡(TEM)用のμサンプルをFIBで加工して試料室内に設置されたμマニプレータにより取り出すことができる。図6は、本発明装置でこのμサンプリング法におけるFIB加工を実施した後の基板のSIM画像(トップビュー:画面横幅FOV=70μm)である。大小4つの加工ボックスで囲まれた小片がμサンプルに相当する。加工部の寸法は、下部のボックスの横幅は27μm、加工最大深さは約15μmである。本発明装置の大電流ビームを用いての全ボックスの加工時間は約8分であった。加工時間は、従来装置と比べ約1/3に短縮された。
【0036】
本実施例は、μサンプル加工に適用した例であるが、通常のボックス加工を組み合わせた断面加工に適用しても同等の加工時間短縮効果が得られた。とくにMEMS部品や半導体デバイスの断面構造解析や不良解析にはこの加工時間短縮が有効で、断面作製できる単位時間当たりの試料数が2〜4倍に増大できた。これにより多くの解析数から統計的処理により不良要因を推定する手法において、その推定要因の精度向上に貢献できた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】集束イオンビーム装置のイオン光学系構成を示す図である。
【図2】2段集束レンズ構成のイオン光学長の説明図である。
【図3】従来装置及び本発明装置における代表的なビーム径−ビーム電流(d−Ip)特性図である。
【図4】レンズ条件を固定し、ビーム制限絞りの孔径のみを可変した場合のビーム径−ビーム電流(d−Ip)特性図(両対数プロット)である。
【図5】集束レンズ倍率Mとビーム半開角αoのビーム軌道の電極2_2位置における離軸量rの4乗値r4のイオン源エミッタから電極2_2までの距離Z2依存性カーブである。
【図6】本実施例の加工ビームにおけるμサンプリング加工例図(SIM像)である。
【符号の説明】
【0038】
1…イオン源、2…集束レンズ、3…ビーム制限絞り、4…アライナー/スティグマ、5…ブランカー、6…ブランキングプレート、7…偏向器、8…対物レンズ、9…集束イオンビーム、10…試料、11…試料ステージ、12…荷電粒子検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源、前記イオン源から放出されたイオンビームを試料上に加速して集束させる集束レンズ及び対物レンズ、前記集束したイオンビームを試料上で走査させる偏向器、及び前記集束したイオンビームのビーム電流あるいはビーム径を制限するビーム制限絞りを含む集束イオンビーム装置において、
前記集束レンズは、少なくとも引き出し電圧が印加された第1電極及び接地電位が印加された第2電極を備え、
前記イオン源のエミッタ先端から前記集束レンズの第2電極までの距離が5〜14mmの範囲にあることを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項2】
請求項1記載の集束イオンビーム装置において、前記イオン源が液体金属イオン源であることを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の集束イオンビーム装置において、前記イオン源のエミッタへの印加電圧が29〜41kVの範囲にあることを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項4】
イオン源、前記イオン源から放出されたイオンビームを試料上に加速して集束させる集束レンズ及び対物レンズ、前記集束したイオンビームを試料上で走査させる偏向器、及び前記集束したイオンビームのビーム電流あるいはビーム径を制限するビーム制限絞りを含む集束イオンビーム装置において、
ビーム電流Ipが20nA以上、試料位置におけるビーム径dが3[μm]を越えず、かつ0.5・(Ip/20nA)3/2[μm]以下である集束イオンビームを形成することを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の集束イオンビーム装置において、前記イオン源のエミッタ先端から試料までの光学長が、300mm〜450mmの範囲にあることを特徴とする集束イオンビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−4671(P2006−4671A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177261(P2004−177261)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】