説明

離型フィルムおよびその製造方法

【課題】各層間の接着性が良好で、特に、凹凸部に対する形状追従性に優れ、カバーレイ開口部での接着剤にじみ出し低減効果が高く、より安価な離型フィルムを提供する。
【解決手段】第三成分としてジオール化合物を共重合させたポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリメチルペンテン樹脂(B)の質量比が100:20〜100:5である樹脂組成物からなる2層の離型層の間に、樹脂成分100質量部に対し、融点が50〜110℃であるエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(E)を80〜50質量部、融点が50〜110℃であるエポキシ化ポリオレフィン樹脂(F)を5〜20質量部、および曲げ弾性率が600MPa以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂(G)を15〜30質量部含む樹脂組成物からなる中間層を有する多層構造であって、離型層:中間層=1:10〜1:3であり、総厚が20〜160μmの離型フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型フィルムおよびその製造方法に関し、かかる離型フィルムは、プリント配線基板、フレキシブルプリント基板(以下、「FPC」と称する)、多層プリント配線基板等の製造工程における熱プレス工程に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板、FPC、多層プリント配線基板等の製造工程における熱プレス工程は、銅製回路と、結線部が開口したカバーレイフィルムとを熱硬化性接着剤により接着し、積層させる工程であり、この工程ではシリコーンゴムを配した熱板で上下から油圧による圧着が行われる。
【0003】
前記熱プレス工程を実施する場合、(1)回路基板へのシリコンの移行防止、(2)結線部への接着剤のにじみ出し防止、(3)カバーレイの破損など、回路に生じる不具合の防止等を目的として、シリコーンゴムを配した熱板と、回路、カバーレイフィルムとの間に両者の接触防止用の離型フィルムが使用される。
【0004】
今日、かかる離型フィルムとしては種々の材質のものが知られており、例えば、シリコンコート系離型フィルム、主にポリテトラメチルフルオロエチレン(PTFE)であるフッ素系離型フィルム(特許文献1)、ポリメチルペンテン離型フィルム(特許文献2)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系離型フィルム(特許文献3、特許文献4)等が挙げられる。
【0005】
また、特許文献5には、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂が開示され、特許文献6にはエポキシ化オレフィン樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−187898号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2006−212954号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2007−84760号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2007−98816号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開2000−53789号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開2007−106843号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、プリント配線基板、FPC、多層プリント配線基板等の今日における高性能化に伴い、また、廃棄処理問題の顕在化に伴い、これまでの既知の離型フィルムでは必ずしも満足し得ない状況となってきた。
【0008】
例えば、シリコンコート系離型フィルムを使用した場合には、離型フィルム表面上のシリコンがプリント配線基板に移行してプリント配線基板の品質を損なうおそれがあり、汚染性に劣っている。また、特許文献1に記載されているようなフッ素系離型フィルムは、耐熱性および離型性では優れているものの、高価な上、使用後の廃棄焼却処理時に燃焼しにくく、かつ有毒ガスを発生するという欠点がある。さらに、特許文献2記載のポリメチルペンテン離型フィルムも、離型性および耐熱性には優れているが、やはり高価であり、また、単層ではクッション性を十分に発揮することができない。
【0009】
一方、特許文献3や特許文献4に記載されているようなPBT系離型フィルムは、上述のシリコンコート系離型フィルムやフッ素系離型フィルムと比較しても基板の品質を損なう要因が少なく、耐熱性も有り、かつ廃棄処理も容易なため、離型フィルム材として期待されている。しかし、PBT系離型フィルムは、シリコンコート系離型フィルムやフッ素系離型フィルムと比べると離型性に劣り、また、PBTホモポリマーでは剛性が強く、FPCの基板の凹凸に対する形状追従性に劣っている。また、PBTコポリマーは、柔軟だが、PBTホモポリマーよりさらに離型性に劣り、フィルムのブロッキングが起こりやすいといった欠点を有する。
【0010】
特に、回路の微細度が高いFPCをプレスする時、形状追従性が十分でないと、熱プレス工程の際、カバーレイフィルム開口部から熱硬化性接着剤がはみ出す場合があるという問題があった。そのため、より優れた凹凸部への形状追従性が求められていた。
【0011】
また、多層構造からなる離型フィルムも考えられるが、かかる離型フィルムでは、各層間の良好な接着性が求められ、さらに、低コストの離型フィルムが望まれている。
【0012】
そこで本発明の目的は、離型性、均一な成形性にすぐれ、かつ使用後の廃棄が容易な離型フィルムにおいて、各層間の接着性が良好で、特に、凹凸部に対する形状追従性に優れ、カバーレイ開口部での接着剤にじみ出し低減効果が高く、より安価な離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の樹脂成分を用いた離型層とその間に中間層とを有する多層構造の離型フィルムとすることにより、前記課題の解決と目的の達成をし得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の離型フィルムは、第三成分としてジオール化合物を共重合させたポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリメチルペンテン樹脂(B)とを主成分とし、樹脂(A):樹脂(B)の質量比が100:20〜100:5である樹脂組成物からなる2層の離型層の間に、
樹脂成分100質量部に対し、融点が50〜110℃であるエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(E)を80〜50質量部、融点が50〜110℃であるエポキシ化ポリオレフィン樹脂(F)を5〜20質量部、および曲げ弾性率が600MPa以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂(G)を15〜30質量部含む樹脂組成物からなる中間層を有する多層構造であって、
前記離型層と前記中間層の厚さの比が、離型層:中間層=1:10〜1:3であり、総厚が20〜160μmであることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の離型フィルムは、前記離型層が、前記樹脂成分100質量部に対し、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)とを合計で50質量部以上含む樹脂組成物からなることが好ましく、前記離型層が、前記樹脂成分100質量部に対し、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(C)を30質量部以下で含む樹脂組成物からなることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の離型フィルムは、前記離型層が、前記樹脂成分100質量部に対し、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)との相溶化剤(D)を1〜10質量部含む樹脂組成物からなることが好ましい。
【0017】
さらにまた、本発明の離型フィルムは、前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(E)が、メタロセン触媒を使用して重合された線状低密度のエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の離型フィルムは、前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(E)および前記エポキシ化ポリオレフィン樹脂(F)の190℃、2.16kg荷重時のメルトフローレート(MFR)が、2〜15g/10minであることが好ましい。
【0019】
さらにまた、本発明の離型フィルムは、前記離型層表面の片面または両面が粗化加工されていることが好ましく、前記離型層表面が、前記樹脂組成物を溶融押出しフィルム成形する際、表面粗化された冷却ロールに接触させることにより粗化加工を施されていることが好ましい。また、前記離型層表面が、全面に渡り均質な凹凸が形成される柄で粗化加工されていることが好ましい。
【0020】
本発明の離型フィルムの製造方法は、前記離型フィルム用樹脂組成物を混練り、溶融し、次いで、多層Tダイ型成形機で共押出により成形することを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の離型フィルムの製造方法は、前記樹脂組成物を溶融押出フィルム成形する際、表面粗化された冷却ロールに接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、離型性、均一な成形性にすぐれ、かつ使用後の廃棄が容易な離型フィルムにおいて、各層間の接着性が良好で、特に、凹凸部に対する形状追従性に優れ、カバーレイ開口部での接着剤にじみ出し低減効果が高く、より安価な離型フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の離型フィルムの離型層をなす樹脂組成物は、第三成分としてジオール化合物を共重合させたポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)(以下「樹脂(A)」と称する)と、ポリメチルペンテン樹脂(B)(以下「樹脂(B)」と称する)とを主成分とし、樹脂(A):樹脂(B)の質量比が100:20〜100:5である。樹脂(A):樹脂(B)の質量比が100:20よりも樹脂(B)の比率が高くなると、樹脂(A)と樹脂(B)の分散性の変化による混ざりムラから、フィルムに厚みのばらつきが発生し、均質な製膜が困難となり、一方、質量比が100:5よりも樹脂(A)の比率が高くなると、離型性および形状追従性に劣る結果となる。また、好ましくは樹脂成分100質量部に対し、樹脂(A)と樹脂(B)とを合計で50質量部以上含む。この合計量が50質量部よりも少なくなると、形状追従性において十分とは言えなくなる。
【0024】
本発明において使用し得る樹脂(A)は、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を主体とするジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主体とするジオール成分を重縮合して得られる、主としてPBT繰り返し単位からなるポリエステルに、第三成分としてジオール化合物を共重合させたコポリエステルである。
【0025】
かかる第三成分のジオール化合物としてアルキレングリコールを好適に用いることができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、エトキシ化ビスフェノールAなどのジオール化合物を挙げることができるが、特に好ましくはポリテトラメチレングリコールである。
【0026】
本発明において使用し得る樹脂(A)は、第三成分としてジオールを共重合させることにより、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー対比、結晶化度や、剛性をコントロールして柔軟性を付与したものであり、かかる樹脂(A)は、例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のノバデュラン(登録商標)シリーズのものとして市場で入手することができる。
【0027】
また、本発明において使用し得る樹脂(B)は、その分子量および結晶化度等に関し、特に制限があるわけではないが、離型フィルムの形状追従性を低下させないため、低剛性のものを選定することが好ましい。かかる樹脂(B)は、例えば、三井化学(株)製のTPX(登録商標)シリーズのものとして市場で入手することができる。
【0028】
本発明の離型フィルム用樹脂組成物においては、樹脂成分として樹脂(A)と樹脂(B)のみをベース材として用いることもできるが、樹脂(A)の第三成分としてのジオール化合物量が多くなるに従い樹脂(A)のメルトフローレートが高くなり、離型フィルムへの成形性がやや劣ることになる。このため、離型フィルムの成形性を考慮し、単体での曲げ弾性率が約2400MPaであるポリブチレンテレフタレートホモポリマー(C)(以下「ホモポリマー(C)と称する」)を併用し、成形性の改善を図ることもできる。
【0029】
かかるホモポリマー(C)は、樹脂成分100質量部に対し、30質量部以下で配合することが好ましい。この配合量が30質量部を超えると形状追従性に劣り、また、接着剤のにじみ出しを生じ易くなる。
【0030】
本発明において使用する樹脂(A)は極性が高く、一方、樹脂(B)は極性の低い樹脂であるため、樹脂(A)と樹脂(B)との分散性を保持するために相溶化剤を添加してもよい。この相溶化剤は特に制限されるべきものではないが、好ましくは、非極性のポリプロピレン(PP)部分と、極性を持つアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸等の不飽和カルボン酸で変性した低分子量ポリプロピレンを挙げることができる。かかる低分子量のポリプロピレン樹脂は、例えば、三洋化成工業(株)製のユーメックス(登録商標)シリーズのものとして市場で入手することができる。
【0031】
相溶化剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましい。この量が10質量部を超えると、分散性の変化によりフィルムの表面状態が変化してしまい、離型性が低下し、さらに離型フィルムに必要な耐熱性も低下するおそれがある。一方、この量が1質量部未満では、相溶化剤添加による分散性の改善効果を得ることができない。
【0032】
本発明の離型フィルムの離型層を製造するにあたり、樹脂(A)と樹脂(B)とは本来非溶性であることから、相溶化剤の使用の他、これらを均一に分散させ、均質なフィルムを製膜するために、ミキシングゾーンを持つ押出機、若しくはダルメージ型単軸押出機を具備するTダイ型押出成形機などを用いてフィルム成形することが好ましい。成形温度は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルペンテン樹脂の融点を考慮し、230〜260℃であることが好ましく、特にダイス温度は250〜260℃が好適である。また、この際、使用する樹脂組成物としては、ブレンドミキサーを用いてドライブレンドとしたものを好適に用いることができる。
【0033】
本発明の中間層をなす樹脂組成物に含まれる樹脂成分は、入手が容易で、コストとのバランスが取れ、成形性に優れた材料であることはもちろんのこと、優れた形状追従性を得るため、加熱時の柔軟性に優れた樹脂が望ましい。また、樹脂の流動性については、カバーレイ開口部での接着剤がはみ出す前に、凹凸部に対して速やかな賦形が為される必要があり、ある程度の高流動性が求められ、かつ、離型層との共押による製膜に支障がないことが望ましい。また、共押による製膜という観点から、離型層とある程度の接着力を保持できることが望ましい。
【0034】
上記中間層樹脂の主成分エチレン−α−オレフィンである共重合体樹脂(E)(以下、「樹脂(E)」と称する)は、高い凹凸賦形性を得るために、十分な弾性と加熱時の柔軟性を持ち合わせる必要があり、融点が50〜110℃である。上記範囲より融点が高い場合、凹凸賦形性が充分でなく、上記範囲より融点が低い場合、樹脂の溶融によるフィルムの変形が著しく、使用に耐えられない。
【0035】
また、樹脂(E)の加熱時流動性については、前述した凹凸部に対しての速やかな賦形性、離型層との共押による製膜に支障がない程度の流動性の両立という観点から、190℃、2.16kg荷重時のメルトフローレート(以下、MFR)が、2〜15g/10min、さらに好ましくは、5〜12g/10minの樹脂が望ましい。上記範囲よりMFRが低い場合、熱プレス時の流動性が低く、FPC接着剤にじみ出し低減効果が十分でない。上記範囲よりMFRが高い場合、共押による製膜時に、中間層の流動性が相対的に高くなることから、製膜安定性が低下し、外観ムラや、押出時のサージング発生の原因となる。
【0036】
かかる樹脂(E)は、メタロセン触媒を使用して重合された線状低密度のエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂が挙げられ、例えば、三井化学(株)製のエボリュー、日本ポリエチレン(株)製のカーネルシリーズとして市場で入手できる。
【0037】
樹脂(E)単体の場合、離型層と、中間層に接着性がなく、取扱いの際や、熱プレスの際、離型層/中間層間で剥離が発生する可能性があるため、両層間の接着性付与のため、エポキシ化ポリオレフィン樹脂(F)(以下、「樹脂(F)」と称する)を添加するものである。エポキシ化ポリオレフィン樹脂(F)組成の詳細については、特開2007−106843号公報に記載されている。
【0038】
樹脂(F)は、中間層主成分である樹脂(E)との相溶性が高く、樹脂(E)とのブレンドにより、中間層の機能および製膜性を低下させない材料であることが望ましい。ベースとなるポリオレフィンの種類は特に限定されるものではないが、樹脂(E)と相溶性が高いポリエチレンが最もふさわしく、樹脂(F)の融点は50〜110℃、MFRが、2〜15g/10min、さらに好ましくは、5〜12g/10minであり、樹脂(E)と類似していることが望ましい。かかる樹脂(F)は、例えば、住友化学(株)製のボンドファーストシリーズとして市場で入手できる。
【0039】
中間層に樹脂(E)および樹脂(F)を配合することで、高い凹凸賦形性を得ることが可能であるが、フィルム離型層と中間層との層間剥離を防止し、両層間の接着性を維持するために樹脂(F)を一定量添加することから、樹脂(E)単体の場合に比べ、原料コストの増加が避けられなかった。そこで、離型層と中間層との接着性を維持し、かつ、樹脂(F)の添加量を低減するために、曲げ弾性率が600MPa以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂(G)(以下、「樹脂(G)」と称する)を添加することが肝要である。樹脂(G)を添加することにより、凹凸賦形性および製膜性に影響を与えずに、離型層と中間層との良好な接着性を低コストで実現できる。かかる樹脂(G)としては、例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のノバデュランシリーズとして市場で入手できる。
【0040】
上記樹脂成分は、ドライブレンドないし、メルトブレンドして得られる。樹脂成分100質量部に対し、樹脂(E)が80〜50質量部、樹脂(F)が5〜20質量部、および樹脂(G)が15〜30質量部の範囲であり、さらには、樹脂(E)が70〜60質量部、樹脂(F)が10〜15質量部、および樹脂(G)が20〜25質量部の範囲であることが好ましい。
【0041】
上記範囲より樹脂(E)の相対比率が高い場合、フィルムの離型層/中間層の層間強度が十分でなく、離型層/中間層間の剥離およびフィルムの解体が発生する。なお、上記範囲より樹脂(E)の相対比率が低い場合は、以下に記載する樹脂(F)の相対比率が高い場合、および樹脂(G)の相対比率が高い場合と同様である。
【0042】
また、上記範囲より樹脂(F)の相対比率が高い場合、生産にかかる原料のコストが上がり、一方、上記範囲より樹脂(F)の相対比率が低い場合、フィルムの離型層/中間層との層間強度が十分でなく、離型層/中間層間の剥離およびフィルムの解体が発生する。さらに、樹脂(F)は、フィルム剥離層との接着性付与と同時に、樹脂(E)と樹脂(G)の相溶化剤としての機能も有しているため、混練能力の高い押出機を使用する等を使用しない場合、樹脂(E)と樹脂(G)の分散性が低下する。
【0043】
また、上記範囲より樹脂(G)の相対比率が高い場合、フィルムの加熱時柔軟性が低下し、凹凸賦形性が低下し、さらに、樹脂(F)の相溶効果が十分でなくなり、良好なフィルムが得られない。一方、上記範囲より樹脂(G)の相対比率が低い場合、フィルムの離型層/中間層の層間強度が十分でなく、離型層/中間層間の剥離およびフィルムの解体が発生する。
【0044】
離型層と、中間層の厚さの比は、離型層:中間層=1:10〜1:3であり、好ましくは、離型層:中間層=1:6〜1:4である。離型層:中間層=1:10より中間層が厚い場合、離型層の薄化による離型性の低下の恐れがある。また、離型層:中間層=1:3より中間層が薄い場合、形状追従性が十分でない。
【0045】
本発明が適用される離型フィルムの総厚は、20〜160μmであり、好ましくは30〜130μmである。フィルムが20μm未満の場合、薄層のため製膜自体が困難になり、さらには、総厚が薄いことから、各層の形成が困難になる。さらにエンボスロールとの接触による粗化を行う場合、離型層が破壊される可能性がある。一方、160μmを超える場合、フィルムの厚みが増すことから剛性が高くなり、形状追従性が不十分になる。
【0046】
本発明の離型フィルムは、2つの離型層の間に上記中間層を有する多層構造であり、上記離型層により離型性が付与され、上記中間層により形状追従性が付与される。上記離型層および中間層を有すれば、本発明の効果を損なわない限り、さらに他の樹脂組成物からなる層を有してもよい。
【0047】
本発明に用いる離型フィルムの離型層表面の片面または両面には、本発明の目的を妨げない程度に、表面粗化処理を行うことができる。表面粗化処理を行うことにより、離型フィルムを熱プレスに使用する時の熱収縮による凹凸および折りシワの発生を防ぐことができる。表面粗化処理を行う場合、離型層表面の三次元中心面平均粗さSRが0.3〜10μmとなるようにすることが好ましく、さらに、0.5〜5μmとなるようにすることが好ましい。この三次元中心面平均粗さが0.3μm未満では、離型フィルムの熱収縮による凹凸と回路部との空間にある空気が抜けにくくなることから、折りシワを抑制する効果が良好に得られなくなる。一方、10μmを超えると、離型面の凹凸度合が過剰に大きくなり、熱プレス時の圧力のばらつきや、接着剤のにじみ出しにつながる可能性がある。
【0048】
フィルムの離型層と、被離型面である回路部との間の動摩擦係数μdは、0.30以下であることが好ましい。動摩擦係数がこの値を超える場合、滑り性が低下するため、離型フィルムが面方向に移動しにくいことがある。
【0049】
表面凹凸の形状・柄については、特に限定されるものではないが、上記三次元中心面平均粗さの好適な値が得られる範囲で、全面に渡り均質な凹凸が形成される柄が好適であり、例えば、マット調が好ましい。グロス調のような、表面粗化が少ない柄の場合、折りシワ低減効果が得られなくなる可能性がある。また、不規則な凹凸柄、模様は、加圧時、回路部への圧力が不均一になることから、好適ではない。
【0050】
フィルムの表面粗化加工方法については、本発明に好適な離型層の表面状態を実現できる範囲において、従来公知の方法を用いるのが望ましい。中でも、工程数の増加がないことから、Tダイ型押出成型機を用いて溶融樹脂を押し出す際、エンボスロールとの接触による粗面化の方法が好適である。なお、粗化加工には、表面粗化された冷却ロールが好ましい。
【0051】
本発明の離型フィルムを構成する樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、熱安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、防錆剤、耐銅害安定剤、帯電防止剤等の公知の各種添加剤を配合することができるのは勿論である。これらは1種を単独で使用してもよく、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
(実施例1)
離型層材料として、第三成分としてポリテトラメチレングリコールを共重合させたPBTコポリマー(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商標登録:ノバデュラン5505S、以下「樹脂(A)」と称する)80質量部と、PBTホモポリマー(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商標登録:ノバデュラン5026、以下「樹脂(C)」と称する)20質量部と、ポリメチルペンテン(三井化学(株)製、商標登録:TPX MX002、以下「樹脂(B)」と称する)10質量部とを用い、これらをブレンドミキサーでドライブレンドした。なお、樹脂(A)および樹脂(C)のPBT系樹脂については、事前に熱風乾燥機にて120℃で8時間乾燥させたものを使用した。
【0053】
中間層材料として、メタロセン触媒を使用して重合された線状低密度のエチレン−α−オレフィン共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商標登録:カーネルKC570S(d=0.906g/cm、融点102℃,MFR=10.5)、以下「樹脂(E)」と称する)70質量部と、エポキシ化ポリオレフィン樹脂(住友化学(株)製、商標登録:ボンドファースト7M(d=0.960g/cm、融点52℃、MFR=7)、以下「樹脂(F)」と称する)10質量部と、曲げ弾性率が600MPa以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商標登録:ノバデュラン5510S融点219℃、以下「樹脂(G)」と称する)20質量部とを用い、これらをブレンドミキサーでドライブレンドした。樹脂(G)は、事前に熱風乾燥機にて120℃で8時間乾燥させたものを使用した。
【0054】
上述のようにドライブレンドした樹脂組成物を用い、ダルメージ型3層単軸押出機で混練溶融させた後、Tダイスから共押出し、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0055】
(実施例2)
離型層材料として、樹脂(A)80質量部と、樹脂(C)20質量部と、樹脂(B)10質量部と、相溶化剤(D)として、低分子量ポリプロピレン(三洋化成工業(株)製、登録商標:ユーメックス1001、以下「相溶化剤(D)」と称する)5質量部とを用い、これらをブレンドミキサーでドライブレンドした。なお、樹脂(A)および樹脂(C)のPBT系樹脂については、事前に熱風乾燥機にて120℃で8時間乾燥させたものを使用した。中間層材料として、樹脂(E)70質量部と、樹脂(F)10質量部と、樹脂(G)20質量部を用い、これらをブレンドミキサーでドライブレンドした。樹脂(G)は、事前に熱風乾燥機にて120℃で8時間乾燥させたものを使用した。
【0056】
上述のようにドライブレンドした樹脂組成物を、ダルメージ型3層単軸押出機で混練溶融させた後、Tダイスから共押出し、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0057】
(実施例3)
中間層材料に使用する樹脂(E)を60質量部、樹脂(F)を15質量部、樹脂(G)を25質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0058】
(実施例4)
中間層材料に使用する樹脂(E)を60質量部、樹脂(F)を15質量部、樹脂(G)を25質量部用いたこと以外は、実施例2と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0059】
(実施例5)
押出直後の溶融樹脂に、マット調エンボスロールを接触させ、両面に粗化加工を施したこと以外は、実施例1と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0060】
(実施例6)
押出直後の溶融樹脂に、マット調エンボスロールを接触させ、両面に粗化加工を施したこと以外は、実施例2と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0061】
(比較例1)
実施例1の離型層材料を使用し、実施例1と同様にドライブレンドし、120μmの単層フィルムを作製した。
【0062】
(比較例2)
中間層材料に使用する樹脂として、樹脂(E)を95質量部、樹脂(F)を5質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0063】
(比較例3)
中間層材料に使用する樹脂として、樹脂(E)を80質量部、樹脂(G)を20質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0064】
(比較例4)
中間層材料に使用する樹脂として、樹脂(E)を55質量部、樹脂(F)を10質量部、樹脂(G)を35質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0065】
(比較例5)
中間層材料に使用する樹脂として、樹脂(E)を85質量部、樹脂(F)を10質量部、樹脂(G)を5質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0066】
中間層材料に使用する樹脂として、樹脂(G)を100質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:4:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0067】
(比較例7)
実施例1と同様の方法で、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:22:1であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0068】
(比較例8)
実施例1と同様の方法で、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=55:10:55であり、総厚が120μmの3層フィルムを作製した。
【0069】
(比較例9)
実施例1と同様の方法で、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=3.5:13:3.5であり、総厚が15μmの3層フィルムを作製した。
【0070】
(比較例10)
実施例1と同様の方法で、各層の厚さの比が離型層:中間層:離型層=1:2:1であり、総厚が200μmの3層フィルムを作製した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
総厚35μmのカバーレイ/接着剤シートに、直径1.5mmの穴を開け、開口部とした。電解銅箔と、前記のカバーレイ/接着剤シートを積層してFPCを作製し、190℃、35kg/cm、加温時間120sで各実施例1〜6、比較例1〜10で得られた離型フィルムを用いて熱プレスを行い、それぞれの離型フィルムについて、以下の項目に関して評価を行った。
【0074】
評価項目
(熱プレス後表面汚染)
熱プレス後のカバーレイ表面の汚染を目視により評価した。カバーレイ表面が溶融樹脂により汚染されていないものを○、汚染されているものを×として評価した。
【0075】
(接着剤にじみ出し量:カバーレイ開口部からの接着剤にじみ出し)
熱プレス工程後、カバーレイ開口部の接着剤のにじみ出しを顕微鏡により観察し、評価した。接着剤のにじみ出しが0.05mm未満であるものを○、接着剤のにじみ出しが0.05mm以上であるものを×として評価した。
【0076】
(剥離性1:剥離のしやすさ)
離型フィルムの剥離性をフィーリングにより評価した。手で剥離したとき、スムーズに剥離できたものを○、手で剥離したとき抵抗が大きく、一度に剥離できなかったものを×として評価した。
【0077】
(剥離性2:剥離時のフィルム破れ・フィルム離型/中間層−層間剥離の有無)
離型フィルムの剥離性を評価した。剥離時、フィルムの破れ、層間剥離が発生しなかったものを○、発生したものを×として評価した。得られた結果を下記の表3、表4に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
実施例1〜6のフィルムはいずれも、離型性にすぐれ、厚みムラが少なく、熱プレス時、カバーレイへの接着、剥離時のフィルムの破れもなかった。また、形状追従性にすぐれ、カバーレイ開口部の接着剤のにじみ出し量に関し、基準を満たしていた。
【0081】
それに対して、比較例1では、熱プレス時、カバーレイからの接着剤にじみ出し量が基準値以上であった。比較例2では、熱プレス時、カバーレイからの接着剤にじみ出し量は基準値以下であったが、フィルム離型層/中間層の層間強度が低く、熱プレス後の剥離時にフィルムの層間剥離による解体が発生した。また、比較例3では、樹脂(F)が未添加で、フィルム離型層/中間層の層間強度が低いため、熱プレス後の剥離時にフィルムの層間強度および解体が発生した。さらに、比較例4では、樹脂(G)の比率が高く、加熱時の柔軟性が低下したことから、熱プレス時、カバーレイからの接着剤のにじみ出し量が基準値以上になった。さらにまた、比較例5では、樹脂(G)の比率が低く、フィルム離型層/中間層の層間強度の維持効果が十分でないため、熱プレス後の剥離時にフィルム離型層/中間層の層間剥離および解体が発生した。
【0082】
比較例6では、賦形性が十分でないため、熱プレス時、カバーレイからの接着剤にじみ出し量が基準値以上であった。また、比較例7では、離型層の形成が不十分であり、剥離性が低下した。比較例8では、中間層の厚さが薄く、形状追従性が不十分であり、熱プレス時、カバーレイからの接着剤にじみ出しが発生した。比較例9では、フィルムの総厚が薄く、製膜時、フィルムの破れから、フィルムの作製が困難であった。比較例10では、離型層が厚いため剛性が高く、熱プレス時、カバーレイからの接着剤にじみ出しが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三成分としてジオール化合物を共重合させたポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリメチルペンテン樹脂(B)とを主成分とし、樹脂(A):樹脂(B)の質量比が100:20〜100:5である樹脂組成物からなる2層の離型層の間に、
樹脂成分100質量部に対し、融点が50〜110℃であるエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(E)を80〜50質量部、融点が50〜110℃であるエポキシ化ポリオレフィン樹脂(F)を5〜20質量部、および曲げ弾性率が600MPa以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂(G)を15〜30質量部含む樹脂組成物からなる中間層を有する多層構造であって、
前記離型層と前記中間層の厚さの比が、離型層:中間層=1:10〜1:3であり、総厚が20〜160μmであることを特徴とする離型フィルム。
【請求項2】
前記離型層が、前記樹脂成分100質量部に対し、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)とを合計で50質量部以上含む樹脂組成物からなる請求項1記載の離型フィルム。
【請求項3】
前記離型層が、前記樹脂成分100質量部に対し、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(C)を30質量部以下で含む樹脂組成物からなる請求項1または2記載の離型フィルム。
【請求項4】
前記離型層が、前記樹脂成分100質量部に対し、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)との相溶化剤(D)を1〜10質量部含む樹脂組成物からなる請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の離型フィルム。
【請求項5】
前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(E)が、メタロセン触媒を使用して重合された線状低密度のエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂である請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の離型フィルム。
【請求項6】
前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(E)および前記エポキシ化ポリオレフィン樹脂(F)の190℃、2.16kg荷重時のメルトフローレート(MFR)が、2〜15g/10minである請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の離型フィルム。
【請求項7】
前記離型層表面の片面または両面が粗化加工されている請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の離型フィルム。
【請求項8】
前記離型層表面が、前記樹脂組成物を溶融押出しフィルム成形する際、表面粗化された冷却ロールに接触させることにより粗化加工を施されている請求項7記載の離型フィルム。
【請求項9】
前記離型層表面が、全面に渡り均質な凹凸が形成される柄で粗化加工されている請求項7または8記載の離型フィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のうちいずれか一項に記載の離型フィルムの製造方法であって、前記離型フィルム用樹脂組成物を混練り、溶融し、次いで、多層Tダイ型成形機で共押出により成形することを特徴とする離型フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記樹脂組成物を溶融押出フィルム成形する際、表面粗化された冷却ロールに接触させることにより前記離型層を粗化加工する請求項10記載の離型フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−5780(P2011−5780A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152746(P2009−152746)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】