集束イオン・ビーム装置及び集束イオン・ビーム照射方法
【課題】イオン・ビーム光軸上に磁場が存在し、更に磁場が変動する場合でもイオン・ビームが試料上で同位体分離を生じることが無く、磁場が無い場合のビーム・スポット位置へ集束する集束イオン・ビーム装置を提供する。
【解決手段】補正磁場発生部10からイオン・ビーム3の光軸上に補正磁場を発生させ、外部磁場によるイオン・ビームの偏向を相殺する。
【解決手段】補正磁場発生部10からイオン・ビーム3の光軸上に補正磁場を発生させ、外部磁場によるイオン・ビームの偏向を相殺する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地磁気や他の装置等からイオン光学系へ侵入する磁場によるイオン・ビームの偏向を相殺し、試料上のビーム・スポットを磁場の存在しないときとほぼ同一の位置に形成する技術、及びイオン・ビームが複数種の同位体を含む場合に生じるビーム・スポットの分離を回避する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FIB装置(Focused Ion Beam装置、集束イオン・ビーム装置)は、細く集束されたイオン・ビームを試料に照射することにより試料を微細加工し、また像観察するための装置として実用に供されている。イオン・ビームは、光軸上に磁場が存在する場合にはローレンツ力を受けて偏向する。FIB装置の加速電圧は通常数10kV程度であるため、地磁気によってさえもビーム・スポットが数10μm以上ずれる場合がある。更に通常使用されるイオン種であるGaは2種類の同位体Ga69とGa71を含んでおり、各々磁場による偏向の度合いが異なるためビームが2本に分離するという問題が生ずる。また、イオンがクラスターも形成している場合にもやはりビームは分離する。ビーム・スポットのずれが数10μmであれば、分離した2種の同位体イオン・ビーム間の距離は質量電荷比の差に依存し1μm程度になる場合もある。FIB装置はナノメータ・レベルの超微細加工を目的として使用されているため、このような現象を回避或いは抑制することが必須である。光軸上の磁場を排する最も簡便な方法は鏡体を磁性体で被い、磁気遮蔽を施すことであり、従来この方法が用いられてきた。特許文献1にはFIB装置の先端部にも磁気遮蔽を施す技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11-329318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし試料の近傍まで完全に磁気遮蔽することは困難である。試料を含めて装置全体を磁気遮蔽体で被えば、ほぼ完全に磁気遮蔽をすることが可能であるが、磁気遮蔽体に穴を設けたい場合も多くあり、この場合はその穴から磁場が侵入してしまう。
【0005】
通常のFIB装置は、試料上の所望の位置へイオン・ビームを照射するために静電型偏向器を備えている。これを用いて磁場による試料上のイオン・ビーム・スポットのずれを補正することは可能であるが、同時に同位体分離を解消することは不可能である。他にイオン・ビームを積極的に偏向させる手段としてはウィーン・フィルタが知られているが、これはむしろ同位体を強く分離させることにより不要な同位体成分を壁に衝突させて排除する目的で使用されている(特開平 7-296756号公報参照)。そのためイオン・ビームの出射口は非常に狭く、外部磁場が存在する場合にはイオン・ビームを通過させることが困難である。そこでイオン・ビーム光軸上に磁場が存在してもイオン・ビーム・スポットがずれることなく、同位体分離も生じさせない技術の開発が望まれる。
【0006】
FIBカラムとSEMカラムを合わせたFIB-SEMの場合には、上記の問題はより重大である。FIB-SEMは、FIB装置で加工した試料をより高い分解能で観察するため、観察用SEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)とFIB装置を組み合わせて最近実用化された装置である。SEMの対物レンズは通常、電磁石で構成されるが、より高い分解能を得るためにはセミ・インレンズ型、或いはシュノーケル型と称される、試料側に磁場を漏らすタイプのレンズを使用する必要がある。この磁場はFIB光軸上まで侵入するためイオン・ビームを強く偏向し、イオン・ビームが複数種の質量電荷比の異なるビームから構成されている場合にはこれらのビームを分離させる。イオン・ビームをSEMの対物レンズの近くにある試料に照射する必要があるため、イオン・ビームの光軸を十分に磁気遮蔽するのは不可能であり、またSEMの対物レンズの近くに磁気遮蔽体を配置することによりSEM対物レンズの磁場が乱され、SEMの分解能に悪影響を与えるという問題もある。
【0007】
この問題を解決する技術はこれまで開示されておらず、試料近傍まで磁場を漏らすタイプのSEMを用いたFIB-SEMの使用に当たっては、FIB装置により試料を微細加工する間はSEMの対物レンズの磁場を停止し、SEMで試料を観察する間はFIBを停止するという方法が採られている。しかしSEM対物レンズの励磁電流を停止しても磁場は残留し、その残留磁場が時間とともに変化し、それによってイオン・ビームのスポットが時間とともに移動するという問題がある。これを回避する技術として、残留磁場を消失させるための消磁コイルをSEM対物レンズの近傍に配置する技術が特開平11-329320号公報に開示されている。しかしSEMからFIB装置に切り替える度にSEM対物レンズの消磁を行わなければならず煩雑である。
【0008】
FIB装置で試料を微細加工しながら同時にSEMで観察する場合には、従来はSEMの対物レンズとして磁場を漏らさないアウト・レンズ型が使用されて来た。しかしSEMの更なる高分解能化が求められ、セミ・インレンズ型の対物レンズの使用が避けられなくなりつつある。したがってイオン・ビームの光軸上に磁場が存在していても、更には磁場が変動してもイオン・ビームが同位体分離せず、試料上のイオン・ビーム・スポットの位置も変化しないFIB装置及びFIB-SEMを実現する技術が望まれていた。
【0009】
本発明は、このようなFIB装置の現状に鑑み、イオン・ビーム光軸上に磁場が存在し、更に磁場が変動する場合でもイオン・ビームが試料上で同位体分離を生じることが無く、磁場が無い場合のビーム・スポット位置へ集束するFIB装置を実現し、このFIB装置とSEMを組み合わせてFIB-SEMを構成する場合には、FIB装置による試料微細加工とSEMによる高分解能試料像観察を同時に実行することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、イオン・ビームの光軸上の磁場の光軸に垂直な成分が互いに逆向きになる領域が存在し、その結果として試料上のビーム・スポット位置が磁場が存在しない場合と一致するように光学系を構成する。このように構成すると、イオン・ビームが複数種の同位体を含む場合でも、その光路は分離により異なってもビーム・スポット位置では全ての同位体のイオン・ビームが再度同1点に集束する。
【0011】
特にFIB-SEMの場合には、主たる磁場の源はSEMの対物レンズであるが、SEMの光軸近傍の狭い領域では例えば下向き(或いは上向き)の強い磁場が存在し、対物レンズの外側の広い領域には上向き(或いは下向き)の弱い磁場が存在する。この両者を適当な割合で貫通するようにイオン・ビームの光学系を構成することにより、上記の効果を得ることができる。
【0012】
イオン・ビーム・スポット位置を微調整するためには、イオン・ビームの光軸上に補正磁場発生部を設け、積極的に所望の磁場を発生させるのがよい。補正磁場の大きさを外部磁場(FIB-SEMの場合にはSEM対物レンズからの磁場も含む)に比例させると、外部磁場が変動する場合でも常に上記の効果を維持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によればイオン・ビーム光軸上に磁場が存在し、更に磁場が変動する場合でも、イオン・ビームが試料上で同位体分離を生じることが無く、磁場が無い場合のビーム・スポット位置へ集束するFIB装置を実現できる。更にこのFIB装置とSEMを組み合わせてFIB-SEMを構成する場合には、FIB装置による試料微細加工とSEMによる高分解能試料像観察を同時に実行することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下の図において、同様の構成部分には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
〔実施例1〕
図1は、本発明によるFIB-SEMの構成例を示す概略図である。Ga液体金属イオン源1から放出されたGaイオンは加速電極2が発生する電場により加速され、例えば30keVの運動エネルギーを持つGaイオン・ビーム3となる。イオン・ビームは静電型コンデンサ・レンズ4で一旦クロス・オーバー5に集束され(あるいは、クロス・オーバーを持たせず、ほぼ平行状態に集束され)、更に静電型対物レンズ6で試料7上に集束される。Gaイオン・ビーム3はGa69及びGa71の2種類の同位体からなり、その含有量の比は約6:4である。
【0016】
イオン・ビーム照射によって試料7から発生する二次電子を、図に示していない検出器で検出することにより、試料を画像観察することもできるが、高分解能で試料を画像観察する場合にはSEM17を使用する。SEM17の電子ビーム11は陰極21から発生し、図に示していない加速電極やコンデンサ・レンズ等の電子光学系を通過した後、SEMの対物レンズ8で試料上に集束され、試料表面から二次電子を発生させる。二次電子はSEM17の光軸近傍を通りE×B 22に入射し、E×B 22の磁場及び電場によって偏向して二次電子検出器23で検出される。陰極からの電子ビーム11に対してはE×B 22の電場と磁場は互いにその効果を相殺し、影響を与えないように調整されている。イオン・ビーム3の光軸とSEMの電子ビーム11の光軸は試料7上のほぼ1点で交差しており、イオン・ビーム3で試料7を微細加工しながら被加工領域をSEMで同時観察できる。ここでほぼ1点というのは、イオン・ビーム3の試料7上のスポットがSEM17の視野即ち電子ビーム11の走査範囲に含まれる程度に近いという意味であり、高分解能でSEM観察する場合には1μm以内である。
【0017】
SEMの対物レンズ8はレンズ主面を試料に近づけ、高分解能化を図るために積極的に磁場を試料側へ分布させるセミ・インレンズ型、或いはシュノーケル型レンズと呼ばれるものである。したがってイオン・ビーム3の光軸上にはSEMの対物レンズ8から発生する磁場25が分布している。この磁場のうち、イオン・ビーム3の光軸に垂直な成分がローレンツ力によりイオン・ビーム3を偏向させるが、この磁場成分は図2に示すように、SEM対物レンズ8の近傍とそれ以外の領域では逆向きになっている。図2の横軸は、試料7上のイオン・ビーム・スポット位置を原点とした、イオン・ビーム光軸上の座標である。
【0018】
イオン・ビームの光軸のイオン源1に近い側は磁気遮蔽体9で覆われているため殆ど磁場が無い。イオン・ビーム3は、磁気遮蔽体9で覆われていない領域に出ると磁場を感じる。その結果、紙面に垂直に、奥向きのローレンツ力を受けてその向きに偏向する。更に進んでSEM対物レンズ8の近傍にさしかかると、図2からわかるように逆向きの磁場を感じ、その結果、紙面に垂直に手前向きのローレンツ力を受けてその向きに偏向しつつ試料7表面に達する。このときのイオン・ビーム・スポット位置は磁場が存在しない場合の位置の近傍にあるが、完全には一致していない。磁気遮蔽体9で覆うイオン・ビーム光学系の領域は、イオン・ビーム・スポットが磁場がない場合の位置にできるだけ接近するように決定されている。図3は、この場合のイオン・ビームの軌道を示している。
【0019】
ここで、上述した磁場によるイオン・ビーム偏向の結果として生ずる試料上のイオン・ビーム・スポットのずれを数式で表現してみる。イオンの運動方程式は式(1)のように表現できる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここでrはイオンの位置ベクトル、vはイオンの速度ベクトル、B(r)及びE(r)は各々rにおける磁場ベクトル及び電場ベクトルである。mはイオンの質量、qはイオンの電荷、tは時刻を表している。ここで使用する座標系は、磁場が無い場合の試料上ビーム・スポット位置を原点とし、イオン・ビーム光軸をz、磁場に垂直な方向つまりビームが偏向する方向をxとする右手系であり、光軸上の磁場の方向はyz平面内にある。
【0022】
式(1)のE(r)はイオン・ビーム光学系の対物レンズ6の電場に対応する。光軸方向の速度vzに比べてvx,vyは非常に小さいので無視し、x成分について式(1)を書くと次のようになる。
【0023】
【数2】
【0024】
y方向については磁場が無い場合と何ら変わらないので省略する。z方向については運動方程式と等価な次式を用いるのが便利である。これはエネルギー保存則を意味している。
【0025】
【数3】
【0026】
ここでVaccは加速電圧、φ(z)はzにおける電位である。式(2)の左辺を変形して次式を得る。
【0027】
【数4】
【0028】
式(4)及び式(3)を式(2)に代入して積分すると、試料上のビーム・スポットの変位Δxが得られる。ここでイオン・ビームの出射点から試料までの距離をLとした。出射点は光軸上の磁場のおよばない点であればどこにとってもよい。
【0029】
【数5】
【0030】
式(5)において、第2項はイオンの質量も磁場も含んでいない。即ち磁場が存在しないときのビームに対応し、FIBの対物レンズによる変位を表している。光軸を通るビームに対してはExも0であるから、ビームは原点を通る。第1項は磁場に依存する。この項は√mに反比例するので磁場による同位体分離に対応しており、同位体の質量差をΔmとすると同位体分離幅δは、式(6)で与えられる。
【0031】
【数6】
【0032】
前記磁気遮蔽体9の試料側端面の位置は式(5)の第1項を可能な限り小さくするLに一致するように決定する。
【0033】
ところでSEM対物レンズ8からの漏洩磁場に適切な補正磁場を重畳させて、第1項の積分が完全に0になるように磁場By(z)を調整することはいつでも可能である。このような補正磁場を光軸上に発生させることにより、式(5)の第1項を消去すれば、試料上のビーム・スポット位置に対して第1近似の範囲内で磁場の影響を完全に排除できる、即ち磁場によるビームの偏向と同位体分離を同時に相殺できることを式(5)は示している。
【0034】
本実施例ではこの考えに基づき、イオン・ビーム・スポット位置を磁場が無い場合の位置に完全に一致させるために補正磁場発生部10を用いている。補正磁場発生部10は図4a及び図4bに示すように1対の対向したコイル15とパーマロイ製の磁路16で構成されている。この磁路16はイオン・ビーム光軸上で補正磁場を効率よく発生すると同時に、コイル15から外部への漏れ磁場を抑制するための磁気遮蔽体の役割をしている。ここで磁路の材料はパーマロイに限ることなく、純鉄やパーメンダ等透磁率が大きく保磁力が小さい磁性体ならば何でもよい。透磁率が大きいほど外部への漏れ磁場を小さくすることができる。補正磁場発生部10は中心にビーム通路を有して、そのビーム通路をイオン・ビーム光軸に一致させて配置されている。補正磁場発生部10のビーム通路は、コンデンサレンズ4を通ったイオン・ビームを全て通すだけの径を有する。
【0035】
イオン・ビーム光軸3上に発生する補正磁場26の方向は紙面に平行で光軸に垂直である。このようにすると、イオン・ビームには紙面と光軸に垂直な方向にローレンツ力が作用するが、この方向はSEMの対物レンズ8からの磁場によるローレンツ力と平行であり、補正磁場の向きと大きさを適切に調整することにより、試料7上のイオン・ビーム・スポットの位置を、磁場が無い場合の位置に完全に一致させることができる。数学的に表現すれば、前記式(5)の第1項を0にすることができる。ここでビーム・スポットは必ずしも円形であることを意味しない、非点収差等の影響によりビーム断面が楕円形、或いは線状になっている場合でも、本発明における議論は等しく成り立つ。本発明でビーム・スポットと言うときはあらゆる形状を含んでいるのである。
【0036】
補正磁場発生部10はイオン・ビーム光軸上のどこにあってもよいが、SEM対物レンズ8の磁場を乱さない程度に試料7から遠ざけるのがよい。本実施例では試料7上のビーム・スポット位置から100mmの位置に補正磁場発生部10を設置した。また補正磁場が有効な領域の長さは10mmである。また図4a及び図4bではコイル15が1対の場合を示したが、コイルは2対以上でもよい。2対以上の場合には補正磁場の大きさだけでなく方向も自由に設定することができて便利である。2対のコイルを設けた場合について、図4bに対応する図を図4cに示す。
【0037】
図5に、補正磁場発生部10の磁場を変化させたときのイオン・ビームの軌道の試料近傍の様子を示す。実線はGa69を、破線はGa71の軌道を示している。ここで縦軸は、磁場が無い場合のイオン・ビーム・スポット位置を原点としている。横軸は、イオン光軸上における試料上のイオン・ビーム・スポット位置からの距離である。磁場が存在するとき、イオンの質量電荷比によってイオン・ビームは分離するが、試料上での分離幅は試料上のイオン・ビーム・スポットの原点からの変位に比例する。したがって、図5からも読み取れるように、イオン・ビーム・スポットの原点からのずれが小さいほど、2種の同位体の分離幅も小さくなる。本実施例の場合は補正磁場の磁束密度を1.96 Gaussとしたときイオン・ビームが原点を通り、同位体分離幅も殆ど0となる。このときイオン・ビーム3の試料7への入射角は約1mrad、光軸からのイオン・ビーム3の最大変位は6μm以下であり、イオン・ビーム光学系の収差等の性能への影響は無視できる。
【0038】
イオン・ビームが対物レンズ6の中心から大きく逸脱すると集束イオン・ビームの分解能が悪化する。対物レンズ6の軸外収差のためにビーム・スポットが大きくなるからである。このような場合には図6に示すように、補正磁場発生部10を2段直列とすることによって、イオン・ビーム・スポットが分離することなく、かつイオン・ビーム3が対物レンズ6の中心を通るようにすることができる。
【0039】
また図7に示すように、補正磁場発生部10は1段のままで、静電偏向器24を用いてイオン・ビーム3が対物レンズ6の中心を通るように調整しても良い。静電偏向器24によるイオン・ビーム軌道の変化はイオンの質量電荷比に依存しないので、静電偏向器24によるイオン・ビーム・スポットの分離は生じない。したがってこの場合も、イオン・ビーム・スポットが分離することなく、かつイオン・ビーム3が対物レンズ6の中心を通るようにすることができる。
【0040】
本実施例ではイオン・ビームに含まれるイオン種がGa69とGa71の場合について説明したが、イオン・ビームに含まれるイオン種はこれに限ることなく何でもよい。Ga以外のよく知られたイオン源としては例えばSnが挙げられるが、この場合にはSn+、Sn2+、Sn2+等のイオンが同時に生成する。このように質量電荷比の異なるイオン種が複数含まれる例は同位体に限らず同素体、価数の異なるイオン、更には全く別の物質の混合体まであるが、本発明によればそれら全ての場合に本実施例と同様に、磁場が無い場合と同一の試料上の位置へイオン・ビーム・スポットを分離することなく形成することができる。
【0041】
〔実施例2〕
図8は、本発明によるFIB-SEMの他の構成例を示す概略図である。通常、SEM11の対物レンズ8は頻繁に励磁を変化させる必要がある。焦点距離を変化させる、或いは加速電圧を変化させる等の場合である。これに応じてFIB装置のイオン・ビーム光軸上の磁場の大きさも変化し、結果として試料7上のイオン・ビーム・スポットは変位し、この変位量に比例して同位体分離が発生する。
【0042】
本実施例ではこの問題を解決するために、補正磁場制御部12を設けている。補正磁場制御部12はSEM対物レンズ励磁電流制御部13からSEM対物レンズ8の励磁電流に比例した信号を受け、それに比例した電流を補正磁場発生部10のコイルに流す。試料7上のイオン・ビーム・スポットの変位はイオン・ビーム光軸3上の磁場の大きさに比例するので、本実施例の構成により、SEMの対物レンズ8が発生する磁場が変化する場合でも、常にイオン・ビーム・スポットが原点、即ち磁場が存在しないときのイオン・ビーム・スポット位置に維持され、同位体分離も生じない。
【0043】
〔実施例3〕
図9は、本発明によるFIB-SEMの更に他の構成例を示す概略図である。イオン・ビーム3を偏向させる外部磁場がSEMの対物レンズ8が発生する磁場以外にも存在し、かつ外部磁場の大きさが変化する場合には、実際に存在する磁場を測定することが有効である。本実施例では図9に示すように磁場測定子14を設け、その出力を補正磁場制御部12に入力する。ここでは磁場測定子としてHall素子を用いているが、磁気抵抗素子等の磁場測定が可能な素子であれば何を使用してもよい。SEM対物レンズ8が磁場を発生していない場合には、補正磁場制御部12は磁場測定子14が測定した磁場に比例した電流を補正磁場発生部10のコイルに流す。
【0044】
通常は磁場の相対的な空間分布は一定と見なしてよく、その強度因子のみが一様に変化するので、試料室内の任意の1点における任意の一方向の磁場強度を測定するだけで十分である。但し測定感度を向上させるためには、測定対象となる磁場の強度が可能な限り大きくなる位置及び方向で測定するのがよい。磁場の発生源が複数存在する場合等には試料室内磁場の相対的空間分布も変化することがある。そのような場合には磁場測定子を複数設け、それらの出力を補正磁場制御部12に入力し、補正磁場制御部12は複数の入力の線形結合に比例した電流を補正磁場発生部10のコイルに流す。これによって磁場の相対的空間分布が変化する場合にも精度の高い補正を行うことができる。
【0045】
SEM対物レンズ8が発生する磁場も変動する場合には、補正磁場制御部12はSEM対物レンズ励磁電流制御部13からのSEM対物レンズ8の励磁電流に比例した入力信号と磁場測定子14からの入力信号を適切な比率で線形結合した電流を補正磁場発生部10のコイルに流す。
【0046】
試料7上のイオン・ビーム・スポットの変位はイオン・ビーム光軸3上の磁場の大きさに比例するので、本実施例の構成により、SEMの対物レンズ8が発生する磁場或いはそれ以外の外部磁場の少なくとも一方が変化する場合でも、常にイオン・ビーム・スポットが原点、即ち磁場が存在しないときのイオン・ビーム・スポット位置に維持され、同位体分離も生じない。
【0047】
〔実施例4〕
図10は、本発明によるFIB-SEMの別の構成例を示す概略図である。SEM17の電子ビーム11の光軸とイオン・ビーム3の光軸とは試料7のほぼ1点20でほぼ直角に交差しており、SEM17の電子ビーム11の光軸上で前記交差点20に対して前記SEMの対物レンズ8と反対側に電子検出器19が配置されている。本実施例では、SEMを走査型透過電子顕微鏡(STEM)として使用する。試料7のSTEM観察のための所望個所が薄膜7aとして残るようにその周辺をFIB加工する。また、薄膜試料7aに対して入射してくる電子ビーム11とそこから透過して電子検出器19に向かう透過電子ビーム18の光路もFIB加工により確保する。透過電子ビーム18は入射方向とほぼ同じ方向に進む小角散乱透過電子ビーム18aと入射方向から大きく外れた広角散乱透過ビーム18bからなり、それぞれの電子検出器19a及び19bで検出する。各々の検出器の信号を入射電子の走査と同期させた走査画像の輝度信号として走査画像を形成すると、それぞれ明視野像及び暗視野像が得られる。透過電子の散乱角度分布は試料の原子番号に強く依存し、原子番号が大きいほど広角散乱の割合が多くなる。そのため、暗視野像では原子番号コントラストの強い画像が得られる。
【0048】
電子ビーム軸とイオンビーム軸のほぼ直角な配置により、FIB加工中の薄膜試料7aが試料7を移動させることなくSTEM像によりモニター観察できるのが本実施例の特徴である。これにより、特にデバイスの不良解析などピンポイント加工が必要な加工観察応用に非常に威力を発揮する。試料7は前もってウェハーなどから分割した小片試料でも良いし、同じ試料室内でウェハーなどからマイクロサンプリング法により採取したマイクロサンプルであってもよい。SEM17の対物レンズ8からの試料7への漏洩磁場によるイオン・ビーム3の試料上での偏向や同位体イオンの分離は補正磁場発生部10により解消できるため、SEMの対物レンズ8はその先端を観察試料部位から4-8mmにまで近づけた位置に配置できる。そのため、SEMの高分解能SEM/STEM観察が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明第1実施例の光学系を説明する図。
【図2】本発明第1実施例のイオン・ビーム光軸上の磁場を示す図。
【図3】本発明第1実施例のイオン・ビーム軌道を示す図。
【図4a】本発明第1実施例の補正磁場発生部の断面図。
【図4b】本発明第1実施例の補正磁場発生部の上面図。
【図4c】本発明第1実施例の補正コイルを2対とした場合の補正磁場発生部の上面図。
【図5】本発明第1実施例の試料近傍のイオン・ビーム軌道を示す図。
【図6】本発明第1実施例の補正磁場発生部を2段直列とした場合の光学系を説明する図。
【図7】本発明第1実施例図1の光学系に静電偏向器を付加し、イオン・ビームが対物レンズの中心を通るように構成した場合の光学系を説明する図。
【図8】本発明第2実施例の光学系を説明する図。
【図9】本発明第3実施例の光学系を説明する図。
【図10】本発明第4実施例の光学系を説明する図。
【符号の説明】
【0050】
1:イオン源、2:加速電極、3:Gaイオン・ビーム、4:コンデンサ・レンズ、5:クロス・オーバー、6:対物レンズ、7:試料、7a:薄膜試料、8:SEMの対物レンズ、9:磁気遮蔽体、10:補正磁場発生部、11:電子ビーム、12:補正磁場制御部、13:SEM対物レンズ励磁電流制御部、14:磁場測定子、15:コイル、16:パーマロイ製磁路、17:SEM、18a:小角散乱透過電子ビーム、18b:広角散乱透過電子ビーム、19a:小角散乱透過電子検出器、19b:広角散乱透過電子検出器、20:イオン・ビームと電子ビームの交差点、21:陰極、22:E×B、23:二次電子検出器、24:静電偏向器、25:磁力線。
【技術分野】
【0001】
本発明は地磁気や他の装置等からイオン光学系へ侵入する磁場によるイオン・ビームの偏向を相殺し、試料上のビーム・スポットを磁場の存在しないときとほぼ同一の位置に形成する技術、及びイオン・ビームが複数種の同位体を含む場合に生じるビーム・スポットの分離を回避する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FIB装置(Focused Ion Beam装置、集束イオン・ビーム装置)は、細く集束されたイオン・ビームを試料に照射することにより試料を微細加工し、また像観察するための装置として実用に供されている。イオン・ビームは、光軸上に磁場が存在する場合にはローレンツ力を受けて偏向する。FIB装置の加速電圧は通常数10kV程度であるため、地磁気によってさえもビーム・スポットが数10μm以上ずれる場合がある。更に通常使用されるイオン種であるGaは2種類の同位体Ga69とGa71を含んでおり、各々磁場による偏向の度合いが異なるためビームが2本に分離するという問題が生ずる。また、イオンがクラスターも形成している場合にもやはりビームは分離する。ビーム・スポットのずれが数10μmであれば、分離した2種の同位体イオン・ビーム間の距離は質量電荷比の差に依存し1μm程度になる場合もある。FIB装置はナノメータ・レベルの超微細加工を目的として使用されているため、このような現象を回避或いは抑制することが必須である。光軸上の磁場を排する最も簡便な方法は鏡体を磁性体で被い、磁気遮蔽を施すことであり、従来この方法が用いられてきた。特許文献1にはFIB装置の先端部にも磁気遮蔽を施す技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11-329318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし試料の近傍まで完全に磁気遮蔽することは困難である。試料を含めて装置全体を磁気遮蔽体で被えば、ほぼ完全に磁気遮蔽をすることが可能であるが、磁気遮蔽体に穴を設けたい場合も多くあり、この場合はその穴から磁場が侵入してしまう。
【0005】
通常のFIB装置は、試料上の所望の位置へイオン・ビームを照射するために静電型偏向器を備えている。これを用いて磁場による試料上のイオン・ビーム・スポットのずれを補正することは可能であるが、同時に同位体分離を解消することは不可能である。他にイオン・ビームを積極的に偏向させる手段としてはウィーン・フィルタが知られているが、これはむしろ同位体を強く分離させることにより不要な同位体成分を壁に衝突させて排除する目的で使用されている(特開平 7-296756号公報参照)。そのためイオン・ビームの出射口は非常に狭く、外部磁場が存在する場合にはイオン・ビームを通過させることが困難である。そこでイオン・ビーム光軸上に磁場が存在してもイオン・ビーム・スポットがずれることなく、同位体分離も生じさせない技術の開発が望まれる。
【0006】
FIBカラムとSEMカラムを合わせたFIB-SEMの場合には、上記の問題はより重大である。FIB-SEMは、FIB装置で加工した試料をより高い分解能で観察するため、観察用SEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)とFIB装置を組み合わせて最近実用化された装置である。SEMの対物レンズは通常、電磁石で構成されるが、より高い分解能を得るためにはセミ・インレンズ型、或いはシュノーケル型と称される、試料側に磁場を漏らすタイプのレンズを使用する必要がある。この磁場はFIB光軸上まで侵入するためイオン・ビームを強く偏向し、イオン・ビームが複数種の質量電荷比の異なるビームから構成されている場合にはこれらのビームを分離させる。イオン・ビームをSEMの対物レンズの近くにある試料に照射する必要があるため、イオン・ビームの光軸を十分に磁気遮蔽するのは不可能であり、またSEMの対物レンズの近くに磁気遮蔽体を配置することによりSEM対物レンズの磁場が乱され、SEMの分解能に悪影響を与えるという問題もある。
【0007】
この問題を解決する技術はこれまで開示されておらず、試料近傍まで磁場を漏らすタイプのSEMを用いたFIB-SEMの使用に当たっては、FIB装置により試料を微細加工する間はSEMの対物レンズの磁場を停止し、SEMで試料を観察する間はFIBを停止するという方法が採られている。しかしSEM対物レンズの励磁電流を停止しても磁場は残留し、その残留磁場が時間とともに変化し、それによってイオン・ビームのスポットが時間とともに移動するという問題がある。これを回避する技術として、残留磁場を消失させるための消磁コイルをSEM対物レンズの近傍に配置する技術が特開平11-329320号公報に開示されている。しかしSEMからFIB装置に切り替える度にSEM対物レンズの消磁を行わなければならず煩雑である。
【0008】
FIB装置で試料を微細加工しながら同時にSEMで観察する場合には、従来はSEMの対物レンズとして磁場を漏らさないアウト・レンズ型が使用されて来た。しかしSEMの更なる高分解能化が求められ、セミ・インレンズ型の対物レンズの使用が避けられなくなりつつある。したがってイオン・ビームの光軸上に磁場が存在していても、更には磁場が変動してもイオン・ビームが同位体分離せず、試料上のイオン・ビーム・スポットの位置も変化しないFIB装置及びFIB-SEMを実現する技術が望まれていた。
【0009】
本発明は、このようなFIB装置の現状に鑑み、イオン・ビーム光軸上に磁場が存在し、更に磁場が変動する場合でもイオン・ビームが試料上で同位体分離を生じることが無く、磁場が無い場合のビーム・スポット位置へ集束するFIB装置を実現し、このFIB装置とSEMを組み合わせてFIB-SEMを構成する場合には、FIB装置による試料微細加工とSEMによる高分解能試料像観察を同時に実行することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、イオン・ビームの光軸上の磁場の光軸に垂直な成分が互いに逆向きになる領域が存在し、その結果として試料上のビーム・スポット位置が磁場が存在しない場合と一致するように光学系を構成する。このように構成すると、イオン・ビームが複数種の同位体を含む場合でも、その光路は分離により異なってもビーム・スポット位置では全ての同位体のイオン・ビームが再度同1点に集束する。
【0011】
特にFIB-SEMの場合には、主たる磁場の源はSEMの対物レンズであるが、SEMの光軸近傍の狭い領域では例えば下向き(或いは上向き)の強い磁場が存在し、対物レンズの外側の広い領域には上向き(或いは下向き)の弱い磁場が存在する。この両者を適当な割合で貫通するようにイオン・ビームの光学系を構成することにより、上記の効果を得ることができる。
【0012】
イオン・ビーム・スポット位置を微調整するためには、イオン・ビームの光軸上に補正磁場発生部を設け、積極的に所望の磁場を発生させるのがよい。補正磁場の大きさを外部磁場(FIB-SEMの場合にはSEM対物レンズからの磁場も含む)に比例させると、外部磁場が変動する場合でも常に上記の効果を維持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によればイオン・ビーム光軸上に磁場が存在し、更に磁場が変動する場合でも、イオン・ビームが試料上で同位体分離を生じることが無く、磁場が無い場合のビーム・スポット位置へ集束するFIB装置を実現できる。更にこのFIB装置とSEMを組み合わせてFIB-SEMを構成する場合には、FIB装置による試料微細加工とSEMによる高分解能試料像観察を同時に実行することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下の図において、同様の構成部分には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
〔実施例1〕
図1は、本発明によるFIB-SEMの構成例を示す概略図である。Ga液体金属イオン源1から放出されたGaイオンは加速電極2が発生する電場により加速され、例えば30keVの運動エネルギーを持つGaイオン・ビーム3となる。イオン・ビームは静電型コンデンサ・レンズ4で一旦クロス・オーバー5に集束され(あるいは、クロス・オーバーを持たせず、ほぼ平行状態に集束され)、更に静電型対物レンズ6で試料7上に集束される。Gaイオン・ビーム3はGa69及びGa71の2種類の同位体からなり、その含有量の比は約6:4である。
【0016】
イオン・ビーム照射によって試料7から発生する二次電子を、図に示していない検出器で検出することにより、試料を画像観察することもできるが、高分解能で試料を画像観察する場合にはSEM17を使用する。SEM17の電子ビーム11は陰極21から発生し、図に示していない加速電極やコンデンサ・レンズ等の電子光学系を通過した後、SEMの対物レンズ8で試料上に集束され、試料表面から二次電子を発生させる。二次電子はSEM17の光軸近傍を通りE×B 22に入射し、E×B 22の磁場及び電場によって偏向して二次電子検出器23で検出される。陰極からの電子ビーム11に対してはE×B 22の電場と磁場は互いにその効果を相殺し、影響を与えないように調整されている。イオン・ビーム3の光軸とSEMの電子ビーム11の光軸は試料7上のほぼ1点で交差しており、イオン・ビーム3で試料7を微細加工しながら被加工領域をSEMで同時観察できる。ここでほぼ1点というのは、イオン・ビーム3の試料7上のスポットがSEM17の視野即ち電子ビーム11の走査範囲に含まれる程度に近いという意味であり、高分解能でSEM観察する場合には1μm以内である。
【0017】
SEMの対物レンズ8はレンズ主面を試料に近づけ、高分解能化を図るために積極的に磁場を試料側へ分布させるセミ・インレンズ型、或いはシュノーケル型レンズと呼ばれるものである。したがってイオン・ビーム3の光軸上にはSEMの対物レンズ8から発生する磁場25が分布している。この磁場のうち、イオン・ビーム3の光軸に垂直な成分がローレンツ力によりイオン・ビーム3を偏向させるが、この磁場成分は図2に示すように、SEM対物レンズ8の近傍とそれ以外の領域では逆向きになっている。図2の横軸は、試料7上のイオン・ビーム・スポット位置を原点とした、イオン・ビーム光軸上の座標である。
【0018】
イオン・ビームの光軸のイオン源1に近い側は磁気遮蔽体9で覆われているため殆ど磁場が無い。イオン・ビーム3は、磁気遮蔽体9で覆われていない領域に出ると磁場を感じる。その結果、紙面に垂直に、奥向きのローレンツ力を受けてその向きに偏向する。更に進んでSEM対物レンズ8の近傍にさしかかると、図2からわかるように逆向きの磁場を感じ、その結果、紙面に垂直に手前向きのローレンツ力を受けてその向きに偏向しつつ試料7表面に達する。このときのイオン・ビーム・スポット位置は磁場が存在しない場合の位置の近傍にあるが、完全には一致していない。磁気遮蔽体9で覆うイオン・ビーム光学系の領域は、イオン・ビーム・スポットが磁場がない場合の位置にできるだけ接近するように決定されている。図3は、この場合のイオン・ビームの軌道を示している。
【0019】
ここで、上述した磁場によるイオン・ビーム偏向の結果として生ずる試料上のイオン・ビーム・スポットのずれを数式で表現してみる。イオンの運動方程式は式(1)のように表現できる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここでrはイオンの位置ベクトル、vはイオンの速度ベクトル、B(r)及びE(r)は各々rにおける磁場ベクトル及び電場ベクトルである。mはイオンの質量、qはイオンの電荷、tは時刻を表している。ここで使用する座標系は、磁場が無い場合の試料上ビーム・スポット位置を原点とし、イオン・ビーム光軸をz、磁場に垂直な方向つまりビームが偏向する方向をxとする右手系であり、光軸上の磁場の方向はyz平面内にある。
【0022】
式(1)のE(r)はイオン・ビーム光学系の対物レンズ6の電場に対応する。光軸方向の速度vzに比べてvx,vyは非常に小さいので無視し、x成分について式(1)を書くと次のようになる。
【0023】
【数2】
【0024】
y方向については磁場が無い場合と何ら変わらないので省略する。z方向については運動方程式と等価な次式を用いるのが便利である。これはエネルギー保存則を意味している。
【0025】
【数3】
【0026】
ここでVaccは加速電圧、φ(z)はzにおける電位である。式(2)の左辺を変形して次式を得る。
【0027】
【数4】
【0028】
式(4)及び式(3)を式(2)に代入して積分すると、試料上のビーム・スポットの変位Δxが得られる。ここでイオン・ビームの出射点から試料までの距離をLとした。出射点は光軸上の磁場のおよばない点であればどこにとってもよい。
【0029】
【数5】
【0030】
式(5)において、第2項はイオンの質量も磁場も含んでいない。即ち磁場が存在しないときのビームに対応し、FIBの対物レンズによる変位を表している。光軸を通るビームに対してはExも0であるから、ビームは原点を通る。第1項は磁場に依存する。この項は√mに反比例するので磁場による同位体分離に対応しており、同位体の質量差をΔmとすると同位体分離幅δは、式(6)で与えられる。
【0031】
【数6】
【0032】
前記磁気遮蔽体9の試料側端面の位置は式(5)の第1項を可能な限り小さくするLに一致するように決定する。
【0033】
ところでSEM対物レンズ8からの漏洩磁場に適切な補正磁場を重畳させて、第1項の積分が完全に0になるように磁場By(z)を調整することはいつでも可能である。このような補正磁場を光軸上に発生させることにより、式(5)の第1項を消去すれば、試料上のビーム・スポット位置に対して第1近似の範囲内で磁場の影響を完全に排除できる、即ち磁場によるビームの偏向と同位体分離を同時に相殺できることを式(5)は示している。
【0034】
本実施例ではこの考えに基づき、イオン・ビーム・スポット位置を磁場が無い場合の位置に完全に一致させるために補正磁場発生部10を用いている。補正磁場発生部10は図4a及び図4bに示すように1対の対向したコイル15とパーマロイ製の磁路16で構成されている。この磁路16はイオン・ビーム光軸上で補正磁場を効率よく発生すると同時に、コイル15から外部への漏れ磁場を抑制するための磁気遮蔽体の役割をしている。ここで磁路の材料はパーマロイに限ることなく、純鉄やパーメンダ等透磁率が大きく保磁力が小さい磁性体ならば何でもよい。透磁率が大きいほど外部への漏れ磁場を小さくすることができる。補正磁場発生部10は中心にビーム通路を有して、そのビーム通路をイオン・ビーム光軸に一致させて配置されている。補正磁場発生部10のビーム通路は、コンデンサレンズ4を通ったイオン・ビームを全て通すだけの径を有する。
【0035】
イオン・ビーム光軸3上に発生する補正磁場26の方向は紙面に平行で光軸に垂直である。このようにすると、イオン・ビームには紙面と光軸に垂直な方向にローレンツ力が作用するが、この方向はSEMの対物レンズ8からの磁場によるローレンツ力と平行であり、補正磁場の向きと大きさを適切に調整することにより、試料7上のイオン・ビーム・スポットの位置を、磁場が無い場合の位置に完全に一致させることができる。数学的に表現すれば、前記式(5)の第1項を0にすることができる。ここでビーム・スポットは必ずしも円形であることを意味しない、非点収差等の影響によりビーム断面が楕円形、或いは線状になっている場合でも、本発明における議論は等しく成り立つ。本発明でビーム・スポットと言うときはあらゆる形状を含んでいるのである。
【0036】
補正磁場発生部10はイオン・ビーム光軸上のどこにあってもよいが、SEM対物レンズ8の磁場を乱さない程度に試料7から遠ざけるのがよい。本実施例では試料7上のビーム・スポット位置から100mmの位置に補正磁場発生部10を設置した。また補正磁場が有効な領域の長さは10mmである。また図4a及び図4bではコイル15が1対の場合を示したが、コイルは2対以上でもよい。2対以上の場合には補正磁場の大きさだけでなく方向も自由に設定することができて便利である。2対のコイルを設けた場合について、図4bに対応する図を図4cに示す。
【0037】
図5に、補正磁場発生部10の磁場を変化させたときのイオン・ビームの軌道の試料近傍の様子を示す。実線はGa69を、破線はGa71の軌道を示している。ここで縦軸は、磁場が無い場合のイオン・ビーム・スポット位置を原点としている。横軸は、イオン光軸上における試料上のイオン・ビーム・スポット位置からの距離である。磁場が存在するとき、イオンの質量電荷比によってイオン・ビームは分離するが、試料上での分離幅は試料上のイオン・ビーム・スポットの原点からの変位に比例する。したがって、図5からも読み取れるように、イオン・ビーム・スポットの原点からのずれが小さいほど、2種の同位体の分離幅も小さくなる。本実施例の場合は補正磁場の磁束密度を1.96 Gaussとしたときイオン・ビームが原点を通り、同位体分離幅も殆ど0となる。このときイオン・ビーム3の試料7への入射角は約1mrad、光軸からのイオン・ビーム3の最大変位は6μm以下であり、イオン・ビーム光学系の収差等の性能への影響は無視できる。
【0038】
イオン・ビームが対物レンズ6の中心から大きく逸脱すると集束イオン・ビームの分解能が悪化する。対物レンズ6の軸外収差のためにビーム・スポットが大きくなるからである。このような場合には図6に示すように、補正磁場発生部10を2段直列とすることによって、イオン・ビーム・スポットが分離することなく、かつイオン・ビーム3が対物レンズ6の中心を通るようにすることができる。
【0039】
また図7に示すように、補正磁場発生部10は1段のままで、静電偏向器24を用いてイオン・ビーム3が対物レンズ6の中心を通るように調整しても良い。静電偏向器24によるイオン・ビーム軌道の変化はイオンの質量電荷比に依存しないので、静電偏向器24によるイオン・ビーム・スポットの分離は生じない。したがってこの場合も、イオン・ビーム・スポットが分離することなく、かつイオン・ビーム3が対物レンズ6の中心を通るようにすることができる。
【0040】
本実施例ではイオン・ビームに含まれるイオン種がGa69とGa71の場合について説明したが、イオン・ビームに含まれるイオン種はこれに限ることなく何でもよい。Ga以外のよく知られたイオン源としては例えばSnが挙げられるが、この場合にはSn+、Sn2+、Sn2+等のイオンが同時に生成する。このように質量電荷比の異なるイオン種が複数含まれる例は同位体に限らず同素体、価数の異なるイオン、更には全く別の物質の混合体まであるが、本発明によればそれら全ての場合に本実施例と同様に、磁場が無い場合と同一の試料上の位置へイオン・ビーム・スポットを分離することなく形成することができる。
【0041】
〔実施例2〕
図8は、本発明によるFIB-SEMの他の構成例を示す概略図である。通常、SEM11の対物レンズ8は頻繁に励磁を変化させる必要がある。焦点距離を変化させる、或いは加速電圧を変化させる等の場合である。これに応じてFIB装置のイオン・ビーム光軸上の磁場の大きさも変化し、結果として試料7上のイオン・ビーム・スポットは変位し、この変位量に比例して同位体分離が発生する。
【0042】
本実施例ではこの問題を解決するために、補正磁場制御部12を設けている。補正磁場制御部12はSEM対物レンズ励磁電流制御部13からSEM対物レンズ8の励磁電流に比例した信号を受け、それに比例した電流を補正磁場発生部10のコイルに流す。試料7上のイオン・ビーム・スポットの変位はイオン・ビーム光軸3上の磁場の大きさに比例するので、本実施例の構成により、SEMの対物レンズ8が発生する磁場が変化する場合でも、常にイオン・ビーム・スポットが原点、即ち磁場が存在しないときのイオン・ビーム・スポット位置に維持され、同位体分離も生じない。
【0043】
〔実施例3〕
図9は、本発明によるFIB-SEMの更に他の構成例を示す概略図である。イオン・ビーム3を偏向させる外部磁場がSEMの対物レンズ8が発生する磁場以外にも存在し、かつ外部磁場の大きさが変化する場合には、実際に存在する磁場を測定することが有効である。本実施例では図9に示すように磁場測定子14を設け、その出力を補正磁場制御部12に入力する。ここでは磁場測定子としてHall素子を用いているが、磁気抵抗素子等の磁場測定が可能な素子であれば何を使用してもよい。SEM対物レンズ8が磁場を発生していない場合には、補正磁場制御部12は磁場測定子14が測定した磁場に比例した電流を補正磁場発生部10のコイルに流す。
【0044】
通常は磁場の相対的な空間分布は一定と見なしてよく、その強度因子のみが一様に変化するので、試料室内の任意の1点における任意の一方向の磁場強度を測定するだけで十分である。但し測定感度を向上させるためには、測定対象となる磁場の強度が可能な限り大きくなる位置及び方向で測定するのがよい。磁場の発生源が複数存在する場合等には試料室内磁場の相対的空間分布も変化することがある。そのような場合には磁場測定子を複数設け、それらの出力を補正磁場制御部12に入力し、補正磁場制御部12は複数の入力の線形結合に比例した電流を補正磁場発生部10のコイルに流す。これによって磁場の相対的空間分布が変化する場合にも精度の高い補正を行うことができる。
【0045】
SEM対物レンズ8が発生する磁場も変動する場合には、補正磁場制御部12はSEM対物レンズ励磁電流制御部13からのSEM対物レンズ8の励磁電流に比例した入力信号と磁場測定子14からの入力信号を適切な比率で線形結合した電流を補正磁場発生部10のコイルに流す。
【0046】
試料7上のイオン・ビーム・スポットの変位はイオン・ビーム光軸3上の磁場の大きさに比例するので、本実施例の構成により、SEMの対物レンズ8が発生する磁場或いはそれ以外の外部磁場の少なくとも一方が変化する場合でも、常にイオン・ビーム・スポットが原点、即ち磁場が存在しないときのイオン・ビーム・スポット位置に維持され、同位体分離も生じない。
【0047】
〔実施例4〕
図10は、本発明によるFIB-SEMの別の構成例を示す概略図である。SEM17の電子ビーム11の光軸とイオン・ビーム3の光軸とは試料7のほぼ1点20でほぼ直角に交差しており、SEM17の電子ビーム11の光軸上で前記交差点20に対して前記SEMの対物レンズ8と反対側に電子検出器19が配置されている。本実施例では、SEMを走査型透過電子顕微鏡(STEM)として使用する。試料7のSTEM観察のための所望個所が薄膜7aとして残るようにその周辺をFIB加工する。また、薄膜試料7aに対して入射してくる電子ビーム11とそこから透過して電子検出器19に向かう透過電子ビーム18の光路もFIB加工により確保する。透過電子ビーム18は入射方向とほぼ同じ方向に進む小角散乱透過電子ビーム18aと入射方向から大きく外れた広角散乱透過ビーム18bからなり、それぞれの電子検出器19a及び19bで検出する。各々の検出器の信号を入射電子の走査と同期させた走査画像の輝度信号として走査画像を形成すると、それぞれ明視野像及び暗視野像が得られる。透過電子の散乱角度分布は試料の原子番号に強く依存し、原子番号が大きいほど広角散乱の割合が多くなる。そのため、暗視野像では原子番号コントラストの強い画像が得られる。
【0048】
電子ビーム軸とイオンビーム軸のほぼ直角な配置により、FIB加工中の薄膜試料7aが試料7を移動させることなくSTEM像によりモニター観察できるのが本実施例の特徴である。これにより、特にデバイスの不良解析などピンポイント加工が必要な加工観察応用に非常に威力を発揮する。試料7は前もってウェハーなどから分割した小片試料でも良いし、同じ試料室内でウェハーなどからマイクロサンプリング法により採取したマイクロサンプルであってもよい。SEM17の対物レンズ8からの試料7への漏洩磁場によるイオン・ビーム3の試料上での偏向や同位体イオンの分離は補正磁場発生部10により解消できるため、SEMの対物レンズ8はその先端を観察試料部位から4-8mmにまで近づけた位置に配置できる。そのため、SEMの高分解能SEM/STEM観察が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明第1実施例の光学系を説明する図。
【図2】本発明第1実施例のイオン・ビーム光軸上の磁場を示す図。
【図3】本発明第1実施例のイオン・ビーム軌道を示す図。
【図4a】本発明第1実施例の補正磁場発生部の断面図。
【図4b】本発明第1実施例の補正磁場発生部の上面図。
【図4c】本発明第1実施例の補正コイルを2対とした場合の補正磁場発生部の上面図。
【図5】本発明第1実施例の試料近傍のイオン・ビーム軌道を示す図。
【図6】本発明第1実施例の補正磁場発生部を2段直列とした場合の光学系を説明する図。
【図7】本発明第1実施例図1の光学系に静電偏向器を付加し、イオン・ビームが対物レンズの中心を通るように構成した場合の光学系を説明する図。
【図8】本発明第2実施例の光学系を説明する図。
【図9】本発明第3実施例の光学系を説明する図。
【図10】本発明第4実施例の光学系を説明する図。
【符号の説明】
【0050】
1:イオン源、2:加速電極、3:Gaイオン・ビーム、4:コンデンサ・レンズ、5:クロス・オーバー、6:対物レンズ、7:試料、7a:薄膜試料、8:SEMの対物レンズ、9:磁気遮蔽体、10:補正磁場発生部、11:電子ビーム、12:補正磁場制御部、13:SEM対物レンズ励磁電流制御部、14:磁場測定子、15:コイル、16:パーマロイ製磁路、17:SEM、18a:小角散乱透過電子ビーム、18b:広角散乱透過電子ビーム、19a:小角散乱透過電子検出器、19b:広角散乱透過電子検出器、20:イオン・ビームと電子ビームの交差点、21:陰極、22:E×B、23:二次電子検出器、24:静電偏向器、25:磁力線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、前記イオン源から放出されたイオン・ビームを試料上に集束させる集束イオン・ビーム光学系とを含む集束イオン・ビーム装置において、
前記集束イオン・ビーム光学系の外からの磁場の影響による前記イオン・ビームの偏向を補正するために前記イオン・ビームの光軸上に補正磁場を発生させる補正磁場発生部を備えたことを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項2】
請求項1記載の集束イオン・ビーム装置において、試料側に磁場を発生させる対物レンズを持つ走査電子顕微鏡を備えたことを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項3】
請求項2記載の集束イオン・ビーム装置において、前記走査電子顕微鏡の光軸と前記イオン・ビームの光軸とが試料上のほぼ1点で交差していることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項4】
請求項3記載の集束イオン・ビーム装置において、前記走査電子顕微鏡の光軸と前記イオン・ビームの光軸の交差角がほぼ90度であり、前記走査電子顕微鏡の光軸上で前記交差点に対して前記走査電子顕微鏡の対物レンズと反対側に電子検出器を配置したことを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記走査電子顕微鏡の対物レンズの励磁電流を入力信号として、前記補正磁場発生部から発生する補正磁場を制御する補正磁場制御部を有することを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記集束イオン・ビーム光学系の周辺に少なくとも一個の磁場測定子を備え、前記磁場測定子の出力を入力信号として、前記補正磁場発生部から発生する補正磁場を制御する補正磁場制御部を有することを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記集束イオン・ビーム光学系を覆う磁気遮蔽体を備えたことを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項8】
請求項7記載の集束イオン・ビーム装置において、前記磁気遮蔽体は、前記集束イオン・ビーム光学系の試料から遠い側を覆い、該磁気遮蔽体の試料側の端面から試料までの距離Lは次式で与えられることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【数1】
(ここで、Vaccは前記イオン・ビームの加速電圧、φ(z1)は前記イオン・ビームの光軸上の座標z1における電位、By(z)は前記イオン・ビームの光軸上の座標zにおける当該光軸に垂直な磁場成分を表し、座標原点は磁場が無い場合の試料上のイオン・ビーム・スポットにとる)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記イオン・ビームは複数種の質量電荷比の異なるイオン・ビームからなることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項10】
請求項9記載の集束イオン・ビーム装置において、前記複数種の質量電荷比の異なるイオン・ビームが複数種の同位体イオン・ビームであることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記イオン源がGa液体金属イオン源であることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記補正磁場発生部は前記イオン・ビームの光軸上に配置され、かつ前記イオン・ビームを全て通過させるビーム通路を備えていることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項13】
請求項12記載の集束イオン・ビーム装置において、前記補正磁場発生部は磁気遮蔽体で覆われていることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項14】
イオン源から放出されたイオン・ビームを集束イオン・ビーム光学系によって集束して試料に照射する集束イオン・ビーム照射方法において、
前記イオン・ビームの少なくとも一部の光路において、当該イオン・ビームの光軸に垂直な成分を有する補正磁場を印加するステップを有し、
前記集束イオン・ビーム光学系の外からの磁場の影響による前記イオン・ビームの偏向の結果として生ずる試料上のイオン・ビーム・スポットのずれを前記補正磁場で相殺し、前記集束イオン・ビーム光学系の外からの磁場が存在しない場合と同一の位置にイオン・ビーム・スポットを形成することを特徴とする集束イオン・ビーム照射方法。
【請求項15】
イオン源から放出された複数種の質量電荷比の異なるイオン種から成るイオン・ビームを集束イオン・ビーム光学系によって集束して試料に照射する集束イオン・ビーム照射方法において、
前記イオン・ビームの少なくとも一部の光路において、当該イオン・ビームの光軸に垂直な成分を有する補正磁場を印加するステップを有し、
前記集束イオン・ビーム光学系の外からの磁場の影響による前記イオン・ビームの偏向の結果として生ずる、試料上での前記質量電荷比の異なるイオン種のイオン・ビーム・スポットの分離を前記補正磁場で相殺し、試料上に単一のイオン・ビーム・スポットを形成することを特徴とする集束イオン・ビーム照射方法。
【請求項1】
イオン源と、前記イオン源から放出されたイオン・ビームを試料上に集束させる集束イオン・ビーム光学系とを含む集束イオン・ビーム装置において、
前記集束イオン・ビーム光学系の外からの磁場の影響による前記イオン・ビームの偏向を補正するために前記イオン・ビームの光軸上に補正磁場を発生させる補正磁場発生部を備えたことを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項2】
請求項1記載の集束イオン・ビーム装置において、試料側に磁場を発生させる対物レンズを持つ走査電子顕微鏡を備えたことを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項3】
請求項2記載の集束イオン・ビーム装置において、前記走査電子顕微鏡の光軸と前記イオン・ビームの光軸とが試料上のほぼ1点で交差していることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項4】
請求項3記載の集束イオン・ビーム装置において、前記走査電子顕微鏡の光軸と前記イオン・ビームの光軸の交差角がほぼ90度であり、前記走査電子顕微鏡の光軸上で前記交差点に対して前記走査電子顕微鏡の対物レンズと反対側に電子検出器を配置したことを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記走査電子顕微鏡の対物レンズの励磁電流を入力信号として、前記補正磁場発生部から発生する補正磁場を制御する補正磁場制御部を有することを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記集束イオン・ビーム光学系の周辺に少なくとも一個の磁場測定子を備え、前記磁場測定子の出力を入力信号として、前記補正磁場発生部から発生する補正磁場を制御する補正磁場制御部を有することを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記集束イオン・ビーム光学系を覆う磁気遮蔽体を備えたことを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項8】
請求項7記載の集束イオン・ビーム装置において、前記磁気遮蔽体は、前記集束イオン・ビーム光学系の試料から遠い側を覆い、該磁気遮蔽体の試料側の端面から試料までの距離Lは次式で与えられることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【数1】
(ここで、Vaccは前記イオン・ビームの加速電圧、φ(z1)は前記イオン・ビームの光軸上の座標z1における電位、By(z)は前記イオン・ビームの光軸上の座標zにおける当該光軸に垂直な磁場成分を表し、座標原点は磁場が無い場合の試料上のイオン・ビーム・スポットにとる)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記イオン・ビームは複数種の質量電荷比の異なるイオン・ビームからなることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項10】
請求項9記載の集束イオン・ビーム装置において、前記複数種の質量電荷比の異なるイオン・ビームが複数種の同位体イオン・ビームであることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記イオン源がGa液体金属イオン源であることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の集束イオン・ビーム装置において、前記補正磁場発生部は前記イオン・ビームの光軸上に配置され、かつ前記イオン・ビームを全て通過させるビーム通路を備えていることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項13】
請求項12記載の集束イオン・ビーム装置において、前記補正磁場発生部は磁気遮蔽体で覆われていることを特徴とする集束イオン・ビーム装置。
【請求項14】
イオン源から放出されたイオン・ビームを集束イオン・ビーム光学系によって集束して試料に照射する集束イオン・ビーム照射方法において、
前記イオン・ビームの少なくとも一部の光路において、当該イオン・ビームの光軸に垂直な成分を有する補正磁場を印加するステップを有し、
前記集束イオン・ビーム光学系の外からの磁場の影響による前記イオン・ビームの偏向の結果として生ずる試料上のイオン・ビーム・スポットのずれを前記補正磁場で相殺し、前記集束イオン・ビーム光学系の外からの磁場が存在しない場合と同一の位置にイオン・ビーム・スポットを形成することを特徴とする集束イオン・ビーム照射方法。
【請求項15】
イオン源から放出された複数種の質量電荷比の異なるイオン種から成るイオン・ビームを集束イオン・ビーム光学系によって集束して試料に照射する集束イオン・ビーム照射方法において、
前記イオン・ビームの少なくとも一部の光路において、当該イオン・ビームの光軸に垂直な成分を有する補正磁場を印加するステップを有し、
前記集束イオン・ビーム光学系の外からの磁場の影響による前記イオン・ビームの偏向の結果として生ずる、試料上での前記質量電荷比の異なるイオン種のイオン・ビーム・スポットの分離を前記補正磁場で相殺し、試料上に単一のイオン・ビーム・スポットを形成することを特徴とする集束イオン・ビーム照射方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−40809(P2006−40809A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222212(P2004−222212)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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