難溶性薬物用の医薬組成物
本発明は、共沈及び熱溶融押出により形成される難溶性化合物の固体分散体に関し、それにより改善された安定性及びバイオアベイラビリティが得られる。本発明はまた、そのような固体分散体を製造するために使用する熱溶融押出方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
製薬産業におけるハイスループット・スクリーニングの実施で、かなりの数の難水溶性化合物が特定されている。そのような難水溶性薬物は、開発の全段階に亘って次々にインビボでの有効性及び安全性に影響する薬物バイオアベイラビリティに関して重要な障害をもたらしている。
【背景技術】
【0002】
難溶性化合物はまた、開発において技術上の難題を示す。そのような難題の一つは、難溶性及び難溶解のせいで低い吸収性及びバイオアベイラビリティの低下をもたらすことである。別のそのような難題としては、より広い安全域を必要とする薬物動態学的特性における、被験体間及び被験体内の高い変動性である。これらの化合物は、多くの場合、所望の治療効果を達成するために高用量を必要とし、その結果、望ましくない副作用をもたらす。さらにそのような化合物は、多くの場合、投薬療法を複雑にするバイオアベイラビリティに対する食物効果の可能性を有している。
【0003】
その結果、革新的な製薬技術(下記(R Liu, Water-Insoluble Drug Formulation, Interpharm Press, 2000を参照):粒径の減少、脂質製剤、共溶媒、錯体形成、共結晶化、及び固体分散体を含むが、それらに限定されない)がそのような難溶性薬物の所望の特性を改善するために開発されつつある。
【0004】
化合物の難溶性が原因で、いくつかの化合物の吸収/バイオアベイラビリティは、制限された溶解速度である。粒径の減少は、有意に溶解速度を改善し、それはより良い吸収の可能性を提供し、そして改善された治療法に導く可能性がある。湿式粉砕(例えば、米国特許第5,494,683号を参照)及びナノテクノロジー(例えば、PCT国際出願WO 2004/022100及び米国特許第6,811,767号、第7,037,528号、及び第7,078,057号を参照)は、難水溶性薬物に適用して粒径を減少させることができる技術の二つの例である。
【0005】
難溶性薬物は、水性媒体中より脂質ベースの媒体中で、非常に高濃度で溶解し得る。したがって、脂質製剤中で薬物を製剤化することは、そのような薬物の治療特徴を改善し得る。投与された後、脂質製剤は胃腸液中に分散され、そのことが薬物に広い表面積を提供して、脂質中のその溶液から胃腸液に拡散する。脂質製剤中の薬物の高い溶解性は、拡散に対して強力な駆動力を提供する。自己乳化薬物送達システム(SEDDS)は、脂質製剤技術の一つの例である。脂質媒体の選択に依存して、得られた水性分散体は、微細又は粗エマルションを産生し得る(例えば、米国特許第5,969,160号、第6,057,289号、第6,555,558号、及び第6,638,522号を参照)。
【0006】
共溶媒は、より良い可溶化、そしてその結果としてのより良いバイオアベイラビリティのために、難水溶性薬物を製剤化するために使用することができる(例えば、米国特許第6,730,679号を参照)。
【0007】
錯化剤、例えば、シクロデキストリン及びそれらの誘導体などは、非経口製剤用の難溶性を有する薬物(例えば、米国特許第7,034,013号を参照)又は経口製剤用の改善されたバイオアベイラビリティを有する薬物(例えば、米国特許第6,046,177号;MJ Habib, Pharmaceutical Solid Dispersion Technology, Technomic Publishing Co., Inc. 2001;及びT Loftsson and ME Brewster, J. Pharm. Sci. 85(10): 1017-1025, 1996を参照)を、可溶化するために使用することができる。
【0008】
難水溶性薬物は、改善され溶解度を有する他の化合物と共結晶を形成し得る。したがって、これらの薬物の共結晶は、改善された溶解性及びバイオアベイラビリティを提供する開発のために使用することができる(例えば、米国特許第2005/0267209号を参照)。
【0009】
固体分散体は、固体状態にあるポリマーマトリクス中の難溶性薬物を分散するための方法である。薬物は、混合物中で非晶形又は微晶形で存在することができ、それは、胃腸液中で速い溶解速度及び/又は容易な溶解性を提供する(例えば、ATM Serajuddin, J. Pharm. Sci. 88(10): 1058-1066 (1999) 及び MJ Habib, Pharmaceutical Solid Dispersion Technology, Technomic Publishing Co., Inc. 2001を参照)。いくつかの技術が、固体分散体を調製するために開発されており、共沈(例えば、米国特許第5,985,326号及び第6,350,786号を参照)、溶融、噴霧乾燥(例えば、米国特許第7,008,640号を参照)、及び熱溶融押出(例えば、米国特許第7,081,255号を参照)を含む。これらの技術のすべては、通常、分子レベルで又は微晶質相中でポリマーマトリクス中の高分散薬物分子を提供する。固体分散体系は、溶解過程のために化合物の広い表面積を提供して、それが溶解を大いに改善する。したがって、腸管内透過性が制限因子ではない場合、すなわち、生物薬剤学分類システム(BCS)クラス2化合物の場合、これらの化合物の吸収は改善することができる(Amidon et al., 1995)。固体分散体中の非晶質又は微晶質のAPIは、固体分散体中のポリマーの分子と活性薬剤成分(API)分子の間での相互作用によって、同じ物理的状態におけるその純粋形より安定的である(Matsumoto and Zografi, 1999)。しかしながら、異なる方法で調製した固体分散体は、例えば、多孔性、表面積、密度、安定性、吸湿性、溶解、及びひいてはバイオアベイラビリティなどの特性において異なることがあり得る。
【0010】
固体分散体を調製するために異なる工程を使用することは、結果として異なる物理化学的特性をもたらす可能性がある。例えば、共沈及び噴霧乾燥は、一般的に、より多孔性ネットワークを提供し、結果として広い表面積が得られる。広い表面積は、速い溶解速度を示し、迅速な作用開始を提供し得る。しかしながら、熱溶融押出から調製した固体分散体は一般的に、より密度が高く、より小さい表面積を示す傾向があり、それは、インビボで持続性薬物放出プロファイルを提供し得る。これらの一般化にもかかわらず、所望の薬物動態プロファイルを、特により良い用量比例性を達成するために、ある方法が別の方法に優る優位性を提唱している証拠は文献においてみられない。
【0011】
米国特許第6,350,786号において、80,000 Dよりも大きい分子量を有する不水溶性イオン性ポリマーを使用する固体分散体を開示して、安定した非晶質製剤を提供する。米国特許第6,548,555号には、改善された溶解性及びより良いバイオアベイラビリティのための固体分散体を調製するために、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を含む、イオン性ポリマーの使用について記載されている。
【0012】
製薬科学者が利用可能なさまざまな製剤ツールにもかかわらず、そのような難溶性化合物の薬物動態プロファイル、特に用量依存的曝露量(これは、化合物の安全性及び有効性を管理するために非常に重要である)を、満足に適合させることは可能ではないかもしれない。いくつかの過飽和製剤、例えば共溶媒又は固体分散体アプローチによって可溶化された系などは、元の結晶形に戻り、その結果、より高用量でバイオアベイラビリティの損失となり得る。
【0013】
本発明は、熱溶融押出方法を使用して、より高いバイオアベイラビリティ及び優れた用量比例性を達成する難溶性薬物の固体分散体を提供する。本発明は、バイオアベイラビリティを改善することに加え、より良い薬物動態(PK)プロファイルの制御を達成することに重点を置いている。
【0014】
特に、本発明は、(2S,3S)−2−{(R)−4−[4−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−フェニル]−2,5−ジオキソ−イミダゾリジン−1−イル}−3−フェニル−N−(4−プロピオニル−チアゾール−2−イル)−ブチルアミド(HEP)の熱溶融押出を使用して製剤化された固体分散体を提供し、その構造は、図1に図示されており、それは、水性媒体中で難溶性を有する。固体分散体は、HEP及びHPMC−ASを含む。この固体分散体は、共沈により調製した同じ成分を含有する固体分散体と比較して、より高いバイオアベイラビリティ及び優れた用量比例性を示す。
【0015】
本発明はまた、熱溶融押出又は共沈を使用して難溶性薬物の固体分散体を調製するための方法を提供する。
【0016】
本発明は、1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含む、固体分散体を提供する。
【0017】
本発明による固体分散体は、1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含むことができ、該固体分散体が該化合物の結晶形より高いバイオアベイラビリティを有する。
【0018】
本発明による固体分散体は、1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含むことができ、該化合物が非晶形で存在する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(2S,3S)−2−{(R)−4−[4−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−フェニル]−2,5−ジオキソ−イミダゾリジン−1−イル}−3−フェニル−N−(4−プロピオニル−チアゾール−2−イル)−ブチルアミド(HEP)の分子構造を示す。
【図2】実施例1で調製した固体分散体の粉末X線回折(PXRD)パターンであり、共沈(CP)の非晶質性を示している。
【図3】実施例2で調製した固体分散体の粉末X線回折パターンであり、熱溶融押出(HME)の非晶質性を示している。
【図4】実施例1及び2でそれぞれ調製した、1% SLS pH6.8 50mMリン酸緩衝液中のCP及びHME生成物の溶解プロファイルであり、CP生成物はより速い溶解速度を有することを示している。
【図5】1% SLS pH6.8 50mMリン酸緩衝液中のCP及びHME生成物の固有溶解プロファイルである。
【図6】実施例1で調製したCP生成物の水蒸気吸着/脱着曲線である。
【図7】実施例2で調製したHME生成物2の水蒸気吸着/脱着曲線である。
【図8】懸濁液中のCP生成物の1週間の粉末X線回折パターンを示す。
【図9】懸濁液中のHME生成物の1週間の粉末X線回折パターンを示す。
【図10】40℃/75% RHチャンバー中のCP生成物の3ヶ月間の粉末X線回折パターンを示す(RH=相対湿度、ここで、空気−水の混合物の相対湿度は、所与の温度での混合物中の水蒸気の分圧対水の飽和蒸気圧の比として定義される)。
【図11】40℃/75% RHチャンバーにおけるHME生成物の3ヶ月間の粉末X線回折パターンを示す。
【0020】
本明細書において使用される一般用語の以下の定義は、当該用語が、単独で又は組み合わされて使用されているかどうかにかかわりなく適用される。明細書及び添付の請求項において使用されるとおり、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確にそれに反する旨を記載していない限り、複数形を含む事を留意しなければならない。
【0021】
本明細書において使用されるように、熱溶融押出は、押出機の高せん断混合及び温度制御能を使用して2つ以上の成分を混合する方法である。熱溶融押出機は、4つの主要な部分からなる:モーター(スクリューの回転を制御する)、スクリュー(材料のせん断及び移動の一次電源装置)、バレル(スクリューを収納して温度制御を提供する)、ならびにダイ(出口)(押出物の形及びサイズを制御する)。粉末材料(粒状又は粉末形のいずれか)を、一般的には、押出機スクリューが回転している間、制御された速度で押出機供給口に供給する。次に、材料を、スクリューの回転及びバレル面に対する材料の摩擦を利用して、前方へ運ぶ。押出機のタイプにより、1軸スクリュー又は2軸スクリューを使用して、計数モード又は共回転モードのいずれかで操作し得る。スクリューを、必要な混合度を達成するように適切にデザインすることができる。一般に、バレルを区切って、スクリューの長さ全体に亘って各ゾーンごとに温度調節を可能にする。出口(ダイシステム)は、押出成形品の形及びサイズを制御する。
【0022】
共沈は、非溶媒添加、温度変化、pH調節又は蒸発を含むが、これらに限定されない方法の一つにより、溶液から2種類以上の成分を一緒に沈殿させる方法である。
【0023】
用語「1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物」とは、水性液体(水、擬似胃腸液、水性緩衝液pH 1〜8)に20℃で溶解することができる化合物の最大量が1mg/ml以下である、化合物を意味する。
【0024】
イオン性ポリマーは、イオン化基を有する反復モノマー単位を伴うポリマー賦形剤である。イオン性ポリマーは、一般的に水に溶けないが、しかしイオン化基のタイプに依存してpH調節を使用して可溶化することができる。例えば、Eudragit E100(登録商標)(Degussa)は、pH<5でイオン化する第四アンモニウム基を有しており、この特定のポリマーの可溶化を低いpHで可能にしている。
【0025】
非イオン性ポリマーは、任意のイオン化基を有さない反復モノマー単位を伴うポリマー賦形剤であり、したがって、それらの溶解度はpH非依存性である。
【0026】
本発明に有用なイオン性及び非イオン性ポリマーの非限定的な例は、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン−ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート、メチルセルロースアセテートフタレート及びポロキサマー類のような高分子界面活性剤である。好ましいポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートである。
【0027】
ヒプロメロースアセテートスクシネート(HPMC−AS)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートは、腸溶性製剤又は徐放性製剤のための腸溶コーティング物質である。それはまた、難水溶性化合物のバイオアベイラビリティを改善するために固体分散体技術において使用される。ポリマー中にアセチル基及びスクシノイル基をさまざまな含量で有する、数種のHPMC−ASがあり、それらは異なるpHレベルで溶解する。タイプLは、スクシノイル置換対アセチル置換の高い比率(S/A比)を有し、一方、タイプHは、低いS/A比を有し、そしてタイプMは中程度のS/A比を有する。高いS/A比を有する、タイプL HPMC−ASは、タイプMのpH≧6.0及びタイプHのpH≧6.8と比較して、より低いpH(≧5.5)で溶解する(Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.)。すべてのグレードは、両方法(HME及びCP)を使用して固体分散体を調製することに適している。
【0028】
本明細書において使用される用語「物理的に安定」とは、40℃/75% RHチャンバーでの12週間の保存後、結晶化ピークがX線回折法を使用して検出されないことを意味する。
【0029】
本発明は、熱溶融押出方法を使用して難溶性薬物の固体分散体を調製し、より高いバイオアベイラビリティ及び優れた用量比例性を達成するためのアプローチを提供する。
【0030】
薬物の非晶形(分子分散体)は、一般に、結晶形と比較すると、より良い溶解度又は溶解を有するので望ましい。
【0031】
HEP(PCT国際出願WO 2006/018188及びWO 2006/029862を参照)は、難水溶性を有するMEK1/2阻害剤である。結晶形がナノ結晶形であっても動物種に投薬された場合、HEPは非常に低い曝露をもたらした。本発明は、改善されたバイオアベイラビリティを有する非晶形のHEPの固体分散体を提供する。
【0032】
HEPの固体分散体は、共沈、熱溶融押出及び噴霧乾燥を使用して添付の実施例に記載されているように調製した。各々の例において、同じ比率のHEPとHPMC−ASを用いた。
【0033】
HME及びCPにより生成した非晶質製剤は、いくつかの補足的技術によりさらに特徴付けられた。共沈(CP)及び熱溶融押出(HME)の両方における薬物は、それらの粉末X線回折(PXRD)パターンにより示されるように非晶形であった。しかし、噴霧乾燥により調製した固体分散体は、薬物の非晶形をもたらさなかった。CP及びHME生成物は、それぞれ106℃及び104℃で類似のガラス転移温度を有する。偏光顕微鏡の下、二つの生成物のいずれも複屈折を示さなかった。CP生成物の粒子形態は、フレーク様であり、一方、HME生成物は、不規則な形状を有するガラス様粒子に見える。二つの生成物のSEM顕微鏡写真は、共沈方法では粗い表面を有する多孔質粒子を生成したことを、一方、熱溶融押出方法では滑らかな表面及び鋭い縁を有する粒子を生成したことを示している。BET結果によると、CP生成物は、HME生成物の0.13m2/gと比較すると、6.29m2/gの比表面積を有し、それはSEM顕微鏡写真で観察された表面特性を裏付ける。しかし、二つの生成物は、CP生成物の1.33g/cm3及びHME生成物の1.30g/cm3と、同程度の真密度を有する。
【0034】
水蒸気吸着/脱着実験は、二つの生成物が類似の総吸湿性を有すること、そして顕微鏡検査下で実験した後、試料中でHEPの結晶化が起こらなかったことを示唆した。しかし、吸着等温線において、CP生成物は、HME生成物より僅かに多くの水を吸い取った。二つの生成物の間に脱着等温線において有意差はなかった。CP生成物の非常に広い比表面積を考慮すると、意外にも表面平方単位当たりにつき少ない水分であった。二つの生成物のこの僅かな違いは、DSC又は分光学的手段により識別することはできない。
【0035】
しかし、さらにこれらの製剤のインビトロ及びインビボ評価は、特に安全性及びバイオアベイラビリティに関して、これらの生成物の差別化を提供した。
【0036】
溶解は、1% SLS 50mM リン酸緩衝液(pH6.8)500ml中でUSPパドル法を使用して行った。CP生成物は、明らかに比表面積における差異によって、HME生成物より非常に速い溶解をした。HME生成物の8時間と比較して、CP生成物が100%放出を達成するのは約30分であった。同じ実験条件を使用して、固有溶解速度(IDR)を、CP及びHME生成物に関して、それぞれ0.040±0.006mg/分/cm2及び0.070±0.003mg/分/cm2として測定した。加えて、固有溶解実験の後、両方の生成物のペレット表面を、PXRD及び顕微鏡により検査したが、結果は結晶化を示さなかった。
【0037】
共沈及び熱溶融押出により生成された非晶形のさらなる評価は、薬物のバイオアベイラビリティにおいて著しい改善を示した。2つの製剤のバイオアベイラビリティが同程度であるにもかかわらず、用量依存曝露は著しく異なった。熱溶融押出方法により調製した固体分散体は、50mg/kg及び250mg/kgの用量でインビボ試験した場合、同じ用量で共沈方法により調製した固体分散体と比較して、優れた用量依存曝露を示した。この結果は、予想外であり、熱溶融押出により調製した固体分散体が用量反応曲線のより良い制御を提供することができることを示唆している。
【0038】
加えて、熱溶融押出により調製した固体分散体は、懸濁液中でより良い物理的安定性を有し、共沈により調製した固体分散体と比較した場合、徐放性プロファイルを提供する。小さい回折ピークの出現により示されるように、周囲条件下で1日後、HEPは、水性懸濁液(2%ヒドロキシプロピルセルロース)中のCP生成物中で結晶化し始めた。しかし、HME生成物において結晶化は観察されなかった。CP生成物中で結晶化が続いて4日後、HEPの結晶化の発生を示唆する、ほんの一つの小さな回折ピークがHME生成物で見られた。より多くのピークが7日後現れて、ピーク強度が両生成物においてより強いものとなった。これらの観察に基づくと、HME生成物が、懸濁液中のCP生成物より良い物理的安定性を有することが明らかである。より長期の安定性が、40℃/75% RHチャンバーにおいて評価された。40℃/75% RHチャンバーにおいて、二つの生成物は、最大3ヶ月まで結晶化の兆候を示さなかった。HME生成物のより良い物理的安定性は、そのより小さい表面積による可能性が高く、それにより、水分子のバルク粒子への浸透が少なく、ひいては、ゆるやかな結晶化と同様に水の存在による弱い可塑化作用をもたらす(Tong and Zografi, 2004)。
【0039】
共沈方法及び熱溶融押出方法のいずれも、HEPの非晶質固体分散体を生成し、それらは共通して以下を有する:分光学的特性、粉末X線回折、真密度、及び水蒸気吸着/脱着反応。加えて、APIは、DSCサーモグラムにおける単一のガラス転移温度により示されるように、両方の生成物中に均一に分散した。しかし、共沈方法は、その高い空隙率及び粗い粒子表面によってより大きい比表面積を有する固体分散体を生成したが、それは、熱溶融押出方法により生成した生成物と比較して、より速いバルク溶解を提供した。バルク生成物はいずれも、40℃/75% RHチャンバーにおいて3ヶ月間、許容され得る物理的安定性を示したにもかかわらず、CP生成物は懸濁液中で物理的により不安定性である。
【0040】
CP及びHME生成物のいずれも、50mg/kg及び200mg/kgの用量で、薬物の結晶形に対して改善されたバイオアベイラビリティを有する。CP及びHMEに関する曝露は、低用量、例えば50mg/kgで同程度である。しかし、これら二つの生成物に関する曝露は、高用量、例えば250mg/kgで有意に異なる。より高用量で、CPがたった2倍の増加を示したのに、HMEは曝露において50mg/kg用量より5倍の増加を示した。
【0041】
本発明において用いられる難溶性化合物は、1mg/mL未満の水溶解度を有する任意の化合物であることができる。熱溶融押出において用いられるポリマー担体は、医薬品用途に適している任意のイオン性又は非イオン性ポリマー、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン−ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMC−AS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート、メチルセルロースアセテートフタレート及びポロキサマー類のような高分子界面活性剤を含むことができる。ポリマー中の化合物の添加は、1重量%〜80重量%の間である。
【0042】
実施例1
共沈による固体分散体の調製
HEP(40%)及びHPMC−AS(LFグレード、60%)の溶液を、アセトン中で調製した。アセトン溶液を、2〜8℃で維持した酸性水中に滴下して、薬物/ポリマー混合物を共沈した。次に、沈殿物を濾過により分離し、酸性水で洗浄して、続いて乾燥した。乾燥粉末を、40メッシュスクリーンを通してふるいにかけて、均一な大きさの粒子を得た。
【0043】
実施例2
熱溶融押出による固体分散体の調製
HEPとHPMC−ASの40:60(重量比)の混合物を、フタ付混合容器(Bohle)中で混合することにより調製した。次に、粉末混合物を、70〜140℃に設定された加熱バレルを備えた熱溶融押出機(American Leistritz Corp.、18mm押出機)から供給して、棒状の押出成形品を得た。棒状の押出成形品を、室温に冷まし、機械式粉砕法により粉砕した。粉砕顆粒は、40メッシュスクリーンを通して、均一の粒度分布を得た。
【0044】
実施例3
噴霧乾燥による固体分散体の調製
HEP(40%)及びHPMC−AS(60%)を、アセトン(薬物及びポリマーの両方に対して低い沸点を有する共通溶媒)に溶解した。噴霧乾燥を用いて、溶媒を蒸発させ、沈殿した薬物及びポリマーを放置した。粉末を、40メッシュスクリーンを通してふるいにかけて、さらなる評価の前に均一の粒度分布を得た。
【0045】
固体分散体を適切なアプローチにより調製した時点で、医薬製剤、例えば、カプセル剤及び錠剤を、当業者に周知のさらなる加工技術を使用して調製することができる。医薬製剤は、所望の治療結果を達成するために適切な任意の経路により被験体に投与することができる。しかし、この評価のため、固体分散体を投薬の簡略化のために水性媒体中に懸濁した。
【0046】
実施例4
X線回折
参照製剤を、ビーズミルを使用して粒径減少により調製して、200〜500nmの範囲で粒径を得た。
【0047】
高度回折システム(Scintag Inc., Cupertino, CA, United States)を使用し、CuKα線源で粉末X線回折(PXRD)スペクトルを回収した。ステップサイズ0.02°及び滞留時間1.2秒で、電圧45kV及び電流40mAを用いて、2°〜40°の2θでスキャンした。データを回収する前に、試料容器の空洞に試料を充填して、粉末表面を平らにした。次に、試料容器を、12位試料交換装置に装填して、PXRD回折パターンを、上記条件に設定した機器を用いて回収した。
【0048】
実施例1及び2にしたがって調製した製剤は、それらの粉末X線回折パターンにより示されるように非晶質であることを示した(図2及び3);しかし、実施例3の生成物は、結晶質であることが分かった。
【0049】
実施例5
ガラス転移温度
示差走査熱量測定法(DSC 7, Perkin-Elmer Inc., Wellesley, MA, United States)を、30ml/分での窒素パージ及び加熱速度10℃/分で使用して、ガラス転移温度を測定した。ピン穴を有する気密パンを、試料重量約5mgと共に使用した。試料をDSC気密パン底部片中で検量して、次にそれに蓋をして密閉した。パンをDSCセル中に装填した後、加熱ランプを、室温から始めて160℃にした。試料をDSC中に流した後、データをPerkin Elmer softwareにより解析して、ガラス転移温度を測定した。生成物のいずれも、類似のガラス転移温度;共沈及びHMEについてはそれぞれ、106℃及び104℃を有する。
【0050】
実施例6
比表面積
TriStar 3000 表面積分析器(Micromeritics Instrument Corporation、Norcross、GA, United States)を使用して、吸着質として窒素ガスを使用する多点BET法により比表面積を測定した。分析の前に、試料をチューブ内で真空脱ガス処理して、脱ガス処理の後で、試料重量を総重量(管+試料)から管の重量を減じることにより算出した。次に、試料管を、機器の分析口に装填した。排気をして液体窒素温度でヘリウムガスをパージした後、試料管中の空き容量を測定した。次に、試料管を2度目の評価をして、その後、窒素ガス吸着等温線を特定の相対圧力で測定した。試料面上に吸着されたガスの量を、ガスの脱着により測定した。BET式を使用して、比表面積を、それら個別の相対圧力で窒素ガス吸着量から算出した。比表面積を、共沈については6.29m2/g、及びHMEについては0.13m2/gとして測定した。
【0051】
実施例7
真密度
AccuPyc 1330 ピクノメーター(Micromeritics Instrument Corporation、Norcross, GA, United States)を利用して、真密度及び窒素ガスを測定した。真密度は、試料重量をその容積で割って算出した。試料重量を、化学天秤により測定した。試料容積を正確に測定するために、機器は、試料チャンバー(容量:Vs)及び膨張チャンバー(容量:Vx)の2つのチャンバーを有している。分析は、初期パージ段階を含み、大気を除去して、純粋な窒素ガスに置き換えた。次にガスで試料チャンバーを充填し、定常状態圧に平衡化して、次に圧力(P1)を記録した。次に膨張チャンバーにガスを入れて膨張させ、そこで、ガスを再度平衡化させ、圧力を測定した(P2)。次にガスを大気に排気し、連続測定に一貫性があり再現性があるまで、同じ作業を繰り返す。試料容積を、(Vs−Vx)/(1−P2/P1)として算出した。真密度を、それぞれ、共沈及びHME生成物に対して1.33g/cc 及び1.30g/cc として測定した。
【0052】
実施例8
溶解速度
Distek 溶解装置(Distek Dissolution System 2100A、Distek Inc., North Brunswick, NY, United States)を使用して、1%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)50mMリン酸緩衝液(pH6.8)500mL中のCP及びHME生成物の溶解を、37℃、撹拌速度50rpmで測定した。溶解試験のために、CP又はHME生成物100mgを、水性媒体1ml(水中の2%ヒドロキシプロピルセルロース)中に懸濁して、次に測定のために溶解溶剤に移した。広い比表面積のため、共沈は、HMEより非常に速い溶解速度を有する(図4)。
【0053】
実施例9
固有溶解速度
固有溶解速度(IDR)を、Distek溶解装置(Distek Dissolution System 2100A、Distek Inc., North Brunswick, NJ, United States)パドル法において一定な表面積ペレットを使用して測定した。溶解表面積0.5cm2を用いる実験のために、Carver プレス機(Carver, Inc.、Wabash, IN., United States)を使用して2000ポンド下で粉末をペレットに圧縮した。ペレットを、37℃、撹拌速度50rpmの、1%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)50mMリン酸緩衝液(pH6.8)500mLに移した。実験後、ペレット表面を、PXRD及び偏光顕微鏡(Leitz Aristomet、Leitz, Germany)により調べた。HMEは、共沈より高い固有溶解速度を有する(図5)。
【0054】
実施例10
吸湿性
水蒸気吸着分析器(model SGA-100、VTI Corporation, Hialeah, FL., United States)を用い、試料サイズ約15mgにより25℃で、両生成物の吸湿性を評価した。実験を、10%ごとの段階的に、10%→90%→10%の相対湿度(RH)サイクル下で実施した。平衡基準を、2分又は最大300分の平衡時間での0.01%重量変化に設定した。
【0055】
水蒸気吸着/脱着実験において、二つの生成物は、類似の吸湿性を示した(図6及び7)。さまざまな物理化学的試験の比較を、実施例1及び2により生成した非晶質生成物に関して表1にまとめる。
【0056】
【表1】
【0057】
広い表面積及び速い溶解速度は、CP生成物が迅速な作用開始をすることを示唆する。他方、緩やかな溶解速度は、HME生成物の徐放性プロファイルを示唆する。バルク溶解からは緩やかな溶解速度を示すにもかかわらず、HMEの固有溶解速度は、より高く、非晶形の良好な安定性を有する薬物の持続的放出を示唆している。HMEは、そのより少ない吸湿性のため、CPより安定であることが予測される。
【0058】
実施例11
物理的安定性
両生成物の安定性を、水性懸濁液中及び40℃/75% RHチャンバー中で評価した。実際には、二つの生成物を水性媒体中に1週間懸濁した後、HMEは、非常に遅い結晶化速度を示し(図8及び9)、それはおそらくHME粒子への水分子の非常に遅い浸透のせいであった。しかし、40℃/75% RHチャンバーで3ヶ月間保存の後、粉末X線回折によれば生成物のいずれにおいても結晶体は検出されず(図10及び11)、生成物のいずれも、この保存条件下で少なくとも3ヶ月間、物理的に安定であることが示唆された。HMEの優れた懸濁安定性は、安定した非晶質固体分散体を生成するために熱溶融押出方法の利点を明確に示している。
【0059】
非晶質製剤の製造は、特にその規模拡大が挑戦的な任務である。この視点から、熱溶融押出方法は、連続的プロセス及び機器の利用可能性のおかげで、研究開発から商業規模に至るまで非常に確実である。対照的に、共沈法は、共通溶媒中の薬物及びポリマーの溶解性、ならびに制御された沈殿及びバッチモードプロセスの規模拡大に関する課題に依存する。
【0060】
実施例12
インビボ試験
表2にまとめられたデータは、ラットにCP及びHME生成物を投薬した後のHEPの曝露を示す。結果は、結晶質薬物懸濁液(ナノ粒径範囲)と比較して、生成物はいずれもより改善されたバイオアベイラビリティを有し、そしてさらに、HME生成物は、50mg/kg及び250mg/kgの用量で、CP生成物より優れた用量曝露比例性を有することを示す。
【0061】
50mg/kgの用量レベルで、データ(表2)は、固体分散体製剤(CP及びHME生成物)の曝露が、ナノ製剤(結晶質)と比較して約40倍も高いことを示した。さらに、用量の増加は、ナノ製剤に対する曝露において改善がないことを示した。CP及びHME生成物の曝露は、50mg/kgで同等ではあるが、より高い用量レベル、すなわち250mg/kgで有意差が観察された。HMEは、50mg/kg用量で曝露において用量依存性増加(5倍)を示した;しかし、CPは、2倍の増加を示しただけであった。HMEの優れた効能は、小さい表面積、高いバルク密度及び僅かに低い吸湿性などの固体状態特性における差異に基づいて説明することができる。しかし、特にHME生成物の速い固有溶解速度で、優れた薬物動態の効能及び安定性について予測することはできないであろう。
【0062】
【表2】
【技術分野】
【0001】
製薬産業におけるハイスループット・スクリーニングの実施で、かなりの数の難水溶性化合物が特定されている。そのような難水溶性薬物は、開発の全段階に亘って次々にインビボでの有効性及び安全性に影響する薬物バイオアベイラビリティに関して重要な障害をもたらしている。
【背景技術】
【0002】
難溶性化合物はまた、開発において技術上の難題を示す。そのような難題の一つは、難溶性及び難溶解のせいで低い吸収性及びバイオアベイラビリティの低下をもたらすことである。別のそのような難題としては、より広い安全域を必要とする薬物動態学的特性における、被験体間及び被験体内の高い変動性である。これらの化合物は、多くの場合、所望の治療効果を達成するために高用量を必要とし、その結果、望ましくない副作用をもたらす。さらにそのような化合物は、多くの場合、投薬療法を複雑にするバイオアベイラビリティに対する食物効果の可能性を有している。
【0003】
その結果、革新的な製薬技術(下記(R Liu, Water-Insoluble Drug Formulation, Interpharm Press, 2000を参照):粒径の減少、脂質製剤、共溶媒、錯体形成、共結晶化、及び固体分散体を含むが、それらに限定されない)がそのような難溶性薬物の所望の特性を改善するために開発されつつある。
【0004】
化合物の難溶性が原因で、いくつかの化合物の吸収/バイオアベイラビリティは、制限された溶解速度である。粒径の減少は、有意に溶解速度を改善し、それはより良い吸収の可能性を提供し、そして改善された治療法に導く可能性がある。湿式粉砕(例えば、米国特許第5,494,683号を参照)及びナノテクノロジー(例えば、PCT国際出願WO 2004/022100及び米国特許第6,811,767号、第7,037,528号、及び第7,078,057号を参照)は、難水溶性薬物に適用して粒径を減少させることができる技術の二つの例である。
【0005】
難溶性薬物は、水性媒体中より脂質ベースの媒体中で、非常に高濃度で溶解し得る。したがって、脂質製剤中で薬物を製剤化することは、そのような薬物の治療特徴を改善し得る。投与された後、脂質製剤は胃腸液中に分散され、そのことが薬物に広い表面積を提供して、脂質中のその溶液から胃腸液に拡散する。脂質製剤中の薬物の高い溶解性は、拡散に対して強力な駆動力を提供する。自己乳化薬物送達システム(SEDDS)は、脂質製剤技術の一つの例である。脂質媒体の選択に依存して、得られた水性分散体は、微細又は粗エマルションを産生し得る(例えば、米国特許第5,969,160号、第6,057,289号、第6,555,558号、及び第6,638,522号を参照)。
【0006】
共溶媒は、より良い可溶化、そしてその結果としてのより良いバイオアベイラビリティのために、難水溶性薬物を製剤化するために使用することができる(例えば、米国特許第6,730,679号を参照)。
【0007】
錯化剤、例えば、シクロデキストリン及びそれらの誘導体などは、非経口製剤用の難溶性を有する薬物(例えば、米国特許第7,034,013号を参照)又は経口製剤用の改善されたバイオアベイラビリティを有する薬物(例えば、米国特許第6,046,177号;MJ Habib, Pharmaceutical Solid Dispersion Technology, Technomic Publishing Co., Inc. 2001;及びT Loftsson and ME Brewster, J. Pharm. Sci. 85(10): 1017-1025, 1996を参照)を、可溶化するために使用することができる。
【0008】
難水溶性薬物は、改善され溶解度を有する他の化合物と共結晶を形成し得る。したがって、これらの薬物の共結晶は、改善された溶解性及びバイオアベイラビリティを提供する開発のために使用することができる(例えば、米国特許第2005/0267209号を参照)。
【0009】
固体分散体は、固体状態にあるポリマーマトリクス中の難溶性薬物を分散するための方法である。薬物は、混合物中で非晶形又は微晶形で存在することができ、それは、胃腸液中で速い溶解速度及び/又は容易な溶解性を提供する(例えば、ATM Serajuddin, J. Pharm. Sci. 88(10): 1058-1066 (1999) 及び MJ Habib, Pharmaceutical Solid Dispersion Technology, Technomic Publishing Co., Inc. 2001を参照)。いくつかの技術が、固体分散体を調製するために開発されており、共沈(例えば、米国特許第5,985,326号及び第6,350,786号を参照)、溶融、噴霧乾燥(例えば、米国特許第7,008,640号を参照)、及び熱溶融押出(例えば、米国特許第7,081,255号を参照)を含む。これらの技術のすべては、通常、分子レベルで又は微晶質相中でポリマーマトリクス中の高分散薬物分子を提供する。固体分散体系は、溶解過程のために化合物の広い表面積を提供して、それが溶解を大いに改善する。したがって、腸管内透過性が制限因子ではない場合、すなわち、生物薬剤学分類システム(BCS)クラス2化合物の場合、これらの化合物の吸収は改善することができる(Amidon et al., 1995)。固体分散体中の非晶質又は微晶質のAPIは、固体分散体中のポリマーの分子と活性薬剤成分(API)分子の間での相互作用によって、同じ物理的状態におけるその純粋形より安定的である(Matsumoto and Zografi, 1999)。しかしながら、異なる方法で調製した固体分散体は、例えば、多孔性、表面積、密度、安定性、吸湿性、溶解、及びひいてはバイオアベイラビリティなどの特性において異なることがあり得る。
【0010】
固体分散体を調製するために異なる工程を使用することは、結果として異なる物理化学的特性をもたらす可能性がある。例えば、共沈及び噴霧乾燥は、一般的に、より多孔性ネットワークを提供し、結果として広い表面積が得られる。広い表面積は、速い溶解速度を示し、迅速な作用開始を提供し得る。しかしながら、熱溶融押出から調製した固体分散体は一般的に、より密度が高く、より小さい表面積を示す傾向があり、それは、インビボで持続性薬物放出プロファイルを提供し得る。これらの一般化にもかかわらず、所望の薬物動態プロファイルを、特により良い用量比例性を達成するために、ある方法が別の方法に優る優位性を提唱している証拠は文献においてみられない。
【0011】
米国特許第6,350,786号において、80,000 Dよりも大きい分子量を有する不水溶性イオン性ポリマーを使用する固体分散体を開示して、安定した非晶質製剤を提供する。米国特許第6,548,555号には、改善された溶解性及びより良いバイオアベイラビリティのための固体分散体を調製するために、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を含む、イオン性ポリマーの使用について記載されている。
【0012】
製薬科学者が利用可能なさまざまな製剤ツールにもかかわらず、そのような難溶性化合物の薬物動態プロファイル、特に用量依存的曝露量(これは、化合物の安全性及び有効性を管理するために非常に重要である)を、満足に適合させることは可能ではないかもしれない。いくつかの過飽和製剤、例えば共溶媒又は固体分散体アプローチによって可溶化された系などは、元の結晶形に戻り、その結果、より高用量でバイオアベイラビリティの損失となり得る。
【0013】
本発明は、熱溶融押出方法を使用して、より高いバイオアベイラビリティ及び優れた用量比例性を達成する難溶性薬物の固体分散体を提供する。本発明は、バイオアベイラビリティを改善することに加え、より良い薬物動態(PK)プロファイルの制御を達成することに重点を置いている。
【0014】
特に、本発明は、(2S,3S)−2−{(R)−4−[4−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−フェニル]−2,5−ジオキソ−イミダゾリジン−1−イル}−3−フェニル−N−(4−プロピオニル−チアゾール−2−イル)−ブチルアミド(HEP)の熱溶融押出を使用して製剤化された固体分散体を提供し、その構造は、図1に図示されており、それは、水性媒体中で難溶性を有する。固体分散体は、HEP及びHPMC−ASを含む。この固体分散体は、共沈により調製した同じ成分を含有する固体分散体と比較して、より高いバイオアベイラビリティ及び優れた用量比例性を示す。
【0015】
本発明はまた、熱溶融押出又は共沈を使用して難溶性薬物の固体分散体を調製するための方法を提供する。
【0016】
本発明は、1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含む、固体分散体を提供する。
【0017】
本発明による固体分散体は、1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含むことができ、該固体分散体が該化合物の結晶形より高いバイオアベイラビリティを有する。
【0018】
本発明による固体分散体は、1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含むことができ、該化合物が非晶形で存在する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(2S,3S)−2−{(R)−4−[4−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−フェニル]−2,5−ジオキソ−イミダゾリジン−1−イル}−3−フェニル−N−(4−プロピオニル−チアゾール−2−イル)−ブチルアミド(HEP)の分子構造を示す。
【図2】実施例1で調製した固体分散体の粉末X線回折(PXRD)パターンであり、共沈(CP)の非晶質性を示している。
【図3】実施例2で調製した固体分散体の粉末X線回折パターンであり、熱溶融押出(HME)の非晶質性を示している。
【図4】実施例1及び2でそれぞれ調製した、1% SLS pH6.8 50mMリン酸緩衝液中のCP及びHME生成物の溶解プロファイルであり、CP生成物はより速い溶解速度を有することを示している。
【図5】1% SLS pH6.8 50mMリン酸緩衝液中のCP及びHME生成物の固有溶解プロファイルである。
【図6】実施例1で調製したCP生成物の水蒸気吸着/脱着曲線である。
【図7】実施例2で調製したHME生成物2の水蒸気吸着/脱着曲線である。
【図8】懸濁液中のCP生成物の1週間の粉末X線回折パターンを示す。
【図9】懸濁液中のHME生成物の1週間の粉末X線回折パターンを示す。
【図10】40℃/75% RHチャンバー中のCP生成物の3ヶ月間の粉末X線回折パターンを示す(RH=相対湿度、ここで、空気−水の混合物の相対湿度は、所与の温度での混合物中の水蒸気の分圧対水の飽和蒸気圧の比として定義される)。
【図11】40℃/75% RHチャンバーにおけるHME生成物の3ヶ月間の粉末X線回折パターンを示す。
【0020】
本明細書において使用される一般用語の以下の定義は、当該用語が、単独で又は組み合わされて使用されているかどうかにかかわりなく適用される。明細書及び添付の請求項において使用されるとおり、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確にそれに反する旨を記載していない限り、複数形を含む事を留意しなければならない。
【0021】
本明細書において使用されるように、熱溶融押出は、押出機の高せん断混合及び温度制御能を使用して2つ以上の成分を混合する方法である。熱溶融押出機は、4つの主要な部分からなる:モーター(スクリューの回転を制御する)、スクリュー(材料のせん断及び移動の一次電源装置)、バレル(スクリューを収納して温度制御を提供する)、ならびにダイ(出口)(押出物の形及びサイズを制御する)。粉末材料(粒状又は粉末形のいずれか)を、一般的には、押出機スクリューが回転している間、制御された速度で押出機供給口に供給する。次に、材料を、スクリューの回転及びバレル面に対する材料の摩擦を利用して、前方へ運ぶ。押出機のタイプにより、1軸スクリュー又は2軸スクリューを使用して、計数モード又は共回転モードのいずれかで操作し得る。スクリューを、必要な混合度を達成するように適切にデザインすることができる。一般に、バレルを区切って、スクリューの長さ全体に亘って各ゾーンごとに温度調節を可能にする。出口(ダイシステム)は、押出成形品の形及びサイズを制御する。
【0022】
共沈は、非溶媒添加、温度変化、pH調節又は蒸発を含むが、これらに限定されない方法の一つにより、溶液から2種類以上の成分を一緒に沈殿させる方法である。
【0023】
用語「1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物」とは、水性液体(水、擬似胃腸液、水性緩衝液pH 1〜8)に20℃で溶解することができる化合物の最大量が1mg/ml以下である、化合物を意味する。
【0024】
イオン性ポリマーは、イオン化基を有する反復モノマー単位を伴うポリマー賦形剤である。イオン性ポリマーは、一般的に水に溶けないが、しかしイオン化基のタイプに依存してpH調節を使用して可溶化することができる。例えば、Eudragit E100(登録商標)(Degussa)は、pH<5でイオン化する第四アンモニウム基を有しており、この特定のポリマーの可溶化を低いpHで可能にしている。
【0025】
非イオン性ポリマーは、任意のイオン化基を有さない反復モノマー単位を伴うポリマー賦形剤であり、したがって、それらの溶解度はpH非依存性である。
【0026】
本発明に有用なイオン性及び非イオン性ポリマーの非限定的な例は、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン−ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート、メチルセルロースアセテートフタレート及びポロキサマー類のような高分子界面活性剤である。好ましいポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートである。
【0027】
ヒプロメロースアセテートスクシネート(HPMC−AS)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートは、腸溶性製剤又は徐放性製剤のための腸溶コーティング物質である。それはまた、難水溶性化合物のバイオアベイラビリティを改善するために固体分散体技術において使用される。ポリマー中にアセチル基及びスクシノイル基をさまざまな含量で有する、数種のHPMC−ASがあり、それらは異なるpHレベルで溶解する。タイプLは、スクシノイル置換対アセチル置換の高い比率(S/A比)を有し、一方、タイプHは、低いS/A比を有し、そしてタイプMは中程度のS/A比を有する。高いS/A比を有する、タイプL HPMC−ASは、タイプMのpH≧6.0及びタイプHのpH≧6.8と比較して、より低いpH(≧5.5)で溶解する(Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.)。すべてのグレードは、両方法(HME及びCP)を使用して固体分散体を調製することに適している。
【0028】
本明細書において使用される用語「物理的に安定」とは、40℃/75% RHチャンバーでの12週間の保存後、結晶化ピークがX線回折法を使用して検出されないことを意味する。
【0029】
本発明は、熱溶融押出方法を使用して難溶性薬物の固体分散体を調製し、より高いバイオアベイラビリティ及び優れた用量比例性を達成するためのアプローチを提供する。
【0030】
薬物の非晶形(分子分散体)は、一般に、結晶形と比較すると、より良い溶解度又は溶解を有するので望ましい。
【0031】
HEP(PCT国際出願WO 2006/018188及びWO 2006/029862を参照)は、難水溶性を有するMEK1/2阻害剤である。結晶形がナノ結晶形であっても動物種に投薬された場合、HEPは非常に低い曝露をもたらした。本発明は、改善されたバイオアベイラビリティを有する非晶形のHEPの固体分散体を提供する。
【0032】
HEPの固体分散体は、共沈、熱溶融押出及び噴霧乾燥を使用して添付の実施例に記載されているように調製した。各々の例において、同じ比率のHEPとHPMC−ASを用いた。
【0033】
HME及びCPにより生成した非晶質製剤は、いくつかの補足的技術によりさらに特徴付けられた。共沈(CP)及び熱溶融押出(HME)の両方における薬物は、それらの粉末X線回折(PXRD)パターンにより示されるように非晶形であった。しかし、噴霧乾燥により調製した固体分散体は、薬物の非晶形をもたらさなかった。CP及びHME生成物は、それぞれ106℃及び104℃で類似のガラス転移温度を有する。偏光顕微鏡の下、二つの生成物のいずれも複屈折を示さなかった。CP生成物の粒子形態は、フレーク様であり、一方、HME生成物は、不規則な形状を有するガラス様粒子に見える。二つの生成物のSEM顕微鏡写真は、共沈方法では粗い表面を有する多孔質粒子を生成したことを、一方、熱溶融押出方法では滑らかな表面及び鋭い縁を有する粒子を生成したことを示している。BET結果によると、CP生成物は、HME生成物の0.13m2/gと比較すると、6.29m2/gの比表面積を有し、それはSEM顕微鏡写真で観察された表面特性を裏付ける。しかし、二つの生成物は、CP生成物の1.33g/cm3及びHME生成物の1.30g/cm3と、同程度の真密度を有する。
【0034】
水蒸気吸着/脱着実験は、二つの生成物が類似の総吸湿性を有すること、そして顕微鏡検査下で実験した後、試料中でHEPの結晶化が起こらなかったことを示唆した。しかし、吸着等温線において、CP生成物は、HME生成物より僅かに多くの水を吸い取った。二つの生成物の間に脱着等温線において有意差はなかった。CP生成物の非常に広い比表面積を考慮すると、意外にも表面平方単位当たりにつき少ない水分であった。二つの生成物のこの僅かな違いは、DSC又は分光学的手段により識別することはできない。
【0035】
しかし、さらにこれらの製剤のインビトロ及びインビボ評価は、特に安全性及びバイオアベイラビリティに関して、これらの生成物の差別化を提供した。
【0036】
溶解は、1% SLS 50mM リン酸緩衝液(pH6.8)500ml中でUSPパドル法を使用して行った。CP生成物は、明らかに比表面積における差異によって、HME生成物より非常に速い溶解をした。HME生成物の8時間と比較して、CP生成物が100%放出を達成するのは約30分であった。同じ実験条件を使用して、固有溶解速度(IDR)を、CP及びHME生成物に関して、それぞれ0.040±0.006mg/分/cm2及び0.070±0.003mg/分/cm2として測定した。加えて、固有溶解実験の後、両方の生成物のペレット表面を、PXRD及び顕微鏡により検査したが、結果は結晶化を示さなかった。
【0037】
共沈及び熱溶融押出により生成された非晶形のさらなる評価は、薬物のバイオアベイラビリティにおいて著しい改善を示した。2つの製剤のバイオアベイラビリティが同程度であるにもかかわらず、用量依存曝露は著しく異なった。熱溶融押出方法により調製した固体分散体は、50mg/kg及び250mg/kgの用量でインビボ試験した場合、同じ用量で共沈方法により調製した固体分散体と比較して、優れた用量依存曝露を示した。この結果は、予想外であり、熱溶融押出により調製した固体分散体が用量反応曲線のより良い制御を提供することができることを示唆している。
【0038】
加えて、熱溶融押出により調製した固体分散体は、懸濁液中でより良い物理的安定性を有し、共沈により調製した固体分散体と比較した場合、徐放性プロファイルを提供する。小さい回折ピークの出現により示されるように、周囲条件下で1日後、HEPは、水性懸濁液(2%ヒドロキシプロピルセルロース)中のCP生成物中で結晶化し始めた。しかし、HME生成物において結晶化は観察されなかった。CP生成物中で結晶化が続いて4日後、HEPの結晶化の発生を示唆する、ほんの一つの小さな回折ピークがHME生成物で見られた。より多くのピークが7日後現れて、ピーク強度が両生成物においてより強いものとなった。これらの観察に基づくと、HME生成物が、懸濁液中のCP生成物より良い物理的安定性を有することが明らかである。より長期の安定性が、40℃/75% RHチャンバーにおいて評価された。40℃/75% RHチャンバーにおいて、二つの生成物は、最大3ヶ月まで結晶化の兆候を示さなかった。HME生成物のより良い物理的安定性は、そのより小さい表面積による可能性が高く、それにより、水分子のバルク粒子への浸透が少なく、ひいては、ゆるやかな結晶化と同様に水の存在による弱い可塑化作用をもたらす(Tong and Zografi, 2004)。
【0039】
共沈方法及び熱溶融押出方法のいずれも、HEPの非晶質固体分散体を生成し、それらは共通して以下を有する:分光学的特性、粉末X線回折、真密度、及び水蒸気吸着/脱着反応。加えて、APIは、DSCサーモグラムにおける単一のガラス転移温度により示されるように、両方の生成物中に均一に分散した。しかし、共沈方法は、その高い空隙率及び粗い粒子表面によってより大きい比表面積を有する固体分散体を生成したが、それは、熱溶融押出方法により生成した生成物と比較して、より速いバルク溶解を提供した。バルク生成物はいずれも、40℃/75% RHチャンバーにおいて3ヶ月間、許容され得る物理的安定性を示したにもかかわらず、CP生成物は懸濁液中で物理的により不安定性である。
【0040】
CP及びHME生成物のいずれも、50mg/kg及び200mg/kgの用量で、薬物の結晶形に対して改善されたバイオアベイラビリティを有する。CP及びHMEに関する曝露は、低用量、例えば50mg/kgで同程度である。しかし、これら二つの生成物に関する曝露は、高用量、例えば250mg/kgで有意に異なる。より高用量で、CPがたった2倍の増加を示したのに、HMEは曝露において50mg/kg用量より5倍の増加を示した。
【0041】
本発明において用いられる難溶性化合物は、1mg/mL未満の水溶解度を有する任意の化合物であることができる。熱溶融押出において用いられるポリマー担体は、医薬品用途に適している任意のイオン性又は非イオン性ポリマー、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン−ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMC−AS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート、メチルセルロースアセテートフタレート及びポロキサマー類のような高分子界面活性剤を含むことができる。ポリマー中の化合物の添加は、1重量%〜80重量%の間である。
【0042】
実施例1
共沈による固体分散体の調製
HEP(40%)及びHPMC−AS(LFグレード、60%)の溶液を、アセトン中で調製した。アセトン溶液を、2〜8℃で維持した酸性水中に滴下して、薬物/ポリマー混合物を共沈した。次に、沈殿物を濾過により分離し、酸性水で洗浄して、続いて乾燥した。乾燥粉末を、40メッシュスクリーンを通してふるいにかけて、均一な大きさの粒子を得た。
【0043】
実施例2
熱溶融押出による固体分散体の調製
HEPとHPMC−ASの40:60(重量比)の混合物を、フタ付混合容器(Bohle)中で混合することにより調製した。次に、粉末混合物を、70〜140℃に設定された加熱バレルを備えた熱溶融押出機(American Leistritz Corp.、18mm押出機)から供給して、棒状の押出成形品を得た。棒状の押出成形品を、室温に冷まし、機械式粉砕法により粉砕した。粉砕顆粒は、40メッシュスクリーンを通して、均一の粒度分布を得た。
【0044】
実施例3
噴霧乾燥による固体分散体の調製
HEP(40%)及びHPMC−AS(60%)を、アセトン(薬物及びポリマーの両方に対して低い沸点を有する共通溶媒)に溶解した。噴霧乾燥を用いて、溶媒を蒸発させ、沈殿した薬物及びポリマーを放置した。粉末を、40メッシュスクリーンを通してふるいにかけて、さらなる評価の前に均一の粒度分布を得た。
【0045】
固体分散体を適切なアプローチにより調製した時点で、医薬製剤、例えば、カプセル剤及び錠剤を、当業者に周知のさらなる加工技術を使用して調製することができる。医薬製剤は、所望の治療結果を達成するために適切な任意の経路により被験体に投与することができる。しかし、この評価のため、固体分散体を投薬の簡略化のために水性媒体中に懸濁した。
【0046】
実施例4
X線回折
参照製剤を、ビーズミルを使用して粒径減少により調製して、200〜500nmの範囲で粒径を得た。
【0047】
高度回折システム(Scintag Inc., Cupertino, CA, United States)を使用し、CuKα線源で粉末X線回折(PXRD)スペクトルを回収した。ステップサイズ0.02°及び滞留時間1.2秒で、電圧45kV及び電流40mAを用いて、2°〜40°の2θでスキャンした。データを回収する前に、試料容器の空洞に試料を充填して、粉末表面を平らにした。次に、試料容器を、12位試料交換装置に装填して、PXRD回折パターンを、上記条件に設定した機器を用いて回収した。
【0048】
実施例1及び2にしたがって調製した製剤は、それらの粉末X線回折パターンにより示されるように非晶質であることを示した(図2及び3);しかし、実施例3の生成物は、結晶質であることが分かった。
【0049】
実施例5
ガラス転移温度
示差走査熱量測定法(DSC 7, Perkin-Elmer Inc., Wellesley, MA, United States)を、30ml/分での窒素パージ及び加熱速度10℃/分で使用して、ガラス転移温度を測定した。ピン穴を有する気密パンを、試料重量約5mgと共に使用した。試料をDSC気密パン底部片中で検量して、次にそれに蓋をして密閉した。パンをDSCセル中に装填した後、加熱ランプを、室温から始めて160℃にした。試料をDSC中に流した後、データをPerkin Elmer softwareにより解析して、ガラス転移温度を測定した。生成物のいずれも、類似のガラス転移温度;共沈及びHMEについてはそれぞれ、106℃及び104℃を有する。
【0050】
実施例6
比表面積
TriStar 3000 表面積分析器(Micromeritics Instrument Corporation、Norcross、GA, United States)を使用して、吸着質として窒素ガスを使用する多点BET法により比表面積を測定した。分析の前に、試料をチューブ内で真空脱ガス処理して、脱ガス処理の後で、試料重量を総重量(管+試料)から管の重量を減じることにより算出した。次に、試料管を、機器の分析口に装填した。排気をして液体窒素温度でヘリウムガスをパージした後、試料管中の空き容量を測定した。次に、試料管を2度目の評価をして、その後、窒素ガス吸着等温線を特定の相対圧力で測定した。試料面上に吸着されたガスの量を、ガスの脱着により測定した。BET式を使用して、比表面積を、それら個別の相対圧力で窒素ガス吸着量から算出した。比表面積を、共沈については6.29m2/g、及びHMEについては0.13m2/gとして測定した。
【0051】
実施例7
真密度
AccuPyc 1330 ピクノメーター(Micromeritics Instrument Corporation、Norcross, GA, United States)を利用して、真密度及び窒素ガスを測定した。真密度は、試料重量をその容積で割って算出した。試料重量を、化学天秤により測定した。試料容積を正確に測定するために、機器は、試料チャンバー(容量:Vs)及び膨張チャンバー(容量:Vx)の2つのチャンバーを有している。分析は、初期パージ段階を含み、大気を除去して、純粋な窒素ガスに置き換えた。次にガスで試料チャンバーを充填し、定常状態圧に平衡化して、次に圧力(P1)を記録した。次に膨張チャンバーにガスを入れて膨張させ、そこで、ガスを再度平衡化させ、圧力を測定した(P2)。次にガスを大気に排気し、連続測定に一貫性があり再現性があるまで、同じ作業を繰り返す。試料容積を、(Vs−Vx)/(1−P2/P1)として算出した。真密度を、それぞれ、共沈及びHME生成物に対して1.33g/cc 及び1.30g/cc として測定した。
【0052】
実施例8
溶解速度
Distek 溶解装置(Distek Dissolution System 2100A、Distek Inc., North Brunswick, NY, United States)を使用して、1%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)50mMリン酸緩衝液(pH6.8)500mL中のCP及びHME生成物の溶解を、37℃、撹拌速度50rpmで測定した。溶解試験のために、CP又はHME生成物100mgを、水性媒体1ml(水中の2%ヒドロキシプロピルセルロース)中に懸濁して、次に測定のために溶解溶剤に移した。広い比表面積のため、共沈は、HMEより非常に速い溶解速度を有する(図4)。
【0053】
実施例9
固有溶解速度
固有溶解速度(IDR)を、Distek溶解装置(Distek Dissolution System 2100A、Distek Inc., North Brunswick, NJ, United States)パドル法において一定な表面積ペレットを使用して測定した。溶解表面積0.5cm2を用いる実験のために、Carver プレス機(Carver, Inc.、Wabash, IN., United States)を使用して2000ポンド下で粉末をペレットに圧縮した。ペレットを、37℃、撹拌速度50rpmの、1%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)50mMリン酸緩衝液(pH6.8)500mLに移した。実験後、ペレット表面を、PXRD及び偏光顕微鏡(Leitz Aristomet、Leitz, Germany)により調べた。HMEは、共沈より高い固有溶解速度を有する(図5)。
【0054】
実施例10
吸湿性
水蒸気吸着分析器(model SGA-100、VTI Corporation, Hialeah, FL., United States)を用い、試料サイズ約15mgにより25℃で、両生成物の吸湿性を評価した。実験を、10%ごとの段階的に、10%→90%→10%の相対湿度(RH)サイクル下で実施した。平衡基準を、2分又は最大300分の平衡時間での0.01%重量変化に設定した。
【0055】
水蒸気吸着/脱着実験において、二つの生成物は、類似の吸湿性を示した(図6及び7)。さまざまな物理化学的試験の比較を、実施例1及び2により生成した非晶質生成物に関して表1にまとめる。
【0056】
【表1】
【0057】
広い表面積及び速い溶解速度は、CP生成物が迅速な作用開始をすることを示唆する。他方、緩やかな溶解速度は、HME生成物の徐放性プロファイルを示唆する。バルク溶解からは緩やかな溶解速度を示すにもかかわらず、HMEの固有溶解速度は、より高く、非晶形の良好な安定性を有する薬物の持続的放出を示唆している。HMEは、そのより少ない吸湿性のため、CPより安定であることが予測される。
【0058】
実施例11
物理的安定性
両生成物の安定性を、水性懸濁液中及び40℃/75% RHチャンバー中で評価した。実際には、二つの生成物を水性媒体中に1週間懸濁した後、HMEは、非常に遅い結晶化速度を示し(図8及び9)、それはおそらくHME粒子への水分子の非常に遅い浸透のせいであった。しかし、40℃/75% RHチャンバーで3ヶ月間保存の後、粉末X線回折によれば生成物のいずれにおいても結晶体は検出されず(図10及び11)、生成物のいずれも、この保存条件下で少なくとも3ヶ月間、物理的に安定であることが示唆された。HMEの優れた懸濁安定性は、安定した非晶質固体分散体を生成するために熱溶融押出方法の利点を明確に示している。
【0059】
非晶質製剤の製造は、特にその規模拡大が挑戦的な任務である。この視点から、熱溶融押出方法は、連続的プロセス及び機器の利用可能性のおかげで、研究開発から商業規模に至るまで非常に確実である。対照的に、共沈法は、共通溶媒中の薬物及びポリマーの溶解性、ならびに制御された沈殿及びバッチモードプロセスの規模拡大に関する課題に依存する。
【0060】
実施例12
インビボ試験
表2にまとめられたデータは、ラットにCP及びHME生成物を投薬した後のHEPの曝露を示す。結果は、結晶質薬物懸濁液(ナノ粒径範囲)と比較して、生成物はいずれもより改善されたバイオアベイラビリティを有し、そしてさらに、HME生成物は、50mg/kg及び250mg/kgの用量で、CP生成物より優れた用量曝露比例性を有することを示す。
【0061】
50mg/kgの用量レベルで、データ(表2)は、固体分散体製剤(CP及びHME生成物)の曝露が、ナノ製剤(結晶質)と比較して約40倍も高いことを示した。さらに、用量の増加は、ナノ製剤に対する曝露において改善がないことを示した。CP及びHME生成物の曝露は、50mg/kgで同等ではあるが、より高い用量レベル、すなわち250mg/kgで有意差が観察された。HMEは、50mg/kg用量で曝露において用量依存性増加(5倍)を示した;しかし、CPは、2倍の増加を示しただけであった。HMEの優れた効能は、小さい表面積、高いバルク密度及び僅かに低い吸湿性などの固体状態特性における差異に基づいて説明することができる。しかし、特にHME生成物の速い固有溶解速度で、優れた薬物動態の効能及び安定性について予測することはできないであろう。
【0062】
【表2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含む物理的に安定な固体分散体。
【請求項2】
イオン性又は非イオン性ポリマーが、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン−ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)アセテートスクシネート(HPMC−AS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート、メチルセルロースアセテートフタレート及びポロキサマー類からなる群より選択される、請求項1記載の固体分散体。
【請求項3】
イオン性又は非イオン性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネートである、請求項1又は2記載の固体分散体。
【請求項4】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物が、(2S,3S)−2−{(R)−4−[4−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−フェニル]−2,5−ジオキソ−イミダゾリジン−1−イル}−3−フェニル−N−(4−プロピオニル−チアゾール−2−イル)−ブチルアミド(HEP)である、請求項1〜3のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項5】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物とイオン性又は非イオン性ポリマーの割合が、1重量%〜80重量%の間である、請求項1〜4のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項6】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物がHEPであり、そしてイオン性又は非イオン性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネートである、請求項1〜5のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項7】
熱溶融押出により得られる、請求項1〜6のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項8】
共沈により得られる、請求項1〜6のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項9】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含み、該化合物の結晶形より高いバイオアベイラビリティを有する、請求項1〜8のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項10】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含み、該化合物が非晶形で存在する、請求項1〜8のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項11】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含む固体分散体の製造方法であって、該化合物と該ポリマーの粉末混合物を形成すること、そして該混合物を熱溶融押出を通して押出することを含む、製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法により得られる固体分散体。
【請求項1】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含む物理的に安定な固体分散体。
【請求項2】
イオン性又は非イオン性ポリマーが、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン−ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)アセテートスクシネート(HPMC−AS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート、メチルセルロースアセテートフタレート及びポロキサマー類からなる群より選択される、請求項1記載の固体分散体。
【請求項3】
イオン性又は非イオン性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネートである、請求項1又は2記載の固体分散体。
【請求項4】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物が、(2S,3S)−2−{(R)−4−[4−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−フェニル]−2,5−ジオキソ−イミダゾリジン−1−イル}−3−フェニル−N−(4−プロピオニル−チアゾール−2−イル)−ブチルアミド(HEP)である、請求項1〜3のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項5】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物とイオン性又は非イオン性ポリマーの割合が、1重量%〜80重量%の間である、請求項1〜4のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項6】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物がHEPであり、そしてイオン性又は非イオン性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネートである、請求項1〜5のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項7】
熱溶融押出により得られる、請求項1〜6のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項8】
共沈により得られる、請求項1〜6のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項9】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含み、該化合物の結晶形より高いバイオアベイラビリティを有する、請求項1〜8のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項10】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含み、該化合物が非晶形で存在する、請求項1〜8のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項11】
1mg/ml未満の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを含む固体分散体の製造方法であって、該化合物と該ポリマーの粉末混合物を形成すること、そして該混合物を熱溶融押出を通して押出することを含む、製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法により得られる固体分散体。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−526848(P2010−526848A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507877(P2010−507877)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055292
【国際公開番号】WO2008/138755
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055292
【国際公開番号】WO2008/138755
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
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