説明

離型部材、定着器、および画像形成装置

【課題】耐摩耗性の向上が図られた離型部材、定着器、および画像形成装置を提供する。
【解決手段】離型部材は、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを少なくとも表面に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型部材、定着器、および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、画像形成装置における記録媒体への画像定着として、表面が弾性変形する定着ロールと、この定着ロールに接触したまま走行可能な加圧ベルトと、この加圧ベルトの内側に配置された圧力パッドとを具備し、圧力パッドによって加圧ベルトを定着ロールに加圧接触させて構成し、加圧ベルトと定着ロールとの間に記録紙を通過させることができるようにベルトニップを設けるとともに、定着ロールの表面のうち、記録紙の出口側を局部的に弾性変形させるようにしたベルトニップ方式と呼ばれる定着装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、このような定着装置に用いられる定着部材として、ポリイミドとフッ素樹脂を混合して使用し、フッ素樹脂をベルト表面に析出、あるいは偏在させた無端ベルトが提案されている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【0004】
さらに、フッ素化ポリイミドを主成分とする無端ベルトも提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3298354号公報
【特許文献2】特開平11−156971号公報
【特許文献3】特開2006−256323号公報
【特許文献4】特許第3069041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐摩耗性の向上が図られた離型部材、定着器、および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る離型部材は、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを少なくとも表面に有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る離型部材は、上記ポリイミドが、5%以上60%以下のフッ素含有率を有するものであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る離型部材は、上記ポリイミドが、フッ素とシリコンの構成元素比F/Siが3以上20以下のものであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る離型部材は、上記ポリイミドが、少なくとも一部に下記構造式(I)で表された構造部分を有するものであることを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
(上記構造式(1)中、Arは芳香環を1個以上有する4価の有機、Yは2価の有機基、Rはアルキル基、Xはフッ素原子を有する有機基を表している。)
請求項5に係る離型部材は、上記構造式(I)中のXが、3以上20以下のフッ素原子を有する有機基であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る定着器は、
フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを少なくとも表面に有する離型部材と、
未定着の像が表面に形成されている記録媒体を上記離型部材との間に挟み込み、その記録媒体がその離型部材との間を通過していく挟み込み部材と、
上記離型部材と上記挟み込み部材との間を通過する記録媒体を加熱する加熱器と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る画像形成装置は、
記録媒体の表面に未定着の像を形成する像形成器と、
上記記録媒体上の未定着の像をその記録媒体上に定着させる定着器とを備え、
上記定着器が、
フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを少なくとも表面に有する離型部材と、
未定着の像が表面に形成されている記録媒体を上記離型部材との間に挟み込み、その記録媒体がその離型部材との間を通過していく挟み込み部材と、
上記離型部材と上記挟み込み部材との間を通過する記録媒体を加熱する加熱器と、
を備えたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る離型部材によれば、離型部材がフッ素含有シラン化合物を有さない場合に較べて、耐摩耗性が向上する。請求項2に係る離型部材は、本構成を有しない場合と較べて耐摩耗性が高い。
【0016】
請求項3に係る離型部材も、本構成を有しない場合と較べて耐摩耗性が高い。
【0017】
請求項4に係る離型部材は、上記構造式が異なる場合と較べて離型性が高い。
【0018】
請求項5に係る離型部材は、本構成を有しない場合と較べて耐摩耗性が高い。
【0019】
請求項6に係る定着器によれば、離型部材がフッ素含有シラン化合物を有さない場合に較べて、耐摩耗性が向上する。
【0020】
請求項7に係る画像形成装置によれば、離型部材がフッ素含有シラン化合物を有さない場合に較べて、耐摩耗性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態である画像形成装置を示す概略構成図である。
【図2】定着装置の構成を示す断面図である。
【図3】エンドレスベルトの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
[画像形成装置]
図1は、本発明の一実施形態である画像形成装置を示す概略構成図である。
【0024】
図1に示す画像形成装置1は、中間転写方式のプリンタである。画像形成装置1は、電子写真方式により各色成分のトナー像を形成する複数の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kと、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにより形成された各色成分トナー像を中間転写ベルト15に順次転写(一次転写)させる一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写された重畳トナー画像を記録材(記録紙)である用紙Pに一括転写(二次転写)させる二次転写部20と、二次転写された画像を用紙P上に定着させる定着装置60と、を備えている。画像形成装置1には、各装置各部の動作を制御する制御部40も備えられている。定着装置60は、本発明の定着器の一実施形態に相当する。また、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kと一次転写部10と二次転写部20とを合わせたものが、本発明にいう像形成器の一例に相当する。
【0025】
画像形成装置1は、いわゆるタンデム型のプリンタであり、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の順に、1列に配置されている。画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、使用するトナーの色が異なる以外は互いに同様の構成を有している。イエローを担当する画像形成ユニット1Yに代表させて符号を付して説明すると、画像形成ユニット1Yは、矢印A方向に回転する感光体ドラム11の周囲に、感光体ドラム11を帯電する帯電器12と、感光体ドラム11上に露光ビームBmを照射して静電潜像を書き込むレーザ露光器13と、イエローのトナーが収容されて感光体ドラム11上の静電潜像をトナーにより現像する現像器14と、感光体ドラム11上に形成された各色成分トナー像を中間転写ベルト15に転写する一次転写部10と、感光体ドラム11上の残留トナーを除去するドラムクリーナ17とが順次配設されている。
【0026】
中間転写ベルト15は、樹脂に帯電防止剤を含有させた材料からなるフィルム状の無端のベルトである。この樹脂としては、例えばポリイミドやポリアミドが用いられ、そのような樹脂に含有される帯電防止剤としては、例えばカーボンブラックが用いられる。中間転写ベルト15の体積抵抗率は、10Ωcm以上1014Ωcm以下であり、その厚さは、例えば、0.1mm程度である。中間転写ベルト15は、複数のロールに架け渡されており、図1に示すB方向に周回移動している。中間転写ベルト15が架け渡されるロールは、中間転写ベルト15を駆動する駆動ロール31と、中間転写ベルト15が感光体ドラム11の配列に沿って延びた領域の両端を支持する支持ロール32と、中間転写ベルト15に対して一定の張力を与えるテンションロール33と、二次転写部20に設けられるバックアップロール25と、クリーニング部35に設けられたクリーニングバックアップロール34である。駆動ロール31は、モータ(図示せず)により駆動されて、中間転写ベルト15を予め定められた速度で周回移動させる。テンションロール33は、中間転写ベルト15の蛇行を防止する補正ロールとしても機能する。
【0027】
一次転写部10は、中間転写ベルト15を挟んで感光体ドラム11に対向して配置された一次転写ロール16を有する。一次転写ロール16は、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とを備えている。シャフトは金属で構成された円柱棒であり、このシャフトを構成する金属は典型的には鉄やSUS(ステンレス鋼)である。スポンジ層は、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)とスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とが配合されたブレンドゴムに、カーボンブラックといった導電剤が配合された、体積抵抗率が10Ωcm以上10Ωcm以下の材料で形成されている。一次転写ロール16は、感光体ドラム11との間に中間転写ベルト15を挟み付けている。一次転写ロール16には、トナーの帯電極性(ここの例では、マイナス極性。以下同様。)とは逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加される。これにより、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの感光体ドラム11上のトナー像が中間転写ベルト15に順次、静電吸引され、中間転写ベルト15上において重畳されたトナー像が形成される。
【0028】
二次転写部20は、中間転写ベルト15のトナー像保持面側に配置される二次転写ロール22と、バックアップロール25とを備えている。バックアップロール25は、EPDMゴムからなる内層と、カーボンを分散したEPDM及びNBRのブレンドゴムからなるチューブ状の表面層とを備えている。バックアップロール25の表面抵抗率は、10Ω/m以上1010Ω/m以下であり、硬度は、例えば70°(アスカーC)程度である。このバックアップロール25は、中間転写ベルト15の内周面側、すなわち、中間転写ベルト15を挟んで二次転写ロール22の反対側に配置されており、二次転写ロール22の対向電極をなしている。バックアップロール25には、二次転写バイアスが印加される金属製の給電ロール26が接触している。
【0029】
一方、二次転写ロール22は、シャフトとシャフトの周囲を覆ったスポンジ層とを備えている。シャフトは金属で構成された円柱棒であり、このシャフトを構成する金属は典型的には鉄やSUSである。スポンジ層は、ブレンドゴムに導電剤が配合された材料で構成された円筒状であり、このブレンドゴムは典型的にはNBRとSBRとEPDMとが配合されたものであり、ブレンドゴムに配合される導電剤は典型的にはカーボンブラックである。スポンジ層の体積抵抗率は、10Ωcm以上10Ωcm以下である。二次転写ロール22は、中間転写ベルト15を挟んでバックアップロール25に押し付けられている。二次転写ロール22は、接地されてバックアップロール25との間に二次転写バイアスによる電界を形成し、この電界によって、二次転写部20に搬送される用紙P上にトナー像を二次転写する。
【0030】
また、中間転写ベルト15の二次転写部20よりも下流側には、二次転写後の中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉を除去することで、中間転写ベルト表面をクリーニングする中間転写ベルトクリーナ35が設けられている。一方、イエローの画像形成ユニット1Yよりも上流側には、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)42が配設されている。基準センサ42は、中間転写ベルト15の裏側に設けられたマークを認識して基準信号を発生しており、この基準信号の認識に基づく制御部40からの指示により、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは画像形成を開始する。また、黒の画像形成ユニット1Kよりも下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43が配設されている。
【0031】
さらに、画像形成装置1は、用紙搬送系として、用紙Pを収容する用紙収容部50と、この用紙収容部50に集積された用紙Pを予め定められたタイミングで繰り出すピックアップロール51と、ピックアップロール51により繰り出された用紙Pを搬送する搬送ロール52と、搬送ロール52により搬送された用紙Pを二次転写部20へと案内する案内部材53と、二次転写ロール22により二次転写された後の用紙Pを定着装置60へと搬送する搬送ベルト55と、用紙Pを定着装置60に導く定着入口ガイド56と、を備えている。
【0032】
定着装置60は、定着ロール61とエンドレスベルト62とを有している。定着ロール61は加熱されるとともに回転する。エンドレスベルト62は、定着ロール61に従動して周回移動する。定着ロール61およびエンドレスベルト62は、用紙Pを間に挟んで加熱および加圧することによって、未定着トナー像を用紙P上に定着する。定着装置60のより詳細な構成については、後に説明する。
【0033】
次に、画像形成装置1の基本的な作像プロセスについて説明する。
【0034】
画像形成装置1では、パーソナルコンピュータ(PC)(図示せず)から出力された画像データが、画像処理装置(図示せず)により画像処理が施された後、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kに供給される。画像処理装置では、入力された反射率データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等といった各種画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換され、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kのレーザ露光器13に供給される。
【0035】
レーザ露光器13では、供給された色材階調データに応じて、例えば、半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各々の感光体ドラム11に照射する。画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各感光体ドラム11では、帯電器12によって表面が帯電された後、このレーザ露光器13によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。形成された静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの現像器14によって、Y、M、C、Kの各色のトナー像として現像される。画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの感光体ドラム11上に形成されたトナー像は、各感光体ドラム11と中間転写ベルト15とが接する一次転写部10において、中間転写ベルト15上に転写される。より具体的には、一次転写部10において、一次転写ロール16により、中間転写ベルト15に対し、トナーの帯電極性(マイナス極性)に対する逆極性の電圧(一次転写バイアス)が付加され、トナー像が中間転写ベルト15の表面に転写される。画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kで形成された各トナー像は中間転写ベルト15の表面に順次重ね合わせられる。
【0036】
トナー像は、中間転写ベルト15の表面に順次転写された後、中間転写ベルト15の移動に伴って二次転写部20に搬送される。この一方で、用紙搬送系では、トナー像が二次転写部20に搬送されるタイミングに合わせてピックアップロール51が回転し、用紙収容部50に収容された用紙Pを繰り出す。ピックアップロール51によって繰り出された用紙Pは、搬送ロール52により搬送され、案内部材53を経て二次転写部20に到達する。この二次転写部20に到達する前に、用紙Pは一旦停止され、トナー像が保持された中間転写ベルト15の移動タイミングに合わせてレジストロール(図示せず)が回転することで、用紙Pの位置とトナー像の位置とが合わせられる。
【0037】
二次転写部20では、二次転写ロール22が中間転写ベルト15をバックアップロール25に押し付けている。搬送されてきた用紙Pは、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれる。バックアップロール25には、給電ロール26からトナーの帯電極性(マイナス極性)と同極性の電圧(二次転写バイアス)が印加され、二次転写ロール22とバックアップロール25との間に転写電界が形成される。中間転写ベルト15上に保持されたトナー像は、中間転写ベルト15上から用紙P上に、静電転写される。
【0038】
その後、トナー像が静電転写された用紙Pは、二次転写ロール22によって中間転写ベルト15から剥離されて搬送され、二次転写ロール22よりも用紙搬送方向下流側に設けられた搬送ベルト55へと搬送される。搬送ベルト55は、定着装置60の搬送速度に合わせて、用紙Pを定着装置60まで搬送する。定着装置60に搬送された用紙P上のトナー像は、定着装置60によって熱および圧力で定着処理を受けることで用紙P上に定着される。定着画像が形成された用紙Pは、画像形成装置の排出部に設けられた排紙部(図示しない)に搬送される。
【0039】
一方、二次転写部20で中間転写ベルト15から用紙Pに転写しきれず中間転写ベルト15上に残った残留トナーは、中間転写ベルト15の移動に伴ってクリーニング部まで搬送され、クリーニングバックアップロール34および中間転写ベルトクリーナ35によって中間転写ベルト15上から除去される。
[定着装置]
ここで、図1に示す画像形成装置1を構成する定着装置60について説明する。定着装置60は、本発明の定着装置の一実施形態である。
【0040】
図2は、定着装置60の構成を示す断面図である。
【0041】
図2に示す定着装置60は、定着ロール61と、エンドレスベルト62と、エンドレスベルト62を定着ロール61に押し付ける圧力パッド64とを備えている。
【0042】
この定着装置60は、いわゆるフリーベルト型定着装置であり、ロール・ベルト型定着装置において、より一層の小型化、省エネ化と高速化の両立を狙った装置である。このフリーベルト型定着装置である定着装置60は、エンドレスベルト62を張架する為の支持ロールや加圧ローラをもたず、ベルトガイド部材63に、周回移動が自在に支持されている。また、エンドレスベルト62は、定着ロール61からの駆動力を受けることで従動しており、このようなロール・ベルト型定着装置は、支持ロールや加圧ロールをもつタイプと区別する為に、フリーベルト型定着装置と呼ばれる。
【0043】
定着ロール61は、金属製のコア(円筒状芯金)611の周囲に耐熱性弾性体層612、および離型層613が積層された円筒状ロールであり、定着装置60本体に回転自在に支持されている。この定着ロール61が、本発明の離型部材の第1実施形態に相当し、本発明にいう挟み込み部材の一例にも相当する。定着ロール61は、回転軸に沿った方向に外径が一様な所謂ストレートロールである。定着ロール61の外周面61aは、定着ロール61の回転に伴い周回移動する。外周面61aの移動速度は、例えば、194mm/secである。
【0044】
定着ロール61の内部には、発熱源として、例えば、定格600Wのハロゲンヒータ66が配設されている。このハロゲンヒータ66が、本発明にいう加熱器の一例に相当する。一方、定着ロール61の外側には温度センサ69が設けられており、温度センサ69は定着ロール61の外周面に接触している。画像形成装置の制御部40(図1参照)は、温度センサ69による温度計測値に基づいてハロゲンヒータ66の点灯を制御し、定着ロール61の外周温度を、予め定められた温度(例えば、175°C)に維持している。
【0045】
エンドレスベルト62は、周回移動の方向に無端な帯状のベルトであり、出力画像に欠陥が生じるのを防ぐため、継ぎ目なく形成されている。このエンドレスベルト62が、本発明の離型部材の第2実施形態に相当し、本発明にいう挟み込み部材の一例にも相当する。エンドレスベルト62は、エンドレスベルト62の内部に配置された圧力パッド64とベルトガイド部材63とに、周回移動が自在に支持されている。エンドレスベルト62は、ニップ部Nにおいて定着ロール61と外周面同士が接触しており、定着ロール61の回転に伴い周回移動する。より詳細には、エンドレスベルト62は、定着ロール61に対して圧力が掛かった状態で接触するように配置され、定着ロール61に従動して、予め定められた速度(例えば、194mm/sec)で周回移動する。
【0046】
また、定着装置60のニップ部Nより下流には、定着ロール61から剥離した用紙Pを定着ロール61から完全に分離する剥離補助部材70が配設されている。剥離補助部材70は、バッフルホルダ72によって保持された剥離バッフル71が、定着ロール61の外周面の移動方向と対向する向き(カウンタ方向)に定着ロール61に向かって延び、先端が定着ロール61と近接する位置に配置されている。
【0047】
[定着装置の基本動作]
ここで、各部材のより詳細な説明に移る前に、定着装置60の基本的な動作を説明する。定着ロール61は、図示しない駆動モータに連結されて矢印C方向に回転し、エンドレスベルト62は、定着ロール61に従動して、ニップ部Nで定着ロール61の外周面が移動する向きと同じ向きに移動する。画像形成装置1の二次転写部20(図1参照)においてトナー像が静電転写された用紙Pは、定着入口ガイド56に案内されて、ニップ部Nに搬送される。用紙Pがニップ部Nを通過する際に、定着ロール61から供給される熱と、定着ロール61およびエンドレスベルト62に挟みつけられる圧力とによって、用紙P上のトナー像が用紙P上に定着される。定着装置60では、プレニップ部材64aが凹面状であることにより、例えば平面状の場合に比べてニップ部Nが広く確保され、熱と圧力が長時間に亘り付与されるため、定着性能が安定する。
【0048】
ニップ部Nを用紙Pが通過する時間(ニップ時間)は、0.030秒以上であることが望ましい。このニップ時間が0.030秒より小さい場合、良好な定着性と、紙しわやカールの発生防止との両立が困難になる為、その分定着温度を上げる必要があり、エネルギーの浪費、部品の耐久性低下、装置の温昇を招き、好ましくない。なお、ニップ時間の上限は特に限定されるものではないが、定着処理能力と装置や部材の大きさとの兼ね合いから、0.5秒以下が好ましい。
【0049】
ニップ部Nを通過した用紙Pは定着ロール61から剥離し、剥離補助部材70によって排紙通路に誘導される。
【0050】
[定着装置における各部材の構成]
次に、定着装置60を構成する各部材について説明する。
【0051】
定着ロール61のコア611は、鉄、アルミニウム(例えば、A−5052材)、SUS、銅等を典型例とした熱伝導率の高い金属、合金、またはセラミックスで形成された円筒体であり、寸法は、例えば外径φ30mm、肉厚1.8mm、長さ360mmである。
【0052】
耐熱性弾性体層612は、定着時の温度に耐える程度の耐熱性の高い弾性体で形成されており、この弾性体としては、例えば、ゴム硬度が15°以上45°以下(JIS−A)のゴムまたはエラストマーが用いられる。耐熱性弾性体層612には、具体的には、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が採用され得る。なかでも、シリコーンゴムは、表面張力が小さく、弾性に優れる。このようなシリコーンゴムとしては、例えば、RTV(室温加硫)シリコーンゴム、HTV(高温加硫)シリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。本実施形態の定着装置60では、ゴム硬度が35°(JIS−A)のHTVシリコーンゴムが600μmの厚さでコア611に被覆されている。耐熱性弾性体層612の厚さは、通常、3mm以下であり、好ましくは、0.1mm以上1.5mm以下の範囲内である。耐熱性弾性体層612をコア611の周囲に形成する方法は特定の方法に限られず、例えば、公知のコーティング法、成型などが採用され得る。
【0053】
定着ロール61の耐熱性弾性体層612の外周面に離型層613が積層されていることにより、トナー像が定着ロール61の外周面に付着するオフセットの現象が回避される。
【0054】
離型層613の厚さは、通常、10μm以上50μm以下であり、好ましくは15μm以上30μm以下の範囲内である。離型層613の材料としては、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドが用いられている。このフッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドは、ポリアミド酸が溶解したポリアミド酸溶液にフッ素含有シラン化合物を混合し、熱イミド化処理することで得られるものであるが、詳細については後述する。
【0055】
エンドレスベルト62は、出力画像に欠陥が生じないよう、継ぎ目なく形成されている。
【0056】
図3は、エンドレスベルト62の構成図である。
【0057】
エンドレスベルト62は、ベース層621と、このベース層621の外周面側に設けられた弾性層622と、この弾性層622の外周面側を被覆した離型層(表面層)623とから構成されている。
【0058】
ベース層621には、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等から選ばれた1または複数の混合体が、耐熱性および機械特性の観点から好適に用いられる。
【0059】
弾性層622には、耐熱性に優れたシリコーンゴム、フッ素ゴム等を用いるのが好ましく、シリコーンゴムを用いることが特に好ましい。シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴム、液状シリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。各種添加剤が配合されてもよい。添加剤としては、例えば、補強剤(カーボンブラック等)、充填剤(炭酸カルシウム等)、軟化剤(パラフィン系等)、加工助剤(ステアリン酸等)、老化防止剤(アミン系等)、加硫剤(硫黄、金属酸化物、過酸化物等)、機能性充填剤(アルミナ等)等が挙げられる。
【0060】
離型層623の厚さは、通常、5μm以上100μm以下、好ましくは10μm以上30μm以下である。離型層623の材料としては、上述した定着ロール61の離型層613にも用いられている、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドが用いられている。この離型層623は、金型が用いられて無端ベルトとして一旦形成される。そして、上述した弾性層622上に被せられて、この弾性層622に接着されている。
【0061】
図2に戻って、定着装置60を構成する各部材について説明を続ける。
【0062】
圧力パッド64は、定着ロール61にエンドレスベルト62を、例えば343N(35kgf)の荷重で押し付ける。圧力パッド64のプレニップ部材64aおよび剥離ニップ部材64bには、通常、JIS−A硬度が10°以上40°以下の材料が用いられるが、この範囲外の硬度を有する材料も採用され得る。プレニップ部材64aは、例えば幅5mm、厚さ5mm、長さ320mmのシリコーンゴムである。ただし、プレニップ部材64aの材料としては、シリコーンゴム以外に、フッ素ゴムといった弾性体や板バネ等も採用され得る。プレニップ部材64aの定着ロール61に向いた面は、凹面状に形成されている。
【0063】
剥離ニップ部材64bは、PPS、ポリイミド、ポリエステル、ポリアミドといった耐熱性を有する樹脂、または鉄、アルミニウム、SUSといった金属で形成されている。剥離ニップ部材64bの定着ロール61に向いた面は、略一定の曲率半径を有する凸状曲面に形成されている。
【0064】
圧力パッド64によって定着ロール61に押し付けられたエンドレスベルト62は、定着ロール61に約25°の巻き付き角度で巻き付いてニップ部Nを形成しており、ニップ部Nの用紙搬送方向における長さ(ニップ幅)は約6mmである。
【0065】
[フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミド]
ここで、定着ロール61の離型層613およびエンドレスベルト62の離型層623に用いられるフッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドについて詳細に説明する。このポリイミドは、下記の構造式(I)で表される構造を少なくとも一部分に有する。
【0066】
【化2】

【0067】
(上記構造式(1)中、Arは芳香環を1個以上有する4価の有機基、Yは2価の有機基、Rはアルキル基、Xはフッ素原子を有する有機基を表している。)
上述したように、このフッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドは、ポリアミド酸が溶解したポリアミド酸溶液(ポリアミド酸組成物)にフッ素含有シラン化合物を混合し、熱イミド化処理することで得られるものである。
【0068】
ポリアミド酸溶液は、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを実質的に等モル量を有機極性溶媒中で合成することで得られる。ポリアミド酸溶液の製造に用いられるジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物としては特に制限はなく、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も使用され得る。
【0069】
芳香族系テトラカルボン酸としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
【0070】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0071】
このように挙げられたテトラカルボン酸二無水物のうち、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドの製造に使用されるテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物が好ましく、さらに、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、が最適に使用される。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0072】
次に、ポリアミド酸溶液の製造に用いられるジアミン化合物について説明する。このジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物であれば特に限定されない。例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、5−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、6−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,5−ジアミノ−3’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5−ジアミノ−4’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,7−ジアミノフルオレン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)−ビフェニル、1,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチル)フェノキシ]−オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4−ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミンおよび脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0073】
このように挙げられたジアミン化合物のうち、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドの製造に使用されるジアミン化合物としては、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、が好ましい。これらのジアミン化合物は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0074】
フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドの製造に使用されるポリアミド酸としては、成型体の強度の観点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族系ジアミンとからなるものが好ましい。
【0075】
このポリアミド酸の生成反応に使用される有機極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−、又はp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用もあり得る。溶媒は、ポリアミド酸および部分イミド化されたポリアミド酸を溶解するものであれば特に限定されない。なお、後述する塗布液には、固形分が5質量%以上30質量%以下となるよう溶媒を含むことが好ましい。
【0076】
フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドの製造に使用されるフッ素含有シラン化合物は、分子構造中にフッ素原子を有するシラン化合物であれば特に限定されないが、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン、(トリフルオロメチル)トリメチルシラン、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリエトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルトリメトキシシラン、などが挙げられる。これらのフッ素含有シラン化合物は、単独で用いても2種以上併用しても良い。
【0077】
また、このようなフッ素含有シラン化合物のうち、上記ポリイミドの製造に使用されるフッ素含有シラン化合物としては、分子構造中のフッ素原子数が3以上20以下であることが望ましい。フッ素原子数が3より少ないとフッ素原子による離型性が十分に得られない。また、フッ素原子数が20より多いと、最表面の耐摩耗性が低下し、所望の耐摩耗性が得られない。
【0078】
また、離型部材の表面におけるフッ素含有率は5%以上60%以下であることが望ましい。フッ素含有率が5%より少ないと離型性が十分に得られず、また、フッ素含有率が60%より多いと表面の耐摩耗性が低下する。
【0079】
ここで、フッ素含有率は、X線光電子分光分析法(以下、XPSとも記載する。)を用いて解析される値である。具体的には、XPS測定装置として「VG製 ESCALAB−220i」を使用し、測定は、X線源として単色化されたAlKα線を用い、加速電圧を10kV、エミッション電流を20mVに設定して実施し、フッ素原子について測定する。分析領域は、約1mmφ、検出深さは、3nmとする。そして、フッ素原子について、C1sスペクトルを測定し、当該フッ素原子のスペクトル基づいて、元素個数を求めて、フッ素含有シラン化合物を含有するポリイミドの全原子量に対するフッ素原子含有率を算出する。
【0080】
また、離型部材の表面におけるフッ素とシリコンの構成元素比率F/Siは3以上20以下であることが望ましい。F/Siが3より小さいと離型性が十分に得られない。また、F/Siが20より大きいと表面の耐摩耗性が低下する。ここで、フッ素とシリコンの構成元素比率F/Siは上記XPSより測定された元素比率である。また、この構成元素比率F/Siは、上述した構造式(I)中のXが、3以上20以下のフッ素原子を有することに相当する。
【0081】
[ポリイミドの製造方法]
次に、上述したフッ素含有シラン化合物を含有するポリイミドの製造方法について説明する。
【0082】
まず、上記ポリアミド酸が溶解したポリアミド酸溶液を合成する。このポリアミド酸溶液に上記フッ素含有シラン化合物を混合する。このとき、フッ素含有シラン化合物はポリアミド酸溶液固形分に対し、重量%で0.1%以上90%以下混合するのが好ましく、1%以上70%以下がより好ましく、5%以上50%以下が更に好ましい。フッ素含有シラン化合物が0.1重量%より少ないと、ポリイミド無端ベルトとしたときに表面の離型性が不足し、定着装置で使用したとき、トナーの付着が発生する。また、フッ素含有シラン化合物が90重量%より多いと、白濁が発生し無端ベルトの機械的強度が低下する。
【0083】
次に、上記フッ素含有シラン化合物を含有したポリアミド酸溶液を撹拌、脱泡して塗布液を得る。この塗布液を、上述した定着ロール61の場合には耐熱性弾性体層612の表面に塗布し、上述したエンドレスベルト62の場合には上述した金型の表面に塗布する。
【0084】
塗布工程における塗布方法としては、例えば、塗布液中に塗布の対象物を浸漬した後引き上げることによってその対象物の表面に塗布する方法、対象物がロール状の対象物である場合に対象物を回転させながらその表面に溶液を吐出することによってらせん状に塗布し、ブレードによって塗膜を平滑化させる方法などが挙げられる。この他にも、既知の任意の塗布方法が採用され得る。
【0085】
なお、この塗布工程に先立って、塗布の対象物の表面を、表面粗さRaが0.2μm以上2μm以下程度となるように粗面化することが好ましい。粗面化方法としては、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法があるが、単層のエンドレスベルトを製造する場合には、エンドレスベルトの内周面を、球形面状の微小な凸形状が多数形成された摺動性のよい状態とするために、球状の粒子を用いたブラスト処理で粗面化することが好ましい。
【0086】
続いて塗布液の膜を40°以上130°C以下の温度環境下で乾燥させる乾燥工程を実施する。このとき塗布液の膜は重力の影響を受けるため垂れが生じやすい。その場合には、塗布液が塗布された対象物を水平な回転軸の周りに10rpm以上60rpm以下程度で回転させるとよい。その場合、回転塗布工程から連続して回転させ続けることが好ましい。
【0087】
また、この乾燥工程では、塗布液中のフッ素含有シラン化合物のフッ素原子を塗膜表層部に移動させて塗膜表層部をより高疎水性とするため、塗膜表層部を、有機極性溶媒より疎水雰囲気である気体境界面とすること、即ち、気体雰囲気を不活性ガス雰囲気とすることが好ましく、例えば不活性ガスとして窒素、アルゴン等を用いることが好ましい。さらに、揮発した有機極性溶媒により塗膜表層部が親水雰囲気となるのを防ぐため、常に純度80%以上の不活性ガスを用いて吸排気を続けることがより好ましい。この結果、気体雰囲気に接する塗膜表層部のフッ素含有量が増加する。
【0088】
なお、上記乾燥工程前、塗布工程後に放置工程を実施してもよい。放置工程とは、15°C以上40°C以下の温度環境下で60分以上300分以下塗布液の膜を放置する工程である。このときも塗布液の膜は重力の影響を受けるため、垂れが生じやすいので、乾燥工程と同様に、塗布液が塗布された対象物を水平な回転軸の周りに10rpm以上60rpm以下程度で回転させるとよい。この場合も、塗布工程から連続して回転させ続けることが好ましい。
【0089】
次に、上記乾燥工程を経た塗布液の膜(即ちポリイミド前駆体塗膜)および塗布の対象物を250°C以上450°C以下の温度環境下で20分以上60分間以下加熱することで熱イミド化処理してポリイミド樹脂層を形成する。熱イミド化処理の際、溶剤が残留しているとポリイミド樹脂層に膨れが生じることがあるため、熱イミド化処理前には、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、具体的には、熱イミド化処理前に、200°C以上250°C以下の温度環境下で、10分以上30分以下加熱乾燥することが好ましく、続けて、温度を段階的、または一定速度で上昇させて、熱イミド化処理することが好ましい。また、上記加熱乾燥および上記熱イミド化処理でも、上述した疎水雰囲気を維持するため、上記加熱乾燥および上記熱イミド化処理は、窒素、アルゴン等に代表される不活性ガスの雰囲気で行うことが好ましい。さらに、揮発した有機極性溶媒により塗膜表層部が親水雰囲気となるのを防ぐため、常に純度80%以上の不活性ガスを用いて吸排気を続けることがより好ましい。
【0090】
このような製造方法により、高い離型性を有した、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを製造することができる。
【0091】
なお、本発明の離型部材では、帯電防止のための導電性付与、耐久性向上や熱伝導性向上、紙しわの防止のための表面の対用紙滑り性の向上などを目的として、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドに更にフィラーが配合されていてもよい。配合されるフィラーは、金属酸化物微粒子、ケイ酸塩鉱物、カーボンブラック、および窒素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0092】
そのようなフィラーの中でも、ケッチェンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、BaSO4、ゼオライト、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化銅、酸化鉄、酸化ジルコニウム、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)、Sb doped SnO被覆TiO、窒化珪素、窒化ホウ素、窒化チタン、マイカより選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0093】
ポリイミドにフィラーが配合される場合、上述した導電性付与などの観点や、離型性維持の観点や、フィラーをポリイミド中に分散させるためという観点などから、フィラーの平均粒径は0.01μm以上20μm以下であることが好ましい。フィラーの配合割合は適宜設定することができるが、好ましくはポリイミド100質量部あたり0.01質量部以上30質量部以下の範囲に設定される。フィラーが0.01質量部未満だと離型部材の導電性が不十分であり、静電オフセットやフィルム表面の帯電が生じる。また、フィラーが0.01質量部未満だと対用紙滑り性が不十分であり、紙しわが発生する。また、フィラーが30質量部より多い場合、離型性が低下し、トナーオフセットが発生しやすくなる。また、フィラーが30質量部より多い場合、表面層の粗さやグロスなどというような表面性が低下し、画像のグロス低下、画像あれなどが発生することがある。
【0094】
なお、上記実施形態の説明では、本発明の離型部材の実施形態として、定着装置中に組み込まれたいわゆる定着部材の例が示されているが、本発明の離型部材は定着部材に限られるものではなく、用紙などとの接触による摩耗に対する耐久性と、トナー像などに対する離型性との双方が求められる離型部材であれば、例えば転写ロールや転写ベルトなどであってもよい。
【0095】
なお、上記では、離型部材の第1実施形態である定着ロールと離型部材の第2実施形態であるエンドレスベルトとの双方が組み込まれた定着装置の実施形態について説明したが、本発明の定着装置や画像形成装置は、定着ロールとエンドレスベルトとの一方のみに離型部材の実施形態が適用されたものであってもよい。
【0096】
また、上述した定着装置の実施形態は、いわゆるフリーベルト型定着装置であるが、本発明の定着装置は、他の種類のロール・ベルト型定着装置であってもよいし、あるいはロール・ロール型定着装置やベルト・ベルト型定着装置であってもよい。
【0097】
[実施例]
以下、実施例に基づき、実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明の実施形態は、以下説明する実施例に限定されるものではない。
【0098】
図2に示すロール・ベルト方式の定着装置60と同様な構成の定着装置を備えた画像形成装置(富士ゼロックス社製DCC400)に対して、エンドレスベルトの種類を変えた実施例および比較例を用意し、ベルトの用紙摺擦に対する耐摩耗性、トナーとの離型性の評価を行った。
【0099】
(1.)装置の仕様
各実施例および比較例の定着装置において、エンドレスベルト以外の共通の仕様は以下のとおりである。
【0100】
定着ロール内部には800Wのハロゲンランプヒーターが配備されていて、定着ロールの表面温度は、温度センサおよび温度コントローラによって150°Cに制御されている。定着ロールの周速は150mm/secで、8mmのニップ幅を有する。また、トナーは、富士ゼロックス社製DocuCenterColor400用カラートナー(シアン色)を使用し、富士ゼロックス社製「J紙」にトナー像を定着させた。
【0101】
(2.)評価
(耐摩耗性)
各実施例および比較例の装置を用いて100,000枚(100kpv)の画像形成を実施し、画像形成終了後にエンドレスベルトの離型層の膜厚を測定し、1kpv当たりの減少量を摩耗量として求めた。
(離型性)
各実施例および比較例の装置を用いて、印字サンプルを両面出力で100枚通紙し、ジャム(エンドレスベルトからの剥離不良)発生が無い場合、良好とし、不良の場合、ジャム発生枚数を求めた。
(接触角)
エンドレスベルトの離型層における純水との接触角の測定には協和界面科学(株)製表面接触角測定器を使用し、サンプル表面にイオン交換水の水滴を滴下し、その水滴とサンプル表面との接触角を側面より測定した。
(実施例1)
まず、ポリアミド酸溶液として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンとを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中で合成することにより得られたポリアミド酸を含む、固形分濃度18%(質量%、以下同じ)、粘度20Pa・sの溶液を用意した。
【0102】
次に、このポリアミド酸溶液にトリフルオロプロピルトリメトキシシラン(KBM−7103、信越シリコーン社製)をポリアミド酸溶液の固形分に対し、10%の濃度になるよう添加し、撹拌した。
【0103】
このようにして得られたポリアミド酸溶液を、内径30mm、長さ450mmの円筒状アルミニウム製金型(円筒状芯体)表面に塗布し、塗膜を形成した。なお、この円筒状金型には、表面にフッ素系の離型剤を予め塗布することで、ベルト成形後の剥離性を向上させた。
【0104】
次に金型を20rpmで周面に沿う周回方向に回転させた状態で、窒素ガス雰囲気下、100°Cで60分間乾燥させた。
【0105】
乾燥工程後、金型をオーブンに入れ、窒素ガス雰囲気下で段階的に350°Cまで昇温して、イミド化した。段階的な昇温は160°Cで1時間、250°Cで30分、350°Cで1時間とした。その後、金型を室温(25°C)で放冷し、金型から樹脂を取り外し、ポリイミド無端ベルトを得た。得られたポリイミド無端ベルト外周面の純水との接触角を測定した結果、110度であった。
【0106】
このポリイミド無端ベルトを、ベース層と弾性層からなるベルトに被せて弾性層と接着することでエンドレスベルトを得た。
(実施例2)
実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を用意し、このポリアミド酸溶液に(トリフルオロメチル)トリメチルシラン(東京化成工業製)をポリアミド酸溶液の固形分に対し、15%の濃度になるよう添加し、撹拌した。実施例1と同様にしてポリイミド無端ベルトを作製し、ベース層と弾性層からなるベルトに被せてエンドレスベルトを得た。ポリイミド無端ベルトの外周面の純水との接触角を測定した結果、98度であった。
(実施例3)
実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を用意し、このポリアミド酸溶液にヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン[F/Si=17](信越化学社製)をポリアミド酸溶液の固形分に対し、8%の濃度になるよう添加し、撹拌した。実施例1と同様にして無端ベルトを作製し、ベース層と弾性層からなるベルトに被せてエンドレスベルトを得た。ポリイミド無端ベルトの外周面の純水との接触角を測定した結果115度であった。
(実施例4)
実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を用意し、このポリアミド酸溶液にヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン[F/Si=17](信越化学社製)をポリアミド酸溶液の固形分に対し、40%の濃度になるよう添加し、撹拌した。実施例1と同様にして無端ベルトを作製し、ベース層と弾性層からなるベルトに被せてエンドレスベルトを得た。ポリイミド無端ベルトの外周面の純水との接触角を測定した結果120度であった。
【0107】
XPSでポリイミド無端ベルトの表面のフッ素原子量を測定した結果、フッ素原子比率は55%であった。これはポリイミドとシラン化合物の総原子量におけるフッ素原子量より大きい数であるが、XPSは最表面分析であり、本実施例の無端ベルトは乾燥、焼成中にフッ素原子が選択的に疎水雰囲気である最表面に集まっているためと考えられる。
(実施例5)
実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を用意し、このポリアミド酸溶液にヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン(信越化学社製)をポリアミド酸溶液の固形分に対し、50%の濃度になるよう添加し、撹拌した。実施例1と同様にして無端ベルトを作製し、ベース層と弾性層からなるベルトに被せてエンドレスベルトを得た。ポリイミド無端ベルトの外周面の純水との接触角を測定した結果122度であった。XPSで表面のフッ素原子量を測定した結果、フッ素原子比率は65%であった。
(実施例6)
実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を用意し、このポリアミド酸溶液にヘナイコサトリフルオロドデシルトリクロロシラン[F/Si=21](Gelest社製)をポリアミド酸溶液の固形分に対し、30%の濃度になるよう添加し、撹拌した。実施例1と同様にして無端ベルトを作製し、ベース層と弾性層からなるベルトに被せてエンドレスベルトを得た。ポリイミド無端ベルトの外周面の純水との接触角を測定した結果121度であった。
(比較例1)
実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を用意し、フッ素含有シラン化合物を添加せず、実施例1と同様に円筒状芯体表面に塗布し、塗膜を形成した。次に金型を20rpmで円筒円周方向に回転させた状態で、窒素ガス雰囲気下、100°Cで60分間乾燥させた。乾燥工程後、溶媒として水を含むPTFE水性塗料(フッ素樹脂分散液、固形分濃度60%、粘度200mPa・s)を用意した。この塗料を螺旋塗布方式により均一に塗布し、塗布後、80°Cの無風乾燥炉で10分間乾燥した。乾燥後、実施例1と同様にしてオーブンでイミド化させた。その後、円筒状金型より脱型してポリイミド無端ベルトを得、ベース層と弾性層からなるベルトに被せてエンドレスベルトを得た。ポリイミド無端ベルトの表面の純水との接触角を測定した結果、135度であった。
(比較例2)
実施例1と同様にしてポリアミド酸溶液を用意し、フッ素含有シラン化合物を添加せず、実施例1と同様に円筒状芯体表面に塗布、イミド化し、実施例1と同様に無端ベルトを作製した。外周面の純水との接触角を測定した結果、70度であった。
(比較例3)
実施例1のポリアミド酸溶液に変えて、テトラカルボン酸二無水物として、3,3‘,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミン化合物として2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンを用いてポリアミド酸溶液を用意し、フッ素含有シラン化合物を添加せず、実施例1と同様にして無端ベルトを作製し、外周面の純水との接触角を測定した結果、82度であった。
【0108】
これらの実施例および比較例について行った耐摩耗性と離型性の評価結果を以下の表1にまとめて示す。
【0109】
【表1】

【0110】
実施例1については、耐摩耗性は0.05μm/kpvであり、充分に高い耐摩耗性が得られた。また、この実施例1ではジャムは発生せず、離型性は良好であった。
【0111】
実施例2については、耐摩耗性は0.06μm/kpvであり、充分に高い耐摩耗性が得られた。また、この実施例2ではジャムは発生せず、離型性は良好であった。
【0112】
実施例3については、耐摩耗性は0.05μm/kpvであり、充分に高い耐摩耗性が得られた。また、この実施例3ではジャムは発生せず、離型性は良好であった。
【0113】
実施例4については、耐摩耗性は0.07μm/kpvであり、充分に高い耐摩耗性が得られた。また、この実施例4ではジャムは発生せず、離型性は良好であった。
【0114】
実施例5については、ジャムは発生せず、離型性は良好であった。しかし、耐摩耗性は0.40μm/kpvであり、耐摩耗性が大きく低下した。
【0115】
実施例6については、ジャムは発生せず、離型性は良好であった。しかし、耐摩耗性は0.38μm/kpvであり、耐摩耗性が大きく低下した。
【0116】
このような各実施例に対し、各比較例の評価結果は以下のようになった。
【0117】
比較例1については、ジャムは発生せず、離型性は良好であったが、耐摩耗性は0.50μm/kpvであり、どの実施例よりも悪かった。
【0118】
比較例2については、耐摩耗性は0.06μm/kpvであり、充分に高いが、両面出力通紙で100枚全てでジャムが発生し、離型性は非常に悪かった。
【0119】
比較例3については、耐摩耗性は0.07μm/kpvであり、充分に高いが、両面出力通紙で45枚ジャムが発生し、離型性は悪かった。
【0120】
このように、いずれの実施例でも高い離型性が得られることが確認できた。
【0121】
上記実施例4と実施例5との比較の結果、フッ素原子比率が60%を越えると耐摩耗性が大きく低下することが分かった。また、上記実施例3、実施例4と実施例6との比較の結果、フッ素とシリコンの構成元素比F/Siが20を越えた場合も耐摩耗性が大きく低下することが分かった。但し、そのように耐摩耗性が大きく低下した実施例5および実施例6であっても比較例より高い耐摩耗性が得られることが確認でき、フッ素原子比率や構成元素比F/Siに関わらず、フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを少なくとも表面に有することの基本的な効果(耐摩耗性の向上)が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0122】
1 画像形成装置
60 定着装置
61 定着ロール
611 コア
612 耐熱性弾性体層
613 離型層
62 エンドレスベルト
621 ベース層
622 弾性層
623 離型層(表面層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを少なくとも表面に有することを特徴とする離型部材。
【請求項2】
前記ポリイミドが、5%以上60%以下のフッ素含有率を有するものであることを特徴とする請求項1記載の離型部材。
【請求項3】
前記ポリイミドは、フッ素とシリコンの構成元素比F/Siが3以上20以下のものであることを特徴とする請求項1または2記載の離型部材。
【請求項4】
前記ポリイミドが、少なくとも一部に下記構造式(1)で表された構造部分を有するものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の離型部材。
【化1】

(上記構造式(1)中、Arは芳香環を1個以上有する4価の有機基、Yは2価の有機基、Rはアルキル基、Xはフッ素原子を有する有機基を表している。)
【請求項5】
前記構造式(1)中のXが、3以上20以下のフッ素原子を有する有機基であることを特徴とする請求項4記載の離型部材。
【請求項6】
フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを少なくとも表面に有する離型部材と、
未定着の像が表面に形成されている記録媒体を前記離型部材との間に挟み込み、該記録媒体が該離型部材との間を通過していく挟み込み部材と、
前記離型部材と前記挟み込み部材との間を通過する記録媒体を加熱する加熱器と、
を備えたことを特徴とする定着器。
【請求項7】
記録媒体の表面に未定着の像を形成する像形成器と、
前記記録媒体上の未定着の像を該記録媒体上に定着させる定着器とを備え、
前記定着器が、
フッ素含有シラン化合物を含有したポリイミドを少なくとも表面に有する離型部材と、
未定着の像が表面に形成されている記録媒体を前記離型部材との間に挟み込み、該記録媒体が該離型部材との間を通過していく挟み込み部材と、
前記離型部材と前記挟み込み部材との間を通過する記録媒体を加熱する加熱器と、
を備えたものであることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−68516(P2012−68516A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214282(P2010−214282)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】